ジェイク4
5
砂漠の海にポツンと浮かぶ三角の小山のような建造物、それがピラミッドだ。
ラッキーによると、遥か昔はこの辺りも砂漠なんかじゃなくて、緑豊かな土地だったという。
その地に栄えた古代王朝があった。
アマズール。
女王が統治したというその王朝は、神官や巫女、更にはピラミッドを護る兵士まで、重要な役職は全て女性で占められていたという。
一方男達はと言うと、あまりハッキリとした事は分かっていないらしい。
まさか本当に女だけだったなんて事はないだろう?
それだと子孫を残せなくなるしな。
近くにあった鉱山か何かで重労働にでも就いていたか、それとも他国との戦争で多くの血を流したのか・・・
ともかく、この一族の男に関する記録はほとんど残っていないらしい。
今となっては謎の多い王朝だったって事になる。
ピラミッドは、女王の住む神殿であると同時に、主の死後は墓標としての役割も担っていた。
一人の女王に一つのピラミッド。
当時はかなりの数が造られたようだが、そのほとんどは砂に曝されて風化してしまい、現在までその姿を残している物は稀だという。
目の前のピラミッドは、まあそれほど大きくはないようだ。
が・・・
「そう思うやろ? 実は違うんや」
ラッキーは得意顔でピラミッドの説明を続けている。
「実はな、このピラミッドは、下の方がかなり砂に埋もれてしまっとるんや。外側から見たら大した事ないようやけど、中に入ったら結構広いで」
「そうなんだ。でも砂に埋まっててちゃんと中に入れるの?」
「ピラミッドに入る方法は二つあるで。上から行くのと下から行くの、どっちがええ?」
「上から行く?」
「下から行く?」
オレとエイティで顔を見合わせて首を傾げる。
「上からってえのは、ピラミッドの壁をよじ登って、上の階にある外周部に面した出入り口の事や。下からは、地下通路やな」
もう一度ピラミッドを見てみると、なるほど。
砂から覗いている一番下のフロアには、どうやら外部からは入れないようだが、壁をよじ登って一つ上のフロアに行けば、出入り口があるようだ。
「お勧めはどっちだ?」
「うーん、ワイ一人やったら上からやけど、皆はんが一緒やから下やろな」
確かにそうだろう。
身が軽いラッキーだけならヒョイヒョイと壁を登って行けるだろう。
しかし、フルプレートで重装備をしているドワーフに、いかにも動きにくそうなローブを着た魔法使い。
このメンツを見たら壁をよじ登れとはとても言えないだろうな。
「分かった。地下通路から行こう」
「了解や。そしたら付いて来てや」
ラッキーはオレ達を、ピラミッドの南側50メートル程の所にある地下への入り口に案内してくれた。
辛うじて砂に埋もれる事をまぬがれたらしいその入り口は、人が一人やっと通れるくらいの幅しか無い。
「ほな、行きまっせ」
ラッキーが地下通路へと進んで行った。
入り口は狭かったけど中はそれなりの広さが確保されてあった。
そうか、あらかじめ存在していたこの地下通路に、後で誰かが入り口を掘って繋げたんだ。
誰がそんな事をしたのかって?
そんなの決まってる。この遺跡に眠っているであろう宝を盗掘しに来た連中さ。
エイティの唱えたロミルワの効果で視界は問題無い。
灼熱の地表に比べたらひんやりと涼しくて、砂漠を旅してきた身体にはむしろ快適と言って良い環境だ。
通路を進むとやがて扉が一つ。
「扉を開けたらモンスターってのがお約束よね」
「エイティはん、脅かさんといてぇな」
「脅しなんかじゃない。オマエさんは下がってろ」
ベアがラッキーをズイと押しのけ扉の前に立つ。
「やはり何かいるな。二人とも準備は良いな?」
ベアはエイティとオレに視線を巡らす。
「ええ。いつでも良いわ」
ハルバードを構えるエイティ。
オレはベアに無言で頷くと、呪文を唱えるべく精神を集中させていく。
あらかじめ集中が出来ていれば、どんな呪文だって一瞬で完成させる自信はある。
ベアが扉を開けると一気にその向うへなだれ込む。
ちょっとした広さのその部屋にいたのは、見るもおぞましい六体のゾンビ達だった。
女王の墓所を護る兵士だったのか、それとも坑道を掘り進む鉱夫だったのか。
腐りきった死体からは生前の様子をうかがい知るのは難しい。
ただハッキリしている事は一つ。
ゾンビどもがオレ達の目の前に立ち塞がるなら力ずくで排除するまでだ。
まずはオレの放った呪文が炸裂する。
火炎の呪文、マハリトだ。
この手の不死の怪物は大概炎に弱いと相場は決まっている。
炎に包まれ腐肉を焼かれると、一体二体とその場に崩れ落ちていく。
それでも炎に耐えてこちらに向かって来るゾンビに、ベアの振るうヘビーアックスとエイティが繰り出すハルバードが唸りを上げる。
あっという間だった。
ゾンビどもは全て動かぬ只の死体になったのさ。
「あんたら、ホンマに強かったんやなあ」
今さらのように感心しているラッキー。
「ワシらを見くびってもらったら困るぞ」
「そうそう。まだこんなものじゃないからね」
上々の戦いっぷりに、ベアとエイティも満足の様子だ。
もちろんオレもだけどな。
ふっと息を緩め、精神の集中を解く。戦いに勝利した後の心地良い瞬間だ。
更に通路を進むと上り階段があった。
それを上りきると、どうやら本格的にピラミッドの内部に入ったらしい。
壁は粘土を固めて作ったブロックを積み上げて築かれてあった。
何か壁画のようなものが描かれているように見えるけど・・・
長い年月がそれらの壁画のほとんどを風化させてしまったらしい。
ラッキーが、ピラミッドはかなりの部分が砂に埋もれたと言っていたからな、本来ならここは何階なのか・・・
便宜上砂から出ているこのフロアを地上一階と呼ぶ事にしよう。
ラッキーが、用意してあったピラミッド内部のマップを広げてみせた。
「これはな、以前ワイがここを探索した時のマップや」
「へえ。どうりで詳しいと思ったら、前にも来た事があったのね」
「そうや。でもな、そん時はこのピラミッドの全てを調べられへんかった」
なるほど、マップはほとんどの部分が空白のままになっていた。
きちんと記録されているのは、今オレ達がいるフロアと、一つ上のフロアのごく一部にすぎなかった。
「何も情報が無いよりマシだ。さあ行こう」
ベアが促し、本格的なピラミッド探索が始まった。
ピラミッドの内部は通路や小部屋、階段などで細かく仕切られてあって、スムーズに探索を進めるのはなかなか難しい。
頻繁に上下に移動させられるので、その度に位置の確認をしながら慎重に進んで行った。
二階には、一階部分には無かった外周通路があった。
ピラミッドの中から外周通路へと出てみると、オレ達が旅してきた広大な砂の海が眼下に果てしなく広がっていた。
その景色にみんなでしばし見入る。
「砂漠ってスゴイのね」
「勇壮な景色だよな」
実際にラクダに乗って旅してきたからだろう、何とも言えないものがあるよな。
「感傷に浸っている暇は無いぞ」
「そやそや。早いとこお宝を探さんとな」
ベアとラッキーの声で我に返る。
「まったく、これだから男って。もう少しロマンてものを分かってくれても良いじゃない、ねえ。ジェイクもそう思うでしょ?」
エイティの言葉に一瞬ドギマギする。
深い意味は無かったのかも知れない。
無意識だったのかも知れない。
しかしオレには、エイティがオレと女同士の会話を求めてきたように思えたんだ。
「えっ? ああ、そうだな」
何と答えて良いか分からず、適当な言葉で相いづちを打つ。
「なあ、前から思っとったんやけど、二人ホンマに仲良いなあ。ひょっとして、ひょっとするん?」
「へっ・・・?」
今度はラッキーの言葉に呆然となっちまった。
オレとエイティが、何だって?
しばらく考えて、やっとその意味に気付いた。
「ち、違う。そんな訳ないだろう。だって・・・」
「そうよ。そんな事ないんだから」
必死になって否定するオレとエイティ。
「ふうん、ならええけど」
ラッキーはまだいぶかしんでいる様子だ。
「オイ、まだエイティさんに良からぬ事をしようとしているんじゃないだろうな?」
「何や、ウサ公?」
「エイティさんに手を出したらボクが許さないと言っているんだ」
「ウサ公の分際でずいぶん偉そうやなあ」
「ボクはウサ公じゃなーい!」
相変わらずのラッキーとボビーだ。
「もう、二人とも止めなさい! ほらボビーもこっちにおいで。さあ探索の続きよ」
走り寄って来たボビーを抱き上げると、エイティは通路を歩き出した。
「あっ、待ってえなエイティは〜ん」
間抜けな声と共にエイティを追うラッキー。
ったく、にぎやかなヤツだぜ。
それにしても・・・
オレはさっき何と言おうとしていたんだ?
『だってオレは女だから・・・』
喉まで出掛かっていたその言葉が、オレの頭の中で何度も繰り返されていた。