ジェイク7
17
ガスドラゴンを倒したボク達はそのまま太陽の回廊ってところを進んでいます。
いつ次のドラゴンが襲ってくるか分かりませんから、ベアさんもランバートさんもおしゃべりせずにじっと黙ったままですね。
それにしても暑いです。
ボクは雪山で育ったから寒さには強いのですが暑いのは苦手です。
「はぁ、はぁ」
「むっ? ボビー、平気か?」
「ハイ、大丈夫ですぅ」
「ムリはするな。ほら、これを飲め」
「ありがとうございます」
ベアさんがボクに水筒に入っているお茶を飲ませてくれました。
そういえばこのお茶もランバートさんが淹れたものでしたね。
お茶はスゥっと良い匂いがしてとてもおいしかったです。
「どうにも暑いな。洞窟の中なのにこれほど暑いとは」
「この山は火山だ。近くに火口が走っているのかもしれんな」
ベアさんとランバートさんもお茶を口に含みます。
それにしても火山ですか、きっとマグマは熱いんでしょうねえ。
もしもここにドロドロに溶けたマグマが流れ込んできたらと思うと怖いです。
「さあ、行こうじゃないか」
一息ついたらまたみんなで歩き始めます。
でもなかなか通路が終わりません。
いつまで歩けば良いんでしょう?
そしていつになったらエイティさん達に会えるんでしょう?
さすがのボクもだんだん不安になってきました。
「ねえ、ベアさん・・・」
何となくベアさんに話しかけようとした、その時です。
一番前を歩いていたランバートさんの足がピタリと止まりました。
「どうかしたか?」
「ああ。どうやら大物に出くわしたらしいな」
「なるほど」
ベアさんとランバートさんはもうそれ以上言葉を交わしたりはしませんでした。
それぞれ武器を構えてじっと通路の先の様子をうかがっています。
岩陰に身を隠しながら慎重に「大物」目指して近付いていきます。
「あれか」
ベアさんがポツリとつぶやきました。
ボクもベアさんの足元からそっと向うを覗いてみました。
「っ!」
ボクは驚いてしまって声も出ませんでした。
そこにいたのは、全身がピカピカ金色に輝く大きなドラゴンでした。
さっき戦ったガスドラゴンとは比べ物にならないくらいに綺麗で強そうです。
あれがドラゴンの神様なんでしょうか?
「ゴールドドラゴンとはな。伝説とも云える竜がいるとはさすがだ」
ランバートさんは何がおもしろいのかクックと笑っています。
ボクなんて怖くて仕方ないのに。
「どうする、やるのか?」
「無論だ」
ベアさんとランバートさんが顔を見合わせてニヤリと笑っています。
どうやら二人とも本気であのゴールドドラゴンと戦うつもりみたいです。
「ボビーよ。怖ければここで隠れていても構わんぞ」
「だ、ダイジョウブですよ。ボクだって戦います」
勢いでそう言ってしまいましたが、本当は怖くてたまりません。
「上等だウサギ。ならば、行くぞ!」
「オゥ!」
「ハイっ!」
ボク達はゴールドドラゴンへと戦いを挑みました。
ランバートさんが呪文を唱えると、ボク達の目の前にはキラキラ輝く透明な壁ができあがりました。
ジェイクさんもよく使う呪文で、この透明な壁で敵が使ってくる呪文を跳ね返しちゃうんですよね。
ゴールドドラゴンともなると頭も良さそうですから、きっと強力な呪文を使ってくるに違いありませんからね。
ランバートさんはまずそれに備えたんですねえ。
誰に言われなくてもこういうふうに戦えるなんて、きっと戦い慣れているんだと思います。
ベアさんは呪文は使えないですからとにかく武器で攻撃です。
お気に入りのグレートアックスを、ゴールドドラゴンの身体目掛けて力任せに叩き込んでいきます。
あんなに大きくて重い斧で攻撃されたら、きっとボクなんてひとたまりもないですよ。
でもゴールドドラゴンはとっても頑丈みたいです。
ベアさんが思いっきり攻撃してもビクともしません。
ドラゴンの鱗は鉄みたいに固いっていうのは本当なんですね。
二人が頑張っているんだからボクだって負けていられませんよ。
ボクはいつもそうするように、ゴールドドラゴンの目の前をチョロチョロ走り回って相手の気を引きます。
ときどきゴールドドラゴンが大きな脚で踏み付けようとしてくるけど、素早いボクはそんなのはサッとかわしちゃいます。
ズシーンとボクの後ろで大きな音がしました。
ボクを狙ったゴールドドラゴンが空振りしたんです。
そこへベアさんとランバートさんが攻撃しています。
作戦は大成功、これでゴールドドラゴンもきっと降参するはずです。
って、あれ・・・?
ベアさんやランバートさんがどんなに攻撃しても、ゴールドドラゴンはいっこうに倒れる様子がありません。
背中に生えた金色に輝く綺麗な翼をバタバタと鳴らして威嚇します。
そして大きくて太い脚や長く伸びた尻尾を振り回しては、二人を追い払おうと暴れています。
ボクの目には、だんだん二人が押し返されているように見えますよ。
そして。
ゴールドドラゴンが大きな口を開けたと思ったら、ものすごい勢いで炎を吐き出してきました。
「うわぁー!」
ボクはたまらずベアさんの影に隠れました。
ランバートさんが呪文で作った透明な壁にゴールドドラゴンが吐いた炎がぶつかってバチバチと大きな音がしています。
あまりに眩しくて目を開けて見ていられませんよー。
「この程度のブレスなら持ち堪えられるはずだ」
「お前さんの呪文もたいしたもんだな」
ランバートさんもベアさんも、透明な壁の影でじっと武器を構えています。
この炎が収まったら飛び出すつもりなんですね。
でも、素早く次の行動を起こしたのはゴールドドラゴンのほうでした。
炎のブレスを吐き終えると同時に、今度はものすごく冷たい氷の嵐で攻撃してきたのです。
あれはきっとマダルトの呪文です。
幸い今は透明な壁のおかげで平気みたいです。
でも・・・
「ヤバイな。炎と冷気の温度差で障壁を崩されてしまう」
ランバートさんの顔がちょっと引きつっているように見えるのはボクの気のせいでしょうか。
もしもランバートさんの言うようにこの透明な壁が壊れてしまったら大変です。
いくら寒さに強いボクだって、あの呪文を直接食らったらとても耐えられません。
と、その時です。
ピシッと透明な壁にヒビが入ると、あっと言う間に粉々に砕け散ってしまったのです。
ボク達を守ってくれた透明な壁が無くなって、ゴールドドラゴンの呪文がモロにこちらに降り掛かってきます。
「クソっ」
「ぬおぉぉぉ」
「ひゃあー」
ベアさんが壁になって守ってくれたおかげでボクはなんとか無事でした。
しかしみなさんもうかなりのダメージです。
これ以上戦いが長引くのはマズイです。
「ベアさん、ボクをアイツのところに思いっきり投げて下さい!」
「ボビー、お前・・・」
「ボクがアイツの首を噛み切って倒してみせますよ」
本当はそんなことできるかどうか分かりません。
でもここはボクが頑張らないと。
「よし、俺が投げる。覚悟は良いな?」
ランバートさんがボクの身体をヒョイと摘みあげました。
ボクと同じ赤い目で、じっとボクの顔を見つめています。
「お、お願いです」
「よし、頼んだぞウサギ!」
ランバートさんがボクをゴールドドラゴン目掛けてブンと放り投げました。
「ひゃ、ひゃあああー!」
さすがは男の人は力が強いです。
エイティさんが投げるのよりもずっと速く、ボクの身体が風を切って飛んでいきます。
目の前にはゴールドドラゴン、ボクは狙いを定めてその首筋へと着地しました。
そして、ガブリと思いっきり噛み付きます。
自慢の長い牙がゴールドドラゴンの金ピカの鱗の隙間をぬって突き刺さります。
ぐげぇ
ゴールドドラゴンが苦しそうに暴れますが、ボクは振り落とされないように必死に牙を突き立てて頑張りました。
そこへ。
「うおぉぉぉ!」
猛然と走りこんできたベアさんが、ゴールドドラゴンのお腹にグレートアックスを叩き込みます。
そしてさらに、ランバートさんが詰め寄りました。
「ウサギ、そこをどけろ!」
ランバートさんが叫ぶので、ボクはゴールドドラゴンの首から牙を抜いて素早く逃げます。
さっきまでボクがいた場所に、ランバートさんの剣がまるで吸い込まれるように消えていきました。
ランバートさんが剣を振りぬくとどうでしょう、どーんとゴールドドラゴンの大きな顔が転がり落ちました。
さっきまで首が付いていた場所から真っ赤な血が吹き出して、ゴールドドラゴンの金色の鱗も真っ赤に染まってしまいます。
ランバートさんが剣を振ってこびり付いた血を飛ばしてから、カチャンと鞘に収めます。
それと同時にズズーンと大きな音がして、ゴールドドラゴンの胴体が横に転がってしまい、もうそれっきり動かなくなってしまいました。
ふう、と息を吐いたランバートさんがボクを抱き上げてくれました。
「おいウサギ、名前は何といった?」
「ボクですか? ボクの名前はボビーです」
「そうか。ボビー、よくやったな。お前が頑張ったからヤツを倒せた」
ランバートさんがボクの頭をガシガシと撫でてくれました。
「ひゃあ、くすぐったいですよ」
「我慢しろ」
ランバートさんの手はエイティさんの手とは違って、とても大きくて力も強そうです。
そしてとっても温かかったのでした。