小説ウィザードリィ外伝4・「魔将の塔」

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七幕・地下迷宮

 不動の塔三階の探索も大詰めを迎えていた。
 この階全体に数多くあった小部屋の探索を一通り終えたもののめぼしい発見も無く、後は最後にと残しておいた中央部を調べるだけである。
 まりが作成しているこの階の見取り図もその部分だけが空白になっている。
 それによると、他と違ってここだけは部屋の造りが大きくなっていると思われる。
 何か特別なものでもあるのだろうか・・・
 すぐそこには四階への上り階段があるのだが、それは後回しにする事になっていた。
 一行の先頭を歩く竜乃介が慎重にその扉を開けた。

「・・・!」
 部屋に入った瞬間、沖田総司は明らかに異常な気を感じ取った。
 殺気。
 それはただの思い過ごしと言って良いほどかすかなものであったが、侍として身につけたカンが「ここは危険だ」と、そう告げていた。
 何とも言えぬ危機感が付き纏う。
「なみどの、何か異常は?」
 沖田は小声で聞いた。
「うん・・・ちょっと妙だね」
 なみも敏感にこの部屋に満ちている異質な空気を感じ取っていた。
 一行は慎重に部屋の奥へと進んだ。
 そこは小部屋が九つ収まる大広間になっていた。
 そしておかしな事に、部屋の天井から何本もの紐がぶら下がっていたのだ。
「試しに引いてみる気にもなりませんね・・・」
 綱が嘆息する。
 あからさまに怪し過ぎる・・・
 この紐を引けば何らかの罠が作動するのは誰の目にも明らかだった。
 しかしその紐を引かなければ、この部屋に隠された秘密を発見する事が出来ないであろう事も分かっていた。
 さてどうしたものか・・・
 探索隊の面々は何か手掛かりが無いか、慎重に部屋の中を調べていった。
「何かお探しかな?」
 突然声を掛けられ驚く一行。
 振り向くとそこには身体は小柄だが鋭い顔つきの男が立っていた。
 いつの間にそこにいたのか・・・
 頭を丸め、着ている物はいたって質素。
 しかし只者では無い雰囲気を臭わせていた。
「何者!」
 沖田は鋭く抜刀するとその男と対峙した。
 沖田は知らない。
 あの日・・・
 この男こそ、沖田がこの不動の塔に迷い込んだ時にこの塔の一室で女と共に鏡による透視の術で沖田の様子を覗いていた、その者である事を・・・
「ほう、なかなか出来そうだな」
 小柄な男がニッと笑った。
「ここまで辿り着けたという事はそこそこの修羅場を潜り抜けて来たのだろう・・・
 だが、まだまだ甘いのぅ」
 男は天井からぶら下がっている紐を引いた。
 すると、沖田達がいた床が突然消えた!
「わー!」
「うぉっ!」
「きゃあー!」
 その部屋に悲鳴を残して、一行は下の階へと落とされたのだった。
「さて、無事に戻って来れるか・・・?」
 男が紐から手を離す。
 すると消えたはずの床は何事も無かったかのように元の状態に戻っていた。

 一行が落とされたのは不動の塔の二階部分だった。
 まりが急いで現在地を確認して手元の見取り図と照合する。
「こんなところに空間があったんですね」
 それはごくごく細い通路だった。
 周囲がすっかり埋まっていたので思わず見落としていたのだ。
「出口はどこよぉ?」
 なみが周囲の壁を調べ始める。
 外側から入れなくとも内側に一方通行の隠し扉があるかも知れない。
「なみ、不用意に動くな」
「分かってます、綱様」
 なみは慎重に、一つ一つ壁を調べていく。
「ここは違う・・・こっちも、無いなあ」
 結局、隠し扉は見つからないまま通路の突き当たりに辿り着いた。
 なみがそこへ一歩踏み込む、すると・・・
「きゃあああー!」
 先程と同じように突然なみの足元の床が消え、なみの身体は下の階へと落とされてしまった。
「止むを得ません、続きます」
 綱の号令で探索隊の面々は次々となみが落ちた穴に飛び込んで行った。

 するとそこも同じような通路になっていた。
「まさか・・・」
 なみが正に猫の如く足音もさせずに通路の先を目指す。
 突き当たりの手前で立ち止まり、綱へと振り返った。
「行きますよ」
「気を付けて」
 なみはそおっと足を踏み出した。
「やっぱりー!」
 思った通り、そこの床も消えなみの身体はさらに下の階へと落とされてしまった。
「何なんだ、ここは・・・」
 残された者もなみの後に続く。
 一階から更に下へ続く落とし穴。
 それは地下迷宮への入り口に他ならなかった。

「皆さん大丈夫ですか?」
「ええ、何とか生きてます・・・」
「酷い目に遭ったな」
 お互いの無事を確認し合う。誰も怪我などはしていないようである。
「さてと、ここは・・・?」
 改めて周囲の様子を確認する。
 そこは明らかに地上部分とは異質な空間が広がっていた。
 何と言っても暗い。
「灯りの呪文が必要ですね」
 綱が目の前に手をかざし呪文を唱える。
 フワッと周囲が明るくなる。無いよりまし程度ではあるが、何とか視界は確保出来た。
 地上の塔部分が木造なのに対して、ここの壁は石造りになっていた。
 地下を掘り進み、壁に石を積んで補強したものと思われる。かなり高度な建築技術である。
「まずは出口の確認です」
 この非常時でも、あくまで冷静に綱は指示を出して行く。
 この冷静さで今まで隊をまとめ、率いてきたのだ。
 壁伝いにゆっくりと移動する。
 ほどなく上り階段が見つかり一同ほっと胸を撫で下ろした。
 階段を上り位置を確認する。
「今まで入れなかった箇所ですね」
 まりが見取り図の一角を指差した。
 外側からは入れない、閉鎖空間だった場所である。
 脱出用の扉もちゃんとある。
 しかし、今までここが閉鎖空間だった事から、その扉は一方通行で、一度扉を通過してしまうと反対側から開ける事は不可能であろうと予測される。
「また上から落ちるのも面倒ですしねえ・・・」
「ですね」
 綱となみは顔を見合わせて溜息をついている。
「すいません、わたしが転移の呪文を習得していれば・・・」
 まりの顔がにわかに曇る。
 塔や迷宮の内部を自由に移動出来る転移の呪文は、魔法使いが習得し得る最高位の呪文階級に属している。
 まりはその階級の呪文を辛うじて一つだけ習得しているものの、それは転移の呪文ではない。
「まりのせいではありませんよ。さて、もう少し足を伸ばしましょう」
 綱はまりにねぎらいの言葉を掛けてから、再び地下へ降りるように指示を出した。
 竜乃介、なみと階段を降りて行く。
「まり殿、行きましょう」
 沖田はまりの背中を軽く叩いた。
「はい」
(うん、沖田さんに励ましてもらえばわたしはまた元気になれる)
 まりは自分にそう言い聞かせて階段を降りて行った。

 綱が唱えた灯りの呪文によってわずかに確保された視界、一行はそれだけを頼りに地下迷宮の中を探索していく。
 先頭を歩く竜乃介は左手を、その後ろを歩くなみは右手を壁に付けて歩くようにと綱から指示されていた。
 悪い視界の中でも枝道や扉などを見落とさない為の工夫である。
 その後ろを沖田、静、まり、そして綱と続く。
「こっち、壁が途切れてます」
「こっちの方は壁のままだが」
「分かりました」
 なみと竜乃介から聞いた情報を元にまりが見取り図を埋めていく。
 手元が暗いのでかなり大変な作業である。
 それでもしばらく歩いていくうちに、この階の大まかな地形は把握出来るようになっていた。
「そろそろ扉に手を付けますか」
 綱が切り出した。
 扉を開ければ敵が潜んでいる事が多い。
 竜乃介、なみ、沖田の三人はそれぞれの得物を鞘から抜いた。
 静は槍を両手に持ち替える。
 まりもいつでも攻撃の呪文を唱えられるように精神を集中させていった。
「竜乃介、まずはそこの扉を」
「うむ・・・」
 綱は手近な扉を差して言った。
 扉を開けるのは常に先頭を歩く竜乃介の役目である。
 なみが扉に耳を当ててみる。
「・・・何かいそうですね」
「分かった」
 なみと竜乃介は顔を見合わせて小さく頷いた。
 竜乃介がゆっくりと重い扉を押し開けた・・・

 部屋の中には数人の鎧武者の姿があった。
 しかしその様子が明らかにおかしい。
 鎧のあちらこちらには折れた矢が突き刺さっていた。
 髪をざんばらに振り乱し、手にした刀はどれも錆び付き刃がこぼれ落ちていた。
 それによく見てみると・・・
「あ、足が無い。幽霊だよ!」
 なみが騒いだ。
 鎧武者達はいずれも膝から下の足が消えて無くなっていた。
「死に損ないです」
 綱が端的に説明する。
「この辺りは昔戦場だったという事です。この者らはその戦で命を落とした落ち武者達の怨念でしょう」
「怨念ですって? 刀で斬れるのですか?」
「さてね、それは沖田さんの腕次第じゃないですか?」
「なるほど・・・」
 と納得した沖田、ツツッと落ち武者に走り寄るとまずは袈裟懸けに一人、そして胴を斬り抜いて二人目を仕留める。
「斬れますね」
「ですね」
 沖田と綱の目が合い、お互いにふっと笑った。
「あたしも行くよー」
 勢い良く走り出すなみ。しかし・・・
 ふわっと突然目の前に湧いて出た生首と目が合ってしまった。
「きゃあーーー!」
 なみは悲鳴を上げて逃げ回る。
 生首は髪を振り乱しながら尚もしつこくなみを追いかけ、そして・・・
 なみの首筋にその鋭い牙を突き立てたのだった。
「きゃ!、えっ?、あっ・・・」
 なみの身体が硬直する。
 生首の牙から神経性の麻痺毒を受けたのだ。
「なみちゃん!」
 まりは急ぎ雷撃の呪文を唱えた。
 この呪文は効果範囲が狭く敵単体にしか効果が無いものの、同階級に属する炎の呪文よりも高い殺傷能力を持つ。
 また、なみと生首との距離が近いので効果範囲が広い呪文は使えないのである。
 その意味からも、まりの呪文の選択は適切だったと言える。
 まりの手から放たれた雷撃の呪文はその狙いを外す事無く生首に直撃した。
 なみの身体から離れた生首はしばらく空中で旋回した後、真っ直ぐにまり目掛けて飛んで来た。
「!」
 呪文を唱えた直後の為、まりは敵の攻撃に素早く反応して避ける事が出来ないでいた。
 そんなまりの前に静が槍を構えて立ち塞がる。
「はいっ、はい、はいー!」
 静の槍が素早く三度、生首の額を捉え、突き抜けていた。
「静さん、今の・・・?」
「昨日沖田殿から伝授してもらった突き技だ」
 静は表情一つ変える事も無い。何事も無かったかのように平然としていた。
 残りの落ち武者達は沖田と竜乃介が難なく始末していた。
 麻痺してしまったなみは綱が治療の呪文を施しこちらも既に回復していた。
「あー、酷い目にあったよ・・・」
 なみは愚痴を言いながらも宝箱の罠の解除に取り掛かっていた。
「まり殿、大丈夫でしたか?」
「はい、静さんが助けてくれました」
「それは良かった」 
 沖田はほっと胸を撫で下ろす。
「静さん、昨日の事は気にしてないみたいですね」
「ええ、見事な三段突きでした。言った通りでしょお、あの人は強い人だって」
「そうですね」
 沖田とまりの話が聞こえているのかいないのか、静は相も変わらずただ一人黙ってその場に控えていた。

 沙羅は朝から不機嫌だった。
 前日、不動組の静の槍を蹴り飛ばした事で姉の十六夜からこってりとしぼられたからである。
 沙羅の悪戯はいつもの事だ。
 いつもなら「しょうがないわねえ」で済むはずだったのだが・・・
(お姉ちゃん、何であんなに・・・?)
 沙羅にはどうにも腑に落ちなかった。
 一方、十六夜も昨日の事を気にかけていた。
(ちょっときつく言い過ぎたかな・・・)
 いつものように笑って少したしなめる程度でも良かったかも知れなかったのに。
 それが昨日は延々と沙羅に対して説教を続けてしまったのだ。
 何故だろう?
 確かに今この時期に他の探索隊と揉め事を起こすのは誉められた事ではない。
 しかし、何もあそこまで言う事もなかった・・・
 結局、十六夜にもはっきりとした理由は分からなかった。
 今日の沙羅と十六夜は朝から一言も口を利いていなかった。
 これには大牙も「やれやれ」と顔をしかめるばかりだった。

 死霊の塔の探索も既に地下部分に入っていた。
 地上の部分でさえ強い死臭が漂っていたのだが、ここに来てその死臭、死の気配はよりいっそう強いものとなっていた。
 いつもなら沙羅と十六夜の軽口でにぎやかなはずの探索行も、今日ばかりはこの塔の雰囲気も手伝って重苦しいものになっていた。
「扉、開けるぞ」
 大牙がボソリと言った。
 それに対しては誰も何も応えない。
 皆はただ黙って、この先で待ち構えているであろう敵との闘いに備えていた。
 扉に手を掛け、重々しく開ける大牙。
 沙羅が素早く中に入り、周囲の様子を確認する。
「・・・?」
 沙羅のみならず、死霊の塔探索隊の全員がすぐさまこの部屋の異変に気付いた。
「寒いね・・・」
「いくら地下だからって、ね・・・」
 沙羅の言葉に思わず相槌を打った十六夜だったが、喧嘩していた事を思い出してしまいそれ以降言葉が続かなかった。
 沙羅にしてもそれは同じである。
「二人ともいいかげんにしろ。それより何かいるぞ」
 大牙が部屋の奥を指差した。
 沙羅がその先に視線を巡らすと白いものがゆっくりと動き出していた。

 それは全身毛むくじゃらの巨大な生き物だった。
 背丈は沙羅の倍はあるだろう。吐き出す息が白く濁っていた。
 沙羅は熊かと思ったがどうやら違うようである。
 雪男。
 遥かな高い雪山に生息していると云われる謎の珍獣が目の前にいたのだった。
 その獣の影に寄り添うようにただずんでいたのは白い着物を着た女性。
 白いというよりは青白い肌に白い髪。
 氷のように冷たい笑みがその顔には張り付いていた。
 こちらは怪談などで伝えられている雪女である。
「こういうのを美女と野獣っていうんだな」
「お父ちゃん馬鹿な事言ってないで。やるよ!」
「おう。沙羅よ、お前は女の方をやれ。俺と飛鳥であのでかいのを仕留める」
 大牙と沙羅はそれぞれ左右に飛んだ。
 飛鳥が後方から矢を放つ。
 十六夜と花梨は戦況を見極め、適切な援護をする事になっている。
 飛鳥の放った矢のうちの一本が雪男の右目を射抜いていた。
 他の矢も足や肩を射抜き、雪男の動きを止めるのに十分な効果を発揮している。
「さすがだな」
 大牙は飛鳥の弓の腕前に満足しつつ身体は左の方へ、つまりは雪男の右側へと回った。
 飛鳥の矢が刺さっている右目は視界が利かなくなっているからである。
 雪男の死角からその脇腹へ、大牙が槍を突き刺した。
 悲鳴を上げつつ暴れる雪男に二度、三度と槍を繰り出す。
 ついにはその巨体が動かなくなった。
「よし、こっちは片付いた。沙羅、そっちは?」
 大牙が沙羅の姿を探して視線を巡らした。

 沙羅が相手にしている雪女はふわふわと浮いてはまた地面に降り、現れては消え、また現れて・・・と予測しがたい不規則な動きを繰り返していた。
 沙羅が躍起になって追いかけても捕まえる事が出来ない。
 十六夜も呪文で援護しようとするものの、相手がじっとしていないのでは効果範囲が確定出来ない。
「あー、もう!」
 じれて思わず叫び声を上げてしまう沙羅。
「沙羅、追いかけるんじゃない。相手が向かって来るのを待つんだ!」
「分かった、お父ちゃん」
 沙羅は動きを止めると壁を背負い、雪女が現れるのを息を潜めてじっと待った。
 やがて・・・
「来た」
 沙羅が追いかけて来ないと知った雪女、今度は沙羅に向かって襲い掛かって来た。
 沙羅は忍者刀を手に相手が近づくのを待つ。
「今だ!」
 雪女が自分の間合いに入ったのを確認してから、沙羅は壁を蹴った。
 捉えた、沙羅がそう思ったその時・・・
 雪女は大きく息を吸い込み、そして一気に吐き出した。
「う・・・」
 雪女か吐いた息は氷の冷たさで沙羅の身体を包み込んだ。
 沙羅の動きが止まる。そこへ・・・
 ぬぅっと伸びた雪女の白くて冷たい手が沙羅の喉元を捉まえていた。
「!」
 雪女に喉を絞められ声が出ない。
 沙羅は必死に雪女の手を振りほどこうと暴れるも、雪女は信じられない程の腕力で沙羅の身体を押さえつけていた。
 忍者である沙羅はかなりの時間、呼吸を止めている事が出来る。
 普段ならこの程度の事なら難なく対処出来るはずなのだが・・・
 雪女の身体の冷たさが沙羅の体温を急激に奪っていった。
(苦しい。お姉ちゃん・・・)
 沙羅の身体がガックリとうなだれる。
「沙羅ー!」
 異常を感じた十六夜が炎の呪文を雪女に放った。
 冷気に対する熱。
 背中から弱点である炎の呪文を浴びた雪女の手が沙羅の首から離れた。
「この!」
 沙羅は未だ朦朧とする頭で雪女に当身を食らわせて身体を引き離してから、体勢を整えて雪女に飛び掛った。
 炎の呪文に苦しむ雪女の首元に逆手に持った沙羅の忍者刀が食い込む。
 そのまま忍者刀を振りぬくと、雪女の首は胴から離れて床に転げ落ちていた。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫?」
 肩で大きく息をする沙羅に十六夜が走り寄った。
「うん、お姉ちゃんありがと。助かったよ」
 沙羅の言葉はまだ力無い。
「でもお姉ちゃん乱暴だよ。あたしまで呪文に巻き込まれたらどうするの?」
「助けてやったんだから文句言わない!」
 十六夜が沙羅のおでこをピンと弾いた。
「へへ。そうだね。ところでお姉ちゃん・・・」
「なあに?」
「今日不動組の人達の所に謝りに行こうと思うんだけど、昨日の事で・・・一緒に行ってくれないかな?」
 沙羅は照れくさそうに俯いている。
「うん。そんなの当たり前じやない。私はあなたのお姉ちゃんなんだから」
「本当? ありがとうお姉ちゃん」
 ぎゅうっと十六夜に抱きつく沙羅。
「ちょっと沙羅、止めてよ」
「止めない。お姉ちゃん大好き!」
 朝から喧嘩していたはずの姉妹だったが、いつしかそんな事もどこかへ消えてしまったようであった。

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