ジェイク7

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 みなさんこんにちは、ボクはボビーです。
 ボクたちは今太陽の回廊ってところを進んでいます。
 えっ?
 なんでボクがお話しているか、ですって?
 そんなの決まっているじゃないですか、ボクにピッタリのお仕事だからですよ。
 それに、ボク以外の人がこんなふうにしてお話できると思いますか?
 あとここにいるのは口が重いベアさんと、いつもむっつりしているランバートってヤツだけですよ。
 そんなのムリに決まってます。
 というわけで、エイティさんたちと一緒になるまではボクがみなさんのお相手ですよ。
 それにしても、エイティさん大丈夫でしょうか。
 とても心配です。
 ボクが一緒ならいつも守ってあげられるのに、ジェイクさんだけだといまいち頼りないんだよなあ。
 エイティさん、どうか無事でいてくださいね。
 それで、ボクたちの様子をお話するんですよね、まかせてください!
 えーと、ベアさんとランバートってヤツがボクの前を歩いています。
 ボクは二人の後ろを追っかけるように付いていきますね。
 前にいる二人は別におしゃべりとかはしないみたいです。
 エイティさんがいれば楽しいのに、この二人だけだとつまらないですね。
「なあ、ランバートよ・・・」
 あれっ? ベアさんがランバートってヤツにお話していますよ。
「ここにはワシとお前さんしかいない。ワシはジェイクやエイティとは違ってお前さんに対しては特にわだかまりのようなものは持っとらん。
 どうだろう、ここはひとつ男同士、腹を割って話さんか」
 ベアさんベアさん、ここにはボクもいるんですけど!
 そう言ってやろうかと思いましたが黙っていることにしました。
「腹を割って話すだと? 一体何を話すというんだ?」
「聞きたいことは色々あるが、やはりアレだろう」
「アレ、とは?」
「お前さん、本当にジェイクのおふくろさんを殺したのか?」
「ふん、何故そんなことを聞く?」
「ワシにはお前さんがそれほど悪いヤツには思えんのだ。
 確かにお前さんは赤ん坊の頃のジェイクを連れ去ろうとしたようだ。そして今回もジェイクと間違えてエイティを連れ去った。
 しかし、だな・・・」
「しかし何だ? それならそれで良いだろう。
 どうせ俺は魔族だ。初めからお前たち人間には受け入れられない存在なのだ。
 そんな俺が過去に何をしようと関係ないだろう。
 俺を憎むなら勝手に憎めば良い。俺は言い訳も弁解もしない」
「なるほどな。そうやっていつも自分に言い訳していじけていたんだな」
「どういう意味だ!」
「まあ落ち着いてくれ。お前さんの気持ちも分かる。
 それにワシだってドワーフだ。エイティやジェイクのようないわゆるヒューマンとは種族が違う。それでもワシは人間社会の中で楽しくやっとるぞ」
「ドワーフだろうがヒューマンだろうがたいした違いはない。だが我々魔族は違うだろう」
「だからそうやって他人を寄せ付けずに生きてきた、か?」
「まあそうだ」
「ふむ、やっと分かった」
「何がだ?」
「お前さんと一緒にいるとな、誰かに似ていると思っとったんだ」
「誰かに似ている?」
「ああ。お前さんはワシらが初めて会った頃のジェイクにそっくりだよ」
「俺とジェイクが・・・似ている、だと?」
「うむ。ワシらが初めてジェイクに会った時な、アイツは女であることを隠して男として暮らしていた。
 しかし人間誰しもそうそう自分の性別を偽れるものじゃないだろう。誰かと一緒に風呂にでも入れば一目瞭然だからな」
「それは・・・確かに」
「だからジェイクもできるだけ他人と関わらないように生きていた。決まったパーティも組んでいなかったし、ワシらに対してもどこか距離を取って接していたはずだ。
 まあ、ワシ自身ジェイクが女だと知ったのはかなり後になってからだったがな。ワッハッハ」
「む・・・」
「そんなジェイクも今ではワシらの仲間だ。だからどうだろう? お前さんだってきっと他の人間と打ち解けられるはずだ。
 もちろん全ての人間とそうなれるとは言わん。だが少なくてもワシらはもう丸っきりの他人といわけではないはずだ。
 お前さんとワシらはこの洞窟を突破するためにお互いに力を合わせなければならない。言ってみれば同志ではないか」
「その為には腹を割って話せ、と?」
「そういうことだ」
「ふっ、良いだろう。そこまで言うのなら乗せられてやる。だが、お前は果たして俺の話を信じるのか?」
「信じるさ。それが同志ってヤツだ」
「そうか・・・
 あれは今からちょうど十七年前の今日のことだったな・・・」

 ふわあぁぁぁ。
 ベアさんもランバートってヤツもボクを忘れてお話してますよ。
 でも話の内容が難しすぎて、ボクにはさっぱり分かりません。
 あーあ、早くエイティさんと会いたいなあ。
 エイティさん、今頃どうしてるんだろう。
 って、あれ?
 今、何か聞こえましたよ。
 あれはまさか・・・アイツの鳴き声です!
「ベアさん大変です。この先にドラゴンがいます」
「何だと? そうかボビー、よく教えてくれた」
 ベアさん達のお話はそこで終わってしまいました。
 二人とも声をひそめて武器を構えています。
 次第に鳴き声がよく聞こえるようになってきました。
 きっともうベアさんにもランバートってヤツにもハッキリと聞こえているはずです。
 通路が大きく曲がったその先にヤツらはいました。
 ガスドラゴンです!
 ヤツらは地下迷宮の浅いところでよく見かけます。
 ボクの仲間のボーパルバニーが何匹もヤツらの餌になってしまいました。
 だからボクらはヤツらの鳴き声は絶対に聞き間違えたりはしません。
 でもこんなところで遭うなんて、これは仲間の仇を取るチャンスです。
「数が多いな。全部で・・・四匹か」
「面倒だ、俺が呪文でまとめて始末・・・」
 二人が何か話していますがボクの耳には入ってきませんでした。
 ボクはガスドラゴン目掛けて一気に走り出します。
「あっ、待たんかボビー!」
「ウサギめ!」
 ベアさんとランバートってヤツがボクの名前を叫びます。
 でももう止まりません。
 ボクはガスドラゴンの目の前まで走ると、一番手前にいたヤツの首筋目掛けて思いっきり飛び跳ねました。
 ガスドラゴンがボクに気付きました。
 その緑色の身体を大きく動かしてボクを迎え撃とうとしています。
 翼がバサリと音を鳴らします。
 大きな前脚を振り上げてボクを叩き付けるつもりです。
 でもボクは怯みませんでした。
 ガスドラゴンの攻撃を振り切ってヤツの首筋にガブリと噛み付いてやりました。
 ぐえぇぇぇ
 ガスドラゴンのヤツが悲鳴を上げています。
 そうです、ガスドラコンがボクの仲間を餌にしてきたように、ボクらもまたガスドラゴンを仕留めては食べているんです。
 ガスドラゴンとボーパルバニーの関係は、お互いに食い食われるものなのです。
 でも・・・
 いざ戦いとなれば、やっぱり身体の大きなガスドラゴンのほうが断然強いんです。
 ボクの牙は残念ながら、ガスドラゴンの急所には届いていなかったようです。
 ガスドラゴンが必死にのた打ち回りながら、ボクを引き剥がしにかかります。
 危ないです、もしも暴れまわったガスドラゴンの下敷きになったらボクなんて簡単にやられちゃいます。
 そうなる前に、ボクはガスドラゴンから離れました。
 しかしそれで助かったわけではありません。
 他のガスドラゴンが一斉にボクへと襲い掛かってきたのです。
 囲まれてしまいました、もう逃げ場はありません。
 ボクはもうすぐヤツらの餌になってしまうのでしょうか・・・
「もうダメだぁ!」
 あまりに怖くてギュッと目をつぶります。
 でも・・・何も起こらない、ですか?
 そっと目を開けてみると、ベアさんとランバートってヤツがガスドラゴンと戦っていました。
 ランバートってヤツがガスドラゴンの間をすり抜けてボクのところへ駆け込み、ボクを拾い上げてくれました。
 そして。
「マトカニ!」
 あのワイバーンを塵にした不思議な呪文を唱えます。
 するとどうでしょう、目の前のガスドラゴンが、一匹残らず塵になって消えてしまいました。
「このウサギが、うろちょろしてるとお前も塵にしてしまうぞ」
「はっ、はいっ!」
 赤く輝く、とっても怖い目で怒られました。
 でも・・・
 ランバートってヤツは、ううんランバートさんは、ボクを助けてくれたんですよね?
 もしもランバートさんがボクに構わず呪文を使っていたら、ボクもガスドラゴンと一緒に塵になっていたはずです。
 だからランバートさんはまずボクを助け出して、それから呪文を使ってくれた。
 おかげでボクは塵にならずにすみました。
 もちろんガスドラゴンの餌にもなりませんでしたよ。
 ランバートさんて怖い目をしているけど、本当は優しい人なのかもしれません。

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