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「各部確認・報告、急げ!」
「係留索、切り離しまで三〇!」
第二二.二任務群TG22.2旗艦【ネェル・アーガマ】、抜錨しました」
第二二.三任務群TG22.3旗艦【バーミンガム】より入電!
 『会合点ニテ、待ツ』
 以上!」

 司令部要員が、慌ただしく出撃準備を指揮・報告・監督する中、第二二任務艦隊司令
ジャック・エドワード少将は情報の確認に余念がなかった。なぜなら、信頼するに足る
情報が入手できるのも、艦隊がここを出港するまでであるからだ。

 ここはルナツー。ありとあらゆる情報が運び込まれ、優秀な人材を惜しみなく投入し
た膨大なマンパワーで的確に処理され、信頼性云う名のラベルを付加される。

 だが、これから向かう戦場は違う。彼は地球情報網があろうとも、戦場の霧全てを見
通す事など不可能な事を十分認識していた。

「DC残党が動き始めたか………」

 その呟きには苦いモノが混じっていた。早くも危惧していたことが始まっているらし
い。単なるテロ活動ばかりではない。中近東付近からインド洋周辺一帯でDC残党が活
発な動きを見せ、幾つかの拠点は占拠・維持されている。明らかに正規の作戦行動であ
る。

 別の戦略情報では、大気圏外のDC各セクションも地上の動きに同調して動きを見せ
ていることが示されていた。いや、むしろ地上が宇宙に同調していると見るべきだろう。
彼らは本質的に宇宙民なのだから。

 他方、我々地球連邦軍は………現状有効な対策を行っているとは言い難かった。地上
DC残党に対しては作戦の実施を許し、軌道以上のそれに対しては相手の出方待ち。要
するに無策である。

 だが、それも仕方がないと思える。現在の状況は極めて不安定だ。地球と月の軌道上
では異星人との激しい戦いが繰り広げられている。それも相手がこちらの介在不能な自
在の移動方法を持っているがため、イニシアティヴを握られた形でだ。その為、各コロ
ニー駐留艦隊も動けない。いつコロニーへの侵攻があるか判ったものではないからであ
る。結局、地球連邦軍に出来たのは、担当戦域内での防衛行動の強化でしかない。彼ら
の主任務は、あくまで担当コロニー(または戦域の)防衛、安全確保だから。

 何とも全てを投げ捨てて叫びたくなるような楽しい気分を味わせてくれる現状認識に
ひとまず区切りをつけ、エドワード少将は艦長に声を掛けてみた。これからの作戦行動
のために必要な一番手身近の自戦力再評価と意志疎通を図るためでもある。エドワード
はこのフネの艦長との面識が薄かった。

「艦長、そろそろ出られそうか?」
「あともう少しといったところです。ティータイムにするほどではありませんが」

 艦長のその言葉は、エドワード少将の嗜好を多少揶揄したものだ。彼が紅茶を好んで
いる事はそれなりに有名だった。無論、宇宙時代になっても艦艇乗員の間では苦み奔っ
た黒い飲料が主戦装備の座を頑強に確保し続けている。

「それは残念だ………ならば、少し雑談に付き合って貰おう」
「了解しました。で、何について話せば宜しいですかな?」

 出撃前の忙しさにも関わらず、艦長は話に乗ってきた。それなりに切れる人物のよう
である。彼も上官との距離をハッキリさせる必要性を感じていたらしい。エドワード少
将は取り敢えず、問題のない辺りから話をすることにした。

「では艦長、このフネはついて聞かせて貰えるかな。私はこのクラスのフネに大した造
 詣を持っていないのだよ。残念なことだが」

 無論、嘘である。今回の出撃に当たって艦隊の編成作業は彼一人で殆ど行っていた。
勿論各艦の性能・コンディションを考慮してである。彼はこの手の作業に参謀の必要性
を感じていなかった。

 それを知ってか知らずか、艦長はいっそ清々しさすら感じさせる口調で応じる。

「ソレは本当に残念ですな、なんなりとお聞き下さい。出来れば具体的に言って貰える
 と助かります」

「今までのフネに比べて、と言ったところが良いだろうか」

「そうですな………まぁ、基本的には良いフネです」

「ほぅ、基本的には…か。では、その基本以外の何かをこの小官めにご教授願いたい」

「贅沢すぎる…ですか。機動兵器搭載能力は言うに及びませんし、整備支援能力も非常
 に高い。適正な攻撃能力に加えて十分な防御能力。無論、損害制御構造は優秀ですし、
 戦闘艦橋などはソレそのものが分離・脱出可能です。挙げ句の果てには大気圏往還能
 力。昔日のフネを知っているモノには夢のようなフネですよ、この【ラー・レゾルソ】
 に限らず、【ラー】計画艦と言うフネは」

「そうか、安心した」

「そうでしょう。今回の出撃では【ラー】計画艦が一三隻参加します。その内、二隻は
 (これには当艦も含まれますが)戦艦です。加えて、搭載MSは全て六〇ft超級のみ
 (まぁ、これは我々地球軌道艦隊では五〇ft級MSを採用していませんから、当然な
 のですが)
 コレに加えて、その他艦艇が三四隻。全て、第一次(地球圏大戦)の終結以降に建造
 されたフネですから、現状で望みうる最良の戦力でしょう」

 誇らしげな艦長の言葉に、エドワード少将もまた知性に裏付けされた鷹揚な口調で状
況と必要性をかなり要約して返答した。

「敵も努力している。ならば、我々も努力せねばならない」

 艦長もその言葉に満足した様子で答えた。

「道理ですな」

 頃合いを見計らっていたらしい先任将校が報告を入れる。

「艦長、各部出港準備よろし」

「了解した」

 艦長はエドワード少将に向き直り、厳かに告げた。

「提督、幕開けの時間です」

「よろしい。では諸君、参るとしよう」






スーパー鉄人大戦F    
第八話〔陸離:Her heart〕
Gパート


<浅間山麓・早乙女研究所>      

 壁面一杯に設置されたモニター前。男は厳しい目つきで各所に指示を飛ばしていた。
 年の頃は五〇過ぎ。小柄な丸々とした身体を白衣に包み、最後に櫛を通したのは一体
いつの事だろうかと疑いたくなるようなボサボサ頭。無論、髭など整えているはずもな
い。正真正銘紛れのない、いわゆる“オヤジ”だった。いや、“ジジィ”の方が適切か
も知れない。

 その修飾詞に、“身持ちを崩した”だとか、“まっど”だ、とかが入らないのは、ひ
とえにその人物の発する気配が健康的であるのと、おそらくは筆舌に著し難い(周囲の)
努力の結果、どうにか許容範囲内の清潔さを保っているからだ。

 彼――ゲッター線研究に二五年、更に加えることゲッターロボ開発に一五年、合わせ
て半世紀近い人生を研究とその理論の実践に費やした早乙女ゲッター線研究所々長・早
乙女博士とはそういう人物であった。

「お父様、状況はどうですか?」

「良くはない。しかし、絶望するほどでも無い」

 彼を父と呼ぶ二〇代半ば、ボブカットの女性は彼の愛娘ミチルだ。長年所員一同の憧
れを身に受けつつも未だ独身を保っている。が、近々別姓に変わるかも知れないと言う
噂が絶えない。ま、それは取り敢えず今のところどうでも良い話だった。

「で、ミチル。どうだった?」

 ミチルは研究所に唯一残っているマシン【コマンドマシン】で集めてきた強行偵察の
成果を父に指しだした。

「見ての通りだわ、お父様。数えるの莫迦らしくなるぐらいの小型MSの大群がこちら
 に向かってきています」

 早乙女博士はミチルより受け取った空撮写真を見る。

「むぅ………見たことのないタイプだな。MSと云うよりは機械獣に近いデザインに見
 える。君はどう思うかね?」

 博士は振り返り、一歩退いて侍していた年の頃二〇代半ばに見える女性へ問いかける。
意見を求められた彼女は敢えて閉ざしていた口を開き、博士の問いに応じた。

「私も博士と同感です。このサイズで機械獣式の設計では、【OZ】の【リーオー】に
 すら劣ると思うのですが…」

 ちなみに【リーオー】に対する、早乙女研究所保安部員である彼女とその同業者から
の評価は、

 ――『高等練習機によいかも知れない』
   何故ならコレの操縦に慣れさえすれば大抵のMSでエースになれるであろうから。

 ――『正規戦正面に使用?』
   莫迦を云ってはいけない。こんな搭乗員安全対策が不十分な機体でパイロット諸
  君を鋼鉄の嵐吹き荒ぶ戦場に送り込むほど、将校・士官諸氏も非人非ではない。

 要するに数あるMSの中で最低の評価を下されていた。

 そんな機体をも下回る評価を聞いて、ホンの少し早乙女博士は表情を緩めた。だが、
それも彼女次の一言が有るまでだった。

「…しかし、それでもこの数は破滅的に脅威であるということに変わりありません」

「そうだな…だが、安心せい。もうすぐ、彼らがやってくる。竜馬達と一緒にな」

「――っ!
 …………はい、そうですね」

 一瞬虚を衝かれたような顔をして、彼女は頬を赤らめた。

 コーカソイド系の特色を持つ彼女の肌色にその赤みは良く映えた。豊かなハニーブロ
ンドも似合っている。世の男子の殆どが獣欲を抱いてしまうであろう魅惑的な肢体を持
つ彼女の名は胡蝶。現在は流胡蝶と自らの名を称していた。【ゲッターロボ】パイロッ
トであり、並外れた恋愛的不感症である流竜馬の細君の座を射止めた強者である。

 その経緯を特等席で袖手傍観していた博士は、内心であの熱血筋肉莫迦に『遐福者め』
と毒づいてしまう。それほど今の彼女は魅力的だった。無論、博士にとっての女性は妻・
和子しかおらず、未だ彼女を限りなく愛している博士にしてみれば、その評価には常に
『和子の方が――』の一文が付与されるのだが。

《フン、儂も随分と余裕が有るじゃないか…》

 そんな事を思いながら博士は鼻息を荒くした。
 少なくとも、先程までよりは全く状況が好転しているから無理もない。ホンの少し前
までは、まともな機動戦力と呼べるモノはミチルが操る【コマンドマシン】だけだった。
後は研究所そのもの。幾ら強力なゲッターナバロン砲を備えて、その施設をバリアーで
カヴァーできようが、動きが取れねば、攻撃のイニシアティヴは相手にある。であれば
研究所自体に出来ることなどタカが知れている(それにバリアー自体も大した防御能力
を持っていない。一〇〇kg爆弾の束程度でどうにかなるようなものだ)。

 念のため、大破している【ゲッターロボG】や廃棄された試作ゲッターを使って何か
出来ないかと、研究所の廃棄資材倉庫 -通称:ゲッターの墓場- をさらってみた。が、
そもそも何もできないから、あれほど機動戦力の廃棄に口喧しかった戦自からクレーム
を付けられなかったのだ。胡蝶が保有していた機動兵器を始めとして廃棄されたマシン
とは違う。使い物にならないのは当然だった。

 ―――だが。彼らが仲間を連れて帰ってくる。今や早乙女研、唯一の正面機動戦力
【ゲッターロボ】とソレを操る男達、それに【ロンド・ベル】の面々だ。竜馬達には悪
いのだが、正直言って【ゲッターロボ】が帰ってくる事よりも、【ロンド・ベル】の来
援の方がグッドニュースだった。戦力単位としてみた場合、文字通り桁違いであるから
だ。

 厳しいことに変わりはないが、希望を抱くにやぶさかではない。そう思えさえした。

 独立克己の気風が強いスーパーロボットラボ、要するに早乙女研・光子力研を始めと
する面々は、自分の箱庭へ全てを押し込もうとする(頭の悪い)働き者に『滅びろ』と
云われて穏やかに破滅を受け入れるほど、この世界飽いてもいなかったし、素直ではな
かった。それどころか、彼らは全くその対岸にある感情を持って、世に憚る覚悟をして
いた。でなければ、とうの昔にDr.ヘル辺りと肩を並べている。

 気力の湧出を感じた早乙女博士は、再度腹づもりをする。
 現在、浅間山麓に存在する早乙女研究所付近には、2つ程が群れを為して畏うるべき
脅威を形成している。

 一つは関東平野西端をなぞるようにして、研究所東方より迫ってくる集団。もう一つ
は秩父山系を抜けて研究所南方より北上してくる集団だった。

 差し当たって排除する必要があるのは、前者である。平野部周辺で行動している彼ら
は人類社会的観点から極めて危険な存在と云えた。旧世紀と比較して大幅に低下したと
はいえ、旧都内付近を除く関東平野全域は未だ人類領域有数の人口密集地であるからだ。
彼らは分単位で無視できない各種被害を量産していた。

 他方、何を好きこのんで侵攻速度を極端に低下させる山中を踏破しているのかは知ら
ないが、後者の脅威度は多少下がる。そこにはホンの僅かな野生生物とそれより更に少
ない隠棲民か超高額所得者しか居なかったからである。多少暴れて貰ったところで、自
然保護団体以外は我慢が出来る程度の被害――容易に金銭的解決の図れる損害しか出な
い。

 博士は意を決した。

「胡蝶君にミチル、疲れているところ悪いがもう一働きして貰うぞ。
 彼らが来たら直ちに行動できるよう準備してくれ」

「はい」
「お父様?」

「彼らと協議せねばならんが、まずは東にいる集団を叩く。その心積もりでな」

「「はい」」


            :

 偉大な早乙女博士も所詮は人間である。人間である以上、幾つか欠点も勿論持ってい
る。その一つに、何かに集中すると熱中するあまり周りが見えなくなる、と云う事があっ
た。

 致命的だった。

 博士は大事なことを失念していたのである。

「くくっ……くふ、くふふ……」

 早乙女研究所奥底に存在する彼の王国――敷島分室にて、彼は怪気炎噴き荒ぶ不気味
な笑いを上げていた。

「来るなら、来い! 死なば、諸共よ。
 ふははははは……………」

 凶相と云う表現が欠片ほどの違和感無く具現化した存在が、どこまでも楽しげに破滅
の襲来を手ぐすね引いて待っていた。


            :

同刻:【グラン・ガラン】稽古場

 【アーガマ】にある同類のそれとはかなり毛色の違うそこで、シンジとアスカは特訓
していた。但し、身が入っているとか言うと………

「この……バカシンジ!! もっと身を入れなさいよ! 身を」

「でも……」

 シンジは視線を部屋の片隅に向ける。

「やっぱり、無理だよ」

 シンジの視線を追って目を向けると、アスカも(不本意甚だしいが)納得してしまう。

 そこでは、【ゲッターロボ】パイロット流竜馬が型をなぞらえて、汗していた。

 それだけなら、どうという訳など無いが、妙にご機嫌な調子で調子外れな鼻歌すら響
かせている。非常に不気味だ。時折紛れる含み笑いが拍車を掛けいた。

「シンジ」
「な、なに?」

「止めるよう、言ってきなさい」
「………」

「何よ、さっさと言ってきなさい」
「……一つ聞いていいかな?」

「何よ」
「アスカがもし今の竜馬さんに声掛けて見ろって、言われたらどうするかな…と思って」

「それは……」
「それは?」

 暫し沈黙が二人の間を流れた。

「……仕方がないわ、他を探すわよ」

 そうして、二人は【グラン・ガラン】艦内を巡り歩くこととなった。

 途中、一度だけだったが山岸マユミの話題を出したところ、アスカの機嫌は急降下し
た。辺りを吹き捲く風すら灼き尽くすかと思ったほどだ。

 余談だが【グラン・ガラン】と言うフネは見かけ以上に風通しがよい。はっきり言っ
て戦闘艦艇としては問題有るのだが、艦内には合成風のみならず、自然風によるによる
風すら吹いている。

 そんな中、特訓できる場所を探して艦内外殻近くを歩いていたシンジは、位置関係上
かなり喧しくなっている風の谷間に微かな音を捉えた。チェロを弾く関係から、こと楽
器関連にそれなりの造詣あるシンジだからこそ、聞き取れた。現段階では、アスカの耳
では単なる雑音として、無意識のうちに切り捨てられている。

「ブルースハープ?」

「はぁ? シンジ、アンタ、何言っているの?」

「だから、ブルースハープだよ。こっちから聞こえてくる……」

「アンタねー。こんなフネにそんな酔狂なモン吹くような物好きが居る訳無いでしょう!
 空耳よ!」

 こんなサイバー味が付いたファンタジーなフネで聞こえるには、かなり無理のある音
色である。アスカが『空耳』と斬って捨てたのも尤もな話と云えるが、シンジは譲らな
かった。必要以上に力強くはないが、確たる口調で事実だと言わんばかりに。

「でも、聞こえたんだ。ほら……、こっちだ」

「あっ、こら。シンジ!」

 アスカがシンジを暫く追いかけると、確かに彼女の耳にも聞こえてきた。シンジの向
かう方角からはビバーブ利かせて物悲しい音色が響いている。見るとシンジは立ち止まっ
ていた。最外殻直前の部屋の前で。

 舷窓(と言うには大きすぎたが)に腰掛け、ブルースハープを奏でていたのは【ゲッ
ター2】メインパイロットの神隼人だった。シンジ達に気付いていないかのように暫く
吹き鳴らし続け、唐突に止んだ。

「よう、【ネルフ】のお二人さん。何か用か?」

「いえ……その……」

「廊下を歩いていたら、聞こえたから来ただけよ!」


 ハッキリしないシンジを無視して、アスカが答えた。ご機嫌がそそり立って、突き刺
さるほどになっているアスカの口調は刺々しい。

「そうか…」

 毛ほども頓着せず、一言で済ませる隼人。それがまたアスカの癇に障る。少女は一層
機嫌を鋭角化させた。

「そういえば、これから向かう早乙女研ってアンタのトコでしょう?」

「そうだが?」

「どんな所なの? 聞いてあげようじゃないの」

「…難しい質問だな」

「何が難しいのよ!」

「一言では言い辛くてな……」

「ハン、どうだか。単に自分の居るトコすら理解していないだけじゃないの?」

「アスカ…言い過ぎだよ」

 流石にシンジが窘めるが、隼人は飄々と彼女の発言を受け止めた。

「いや、構わんよ。あながちハズレじゃない」

「そら見なさい!」

「そうだな……実際に見て貰うのが一番だな。言うだろう? 『百聞は一見にしかず』
 とな」

「いいわ。見てやるから覚悟なさい!」

「アスカ、そんな言い方しなくても」

「何よ!」

 喧嘩を始める(本当の流血沙汰にまでなるソレが当たり前の隼人にしてみれば、ジャ
レ合いにしか見えないが)二人を一応宥める隼人。

「まあまあ、お二人さん喧嘩しなさんな」

「大きなお世話よ」

 慣れないことはするモンじゃないなと思いつつ、隼人はいつもの癖で憎まれ口を叩い
てしまう。

「全く……、こっちのお嬢さんはお転婆盛りだな」

 ちなみに比較対照は、雇用主令嬢であり、同僚であり、唯一彼に安らぎを与えた女性
である。

 流石の隼人も『しまったかな』と思ったときには、少女は……………確認するまでも
なかった。

「こ……この……このぉ……」

《多分とばっちり……僕に来るんだろうな》

 少年は既に達観していた。

 少女は少年の期待を裏切らず、激情型低気圧の被害を一身に浴びせた。無論、神隼人
は卓抜した危機回避能力と状況(何しろ、被害担当がいるのだ)を十二分に利用して、
終始無傷であった。


            :

 同刻:【グラン・ガラン】サロン

 最近影が薄くなりまくっている事を良いことに各所女性に手を出しまくって(玉砕し
て)いる加持リョウジは、取り敢えずニナ・パープルトンにコナ掛けながら、【ネルフ】
本部で上位組織の意向に背き、暗躍している上司達を揶揄していた。

《【使徒】のために……いや、補完計画のために整備された組織を通常任務に使います
 か……ゼーレが黙ってませんぜ、碇司令?》


            :

 少し時間が過ぎた頃の話だ。

 上記の中世欧州じみたサロンとうって変わって完全に現代風の備品並ぶこの部屋は、
改装ついでに設置された多目的休憩室。聞こえは良いが、要するに暇を潰せそうなモノ
を適当な広さの空間を確保して放り込みデッチ上げた部屋である。

 シンジは今ここにいた。あの後キマリが悪くなったらしいアスカは『用事がある』と
言ってシンジと別れていた。幸いシンジには旧横浜以来の気懸かりがあったので、突如
として湧いた自由時間の消化法に迷うことはない。云うまでもなく、山岸マユミを探す
だ。

 少年にしては珍しく考えるよりも動くことで現実に対応していた。その甲斐あって、
彼はようやく彼女を掴まえることに成功するのであった。

「「あっ…」」

 互いの位置関係上棚影に隠れていたため、殆ど出会い頭の遭遇という形で。

「………(アタフタアタ)」

 シンジは何かをしなければと気ばかりが急いて何も出来ずにいた。

「………(オドオロオド)」

 マユミは何も起こりませんようにと、現実を恐れ、何も出来ずにいた。

 何というか………実に彼ららしい反応ではある。

 そうこう不毛な数分を経て、シンジはようやく話を切りだした。

「やあ、元気……そうだね」
「………」

「心配していたんだ……」
「………」

 視界の隅にマユミの持っているモノを捉えた。それは珍しい紙媒体の本だった(この
時代の本の大部分は電子出版となっている。紙媒体のモノは、懐古主義者向けの超高級
か、端末すら持たざる人々向けの超低級かのどちらかに限られる)

 シンジは藁にも縋る気持ちで、ソレを話題にしてみた。

「その………山岸さんって、本が好きなの?」

「………あなたは嫌いなんですか、本のこと?」

 これがシンジとマユミのコミュニケーションの始まりであった。シンジはようやく形
成された意志疎通線を切らぬよう、慎重に言葉を選んで、声にする。

「ううん、嫌いじゃないよ。好き…なのかな、知らないことが一杯書いてあるから」

「私は……本、好きです」

「どうしてか聞いてもいいかな…」

 シンジは出来る限り柔らかい口調を作って、笑みを浮かべすらしていた。その努力が
一割でも赤黄金の煌めきを持つ少女に対して常時費やされていたら、彼らの関係ももう
少し違ったモノになるであろう。そう思わせすらする程だった。

 真綿の投網に囚われたことを自覚したマユミは観念して、ゆっくりと理由を口にする。

「…本の中には下品な男の人も居ないし、勝手に、あちら側からこちら側にやってくる
 無神経な人もいないから…」

 そして、マユミの次の一言はシンジの期待を裏切っていた。

「……だから、あなたはキライです」

 シンジの脇を抜けようとするマユミ。シンジは半ば反射的にマユミの腕を取った。包
帯らしきモノが巻かれている腕を。

「いやっ!!」

 マユミはその行動に過剰反応した。抑え込んでいた何かが噴き出すように身体全体を
激しく振り回し、今まで多少怯えている程度だった彼女の様子は、今や恐慌状態と呼べ
るものになっていた。

「あっ………?」

 余りに激しい動きをしたせいか、包帯が取れ掛ける。シンジはその下に何処かで見た
紅玉の光を目にした。信じられないモノを見て、シンジは最悪の反応をした。強い疑い
の眼差しを彼女に向けてしまったのである。もちろん、何に対してかは本人も判ってい
ない。

「―――っ!!!」

 シンジの反応に彼女は息を呑んだ。知られてしまったのだ。一番知られたくないことを。

「山岸さ……」
「イヤっ!!

 マユミはシンジの言葉など聞かず、叫んだ。

「アナタなんて………アナタなんて、大っ嫌い!!」

 今度こそシンジは彼女を見送ることしかできなかった。


            :

 同刻:【グラン・ガラン】中央格納庫

 彼女の下僕が少女に嫌われている頃、彼女は自分のためではない理由で【ロンド・ベ
ル】女性陣の間を駆けずり回っていた。特に黒髪の女性を重点的に。

「あの…さやか、、、さん?」

「あら、なあに?
 アスカちゃん」

「あの……ウィッグ持ってませんか?」

 少女らしからぬかしこまった様子に、弓さやかは噴き出すのをどうにか堪えていた、



<カリブ海コロンビア沖・超大型浮揚戦艦【ゴラオン】>      

 バイストンウェル、ラウの国超大型浮揚戦艦【ゴラオン】は暗灰色の先鋭巨大な艦体
を宙に浮かべていた。

 そのブリッジにて、【カラバ】工作部隊は突貫で各種機器設置を伴う改修作業を行っ
ていた。

「ほら、そこ! ボヤボヤしているんじゃあない!!」

 【カラバ】代表ハヤト・コバヤシの叱咤が飛ぶ。

 そんな彼だが、ブリッジドアからこちらに向かってくる女性を見つけ、ホンの少し表
情を弛めた。彼女は【ロンド・ベル】から連絡員としてハヤトの元へ来て、戦争勃発で
原隊復帰できずそのまま彼の元で働いている。彼女は最近体調を崩し気味でその原因を
知っているハヤトは最大限、気を使い、彼女を労った。

「ベルトーチカ、大丈夫か?
 辛いなら、船室の方で休んで貰って良いんだ」

「いえ、私だけ休んでいるわけにもいきませんから」

 ハヤトに呼び掛けられた【ロンド・ベル】隊員ベルトーチカ・イルマ中尉相当官は、
気丈にも彼の申し出を断った。原因ははっきりしているし、病気でもないのだから当然
働くと言うのが彼女の意志だった。

「だが、そうは見えない。ウチのヤツがそうだった時より酷い。大事な時期だ、多少の
 気遣いはあってもいい。自分だけの身体ではないのだろう?」

 再度自分に気遣ってくれるハヤトに、ベルトーチカは笑顔見せて応じた。

「だからこそ、とは思いませんか? これから生まれるこの子に今の内から世界を感じ
 させてあげたい。私はそう思っています」

「……わかった。だが、くれぐれも無理しないでくれ。俺は後でアムロのヤツに怒られ
 たくないからな」

 それを聞いたベルトーチカは更に輝くような笑みを見せて、おどけたように敬礼した。

「りょ〜かい」

「コイツ…」

 緩く拳を作って、ベルトーチカの頭を小突いて、ハヤトは再び激励を飛ばした。

「急げよ、いつ敵と接触してもおかしくないんだからな!」

 とは云え、【カラバ】はようやく組織としての体裁を整え始めている段階だ。連絡を
取り合っていても実際に活動を始めるとなるとその様なもの、『無いよりはマシ』以上
のモノでは無かった。

 戦力的にも、前大戦で母艦戦力中核となった超大型飛行艇【アウドムラ】も、当然連
邦に返還されている(そもそも全長三五〇m超全幅五〇〇m超のシロモノだ。ポケット
に入れるには大き過ぎる)。混乱のため、【カラバ】に所属していた殆どの機動兵器も
パイロット込みで原隊に復帰した。要するに開戦時【カラバ】は戦闘能力を持った重機
材を殆ど保有していなかったのである。

 それは固有の戦力という点で見た場合、今でも大差はない。

 支援体制は地元行政府・企業などの協力を取り付けて、それなりに整ったが、自前の
戦力と呼べるモノは大小機動兵器を掻き集めて十数機。その程度だ。

 これではまともな作戦を行うなど、考えだけで罪といえよう。

 そこに文字通り『湧いて』出てきたのがバイストンウェルとかいう異世界の軍勢だっ
た。幸運だった。彼らは交渉を行えるほど、理性的であったからだ。かくして更に幸運
をいくつか加えて、協力関係は成り立った。

 最早【カラバ】にとって、この【ゴラオン】を含むラウ国軍は不可欠の存在と成って
いたのである。それは【カラバ】代表である、ハヤト自身が一番よく分かっている。

 より一層、彼らとの関係を深める必要を再確認したハヤトは、彼らとの相互理解を深
めることにした。

「ベルトーチカ、後は頼んだ」


            :

 ベルトーチカの返事を待たずにハヤトは通信・管制機器設置現場を離れ、資材が雑然
と置かれ迷路のようになっているスペースを抜け、ブリッジ上段へ向かった。そこには
バイストンウェル側責任者面々を始めとする有力者達が集まっていた。

 正面玉座に座っているのは、年端もいかない少女エレ・ハンムだった。その彼女は女
王だった。髪型は兎も角、控えめに言って慎ましさを感じさせるこの娘が玉座にあるの
は違和感を感じる。せめて、もう数年後で余裕が有ればと、ハヤトですら思わずには居
られない。だが、それを皆に感じさせるのか【ゴラオン】を中核とする、ラウの国軍勢
の集団としての能力は、それなりにまとまりを見せていた。何事も悪いことばかりでは
ない。そんな処だった。

 その彼女を補佐する形で、実質的な指揮を執っているのが脇にいる老将エイブ・タマ
リだ。下から上げられてくる問題その他を一切取り仕切り、ラウの国軍勢を維持してい
る遣り手である。彼が居るお陰で【カラバ】としても非常に助かっていた。有能にして
誠実な交渉相手という者はなかなか得難いものであるからだ。

 そのエイブと今話し込んでいるのがニー・ギブンだ。浮揚戦闘艦【ゼラーナ】と一族
郎党を率いて、ドレイクと戦い続けている猛者と聞いている。実際地上での作戦能力が
どれほどだか知れたものではない。まあ、それも遠からず判ることだ。ハヤトは過大な
期待を抱かず、その時を待つことにした。

 最近馴染み始めている面々を見渡したハヤトだったが、その横にいる切り揃えた黒ロ
ングヘアーが特徴的な小柄な少女までは流石に憶えきれていなかった。

《まあ、その内憶えるさ……》

 実戦経験者らしい達観した割り切りでハヤトは彼らとの意志疎通をより一層深めるべ
く、歩みを向けた。


            :

《みんな、苦労しているわね》

 彼女が知っている地上人――ショウ・ザマともマーベル・フローズンとも違うタイプ
の地上人がニー達と辿々しく理解を深めていく中、切り揃えた黒髪がチャームポイント
の少女キーン・キッスは嘆息した。

 彼女は見た目エレ・ハンムより更に年下、もっと具体的に言って幼いとすら云える程
の年齢にしか見えない。が、れっきとしたニー・ギブンの郎党であり、自身もオーラマ
シンを駆る勇ましき女戦士だ。

 人生経験の少なさ故、色々と失策を犯し続けていた彼女だったが、最近ようやく一人
前の戦士と認められるまでに成長した。

 だが、それはあくまで戦士としてであり、指導者や政治家等のソレではない。そのた
め、価値基準は肉体的頑強さに偏重していた。

《あーあぁ……全くイヤになっちゃうわ。
 本当にこんな弱そうな連中と一緒にやっていて、戦いに勝てるのかしら?》

 バイストンウェル人として、実に率直な感想と言えるだろう。

 それゆえ、キーンはブリッジ・防弾ガラス越しに見える自分達のフネを見て、呟いて
しまっていた。

「大丈夫かしら」

 【ゼラーナ】に残っている面々――特にオーラマシンパイロットがどうしているか不
安に駆られたのだ。有り体に言ってショウ・ザマの欠けている現在の【ゼラーナ】はど
こかギクシャクとしている。特にオーラパイロット間のソレが。

 だから、もう一度更に言葉を加えて、呟いた。

「マーベル達……大丈夫かしら?」


            :

 同刻:浮揚戦闘艦【ゼラーナ】艦内休憩室

 舷窓から見える【ゴラオン】の巨体を流し見しながら、旧合衆国市民のオーラバトラー
パイロット、マーベル・フローズンは心許なげに呟いた。

「ニー達、遅いわね…」

 その呟きに反応する者が居た。今【ゼラーナ】にいる、もう一人のオーラバトラーパ
イロットだ。

「まぁ、ニーもギブン家の惣領なんだ、やることがあるんだろう?
 心配しなさんな」

 と、言ってもギブン家郎党ではない。彼らにはキーン以外のパイロットはいない。無
論、地上人でもない。

 では誰かというと、色っぽいタレ目が特徴的な彼女の名はガラリア・ニャムヒー。

 元ドレイク軍騎士であった女性だ。彼女が何故、ドレイクの敵であるこのフネに乗り
込んでいるかと、いうと話は簡単だ。当時同じくドレイク軍にいたショウ・ザマの誘い
を受け、彼女も一緒に軍を抜けた。そして、ギブン家郎党と協力して、ショウと肩を並
べて共に戦っている。それだけのことだった。

 幾分落ち着きのないマーベルとは対照的に、ガラリアは落ち着いたものだった。とて
も故郷へ戻ってきたものと故郷を追われた者のようには見えない。態度が完全にアベコ
ベだった。

 そんなガラリアの言い振りが少しマーベルの気に障ったようである。彼女は(たくま
しい)眉を少しひそめた。

「気を抜き過ぎではなくて、ガラリア?」

「必要なときの為に鋭気を養っていると言って欲しいものだな、地上人」

「そういう言われ方は好きではないわ。マーベルと呼んで欲しいところね」

「いつもいつもご苦労さん。それはそうとして、お前は何を苛ついている? 地上はお
 前の故郷だろう?」

「苛ついている? 私が?
 ………気のせいよ」

「だと、いいんだけどね。ショウが居たら何と言うやら……」

「ここでショウは関係ないでしょう」

「ここには居ない。けど、仲間だろう? 少しはソレらしく扱ってやらないと可哀想だ
 からな」

「あら、可哀想なのはアナタでしょう。連れが居なくて寂しいのではなくって?」

「どういう意味で私が寂しいと言っているのかは知らないことにしておくよ。アイツは
 連れじゃない、戦友だよ。ま、夜の相手をして欲しいっていうなら、まんざらじゃな
 いけどね」

「本当にそうかしら?
 でも、シーラ女王だったかしら……彼女、ショウに御執心みたいね」

「らしいな。ま、あそこは聖戦士には縁のあるところだからな。判るよ」

「その彼女と一緒に居るんでしょう、気になっているクセに」

 マーベルの言葉に少し考えるガラリア。そして返ってきた言葉は衝撃だった。

「そうだな…アイツがそれほどの男なら、愛妾になってやってもいい。ヤツの子供を産
 み育てるのも、楽しいだろうよ」

「なっ!?」

 ガラリアの何とも直接的すぎる表現に、マーベルは彼女らしからぬ反応をした。狼狽
したのである。それを見て、ガラリアは悪戯が成功した子供のように笑った。

「おかしいか、地上人? 一国の女王をやるような怖い女に惚れられるんだ、それだけ
 でも、どれほどのヤツか証明されたようなもんだ」

 ガラリアはマーベルに畳み掛けた。

「…それにいい男の子供を産むのは、いい女の特権だぞ」

 口調その他はともかく、含むモノを感じない彼女の話に、マーベルは彼女独特の表情
をして、答える。

「私はそこまであけすけになれないわ」

「そうか……ま、私は良いんだけどね。ショウはまだまだだ。もっといい男になるぞ。
 後悔しなさんな、地上人」

 そういってガラリアの貌に微かな憂いの陰が射した。

 ガラリアに対する噂はマーベルも多少であるが聞いている。父親の所為でかなり苦労
していたらしい。基本的にバイストンウェルでは男女間の差別は(あくまで比較論では
あるけども)少ない。殊、万事に於いて能力主義が徹底されているアの国ドレイク軍で
は特にだ。だが、裏切り者の娘と言うレッテルが貼られてはそうも言っていられない。
ありとあらゆる点を取り上げて、なじられる。ソレに対する彼女の回答は、どんな手を
使ってでも、手柄を立てて見返すことだった。

 それは彼女に限界以上の負担を与えていた。ショウと一緒に軍を抜けるまでは。

「ガラリア…」

「ま、今の私にはどうでも良い話さ。ショウが誘ってくれたからな。自分が自分の認め
 たヤツに信頼されているというのは気分のいいものだ。少々道が違っていたとしても
 気にもならない。羨ましいだろ?」

 そういって笑ったガラリアの笑みには、爽やかさ以外の何者をも含まれていない。少
し、雰囲気が和らいだその時だった、ニー・ギブンの留守を預かるハタリの声が部屋に
響いた。

「マーベル、ガラリア! 敵襲だ!」


            :

 同刻:【ゴラオン】西方三〇七km
    超大型浮揚戦艦【ゲア・ガリング】

 【ゲア・ガリング】の艦橋では、【ゲスト】に降ったはずのクの国ビショット・ハッ
タ王が息巻いていた。

「えぇい、フォイゾンの…ラウの死に損ない共が邪魔立てしおって!」

 この状態の彼に口を出す者は家臣団にはいない。彼らは今の王に口を出すのは、王族
の特権を奪う不粋行為だと思っていたし、実際の所そんなことをしたら、褒美に口を動
かし息をするなどの人生永遠の労苦からの免除を赦されてしまう。

 そんな絶対者に、実にマイペースな口調で口を挟んでくる者があった。【ゲスト】実
戦部隊指揮官ゼブこと、ゼブリーズ・フルシュワ第一級任務主任である。

「や〜ぁ、熱血していると〜こ、申し訳ないんすが〜」

 ビショットは忌々しげにゼブ睨み付ける。無論、ゼブは臆する様子もない。

「判っている、我々はドレイク殿を迎えに行くだけ!
 そう云いたいのであろう!?」

「分ぁ〜かってもらってぇ〜、ボクちゃんか〜んげきしちゃうなぁ」

「いちいち、口にせずともよろしい!」

「はいはい。けれど、云うべき事は言っちゃわな〜いといけないのよね。
 敵との接触は最〜小限にして貰いたいのよ。このフネはこのフネでき〜っちりやるこ
 とが決まってるもんでぇねぇ〜」

「判っていると言っている。だからこそ、その為の手だてを打っている。
 そもそも、迂回できればこのような苦労は…」

「はいはい。作戦時間は決まっちゃっているんで仕方がな〜いんだなぁ。
 で〜も、それでもドレイクさんとか云う人を迎え行きたいって言う人がいーたもんで
 ねぇ。だ〜れとはい〜わないですけど」

「くっ……」

 ビショットは口惜しさに咽まで出ていた言葉を噛み殺した。今までであれば、自分を
このように愚弄する輩など即刻に弑するものを…。ビショットは玉座の肘掛けを握り潰
さんばかりに握りしめ、何とか自制する。

 ビショットの内心を知ってか知らずか、ゼブはまたもや呑気に曰った。

「じゃ〜、ま、やりすぎない程度にが〜んばりましょうねぇ」


            :

 戦いはビショット軍の奇襲から始まった。折しも突如として乱発生していた雲海に隠
れるようにして行った巧みな戦術運動は、ラウ国軍の哨戒網をあっさりと突破し、それ
を可能とさせていた。

 彼ら奇襲攻撃隊の先制初撃は(元々問題を抱えていた)【ゴラオン】軸線砲に損傷を
与え、この巨艦最大攻撃力を持つ砲の発砲を不能とさせ、大きく戦力を減じさせた。

 これによって、戦いは大きくビショット軍の側に傾く。何故なら、ラウの国軍勢は総
体的に見ても、強力すぎる【ゴラオン】の火力に頼る編成になっていたためだ。コレに
加え、心理的要素もある。今のラウの兵達にとり、【ゴラオン】は本丸、言い換えると
彼らにとってのバイストンウェルそのものであった。

 ラウ側の兵達の動揺は大きかった。これによって一方的にイニシアティブを握ったビ
ショット軍は、萎縮するラウ側を畳み掛けるように、統制の取れた攻撃隊を出撃させる。

 対して、【ゴラオン】にいたエイブ・タマリ艦長やニー・ギブンは、混乱する味方を
何とか統率して指揮を維持、敵攻撃隊を迎え撃った。特に戦慣れている【ゼラーナ】隊
は敵攻撃の最も激しい箇所に投入され、劣勢な味方戦線の崩壊をどうにか防いでいた。

「キリがないんだよっ!!」

 そう叫んで、ガラリアは敵オーラバトラーAB【ビアレス】を斬って捨てた。

 疲労を気迫で補った事によるオーヴァーアクションは、彼女の背後より迫っていた、
敵AB【ドラムロ】に気付かせるのに数瞬の時間を彼女からもぎ取る。

 致命的だった。

「しまった!!」

『やらせないわよ!』

 死に神の哄笑が一瞬耳を掠めたが、咄嗟にフォローしたマーベルの牽制射撃がガラリ
アを救った。

 マーベルの一撃が稼いだ、宝石よりも貴重な時間でガラリアは体勢を立て直し、敵
【ドラムロ】のコンバーターに剣撃を加え撃退する。

 動力を失ったその【ドラムロ】は煙をたなびかせて墜ちていく。あれでは、運が悪く
ない限り、敵騎士は脱出に成功するだろう。それは敵騎士は機体を変えて再出撃し、再
び戦線へ加わると言うことである。

 この判断には、未だ、ガラリアを含む)バイストンウェルの人々は、一方の死をもっ
て、闘いの幕引きとしていることが強く影響している。たかだか退けた程度で終わりな
どとは思っていなかった。

「ちっ!」

 ガラリアは舌打ちする。当然(妙に人間臭さが感じられない敵AB)トドメを刺しに
行こうとすらしていた。そんな彼女を、マーベルは諫める。

『ガラリア、出過ぎないで。囲まれるわ』

「判っている! だが、今のラウの連中で守って、守りきれる状況じゃないだろう」

『死んでは元も子もないでしょう。………来たわ、新手!』

「チィっ、言っている先から……」

 焦る彼女達に引き留めたのは、妙なイントネーションしている無作為広域通信だった。

『ヘイッ!! そこのボーイズ、エェェェンド、ガールズ!
 そのエリアは、ちょぉぉぉっとデンジャラスになりまぁ〜す!
 下がって、くぅださーい』

『え、何!?』
「誰だ!?」

『四の五の言ってないで、ミーにまーかせなさ〜い!』
『兄さん、いつでもいけるわ』

『OK! シューッ!!』

 そう聞こえると同時だった。脇を黒いシャワーが掠めたかと思うと、こちらに向かっ
てきていたビショット軍のオーラバトラーがカトンボのように叩き墜とされた。叩き付
けられたシャワーのど真ん中に居た数機など、文字通り木っ端微塵に粉砕されている。

 鋼鉄のシャワーは一撃に留まらなかった。更にビショット軍攻撃隊残余を襲い、彼ら
へ墜ちるか・逃げるかの二択を強要し、選択を拒否した、もしくは(不幸にして)選択
を行えなかった敵には、問答無用で別世界への招待状を(文字通り)叩きつけた。

 歴戦の勇士であるマーベルもガラリアもしばし唖然としていた。が、我に返りようや
くシャワーの出元へ目を向いた。マーベルは頭を抱え、ガラリアは再度唖然とした。

 そこには全長五〇m程のアメリカンスマイルを張り付けたカウボーイ、それも最高に
キめたテキサンスタイルのマシンが居た。

 右手に一二インチ(三〇五mm)ライフル、左手に二〇〇〇lbライアットガン。【ガラ
バ】に参加・協力している、ジャック・キング、メリー・キング兄妹の個人所有マシン
【テキサス・マック】だ。

 【テキサス・マック】はライアットガンを乱射する。一発あたり二〇〇〇lb(約九〇
〇kg)に達する鉄量を面に叩き付ける高速散弾は、上手くすれば数機まとめて叩き落と
す事が可能であった。MS用バズーカ砲などの散弾とは、弾速が桁違いに速いからだ。
このような高初速弾は相手の対応時間を奪い取り、結果として命中率の向上をもたらす。

 マーベルやガラリア達が、あれほど苦労していた敵ビショット軍AB隊は、瞬く間に
その数を擦り減らしていく。これは別段、マーベルやガラリアが力不足なわけではない。
単に同種の装備を用いた戦いは余程の差がない限り、決着が着き難い。ただ、それだけ
だ(故に軍隊は敵と同じモノを持ちたがる。最悪でも負けにくくなるからだ)。

『ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ!
 歯ごたえありませーん、マジメに戦いなっさぁぁ〜い』

 (あらゆる意味で)強烈すぎる存在の出現に、ビショット軍は算を乱し、逃げまどう。
距離が開いたことから【テキサス・マック】は一二インチライフルにて追い撃つが、さ
すがに散弾ではない只の大口径弾では全く効果を上げていなかった。

 まあ、本人は敵攻撃隊の撃退には成功しているのだから、大して気にもしていなかっ
たが。ジャックは優越感に浸りながら、独白した。

『今日びの敵はガッツがありませんねぇ〜〜〜〜……
 ホワット!?』

 逃げ惑う敵の向こう、雲海の中から巨大な影が現れた。

『オ〜、グレェェ〜ト!! 悪党のボ〜スが、おーでましでぇ〜すねぇ。
 オーケィ、オーケィ。
 でぇは、イッキまーす』

 ジャックは一二インチライフル砲弾を黄褐色の空中城塞にありったけ叩き込む。

『兄さん、効いてないわ』

 だが、少なくとも外見上はさしたる効果を与えたようには見えなかった。砲弾に比べ、
目標が大きすぎるのだ。爪楊枝で地面をほじくり返しているようなモノである。それで
も、敵意を盛大に表明している事に間違いはなかった。

 当然、空中城塞からの返答は苛烈極まりなかった。相手には全高五三五m・全幅一五
〇〇mに達する巨大な船体へ備え付けられた火砲が無数に存在する。そして、半数以上
が【テキサス・マック】ただ一機に向けられたのである。回避など何の意味も無かった。

『オッ〜、シッッ!!』
『兄さぁーん!!』

 間違っても小さいとは言えない【テキサス・マック】の機体が周辺空域込みで、激烈
な爆光と猛烈な煙に包まれ、隠れてしまう。

 【テキサス・マック】が何処にいるか見当も付かなくなった頃、ようやく空中城塞か
らの砲撃は撃ち止んだ。

『殺られた………の?』

 マーベルは唇を震わせながら、呟いた。

「あれじゃあ、骨も残るもんか……XX!」

 ガラリアは、婦女子にあるまじき糞便に関する言葉を吐き捨てた。

 その空域にいる全員が己の為すべき事見定めるため、動きを止めていた。

 数瞬の空白の時間が流れ、猛煙が霞む。そして、灼け跡を全身にパッチワークした
【テキサス・マック】が姿を現す!








 次なる出来事は全く暴力だった。








『今のはチョォォォト、チビりました!! ミーは、とっても怒ってマァァァス!!!』








 余りの唐突さに皆が呆気にとられている間に、ジャックは素早く後退をかけた。脳天
気なことは言っていても、やることはやる。見事な手際であった。

『ミーのとっとき、プレゼントするねっ!!』

 負け惜しみを忘れないのは、さすが騎馬民族といったところであろう。いや、テキサ
ンと言うべきであろうか。ガッツに不足は感じられなかった。

『ガラリア、私達も』

「ああ、後退する……【ゼラーナ】、下がれ! 【ゴラオン】と合流して体勢を立て直
 す」


            :

 【ゴラオン】へ向かって後退してくる【ゼラーナ】を確認して、本来の艦長ニー・ギ
ブンは怒声を発していた。

「マーベル達は何をやっている!
 味方が総崩れになるぞ!」

 だが、それだけだ。指揮すべき艦にいない指揮官に出来ることはさして多くないから
である。そんなニーをエイブはたしなめた。

「いや、あれはあれで正しい。無理したところで【ゲア・ガリング】の餌食になるだけだ」

「しかし! 戦いは正しいだけでは勝てません」

 分かっては居たが、ニーは反駁するしかない。正論では、戦力の少ない方は負けるか
らだ。猛るニーに、今まで口を閉ざしていたラウの国女王たる少女エレ・ハンムが彼の
名を呼ぶ。

「ニー・ギブン」

「エレ様…」

「彼らの判断を信じましょう」

 エレの何もかも見通したような口調に、ニーは矛を収めるしかなかった(もっとも心
理的エレメントに過ぎないエレには、それしか出来なかっただけであり、大して分かっ
ているわけでは無かった)。

「…はい」

「地上人のマシン、戻ります」

 部下の報告を受け、エイブはいかなる感情も込めず、事務的に名を呼んだ。

「ハヤト殿」

「分かっています」

 エイブに促されたハヤトは、ただちに【テキサス・マック】へ通信を繋ぎ、ジャック
を呼び出した。

「ジャック!」

『ミーを呼んだね?』

「そうだ! あのデカブツをなんとかしろ。殺れるんだろう?
 そう聞いているぞ」

『オーケィ、オーケィ。モチロン、出来まぁーす』

「では、やってくれ」

『じゃすと・あ・もーめんっ。……すこぉーし、準備が居るね』

「早くしろ!」

『やってるね!』

 【ゴラオン】に振動が奔る。

 見ると降り立った【テキサス・マック】は、甲板に括り付けられていた防水布包装さ
れている、やたらに大きい何かを取り掴んでいた。


            :

 ジャックは【テキサス・マック】の全高ほどもある巨大な包みを取らせ、脇に抱える
ようにした。包みの一部をほどき、出てきたハンドル・グリップをしっかりと手に取ら
せ、ジャックは眼に危険な光を灯らせた。

「メリー、準備はいいね?」

『チョット待って、兄さん』

「ハリー、ハリー、ハリー、ハリー」

『やってるわよ、もう! ………オーケィ。いつでもイケるわ』

「まぁーっていました、愛してマース。マイ・シスター」

 そこまで言うとジャックの目には、【ゲア・ガリング】しか入っていなかった。揃え
た二本の指でツイとカウボーイハットの鍔を押し上げ、告げる。



「――Now,It's a show time.」



 轟音が包みの防水布を消し飛ばした。


            :

 ― 着弾・衝撃

 【ゴラオン】右舷甲板に先程の大型人型マシンが降り立ち、何かを抱えたように見え
た。次の瞬間、甲板が爆発したかのような閃光が煌めいた。思わず、敵弾薬庫が誘爆し
たかと思ったほどの激しいものであった。巨砲弾が【ゲア・ガリング】へ叩き付けられ
るまでは。

「何事だぁ!?」

 ビショットが叫ぶのも無理はない。

 このジャック兄妹が持ち出したのは、旧二〇世紀中期、日本帝国海軍大賀工廠砲熕部
にて、計六門製作された試製S砲――六五口径六六サンチ砲を改造の上、【テキサス・
マック】にて運用可能とした畸形改造砲ガン・キマイラである。

 この砲は、結局建造されることの無かった【やまと】(その頃はまだ【大和】だった
が)の妹の為に試作された艦載砲で、当時日本帝国へ明確に仇すると認識されていた米
国海軍艦隊を撃滅するために開発された。

 その所為もあり、真口径・砲口径六六六mm/砲身長六六.六口径と言う、製造した仏
教徒ですら頭を抱えるモノを続出させた、いわくの方が向こうから寄ってきそうなスペッ
クを持って、作り出された。

 当然、後年その存在が知れると「ルシファーズ・ハンマー」だの「ダミアン」だの、
と言うアダ名を欧米各国より頂戴することになるのだが、この砲が米国に渡ることとなっ
たのは、第二次太平洋戦争の結末故だった。

 大戦末期、米国では予想をもしない犠牲者の数に厭戦気分が満ち、帝国には(穏健派
と継戦派の対立から)陸軍クーデターに起因する混乱が起きていた。双方、戦力は(反
応兵器を含めて)それなりに抱えていたが、お互いに内患を抱え滅亡に恐怖した状態で、
戦争など続けようもなかった。

 それにより和平への道は模索され、休戦となる。

 これが欧州であるならば、領土線が多少移動するモノであるのだが、人工国家と新興
国家の場合は少し違った。互いが勝利を主張するための象徴を欲したのである。幾多の
不健全な外交交渉を経た後、米国が当時最新式のジェット戦闘機とその関連技術を、帝
国が次期建造戦艦用に試作していた艦載砲(本当は厭戦気分の製造元たる戦艦を要求さ
れたのだが、流石にそれは帝國が突っ撥ねた)を、お互いに相手に提供することによっ
て、要求は満たされることとなった。

 これにより米国へ渡る事となった試製S砲計三門は、二門が米海軍試験センターへ、
残る一門はあの分類魔と修復魔と掃除魔の天国(何しろ、仕事が尽きることなど永遠に
あり得ない!)スミソニアン博物館へ収蔵された。

 米海軍に渡された二門は数々の試験の後、二〇〇七年まで同センターにて展示され、
処分された。

 今ジャック達に使われているのは、スミソニアンに収蔵された方の試製S砲第六號砲
である。ご多分に漏れず、未選別収蔵品の山に埋もれていたコレを見つけた、ジャック
の父・キング博士は表立って言及することの出来ないルートから所有権をもぎ取り、手
に入れた。しかしながら、キング博士は遂にコレを用いることがなかった。【テキサス・
マック】の開発に係りきりになったからだ。

 が、第二次地球圏大戦後、倉庫の奥でコレを発見したジャックは違ったのである。大
物好きな国民性を充分に満足させるコレに、狂喜乱舞して【テキサス・マック】での運
用を意図した改造(等という生易しいモノなのだろうか?)を行い、悪夢のような超大
型携帯砲を作り上げてしまった。

 さすがにオリジナルの砲弾は、既に世界中何処を探しても存在していなかったため、
どうにもならなかったが、そこは個人で巨大マシンを建造・運用してしまうような一家
である。【やまと】や【むさし】の五六サンチ砲弾データ(但し就役当初のモノ。最新
型のソレは軍機指定されていたため入手不可能だった)を利用して、自家作製してしまっ
た。なんともバイタリティ溢れる一家ではある。

 そんなこんなで、文字通り一家の努力が結晶した巨砲弾は、発砲衝撃余波で【ゴラオ
ン】外装を歪ませながら、黄褐色の空中城塞【ゲア・ガリング】へ叩き込まれていた。

 一発あたり五tに達する悪魔の砲弾は、一二インチ砲弾では殆ど効果を上げていなかっ
た超大型空中城塞に視認すら容易な痛撃を与えていた。命中する度に【ゲア・ガリング】
の構成材と構成員が、もがれ、ちぎれ、粉砕され、その有り様を変えられていた。

 続出する被害が報告されては居たが、彼の王にとっては単なる叙事詩的形容に過ぎな
かった。むしろ、大小不連続した振動に、王は刻々と精神を揺さぶり続けられ、深刻な
影響を受けている。堪りかねたビショットは、ヒステリックに叫びながら通信兵を詰問
した。

「えぇい、ドレイクはまだ応えぬか!?」

「はい、未だ……」

「ならば、答えるまで呼び掛けろ!」

「はっ!
 ドレイク軍、ドレイク軍。こちらビショット軍。至急応じられたし! 至急応じられ
 たし… うわぁっ!!


 更に六六.六サンチ砲弾の直撃。ビショットはこの数分で会得したコツを活かして、
玉座をしかと掴み、やり過ごした。史上最大級の巨砲弾といえど、この巨艦相手では被
弾部位周辺以外耐えられないほどの衝撃は発生しない。

「もうよい! これ以上は…」

 ビショットはゼフを睨む。ゼブは肩を竦めた。

「これ以上は、【ゲスト】殿の作戦実施に支障を来す!!
 全軍転進。我が軍は本来の作戦行動に復帰する!!」

 それを聞いて、どこか安心した雰囲気を漂わせてゼブは動き出した。

「はいはーい。では、そゆ事でぇ〜。
 気象統制班…」

『はい』

「聞こえたな?」

『了解。撤退を支援するため気象制御を行います』


            :

 【ゴラオン】詰めしていた【カラバ】クルーの報告が上がった。

「気圧低下!
 天候、急変します!」

「なんだと!?」

 そう反応するが早いか、比較的雲量が少なかった周辺空域が雲で煙る。黄褐色の空中城塞はその雲海へ沈むように消えようとしていた。

「【ゲア・ガリング】後退を始めました」

 ニーはすかさず、エイブへ振り向いた。

「エイブ艦長、追撃を!」

「うむ、良い考えかも知れない……だが」

 エイブは重々しく肯いたが、ハヤトを見やる。

「やめておきましょう」

「何故です!」

 エレがおずおずと口を開く。

「ドレイク……ですね」

「そうです、我々が抑えになっています。追撃を行って、彼らの枷を外すのは我々の支
 援者も望んでいません」

 二人の話を聞いて、ニーは苛立たしげに吐き捨てた。

「くそ、ドレイクの奴。じっとしていても俺達をかかずらせる」

「それもきゃつめの魔力といったところか。しかし、支援者とは………、我々には馴染
 みません言葉ですな」

 至極自然にやんわりとした抗議を行うエイブに、ハヤトは心底済まなさそうに、だが
キッパリと述べた。

「申し訳無いとは思います。ですが、慣れて貰う必要があります」

「承知した」



<旧合衆国アリゾナ州・エリア51>      

『ドレイク軍、ドレイク軍。こちらビショット軍。至急応じられたし! 至急応じられ
 たし… うわぁっ!!』

 ビショット軍に何処か追い詰められた様子の通信は彼の耳に届いていた。

 トッド・ギネス。

 彼の地にてドレイクの元で経験を積み、戦闘中行方不明MIAとなり、後にビシ
ョット軍に仕官。そして、地上に舞い戻った今は【ティターンズ】にてドレイク軍との
連絡将校と、この近年なかなか波乱に富んだ人生を送る彼の立場は複雑だ。

 今も押しつけられた階級章が、押しつけた相手の言葉と共に、トッドを振り回す。

『取り敢えず儂の使い走りになるなら、この程度の階級には、なって貰わんとな』

 その相手と云うのがジャミトフ【ティターンズ】総司令だから、尚更だ。

 自らの立場に、実にアメリカ人らしい率直な態度で天を仰ぎたくなるのをどうにか抑
え込んで、彼は傍らに鎮座する彼の地――バイストンウェルの覇王へ目を向けた。

 ドレイク・ルフト。あのままバイストンウェルに居たならば、間違いなく稀代の覇王
となっていたであろう人物だ。

 だが、地上へと放逐されてからのドレイクの行動は極めて控えめであった。弱腰と云っ
ても言い過ぎではない。

 大気圏内地上各地に散らばっていた、アの国ドレイク軍のみならず、クの国ビショッ
ト軍のはぐれ部隊までをも、あっさりと取りまとめ混乱を収拾。以後は連邦軍の指示に
従い、ここエリア51で連邦軍の監視下に入っていた。極めて穏当な姿勢でだ。

 トッドの知るドレイクであれば、はぐれ部隊が起こすであろう混乱に乗じて、戦火を
拡げる可能性が高いと予測していただけに、これはかなり意外だった。

 それは今も継続されている。連邦政府との協議も厭うでもなく、連絡を絶やさない。
その一方で、(連邦の勧めもあった事も関係して)若手騎士を中心に決して少なくない
人数を各種機関に派遣し、積極的にこの世界を学ばす等も行う。トッドは、ドレイクが
単なる地方領主であった時代を知らぬだけに、得体の知れないモノを感じていた。

 だからかも知れない。彼が敢えてこの様な質問をしてしまったのは。

「ドレイク閣下」

「…なんだ」

「よろしかったのですか」

「何がだ? よもや、儂がビショットめの呼び掛けに応えなんだことか?」

「ありていに申し上げると、そうなります」

「トッド・ギネス…」

「はっ」

「貴公、儂を試しておるのか?」

「いえ、その様な…」

「隠さずともよい。ここは貴公の世界だ。貴公が自分の世界を心配せぬような者には………見えぬな」

「(ちっ…)」

 トッドは半ば反射的に腰の銃を抜こうとして、右手を微かに痙攣させた。それ以上の
行動とはならなかったのは、本人が自分を抑え込んだというのもあるが、なによりも次
のドレイクの言い振りを聞いたためであった。

「だがな、ここは儂の世界ではない」

「何のことでありましょうか?」

「判らぬか……音に聞こゆるラパーナの家の者ほどでは無かろうがな…儂にも有る程度、
 判る」

「(what?)」

「世界の有り様というヤツだ。己が踏みしめる場所というモノを理解し、世界の流れを
 読み、人を集わせ、何事かを為す。その程度のことだ。まぁ、先程の様子を見るにビ
 ショットめは、まだそれすらも掴み切れてはおらんようだが……」

 ビショットが云々の辺りで嘆息するドレイク。流石に(名目上のモノに近いとはいえ)
主君に当たる人物をけなす言葉にどう反応すべきか戸惑うトッド。

「………」

 そして、ドレイクは言い切った。

「排除されねばならぬ存在なのだよ、この世界にとっての我々はな」



<浅間山麓>      

 そこでは情熱的に男と女が互いの距離を無視して、視線を絡み合わせていた。

 彼らは世間一般で言うところの法的後ろ盾付き特定異性同衾主義者――つまりは完全
無欠の基督教式一夫一妻型夫婦であった。

 その様なことは空気が大気圏内に存在するより当然である彼らにとって、今更確認す
るまでもない。彼らは先程より一層熱情を込めた視線を絡め続ける。

 彼方、流竜馬は拳を握り、感涙にむせびつつ……

 此方、流胡蝶は胸元に手を組み、瞳を潤ませて……


 感極まった彼らは全く同じタイミングで互いに駆け出した。


『胡蝶ぉ〜っ』
『竜馬ぁ〜っ』

 その一声で辺りは完璧に色惚けの『ド』ピンクに染め上げられた。


 彼方、流竜馬は大きく腕を広げ、雄叫びを上げつつ……

 此方、流胡蝶は涙を零しながら、肩をフルフルと振るわせて……


「やぁねぇ、恥ずかしいたら……」

 多少、頬の色に影響を現しつつも、アスカは彼らの行動を揶揄する。だが、アスカが
憎まれ口叩けたのもそこまでだった。

 堅い抱擁にて一つになった彼らは、


 一部接触


 当然、仏式一部接触などという間怠っこしい段階をアッサリと飛び越えて、侵式一部
接触である。

 彼らのソレは暴虐的なまでにおアツい局地災害を現出させていた。

「「…………」」

 思わず硬直する少年少女二人。だがソレも当然だ。目の前で現在進行しているのは、
目にすれば今ここにいない白皙紅眼の少女ですら、顔を赤らめるであろうシロモノであ
るのだから。

 固まっている二人を横目に、神隼人と車弁慶は、どうにも面白く無さそうな顔をして
(何しろ今回の出張以前三ヶ月間ずーっとこの調子だったのだ、耐性の一つも出来てく
る!)、耳をかっぽじっていた。


        :

 少年少女が硬直して、暫く………

「ま、あの色惚け夫婦は当分あのままだろうから放っておいて……
 おや? 少々君たちには刺激的すぎたかな」

 何処か斜に構えたスタイルそのままに隼人は、ようやく衝撃から立ち直り始めていた
少年少女に話しかけた。

「ま、これも人生経験の一つだと思って、勘弁してくれ」

「な……、何が人生経験よ!
 あの……」

 元凶の方を指差そうとして、再びあの光景を目に入れたらしい。肌の赤みを増させて
沈黙するアスカ。自爆している。

 その光景に、ホンの少し口の端を歪める隼人。彼にしては珍しいことにその事実には
触れないで、研究所からの出迎えの方を指した。

「あの髭生やしているのが早乙女博士だ」

 ハヤトはブライトと歓談している初老の男性を指し示した。自爆しているアスカに代
わって、時間差で復活したシンジが頷く。無論、彼の顔もまだ十分紅い。

「そうなんですか? でも…」

「でも?」

「何か普通の人ですね」

「あの人は少しズボラだが、マトモだからな……」

「そうでない人も居るんですか?」

「ああ、飛びっ切りのが…」

 神隼人の一言を待っていたかのように、横合いから嗄れ声が割り込んできた。

「誰のことを云っているのかな、隼人」

「うわぁ!?」

 そこには、何というか………怪老人が居た。背は曲がり、頭頂は禿げている。顔の半
面は酷い痣に覆われ、そこに据えられている眼は白濁していた。確実に盲いている。だ
が、残る眼は爛々と輝き、持ち主が尋常成らざる人物であることを十二分に物語ってい
た。

 驚き倒すシンジとは対照的に、隼人は驚いた素振りすら見せずに応じる。

「よう、じいさん」

「ふん、元気そうでなによりだ。ふむ……コイツか? 新しいゲッターのパイロットは」

「いや…」

 隼人の返事も聞かず、シンジを舐めるように見回す敷島。

「な……なにでしょうか?」

 敷島の凶相を間近で見て、震え上がるシンジ。

「ふむ……少しナマっちょろそうだが、まぁ何とかなるか。それに…」

「はぅっ!!」

「この儂と初対面だというのに縮み上がっておらんと云うのが気に入った」

 そういって、敷島博士は手にしたモノをコリコリとこねくり回した。ようやく回復し
かけていたアスカだったが、(不幸にも)怪老人突然の下僕への凶行を目にし、反応で
きない。いや、現実と理性の狭間で二律背反に陥り、人事不省となっていた。衝撃的な
生理的災害の直後だけに、乙女には理解したくない事柄というものもある。

「ふむふむ……」

 そんな少女には、構わず敷島博士は嬉しげに新しい犠牲者(オモチャ)を弄くりまわ
していた。

「はぁっ………はぅぅぅぅっ!!」

 背後で浅間山が噴火したような気がしたが多分気のせいだろう。

「ん………なんじゃ?」

 一声上げ、力尽き、クラゲのようになったシンジを不思議そうに見る敷島博士。博士
は先程まで何かを掴んでいた手を鼻に近づけ、クンカと嗅ぎ一言いった。

「ふむ………若いな」

 ナニを根拠にその結論に達したのか全く不明だが、老人は平然としたモノである。

 一方隼人は弁慶に目配せする。弁慶は心得たとばかりに一目散に研究所へと駆け去っ
た。そして隼人は、敷島博士を咎める。

「じぃさん、それぐらいにしておけ。その子らはゲッターとは関係ない。【ネルフ】の
 パイロットだ」

「なんじゃ、それを早く言え」

 隼人の言葉を聞いて、敷島博士は少し惜しげな顔をする。

「…とはいえ、パイロットには違いない」

 目を細める敷島。シンジに向けられた隻眼から漏れる眼差しは、女衒宿の人買いの様
な目つきである。茫然自失しているシンジの肩に手を置き、囁いた。

「どうじゃ、ウチのパイロットにならんか? 給与・待遇・諸手当は出来る限り考慮し
 よう。そして、今の旧ゲッターには勿論、次期試作ゲッターにも乗せてやる。他のこ
 とにも、まぁ……身体的健康についてとか、天寿を全うするとか云う以外は相談に乗
 ろう」

「勝手言ってるんじゃあないわよ!」

 好き勝手言っている敷島の顔面にケリを入れるアスカ。ようやく行動可能となったら
しい。それに対して敷島博士は、一瞬シカメ面して豪快に笑い飛ばした。

「なかなか勇ましいな…結構結構。やはり、おなごは元気なのが一番よ」

 靴跡を顔面に張り付けつつも嬉しげにのたまう敷島博士。だが、(比較的)マトモな
言動はそこまでだった。未だ一部接触を継続している竜馬達二人の方に目を向け、アス
カに向けられた敷島博士の声には狂気が浮かんでいた。

「…丈夫な子を産んで貰わねばならん。ゲッターへ乗る前に死なれてはつまらんからな」

「じょ…」

「じぃさん、やりすぎだ! もうやめろ!」

「何じゃ、これからが醍醐味と云うに……」

「わぁ!?」

 その時、シンジの叫びが上がる。見ると弁慶がトレイに乗せたカップを倒して、如何
にも『しまった』と言う表情を作っていた。ジュースを滴らせたシンジを見るに、少年
へカップの中身をブチ撒けてしまったらしい。弁慶は如何にも申し訳ないと言う口調で
一気に畳み掛けた。但し、セリフは棒読みだ。

「ああ、シンジ君すまない。すこし、慌てていたんだ。本当に申し訳ない。幸い研究所
 には風呂とランドリーがある。さあ、そこに行って、汚れを流そうじゃないか。じゃ
 あ、そうしよう。そら急げ」

 そこまで一気に言い切ると、シンジをムンズと抱え上げ、一目散に研究所へ連れ入っ
ていった。余りの大根振りに皆毒気を抜かれた。反応性が極度に低下していたとはいえ、
アスカも全く反応できなかった。

「(大根過ぎるぞ、弁慶!)……あっちはまあ置いといてだ。それよりも敵はどうして
 いる、今の状況は判るか?」

「…判るとも。敵は二手に分かれて、ここを目指しておる。どちらか片方でも十分破滅
 的じゃろうて」

「で、研究所の方で何か策は考えているのか?」

「知らん。そういうことは早乙女に聞け」

「後で聞く。だが、じぃさんの方を聞いておかんと何されるか判らんからな」

「この善良なる儂が何をするというんじゃ」

「例えば、研究所を道連れにする、とかだ」

「何を云う。どうせなら日本を、ぐらいは言わんか」

「…用意しているんだな」

「さあな。死ぬときは自分の仇ぐらいは取ろうとするかもしれん」

「周りに迷惑を掛けるな」

「冷酷非情でならした革命運動家が優しくなったものじゃな」

「他のヤツに楽しみを取られたくないだけだ」

「…そういうことにしておくか。お前もミチル嬢ちゃんには嫌われたくはないだろうか
 らな。
 じゃが、儂の死んだ後のことまで知ったことか。死してなお、俗世に関知するほど器
 用ではない」

「良くいう。だが、もう一度言って置くぞ。勝手なコトしてくれるなよ」

「老い先短い儂の数少ない楽しみを奪うか…」

「そうだ。やるときは俺がボタンを押す!」

 そういった隼人の目にも正常な狂気とでも云うモノが浮かんでいた。若き同類の様子
に、敷島博士は面白くも無さげに鼻を鳴らした。

「ふん、…まぁ良いわ。後で竜馬のヤツに儂のラボに来るように云え。暇潰しに作って
 いたゲッター1用の新しいオモチャが完成したのでな。何もないよりはマシじゃろ」

「ああ、伝えておく」


            :

 その頃、特務機関【ネルフ】保安部四課S1課員(課長補佐)・兼任【ロンド・ベル】
保安主任・加持リョウジは、ニナ・パープルトンの延々と続くガンダム講釈に、撃沈寸
前だった。



<地球衛星軌道>      

 会合点にて、艦隊陣形を整えた第二二任務部隊TF22

 彼らはは、出撃前情報と地球情報網より伝えられた情報を持って、まず軌道上敵集団
で最大のソレを叩くべく、針路を向けていた。

 取り敢えず、敵の最大戦力を叩くのが戦いの常道であるからだ。そういった意味で、
作戦総指揮官であるエドワード少将は取り立てて奇策を用するような人間では無いこと
が判る。むしろ、基本を忠実に実践する人間と言えた。

 彼が従えている戦力は、大きく分けて

 第二二.一任務群TG22.1旗艦:【ラー・レゾルソ】
         群司令:ジャック・エドワード少将(任務部隊司令長官兼任)
 第二二.二任務群TG22.2旗艦:【ネェル・アーガマ】
         群司令:ファビオ・ギア准将指揮
 第二二.三任務群TG22.3旗艦:【バーミンガム】
         群司令:フョードル・クルムキン准将指揮

 以上の三部隊、計四七隻・機動兵器約七二〇機である。

 艦隊主力は、エドワード少将直率の第二二.一任務群……ではなかった。
 最大数の機動兵器を搭載するファビオ・ギア准将の率いる第二二.二任務群である。
この艦隊は、【ネェル・アーガマ】級機動巡航艦を旗艦として、【ハリオ】級機動巡航
艦 一、【ロンバルディア】級機動母艦 七、機動兵器(MS)三二〇機を擁する機動
艦隊だ。

 通常ならばこれだけで1コ任務部隊としても不思議ではない強力な編成だった。

 この主力を純粋な攻撃力として運用するために、護衛任務を受け持つのが、第二二.
三任務群だ。砲打撃力に限っては連邦軍最大級の戦艦である【バーミンガム】を旗艦と
する。この任務群は前述の旗艦を含め計二五隻で構成され、旗艦以外はシリーズ最強の
火力と機動力を持つ軽巡航艦【サラミス】級フライト IIIA(火力増強型MS搭載改修
艦)で固められていた。指揮官は老練にして堅実、そして勇気というモノの使い方を知っ
ている事で知られる、クルムキン准将である。

 艦隊司令部はこの艦艇群の強力な火力と搭載している一〇〇機程の機動兵器を持って、
艦隊の傘とし、敵より投げつけられた悪意を受け流すつもりであった。

 そして、エドワード少将直率の第二二.一任務群だ。
 旗艦【ラー・レゾルソ】を始め、L.A.R.計画に基づいて建造された艦で統一されてい
る。このL.A.R.計画とは『Landing Assolt Raiders(降下強襲兵団)』の頭文字で、過
去の地球圏大戦で培った戦訓を基に、適正な攻撃力(搭載機を含む)と十分な防御力そ
して、強力な推進機関とMクラフトの搭載によって戦場を選ばない機動力を持つ艦艇建
造を始めとする、兵站をも含めた統合軍備整備計画である。

 先行建造艦は第二次地球圏大戦末期から就役し始め、【ロンド・ベル】でも一時運用
され、多大な戦果を挙げた。

 そして前大戦の終結後、大気圏往還能力をも備える(高価な)艦艇を筆頭に多大な出
費を強いる計画の縮小・中止も論じられた。が、珍しく政府側が原因不明の精力さで計
画の続行を求め、それは認められた(無論その代償は払った。現役艦艇数を削減して、
かなりの艦艇が保管艦となった)。

 そこまで努力して整備されている姉妹達、戦艦二・軽巡航艦一一、計一三隻が肩を並
べ、約三〇〇機の最新鋭機動兵器を搭載しているのである。単一の任務群としては未曾
有の大戦力であった。

 この強力無比の任務群を作戦予備として攻防両面で活用することで、司令部は敵攻勢
作戦目的を挫折させ、任務を果たそうとしていた。

 しかしこの時、艦隊の如何なる人間も慢心していなかった。それどころか危機感すら
抱いていた。彼らの殆どは前大戦後の軍縮を経てなお、軍に残れるほどの人材ばかりで
あったからだ。彼らはこれほどの戦力を必要とされる現実の要求元が存在するという事
実に気付いている。

 誰もが、高揚と焦燥と功名と怯懦にまみれ始めた頃、一声が上がった。

「艦影確認!
 方位0−3−0、U10
 距離約三五〇〇」

 その報告に【ラー・レゾルソ】作戦室へ陣取っていた司令部は色めき立った。

「敵か!?」

 戦術参謀が噛み付くように問いただす。

「現在照合中です、待って下さい………判明しました。ペンタ所属軽巡航艦【アキレス】
 以下三隻。味方です!!」

「どういう事だ?」

 作戦室にざわめきが拡がってゆく。

「通信、ルナ2からの連絡は?」

「ネガティブ」

「確認しろ!」

「アイ・サー」

「新たな艦影確認!
 方位2−1−5、D30
 距離約五二〇〇
 【ハリオ】……いや、【アレキサンドリア】クラスらしい。友軍です」

「その後ろに別の艦影も確認しました。
 方位2−1−7、D32
 距離約六三〇〇
 【サラミス】クラス……おそらくフライトIICタイプ」

「回線開け!
 詳細を報告させろ!」

 一見動じる様子もないエドワード少将である。だが、その内心ではとろ火でジリジリ
と焦がされるような焦りを感じ始めていた。彼がこの艦隊編成について、重点を置いた
ことは何よりも機動力だった。新鋭艦と呼んで問題のない艦ばかりが選ばれたのは単な
る結果論である。エドワード少将は(あくまで戦術上の、であるが)行動の自由を得る
ために現在の艦隊編成とした。

 だが何が起こったか判らないが、哨戒任務展開中の艦艇が続々と合流し始めている。

「…確認しました。
 集結命令が出たそうです。第二二任務部隊へ合流、指揮下に入れと」

「なんだと!?
 ルナ2の連中は何を考えているだ」

 中継衛星網に偽電が入り込んだかとも思ったが、今の話では正規の命令が出ているよ
うである。もっとも敵が、多少暗号を解読していたとしても、ありとあらゆる大小さま
ざまな細工が施されている正規の命令を出せるまでの精確さは無理であろう。で、ある
ならば、軌道艦隊の誰かから出たと考えるのが自然だ。

 コーウェン中将の指示などではあり得ない。では、一体誰が……?

 しかしながら、彼にそんな事を考える贅沢はこれ以上許されない。
 このままでは、彼の作戦構想そのものが瓦解してしまう。今続々と加わり続けている
艦艇群にはかなり旧式艦が含まれる。無論、少なからぬ艦が損傷を被っているであろう
から、機動力が大幅に低下することは否めない。

 それ以上に重要なことがある。

 エドワード少将、彼は今戦場にいる。どのような愚劣なものであろうが決断せねばな
らない。危機に際してもっとも戒められるべきは『何もしない』ことであるのだから。

「航法参謀]

「サー?」

「展開中の軌道哨戒隊が全て我々に合流すると仮定して、直ちに艦隊統率構成の修正を
 行いたまえ」


<第八話Gパート・了>



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ver.-1.00 2000/03/28 公開
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<千年紀の春に詠める詩>



しみゅれぇしょん、後1たぁんで、朝日かな










今回のオマケ。えへっとな


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