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<第三新東京市・【第三使徒】迎撃戦場跡>      


 アスカはやたらに工事関係者が働くこの場所に来ていた。

 ここは【第三使徒】迎撃戦で、初号機が戦った場所だ。幾つか浮かんだバカシンジが
深い印象を持つであろう場所の中で、まず彼女はここを選んだ。

《アイツは確か第三新東京へ来て、いきなり戦ったと云っていた。
 たぶんココの印象が強いはず!》

 ともすれば、萎えかける気力をどうにかこうにか宥め煽って、アスカは手がかりを探す。

 辺りを見回して見ても、あのバカは見当たらない。見えるのは土建関係者ばかりだった。

 だが、何となく引っかかるモノを感じたアスカは、何とか自分の心を宥めスカして(
アスカのプライドは、目の前の土建関係者の単純肉体労働従事者の様な連中に自分から
接触を図るなど、論外だと考えていた)、土建関係者の中でも、声を掛け易そう者を見
繕って、声をかけた。

「ちょっと、そこのアンタ!」

 声を掛けられた事に気付いたその男は、「なんだろう?」と云わんばかり表情で振り
返った。

 その男は工事人夫姿で安全ヘルメットを被り、口髭を生やしていた。と、ここまで書
けば如何にもと云った厳つい男が思い浮かぶ。

 だが、その少年のように輝く瞳が全てを裏切っていた。

「もしかして、私れすか?」

 ついでに口調もだ。

 ネームプレートに書いてあった漢字をアスカは読めなかったが 「Shimazaki」と書い
てあったので男の名は判った。まぁアスカにとってはどうでも良い話だ。

 余りのギャップに一瞬声を失うアスカだったが素早く立ち直り、情報の入手に掛かった。

「そうよ、アンタよ」

「ハイ、何れすか?
 私ここのところ、アナタのみたいなお嬢さんに怒られるような事、してないんれすが」

「私もアンタなんか知らないわよ。
 アンタは私の質問に答えるだけで良いの!」

「そ、そうなんれすか...」

 男はどこか恐ろしさと懐かしさが入り交じっているような、そんな表情をする。無論
アスカがそんな些末事に頓着するはずもない。

「で、肝心の質問に入るわ。
 アンタ今日ずっとココにいたの?」

「ええ、まあ現場監督でしゅから...」

「ならいいわ。じゃ、答えて!
 私と同じぐらいのなよなよーとしたヤツが来なかった!」

「…何時ぐらいの話しれすか?」

「判らないから聞いているんじゃない!」

「そ、そうれすね...あの子の事れすかねぇ」

「!...知っているの!?」

「お嬢さんの云っている子か、どうかは判らないんれすが...」

「それは私が決めるわ。
 …云って」

「そうれすね...」

 現場監督 「Shimazaki」は心当たりの少年の特長をアスカに伝える。

「間違いないわね...けど、道のど真ん中で叫び出すなんて」

《かなり追い詰められてるわね。早まってなければ良いけど》

 何か考え込んでいる用に見えたアスカへ 「Shimazaki」は申し訳なさそうに声を掛けた。

「あの...もういいれすか?
 僕もそろそろ仕事に戻らないと、いけないんれす」

「Shimazaki」の声を聞いて、ようやく彼の存在を思い出したアスカは笑みを浮かべて
礼を言った。

「ありがとう、感謝するわ」

 そして、自然な仕草で 「Shimazaki」の頬に手を添えたかと思うと反対の頬へ触れる
か触れないかと云ったキスをした。次の瞬間にはアスカはツバメのように軽やかに駆け
出していた。

「...」

 後には頬に手を添えて呆然としている 「Shimazaki」が残された。
 後ろを忙しげに動いている作業員が、おかしい現場監督の様子を不審に思い声を掛ける。

「?...カントク?」

「...」

「もし… もし、もーし、カ・ン・ト・クぅ〜」

「...」

「?...おかしいな?」

 そんな彼に同僚が声を掛ける。

「どうした?」
「カントクが変だ」
「?...!! これは...」
「どうした!?」
「これはアレだ」
「何ぃ。 ならアレだな」
「そうだ。では、行くぞ」
「オウッ! 合点だ!」


「「サン、ハイっ!!」」


 …その日、第三新東京市では久々にハルカゼリクジョウイルカが観測されたという。

                :


 その頃レイはやはり現場作業員に接触。彼の趣味であった占いにより手懸かりをえて、
シンジへと近付いていた。


 レイが別れ際見せた微かな笑みで、居合わせた作業員全てを撃沈した事は余談である。

 これにより、その日第三新東京市建設スケジュールが 0.05%滞った事が報告されている。
ただ翌日以降、やたらに彼らの作業能率が向上していた事も付記しておく。



<第三新東京市近郊・仙石原>      


 少年が意識を現世へと戻したのは、その漢が原因だった。

「はぁぁぁぁっ!」
「ふんっ!」
「せぇりゃぁぁぁぁぁあ!」

 漢の山間の静寂破る裂帛の気合いと大地揺るがす震脚は、シンジの全てを揺るがしていた。

 その気合い十分の声は、虚ろなシンジの心を揺さぶる。

 その地響きすら起こす震脚は、脆弱なシンジの身体を震わせた。


 それは何らかの縁であったのだろう。
 その漢は、ドモン・カッシュであった。

 ひたすらに一人、稽古するドモン。シンジは何も云わず、何も云えずただ見ている。

 不意にドモンの動きが止まる。短く問いが発せられた。

「いつまで、そこに居るつもりだ」

 本人はどういうつもりかは判らない。だが、そのドスの効いた声はシンジを萎縮させ
る。

 シンジに明確な答えなど返せよう筈は無い。

 萎縮しようがせまいが、今の彼は答えなど持ってないのだ。

 ただ、衝動的に行動しているに過ぎない。

「あの...その...そ、そうじゃ無くって...」

 そう口にするのが精一杯だった。

 そんなシンジを見て、ドモンが怒号を飛ばす。

「貴様、男ならもう少しシャキッとしろっ!
 何を言っているのか、判らんっ!」

 そこら辺のチンピラなど、およびもつかないドモンの迫力にシンジは一層萎縮した。
 しどろもどろで許しを乞うのが精一杯であった。

「あ、あ、あ...あの...すいませんっ!」

 控えめに表現して情け無いシンジの様を見て、ドモンは面白く無さそうに鼻を鳴らした。

「フン...まぁ、いい。邪魔をせんのなら好きにするが良いさ」

 そして、ドモンは再び練習へと戻る。

 シンジはそのまま、稽古に精を出すドモンを見続けていた。



<南米・旧アルゼンチン共和国レシステンシア>      


「ばあちゃん、ここでいいかい?」

 青年が背負っている老女に何やら確認をしている。
 背中の老女は、年輪を刻んでいると云うより皺クチャになったと表現した方が正しい
顔をしている。老女は、その皺の一部になりかけている口を開いて、カクシャクとした
口調で青年の礼を言いつつ、青年の背から降りた。

「...済みませんですじゃ、お若いの」

「若いのじゃない、マサキだ。
 俺の名前はマサキ・アンドーって云うんだよ、ばあちゃん。
 全く、何回云ったら憶えてくれるんだよ...

「かっかっか、そうじゃったの...お若いの」

「はぁ...」

 全然判っていない老女に溜息しか出てこないマサキ。
 そんな彼に老女は忠告らしき事を言った。

「溜息なんぞ、つきなさると幸せが逃げますぞ、お若いの」

《そんなモノには、とっくに縁が無くなってるよ》

 肉親とは死に別れ、生まれた世界からすらこぼれ墜ちてしまった、天涯孤独の彼はそ
んな事を思う。だが、そんな老女を決して嫌っているわけではないらしい。律儀に応じ
ていた。

「...気ぃつけとくよ、ばあちゃん。
 で、そろそろ日本はどっちに向かえば良いか、教えて欲しいんだけどな」

 どうやら、マサキは道を教えて貰う代償に老女の足代わりとなっていたらしい。その
時、額の汗が美しく輝いたかは、定かではない。

「そうじゃった、そうじゃった。
 日本は確か、北西の方じゃったな。
 それ、そこに立っとる標識が差しとるプレジゼンシアロケの方へ向かえば、着くじゃ
 ろうて」

「ホントだろうな、ばあちゃん」

「お若いの...年寄りの云うことは、も少し謙虚に聞きなさるが良いぞ。
 さすれば、この様なところでババに道を聞くハメになるような事など、無かろうて」

 心当たりが有り過ぎるマサキは一瞬息が詰まる。

「‥‥‥判った、判ったよ。
 ありがとう、ばあちゃん。
 じゃあ、俺行くわ」

「うむ、達者でな」

「?...ばあちゃんは?」

「迎えが来ますからの」

「そうかい。じゃな、ばあちゃん」

        :

 路傍の石に腰掛け、人を待つ老女。ここが南米であって良かった。
 言い方は悪いが、枯れ切ったその姿は仏教圏なら即身仏と間違えかねない。

 そんな老女の足下に影が差した。

 どこかノンビリとした雰囲気を持つ妙齢の女性だ。どうもこの女性を老女は待ってい
たらしい。どことなく老女と似ているようだ。多分娘か孫なのだろう。マサキがこの場
にいれば、多分ラングランに居るはずの誰かを思い出したであろう。が、今彼は此処に
いなかった。

「あら早いのね、おばあちゃん」

 雰囲気だけでなく、声も口調も穏やかでノンビリとしている。対照的に老女は嗄れた
声でやや忙しげな口調である。

「うむ、親切な若者に逢うてな。
 ここまで、連れてきてもろうた」

 あらー、ってな感じで応じる娘さん。マイペースである。

「親切な人も居たものね。
 お礼はしたの、おばあちゃん」

「無論じゃ...日本への方角を聞かれたんじゃでキチンと教えてやったわ。
 そこの標識を使ってな」

 それを聞いて娘さんは少しだけ慌てて(あくまで先程までと比較した場合の話である)
標識の方へ向けた。

「…おばあちゃん...そこの標識、この間の大風で、デタラメ指しているんですけど」

「なぬ...」

 老眼鏡を取り出して、確認する老女。
 そのこめかみに一筋の汗が流れるところを、妙齢の女性はしっかりと見取った。

「おばあちゃん...」

 娘さんが、嘆息しつつ呟いた。

「…若者には試練が必要じゃ...かっかっか」

 応じる老女の声が何処か取り繕うような響きを漂わせていた。

「はぁ...」

 娘さんは頬に手を当て、息をつく。

 風はどこまでも自由に吹いていた。


                :

 同刻、ラサ


 彼女は神秘的な色を振り撒きつつ、その地を踏み締めていた。行き交う人々は年齢不
詳の美しい彼女の姿を見ると男も女も惚けたように立ち止まる。勿論視線は彼女を捉え
たままだ。

 人々のその視線に気付いているのか居ないのか、彼女は実にマイペースに不釣り合い
なほど大きい軽金属製らしいトランクを持って歩んでいた。曳き摺る様に運んでいる大
きいトランクだが、実際地面に白い線を残す。本当に曳き摺っているらしい。トランク
は大丈夫かとも思うが、見るからに頑丈そうなソレは額面通り頑丈のようだ。今のとこ
ろ、壊れる様子は微塵もなかった。

 そんな彼女の前を塞ぐ人影が居た。

「…?」

 彼女 -ラングラン練金学士アカデミー教授 ウェンディ・ラスム・イクナート- は、
その細い見栄えのする頷(おとがい)を傾かせていぶしむ。

 人影が彼女に声を掛けた。

「姉ちゃん」

 彼女は辺りを見回す。そして、声を掛けられた事を認識するとごくごく気易い口調で
応じた。彼女の前にいたのは年の頃12、3の少年達であった。

「はい、何でしょう」

 余りの太平楽さに一瞬気が抜けた様子の少年達。気を取り直して、彼女へ再び声を掛
ける。

「…姉ちゃん」

 一般称で呼ばれた彼女は、輝くような微笑みを浮かべてまたもや応じる。

「はい?」

 それは少年達には威力絶大であったらしく、少年達は皆頬を赤らめる。ついでにその
様子を見ていた通行人の顔までをも赤く染めたのはご愛敬だろう。少年達も実にやりに
くそうである。

「姉ちゃん、そのトランク持って運ぶの大変そうだね。オイラ達が手伝ってやるよ」

 それを聞いて、思案顔するウェンディ。

「ありがとう。でも、これとっても重いのよ?
 アナタ達の申し出は嬉しいのだけど、遠慮しておくわ」

「そう言うなよ、ねぇちゃーん。
 ほら、俺達が持ってやるからさっ!」

 そういってリーダーらしい少年が、ウェンディの手からトランクを取り掴む。

「それぇー」

 そう叫んだかと思うと少年は四方八方に散って逃げ去った。

「‥‥‥えーーーーーと‥‥‥」

 ウェンディは状況が把握できていないかのように、呑気に彼らが逃げる様子を見送っ
ていた。ようやく口から出た言葉も呑気そのものだった。

「…気の早い子達ね。行き先聞く前に駆け出すなんて‥‥‥」

「「「姉ちゃん、大丈夫か? 何ひったくられた?」」」

 先程の様子を見ていた男共がウェンディへ声を掛ける。言葉だけを聞くと親切心から
の様だが、その様子は獲物に踊り掛かるオオカミのソレであった。

 その様子にも全く怯む様子無くウェンディは、楚々と応じる。

「大丈夫ですわ。少し行き違いがあっただけです」

「「「でもアイツら、この辺荒らし回ってるストリートギャングだぜ」」」

「…『すとりーとぎゃんぐ』ですか?
 よくは判りませんけど、いい子達でしたわよ」

「「「そんなわきゃないって」」」

「その様には思いませんけど...
 あの...子供達と逢わなければいけませんので、これで‥‥‥」

 そう言ってウェンディはにこやかな笑みを浮かべながらその場所を後にする。笑顔に
魅了され硬直する男性陣を置いて、彼女は外套内懐から何やら小型端末を取り出した。

「こっちへもラプラスロジック組み込んだ端末持ってきて良かったみたいね。
 マサキもそうだけど、地上の方ってせっかちな人多いのかしら」

 そう言って彼女は頬を赤らめた。彼女が追ってきた想い人の名を口にしてようやく実
感できたのだ。彼を追って、彼の世界へと来た事実に。

 夢想の世界に耽る彼女だったが、ようやく現実に復帰すると手にした端末を何やら操
作する。

「…こっちね」

 彼女は落ち着いた様子で端末に示された方向へ首を向けた。

                   :

「イーサン兄貴ぃ、何か俺悪いコトしちゃった様な気がするんだけど‥‥‥」

 トランクを抱えたリーダー格の少年の名を呼んで、後ろに付き従う少年は内心の葛藤
を話した。
 それに答えるイーサンと呼ばれたリーダー格の少年の口調も歯切れが悪い。

「云うな‥‥‥俺達がこんなコトしなきゃあいけないのも、全部連邦とDCが悪いんだ
 からな‥‥‥俺た、ブッ!!」

 そこまで云ったイーサン少年は何か柔らかいモノにぶつかった。後ろの少年へ視線を
向けていて、人にぶつかったらしい。鼻を押さえて抗議する。

「…つっっっっっ‥‥‥気を付けろっ!」

「あら、ごめんなさい。でも、前を見て歩いた方が良いわよ。怪我するわ」

 イーサン少年はつい今し方聞いた様な気がする声に首を軋ませながら、顔を上げた。

 そこには、先程の美女がにこやかな顔をして、手を振っていた。

「!!」

 硬直する少年達を見て、ウェンディはごくごく自然に少年達へ声を掛けた。

「ご苦労様。
 でもね、アナタたち。お姉さんと話し終わる前に行っちゃ、ダメでしょう?」

 ウェンディにぶつかったイーサン少年以外の少年達は、驚きを顔に張り付けたまま、
ぎこちなく頷く。

「そうそう、その通りよね。
 何処へ行くか判らなくちゃ、迷っちゃうでしょう? 親切なのは良いけれど、それじゃ
 誤解を生むことになってしまうわ。折角良いことをするんですもの、気持ちよく誉め
 て貰いたいでしょう?」

 またもや、ウェンディにぶつかったイーサン少年以外の少年達は、硬直したまま頷く。

「やっぱり、そう思うわよね?
 人の話は最後まで良く聞きなさいって、云われたこと無い...あるわよね?
 …ワタシも小さい頃は人の話を聞きなさいって怒られた事たくさんあるから、余り偉
 そうなこと云えないけどね」

 そういって彼女は微笑んだ。彼女にぶつかった以外の少年達は一様に顔を赤らめて俯
いた。

 その様子を見て、ウェンディは満足そうな顔をする。

「良かったわ、判ってくれて…あんっ!」

 だが、目の前のイーサン少年だけは違ったらしい。ウェンディを押しのけ、再びトラ
ンクを抱えて駆け出した。

「あら、もうっ‥‥‥言ってる先から。
 困った子ね。
 あの子、いつもそうなの?」

 ウェンディは少年達の方を向いて尋ねる。全員揃って、首を振る姿はどこかユーモラ
スだった。

「しょうがないわね。
 じゃあ、みんなで行きましょう‥‥‥ね?」

 少年達に抗うすべは無かった。

                   :

 イーサン少年は力の限り走った。縦横無尽に、疾風怒濤の如く、韋駄天の化身と化し
て、慣れ親しんだラサ市街スラムを駆け抜けた。

 息が切れ切れになるまで走って、ようやくイーサン少年は足を止めた。

「(はぁ、はぁ、はぁ)‥‥‥‥もう、大丈夫か?」

「そうねぇ...出来ればもう少し先まで持って運んで貰えないかしら?」

「判った‥‥‥えっ?」

 そこには、やや見慣れ始めた美女が仲間の少年を従えて、息も切らせず自分の顔を覗
き込んでいた。

                   :

 イーサン少年は再び走った。無我夢中で、忘我の境地で、何かに取り憑かれたように
何処をどう走ったか本人にも判らないまま駆けていた。

 もう足が動かない。彼は路にヘタり込んだ。

 ケモノのような息遣いが辺りに響いていた。

 喉が灼けつくように乾いている。喉を潤したい。そんな欲求をイーサン少年が感じた
ときだった

「はい。お疲れさま」

 言葉と共に差し出されたコップをイーサン少年は急いで手に取り、一気にあおった。

「…あまり、慌てて飲まない方が良いわよ」

 どこか苦笑気味の声にイーサン少年は気付く。
《見たくない、見たくない》と、恐怖に顔を引く攣らせながらイーサン少年は横へソロ
ソロと視線を向けた。

 やっぱり、居た。
 今度はご丁寧にも仲間と一緒にお茶会している。普段殺伐としている仲間の和んだ表
情がやけに印象的だった。

 イーサン少年は悲鳴を上げて、デタラメに手を振り回しながら三度駆け出した。

                   :

 イーサン少年は心臓が破れんばかりに走った。走って、走って、走り抜いた。そして、
走り抜いた先で、やはり女性の身体にぶつかった時にはもう半狂乱だった。

「うわぁぁぁあっぁぁぁっ!!!!!!
 寄るなぁー、触るなぁー、近付くなぁー」

 えらい言われようである。ソレに対する報復は至極普遍的だった。

 首を竦めるような小気味よい乾いた音が辺りに響く。
 頬を叩かれたイーサン少年は一瞬呆然とする。だが、この慣れ親しみのある痛みは違
う。あの女じゃあない。

「人にぶつかっといて、それは何よっ!!
 いい度胸してるじゃない! 覚悟は出来てんでしょうね、イーサン!?」

 イーサン少年はやたらに勢いの良い自分より1、2歳年上の少女を認識した。動きが
止まったかと思うと、やおら涙ぐみ、その少女の名を叫んで抱きついた。

「クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! ………‥‥‥・・・」

「なっ! ちょっ! 止めなさい! 止めなさいよ、イーサン」

 クェスと呼ばれたホワイトブロンドの少女は慌てる。少女はその髪を左右に分け、上で
結んでいる。大きさが違うところがこの少女らしさを醸し出す。彼女は髪を振りながら、
イーサン少年を咎める。

 が、全く彼は関知していない様子だった。

「クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! ………‥‥‥・・・」

 挙げ句に、クェスのまだまだ発育途上の胸の谷間に、顔を埋めて首を振る。少女の口
から漏れ出す声が震える。

「はぁ...っ!...やめ...」

 イーサンの叫びは止まらない。ついでに首もだ。

「クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス!
 クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! クェス! ………‥‥‥・・・」

「やめなさいって、言ってるでしょーっ!!」

 クェスが雄叫びのような怒号を上げると同時に、イーサンは鳥になった。

                   :

 クェスが路上に無様な格好を晒しているイーサンをどうしてやろうかと見下ろしてい
ると、女の自分から見ても綺麗な妙齢の女性がこちらに近付いてきた。

 その女性はイーサンが持ってきていたトランクを拾って、イーサンへと近付いた。そ
して、イーサンを心配そうに看ている。

 先程の刺激的な体験から、多少気が立っているクェスは激しい剣幕で女性を呼び止めた。

「あんた、一体何よっ」

「あら、アナタ。この子のお友達?」

「そうよっ!」

 丁度ウェンディの後を追い掛けてきていた少年達とイーサンを示して、彼女は云った。

「あら、そうだったの...私はウェンディ・ラスム・イクナート。
 親切なこの子達のお世話を受けた者です」

「親切って、一体どういう事よ!?」

「…何処から云えばいいかしら」

 クェスの剣幕にウェンディは少し困った顔をして、聞き返した。

「全部よ、全部っ!」

「全部?
 そうね...じゃあ、私がここに着いた所から話すわ...」

 ウェンディの長い長い話が始まった。

                   :

「...で、結局悪いのはアンタって訳ね、イーサン」

 かなり疲れた顔をしてクェスは呟いた。

 確かにウェンディはクェスの要求通り、全部話した。

 流石は次期練金学協会総裁候補と目されるだけはある。
 少年達に遭う前、彼女がラサに着いてから、微に入り細に穿ち、実に詳しく、一切の
妥協無く、(多少彼女の主観で味付けされていたが)全部話していた。

 ただ、その実に詳しい学術的且つ専門的な説明は破壊力抜群だった。周りを見る
と死屍累々。仲間の少年達も、枕を並べて討ち死にしていた。クェスは彼女の話を最後
まで聞き切った自らの強靱な精神力を賞賛していいだろう。

 ようやく話を聞き終わり、所感を述べたクェスである。が、ウェンディはやんわりと
した口調で、彼女の正しい間違った理解を訂正した。

「クェス・エアさん、それは違います。イーサンくん達は、見知らぬ土地で右も左も判
 らない私を助けてくれたのですよ。誤解しないであげて下さい」

 クェスはその言葉に感動した。

「アナタっていい人なんだ...」

 幼い頃から周りにいたのは、上っ面ばかり気にする情けの無い大人と、その大人に媚
びを売る更に情けの無い大人だらけだった。

 彼女にとってこの驚きは新鮮だった。
 それに、このウェンディと云う女性は彼女の好奇心を刺激する。一緒にいて非常に快
い感じももちろんするのだが、それだけではない気がしていた。秘められた何かを感じ
る。まるでもう一人そこに居るかのような存在感...

 その摩訶不思議さは、クェスに突発的な行動を思いつかさせていた。

「そうだ!
 アナタ、何処か行くところあるんでしょう。
 皆が世話になったみたいだし、ワタシが連れていってあげる」

「えっえ!?」

 ウェンディは猫の目のように変化する彼女についていけない。

「ハイ、そう言うことでねっ!
 きーまり!!」

「えっえっえ」

 狼狽するウェンディを尻目に、クェスは爆睡中のイーサン少年を叩き起こす。

「起きろっ、イーサン」

「痛っ‥‥‥‥なんだ、クェスか」

「なんだじゃないでしょう...まあ良いわ。
 クリスティに帰りが少し遅くなるって言っといて。ワタシはこの人を案内する事にし
 たから」

 いつもの事ながら、クェスの遣ること、為すこと、突拍子が無い。イーサン少年は頭
上に疑問符を大量に瞬かせながら、返事を返す。

「???...あっ、そう...気を付けて...???」

「何か言いたそうね、アンタ。
 …まぁ、いいか」

 茫然としているウェンディに、クェスは振り向き宣言した。

「じゃ、そう言うことで...しゅっぱーつっ!」

 クェスは楽しげにウェンディの腕とトランクを抱えて、出発した。
 因みにウェンディは未だに復活できていなかった。

                   :

 彼女、クェス・エアこと、クェス・パラヤが復活したウェンディに目的地を聞いて、
自分の宣言を後悔するのはもう少し後である。

 合掌。


        :

 同刻、大分某所上空


「あー、やっと地上に出てこれた...」

 30mの女性型機動兵器【ヴァルシオーネR】コックピットで、口を開かずにその服
装を改めれば、と深窓のご令嬢と云って全く問題無い金髪碧眼のうら若き美女、リュー
ネ・ゾルダークはここに来るまでの苦労を思い出した。

 因みに"女性型"機動兵器と云う表現は比喩でも何でもない。そう表現するしかない造
形をその人型機動兵器はしているのだ。

 それはさておき、少女は声高に宣言する。

「【ロンド・ベル】は今イズの方にいるって話だし、もうすぐマサキにも逢えるわね。
 見てなさいよ、マサキ。乙女をコケにした罪は、万死に値するのよ」

 やたら、意気込む少女であるが、少女のメリハリの効いた身体から聞こえた音が全て
をコメディへと貶める。

 腹の虫がいつもより少し大きめに存在を主張したのだ。

「...お腹がすいたら、戦えないって、事なのよね。
 あはっ、あははははは」

 誰に云うともなく、笑って誤魔化すリューネ・ゾルダーク。
 ややラフ過ぎる服の上から、お腹をさする。

「この辺に良い店無いかなぁ...えっ!?
 きゃ〜っ! 見つけた!!
 アタシ好みの店だぁ〜!!」

 滅多と無い、かなり特殊な彼女の嗜好に120%当てはまる店が、サブウィンドウへ
映っていた。

        :

「ごめんくださーい」

「はいはい...おや、お待ちしていましたぞ。
 いらっしゃい。」

 店の奥から出てきたなのは、これまた店にマッチしたお爺さんと呼ぶに相応しい和服
姿の人の良さそうな老人であった。まるっきり時代劇に出てきそうな峠の茶屋といった
この店に、違和感など微塵も感じさせず溶け込んでいる。

 声の主の声色に微かな違和感を感じながらも、リューネは返事をする。

「ど、どうも...何処かで逢いましたっけ?」

「それはもう、様々な世界でな」

「えっ!?」

「いえいえ、冗談ですで気にしないことですじゃ。
 で、何になさいますかの」

「えーっ、と...じゃあ、お団子お願い」

「判りましたじゃ。
 少々、お待ちを」

「お水は出ないの?」

「冗談云っちゃいかんぞな、嬢ちゃん。
 それでは、折角の団子が存分に味わえなるじゃろうで。
 団子に良くあう茶と一緒に、すぐ出すで待ちなされ」

 暫し、風の囁きだけが辺りを満たす。
 それに浸るリューネ。

《...こんなにユッタリとするの久しぶりだな...地球圏に帰ってくる前...木
 星圏以来かな...
 そう云えば、色んな事あったな...》

「お待たせしたじゃ」

 浸っているリューネにいきなり懸かる声。
 リューネは見掛けによらず(見掛け通りと云う話しもある)それなりの修羅場を生き
抜いてきた歴戦の戦士だ。その彼女へ気配すら感じさせずに、店主は彼女へ近付いてい
たのだ。

「ひっ!?」

 驚いて飛び上がるリューネ。
 蠱惑的な胸の谷間を露わにしているタンクトップの胸元へ右手を当て、椅子ごと後ず
さる。

 心臓がバクバクいっているのがよく判った。

「どうしたかの、注文の団子じゃ」

 そうは云われても、未だ落ち着かない心臓を抱えて冷静な受け答えが出来る訳がない。

「あ、あ、あ、有り難う...そこに置いといて」

「...?
 云われんでも、そうしとるがの?
 ゆっくりして行きなさるが、良いぞ」

 そういって店主は奥に下がる。

 リューネは、二度三度と深呼吸をして気持ちを静めた。

「さーあてっ、と。
 お団子、お団子。
 あ〜...」

 最後の『ん』を云うか云わないか、そんなタイミングだった。

「こりゃぁっ!!」

「ひぃっ!!」

 いきなり上がった怒号にまたもや慌てふためくリューネ。
 思わず、団子串をお手玉してしまう。それでも取り落とさないのは、流石というべき
か、食べ物に対する執着が凄まじいというべきなのか、判断に迷うところだ。

「なっ...何!?」

 余りの驚きに、完全に声が裏返っているリューネ。

 そのリューネに凄みながら、店主は威圧するようにのたまった。

「嬢ちゃん、これは何事かの?」

「え...えっと、何事って...」

「団子から食べようとなされたじゃろぅ?」

「はっ、はぃぃ」

「いかんじゃろ。
 まず、茶で十分喉を潤しつつ、外での汚れを流す。
 そして、十分団子を味わえる状態を作ってから、団子じゃ!
 …判るな?」

 教え諭しながら脅すという高等交渉術を使う店主に、雰囲気に巻き込まれているリュ
ーネは極めて従順だった。

 無言で首を縦に振っている。

「...わかったようじゃな?
 では、まずお茶から頂きなされ...団子はそれからじゃ。
 そうそう、卓にある品書きの裏も、見なさるが良いぞ。
 嬢ちゃんには、必ず役に立つこと間違い無しじゃ...ふわっはっは」

 そういって店主は、再び奥へと下がった。
 完全に店主の姿が消えたことによって、ようやく硬直が解けるリューネ。

「...はぁ〜〜〜〜あぁ、何なのよ、この店は」
 ここの店主、アタシに何か恨みでもあるのかしら?」

 そう云いつつも、リューネは湯気立つお茶に口をつける。

「...あら、おいし」

 そして、慌てていても決して落とすことの無かった団子を口にする。

「(...)やだっ、これもおいしぃ...」

 口に手先をあてつつ、感嘆の言葉が漏れ出る。
 この時、リューネの頭の中からは、奇怪な店主の仕打ちの数々はキレイに抜け落ちていた。

 上機嫌でお茶とお団子を味わうリューネ。

 落ち着いたところで、卓上にあった献立が目に付いた。
 店主の言い残した言葉が甦る。

『...卓にある献立の裏も、見なさるが良いぞ。
 嬢ちゃんには、必ず役に立つこと間違い無しじゃ...』

「...何が書いてあるのかしら...?」

 そこに書いてあったのは...

  逆光は勝利!!
優柔不断でハッキリしない彼を持つ貴女!
はたまた、燃え上がるような想いに気付かない極めつけに鈍い彼氏を待つ貴女!

そんな彼には、コレしかない!

圧倒的な光を背にして、彼に迫るべし!!

溢れでる光りをバックにあらわれ居出る貴女を見ればどの様な男でも、神々し
さ百万倍の貴女に彼が平伏すこと間違いないだろう!

これで貴女の幸せは約束されたも同然。
後は実践あるのみ!

いざ、往かん乙女御よ!!
至福の時が待っている!!




 少女の瞳に、希望が満ち溢れようとしていた。

        :

 店を後にする少女を見えなくなるまで見送る店主。
 そして、完全に少女が見えなくなった後、高らかに笑い始めた。

「ふわぁーはっはっはっは!
 ぶわぁーはっはっはっはっはっはっはっはぁーっ!!」

 そして、キレイに整えた白髪と白髭を手にして、思いっきりむしり取った。
 現れたのは、二十歳前後の紅顔眩い青年の顔。

「いいぞ...いいぞ、リューネ・ゾルダーク!
 お前の幸せは、この俺が導いてやる!
 我に導くままに征けば、あのニブチン熱血方向オンチなぞ、どうとでもなろうとも!
 くっくっくっく...ぶわぁーはっはっはっはっはっはっはっはぁーっ!!」

 人が何を企もうとも、風は自由に舞っている。

 この時もまた、風は思うが侭に吹き舞った。
 それは店の軒先に掛かっていた急拵えの看板をホンの少しだけ揺する。
 それは彼の枷を解き放った。看板は不当な戒めから今自由への第一歩を踏みだしたのだ。

 看板は綺麗な弧を描いて、大地を踏みしめんとする。ただ戒めの場所と踏み出すべき
大地の間には、店主の頭部があった。

 思わず肩を竦めるような大きな音が立ち、そして静寂が漂った。

 −−−−店主、完全に沈黙−−−−

 看板に記された屋号は

〔彩羽堂〕

 ...漂う静寂がただ物悲しかった。




<キリマンジャロ ティターンズ基地施設貴賓室>      


 そこは軍施設の中の筈だった。軍関係と言えば、質実剛健・機能本意・効率優先。思
い浮かぶは、おおよそ"華"があるとは言い難い言葉ばかりだった。

 だが、この部屋はそれらの殆ど事実に近い偏見を嘲笑うかのように華美だった。

 そして、その部屋に陣取るは目つきの鋭い一人の老人、【ティターンズ】総司令ジャ
ミトフ・ハイマン中将である。

 老人は部屋を訪れていた【ティターンズ】実戦部隊のトップ、バスク・オム大佐に尋
ねた。

「首尾はどうだ、バスク」

 バスク・オム大佐は主の問いに朴訥な答えを返した。

「まずまずと言ったところです、ジャミトフ閣下」

「…そうか、キンゼーめは良くやっているか」

「はっ」

「…で、詳細は?」

「現在の所、艦艇10を基幹とする敵艦隊を一つ撃退。
 損害はパイロットが0。MS損失が3、大破が2、中破以下が10。
 戦果は軌道爆撃艦1、軽巡クラスが1、機動兵器が12。
 投入戦力を考慮しても十分戦果を上げております」

「…そうか。で、落ち度は無いのか?」

「あります。所属不明の小型HLV 2基を確認するも、取り逃がしております」

「その内の一つがここキリマンジャロを襲った、と言う訳だな」

「仰る通りであります」

「...で、どうする?」

「キリマンジャロ基地司令の更迭を既に行っております」

「…他は」

「まだであります」

「そうか...まだか」

「はっ」

「では、キンゼーをグリプスに召還せよ。
 待てよ...そう言えば、ヤツの肝いりで引っ張った元DCエースパイロットがMS
 隊に居たな?
 そいつらも一緒にだ」

「…出る杭は打たれる、と言う訳ですな」

「…滅多なことを云うモノでは無いぞ、バスク・オム大佐。
 彼らは地球軌道制空権掌握の任務を怠った疑いで召還されるだけだ。
 決して、手柄を立てさせぬ為ではない」

「申し訳ありませんでした」

「…うむ、わかれば良い。
 後任を決め次第、入れ替えだ。迅速にな」

「了解です。後任は、ジャマイカン・ダニンガン中佐で宜しいでしょうか?」

「そうだな。だがあやつはMS戦に疎いはずだ、どうする?」

「機動戦闘団指揮官として、テネス・A・ユング少佐を赴任させましょう。
 取り敢えずは間に合うはずです」

「ふっ、テネス・”F”・ユングか...」

「そうです、”F”・ユングです。連邦No.1エースの指揮振り...見物でしょう」

「云うではないか...よかろう。
 では、急げ。
 それからな、バスク...」

「まだ、何かありましょうや」

「うむ...グリプスへの戦力集中はどの程度済んでおる?」

「所定の戦力の殆どは済んでおります。
 地上へは基幹根拠地を除いて、最低限の守備隊のみ残しております」

「よし、判った。
 何かあったら、構わん。直ぐにワシに知らせよ」

「承知いたしました。
 ではっ!」

 そういって、異形の大男は部屋から退出した。

 息を吐くジャミトフ。
 立ち上がり、棚を開いてタンブラーに酒を注いだ。

《...さて、これからどうなるかな?
 戦力は整ってきておる...【バイストンウェル】とか云う連中との渡りもついた.
 ..経済的にもロームフェラーの後ろ盾がある...後は議会と連邦軍への取込工作か。
 もはやコーウェンの老いぼれは畏るるに足らん。ドーリアンやバウアーが目障りだが、
 パラヤ達、腑抜け連中の取り込みなどたやすい。
 後は敵次第か...ペンタゴナの連中や【ゲスト】にもう少し頑張って貰いたいモノ
 だ...これでは、目論見が崩れてしまうではないか。DC残党狩りの様にチマチマと
 やりたくはないものだな...》

 そして注ぎ終わったタンブラー片手にジャミトフは上を見上げた。その視線の先には
人の良い笑顔を浮かべる戦友の顔があった。

「さてブレックス・フォーラ准将殿、どうするかね?
 ワシを止めてくれるのでは、なかったか?
 ワシはもうすぐ連邦を掌握してしまうぞ...クックック」

 その顔には陰惨な陰がさしていた。



<第三新東京市・路上>      


 躍動するプライド。

 今の彼女を表現するにいささかの問題はあるにしろ、それは的確だった。
 躍動しているのは彼女の心。そして、その躍動に振り回されているのが彼女のプライ
ドだ。

「〜♪」

 ともすれば、スキップをし始めかねない自分を、どうにかこうにか、セカンドチルド
レンとして磨き上げられたプライドで押さえ込んでいたのだ。

《待ってなさい! 私の手を煩わせた代償は高く付くわよー、バカシンジ!》

 そう彼女、惣流・アスカ・ラングレーはようやく、失踪した不逞の下僕、碇 "バカ"
シンジを捕捉しようとしていた。

 【第三使徒】撃退戦場跡を離れたアスカは、要所要所であのバカの足取りの手懸かり
を得て、順調に捜索を進めていた。

 そして、今彼女はココ第三新東京ターミナルいた。
 この様な人目の多い上、成人ばかりが残っているこの街で、シンジのような年頃の少
年が如何にも人生に悲観していますと云った感じでフラついていれば、目立たない訳が
ない。事実、戦場跡からの追跡はしごく容易だった。

 どうもあのバカは、この駅から電車に乗ったらしい。なら、虱潰しに各駅で足取りを
確認すれば良い。

 後はこの調子で行けば、じき捕まえることが出来る。アスカはそう思ったのだが。

「「惣流・アスカ・ラングレーさんですね?」」

 改札を通ろうとした彼女の前に立ち塞がり、慇懃無礼な声を掛ける二人の男。
 旧世紀より連綿と続くスパイ役シネマアクターの様な格好をしたM.I.B.
 【ネルフ】保安部だ。

「何よ! 何か私に用!?」

 その彼らに激しい口調で詰問するアスカ。

 アスカのペースに引きずられる事無く、ネルフM.I.B.は感情を消し去った声で答えた。

「只今、貴女は第三種待機命令を受けているはずです」

「判っているわよ」

「では、この先へ進むのはご遠慮いただきたい」

「どうしてよ!!」

 殆ど反射的に反発するアスカ。人の行動を制限するくせにその理由をまともに語らな
い。ネイティブアメリカンの様な掴みどころのない話し方が一層アスカには気に入らな
かった。

「万が一、貴女が必要となった場合支障を来します。
 ご理解いただきたい」

「ご理解できる訳無いでしょう! 理由になってないわ!
 大体、貴方達のこの行動は作戦部の決定なの? それとも【ネルフ】の総意?」

「いえ、保安部の要請です」

「なら、従えないわ。
 …通るわよ」

「「お通しできません」」

「ならば、押し通るまでよ! Gehen!」

 二人の横を抜こうとするアスカ。
 だが、目の前の二人も一騎当千とまでは行かなくてもそれなりの訓練を受けている保
安部精鋭だ。巧みに連携して、アスカの行く手を遮る。

 そして、改札前で本人達にとっては真剣な。だが、他人にとっては喜劇としか見えな
い闘いが繰り広げられる事になる。

                :

 一進一退の攻防(?)は15分ほど続けられた。
 こめかみより流れる汗を手で拭い取りながら、アスカは独白した。

「...(はぁはぁ)...アンタ達もしつっこいわね...(はぁはぁ)...」

 別に返事など期待していなかったであろうが、律儀にM.I.B.達も答える。こちらも汗
みどろだ。

「...(ぜぇぜぇ)...これが我々の役目だ...(ぜぇぜぇ)...」

 それを聞いて口の端に笑みを浮かべるアスカ。

「...(はぁ)...そう...でも、しつっこいのはモテないわよ」

「...(ぜぇぜぇ)...心配要らんっ、二人とも既婚だ!」

「そりゃ、よかったわ...」

 そこまで口にしたときだった。

「でもねっ!」

 一声を挙げて、高らかに跳び上がるアスカ。

「「ぬぅっ!」」

 そうはさせじとしたM.I.B.だったが。

 …彼らの目の前には、大輪の花が咲いていた。

「「!!」」

 一瞬、花の中央にあった薄いピンク色の何かに気を取られたM.I.B.の片割れに、踵落
としが見舞われた。

「ふぐぅぉっっ!」

 アスカはそのまま、蹴り飛ばしたM.I.B.の頭を足掛かりにして、更にその後方へと跳
んだ。改札機の上を飛んで、その向こうで見事な着地をする。

 そして、チラリと後ろを振り向くが早いかプラットホームへと駆け出した。

「待てぇ!」

 後ろでM.I.B.の声が響くが当然無視した。

「待つ訳無いでしょ! アンタ、バカぁ!?」

 だが、それもプラットホームへ降りるまでだった。

 アスカの携帯が鳴る。

 携帯への連絡応答は第三種待機中の彼女に課せられている義務だ。
 嫌な予感に襲われつつも、アスカは携帯をポケットより取り出した。

 連絡の主は、予想通り今聞きたくない声だった。

 ミサトだ。

『アスカ、ランクが上がったわ
 第一種待機へ移行します。直ぐ戻って!』

「でっ、でも」

『アスカ、これは命令なの。
 正規のEVAパイロット教育を受けたアナタならこの意味理解できるわね?』

 ミサトの言葉は決してキツくはなかったが一片の妥協や譲歩を許さないものであった。

 EVAパイロットの権利と義務を出されては、幼少の頃よりそれをレゾンデートルと
していたアスカが抗命出来るわけがない。

『アスカ、聞いているの?』

 彼女はポツリと返事した。

「判りました。今から本部へ戻ります」

 虚ろに響く声と口調は、まるで他の誰かであるようだった。



<【ネルフ】本部・第二発令所>      


 それはミサトがアスカを呼び戻す少し前の話だ。

 ミサトは、自分の艦がドック入りして手持ちぶさたしていた、ブライト達を連れて、
第二発令所へ案内していた。

 丁度書類整理が片付いていたヒマしていたブライトには、渡りに船だった。【アーガ
マ】が艤装を始めれば、その監修に忙しいであろうが、バラしている段階では遣る事を
やってしまえば後は待ちの一手だ。

 長年の軍務で鍛えられているとは云え、アウェイでの待機は何かにつけこき使われて
いた【ロンド・ベル】指揮官にとっては、実に苦痛とも云える時間を過ごしていた。『
何かあった場合の指揮所になる第二発令所へ案内します』と、連絡してきたミサトが、
正に救いの女神に思えた。(云うまでもなく、あくまで思えただけだ。酔いどれ女神が
救いを行うなんて、ゾッとしない話だ)

 それはさておき、ブライトは【アーガマ】ブリッジ要員を引き連れて、ミサトに【ネ
ルフ】本部第二発令所へと案内された。

「やはり、入り組んでいますね」

 同行していた【アーガマ】通信オペレータ、ファ・ユイリィの言葉だ。

 入り組んでいる通路をどうにか迷わずにこれたのは、別にミサトの覚えが良くなった
わけではない。単純に道を間違えそうになると、同行していた彼女の『愛の下僕』がそ
れとなく、教えていたためである。

 そして、彼らは第二発令所に到着していた。

「ここが有事の際、ブライト大佐達が就くことになる第二発令所です」

 ドッバァーンと、巌のようにそびえ立つ旧世紀水上戦艦の様な発令所の光景に【アー
ガマ】クルーは感嘆する。機能的過ぎるほど、機能とスペースを天秤に掛けてシンプル
かつコンパクトにまとめられている【アーガマ】ブリッジに慣れている彼らの感覚では
、ここ【ネルフ】発令所は想像外の豪華さと広さを持っていた。

 まあ、これは【ネルフ】発令所は戦術指揮・作戦指揮のみならず、必要とあらば戦略
指揮すら可能とするべく設計されているのだから、当然だろう。因みに【アーガマ】ブ
リッジは、艦隊旗艦設備も備えているので作戦指揮までは可能だ。

「ホント広いですね...いいなー。
 でも、こんなに広いと、税金たくさん取られそうですね」

 しっかり者のファが思わず所帯じみた言葉を漏らす。
 彼女は生粋のスペースノイドだ。コロニーでは、その全てが人の手で創られたもので
あるため、微に入り細に穿ち何かと金が掛かる。それは大きければ大きい程、幾何学的
に膨らむから、必然的に広さに対する感覚はアースノイドと異なってくる。

 そんなファに笑いを含みながらサエグサが応えた。

「大丈夫だ、ファ。ここは地球上だ。空気を吸うのに金が掛からない」

 サエグサの言葉を聞いて、日向や青葉がファの言葉に納得する。

「俺達、地球に住んでてよかったなー」
「そうだな、ただでさえ薄い給料が無くなっちまうトコだな。
 ライブやる時にも、金掛かりそうだしな」

 感嘆する【アーガマ】クルーを見て、満足そうにミサトは呼び掛けた。

「満足いただけましたか?
 では、ついでにコンソール操作の実演もやってみましょうか?
 日向君!」

「はい! 任して下さい。」

 日向はそういうと指を鳴らしてコンソールに着いた。

「まずはスタンドアローンで立ち上げて...コアネット接続を確認」

 そして、日向は後ろで覗き込むギャラリーへ振り返る。

「これが通常画面です。分担に応じて、各タスクが立ち上がってきます。
 僕の分担は...」

 そこまで入ったときだった。
 日向のコンソールモニターいっぱいに警告メッセージが表示され、警音が第二発令所
を包んだ。

「何事だ!?」
「日向くん、どうしたの!?」

 ブライトとミサトが同時に疑問を発した。
 やや慌てた様子で日向が応えようとする。

「まっ、待って下さい...!!
 パターン青!
 【使徒】です!!」

「何ですって!?
 座標確認!」

「了解!...って、消えた?」

「どういう事っ?」

「判りません、詳細不明!!
 反応は15.2秒検出した後、途絶えました。位置不明!
 第三新東京周辺30km以内であると事しか判りません!」

「...ディフェンスコンディションのエスカレートを宣言します。
 直ちに各部署へ通達!」

「了解!」

 そこまで言ってミサトは今の自分の立場に気付く。
 ブライトに事後承諾を取る。

「申し訳ありません、ブライト大佐」
「いや、ここは【使徒】対策のプロである君に任せるしかない。
 そのまま、任務に就きたまえ」

「了解!
 ...日向君、パイロット待機所のアスカ達を呼んで」

「はい...ありゃ?
 待機所に誰もいませんが...」

「レイも?」

「はい!」

「もー、この忙しいときに!
 日向君、レイの方は頼んだわ。私はアスカを呼ぶから。
 全くあの娘は保安部程度の云うことなんか、聞かないんだから...

 そう文句を云いながらも、ミサトは腰から自分の携帯を抜き出して、まずはアスカへ
と連絡した。



<第三新東京市近郊・仙石原>      


 日が陰ってきた。
 地に落ちる影が長々とその先を伸ばしていた。

 結局シンジはあの後ずっとココにいた。

 ドモンの方はと言うと、稽古を終え、鍋を持ち出して何やら調理を始めていた。

 鍋から香ばしい匂いが風によって流れてくる。腹の虫が鳴いたのを聞いて、シンジは
朝から何も食べていなかったことに、ようやく気が付いていた。

 シンジが何となくひもじさを感じ始めた頃のことだった。

「おいっ!」

 ドモンの野太い声がシンジに向けられた。

「...?」

 一瞬、その声が自分に向けられたものとは判らず、シンジは怪訝な顔をした。

「呼んだのが聞こえなかったか!?
 碇とか云っていたな...こっちへ来い!」

 ドモンの有無を云わさない口調に、シンジは怪訝な表情そのままに大人しく従い、ド
モンの座っている近くへと移動した。

 するとドモンは、野菜のごった煮(中華四川風)を注いだ皿をシンジへ押しつけた。

「あの...」

 判らないと云った顔をするシンジに、ドモンは朴訥に云った。

「貴様が目障りな所為で量を間違えた。責任を取って貰おう、食え」

《???》

 今まで周りにこういう変な物言いをする人物が居なかった所為もあり、シンジは混乱
する。(決してドモンは特に睨んでいるつもりも無いのだが)皿越しに見えるドモンの
鷹のような鋭い眼差しに気圧されるようにして、ソレを受け取った。

「さっさと食え。まだまだ、残っている」

 そう云ってドモンは自分の皿に、注いで食べ始めた。

 シンジもつられて、皿の中身を口に運んだ。
 味は悪くなかった。

                :

 シンジの食は余り進んでいない。無理もない、元々食が少ない方であるし、食の進む
ような精神状態ではないのだから。こうして食べたモノを即座に戻さないだけ、マシで
あろう。

 そんなシンジを見て、ドモンは叱る。

「貴様、キリキリ食わんでどうする。そんな事ではイザと云う時、どうにもならんぞ」

「…どうにもならなくても良いんです」

「…何かあったようだな」

「‥‥‥」

「判った。聞いてやる、云って見ろ」

「…ドモンさんには関係ありません」

 シンジは、自分の突き放した言い方にドモンが怒り出すだろうと思っていたが、意外
にもドモンは顔色一つ変えずにシンジへ応じた。

「関係なくは無い。貴様が食わん事にはコレが片付かん。
 さっさと云ってしまえ」

 そう云ってドモンは目の前の鍋をサジで叩いた。

《...無茶苦茶だ...なんでこの人は僕をかまうのだろう...》

 叩かれた鍋の発する甲高い金属音を聞きつつ、シンジは戸惑っていた。云っているこ
とは無茶苦茶だが、何故か悪い印象を持てない。

 そんな感じだ。

 自分でも不思議に思いつつ、シンジはポツリ、ポツリと話し始めた。

                :

 ポツリポツリと話すシンジの言葉を、辛抱強く聞き終えたドモンは暫く考えたのち、
シンジへ話し掛け始めた。

「…そうか。だが、生きるということは闘いだ。当然、生死を懸けるような闘いもある。
 自分か、相手が死んでしまう様な闘いがな」

「けど...けど、何で僕がそんな事をしなきゃあいけないんです!」

「お前が力を持っているからだ。その力が自分自身のモノでなくともな」

「持ちたくて持った訳じゃ、ありませんっ!」

「...力を持っていることは事実だ。たとえ、お前が望んで居ようが居まいがな」

「…僕はこんな力は要らない」

「だが、既に持ってしまっている。どうする、このまま逃げるか?」

「...」

「しかし、お前がどんなに逃げようと逃げきれんだろう」

「…どうしてです」

「力とはそういうモノだ。逃げている限り、ソレに振り回される。自分自身にソレを押
 し退ける様な力を持たん限りな」

「…どうして、どうして、みんな、そんな力を持って平気な顔が出来るんだ。
 アムロさんも、甲児さんも...ダバさんや他の人達もそうだ。
 みんな、人を殺して...忘れてしまってるんだ、そんな事も!」

「人はそうやって、大人になる」

「…僕はそんな大人になりたくありません」

 そこまで聞いて、ドモンは下を向き、深く息を吐いた。

 シンジはこれで話は終わりだと思っていると、ドモンは

「フン、不器用なヤツだ。
 …なら、お前は『漢』の道を往くがいい」

「『漢』の道って、どういうことですか‥‥‥?」

「悲しみも、憎しみも、喜びも...己の通った道とそれに交わる人々との間で遭った
 事、為した事全ての事を胸に刻んで、それらを忘れずに乗り越えようと足掻きながら、
 生きていく。
 そんなバカな生き方をする連中の事だ」

「…ドモンさんみたいな人のことですか?」

「俺はそんな上等な人間じゃあ、無い...」

 そこまで言って、ドモンは声を張り上げた。

「そろそろ、もういいだろう!
 そこに隠れているヤツ! 出てこいっ!
 目障りだ!!」

 すると四方で草の摺れる音がしたかと思うと、ドモン達の周りを取り囲むように【ネ
ルフ】M.I.B.が4人現れた。

「ふん…どこの誰だか知らんが、何の用だっ!?」

「貴様に用は無い。碇シンジだな?
 一緒に来て貰おう」

 その言葉にシンジは冥(くら)い顔をする。その表情をチラリと見たドモンは、ツカ
ツカと目の前の【ネルフ】M.I.B.に歩み寄った。

 それ以外の周りにいた【ネルフ】M.I.B.達は、右手を懐に忍ばせる。

 ドモンと正対したリーダーらしき【ネルフ】M.I.B.は威圧するように問い質した。

「…一体、何のマネだ?」

「貴様...土は好きか?」

「何...ッガァッ!」

 唐突なドモンの問いに一瞬戸惑う【ネルフ】M.I.B.延髄へ、ドモンは神速の回し蹴り
を叩き込んだ。その【ネルフ】M.I.B.は顔面を下の土に叩き付けられていた。

 それを見て、残りの【ネルフ】M.I.B.が銃を抜いた。

「キサマ、何をする!?」

 だが、その時にはドモンは次の【ネルフ】M.I.B.の顔面を鷲掴みにしていた。

「貴様ぁぁぁっ! 岩は好きかぁぁぁぁぁっ!?」

 そのまま、後方の岩に叩き付ける。

「木は好きかぁぁぁっ!?」

 その次の【ネルフ】M.I.B.は思いっきり木立へと蹴り飛ばされた。

「空は好きかぁぁぁぁぁっ!?」

 最後の【ネルフ】M.I.B.は、アッパーを喰らって空を舞った。


「ふん、少年が自分の道を探そうとモガいている。そんな子供の扱い方も知らんのか?
 いい大人が大概にしろ」

 銃と徒手の闘いであるにもかかわらず、ドモンは銃を持ったエージェント相手に圧倒
した。シンジもまたその光景に圧倒されていた。そんなシンジに構わず、ドモンは【ネ
ルフ】M.I.B.達を一括りにした後、荷物をまとめ始めた。

 ズタ袋を肩に引っかけて立ち去ろうとしているらしいドモンへ、シンジが声を向けた。

「あ…あのっ・・・」

「なんだ? ハッキリ、物を言え!!」

「あの...何でこんな事を」

「ああ、連中のことか。
 …気に入らなかったからだ」

「…僕はこんな事頼んでません」

「俺も頼まれた覚えはない」

「なら、どうして!?」

「言った筈だ。気に入らなかったからだ。
 俺がヤツらを気に入らなかったから蹴散らした。
 そして、お前は自分で道を選んでいなかったから。自分自身の力が自分を周りにある
 力に負けているから。
 だから、自分の望む結果を得られなかった。
 それだけだ、違うか?」

「...」

「自分の道だ、自分で選べ。
 そして、選んだ道を突き進めるよう精々頑張るんだな」

「...」

「では、俺は行くぞ。
 今度会う事が出来たら、もう少しマシな顔を見せろよ。
 じゃあな」

 そう言ってドモンは立ち去った。

 暫く立ちつくしていたシンジだったが、未だに迷いを漂わせたまま歩き始めた。





<Cパート・了>



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ver.-1.00 1999_02/02 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<作者の懺悔>

作者  「こんなに大きくする予定は無かったのですが、なってしまいました。
     7話は全体的に尺を完全に間違えてしまいましたな、ハッハッハ、ハー………‥‥‥・・・
     俺って、ヤツーぁよ...シクシク」


なお、私の忘備録を兼ねて、こんなモノを付けてみました。

興醒めになる可能性を否定出来ませんので、お気を付けてお読み下さい。







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