ジェイク7

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18

 ようやくのことでブラックドラゴンを倒したオレとエイティだったけど、イザ先へ進もうとしてももう通路はそこで途切れていたんだ。
 その代わりに、ブラックドラゴンがいた広間の奥で小さな祭壇を見つけた。
 祭壇は大理石製のしっかりしたもので、よく調べてみると裏側にえぐられたような穴が開いていた。
「あら、これ何かしら?」
 その穴に手を突っ込んで調べていたエイティが何かを取り出したんだ。
「水晶玉、みてえだな」
「見て、この中に」
「それは・・・月の紋章か」 
 水晶玉の大きさはエイティの手に収まるくらいで、その内部に淡く輝く月を象った紋章が埋め込まれてあったんだ。
「月にちなんだものみたいね。だったらジェイクが持ってて」
「了解」
 エイティから水晶球を受け取ると、改めてそれをかざして中を覗いて見た。
 すると、オレ達の目の前に再びティエンルンが現れたんだ。
 ティエンルンはあの頭の中に直接響く声で話し掛けてきた。
『よくぞ月の水晶を手に入れた。まずは戻るが良い』
 ティエンルンがそう宣言すると、オレ達は足元がグニャリと大きく歪むような感覚に襲われて・・・
 次の瞬間には見覚えのある場所に立っていたんだ。
「ここは・・・?」
「あのシャッターの前じゃねえか」
 エイティと二人顔を見合わせて愕然とする。
 散々苦労したあげく、結局またここに戻されるなんてな。
「とにかく行ってみましょう」
「ああ」
 ここにいても始まらねえからな、オレ達は再び回廊入り口へと向かった。

 広間へ出るとすぐに、反対側から声がした。
「おーい、ここだ。お前さん達も無事だったようだな」
「ベア達よ。あっ、ボビーもちゃんといるわ」
「ランバートもいるし、向うもみんな無事だったみてえだな」
 駆け足で広間を抜けてベア達と合流する。
「エイティさーん」
「ボビー、いい子にしてた?」
 駆け出してきたボビーをエイティが抱き上げて頭を撫でてやる。
 ふいにオレとボビーの目が合ってお互いにウインク、どうやらオレがいない間にボビーが良い仕事をしてくれたらしいからな。
 それはさて置き。
「みんな無事で何よりだった」
 ガハハと笑うベア。
「どうしたんだよオッサン、妙に機嫌が良いじゃねえか?」
「そうか? そう思うか? ホレ、ワシの恰好を見て何か気付かんか?」
 酒を呑んでいるわけでもないのに、こんなに浮かれているベアも珍しい。
 オレとエイティはベアの恰好に注目する。
「オッサンの恰好ったって、いつものフルプレートにグレートアックスって、あれ?」
「ベア、そのアックスどうしたの?」
「よく気付いた二人とも。これこそ我がドワーフ族に伝説として語り継がれた幻の逸品、金剛の戦斧だ」
 ベアが新しいアックス、金剛の戦斧を高々と掲げる。
 それは今まで使っていたグレートアックスよりも一回り小さなアックスだった。
 しかしそれがただの斧じゃないことは一目瞭然だろう。
 グレートアックスが黒光りしていたのに対してこの金剛の戦斧は全体が白銀に輝いていた。
 刃の部分はもちろん、持ち手の部分にも精巧な飾り細工が施されている。
 そして特筆すべきはアックスの柄尻だ、そこには眩いばかりに輝く宝玉がはめ込まれてあったんだ。
「先ほど戦ったゴールドドラゴンが隠し持っておった。まさかこんな場所で見つかるとはな」
 なるほどな、伝説の武器を見つけて不機嫌になる戦士なんているはずがない。
 相変わらず上機嫌のベアは恍惚の眼差しで金剛の戦斧に見惚れていた。
「でもランバートは良いの? ベアにそのアックスをあげちゃって」
「それはドワーフ族の専用の品だ。俺には関係ない」
 フンっとそっぽを向くランバート。
 まあドワーフ専用ってのは確かなんだろうけどな。
 だけど素直じゃないヤツのことだ、興味無いふうを装ってベアに気を遣わせないようにしているんじゃないかって気もするけどな。
 さて、ベアの新しい武器のお披露目も済んだところで話を進めようぜ。
「ベア達さ、『さっきゴールドドラゴンと戦った』って言ってたな」
「おう、そのことよ。こちらがゴールドドラゴンだったからには、そちらにも大物がいたんじゃないのか」
「ええそうなの。こっちはブラックドラゴンだったわ。大変だったんだから」
 ブラックドラゴンとの死闘を思い出したんだろう、エイティはブルッと身体を振るわせた。
「そしてブラックドラゴンを倒した場所にあった祭壇でこんな物を見つけたんだけどな」
 オレは手に持っていた月の水晶を差し出してみせた。
 すると。
「やはりな。こっちも似たような物を手に入れた。ティエンルンのヤツが現れて『太陽の水晶』がどうとか言ってたな」
 ランバートが差し出した水晶は、オレの手にある物とそっくりだった。
 ただ、その中に光り輝く太陽が埋め込まれてあったんだ。
 どうやら月の水晶と対になる物と見て間違いないだろう。
「月の水晶と太陽の水晶の二つが揃ったのね。でも、これで何がどうなるのかしら?」
「うーん・・・」
 確かにそうだ。
 オレ達は間違いなく二つの水晶を手に入れた。
 これが何か重要な物であることは間違いないんだけど・・・
 でもこの二つの水晶をどうすれば良いのか分からない。
「謎解きはお前に任せる。早く答えを見つけるんだな」
「おいランバート、一緒に考えてくれよ」
「ふっ。前にも言っただろうジェイク。月だの太陽だのはお前の管轄だ」
 ランバートはそれだけ言うと強引にオレに太陽の水晶を手渡して、あとは知らん顔をしていた。
「んなこと言ったってなあ・・・」
 確かにオレは皆既日食の瞬間に生まれたんだけど、果たしてそれがこの二つの水晶と関係あるのかと言われると、これが皆目見当もつかない。
 オレの右手には太陽の水晶、そして左手には月の水晶。
 二つ揃った水晶をまじまじと見つめてみる。
 二つの水晶はそれぞれ淡い輝きを放っていて、じっと見ているとまるで吸い込まれるかのようだ。
 見る、見つめる、見入る、そして魅入る。
 美しい水晶にオレの魂ごと魅入られそうになった。
「皆既日食、太陽と月・・・二つをひとつに・・・」
 ふいに頭に浮んだ言葉をそのまま吐き出していた。
「あっ!」
 驚きの声を上げたのはエイティ。
 オレがつぶやいた言葉に反応したのか、二つの水晶が目も眩むばかりの輝きを放ち始めたんだ。
 じっと目を閉じ精神を集中させると、二つの水晶をオレの頭上に掲げた。
「太陽と月よ・・・今こそひとつに」
 別に意識しているわけでもないのに自然とオレの両手が近付き、太陽の水晶と月の水晶をくっつける形になった。
「眩しい・・・」
「目を開けておれんな」
 燦然と輝く二つの水晶が今、オレの手の中でひとつに融合していく。
 やがて眩い光は収束する。
 オレの手の中にはひとつ分の水晶の感覚しかなかった。
 両手を下ろし、手の中にあるそれを確かめてみる。
 そこにはさっきまでオレが持っていたものよりも一回り大きな水晶玉があった。
 その内部には太陽の紋章と月の紋章が二つ並んで埋め込まれてあったんだ。
 オレがふうと息を吐くと、それまで張り詰めていた空気が緩む。
「太陽と月がひとつになったのね」
「信じられん」
 エイティもベアも新しい水晶をまじまじと見つめていた。
「さすがは皆既日食の瞬間に生まれただけのことはある。こんな芸当を見せてもらえるとはな」
「いや、たまたまじゃねえか?」
 ランバートはオレを特別な存在として見ているようだけど、二つの水晶をひとつにできたのは皆既日食と関係あったかと言われるとそれも疑問だ。
「それで? この新しい水晶をどうするの?」
「おそらくアイツが教えてくれるはずだぜ」
 オレは新しい水晶を高く掲げた。
「ティエンルン、二つの水晶がひとつになった。これで良いんだろ?」
 オレが頭上にいたティエンルンに叫ぶと、ティエンルンは優雅に舞い降りてきた。
 器用に身体をたたんで着地すると、また直接頭の中に響く声で話し掛けてきた。
『よくぞ光の水晶を手にした。さあ、その水晶で周囲を照らすが良い』
「周囲を照らす?」
 新しくできた水晶は光の水晶という名前らしい、よく分からないまま光の水晶をあちらこちらに向けてみる。
 光の水晶はオレの手の中で淡い光を放っていた。
 それが突然眩く輝く。
「あっ、扉が・・・」
 光の水晶に照らされた場所、太陽の回廊と月の回廊の入り口の間に、石造りの扉が浮びあがってきたんだ。
『扉を抜ければそこはドラゴンの聖地。光の水晶を手に入れた汝らにはそこへ入る資格がある。さあ進むが良い』
 ティエンルンはそう言い残すとまたゆっくりと浮上していった。
「ドラゴンの聖地か。いかにもって感じだよな」
「行くぞ。そこにドラゴンの神がいるはずだ」
 ランバートが扉に手を掛けた。
 オレ達は無言のまま視線を交わして頷き合うと、ドラゴンの聖地へ繋がる扉を開けた。

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