ジェイク4

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 食虫植物を倒したオレ達の目の前には、ヤツが大量に吐き出したネバネバな粘液が床一面に残されていた。
「気を付けて歩けよ、踏ん付けたら身動き取れなくなるぞ」
「気を付けろったって、もう足の踏み場も無いんですけど」
 何とかネバネバを踏まないように出口へ向かおうとするベアとエイティ。
 しかし、目の前は一面ネバネバだらけ。出口までの道は無さそうだ。
 ベアがヘビーアックスで足元のネバネバをこそげて除けると、何とか床が見えるようになった。
 それは良かったんだけど、ヘビーアックスには大量のネバネバが張り付いてしまい、ベアがしきりに斧を振っても容易には取れそうもない。
「クソっ、なんて粘着力だ」
 いまいましげにネバネバを見つめるベア。
 でも、その時オレは閃いたんだ。
「分かったー!」
「突然何よ、ジェイク?」
「それだよそれ。そのネバネバを使おう」
「?」
 一同「は?」と首を傾げる。
「だから、あの宝箱だよ。このネバネバを使って捕まえようぜ」
「ああ」
「なるほど」
 オレの提案に今度は全員が頷いてみせた。
 出来るかどうか、取りあえず試してみようって話はまとまったんだ。

 まずはこのネバネバをあの部屋まで運ばないとなんだけど・・・
 話し合った結果、ベアが身に付けていたマントを脱いで、それを広げてネバネバを積めるだけ積んだ。
 積むったってネバネバは素手じゃ掴めない。
 さっきのベアのように得物を使ってこそげて集めたんだ。
 エイティは「せっかくのおニューの武器が」ってブツブツ言ってたけど、この際我慢してもらおう。
 運び手はベアとラッキーが担当してくれた。
 こんな時に男手があると助かる。
 いつかの教会の時みたくオレが運び手にならなくて良かったぜ。
 あの時は、ベアはオレが女だって知らなかったけど今は違うから。配慮してくれたんだと思う。
 移動中はベアとラッキーは戦闘に参加出来ないから、その分オレとエイティが気張る事になったけど、幸いにも巨大なムカデが一匹いただけだったから簡単に片付けられたぜ。
 でっかい蟲にもいい加減で慣れたしな。
 そして、あの動く宝箱の部屋に戻って来た。
「なあ、コレどこに仕掛けたら良いんや?」
「どこでも適当な所で構わん」
「そっか。そんなら・・・アソコにしよか」
 ラッキーが選んだのは、西側の壁の左の窪みだった。
 あーあ、よりによってそこかよって思ったけどな。
 その理由は・・・すぐに分かるだろ。
 男二人、マントを使ってエイホラ言いながら運んだネバネバを窪みの中にぶちまけ、まんべんなく敷き詰めた。
 これで準備完了だ。
「それじゃあラッキー、向こう側よろしくね」
「えっ、ワイ一人かいな? そりゃ寂しいなあ」
「さっさと行く!」
「ヘイヘイ」
 エイティがビシッと反対側の壁を指差すと、ラッキーはとぼとぼと歩いて行った。
「ほな、行きまっせ〜」
 今宝箱があるのは東側の壁の右の窪みだ。
 その前にラッキーが立つと宝箱が移動する。
「どうや〜?」
 それを見て飛び跳ねながらこちらに戻ったラッキーだったけど、宝箱の場所を見てガックリ・・・
 宝箱の移動先は、オレ達がいる西側の壁の右の窪みだったからだ。
「隣やんけ〜」
「あら〜、そうみたいね。それじゃあもう一度あっちに飛ばして、最後にここに到着って訳か。それじゃあラッキー、もう一回お願いね」
「また行くんかいな、トホホ・・・」
「男ならゴチャゴチャ言わない」
 ラッキーは再度反対側の壁へと向かう事になった。
 最初から右側の窪みにネバネバを設置すれば一回で済んだのにな。
 エイティのヤツ、こうなるのが分かってて、ベア達がネバネバを仕掛ける時に黙ってたんだな。
 まっ、オレもなんだけどさ。
 結局、宝箱は全部の窪みをグルッと一回りして、ようやくネバネバのある窪みに落ち着いた。
 今度は目の前に人が立っても移動する事はない。
「うまくいったな」
「ジェイク、冴えてたわね」
 エイティと顔を見合わせてニンマリと笑う。
「さーて宝箱や。開けるでぇ〜」
 ここは本職に任せよう。
 ラッキーは慣れた手つきで宝箱に仕掛けられた罠を調べ始めた。
「うーん、こりゃ毒針やな。簡単簡単」
「失敗しないでよ」
「まーかせなさいって」
 余裕の表情で宝箱に向かうラッキー。罠を解除する手付きにもよどみや迷いのようなものも見られない。
 間もなく
「よし、開いたで」
 無事に罠を外し終わると、ラッキーは宝箱の蓋を静かに開けた。
「ええっと、中身は・・・」
 ゴソゴソと宝箱の中を探って取り出したのは、皮袋が一つとカギだった。
「何やこれは?」
 ラッキーが皮袋の中を取り出してみる。
「アクセサリーやけど・・・安モンやな」
 なんつーか、な。
 それは薄い金属片を加工して作られた、まあ髪留めなんだろうけど、細工も雑だし取り付けられてある石も一目見てガラス玉って分かるような代物だった。
「スカだな」
「こんなん売っても金にならんで。どないする?」
「せっかくだから私が貰っておくわ。良いでしょ」
 誰も反対なんかしないよな。
 エイティはアクセサリーを最初に入っていた皮袋に納めると、そのまま自分の道具入れにしまった。
「あとはカギやけど」
「どこかにこのカギを使って開ける扉があるかも知れん。こっちの方が重要だな」
「ワイもそう睨んどる」
 ベアとラッキーの見解が一致して、カギはラッキーが持ち歩く事になった。
 宝箱も開けたし、これでこの部屋にはもう用は無いよな。

 少しずつ埋まってきたマップを確認しながら、まだ行っていない通路や部屋を探索していく。
 そうして入ったとある小部屋。
「スイッチがある。押してみるで」
 ラッキーが部屋の奥に設置されていたスイッチをポチっと押した。
 すると
「うわー」
 全員悲鳴を上げながら下のフロアへと落っこちるハメになったんだ。
 そのままドスーンと床に激突。
「あたた。みんな大丈夫?」
「ああ、何とか」
「こっちも無事だ」
 エイティ、オレ、ベアが派手にしりもちを付いた中
「皆さん平気でっか?」
 ラッキーは一人涼しい顔をしていた。
 どうやら持ち前の身の軽さでうまく着地出来たらしい。
「ジェイク、リトフェイト掛けてなかったの?」
「すまん。うっかりしてた」
「暑くてボーっとしてたんじゃないの?」
 ハア、と軽い溜息を漏らすエイティ。
 浮遊の呪文リトフェイトは、掛けておけば落とし穴などのトラップを回避出来る。
 その分攻撃魔法を一回損するけどな。
 リトフェイトと同レベルに属する呪文にはラハリトなどがある。
 頻繁に使う呪文だけに一回でもロスはしたくないんだけど・・・仕方ないか。
 オレはリトフェイトを唱えた。
 これで落とし穴の類は回避出来るだろう。
「なあ、ここさっき通ったけど。さっきはここ壁やったよな」
 ラッキーがマップと周囲の様子を見比べている。
 確かに。
 この通路はかなり早い段階で通っていたけど、その時はきっちりと壁で仕切られていたはずだ。
 でも今は、壁だった所がポッカリと開いて、その先にまだ踏み入っていない部屋があったんだ。
「行ってみよう」
 ベアが先頭に立って新しく開いた部屋へ乗り込む。
 その部屋には結局何も無かったんだけど、扉を出て通路を進むとやがて上りと下りの二つの階段があった。
「上と下。どっちから行く?」
「下やな。なんかこうビンビン来るものがあるわ」
 これもお宝を嗅ぎつける盗賊の勘なんだろうか、オレ達はラッキーの意見に従って下への階段を行く事にした。
 そのまま通路を進むと更に下への階段が。
「ねえ、ここって・・・」
「ああ、そろそろ本格的に地下へ降りる事になりそうだな」
 へっ、いよいよ面白くなってきたじゃねえか。

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