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スーパー鉄人大戦F    第伍話〔救出:A hero's duty〕
Bパート


<ジオフロント【ネルフ】本部・第二発令所>      


《向こう(第一発令所)でも、ここ(第二発令所)でも、緊張するわね〜》

 【ネルフ】作戦部長・葛城ミサトは、その様なことを考えつつ、召集を掛けられた原
因を考えあぐねている。

 ミサトの他に、単独で馳せ参じたレイと、ミサトに捕捉及び捕獲・連行された被保護
者兼パイロット2名がいる。
 それだけでは無い。

 身近なところから日向マコト、青葉シゲルを筆頭とする作戦部キーマンの面々。

 更に周りを見渡すと赤木リツコや伊吹マヤを筆頭とする技術部の面々でこちらはかな
りの人数がいる。

 取り立てて多いのは、EVAの整備等を取り仕切る技術部第一課で、大半を占めてい
る。

 何よりも加持リョウジ他数名の保安部員が此処にいるのが、ミサトに疑問符を投げか
ける。

 この面々から考えても、日頃の些細な規則違反に対する懲罰宣告ではないらしい。

 ミサトがこの場から得られた答えは、その程度のコトであった。

 念のため、リツコの傍らへ滑り込み、掠れるような小さな声で問い掛ける。

「リツコ。
 アンタ、何か聞いてない?」

 そのミサトの問いに、リツコは振り向きもせず押し殺した声で応えた。

「いいえ、聞いてないわ」

 ミサトはそれ以上の原因追及を諦めた。

        :

 皆が奇妙な静寂に耐えきれなくなる寸前の所で、彼ら【ネルフ】の最高責任者と次席
責任者がその指定席へ現れた。

 真の静寂がその場へ具現する。

 そして、その静寂を破り捨てたのは、言わずと知れたゲンドウだった。
 その口調は一切の感情が死滅しているとしか思えない冷酷さで、さながら獄卒もかく
やと言った具合だ。

「只今より、諸君達への辞令を発令する……
 葛城ミサト一尉」

 いきなり御指命を受けたミサトは軍人らしい、感情を廃した明瞭な返答をしていた。

「ハッ!」

「本日1200(ヒトフタマルマル)を持って、三佐へ昇格。
 同1203(ヒトフタマルサン)を持って、【ロンド・ベル】への出向を命ずる」

 唐突な命令ではあるが、ミサトは軍人だ。
 下された命令に抗うといった選択肢は、考えられなかった。
 彼女の中の軍人としての何かが、明確にそして簡潔に彼女へ返答させていた。

「ハッ!」

「赤木リツコ博士」

 リツコはそれに頷くことで返答とした。
 ゲンドウには、それで十分であったらしく更に続ける。

「本日1200(ヒトフタマルマル)を持って、三佐待遇とする。
 同1203(ヒトフタマルサン)を持って、【ロンド・ベル】への出向を命ずる」

「……了解いたしました」

「エヴァンゲリオンパイロット、ファーストチルドレン・綾波レイ。
 同・セカンドチルドレン・惣流・アスカ・ラングレー。
 同・サードチルドレン・碇シンジ。
 以上三名は同じく1200(ヒトフタマルマル)を持って、二尉待遇とする。
 同1203(ヒトフタマルサン)を持って、【ロンド・ベル】への出向を命ずる」

 戸惑うシンジ達を余所に、ゲンドウは話を先に進める。

「他、作戦部18名・技術部82名・保安部8名は現資格にて、本日1203(ヒ
 トフタマルサン)を持って、【ロンド・ベル】への出向を命ずる。
 ……以上だ」

 そう言って、ゲンドウは押し黙った。
 変わって、冬月が説明を始めた。

「急なことで皆には済まないと思う。
 だが、これも【ネルフ】の設立理由である【使徒】の殲滅の為だ。
 そこを十分に理解して欲しい。
 なお、【ロンド・ベル】での配属先は機動巡航艦【アーガマ】だ。
 詳しいことは各員へのメールボックスへ配布済みだ。
 では、諸君らの健闘を祈る。
 以上、解散して宜しい」

 そういって、彼らの上官であり他組織への出向を命じた男達はそこを後にする。

 それを見て、僅かな人間を残して、急な出向命令に首を傾げつつ同様に発令所を後に
した。

 そして、残ったのはシンジ達パイロット三人とミサトやリツコだった。

 ミサトは一番問い質したかった加持は、流石というかいつの間にか居なくなっている。

「リツコ、タイムテーブル確認できる?」

 リツコはミサトのその問いに答えるべく、白衣よりPDAを取り出し何やら操作を始
めた。
 操作を始めて、ものの数秒で目的に辿り着いたようだ。

「……暢気な事している場合じゃないわね」

 リツコはそういって、ミサトにPDAの液晶表示部を見せた。

「何よ、これ!
 明日乗り込み!?
 荷物纏めるヒマもないじゃない!!」

「そのようね。
 アナタ、昔からそういうの苦手だったものね?」

「言ってくれるわね〜〜」

「あら、嘘は言ってないわよ」

「へへ〜〜んだ。
 今回はひと味違うわよ!
 何てったって、”秘密兵器”があるんだから」

「秘密兵器?」

「そう、”秘密兵器”」

 ミサトはそういって、シンジに目を向けた。
 その様子を見て、リツコはこめかみを押さえながら、十年来の旧友の”秘密兵器”を
理解した。

「アナタねぇ……」

「まあ、いいじゃない。
 頼るべきは、麗しの家族ってね」

 リツコにその言葉を投げ掛けるが早いか、今度はシンジへお願いをする。

「シンちゃーん、ちょっといいかしら?」

「何です、ミサトさん?」

「チョーチ、お願いがあるんだけど……」

「いいですよ、ミサトさん。
 で、お願いって何ですか?」

「大したことじゃないわ。
 これから本部での用事を片付けなきゃいけないんだけど、【ロンド・ベル】には明日
 の朝一番に顔を出さなければいけないの。
 でね、チョーチ荷物纏めといてくれるとうれしーなぁなんて思ったりして……」

 ミサトのお願いが存外まともなものであったことでシンジは気楽にソレを引き受けよ
うとした。

「いいですよ……わぁ!」

 シンジが承諾をしかけたところでアスカがシンジを押し退けて、ミサトに抗議する。

「良くないわよ!
 荷物って、何詰めさすつもりよ!」

「……?
 何って、お化粧品や端末に……まぁビールとかは自分で何とかするとして……
 後、着替え程度かしら」

 ミサトはこの時至極当然と云わんばかりに、ビールの持ち込みまで考えていた。
 だが、軍艦は基本的に禁酒で、艦長と軍医以外は持ち込むことが出来ない筈だ。
 一本二本程度ならともかく、長期に渡ってミサトの喉を潤せる量を一体どうやって持
ち込む気なのであろうか?

 それはさておき、ミサトの発言にようやく問題部分を聞き及んだアスカが指摘を始め
た。

「それよ!」

「それって、着替え?」

「そうよ!
 ミサト、アンタシンジに着替えまで詰めて貰うつもり!?」

「えぇ、そのつもりだけど……
 何か問題あるの?」

「問題おお有りよ!
 いい年した女が、年下で年頃の男に下着の詰め込みまでやらせるつもり!?
 シンジが道を踏み外して、変な趣味持ったらどうするの!」

「そうねぇ、それは問題ねぇ……」

 そのミサトの言葉に、ウンウンと肯くリツコとアスカ。
 ミサトはチョットの間考え込み、そして真剣な顔をしてシンジに告げる。

「シンちゃん……」

 ミサトのその雰囲気に呑まれるシンジ。

「はっ、はい!」

 そこでミサトは飛びっ切りの笑顔をして、とんでもないことを言い始めた。

「あのね、着替えのことなんだけど……2週間分ほど詰めといてねっ!
 下着はなるべくお揃いの上下を中心にしておいて頂戴。
 ガードルなんかは、出張用にもう纏めてあるからいいわ。
 あっ、私の下着が欲しいんなら二、三枚持っててもいいわよ(はぁと)
 でも、高そうなのはやめてね。
 あげた下着ヘンな事に使っちゃ、やぁ−よ……」

 ミサトがそこまで言ったところでアスカとリツコの叫び声と共に連続し乾いた破裂音
が二つ重なった。

「「『やぁ−よ』、じゃないでしょ!」」

 シンジが見たのは、どこにあったか検討もつかないハリセンを持って、ミサトの頭部
を前後から挟撃し張り飛ばすアスカとリツコの見事なコンビネーションだった。

 ミサトは見事轟沈し、発令所床に転がった。

 それには目もくれず、はたまた目の前の展開についていけないシンジをも無視して(
ちなみにレイは全く普段通りの無表情で佇んでいた)、リツコがシンジ達に指示を出し
た。

「シンジ君、あなたは部屋の片づけをして自分の荷物を纏めておきなさい。
 明日の朝、レイを迎えにやるわ。
 アスカも同じよ。
 ミサトの分は自分でやらせればいいわ。
 で……後はレイね。
 話は聞いていたわね。
 その前にアナタはこの後ワタシについてきなさい。その後荷物を纏めて、明朝0800
 (マルハチマルマル)にシンジ君達と合流。
 いいわね。
 ……返事は?」

 テキパキと的確かつ簡潔な指示を下すリツコ。
 流石はネルフの双璧の一端を担う人物だ。

 シンジ達は殆ど条件反射で、それぞれのスタイルの承諾をしていた。

「はい」
「判ったわ」
「……了解しました」

 それを聞いて、ニッコリ微笑むリツコ。

「よろしい。
 では、行きなさい」

 そうして、シンジ達は発令所を後にした。

        :
        :
        :

 三人が立ち去った後、リツコが視線をシンジ達が出ていったドアへ向けたまま呟いた。

「もう良いわよ」

「あっ、バレてた?」

「当然でしょ。
 付き合い長いもの。
 で、何か聞きたいことあるんじゃないの?」

「流石はリツコ。
 話が早いわ。
 ワタシの聞きたいのは、どうしてEVAがここを離れることが出来るかって事よ。
 ワタシが受けた説明では、ここに【使徒】が押し寄せてくるから、こんな要塞都市造
 ってEVAを配備している筈なんだですけどね」

 ミサトの疑問に冷静な対応をするリツコ。

「ワタシにそんなこと、判るわけ無いじゃない。
 ワタシは単なる技術屋よ。
 【使徒】の事はまだまだ判らないことだらけよ、【使徒】の行動目的なんて判るわけ
 無いじゃない。
 知りたいのなら、今回の件を決めた司令や副司令に聞いてみるべきだと思うわ。
 ……答えてくれるとも思えないけど」

「そりゃ、どう〜も」

 ミサトはその言葉を残してそこを立ち去った。
 数々の疑念を一層深めながら。

《まだまだ、ワタシの知らないことが多そうね。
 このネルフってトコは。》


<サイド7第2バンチ【グリーンノア2】・ドッキングポート>      


 ここは【サイド7】第2バンチ・連邦登録名【グリーンノア2】。

 このコロニーは、【エヴァーグリーン】とは違い密閉型のコロニーである。
 これは、月の裏側にあるコロニー群【サイド3】によく見られる形式のコロニーで、
開放型のような”窓”を持たず、内部に人工太陽を備えている。

 投入される資材に対して得られる利用可能な床面積が多いため、工業コロニーとして
多用されている。
 反面、完全に密閉されている閉塞感から住民にストレスを与えるため、【サイド3】
以外では居住用としては使用されていない。
 例に漏れず、ここ【グリーンノア2】も現在、特殊用途工業コロニーとして使用され
ていた。

 そして、ここドッキングポートでは、【サイド】間や地球から来た宇宙船の来訪を一
手に引き受けている。

 そこに純白のシャトルが入港しようとしていた。
 その機体は【テンプテーション】級の往還宇宙機で、往還宇宙機としては最大級の機
体であり月軌道程度であれば単独無補給で往復できる。

 乗客は、地球連邦軍政府参事ドラウド・ドーリアンと数人の事務官、そしてドーリア
ン氏の息女リリーナであった。

 入港前の緊張した静寂を和らげようとリリーナは、傍らにシートへ座る父へ話し掛け
た。

「お父様、このコロニーには何の御用でいらしゃったのですか?」

「どうしたのだね、リリーナ。
 そのようなことを聞いたりして」

「いえ、どうしてお父様がこのような工業コロニーを訪れなければならないのか、少し
 心配になったのです」

 その娘の問いかけに、不器用な笑みを浮かべながら父ドラウドは応えた。

「そうか、心配をかけてすまないなリリーナ。
 だが、私がここへ訪れた理由は単なる事実の確認だけだよ。
 安心しなさい」

《確認するのは、ティターンズの現状だがな……》

 ドーリアンは、表面的には娘を安心させるためにこやかにしていたが、心の中では苦
虫を噛み潰すようにして呟いた。

 当初、単に数ある独立部隊の一つでしかなかったティターンズであるが、前大戦終結
後ジャミトフ・ハイマン中将直轄組織となってからのその膨張ぶりは、明らかに異常で
あった。
 加えて、予算執行もベールの向こうに隠れており、使途不明金も多い。

 その為、連邦政府内でも親コロニー派の議員や良識派の議員・官僚達から徐々にでは
あるが、批判の対象となっていた。

 今回ドーリアンが多忙の中【グリーンノア2】へ訪れたのも、そのようなティターン
ズの実態を自らの目で確かめるためであった。

        :

 シャトルに振動が伝わる。
 ドッキングポートへの固定が終わったところだった。

 シャトルの乗客達がドッキングチューブの出口で見たモノは、待ち構えていたらしい
ティターンズの高級士官とその部下らしき一団だった。

 口ヒゲを生やした馬面のティターンズ高級士官がドーリアン達に向かって、尊大な態
度で口を開いた。

「ようこそ、【グリプス】へ!
 私が案内役のジャマイカン・ダニンガン中佐であります」

 その物言いに反感を覚えるドーリアン。
 が、彼も海千山千のたたき上げの官僚だ。
 このような所で自分の感情に振り回される様なマネはしない。

「任務ご苦労様です、私が連邦参事のドラウド・ドーリアンです。
 ですが、質問してもよろしいですか?
 先程の【グリプス】とは、どこのことでしょうか?
 ここは【グリーンノア2】と聞き及んでおりましたが?」

 それを聞いて、ジャマイカン中佐は芝居掛かった嫌らしい笑いを浮かべながら謝罪し
た。

「申し訳ありません。
 【グリプス】というのは、我々が付けたここの愛称です。
 云うまでもありませんがここはホームグラウンドでもあるので、愛着があるのですよ。
 普段このコロニーを【グリーンノア】と呼ぶ者が居ないので、つい口が滑ってしまい
 ました」

 話している内容はともかく、口調が完全にこちらを軽んじている。
 ドーリアンは、内心怒りを感じつつも冷静にジャマイカンの話を切り返した。

「そうでしたか。
 ですが、ここは連邦により建造・維持されているコロニーです。
 いわば連邦市民の共有財産であります。
 それをアナタのような将官がこのような席での、そのような不用意な発言は控えてい
 ただきたい」

 それを聞き、ジャマイカンは鼻白んだ。
 どうにか、ドーリアンに返事を返すのが精一杯であった。

「……りょ、了解した。
 以後、気を付けることにしましょう。
 では、こちらへ」

 そういって、傍らの部下へ目配せしてドーリアン達の案内をさせる。

        :

 ドーリアン達が立ち去った後、目付きの悪い先程とは別の部下が話し掛けてきた。

「連中、どうします」

「どうもしない。
 補修用ドックやMS整備工場を案内して、お帰り願うだけだ」

「でも、今ここで建造しているアレなんかを見られたらマズいんじゃないですか」

「問題ない。
 あの辺は、巧妙に擬装してある。
 滅多なことで見つかるわけがない」

「そうでしょうな。
 ところで娘の方はなかなかのカワイかったですがね、あのドーリアンって野郎、チョ
 ット五月蠅くないですかい。
 今の内に始末しましょうか?」

「馬鹿なことをいうな!
 今ここで事故死でもしたら、我々にあらぬ疑いが懸かるであろう」

「では、あの紳士は近く別の所で不幸に遭われるかも知れない。
 そう言うことですな」

「そう言うことだ」

 ジャマイカンとその部下は陰湿な笑みを浮かべあった後、ドーリアン達の後を追った。



<第三新東京市郊外>      


 日も暮れ、辺りが暗くなり始めた頃、シンジは夕飯を買い求めにコンビニへの道をト
ボトボと歩いていた。

 その道中、シンジは出掛けの様子を思い返していた。

        :
        :
        :

 シンジは、リツコに云われた通り【ロンド・ベル】出向の為の準備をやっていた。

 元々、シンジの持っている荷物など多寡が知れている。
 それに加えて、第三新東京市へ引っ越してきたばかりだ。
 荷物もまだエントロピーの増大は最小限に押さえられており、必要な荷を纏めるのも
さほど時間は掛からなかった。

 だが、コンフォート17・803号室全体が対象ともなると、そうはいかない。

 何せこの一室の主は、エントロピー増大を加速させることに関しては人後に落ちない。
 連日の二人(主にシンジ)の奮闘も虚しく、長期の外出に耐えられる状態では無かっ
た。

 ここで、もう一人の同居人は当てには出来ない。
 何故なら、彼女自身の荷造りでてんやわんやしていた上に、ミサトの部屋の片付けま
でしていたためだ。(理由は言うまでもない。アスカが、ミサトの部屋の片付けをシン
ジがやるのを、強硬に反対したからだ。)

 シンジが片付けを終えたのは、太陽が地平線と濃密なキスを交わすホンの少し前だっ
た。

 シンジが一息ついていると、アスカも片付けをようやく終えたようで汗にまみれてミ
サトの部屋から出てきた。
 その両手には、大漁旗がはためいていないのが不思議なぐらいの廃棄物(らしき)を
いれたゴミ袋を抱えていた。

 シンジがくつろいでいるのを見て、アスカが大きな抗議の声を上げた。

「なにボサッとしてんのよ!
 チョットは手伝おうとか思わないの!」

「えっ、ああ、ごめん……」

 そうして、シンジはアスカの手からゴミ袋を押しつけられ、そのままマンションの
ゴミ収集場へと運んだ。

 部屋に帰ってみると、アスカの姿が見えない。
 浴室方面から柔らかい水音が聞こえてくるから、多分シャワーで汗を流しているのだ
ろう。

 暫くして、アスカが浴室から出てきた。
 気持ちよさそうにして出てきたアスカだが、暢気にくつろぐシンジへ話し掛けてきた。

「シンジ、今日の夕飯どうするの?」

「えっ、考えてないけど……」

「まぁ、いいわ。
 シンジ、何か作ってよ」

「僕、大したモノ作れないよ。
 冷凍食品とか、出来合いの惣菜暖め直すとか……」

「え〜〜〜、アンタ料理できないの!?
 ここに来るまで自分で作ってたんでしょう?」

「……食事にあまり手間を掛けるのは好きじゃないんだ。
 でも最近の冷凍食品って、良くできてるんだよ。
 栄養もそこそこで偏らないし……」

「そりゃま〜、そうでしょうけど……
 虚しいとは思わないの、そんな食事して」

「……別に。
 今までずっとそうだったから……」

 暗い表情をするシンジの様子を全く気にしない(フリをして)で、アスカは冷蔵庫の
中身を確かめる。

「ふ〜ん、まぁいいわ。
 じゃあ、あり合わせで何か作ろうかしら……」

「えっ、アスカ料理できるの?」

「何よ、失礼ね!
 出来るわよ!!
 ……なんてね。
 覚えたくて、覚えた訳じゃないの。
 ミサトと一緒の時にね……
 そりゃあ、もう死にたくなかったから必死になって覚えたわ……」

 アスカのその言葉にシンジは間の抜けた笑い声を返すことしかできなかった。

「はははっ…………」

「……でも、作ろうにも何もないわね。
 じゃあ、今日は”デマエ”取りましょうよ。
 日本じゃ、何でもデリバリーしてくれるんでしょ?」

「そうだけど……、多分無理だと思うよ」

「どうしてよ!」

「どうしてって……
 ここから疎開する人多くって、もう大概の店閉まってるよ。
 だから、出前してくれるような店、もう無いと思うんだ」

「しょうがないわね〜〜
 じゃあ、シンジ。
 コンビニのお弁当で勘弁して上げるわ」

「それって、僕に買ってこいって行ってるんだよね」

 それを聞いて、アスカは意地の悪い笑みを浮かべてシンジに顔を近付けた。
 シンジは反射的に腰が引けたが、それよりも早くシンジの額へデコピンを喰らわせて
アスカはのたまった。

「当然でしょう。
 何にするかは、シンジに任せるわ。
 でも、美味しくなかったらお仕置きよ、いいわね」

《なら、自分で買いに行けば良いんだ》

 賢明にもその発言を心中だけ留めて、シンジは財布を持って玄関へ向かっていた。

        :
        :
        :

 と、かなり情けない話ではあるがシンジはそのような経緯でコンビニに向かっている。
 しかし、大都市圏での繁殖ぶりには定評のあるコンビニも、ここ第三新東京市には当
てはまらないようであった。

 店自体は、確かにその名に恥じぬ数があるのだ。
 だが、その大半が〔臨時閉店〕・〔CLOSED〕・〔Out of Servisies〕・〔長年のご愛
顧ありがとうございました〕のオンパレードだ。
 このような状況だと、店の経営者もソロバンは弾くより限りある命の方を大事にした
のだろう。
 殆ど疎開してしまっていた。

 シンジは開いているコンビニを探して歩き回り、ようやく今の第三新東京では宝石よ
りも貴重な営業活動中の店を見つけた。
 全面一枚ガラスの自動ドアが開き、シンジを電子音の間の抜けたメッセ−ジで歓迎す
る。

 買い物かごを持って、店のドリンククーラーへ向かうとそこには自分と同じ年頃で青
銀色の髪を持つ少女がいた。

 再び、病院でのあのシーンがプレイバックしそうになるが、そこは何とかアスカの激
怒する顔を思い出すことで何とか再生に待ったをかけた。
 そして、彼にしては珍しく、至極自然に他人へ話し掛けることに成功した。

「綾波、何しているんだい?」

 その声を聞いて、蒼銀色の髪と真紅の瞳を持つ少女 -言うまでもなく綾波レイだ- は
、その瞳をシンジに向けた。

「……碇君」

 一瞬の間をおいて、レイは声を掛けた人物がシンジであると言うことを知覚する。

 自分を認識してくれたことでシンジの口の滑りが滑らかになったようだ。
 続けてレイとの会話へ持ち込む事に、天文学的確率を満たして成功した。

「うん。
 ……綾波も食べ物買いに?」

「いいえ……明日の準備で足りないモノがあったから、それを買いに……」

「そうなんだ」

「……碇君は、どうして?」

「夕飯を買いに。
 片付けが終わって見てみたら食べる物が無かったんだ。
 でも、大変だよ。
 どこも店やってなくて、やっとこの店見つけたんだ」

「……そう」

 そう言ってシンジは飲み物を取り、弁当・惣菜コーナーへ行ったがそこには既に殆ど
の品は売れ、幕の内弁当が一つあるだけだった。

 途方に暮れるシンジ。

 そんなシンジへレイが問い掛けた。

「……どうしたの」

「……弁当が一つしか無いや」

「……ダメなの?」

「ウン。
 アスカと僕の分がいるから……
 どうしようかな……」

 シンジは困り果てていた。

 アスカの分を買わないなんて訳にもいかないだろうし -買わなかったらどうなるか判
らないが、只で済む訳が無いことだけは理解していた- 、かといってシンジも夕食を諦
める気はなかった。

 一応、彼も育ち盛りの子供だ。
 今日の片付けでかなり消耗しており、活力を欲していた。

 その彼に意外なところから、救いの手は差し伸べられた。
 レイである。

「……家まで来れば、ご飯分けて上げるわ」

 シンジは、思わずレイを見つめた。
 だが、レイはいつも通りの無表情で特に冗談を云ってからかっているわけではないよ
うだ。

 信じられないと云った様子で、シンジは事実の再確認をした。

「えっ、いいの?」

「……えぇ。
 でも、弐号機パイロットには、そのお弁当買って上げて。
 ワタシの所にもそんなにある訳じゃないの」

 シンジは、その申し出を戸惑いながらも受け入れることにした。
 最後の幕の内弁当を持って、シンジはレジへ急いだ。



<第三新東京市・ビバリーヒル金剛403号室>      


 シンジは落ち着かない様子でベッドに座っていた。
 視線のその向こうでは、レイが調理をしていた。

 ここは何の変哲もないワンルームマンション、ビバリーヒル金剛403号室。
 ここがレイの住居だ。

 シンジはコンビニを出た後レイに導かれるまま、ここへ来た。

 意外だったのは、普段のレイからも想像できない程、部屋が華美だったことだ。
 オレンジ・ピンク系統の色を多用して彩られたその部屋は、充分に女の子の部屋であ
ることを主張していた。

 一方、キッチンで調理をしているレイの様子を見てみる。

 なかなかの手つきであるが、いちいち分量を計量器等を使用し確かめている。
 その様子は、料理をしているというより化学実験といった方が馴染む。

 シンジは、余りに食い違うレイの印象と部屋の雰囲気にかなり失礼な質問を発してい
た。

「この部屋って、綾波が飾り付けたの?」

 レイはシンジのその問いに振り向きもせず答えた。

「……いいえ」

「じゃあ、誰が?」

「伊吹二尉が」

「伊吹二尉って、あのオペレーターの?」

「そうよ。
 ……赤木博士に頼まれたらしいわ」

「ふーん、そうなんだ。
 何となくそんな感じだな、この部屋って」

 シンジがそう言った時、今まで調理に専念していたレイが振り返りこちらへ向かって
きた。
 思わずアスカへの失言での体験から、謝罪の言葉が反射的に口をついていた。

「ご、ごめん。
 悪気があったわけじゃないんだ」

 だが、レイはシンジへ懲罰を加えに来たわけではなかった。
 菜箸をシンジの口元へ差し出した。

「……はい」

 レイの意図がよく判らずシンジは間抜けな声を発する。

「……え?」

「……味見」

 そう言って、レイは菜箸で摘んだ野菜炒めを更に差し出した。

 ようやくレイの行動を理解したシンジは、若干顔を赤らめながらも差し出されたソレ
に摘まれたモノを口にした。

「うん……美味しいよ。
 綾波って、料理上手いんだね」

 シンジのその言葉を聞いて、レイは再びキッチンへと戻っていった。
 何か様子がおかしかったような気がするが、シンジに見えるのはレイの後ろ姿だけで
その表情を確かめる術はなかった。

 暫く無言の時が続いた
 落ち着かないシンジは、レイの後ろ姿を見て、何とはなしに呟いた。

「綾波って……なんか、お母さんって感じだ」

 それを聞いていたらしいレイの身体が揺れた。
 そして、小さく呻く。

「痛っ……」

 それを聞いてシンジはレイに駆け寄る。
 そして、レイの肩越しに覗き込むとレイの左手人差し指を包丁で切ったらしい、小さ
く切れていた。

 何故そうしようと思ったか判らない。
 シンジはその時レイの手を取って、切った指を口に含んでいた。

 口に広がる独特の鉄臭さとレイの驚いたような困ったような何ともいえない感情を微
かに漂わせる視線で、我に返るシンジ。
 慌てて口からレイの手を離す。

「わわわっ!
 ごっ、ごめんっ、ついっ!」

 だが、この時はレイの冷静さに救われた。

「……バンドエイドがそこの棚にあるから取って」

 軽い虚脱状態にあったシンジは、素直にその指示へ従う。
 バンドエイドを簡単に見つけて、レイの元へ来るシンジ。
 そのシンジへ向かって、切れた指を差し出し淡々と頼むレイ。

「……貼って」

 シンジがバンドエイドを貼り終わるとレイは言う。

「……後もう少しで出来るから、向こうで待ってて」

 シンジに嫌も応も無かった。

        :

 やがて、レイは調理を終え、ご飯と出来上がったおかずをタッパーへ詰める。
 その作業を終えるとシンジへ渡しながら、ぶっきらぼうにレイは言った。

「……お肉嫌いだから、入れてないわ」

「いいよ、そんなこと。
 ありがとう、とっても嬉しいよ。
 初めてなんだ、人にこんなことして貰うの」

「……そう」

「じゃあ、アスカも待っているから僕帰るね。
 タッパー洗って明日返すよ」

 そのシンジの言葉を聞いて、レイの様子がどこか変わった。
 だが、浮かれているシンジは、それに気付かなかった。

「……いい、そのタッパーあげる。
 じゃ、明日の朝」

 レイはそう短く言うと、ドアを閉じた。

 シンジはレイの様子など気付かず、浮かれた様子で一路コンフォート17へと向かっ
ていった。

        :
        :
        :

 あちらこちらを歩き回るなどした上に他人の家にまで寄って、大幅に帰宅の遅れたシ
ンジ君を待っていた運命については、云うまでもない。

 ……合掌。




<第伍話Bパート・了>



NEXT
ver.-1.02 2001/11/25 公開
ver.-1.01 1998/07/19 公開
ver.-1.00 1998/06/16 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<作者の懺悔>      

作者  「Bパート公開が遅れてすいませんでした。 _(..)_
     Cパートの公開は必ず一週間後に行います。
     それではぁ〜〜〜〜〜」




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