ジェイク3

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 翌日。
 オレ達はフレアとソロモンと連れ立って、湖の畔に建つ神殿へとやって来た。
 色々あったけど、ようやく本来の目的地に着いたって訳だ。
 神殿は、縦30センチ×横50センチ、奥行きも30センチくらいかな、正確に切り出された直方体の石のブロックを互い違いに組見上げられた構造になっている。
 石の表面が風雨にさらされ苔生し、蔦が絡み、石と石の隙間から草が生えている。
 この神殿がここに建てられてからの年月の長さを容易に想像させてくれる。
 外から見た感じでは3階、いや4階建てかな、さすがにここからでは地下の方までは分からないけどな。
「エルフは石を嫌うんじゃなかったのか? 何だこの神殿は。まるで我々ドワーフが好みそうなものじゃないか」
 ベアの言葉だったがそれにはオレも同感だ。エルフの神殿というからには、木造のものを想像していたのだが。
「実は、この神殿の起源は私達にもよく分からないのです。そもそもエルフの祖先が築いたものなのか、他の誰かが築いたのを受け継いだのか・・・
 この石材にしても、今のエルフにはこれだけの石を切り出してこのように組み上げる技術は無いのです。
 更に不思議な事は、これらの石を組むのに接着剤のようなものは一切使われていないのです。ただ積み上げてあるだけなんです。それでも崩れたりせずに長い年月にわたってここに建ち続けているのですよ」
 今日のフレアは昨日と違って白いドレスを纏っている。
 肩から下の無いノースリーブのドレスは飾り気もないシンプルなデザインで、これが神殿に使える巫女の正装なのだそうだ。
 平服姿でさえ神秘的な雰囲気をかもし出していたのに、今日のフレアはその神秘性に更に磨きがかかっているような気がした。
 そんなフレアの解説を聞きながら改めて神殿を見上げる。
 一体誰が何の為に、こんなものを築いたのだろうか・・・
 古代のロマンというか悠久の時の流れというか、ここにいると何とも言えない不思議な感覚に包まれてしまう。
「それでは参りましょう。兄さん」
「ああ」
 フレアに促され、ソロモンが石の枠にはめ込まれた扉を押し開けた。
 エルフの兄妹の後に付いて、オレ達も神殿へと足を踏み入れる。
 目の前にはもう一枚扉があった。
 それは薄く切り出された2枚の石による合わせ扉で、表面には何やらレリーフのようなものが掘り込まれてある。
 左右には通路が伸びているが、ソロモンもフレアもそちらには興味は無いらしい。
 扉に目を戻そう。
 扉に彫られたレリーフは・・・
「このレリーフは太陽を表していると云われています。だからこの神殿も太陽の神殿と呼ばれているのです」
 扉の中心部に10センチ四方ぐらいの四角い穴が開いている。
 ソロモンが自分の道具袋に手をやり、ちょうどその四角い穴にすっぽりと治まりそうな四角い石板を取り出した。
「太陽の石板です。これをあの穴に入れると・・・」
 フレアの言葉と共にソロモンが石板を穴に入れた。
 ズズズ・・・
 重い音と共に石の扉が左右に開いていく。
「なんと」
「どうなってるのこれ?」
「・・・」
 いかにも重そうな石の扉がひとりでに動く様に、オレ達は驚いてしまった。
 そんなオレ達を尻目に
「行くぞ」
 ソロモンが扉をくぐった。

 目の前にはいきなり階段があった。
 無言で階段を上るソロモンにオレ達も続く。
 迷宮では、パーティの先頭を歩くのは前衛職、つまりは戦士系の職業の者と相場は決まっている。
 何となくいつもの習慣でベア、エイティ、オレの順で並んでいた。
 ちなみにボビーはエイティの足元をチョロチョロしている。
 そして最後尾がフレアだった。
 つまり今回のパーティは、ソロモン、ベア、エイティが前衛。ボビー、オレ、そしてフレアが後衛という隊列と言える。
「軽く外周を周ってみましょう。この神殿の大きさを実感してもらえると思います。その後祭壇へ案内しますね。兄さん、お願いします」
「分かった」
 最後尾のフレアと先頭のソロモンの間で打ち合わせが決まったようだ。
 オレ達は案内された所に付いて行くしかないからな、ここはもうお任せだ。
 ニ階へ上がったらまたもすぐ目の前に階段があったけど、ソロモンはそれには構わず右へ折れた。
 石造りの神殿の通路は幅5メートルくらい、高さは3メートルくらいか。
 コツコツという固い足音が響き、どこか冷たい感じがする。
 しばらく進んで左へ、そして真っ直ぐ進んで突き当りを左へ、更に左、左と通路を辿って、結局元の場所に戻って来た。
 なるほど、だいたい一辺が50〜60メートルくらいの正方形のようだ。
 所々に進行方向の右手、つまりは正方形の外側に扉が配されていた。
 一階の外周通路に当たる部分の上に小部屋があるのだろう。
「この扉は何かしら?」
 本人は何気なくだったんだろうけど、エイティがその扉の一つに手を掛けていた・・・
「オイ、むやみに扉を開けるな!」
 気付いたソロモンが叫んだ時にはもう遅かった。
「えっ? きゃあ!」
 エイティが開けた扉の向うから、突然モンスターが飛び出して来たのだ。

 それは双頭の獣だった。
 よく見るオオカミ、いやコヨーテのようだが、それが双頭、つまりは頭が二つとなると話は別だ。
 魔界の生物なのか魔法実験による産物なのか、とにかくこんなのは初めて見た。
 それが四匹。
「ウティウです。落ち着いて対処すれば大丈夫ですから」
 フレアの言葉を待つ事なく、ソロモンはすでに矢を放ち獣を一匹仕留めていた。
 ベアとエイティも素早く戦闘態勢に入り、それぞれの武器を振るっている。
 オレはいつでも呪文を放てるように精神を集中させていく。
 双頭の獣の動きは素早く、左右に跳ね回りながらこちらに飛び掛るタイミングをうかがっていた。
 その中の一匹がこちらへと向かって来た。
 ソロモンが再び矢を放つもわずかに急所を外したのか仕留めるまでには至らない。
 なおも突進してくる双頭の獣の脳天の一つをベアのバトルアックスが叩き割った。
 しかしウティウは残った頭をもたげながら最後の力で飛び跳ねた。
 ウティウの跳躍を冷静に捌いたエイティのスピアがその心臓を貫く。
 三人分の攻撃を受け、獣はついに絶命した。
 それに怒ったのか、残りニ匹が一斉に襲い掛かってきた。
「後はオレに任せろ」
 一瞬の呪文の詠唱の後に放たれたマハリトの炎がニ匹のウティウを包み込む。
 獣たちは転げまわって炎から逃れようともがいたけれど、魔法による炎はそんな事では消えはしない。
 魔法は魔法で相殺するか結界を張って防ぐか・・・とにかく暴れまわったところで無駄って事さ。
 炎が獣の体毛を焼き、肉を焦がす。更には顔の周辺の空気を奪い呼吸を困難にしてしまう。
 数秒後に炎が収まった時には、既にニ匹の獣は息絶えていた。
 戦闘事態はあっけなく片付いた、けれども・・・
「神殿にあんなモンスターがいるなんて聞いてなかったぜ」
 オレはフレアを振り返って言った。
「ゴメンなさい。昔はそんな事も無かったんですけど、ここにも何処からともなく動物や魔物、それに盗賊などが入り込んでいたりします。
 私と兄さんが時々巡回しては魔物を退治しているんですけど・・・」
 フレアは少しうつむきがちに答えてくれた。
「まあまあジェイク、今のは迂闊に扉を開けた私が悪かったんだし。分かったわフレア、その魔物退治もお手伝いしましょう。昨夜泊めてもらったお礼も兼ねて、ね」
 エイティがふわりと微笑む。
「しゃあない。乗り掛かった船だし、オレも手伝うよ」
 ただの神殿見物じゃ退屈過ぎる。そろそろ一暴れしたいところだったし、ちょうどいいかな。
「今のウティウなどはまだザコもザコだ。実力もない者が下手に首を突っ込んでケガしても面倒見ないからな」
「フン、エルフに遅れをとる訳には行かんからな。貴様こそこっちの足を引っ張るなよ」
 ソロモンとベアは相変わらずで、お互いに悪態を付き合っている。
 いい加減慣れたからもう誰も止めないけどな。
「次は祭壇へ案内しましょう。兄さん、お願い」
「ああ。付いて来い」
 どうもこの兄妹は、妹の支持で動く事が多いようだ。
 兄貴が妹に甘いのか、それとも妹の方がしっかりしているのか。
 それは永遠の謎かも知れないよな。

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