小説ウィザードリィ外伝1・「姉さんのくれたもの」

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STAGE 7

マイルフィックとの戦闘から3日間、わたしたちは完全休養を取る事にした。
マハマンによってレベルダウンを余儀なくされたポーの体調を回復させるためである。
その間ルパはずっとポーのそばにいてあれこれと世話をしたりしていた。
やっぱりポーの事が好きなんだなあ・・・
普段はなかなか自分の気持ちを口にしないルパだけど、いざとなったら行動に出るものなのかな。
そんな2人の姿を見るのはどこか微笑ましい。
そして、ちょっぴり羨ましくもあった。

わたしはまた、空いた時間を利用してアイラス姉さんの元を訪れたりしていた。
アイラス姉さんは、ソークス姉さんの喪に服するという意味で黒いドレスを着用していた。
ここ数日は王宮内にある礼拝堂にこもる事が多いという。
「少し痩せたんじゃない?」
「ちょっとね」
応える姉さんの笑顔はどこか弱々しい。
フラックから聞いたタイロッサムの話を伝えると、姉さんはタイロッサムの冥福を願い、一心に祈りを捧げていた。
ソークス姉さんとタイロッサムは、今はリルガミンに対する反逆者として扱われている為に正式な弔いも出来ないでいる状態だ。
アイラス姉さんは、何とかして2人の汚名を晴らす事が出来るように取り計らいたいとわたしに話してくれた。
その為にも一刻も早くこの事件を完全に解決しなくてはならない。
少しでも姉さんの苦悩を楽にしてやりたい。
わたしは決意を新たにしてアイラス姉さんの元を辞した。

ポーが回復したのを見計らって、わたしたちは再び迷宮へと降りた。
地獄で待ち受けていた四天王の2番手はホーンドデビルというこれまた名前の通り全身骸骨の悪魔だった。
グレーターデーモンを骸骨にしたらあんな感じかな、というのが一番分かり易い説明かも知れない。
頭部には横に伸びた一対の角、背中には巨大な翼、そして鋭く伸びた爪。
当然の事ながら、それらには表皮のようなものはない。
全て骨が剥き出しのままになっている。
気の弱い者ならこの姿を見ただけで気絶してしまうかも知れない。
同じ骸骨の悪魔と言ってもライカーガスなどよりもさらに不気味で凶悪な様相だ。
このホーンドデビルとの戦いでは、先のマイルフィックとの戦いの経験が大いに生きた。
わたしは、ルパにはバマツ、ポーにはコルツを、そしてブラックにはルパと同じくバマツの呪文を唱えるように指示した。
パーティ全体の守備力を上げて敵の物理攻撃に備える為だ。
その結果、パーティの前衛を務めるクルー、フィナ、そしてわたしが大胆に動けるようになる。
わたしたちはそれぞれ3方に散り、次々とホーンドデビルに波状攻撃を浴びせる事にした。
フィナの拳が骸骨の右肩を砕く。
クルーの村正が閃き左足を斬り落とす。
たて続けに受けたダメージの為に、ホーンドデビルはその骸骨の身体を維持する事が出来なくなっていた。
そこにわたしの放った一撃が決まった!
ホーンドデビルの骨格を形成していた骨という骨がバラバラに砕け散り、その場に崩れ落ちていく。
地獄の四天王との第2ラウンドはわたしたちが圧倒する形で幕を閉じた。
そしてホーンドデビルの持っていた宝箱から手に入れたのが、ダイヤモンドの騎士の装備のひとつである伝説の盾。
鎧と同じく白銀に輝き筋彫りの紋様入り。
そしてダイヤモンドの結晶が美しく輝いていた。
大きさは1メートル弱、縦長で手にした時に下になる方の先端が鋭く尖ったデザインになっている。
鎧もそうだけど、この盾は一体どんな金属で出来ているのだろう?
とても軽く、かつ防御力が高い。
装備するとスッと手に馴染んでくる感触が何とも言えず心地いい。
さあ、伝説の武具はあと3つ。
次なる戦いに備えて、わたしたちは地上へと戻った。

そこは一面の闇だった。
何も見えない闇の世界。
じーっと目を凝らしていると、やがてその中に青白い光がボヤーと浮かんで来るのが分かる。
青白い光の中には人の姿があった。
後ろ向きだが女性と分かる。
その人が振り向きわたしの名を呼ぶ。
「久しぶりですね、レオナ」
「ソークス姉さん!」
目の前にいたのは紛れも無いソークス姉さんその人だった。
失踪する前と何も変わっていない。
ソークス姉さんはちょっとはにかんだような笑顔でわたしを迎えてくれた。
「元気だった、姉さん?」
わたしは再会の喜びを胸にソークス姉さんへとスッと両手を差し出した。
ソークス姉さんも同じようにわたしへと両手を差し出してくれた。
2人がお互いに手と手を取り合おうとした、その時だった。
今まで笑顔だったソークス姉さんの顔が突然阿修羅のそれへと変わった。
右手には剣、左手には矛を持ちわたしに襲い掛かって来る。
「!」
あまりの事態に悲鳴を上げる事すら出来ない。
そんなわたしに構う事なく、ソークス姉さんは矛を突き出し、剣を振り回す。
「止めてー!」
気が付くと、わたしも剣を持っていた。
阿修羅と化したソークス姉さんが振り下ろす剣を弾き返すとその勢いでソークス姉さんの身体を斬り裂いていた。
噴出したソークス姉さんの血で目の前が朱に染まる。
真っ赤に滴り落ちる血は、やがて紅蓮の炎と化して燃え上がり、ソークス姉さんの身体を一気に包み込んだ。
炎の中の姉さんの顔からはもう阿修羅のような形相は消えていた。
「レオナ、助けて・・・レオナ」
わたしの名を呼び助けを求めている。
「イヤーーーー!!!」

そこでわたしはガバッと跳ね起きた。
「また、同じ夢だ・・・」
「ハァ、ハァ・・・」と呼吸が乱れている。
寝巻きにしているTシャツの首周りが汗でびっしょりと濡れていた。
ベッドを抜け出し、窓の外に視線を向ける。
月明かりがほんのりと周囲を照らしていた。
ここは冒険者の宿の2階にある1室、長期契約してもらっている言わば「わたしの部屋」である。
冒険を始めたばかりの頃は、男3人、女3人でそれぞれ部屋を取っていたのだが、今はみんな個人で部屋を取っている。
だからこの部屋には今わたし独りしかいない。
窓のすぐ下には、よくクルーやフィナと訓練したあの中庭が広がっている。
しばらく眠れそうもない、と思ったわたしはその中庭へ涼みに出る事にした。

月明かりに照らされた中庭ではもう既に秋の虫達の声が響いていた。
吹いて来る風も夏のそれとは明らかに違っていた。
「もう秋なんだなあ・・・」
少し火照った身体には涼やかな風が心地良い。
つい何時間か前に、地獄の四天王であるホーンドデビルと戦ったのがまるで嘘のようだった。
わたしは中庭の中央部へとゆっくりと歩を進める。
ソークス姉さんとの再会をした、そしてソークス姉さんと永遠に別れる事となったあの日の夜以来、わたしはずっと同じ夢を見続けていた。
阿修羅と化した姉さんをわたしが斬り裂くとそのまま姉さんは炎に包まれてしまう・・・
夢はあの日の出来事をわたしに思い起こさせ、決してあの悲しみから解放してはくれないのだ。
わたしの名を呼びながら助けを求めるソークス姉さんの苦痛に満ちた顔が、くっきりとわたしの脳裏に焼きついて離れない。
「ゴメンね、姉さん・・・」
悪夢を振り払うべく、わたしは頭を強く振った。
その時だった。
「やっぱりレオナか」
「クルー?」
中庭への降り口の所に立っていたのはクルーだった。
逆光なので顔はよく分からないけれども間違うはすがない。
「どうしたの?」
「人の気配がしたから来てみたんだ」
「さすがだね」
侍であるクルーは人が放つ「気」というものをわたしなんかよりもずっと敏感に捉える事が出来るのだ。
クルーは中庭へと降りて来るとわたしの方へ近づいて来る。
「レオナこそ何してるんだよ?」
「ちょっと目が覚めちゃって・・・」
「そうか・・・」
クルーがわたしの隣に立つ。
背の低いわたしは、長身のクルーと話す時はだいぶ上を見上げなければならない。
その角度が、今はいつもより急だ。
「フィナが心配してたぞ。レオナが元気無いみたいだって」
「フィナが?」
「あんな事があったばかりだから無理もないけどな」
そう、ソークス姉さんの死からまだあまり日も経っていない。
「夢、見るんだよね。毎日同じ夢」
「夢?」
「うん・・・」
わたしは、あの日以来毎日見ている夢についてクルーに話して聞かせた。
クルーは真剣にわたしの話に聞き入ってくれている。
やがてわたしの説明が終わる。
「ソークスが助けを求めている、か・・・」
クルーはわたしの話を反芻するかのようにそう呟いた。
「わたし、どうしたら良いのかな?」
「どうしたらって?」
「プレッシャーだよ・・・」
わたしはポツリと呟く。
ダメだ、ダメだ。
こんな弱音なんて吐いてちゃいけないのに。
でも・・・
頭の中が混乱する。
わたし、どうしたら良いの・・・?
「話せよ」
クルーがわたしの肩をにそっと手を廻してくれた。
その手がトントンとわたしの肩を優しく叩く。
一瞬だけドキンとしたものの、わたしは次第に落ち着きを取り戻していった。
「うん、話すね」
わたしは自分の胸の中で渦巻いていたモヤモヤをクルーに話し出した。

ソークス姉さんを自分の手で斬ってしまった事。
ソークス姉さんの死と、それを聞いたアイラス姉さんの悲しげな顔。
アイラス姉さんにソークス姉さんの仇を取ると約束した事。
パーティのリーダーとしていつもみんなの先頭に立って戦ってきて怖かった事。
ダイヤモンドの騎士なれと言われて戸惑った事。
みんなの期待がわたし独りに集まっていると感じている事。
弱音を吐かないように頑張ってきた事。

「でも、でもね・・・
もうこれ以上頑張れないかも知れない。
だって、わたしはそんな、みんなが思っている程強くないよ。
なのに・・・」
「じゃあ止めるか」
「えっ?」
「そんなに辛いんだったら止めても良いんだぞ」
意外だった。
クルーもわたしに「レオナなら出来る」とか「もう少し頑張れ」とか言うと思ってたのに・・・
止めても良い、だなんて。
「そっか・・・辛かったら止めればいいのか・・・」
わたしは思わずフフっと笑ってしまった。
例えばフィナがわたしと同じ立場だったらどうだろう。
「そんなのやってらんないよー」ってサッサと止めちゃってたかも知れない。
別にフィナが無責任だという訳ではないけれども、わたしみたいに独りで煮詰まってたりはしないだろう。
「簡単な事だったんだね」
出口の無い八方ふさがりだと思っていたのが、スゥーと空気が抜けたみたい。
少しだけ肩が軽くなったような気がしていた。
「本当に止めるのか?」
「うーん、そうだね・・・」
わたしは少し考えてから答えた。
「でもせっかくだからもう少しやってみるよ」
「無理してないか?」
「うん、クルーに話聞いてもらったら何だか楽になったみたい
それにさ、ダイヤモンドの騎士の武具、やっぱり気になるんだよね」
「ならやってみるか。オレは何処までも付き合うからな」
「ありがとうね」
「レオナの後ろには頼りにしてもいい仲間が5人もいるって事忘れるなよ」
クルーはわたしの頭に彼の右手の平を乗せると、わたしの髪の毛をクシャクシャと撫でた。
何でだろう、クルーにこうされていると不思議と心が落ち着いてくるみたい・・・
「それじゃあオレは寝るから」
クルーはそう言い残すと宿の建物の方へと向かって行った。
しかし、「あっ、そうそう」と立ち止まる。
「もしまた泣きたくなったら言ってくれや。胸貸すぐらいの事は出来るから」
「あっ・・・」
ソークス姉さんが死んだ時の事を思い出す。
わたしはクルーの胸の中で大泣きしたんだっけ・・・
カァーっと顔に血が上るのがはっきりと分かった。
クルーはそんなわたしの様子を気にする事無く建物の中へ消えて行った。
「クルー・・・」
わたしは独りそう呟く。
「よし、明日も頑張ろう」
すっかり気持ちが落ち着いたわたしは部屋へ戻る事にした。
この後はきっとぐっすり眠れる、何故だかそんな気がしていた。

今まで地獄と呼んでいたフロアは実は異次元迷宮の6階部分に相当する。
ここはフロアの中央の大きな広間、それと4つの大きな玄室、それらを結ぶ通路などによって構成されている。
その玄室のひとつひとつに四天王が1人ずつ配されていたのだ。
そして今、わたしたちは3つ目の玄室の扉の前にいた。
「レオナ」
クルーが「大丈夫か?」という感じでわたしの名前を呼ぶ。
わたしは「うん」と頷いてみせた。
昨夜、クルーと別れて自分の部屋へ戻ったわたしは、自分でも驚く程にぐっすりと眠る事が出来たのだ。
わたしの中で何かが吹っ切れたような・・・そんな気さえしてきた。
独りで煮詰まっていてもしょうがない、止めたくなったら止めれば良い。
でもわたしの後ろには頼れる仲間がいるんだよね。
そう思ったら心がスゥーっと軽くなったみたいで。
「行こうか」
わたしはいつものように慎重に玄室の扉を開けて中に入った。

「何もいない・・・」
わたしは油断なく玄室の中に視線を走らせた、しかしそこにはモンスターのいるような様子は見られなかったのだ。
「うむ、だが気を抜くな」
クルーはいつでも村正を抜けるように構えている。
「相手がいてくれないと困るんじゃないの? ダイヤモンドの騎士の装備が手に入らないよ」
「そー言やあ、そうだな。この場合はどうなるんだ、レオナ?」
「そんなの知らないわよ」
フィナとブラックの質問とも言えない質問に、わたしは少し嘆息しながら答えた。
でも確かにフィナの言う通り、ここに四天王がいてくれないと目的が達成出来なくなるから困る事は困るのだ。
いたらいたでまた大変なんだろうけど・・・
「さて、どうしたものやら」
わたしはもう一度玄室の中を確認した。
でも相変わらず何もいない・・・とその時。
「レオナ、何かいるよ、そこ」
じっと周囲の気配を伺っていた様子のルパが玄室の奥を指差した。
わたしたちはサッと戦闘態勢を整え、ルパの示した方へと注視した。
「何もいないみたいだけど・・・」
「うん」
敵がいるような気配は感じられなかった。
しかし。
「このような所までよく来てくれました」
女心をくすぐるようなあまーい男性の声、とでも表現したらいいだろうか、わたしたちに歓迎の挨拶をする者がいたのだった。
一体いつの間に現れたのだろうか、さっきまでは確かに誰もいないと思っていたのに。
それとも、初めからここにいたのをわたしたちが感じる事が出来なかったのだろうか・・・
金色の長い髪、青い衣に裏地が目にもまばゆい赤い色のマントをしていた。
そして何よりこの世のものとは思えないほどの美貌。
あのアークデーモンも女性のように美しいと思ったけれども、この男(男性かどうかも分からないくらいだ)の美しさは明らかにそれ以上だった。
「我が名はバンパイアロード、どうぞ宜しく」
バンパイアロードと名乗った男がゆっくりと頭を垂れた。

「それじゃああんたが四天王のうちの1人なのね」
フィナは相手を睨みつけながら、いつでも飛び掛れるように構えていた。
「確かに。
わたしはあなたがたの言う四天王の1人です。
しかし、今はあなたがたと争うつもりはありません」
「どうして?」
わたしはカシナートの剣に手を掛けいつでも抜けるように構えつつ聞いた。
「あなたがたにデーモンロードを再び魔界に封印してもらいたいのです」
「!」
バンパイアロードの意外な言葉に思わず声を呑む。
まさかまさか、これから戦うつもりだった四天王の1人からそんな事を頼まれるとは思ってもみなかった。
「何でまたそんな事を?」
しかし油断は出来ない。
何しろ相手はデーモンロードの手下、あのアークデーモンの仲間なのだ。
どんな不意打ちを食らわしてくるかも分からない。
わたしはまだカシナートに掛けた手を降ろしてはいなかった。
「デーモンロードが人間界に解放される事は我ら不死族にとって大変都合が悪いのです」
「・・・」
わたしたちは皆一様に混乱していた。
しかし、バンパイアロードは尚も話し続ける。
「我ら不死族の勢力拡大の為に、私は悪魔と結託する事にしました。
そして、強大な力を持つデーモンロードの配下に就いたのです。
悪魔と組む事により、我らは人間界の夜の世界で勢力を拡大していったのです。
ところが悪魔どもは今度はデーモンロードを人間界に招き入れようと画策し始めたのです。
そうなると、大きくなり過ぎた悪魔の力によって我ら不死族はかえって押し潰されてしまいかねない、それは望みません。
お願いです、ダイヤモンドの武具を全て集め、その力でデーモンロードをもう1度魔界へ封印して下さい」
バンパイアロードはそこで話を切り、わたしたちに深々と頭を下げた。
わたしたちは困惑していた。
確かにデーモンロードは仕留めなければならないのだが、果たしてこの男の言う事をどこまで信じてもいいのか・・・

しかし、頭の回転の早いルパはすかさずバンパイアロードに質問を浴びせた。
「もう1度封印して、という事は、デーモンロードは既にこの世界に来ているのですか?」
「それはまだです。しかし、時間の問題と言ってもいいでしょう。
あのソークスの魔力により、既に魔界への門は開かれてしまったのです」
「ちょっと、それどいうい事?」
まさかここでソークス姉さんの名前が出て来るとは思わなかった。
「あなた方が自由に魔界へと出入り出来ないように、悪魔もまた自由に人間界に出入りは出来ないのです」
バンパイアロードは尚も続けた。
「悪魔どもは人間の心にある憎悪や欲望などに呼び寄せられて人間界へと現れるのです。
今の人間界は正に悪魔を大量に呼び寄せてしまうだけの憎悪に満ちています」
わたしは、この世界は人間の欲望や憎悪に満ち溢れている、といソークス姉さんの言葉を思い出していた。
確かにその通りだ。
姉さんはこんな状況を何とかしようとしていたのだろうか・・・
「小悪魔程度ならそれらによって簡単に人間界に出入り出来るのですが、デーモンロードともなるとそうは行かないのです。
デーモンロードが人間界に出没する為には、強い魔力と邪心を持つ人間による召喚の術が必要なのです
ソークスは正にその条件を満たしていました」
「そんな・・・
確かにソークス姉さんは高い魔力を持っていたかも知れないけれども、邪心なんて・・・」
わたしは精一杯抵抗したつもりだった。
「普段は見せなかったと思いますが、あれは生まれながらにして心の奥に邪なるものを持っていたのです。
そして女王に即位出来なかった事によりその邪悪な心が表に現れ始めました。
邪悪な心は次第に拡大していき、ついにはその憎悪の念はリルガミンの新しき女王アイラスに向けられたのです」
「そ、そんな・・・」
言葉にならない程のショックだった。
まさかソークス姉さんがそんな事を思っていたなんて・・・
「その憎悪の心に目を付けたのがアークデーモンでした。
やつは、ソークスにデーモンロードを人間界に呼び寄せる為の魔界の門を開く召喚の術を行わせる事にしたのです。
アイラスが女王に即位した日の事を思い出してみて下さい。
暴風雨が吹き荒れていたでしょう。あれは、あなたがたが倒したマイルフィックが引き起こしたものでした。
アークデーモンはその暴風雨に紛れてソークスの元へ近づきました。
そして、アイラスの治めるリルガミンをいったん破壊する為に力を貸して欲しいと言ってソークスをこの迷宮へと連れ去ったのです。
アークデーモンの術により、ソークスは半ば催眠状態に陥りました。
そのせいもあってか、ソークスはアークデーモンの説得に素直に応じたのです。
アイラスの支配するリルガミンを、いやこの人間界を破壊してしまえと。
あとはあなた方もご存知の通りです」
「それじゃあソークス姉さんは、デーモンロードを呼び寄せる為に利用されたって事?」
自分でも声が震えているのがはっきりと分かった。
「そうなりますね。
しかし、利用されたのはソークスの心にも問題があったからなのですよ。
そしてあの時、アークデーモンがあなたがたの前に現れたのは・・・」
「ソークスを殺して口封じをしようとしたのね!」
フィナの声が響いた。
「そんな・・・利用するだけしておいて口封じだなんて・・・」
頭にカーっと血が上った。
許せない、絶対に許せない!
わたしは、カシナートの剣を抜き、バンパイアロードに飛び掛ろうとしていた。
しかしそんなわたしの先走りを止めてくれたのはクルーだった。
「止めろレオナ。バンパイアロードと戦っても何の意味も無い」
「ウッ・・・」
わたしは必死に思い止まった。
そしたら涙が溢れてきた。
止めようとしても止まらない。
この前みたいに大泣きはしなかったけれども、それでも次々と溢れてくる涙をどうする事も出来なかった。
何だかわたしっていつも泣いてばかりだ。
そしてその度にクルーが、フィナが、ルパが、ポーが、ブラックがわたしを叱って、励まして、元気付けてくれた。
みんながいなかったらわたしはここまで来る事は出来なかっただろう。
「レオナ・・・」
昨夜、「泣きたくなったらまた胸を貸してやる」と言ってくれたクルー、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。
でも・・・
もうこれ以上泣いてなんていられない。
今度はわたしがみんなの励ましに応えなきゃ、ね。
わたしは右手でゴシゴシと顔をこすって涙を拭った。
「バンパイアロード、あなたダイヤモンドの騎士の武具を一つ持っているでしょ。
それをわたしに頂戴」
もう声は震えていない。
そう、今は泣いている場合じゃないのだ。
一刻も早く伝説の武具を集めてデーモンロードを倒さなきゃ。
そうだよね。

「おおそうでした。
あなたにはこれを渡しておかなければ」
バンパイアロードが取り出したのは頭にかぶる冠と言うかサークレットのような物だった。
サークレットの一部が切れていて、ヘアバンドのような感じになっている。
サークレットの中央部には、鎧や盾と同じようにダイヤモンドの結晶が埋め込まれている。
「それは?」
「残念ながら、かつてダイヤモンドの騎士が身に着けた伝説の兜は残っていません」
「えー、何でよ?」
こういう突っ込みをするのはフィナだ。
「フィナ、話の腰を折らないで。どうぞ続けて下さい」
わたしは、バンパイアロードに話を続けるように促した。
「残念ながら兜は破損してしまったのです。
しかしダイヤモンドの宝玉は無事でした。
あなたがたは伝説の武具の強度の秘密をご存知ですか。
この魔力を秘めたダイヤモンドの宝玉こそが強さの秘密なのです。
だから兜の代わりになるサークレットにこのダイヤモンドを埋め込む事で伝説の兜と同じ防御力を誇るものを創る事が出来た訳です。
形こそ変われど、これは伝説の兜と同じ物だと思って下さい、さあ」
バンパイアロードはわたしの頭にそのサークレットを被せてくれた。
不思議だ、まるで頭に吸い付いてくるかのよう。
額のダイヤモンドがキラリと輝く。
そしてそれに応えるように鎧と盾のダイヤモンドがそれぞれ共鳴し合い、わたしに新しい力を与えてくれているかのようだった。

そう思った時だった。
わたしの頭の中に、とあるイメージが浮かんできたのだ。
そこはどこかの地下迷宮の一室だろうか。
全身が金色に輝き腕が4本ある悪魔のような姿が立っていた。
それに相対しているのは、白銀に輝く鎧を纏った1人の騎士。
その騎士が身に着けている武具にはどれもみなダイヤモンドの結晶が光り輝いている。
それは正に伝説のダイヤモンドの騎士の姿だった。
悪魔は手にした剣をダイヤモンドの騎士目掛けて振り下ろしてきた。
騎士の反応がわずかに遅れる・・・
悪魔の剣はダイヤモンドの兜に直撃してしまった。
兜が真っ二つに割れ、中から精悍な男性の顔が現れた。
剣の直撃を受けたのにもかかわらず、男の額には傷一つ見当たらない。
男は尚も剣を振るい、悪魔へと立ち向かっていく・・・
イメージはそこで途切れた。

「今のは・・・この兜が持っていた過去の記憶・・・?」
そうとしか思えなかった。
かつての兜は破損したという、そしてその兜から取り出されたダイヤモンドを埋め込んだのがこのサークレットなのだ。
今わたしが見たイメージは、そのダイヤモンド自体が見てきたものなのではないか、と・・・
「どうしたの、レオナ?」
「ううん、何でもない」
フィナはわたしの顔をさも不思議そうに覗き込んでいる。
わたしはサークレットに埋め込まれたダイヤモンドの結晶にそっと手を触れてみた。
かつてのダイヤモンドの騎士達から受け継がれてきた記憶や経験が、今度はわたしの中にひとつひとつ刻まれていく。
そんな気がしてならなかった。

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