ジェイク4

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 散々な目に遭いながらここまで来たんだ。
 こうなったら何かお宝を見つけるまでは意地でも戻れない。
 オレ達は更に地下通路を進んで行った。
「おっ、スイッチがあったで。押してみるわ」
 壁にスイッチを見つけたラッキー、今度は邪魔が入らないうちにと素早く押した。
 すると、オレ達が今通ってきた通路に落とし穴が開いたんだ。
「戻れなくなったな」
「心配無いって少年。今までもトラップを解除するスイッチがあったやろ。この落とし穴を閉じるスイッチも必ずあるはずや」
 自信満々のラッキー。
「でもさ、そのスイッチが向こう側だったらどうするんだよ」
 オレは落とし穴を挟んで反対側の通路を指差して言った。
「へっ・・・? まっ、まあ大丈夫や、きっと。うん、大丈夫や」
 さっきの自信はどこへやら。
 それでもラッキーはすぐさまスイッチを探し始めた。
 ラッキーの表情はちょっと追い詰められてるっぽい感じがするけど、まあ黙っておいてやろう。
 結局通路の壁や床にはスイッチの類は一切見つからず、気が付いたら目の前には扉が一つ。
「この扉の向うやろか?」
「調べるしかないだろう」
 男二人が顔を見合わせて頷く。
 ベアが扉に手を掛け、ゆっくりと押した。
 そう広くもないその部屋には、異臭が立ち込めていた。
 異臭の正体、それは一体のゾンビ。
「ジェイクは下がってなさい」
「ワシらに任せろ」
「ああ」
 相手は一体だし、呪文を温存しろという事なのだろう。ここはおとなしく従っておく事にした。
 エイティとベアがそれぞれの得物を振りかぶってゾンビに突撃して行った。
「このぉ」
「うぉりゃ」
 一瞬の早業。
 エイティのハルバードが胸を串刺しにして、ベアのヘビーアックスが頭をかち割ってしまうと、ゾンビは活動を停止する。
「あっけなかったわね」
 会心の勝利に笑みも浮かぶ。
「でもさあこのゾンビ、ここまで忍び込んだけど帰れなくなったヤツとかじゃねえだろうな?」
「もう! ジェイク、変な事言わないでよ」
「いや、さっきの落とし穴がどうも気になってさ」
「少年、その心配は無さそうやで」
 オレとエイティの会話にラッキーが割って入った。
「ホラ、ここんとこにスイッチがある」
 ラッキーがすかさずそのスイッチを押すと、その隣の壁が開いた。
 そこは小部屋になっていて、中には更にスイッチが。
 ラッキーがスイッチを押すと・・・
「何も起こらないわね」
「ああ」
「変わったところは無いな」
 そう、何も変化が見られなかったんだ。
「まあまあ皆さん慌てない。これはきっとさっきの落とし穴に関係したスイッチやと思うで。戻ってみようや」
 ラッキーの意見に従ってさっきの場所まで戻る事になった。
 戻ってみれば、確かに。
「落とし穴、閉じているわね」
「これで歩いて帰れるな」
 オレ達はホッと安堵していた。これで帰り道の心配は無くなったって訳さ。
 地下迷宮を探索していて帰り道が絶たれる事程怖い事は無い。
 イザとなったらマロールで脱出ってのが奥の手だけど、歩いて帰れるならそれが一番だよな。
「で?」
「ジェイク、何が『で?』なの?」
「だからさ、コレで終わりかよ? ここまで来て何も無しか?」
「そう言えばそうね」
「もう一回さっきの部屋を調べたら何かないかな」
「そっか、それじゃあ戻って・・・」
「ちょい待った、二人とも」
 またもオレとエイティの会話に割り込んでくるラッキー。
 だけど今回は難しい顔で腕組みしたまま、じっと視線を廻らしている。
 そして。
 ラッキーが再び壁にあったスイッチを押して落とし穴を開けたんだ。
「ちょっとラッキー、せっかく閉じたのに何するの?」
「まあまあエイティはん。ちょいと様子を見てくるわ」
 ラッキーは落とし穴に飛び込んで行った。
 待つ事しばし。
 突然ラッキーが落とし穴の向こう側の通路に出現したんだ。
「ラッキー、大丈夫だった?」
「嬉しいなあ、エイティはんがワイの事心配してくれるなんて」
「そんな事はいいから。どうだったの?」
「ああ、バッチリやったで。降りた所から通路が伸びてた。すぐ近くにスイッチがあって、それを押したらここまで戻れたしな」
 ラッキーはどうだとばかりに得意顔になっていた。
「行くか」
 オレ達の返事も待たずにさっさと穴に飛び込むベア。その後にラッキーも続いた。
「私達も行きましょう。ジェイク、浮遊の呪文は・・・」
「ああ、まだ効果は残っているから大丈夫だ。行こうぜ」
 エイティとオレ、ついでにエイティにくっ付いているボビーも男達に続いて穴に飛び込んだ。 
 
 着地した場所からは、通路が西へと伸びていた。
 帰る時のスイッチの場所も確認しておく。すぐ近くだ、問題無いだろう。
 例によってラッキーが先頭に立ち、トラップやスイッチが無いか、慎重に進む。
 やがて通路が二つに分かれていた。
 一方は北へ。
 そしてもう一方は西へ。
 だが。
「あっちへは行けないわね」
「そうやな」
 西へ伸びた通路には既に落とし穴が開いていて、これを閉じない限りは進めそうもなかった。
「まずは行ける方から行ってみようや」
 ラッキーが北への通路を進んだ。
 通路はほどなく終わっていて、目の前にはアーチがあった。
 その向うには少し広めの部屋があって、反対側には鉄格子。
 いかにもって感じだよな。
「ねえねえ、こんな所にスイッチがあったわ。押してみるわね」
 スイッチは本当に分かり易い所に設置してあった。
 どれくらい分かり易いかと言うと、スイッチの周りに犬だろうか、動物を擬人化したような壁画が描かれていたんだ。
 スイッチの左右から一匹ずつ、計二匹。
 その壁画の犬だか猫だかの動物が、スイッチを押すしぐさをしていたのさ。
 しかも壁画の脇にはロウソクが設置されていて、ライトアップされているという親切設計。
 これでスイッチを見つけられない方がおかしいだろって言わんばかりだよな。
 あまりにもあからさまで怪し過ぎるから、かえってラッキーはその存在を無視していたんだと思う。
 だけどエイティは、ラッキーよりも先に見つけたと思っているんだろうな。
 それがよっぽど嬉しいらしい。
「何が起きるのかしらね?」
 嬉々としながら、そのいかにも怪しいスイッチを押した。
 ギギギ・・・
 もう何年も動いていなかったのだろう、重い音を立てながら部屋の奥に見える鉄格子が開いた。
「やったわ。これで先に進めるわね」
「ちょっと待ったー!」
 一歩を踏み出そうとしていたエイティを、ラッキーが強引に抱き寄せた。
「きゃあ」
「エイティさんに何をするんだ!」
 エイティの悲鳴とボビーの怒声。
「早とちりせんといてえな。ちょっと見ててみ」
 ラッキーは足元に転がっていた石を拾うと、アーチの向うへ放り込んだ。
 すると・・・
 シュババっと大量の矢が部屋の中に降り注いできたんだ。
 それを見たエイティの表情が驚きのあまりに硬直していた。
「なっ。あのまま不用意に部屋に入ってたらあの矢にやられてたで。
 スイッチをワザと分かり易い場所に置いて、それを押したら目の前の鉄格子が開く。それを見て喜んで踏み込んだらあの矢に串刺しにされて一巻の終わりや。スイッチそのものがトラップやったんやな。」
「そうだったのね。ありがとうラッキー」
「いやあ。エイティはんのためやったらこれくらい」
 ここが男としての決め所と踏んだのか、ラッキーがグイっとエイティに迫る。
「なっ、ちっとはワイの事見直したやろ?」
 しかしエイティはそんなラッキーの攻撃をあっさりとかわしてしまう。
「そうね。盗賊としての腕だけは大したものよね」
「だけ、は余計やろ〜」
 そのやり取りに全員で声を出して笑った。
「だがお前さんの腕は大したものだぞ。ワシらだけではとてもここまで来れなかっただろう」
「ホンマか、大将?」
「ああ、オレもそう思うぜ。ここまで来たんだ。最後までビシッと頼むぜ」
「任せてえな少年。絶対にルビーの目玉はいただくよって」
「そうだったわね。ここへ来たのってそのルビーの目玉って宝石を探しに来たんだっけ。でもラッキー、どうしてそれが欲しいの?」
 エイティに聞かれて、それまでうるさいくらいだったラッキーが急に黙り込んでしまった。
 そして一言。
「まあ、ワイにも色々あるんや」
「ふうん、色々ね。まっいいわ。それより早くここを突破する方法を探してよ、盗賊さん」
「だからトレジャーハンター! エイティはん、いい加減覚えてえな」
 一瞬静かになったと思ったら、あっという間に復活しているラッキー。
 本当〜に、にぎやかなヤツだぜ。

ピラミッド地下迷宮マップ・その2

※・マップ1より
9・落とし穴を開くスイッチ
10・落とし穴、マップ3へ
11・ゾンビとバトル
12小部屋を開けるスイッチ
13・落とし穴を閉じるスイッチ


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