サマナ☆マナ!2
14
「そういえば自己紹介がまだだっけ。あたしの名前はマナ。そしてパロさんにシン君。あなたの名前を聞かせてもらえるかな?」
「名前? なまえ、なまえ・・・」
新しく仲間になったバンシーさん、彼女の名前を聞こうと思ったんだけど、何故か首を傾げて考え込んでしまった。
「自分の名前、分からないのかな?」
「わたしは・・・もうずっと『バンシー』としか呼ばれてこなかったから」
「それじゃああたしが名前を考えてあげるわ」
「なっ」
「マナが考えるのか?」
「もちろんです。だってあたしは召喚主ですから」
何故かパロさんとシン君は渋い顔をしているんだけど・・・
まあ良いわ、バンシーさんの名前を考えなくちゃね。
「バンシー、バンシー・・・あっ、バン子ちゃん?」
「やっぱりそう来たか・・・」
「マナ、いくらなんでもそれは・・・」
痛そうに顔を抑えるシン君に、ため息をつきながら首を横に振るパロさん。
おまけに
「うっ、ううぅ・・・」
バンシーさんも今までにないくらい大粒の涙を浮かべて泣き出すし。
「えっ、ダメ? うーんそれじゃあもうシーちゃんしか残ってないよ」
「まだそっちのほうがマシかもな」
難しい顔をして考え込むシン君。
「えーと・・・ダメかな?」
カンベエの時も二人は似たような反応だったし、そんなにあたしの付ける名前って変なのかしら?
見かねたパロさんがバンシーさんに話を聞く。
「ねえバンシーさん、あなたってアンデッドモンスターよね?」
「そうですけど」
「いきなりアンデッドになったわけじゃないでしょ? あなたも昔は人間だった」
「よく・・・覚えていません」
「そうか、生前の名前を思い出してもらえば一番早いんだけどなあ」
「ごめんなさい」
「そう、それじゃあ何か好きな言葉とかあなたの特徴とか、何かないかしら?」
「好きな言葉、わたしの特徴・・・それならやっぱり泣くこととか涙かな」
「泣くこと、涙・・・ティア?」
「それです! バンシーさんの名前は『ティアちゃん』にしましょう」
「なるほど、『涙ちゃん』か。いかにもバンシーらしくて良いじゃない」
「ティア・・・わたしの名前はティアですね。うん、うんティア・・・」
バンシーさん改めティアちゃんも新しく決まった自分の名前が気に入ったらしく、何度も呟いてその感触を確かめたりして。
我ながら良いネーミングセンスだったわ。
でも、バン子ちゃんも捨て難かったんだけどな。
「さて、ティアちゃんの名前も決まったし、いよいよ本題に入りましょうか」
パロさんの言葉で、その場の雰囲気がピシリと引き締まったように思えたわ。
「本題・・・ブラッドストーンですね」
「そう、シンの作った借金を返すにはこれを持ち帰らなければならない。でも・・・」
「呪われているんだよな、コレ」
三人で再度、怪しく輝く赤い石に見入った。
「やってみましょう。あたしはハーフデビリッシュです。呪いに対してもある程度は耐えられると思います。それがどこまでかは分からないけど、パロさんやシン君よりも、受ける影響はずっと少ないはずです」
決意を込めたあたしの言葉。
「マナ、良いのね?」
「やってくれるか?」
「任せてください!」
それで話は決まったわ。
まずはブラッドストーンを取り出さないとね。
シン君が壁面とブラッドストーンの原石の間に短剣を突き立てて、その柄尻を手頃な石ころで慎重に叩く。
すると。
カツンと鈍い音を立てて、手のひら大のブラッドストーンの原石が転がり落ちたの。
もちろんそれを拾い上げるのはあたしの仕事よ。
ゆっくりと呼吸を整えてから、ブラッドストーンへ手を伸ばす。
放たれる禍々しい気配が、手のひら越しにビンビンと伝わってくるわ。
だけどここで憶しているわけにもいかないもんね、覚悟を決めるとブラッドストーンに指先で触れてみる。
「うっ・・・」
一瞬、指先に痺れるような痛みが走る。
でも大丈夫、次は下からすくうように、手のひらを差し入れてみる。
あたしの手のひらで、ブラッドストーンの原石が紅く輝いている。
「マナ、平気か?」
「無理しちゃダメよ」
「平気です。このままあたしが持って・・・うっ!」
やっぱりブラッドストーンの呪いはハンパじゃなかったみたい。
初めは大丈夫かなと思っていたんだけど、急に全身の力が奪われたみたいに、あたしの身体がグラリと傾いた。
「マナ、もう良いわ。その石を捨てなさい!」
「無理すんなマナ!」
パロさんとシン君が気遣ってくれている。
けどここであたしが頑張らないとこの石を持ち帰れない。
そんなの悔しすぎるわ。
「平気です」
あたしは再度足に力を入れて立ち上がろうとした。
「きゃっ」
でも結果は同じ、ブラッドストーンを持つあたしは普通に立つことすらおぼつかなくなっていた。
あたしの手からブラッドストーンが零れ落ちる。
「そんな・・・ここまで来たのに」
せっかく見つけたブラッドストーンだけど、持ち帰れないんじゃ意味がないじゃない。
この旅に出る前は、「自分がブラッドストーンを持つからって」大きなことを言っておきながらこのザマだなんて。
自分のふがいなさが悔しくて、思わず涙がこぼれちゃったわ。
「ブラッドストーン、あたしが持たないと・・・」
もう一度ブラッドストーンに手を伸ばす。
「マナ、もういい!」
「やめなさい、マナ!」
シン君とパロさんの、悲鳴にも似た声があたしの頭に響いたわ。
でも、あたしは構わず手を伸ばす。
その時、あたしの手を止めてくれたのはティアちゃんだったの。
「マナちゃん、わたしに命令して」
「命令?」
「そう、命令。わたしにこの石を持つように命令してほしいの。だってマナちゃんはわたしの召喚マスターでしょ? 召喚モンスターはマスターの命令には絶対服従なのよね」
「それはそうだけど・・・」
「ならお願い。わたしに命令を」
ティアちゃんの言葉に頷くと、あたしは彼女が望む命令を下した。
「それじゃあティアちゃん、この石を持ちなさい」
「分かりました、マスター」
ティアちゃんがブラッドストーンへ手を伸ばす。
躊躇することなく差し出されたその手が、何でもないごく普通の石ころでも拾い上げるかのように、さっとブラッドストーンを掴み取ったの。
「ティアちゃん、平気? 気分悪くなったりとかない?」
「はい〜、むしろ気持ち良いくらいですぅ」
さっきまで泣いていたはずのティアちゃんの顔が、何故かうっとりとなっている。
「そうか、バンシーはアンデッドモンスターだからだわ」
パロさんが納得とばかりに頷いている。
「どうしてアンデッドモンスターだと平気なんですか?」
「その石は、我々生者にとっては負の影響を与えてしまうものよね。だけど、生きていない者、既に死んでいる者にとっては、活力の源になるのよ」
「ということは、ティアちゃんなら何の問題もなくブラッドストーンを持ち運べるんですね?」
「はい〜、お任せください」
良かったわ、これでブラッドストーンを持ち帰れる目途も付いた。
あとは帰り道なんだけど・・・
「道案内も任せてください。こちらです」
それも心配なかったみたいで、ティアちゃんが先頭を歩いて案内してくれたの。
長年この洞窟に住みついていたティアちゃんにとっては、ここはもう家みたいなもので。
迷うことなくあたしたちを洞窟の外まで連れ出してくれたわ。
「ここまで来ればもう一安心ね。まずはスミッティさんの家まで戻って報告とお礼をして。あとは明日の夕方までに森を抜けて街道まで戻れば馬車に拾ってもらえるわ」
パロさんが今後の段取りを決めていく。
それを聞いたあたしも、もう大丈夫とホッと胸を撫で下ろしていたんだけど・・・
「お前さんがた、その石を渡してもらえないかな?」
耳に覚えのあるいやらしい声が、あたしたちに迫って来たの。