TOP / Novel / NEXT
「……坊ちゃん、後1時間程でそちらに着きます」
夜の闇の中、無線機から野太い声が溢れ出す。
それに答えたのは、実に柔らかな透き通った、少年と云うよりは男の子と云った表現
が似合う可愛らしい声だった。
「判りました。気を付けて来て下さい」
「承知しました、坊ちゃん」
「坊ちゃんは止めて下さい。
カトルで良いです」
「私たちにとって、坊ちゃんは坊ちゃんです。
では」
そう云って男との回線は途切れる。
今し方カトルと名乗った少年は、柔らかな金髪を掻き上げてその答えに苦笑していた。
そうしていると、昼間の灼けた空気からは想像できない、凍てつく風が吹いた。
此処は砂漠だった。
「久しぶり……かな、ラシード達に逢うのも。
みんな、元気にしているかな。
それにしても、埃っぽいですね……」
カトルという少年の喋り方は、それ一つ取っても育ちの良さが判る丁寧な言葉遣いだ
った。彼は迎えを待っている間、空を見上げることにした。
暫しの空白。
そして、ぽつりと小さな、だが純粋な感動以外の一切を含まない声が響いた。
「星が……瞬いているんだ……地球は……」
彼が魅入っている夜空より、一筋の光がこぼれ落ちた。
スーパー鉄人大戦F 第六話〔突破:Escape from the crisis〕
Cパート
<機動巡航艦【リリー・マルレーン】ブリッジ>
そこからは既に外は見えなかった。
普段は、地上では味わえない深遠なる空間を映し出しているそこは、分厚い装甲シャ
ッターによって完全に閉じられている。だが、それを嘲笑うかのように何度体験しても
馴染めないこみ上げるよう様な吐き気と共に、大気との摩擦によって生じた劫火が肌身
を灼く錯覚すらもよおさせる。
その様な不快感を感じていることなど露ほどにも感じさせない態度で、元DC将校・
シーマ・ガラハウは、ほのかに赤く灯されているブリッジでキャプテンシートに君臨し
ていた。
その美しさよりも険のある鋭さと狡猾さが目に付く佇まいのまま、彼女は口を開いた。
「……そろそろだよ」
それを待ち焦がれていた様子であった副長は、嬉々としてその言葉を受け取った。
弾けるようにして、各部署へ命令を下していく。
「アイ、サー!
野郎共、出番だ!
M粒子散布、最大!
砲術班!全兵装再チェック!発射管、ステルス・ペネトレイター(対重防御施設攻撃
用ミサイル)諸元再検査後、指示を待て。次弾以降はAMM(対ミサイル弾)の装填
準備!
MS隊、発進準備に掛かれ!
甲板要員は、成層圏に達した時点でカタパルトを展開開始!
通信班、連邦の通信聞き漏らすなよ!
機関室、出力一杯!全力斉射に備え!コンデンサが焼けてもかまわん、一杯まで充電!
手ぇ、抜くんじゃねえぞ!
詫びは手前ぇらのタマで、払って貰うからな!
気合い入れてけよ!」
『『『『おぉぉ!』』』』
シーマの命を受け、肩で切り落としたDC士官服に身を包んだイカつい副長は細かい
指示と共に実に彼らしい表現で命令を通達した。指示を下された兵達の反応も良い。
その様なやり取りが暫し行われた後、彼はシーマへ振り返って口元へ男臭い笑みを浮
かべながら、報告した。
「準備完了!
いつでもイケます!」
「いいねぇ……成層圏に入ったら、やるよ」
ようやくブリッジから禍々しい赤が消え去ろうとしていた。
<セバストポリ・連邦軍ベース地下戦闘指揮所>
「司令!
上空より巡航艦クラスの大型物体、降下してきます!
現在のコースのままで後8分で本空域に到達!」
その部屋は響きわたった声とは正反対に闇に包まれた外同様、薄暗かった。
一番大きく報告に反応したのは、珍しく指揮所入りしていた基地司令だ。
彼は、前々大戦以来の参戦経験から素早く予備命令を下す。
「何?
第一次警戒態勢発令!
……うえ(軌道上)からの連絡は!?」
「雲が厚くて12時間前から連絡不能です!
有線通信網は、ネットワークテロに因る損害から回復していません!」
通常、多数の冗長性を持たされている軍用通信系であるが、戦争勃発による混乱・テ
ロ活動などに阻害され、現在の所此処の近辺一帯が云わば一時的ではあるにしろ軍用ネ
ットワークから切り離された状態にあった。
舌打ちしつつも基地司令は、己に与えられた任務を遂行するため指揮を続行する。
「ちっ、【ロンド・ベル】の連中にも伝えてやれ!
現在オンステージ(部隊展開)して、飛んでいる連中は?」
「第271戦術哨戒中隊が」
「接触させろ!
ホットスタンバイの連中は、直ぐに出せ!
アンノウンの音は捉えたか!?
音紋判定急げ!」
基地司令は、矢継ぎ早に指示を下す。
その中には、前時代まで潜水艦戦でしか使われていなかった言葉すら混じっていた。
無論ソレには訳がある。
この時代、既知のようにM粒子の登場によって、電波系索敵術はその神通力を失って
いた。
だが、軍隊が『出来ませんでした』で終わらせる訳には行かない。
彼らは、数々の困難を排除して目的 -多くの場合は敵の脅威として存在すること、も
しくは任意の場所に任意のレベルの破壊を行う事- を達成せねばならないのだ。
そこで彼らは電波系索敵術に押されて、広域索敵術としては絶滅しようとしていた手
段を再び重用することとした。
一つは、最も妥当な方法。
云うまでもないほど昔ながら方法。光学系索敵術。要は視覚で敵を探すのだ。
そして、ここ地上ではもう一つの索敵方法が発達した。
それは音による索敵、振動伝播索敵術である。
仲介物体による振動の伝播、即ち音。ソレは突き詰めていく -実に非効率とも云える
ほどの労力を必要とするが- と、発生源の個性を実に生々しいまでに浮き彫りにする。
伝播物に事欠く宇宙で使用できないのは玉に瑕であったが、大気圏内に於いて現在で
は光学系のソレ以上に有効な索敵方法となっていた。
云われるまでもなく行動していたオペレータは、画面を睨み付けながら上官へのおざ
なりな返答をしながら端末を操る。
「……待って下さい……【ザンジバル】クラス……これはっ!」
特徴あるその音紋は、過去の膨大なデータを納めたDBの中から一つのデータを見つ
け出して来た。長年オペレータを努めている彼に取っては、災いの権化としか云いよう
のないデータが画面に表示された。
一瞬、息を呑んだオペレータの様子をいぶかしみつつ、司令は報告を要求した。
「報告、どうした!?」
「【リリー・マルレーン】……間違いありません!
シーマ・ガラハウ……【地球軌道の魔女】です!!」
その言葉の意味するところを、正しく理解した基地司令は宣言した。
「第一種戦闘態勢!
急げ!
MS隊……」
だが、基地司令は最後まで言葉を続けることは出来なかった。
「しっ、司令!
ミ……」
オペレータの言いかけた言葉と共にそこは爆炎に包まれた。
<ドック内・機動巡航艦【アーガマ】増設ブロック内>
「どうしたの、レイ?」
チェックリストへ目を通しながら、リツコはレイに問うた。
この検査は流石に他人の目に触れては困る項目であるため、通常影のように付き従い
リツコを助ける伊吹マヤすら、居なかった。
「……何でもありません」
彼女はいつもの様に、静かに、必要最小限の答えを返す。
……の様に見えたかも知れない、彼女を観ていたのがリツコでなければ。
何と言っても、リツコが一番彼女の面倒を見ている時間が長いのだ。
他の誰にも判らなくとも、リツコだけは敏感に彼女の変化を捉え、彼女を思ん計るこ
とが出来た。その今のところリツコだけにしか判らない微妙な変化を感じ取り、彼女は
再び問うた。
「何でも無くはないでしょう、いつもより反応が0.01遅いわよ。
いいから言ってみなさい」
無論数値は出任せだ。
レイへの説得力を増す以外、特に意味のある言葉ではない。
案の定、レイは何かを逡巡しているらしい。
いつもの無表情が、僅かに崩れている。
リツコが、レイの僅かな変化を見逃さないようにしていると、再びレイは口を開いた。
「……何でもありません」
その答えを聞いて、嘆息するリツコ。
持っていたボールペンの柄で頭を掻くと、レイへ語り始めた。
「あのね、レイ。
私はあなたのことをいつも心配しているわ」
「……」
「それだけにね。
あなたが何を考えているのか、居るのかぐらいは判るのよ」
「…………」
レイの反応が、増す。
何かを指摘されることを、恐れている。
リツコはそう確信した。
「……シンジ君」
ビクッ
その言葉を聞いて、レイは明らかに誰が見ても判るような反応を示した。
「やっぱりね……ねぇレイ、シンジ君の何がそんなに気に掛かるの」
通常考えれば、この年頃の少女が異性の事で悩むのはかなり限られる。
だが、相手はレイだ。
その様な可能性などまずは無いだろうと、リツコは考えていた。
レイは、かなり迷いながらもようやくリツコの問いに答えていた。
「……『仲間』だと云われました」
その答えにリツコは多少面食らった。
次の言葉を促す。
「それで?」
「……初めてでした。
……私を見てくれたのは」
「何を言っているの。
少なくとも私はレイを見ているじゃない。
それに碇司令も」
「碇司令は、私を見て私じゃない誰かを見ています。
それにリツコ博士も……」
リツコはそれを聞いて絶句した。
今まで何も判っていないと思っていた少女が、全てを見通していたのだ。
リツコは彼女らしくからぬ、動揺をしていた。
レイの告白は、続く。
「……他の人は、この私を見て人間だとは考えてくれません。
蒼い髪……紅い目……色のない肌。
【ネルフ】の人形……それが私に与えられた、みんなの私」
そこまでレイが言ったところで、けたたましい音が鳴る。
第一種戦闘配置の警報だ。
レイはそれを聞いて、静かに告げた。
「……EVA零号機、出撃準備します」
<セバストポリ・連邦軍ベース付近>
辺り一面火の海になっていた。
MSも建造物も、そして人も、分け隔てなく無慈悲なまでに区別無く燃えていた。
基地司令の迅速な指示によって戦力展開されてはいたが、全ては無駄だった。
彼らが無能であったわけでは無い。ただ彼らを襲った災厄がソレ以上であっただけの
話であった。
もうもうたる煙の向こうには、掃討戦の段階に入っているらしいシーマ部隊らしきM
Sが見える。そこでは襲撃開始時の攻撃を生き残った部隊が、抵抗を試みているらしい。
が、既に統制を失っており、大したことは無い。
火の海に新たな薪がくべられた。
シーマ隊のMS、MS−14F【ゲルググM(海兵隊仕様)】の改造機が、基地MS
隊らしきGM系列の機体を葬ったからだ。
歴戦の猛者のみで構成され巧みに連携して戦闘行動を行うシーマ隊の前では、連邦基
地の面々は余りに無力であった。
「クックック……いいねぇ、こりゃアタシたちだけで良かったかもしれないよ。
連邦もタガが弛んだのかねぇ……」
シーマが満悦至極といった様子で些か大時代な装飾(白虎の毛皮敷き!他)をされた
キャプテンシートから戦場を睨め付けた。
「シーマ様、右2時の方向。
【グール】です」
シーマが副長の報告を聞いて、そちらを向くと確かにDr.ヘル配下の部隊が運用し
ている大型戦闘飛行艦【グール】が現れていた。
「フン、告死騎士霊の出来損ないがようやくお出ましとは。
あのトロ臭い連中が来たって事は、そろそろってことだね。
……基地データユニットを回収、まだか!?」
副長がやや慌て気味に答える。
「現在回収作業中!
あと10分待って下さい!」
「6分だ!
さっさとケツ撒くって、戻るようにいいな!
回収後、戦闘エリアより即座に離脱!
いいね!?」
副長の言葉を素早く吟味して、指示を下すシーマ。
この辺、流石は個人能力が階級に直結するDC実戦指揮官であると言える。
「アイ、サー!!
野郎共を回収後、即座に離脱します!
でもいいんですかい、シーマ様?」
「いいんだよ。
アタシの受けた仕事に、連中のお守りは含まれちゃいないよ。
……それともオマエは、こんな泥玉の上であんなお化けモドキや干物を水で戻した
のと、一緒にゴミ屑の様に死にたいのかい?」
「そりゃぁ、勘弁ですぜ……」
「判りゃあいいんだよ。
通信!連邦に動きはないね!?」
:
「何故だ!?
何故ヤツらは引き上げている!
答えろ!」
そういって、伯爵は手短にいた鉄兜を締め上げた。
その不幸な鉄兜は、息も絶え絶えに答える。
「……まっ……待ってくだ……さい。
いま……確かめて……います」
そうして、彼が部下に当たっていた時ようやく通信が繋がった。
映像が整うよりも早く、艶のある口調が響く。
『なにようで?』
ようやく映像が整い、通信モニターに些かトウのたった美女が映し出される。
キャプテンブリッジへしなだれかかっているのは、間違いなくシーマ・ガラハウだっ
た。
「なんだでは無いわ!
どうして此処へ来て逃げる!」
シーマはどこかの将校服を着込んだ首のない男の小脇に抱えた頸が喚き散らすのにも
眉一つ動かさずそれに応じた。
『逃げるなどとは、ご挨拶ですわね。
わたしは伯爵様が来られった云うんで、この卑しい傭兵風情めが出しゃばるのを辞め
て、伯爵様にご活躍して貰おうかと舞台を譲ろうと云うのにその仰りよう……まぁ、
そう仰るのであるなら、ご迷惑でしょうけども手柄を分け合うのも宜しいですわね、
ブロッケン伯爵?』
そう云われたDC地上軍Dr.ヘル軍団配下の将軍ブロッケンは内心の驚きを押さえ
ることに苦心する。
釈明の一つも聞けようかと思っていたところへこの答えだ。
その彼の自尊心と野心をくすぐる心地よい響きは、先程まで彼を支配していた激情を
綺麗に洗い流していた。
「い……いや、それにはおよばん。
貴官の心遣いを無駄にするわけにはいかん。今回はありがたく受けることにしよう」
『それは重畳……伯爵様のご活躍お祈りしております。
では、失礼いたします伯爵様』
「うむ、貴官もな」
『お心遣い感謝します』
:
シーマは回線が切断した途端に笑顔の仮面を外し、ある種の嘲りを含んだ表情を露わ
にする。
そしてやや投げ遣りな様子で呟きと共に命令を下した。
「……さぁてと、バカ殿からも許可が出たことだ……いくよ」
彼女の優秀な下僕は、主人の囁くような呟きすら聞き逃さなかった。
直ちに彼女の意志を叶えるべく、艦内に広がる彼の手足へ、シナプスへ信号が流れる
ように、空気へ振動をおこして命令を下した。
「アイ、サー。
進路0−3−0!
野郎共、ケツまくるぞ!
急げぇ!」
:
「判っているな。
この基地は破壊するのだ、徹底的に!だ……いいな?」
悪党面を一層歪ませて、ブロッケン伯爵は命を下した。
命じられた鉄兜は、やや困惑した表情でそれに応じる。
「はい!
……宜しいのですか?
ヘル様には、暫く連邦の注意を引く程度の被害を与えればよいと云われた筈では?」
「ツベコベ云うで無いわ!
【ダブラスM2】、【ガラダK7】、【アブドラU6】、【ジェノバM9】、【スパ
ルタンK5】、【トロスD7】、【ラインX1】。
機械獣出撃!
戦果を拡大せよ!」
「はっ!」
その言葉と共に【グール】の船倉が開き、大量の機械獣が連邦基地へ投入された。
:
ドック内で反応炉の応急修理を受けていた【アーガマ】は、折しも襲撃開始の時最終
チェックのために丁度反応炉の火を落としていたことから、完全に沈黙しており初動に
遅れていた。
これは必ずしも不運なことばかりではなかった(ドックは擬装されているため、大き
なエネルギー反応が無くなっていた【アーガマ】は察知されず、幸運な事に攻撃されな
かった)が、現場は十分混乱した。
懸命の作業によって、ようやく稼働状態となった【アーガマ】は正しく戦争状態その
ままで、艦内外を問わず至る所で怒号と騒音が今まさ最高潮へと達しようとしていた。
ここ、【アーガマ】ブリッジもその例外では無かった。
「ランディングデッキから各機出撃!
市街への被害を、最小限に食い止めろ!
【グラン・ガラン】の方には、極力戦闘を避けるように要請しろ!
……アムロ準備はいいか?」
『ああ、こっちは問題ない。
状況に変わりはないか?』
「あぁ、変わりは……ちょっと待て。
強襲を掛けてきたMS部隊が後退した。
変わりに機械獣らしき部隊が出現したらしい。
基地周辺の掃討を行っている」
『機械獣か……やっかいだな。
甲児君達が先行したのは、正解だったかも知れない……』
一般に機械獣は、MSの敵ではない。
何故なら機械獣は動きが遅いため、MSの機動性に追従できないのだ。
だが、そうは云っても比較的大型の機体が多い上に、機動兵器しては単純極まりない
構造をしているために彼らはやたらに打たれ強かった。これに対抗するには高火力を持っ
て完全破壊を行うのが上策とされていたが、機動性が身上のMSでは一部の機体を除い
て難しかった。
しかし、防御力と火力だけはMSの数倍に及ぶ甲児達のマシンでは、全く問題は無い。
アムロの云っていることは、そういう意味である。
「甲児君達はもう出たのか?」
『あぁ、もう出て貰った。
彼らのマシンなら暫く持ち堪えられると思ってね。
……出撃準備完了?
ブライト、僕の出撃準備も整ったみたいだ。
出撃する』
「あぁ、頼む。
気を付けてな」
ブライトの付け加えた一言に、不器用な心遣いをを感じて、アムロは微笑みつつ応じた。
『ブライトもな……
アムロ、ガンダム・アレックス行きます』
:
『てぇりゃぁぁぁああ!』
ゲッター1が上空から、十分に加重した一撃をダブラスM2へ浴びせた。
肩口へ振り下ろされた全高40mクラス人型機動兵器用の巨大な手斧は、押し潰すよ
うにして、その二本首の機械獣を2つに割り裂く。
その様を【グール】ブリッジにて見ていたブロッケン伯爵は、自分の身体の小脇で騒ぐ。
「やりおったな!
だが、それも計算の内よ!
やれ!」
完全に沈黙した機械獣を確認することなく、ゲッター1は次の獲物へ向かおうとする
隙を衝いて、周りの機械獣がゲッターへ向かって一斉に突進し抱きついた。
『ぬぉぉぉぉおおお、腐れ生首がぁ!
ふぬぬぬぬぬぬ!』
取り押さえようとする機械獣達と抵抗するゲッター1の力比べが始まる。
それを黙ってみているブロッケン伯爵では無かった。
「一斉攻撃!
構わん、抱きついた機械獣ごと吹き飛ばしてしまえ!」
ブロッケンの命令が早いか、辺り一帯に展開していた機械獣が一斉にビームとミサイ
ルの雨を打ち込む。
『ナメるなぁ!
オープン、ゲット』
竜馬の叫びとほぼ同時にビームが、ミサイルが一斉に降り注ぐ。
だが、濛々たる爆炎の中から三つの固まりが飛び出した。
ブロッケンがソレをゲットマシンと認識する前に、赤・白・黄の三つの固まりは一気
に上昇して、太陽の中に隠れた。と、同時に響く叫び声。
『チェェェンジ、ゲッター1!
スイッチオン!』
「なに!?」
ブロッケンがようやくソレが分離したゲッターだと気付いた時には、再合体したゲッター1
が太陽の中から抜け出すようにして、【グール】へ向かってダイブしていた。
『貰ったぁ!』
「かっ、回避っ!」
云われるよりも早く【グール】操舵をしていた鉄兜は回避運動を行った。
それが功を奏したか、竜馬の一撃は【グール】中枢を逸れ中規模の損害を与えるに
留まる。
揺さぶられる【グール】ブリッジで、被害報告が飛び交い、ブロッケン伯爵の怒声が
響いた。
「うぬぬぬぬ、例の怪物が無くとも、アレの量産さえ出来ていればゲッターロボやマジ
ンガーZごときなど蹴散らしてくれるモノを!
機械獣を全部出せ!」
自らの任務を忘れてそう叫んだ彼の視線の向こうでは、忌々しい程見慣れた黒鉄の人
型とそれより1回りほど大きい蒼・赤・紫の3つのカラフルな機体が戦闘に加入しよう
としていた。
:
「よぉ〜竜馬、どぉした?
幸せボケか?」
ようやく戦場に到着した兜甲児が、開口一番に口にした言葉だ。
戦場に臨んでいるという紛れもない動かし難い厳然たる事実を前にして、放たれた緊
張感の欠片もない甲児の言葉に、竜馬は過敏に反応する。
『なっ、何を云っている!
今のは、手が滑っただけだ!』
「……と、竜馬さんはおっしゃられる。
御同僚の御意見は?」
『色ボケだ』
『春だからなぁ』
同僚の裏切りに竜馬は一層興奮した。
『☆!?$%&’+=`¥@##!』
竜馬が意味不明の言語にて、錯乱しているのを放っておいて甲児は一時的に彼の指揮
下に入ったシンジ達EVA小隊へ指示を下した。
「よぉーし、じゃあ戦いの時間だ。
相手は機械獣だ、緊張するな。
人工無能相手だから、パイロットの事は気にしなくていい。
思いっきり、張っ倒してこい。
わかったな!」
世の中この様な指示に素直に従う人間ばかりでは無い。
今日この場にも、素直でないと云うことに掛けては人後に落ちない人物が居た。
惣流・アスカ・ラングレーである。
『「判ったな」っ、じゃないわよ!
なんで私がアンタの言うこと聞かなくっちゃいけないのよ!
納得できないわ!』
『ア、アスカァ』
『何よ!』
アスカは何かを言おうとするシンジを、鋭い一喝で黙らせる。
それを聞きつつ、甲児は嘆息して再度指示を下す。
「おーい、今はジャレる時じゃねぇぞ」
甲児のその一言は、アスカを一層ヒートアップさせる。
『なっ、何言ってのよ!
私はジャレてなんかいないわよ!!』
「そーか?
ならいいだろ。
お前さん達の面倒見てくれって、殺人シェフのネーちゃんから言われてんだ。
うだうだ、抜かしてたらあの殺人カレー、口に詰めて縫い合わせるぞ!」
甲児は自分で言って、思わず忌まわしい記憶がブリ返したらしく気持ち悪くなっていた。
通信ウィンドウを見ると、アスカも顔を蒼褪めさせて気持ち悪そうにしてる。
「……もしかして、お前も喰ったことあるのか?」
『……えぇ』
アスカの遺伝子に刷り込まれるようにして刻まれた苦い想いのこもったその一言は、
アスカと甲児へ共に死線を越えた戦友のような連帯感を与える。
その時、一発のミサイルが彼らの近くへ着弾した。
「ちっ、もう来やがったか。
よーし、ツーユニットセルで行く!
俺と惣流、綾波ちゃんと碇だ。
行くぞ!」
『はい』
『判ったわよ』
『……了解』
彼らの返事を合図にして、甲児達の戦いは始まった。
:
「おら、おら、おら、おら、おら!
どうした、それで終わりか!?」
甲児は、自らの操る【マジンガーZ】で目の前の【ガラダK7】を文字通り叩き潰し
て、吼えた。
そして、辺りの様子を再確認しつつ次の獲物へ向かう。
「次はどいつだ!
……!?」
甲児は殆ど反射的に避けた。
先程まで居た地点目掛けて、正確に弾痕が穿たれ、地面が大きくはぜていた。
間違いない、敵の高々速実体弾による長距離精密射撃だ。
続いて第二撃、三撃が撃ち込まれる。
どうにか避けた甲児であるが、位置のつかめない敵に少々焦る。
「どこだ!?」
『そこぉ!』
アスカのその叫びと共に、撃ち出された先程のソレより遙かに高速の金属塊はあらぬ
方向へ浴びせられた。
そして、数瞬の間を置いてその方向から爆炎が上がった。
それを見て甲児は、ニヤリとしつつアスカへ賛辞を送る。
「ヤルじゃねーか」
『ハン!当然でしょ。
なんてたって、私はEVAのパイロットよ。
見くびらないで欲しいわね』
そういってアスカは、シンジ達の方へほんの一瞬だけ目を遣った後、ニヤリとした。
もうこの二人の間には、言葉など必要なかった。
破竹の快進撃の始まりであった。
:
高笑いすら聞こえてきそうなアスカと甲児の快進撃とは対照的に、シンジ達は実に地
道に戦っていた。
本来ならEVAが最も力を発揮する格闘戦で蹴散らしても良いのであるが、今回の戦
闘では極力避けていた。
その理由は、彼らの肩ラックにぶら下がった巨大なオプションパックにある。
今回新たに取り付けられたそのパックの正体は、リツコ謹製・EVA専用携帯型電力
パックであった。
本来S2機関を搭載して無限の活動能力を持つはずのEVAシリーズであるが、肝心
のS2機関が未だ完成しないため、現在の所大きな行動の制限を受けていた。
それを第三新東京では電源ケーブルを接続して運用する環境を整えることで、何とか
運用していたが、艦艇での運用が中心になる【ロンド・ベル】で運用するとなってはそ
うは行かない。
そこで急遽間に合わせ的に開発されたのが、EVA専用携帯型電力パックである。
これは、簡単に云えばMS用の反応炉と大容量エネルギーコンデンサを使用して造ら
れた携帯型発電機である。これによってEVAは活動範囲問題と運用制限を大幅に解消
したが、問題が無かった訳ではない。
まず反応炉自体の問題がある。
辛うじてEVAを活動させるのに必要な出力を持たせた訳であるが、EVAが本気で
活動した場合アッサリと出力不足となる。この場合本来再発電に必要なエネルギーを削
ってまでして電源を供給するのだが、これを行ったらほぼ確実に長からぬ時間の後に機
能が停止する。何故なら、反応炉は黎明期には殆どヤケクソ的に【電力増幅炉】などと
呼ばれたほど、再発電するためのプラズマ維持で電力を必要とするためだ。その電力を
確保できなくなった場合、反応炉は発電ためのプラズマ維持が困難となり、反応停止。
結果として発電が不可能となってしまう。
これに加えて、システム自体の重量問題が加わる。
何とか実用可能なレベルで造られたパックであるが、それはどうにか運用可能である
と言うレベルの大きさを持っていた。当然EVAを持ってすら問題として認識せざるを
得ないほど重い。
幾らEVAが優秀とは云え、これを装備して運動性が極度に悪化した状態でしたまま
で電力消費が著しい格闘戦を行うのはかなりの問題があった。
そのため、この戦いではシンジ達EVAは不本意ではあるが(特にアスカは)消極的
な射撃戦中心で戦っていた。(ちなみに本格的に格闘戦を行う場合は、他の敵性体の存
在が無いことを確認してパックを排除して戦うよう指示されていた。当然他の敵性体が
あった場合は、迅速に戦術的・作戦的後退をするよう云われている)
「目標をセンターに入れて、クリック……当たった!
目標をセンターに入れて、クリック……ダメだ、外れた……次は当てる!
あっ、綾波!右に敵がっ!」
「……了解。
方位0−7−0、ジェノバM9発見。
距離12000。攻撃します」
目の前の敵にどうにか攻撃を加えているが、実に一般市民的且つアバウトなコミュニ
ケーション(一口に右といっても最低90゜から最悪180゜程度の範囲を差す。この
様な不正確な表現はこの場合してはいけない)しか出来ない、シンジの意図を正確に読
みとってレイが、巧みにシンジをフォローしつつ戦っている。
シンジにもそれが何となく判るのか、レイの読心術とも云うべき理解に感謝しつつ、
決して突出せず確実に敵を撃破していた。
:
こちらは再び甲児達。
順調に敵戦力の暫減を行う甲児達であったが、甲児があるモノを発見したとき彼の動
きが一瞬止まった。
彼の視線の先には、こちらに向かってくる紅い機械獣が居た。
いや違う。機械獣ではない。
胴体中央に人面を模したレリーフと後頭部から伸びているスタビライザーは、間違い
ない。
ラインX1だった。
それは甲児の心に大きな波紋をもたらす。
『ちょっと、何止ってんのよ!
やる気あんの!?』
アスカの生意気な物言いすら、今の甲児にはどうでも良いことだった。
「すまねぇ、俺をアレを殺る。
手は出さないでくれ……他は任せた!」
『ちょ、ちょっと!
もう、何よ!…………..』
アスカの文句など聞き流して、甲児はアレの存在を消し去るためにマシンを急速に向
かわせた。
「……俺はアレが存在するのは許せねぇんだ……」
甲児はアレと始めて戦った時のことを未だに忘れられない。
いや、年を重ねるごとに一層鮮明さを増していた。
優秀な博士……博士の娘たる可憐な少女……一見人も羨む理想的な彼らの関係も
全ては偽物。
少女は、人格を備えた人工知能を持つアンドロイドだった。自らの優秀さを示すこと
に偏狂した博士は、ラインX1を製作しその頭脳へ彼の製作した中で最も優れたソレを
持っていた少女を組み込む。
そして、甲児の操るマジンガーを倒してその証にせんとして戦いを挑んできた。
不毛な戦いを悲しむ少女は、甲児に自らの破壊を懇願してそれは為された。
その事件は、以後戦いの渦中を駆け抜ける運命である甲児の心に大きな影響を与える
ことになる。
それ故、彼女の存在を冒涜する醜悪なデッドコピーの存在は絶対に許せなかった。
「……ブッ潰す」
甲児は小さく、だが間違えようのない絶対の決意を込めて呟いた。
:
「ダブラス7号沈黙!」
「ガラダ11号大破!」
「スパルタン2号コントロールアウト!」
「戦力指数更に12%低下!」
【グール】ブリッジでは、僅か6機の機動兵器よってもたらされた損害報告が飛び交
っていた。
それは戦闘開始当初の極めて楽観的な予想を裏切り、ブロッケンを韜晦させるには十
分な被害が発生していた。
「何故だ、何故【ロンド・ベル】が此処にいる!?」
歯軋りして次の手を逡巡していたブロッケンが、スクリーンの片隅へ奇妙なモノを見
つけた。
人だ。
戦闘の真っ直中であるこの場へ、どう見ても民間人としか思えない者が超然としてこ
ちらへ進んできていた。
「何だ、あやつは?」
「さぁ……?
新手の自殺願望者でしょうか?
それともどこかのエージェントでしょうか?」
「今はその様な者に関わり合っているヒマはない。
外部回線をこちらに廻せ!
追い返してくれるわ!」
自殺願望者なら問題が無いが、エージェントであった場合厄介だ。
どのような手で来るか予測出来ない彼らの介入であるならば、早急に手を打たなけれ
ばいけない。
マイクを掴み、ブロッケンは恫喝するようにして告げた。
「そこのバカ者へ告げる!
直ちにこの一帯より退去せよ!
退去せぬ場合、即座に攻撃を加える!
繰り返す!
直ちに……」
それを聞いたらしい男は、大きく息を吸った。
そして、…….
『貴様らぁ〜〜〜〜!』
【グール】ブリッジに殆ど物質化したとしか思えない衝撃を伴った音が投げ込まれた。
その衝撃で、ブリッジ内の幾つかの機器が火を噴く。
耳朶を豪快に穿った怒声で半ば意識を無くし掛けたブロッケンであるがどうにか意識
を保つことに成功していた。ふらつく頭を押さえつつ、報告を要求する。
「何だ、今のは!?
連邦の新兵器か!?」
意識を保っていたらしい幸運な鉄兜がそれに答える。
「違います。
単に対象が大声を出しただけです。
今ので外部指向性マイクの7割が機能を停止しました」
「化け物か、アヤツは……受信感度を一杯まで絞れ!」
だが、それを嘲笑うかのように再び、あの衝撃がブリッジを揺さぶる。
『貴様ら、この男に見覚えはないか〜〜〜!?』
ブリッジで揺られながら、ブロッケン伯爵は人外の行いとしか思えない男の声に抗議
する。
「のぉわぁぁぁあ!
何というパワーだ。
本当にあの人間が発しているのか!?」
「ま、間違いありません。
……?。男が何かを差し出しています。
メインスクリーンへ転送します」
メインスクリーンへ映し出されたのは、何処か険のある男の写ったスナップ写真の一
片だった。
相手の意図が全く解らないブロッケンは、半ば当たり散らすようにして応じる。
「その様な事、ワシの知ったことではない!
さっさと、失せろ!」
だが、男は去ろうとはしなかった。
『俺の質問に答えろぉ〜〜〜〜〜!
答えぬのならば、こっちにも考えがあるぞ!』
当然ブロッケンが、その様な脅しに屈するわけがない。
「何を寝ぼけておる!
死にたいのならば、死なせてやる!
格闘戦中のモノを除いて、集中攻撃!
あのバカを消し炭にしてしまえ!」
『フン……そう来るか。
俺にファイトを挑むとは良い度胸だ。
ならば!
でろぉぉ〜〜〜お、ガァンダァァァ〜〜〜ム!』
男が指を鳴らすと同時に地の底から湧き出るようにして、何かが現れた。
:
甲児のマジンガーZがラインX1を鉱物資源へ還元している光景を傍目にしながら、
アスカは近付いてくる機械獣へ攻撃を加えていた。
「ホントに何考えて居るんだか……」
甲児の心中など判り得ようもないアスカは、不平を口にする。
《ホントにこんなんバッカよね。
自分でペアを指名しといて、ほったらかすんだから……
こんな事なら指示を無視してアイツと組めば良かった……いいえ、あのバカ兜ぐら
い無視して、私と一緒に戦うべきなのよ!》
アスカの脳裏に、アイツの顔が浮かぶ。
思わず、アイツが居る方向に目を遣ると、今日はどうにか及第点をあげられる程度に
は戦っている。ただソレを傍目に見ても、完璧なフォローをしている蒼い機体も否応な
く目に入ったが。
その光景はアスカの胸の奥に、何かのわだかまりの様なモノを感じさせた。
ようやく甲児がトドメのブレストファイヤーをラインX1へ浴びせた時、それが起こる。
『貴様らぁ〜〜〜〜!』
「きゃっ……な、何よ……」
やや気抜けしていたアスカを怒号が襲う。
いきなりハンマーで殴られるような、言うなれば音の暴力としか表現しよう無いよう
な声がエントリープラグの中を跳ね回る。
何事かと確認するべく、音源の方を見ると【グール】の近くに人影が見えた。
ズームさせて確認する。
どう見ても、一般人にしか見えない。
「何よ、死ぬ気!?」
アスカが人影の正気を疑っていると、また新たに声が響く。
『俺の質問に答えろぉ〜〜〜〜〜!
答えぬのならば、こちらにも考えがあるぞ!』
「何言ってのんよ。
さっさと逃げなさいよ!」
その男を助けようかとも思ったが、余りに距離と敵があり過ぎた。
助けに行くことは、諦めざるを得ない。
そして、更に男の声が響いた。
『...........
...........
でろぉぉ〜〜〜お、ガァンダァァァ〜〜〜ム!』
その声と共に何かが地面より現れた。
それは、最近見慣れ始めたシルエットをしていた。
:
騒々しい……その程度の感慨しか湧かなかったが、意図のよく判らない男の行動に
レイは微かな興味を覚えた。
《……アレは何?
……アレは人……脆くて儚い、人。
……では、何故此処へいるの?
……見栄?……それとも任務?……もしかして、死にたいの?
……解らない》
その様なことを考えつつも、彼女は決して周りへの注意を怠っていなかった。
絶えず周囲を警戒して、懲りずに接近してくる機械獣へロングライフルを叩き込む。
そうしている内に男の方に新たな動きがあった。
『...........
...........
でろぉぉ〜〜〜お、ガァンダァァァ〜〜〜ム!』
「……ガンダム?」
彼女にしては珍しく声に出して呟いていた。
そのガンダムは、見たこともないガンダムだった。
:
「……ドモンさん?」
最初の声で注意を惹かれたシンジが、2度目の大声のした方向を見ると酒場で出会っ
た人が居た。不敵な面構えは間違いなくセバストポリ繁華街で出会った青年ドモン・カッ
シュだった。
シンジは些か腑に落ちないモノを感じつつも、常識的思考が口を衝いていた。
「どうして、あんな所に!?
た、助けなきゃ」
そうして、彼が動こうとした時ソレは起こった。
『...........
...........
でろぉぉ〜〜〜お、ガァンダァァァ〜〜〜ム!』
その叫びと共に現れる人影。
だが、その大きさで一目瞭然だ。
人ではない。人型機動兵器に間違いなかった。
濛々たる土煙が収まり、現れたのはガンダム。
本物を見て間もないシンジであったが、その機体は明らかに【ロンド・ベル】で使っ
ていたソレでは無かった。見たことのない機体だ。
ドモンがその機体に乗り込んで、ソレは動き始めた。
その動きは機体の動作チェックらしいが、それはどう見ても歌舞伎の大見得を切って
いるようにしか見えなかった。その流麗な動きに暫し見とれる。辺りをいなすように腕
を振ってようやく準備を終えるまで、周囲の誰もが動きを止めていた。
無論、人工知能を搭載した機械獣ですらもだ(これはシンジの主観で、実際にはガン
ダムの動きが、登録されたどれにも当てはまらないことから様子見をしていただけである)。
そしてそのガンダムは構え、広域開放回線へ向かって咆吼した。
『ガンダムファイトォ!
レディィィィ、ゴォ〜〜〜〜!』
:
「てぇりゃぁぁぁぁあ」
ドモンは目の前の機械獣へ正拳を繰り出した。
格闘戦が主体のくせをして、やたらに動きが鈍く無駄が多い3回り以上大きい敵を一
撃の下に屠る。
「次は、どいつだぁぁ!」
その勇ましい問いに答えるように、一本角の機械獣トロスD7が突進してくる。
初期型とは云え、超合金Zに身を包んだマジンガーZの身体に穴を開けたその角は極
めて危険だ。
だが、ドモンは口端を歪めただけで避けようとはしなかった。
「さぁ、こい!」
:
「危ない!」
シンジは、トロスD7が正体不明のガンダムへ突進するのを見て叫んだ。
全高が通常のMSより小さい50フィートクラスのMSらしい機体に、マジンガーと
同クラスの大きさを持つ機械獣が突っ込むのだ。これで大丈夫だとと思うような人間は、
かなり戦い慣れているか、キレているのどちらかだ。
危険だと思ったシンジは、パレットライフルで攻撃をしようとする。
いま正に撃とうとした時、ドモンの怒号が響いた。
『そこのマシン!
ジャマをするなぁぁぁあ!』
「えっ!?」
まさか怒られるとは思っていなかった、シンジは目を白黒させる。
ガンダムから見てシンジのEVA初号機は後方側面に位置する。その動きすらドモン
は把握しているらしい。
シンジが慌てている間に、トロスD7はガンダムに突っ込んでいた。
シンジは一瞬ドモンのガンダムが、貫かれたように見えたがそれは錯覚だった。
トロスD7の角を掴んでガンダムはそれを押し止める。
機体一つ分後退して完全にトロスD7を止めたガンダムは、そのままその角を抱えて
豪快に振り回した。
そして、機械獣が固まっている方へ向かって放り投げた。
また、ドモンの声が響きわたる。
『バァァル、カッンン!』
勇ましい掛け声と共に、そのガンダムのバルカンが火を噴き、同時に突っ込んでいった。
銃弾の嵐に晒されて、数機の機械獣が火を吹き始める。
そこへガンダムの跳び蹴りが入った。
トドメを刺された機械獣達は、確実にスクラップへと成り変わっていった。
:
「おい、ルー」
ゼータガンダムの非変形型MS【ReGZ】のコックピットで、ジュドーは相方を呼
んだ。
『なあに、ジュドー』
ドッキング中の【ReGZ】専用サブフライトユニットで操縦桿を握るルー・ルカは、
ジュドーからの呼び掛けに答える。
「ウチにあんなガンダムあったけ?」
そういってジュドーは、モニター上へポインタを差し、ルーにくだんのガンダムを指
し示す。
ルーは目を凝らしてみたが、あの様なガンダムは見たことがなかった。
『知らないわ。
連邦で開発した、この基地所属の新しいガンダムじゃないの?』
「そうなのかな。
でも、ものすげー戦い方してるぜ……機械獣を武器使わずに倒してる。
あっ、また一機倒した……すっげー」
『じゃあ、あなたも負けないようにね。
コントロールをこちらへ』
「あいよ。
そっちへまわすぞ」
ジュドーの返事が気に入らなかったのか、ルーはジュドーを叱咤する。
『ダメでしょ、ジュドー。
チャンとやりなさい!』
「えー、いいじゃんかよ」
ルーの叱咤に、子供のように言い返すジュドー。
無論ルーの前では、蟷螂の斧に等しい。
『ダメよ、こう云うのはキチンとするのが大切なの!』
ジュドーも観念したのか、機種転換した際にレクチャーされた事を口にする。
「判ったよ……ユー・ハブ・コントロール」
『アイ・ハブ・コントロール!
ジュドー、行くわよ!』
:
「ブロッケン伯爵様、もうダメです。
敵後続も続々と到着しています。
支えきれません!」
その報告を聞いて、ブロッケン伯爵は歯軋りしつつ煩悶した。
「何故だ、何故勝てんのだ。
えぇい、撤退する!
転送装置作動!」
「ダメです!
ゲッターの攻撃で損傷しています。
機能停止!
回復まで72時間は必要です。」
「ぬう、ならばオーバーブーストは!?」
「可能です!」
「生き残っている機械獣に支援させろ!
この空域から撤退する!」
「はっ!」
:
「後退する?
この、逃がすか!」
シドことシドルー・リグ・マイアは、【ゲシュペンスト】コックピットで【グール】
の後退を察知した。
それを阻止すべく、【グール】へ接近しようとしたところ至る所から攻撃が加えられ
た。【アブドラU6】の破壊光線、【ジェノバM7】のライフル弾が飛び交う。それは
避けたシドだったが、ついに一撃を貰ってしまう。
それは意外にも【ガラダK7】の頭部ブーメランだった。
単純な軌跡を辿る通常の武器と違って(ミサイルですらM粒子の影響下にあるため複
雑な動きはせず、最短距離のコースをとる)、ブーメランは行きを避けても帰りがある。
シドは迂闊にも、その帰りのコースへ入っていたブーメランに当たってしまったのだ。
「コウモリじゃねぇんだぞ、この!」
そういっている間にも、動きを止めた【ゲシュペンスト】に攻撃が加えられる。
シドは【グール】の追撃を諦め、機械獣の掃討へ参加することにした。
:
「取り逃がしたか……」
アムロは逃げ帰る【グール】を見つつ呟いた。
辺りでは、未だ抵抗を続ける主人に見捨てられた人形が居る。
「……哀れだな」
そういってアムロは、ビームライフルを連射した。
その光条は一つとして外さず、確実に機械獣の中枢を撃ち抜き、仕留める。
そうして辺り掃討を終えると、通信が入ってきた。
機械獣の駆逐で、一番活躍していたアムロも見たことがないガンダムからである。
その人物は、アムロは見たことが無かった。
『貴様ぁ、何のつもりだ!
俺の戦いをジャマして!
逃げられてしまったぞ!』
乱暴な口振りに多少気に入らないではなかったが、その人物の元気の良さはそれを補っ
て余りあった。
アムロは努めて冷静に穏やかに、応じた。
「それは、すまなかった。
僕はアムロ・レイ。
君は、誰だ?」
『……ドモン・カッシュ。
それよりも、アイツを逃したのはどうしてくれる!
もう少しで叩き落としてくれたモノを!』
「そうか、ドモンくん……でいいかな。
では、僕たちと一緒に来ないか?
これから多分僕たちは、今さっきの連中を追撃する。
運が良ければ、今の続きが出来るかも知れない。
どうかな?」
『……どうやって追い掛ける。
このまま、追い掛けるわけにはいかんだろう?』
「心配ない。
【アーガマ】が来た」
そういってアムロが指し示した先には、【アーガマ】がその姿を現していた。
<第六話Cパート・了>
NEXT
ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1998+09/05 公開
感想・質問・誤字情報などは
こちら まで!
<作者の告白>
すいません。_(。。)_
またもや、更新が遅れてしまいました。
最近のバンダイ関連のソフトは遊べるもんでつい……以下のような事をしていて遅くなりました。
------ 作者の回想 --------
作者 「あぁ、SS書かなきゃいけないのに(;_;)」
作者の目の前では、ガンダムとジムとザクが縦隊横列を組んで闊歩していた。
作者 「メゾン1M−hit記念も書きたいのに(T^T)」
【画面では、ジャブローで二頭身ジムが二頭身ズゴックにドッテ腹に穴を開けられていた。】
作者 「部屋10000hit記念も書きたいのに(Π▽Π)」
【画面では<ららぁ>がビームサーベルの露となっていた】
しくしく (;_;)
【画面ではデラーズが連邦を弾劾していた】
メソメソメソ (T−T)
【画面ではエゥーゴ部隊がジャブローに降下しているところだった】
いや☆ \(⌒▽⌒)/
作者 「執筆が進まない……」
--- 作者の回想終わり -----
てな、毎日を送っていました。
というわけで、次パートもちょっと遅れるかも知れません。
【目標 9/18公開】
……まもれると良いなぁ(火暴)
TOP / Novel / NEXT