ジェイク4

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10

 とにかくあの矢のトラップをどうにかしないと先へは進めない。
 オレ達は来た道を戻る事にした。
 すると、さっきは落とし穴が開いていて通れなかったはずの通路が、今はそれが閉じていて通れるようになっていたんだ。
「さっきエイティはんが押したスイッチに繋がっとったんやな」
「行ってみましょう」
 そのまま通路を西へと進む。
 程なく通路は北へ折れ、突き当たりには扉があった。
 ベアが扉の向うの気配を探るも、特に何もいないようだ。
 ゆっくりと扉を開けるとそこは小部屋になっていて、壁にはスイッチが一つ。
 ラッキーが慎重にそれを押す。
「何も起こらへんようやな」
「という事はこれが?」
「あの部屋のトラップの解除スイッチに間違いないやろ」
 オレに真顔で頷くラッキー。
 急いでさっきの場所まで戻る。
 念の為、もう一回アーチの外から石ころを投げ入れてみたけど、今度は矢が降り注いでくるような事は無かった。
「よし。コレで大丈夫や」
 ラッキーがアーチをくぐって先へ進んだ。

 その部屋の中も一通り調べてみたけど、特に気になる所は見当たらなかった。
 鉄格子があった場所からは北に通路が伸びていて、すぐ先で東に折れていた。
「匂う、匂うで。お宝の匂いがプンプンするわ」
 お宝を目の前にして更に研ぎ澄まされる盗賊の勘。
 オレ達は目配せで合図をすると、通路を歩き出した。
 突き当りを右に曲がると目の前には部屋が開けているのが見えた。
 しかし・・・
 その前にオレ達を待っていたかのように立ちはだかる影があった。
 エメラルドグリーンのローブを纏い、右手にはメイス、左手には蛮刀。
 そして特徴的なのがヤツの顔で、古代の皇帝が埋葬される時に被るようなマスクを身に付けていたんだ。
 古代皇帝、ファラオのミイラ。
 悠久の時を経て、この地に祭られてある宝の最後の番人がオレ達に襲い掛かって来た。
 いち早く戦闘態勢に入っていたファラオのミイラは、既に低く響く旋律を唱え始めていた。
 攻撃呪文、おそらくラハリトか。
 オレも呪文を唱えるが、攻撃呪文で対抗しても間に合いそうもない。
 ならば・・・
「コルツ」
 敵の攻撃呪文を遮る呪文障壁を張り巡らす。
 この呪文障壁がどの程度の効果を発揮するかは、攻撃する者と受ける者、お互いの魔力の差がそのまま影響してくる。
 オレの方が魔力が高ければ、敵の呪文をうまく弾き返せるだろう。
 しかし、ファラオのミイラの方が魔力が高ければ、呪文は障壁を貫通してオレ達に降り注ぐ。
 正に魔力勝負。
 オレも魔法使いの端くれだ。
 この戦い、意地でも負けられない。
 ファラオのミイラが放ったラハリトの炎が、オレが張った呪文障壁に直撃。
 凄まじい熱量を持った閃光が目の前で炸裂している。
「弾き返せー」
 全神経を集中させて障壁の維持に努める。
 火炎の嵐は障壁に阻まれそれ以上は侵攻出来ずにその場で渦巻くと、やがて霧のように四散してしまった。
 ここはオレの魔力が勝った形になった。
「ジェイク、よくやったわ」
 敵の攻撃を防いだら次はこっちの番だ。
 エイティとベアがファラオのミイラに躍り掛かり、更にはラッキーまでがムチを振るって飛び出した。
 ラッキーの放ったムチは一直線にファラオのミイラへと伸びると、蛮刀を持った左手に巻き付き、その動きを封じてしまった。
 それに気を取られたファラオのミイラ、迫り来るベア達に対する対応が全く出来ていなかった。
 エイティのハルバードがファラオのミイラの右肩を貫き完全に動きを止めると、ベアのヘビーアックスが身体を真っ二つに叩き割る。
 ドワーフの戦士が放つ豪腕による一撃。
 ファラオのミイラは活動を停止し、その場に崩れ落ちてしまった。
 最後の番人の最後の瞬間てやつさ。

 ファラオのミイラを倒して入った部屋はかなりの広さがあった。
 その中心には祭壇のようなものが設置してあって、その上には深い緑色に輝く小像が安置されていた。
 小像の周りには、乾燥した花びらや動物の骨、ビーズ玉などが配置してあって、この地に伝わる原始的かつ宗教的な色合いを醸し出している。
「ここが最終地点のようね」
 部屋の中や祭壇の周囲を注意深く観察するエイティ。
 さっきので懲りたんだろう、さすがに今回は軽率に足を踏み入れるようなマネはしなかった。
「ちょっと待ってな。最後の最後にどんなトラップがあるかも分からんから」
 ラッキーも細心の注意を払って祭壇の周りを調べていく。
 やがて・・・
「やっぱりや。最後の守りも堅いで。まずこの祭壇の周りの床。不用意に踏み出したら落とし穴が開くやろな」
 ラッキーが周囲の壁を丁寧に調べると、入り口とは反対側の壁にスイッチを見つけた。
 それを押したラッキー、祭壇の周囲の床にいくつか石ころを投げてみて反応を確かめる。
「よし、大丈夫やな。次はこの彫像や」
 彫像はおそらく翡翠を削って作られたものだろう、古い神様か何かを表しているんだろうな。
 当然ここにもトラップが仕掛けられているだろう事は容易に想像出来る。
 ここまで来たらラッキーが持つ盗賊としての腕と勘を信じて任せるしかない。
 オレ達はただ息を呑んで見守るだけだった。
 ラッキーの指が彫像に伸び、あとわずかでそれに触れようかという所でピタリと止まった。
「なるほどな」
 そう呟くとラッキーは祭壇から離れ、オレ達がいる場所まで戻って来た。
「エイティはん、あの動く宝箱から見つけたヤツ、あったやろ?」
「アクセサリーの入った袋ね」
「そう、それや。それ貸してえな」
 ラッキーに言われるまま、エイティは道具入れからアクセサリーの入った袋を取り出し、手渡した。
「こっちは要らへん。必要なんはこっちや」
 袋からアクセサリーを取り出すと、それには用が無いらしくすぐさまエイティに返した。
 手元に残ったのは何の変哲も無い空の皮袋のみ。
「砂、砂。砂なんて売る程あるしな」
 ラッキーは足元にある砂をかき集めると、皮袋の中に詰め始めた。
 やがて皮袋が満杯に膨れ上がる。
 丁寧に皮袋の口を縛ると、再び祭壇へと向かった。
「何が起こるのかしら?」
「黙って見ているしかあるまい」
 それっきり、もう誰も口を開く者はいない。
 祭壇の周囲にピンとした緊張感が張り詰めていた。
 ラッキーの右手が再び彫像へと伸びる。
 左手には砂の詰まった皮袋。
 そして・・・
 右手が彫像に掛かると同時に、左手に持った砂袋が祭壇の上に置かれていた。
 一瞬の早業。
 ラッキーは、祭壇にあった彫像と手にしていた砂袋とを瞬時にすり替えてしまったんだ。
 その手際の良さはオレ達の目になんか止まるはずもなく、飾られてあった花びらが一片たりとも動かないくらい見事なものだった。
「ふぅ〜、うまくいったわ」
 彫像を片手に戻って来るラッキー。その顔には一つの仕事を終えた会心の笑みが浮かんでいた。
「なあ、何があったんだ?」
「ん? ああ、この彫像を取るとおそらくガスか何かが吹き出すようなトラップが仕掛けてあったんや。
 そやからトラップが発動する前に、彫像と同じくらいの重さの物を置かんといかんかった訳や」
「なるほど」
 ラッキーの説明にようやく合点が行った。
 それにしてもこの男、大したヤツだぜ。
 数々のトラップを見抜き、その解除法を見つけ出し、最後はテクニックで彫像を掠め取った。
 オレは改めて盗賊という職種の凄さや重要さというものを感じていた。
 そう思ったのはオレだけじゃないみたいだ。
 ベアもエイティも目をまん丸にしてラッキーに見入っていたしな。
「ん、エイティはんどうかした? あー、ひょっとしたらワイの事惚れたんちゃうの?」
「えっ? ないない。別にそんな事ないから」
 顔をブンブン振って思いっきり否定するエイティ。
 でもさ、何にも無いんだったら何をそんなに慌ててんだよ。
「ラッキーよ、ここにはもうこれ以上のお宝は無さそうだな?」
「ああ、これが最後やろな」
「ならば戻ろう。帰りも頼むぞ」
 ベアがラッキーの肩を叩く。
 こうして翡翠の彫像を手に入れたオレ達は、来た道を戻って地上を目指した。
 ほとんどのトラップはすでに動かないように解除してあったから、帰り道はスムーズだったぜ。
 長い長い階段を上るとやがて、上の方に地上の明かりが見えてきた。
「ようやく戻って来れたな」
 全員がホッと安堵の息を漏らした。
 でもオレ達はこの時まだ気付いていなかったんだ。
 世界が大きく様変わりしていたという事実に・・・

ピラミッド地下迷宮マップ・その3

※・マップ2、10の落とし穴より
戻るスイッチ有り
14・落とし穴
15・分かりやすいスイッチ
16・鉄格子
17・矢のトラップ
18・矢の解除スイッチ
19・ファラオのミイラ
20・トラップ解除スイッチ
?・???


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