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 清潔感漂う広々とした一室。

 その部屋へさんさんと陽の光が注がれ、人のみならず小鳥や花瓶の花・はては無機物で
ある花瓶ですらも鼻歌を口ずさみそうだ。

 だが、その部屋ただ一人の人間である彼女に取っては意味のないことである。

 彼女に取って意味のあるのは、自分がようやく戦闘に耐えるレベルまで傷が癒えたと
言う事実のみ。

 後はただ退院の指示を待つだけであるが、まだそのような指示は無い

 だから、彼女は待ち続けた。

 待ち続けることには慣れている。

 彼女は生まれて以来、大半の時間を唯待ち続けていたのだ。いまさら多少それを積み
重ねることなど、何の感慨も持ちようも無い。

 いつものように博士に指示された行動指針に従い、本を読んでいるとようやく指示が
下されるかと思った。

 こちらへ向かってくる足音がある。

 だが、その足音はひどく柔らかで情熱的だった。連絡員の暴力的で無機質な足音では
無い。

 待ち侘びた指示が下されないことは既に判っていたが、その足音は何故か脈拍の上昇
と肌のほんの僅かな紅潮を彼女に自覚させる。

 そして、部屋の前で足音は止まった。

 ノックと共に聞こえてくる声

「綾波……いいかい?」




スーパー鉄人大戦F    第四話〔浮上:Disinheritance than the mother articles〕
Bパート




<第三新東京市・ネルフ付属病院301号室>     

 シンジは部屋に入ったとき、何故かレイの印象がいつもと微妙に異なっていることに
戸惑った。

 シンジはその違和感を探るように目の前のレイに話し掛けた。

「やあ、綾波。
 傷は大丈夫?」

 それに応えるレイの返事は、いつも通りの朴訥な必要最小限の言葉の羅列であった。

「……えぇ、問題ないわ」

「綾波、リツコさんから伝言されているんだ」

「…………」

 シンジの口から【リツコ】の名を聞いたとたん、レイに感じていた違和感が払拭され
ていた。シンジは安心したような惜しいことをしたような複雑な気分を味わったが、伝
言を続けることにする。

「今日午後から、零号機の再起動試験があるって。
 だから……」

 シンジはそう言ってズボンのボケットへ入れたパスケースを取り出そうとした時、だ
った。レイはベッドから音もなく抜けだし、院内着へ無造作に手を掛けた。一気にその
手を上げる。

 シンジが何やら静謐な部屋で突然小さくも声高に主張する布摺れの音に顔を上げると
そこには、院内着を脱ぎ捨て一糸纏わぬレイの裸体があった。

「あっ、あや……あや……どっ……はだっ……」

 レイの何か言おうとするシンジであるが、混乱の余り意味不明の音を無意味に生産し
ていた。

 その間にもレイは淡々と着替えを進める。お世辞にも可憐とは言いかねる、不愛想な
デザインの白のショーツに足を通す。細身ではあったが、14才にしては整った肢体が
滑らかに動く様は明らかにシンジの理性崩壊点を上回る。

 人間性への危機に彼は彼の意志に従わない声に見切りをつけ、その身体へ大転回を命
じた。それは奇跡的に神速の業で達成され、シンジは多少の余裕を取り戻す事に成功し
ていた。謝罪の言葉をどうしようも無いほど、ドモりながら述べる程度には。

「ごっ……ごめん……
 あ……あの、えっと、僕何も見ていないから……
 ごめん、ホントに……ホントに、わざとじゃないんだ……」

 稚拙な謝罪を繰り返すシンジを無視して、病室を出るレイ

 シンジは、レイが病室を出て数十秒経ってようやく彼女が既に病院を出ようとしてい
ることに気付くのであった。



<北米・旧合衆国ネバダ州>     

 見渡す限りの荒涼たる平原に佇む歪な赤黒い文鎮

 それだけであれば、別段気にする必要もない。
 何処までも続くかのように思える味気ない広野へ少しでも変化が出来、色添えになる
からだ。もしかしたら、ネタに困った日本旅行会社がツアーを組むかも知れない。

 だが、それが全長300m・全幅1200mの巨体を持ち、至る所に禍々しさを隠そ
うともしない砲塔が無数に設置されていては話は別であった。特に三度目の地球圏規模
の戦争状態に陥っている今の状況では。

 その遙か上空では、生き残っている貴重な対地観測用偵察衛星の一部が古馴染みとの
語り合いをキャンセルする程の情熱を持って、熱い眼差しをこの地へ向けて始めていた。

 さらには地域的な伝統で事件に耳敏いマスコミの目も徐々にこの付近へ集まり始めて
いる。

 一気に地域的話題の焦点となり、遠からず世界的話題の焦点になることが確実なその
物体・超巨大浮揚戦艦【ウィル・ウィプス】の中で、主は物静かに現状を分析していた。

《ここは……ラウの国では無いな。
 よもや、ナの国でもあるまい……》

 板金鎧を身に纏い、戦装束が板に付いたその禿頭の男の名はドレイク・ルフト。
 バイストンウェルへ覇を唱えんとする人物である。

 王の座より主艦橋最前部へとその身を進め、自ら双眼鏡を手に取り、辺りの様子を見
渡す。

 見慣れぬ風景。
 そう、彼が生を受け常にあった天の海はそこにはなく抜けるような空と、……そし
て光り輝くいままで見たこともない巨大な光球があった

《あれは、トッドの言っていたタイヨウというものか……》

 どうやら、答えが出たようだ。

《やはり、ここは……》

 そこまで辿り着いたときだった、側面より鋭い声が向けられた。

 既に人の気配を感じたときから双眼鏡から目を離していたが、改めてそちらを向くと
【ウィル・ウィプス】艦橋へ配置された通信兵が駆け寄ってきてた。

「報告します!
 先程より、クの国ビショット・ハッタ殿の軍勢、ショット・ウェポン殿の軍勢、我が
 軍別働隊などへ呼び掛けを行っていますが連絡が取れません!」

 その報告へ鷹揚に肯くドレイク。

「うむ。
 だが、連絡が取れませんでは無い。
 連絡を付けろ!
 ……それが通信兵の役目だ」

「はっ!」

「加えて全軍に通達。
 自己防衛以外の戦闘を禁じるとな。
 これを破りし者は軍規違反者として処罰すると厳命せい。
 ……行け」

 首肯して兵に行動を促すドレイク。
 通信兵は、弾かれるようにしてその場から退いていた。

 兵の迅速さに満足しつつもドレイクは熟考せずには居られなかった。

 未知の世界へと放逐されてしまった、今となっては。



<ジオフロント外殻ドック内・機動巡航艦【アーガマ】>     

 後世の歴史研究家の一人は『【ロンド・ベル】は不可思議と例外のワンダーランドで
ある』と、言ったという。

 確かにその通りかもしれない。
 何故なら、彼らは軍組織と民間人が紆余曲折した後に、混乱と独断と義勇と妥協を持
って成立した原始的な組織が、同時期に存在した組織の中で最も活躍したからだ。

 その例は枚挙にいとまがないが、あえて述べるなら、ここ【アーガマ】艦橋で【ロン
ド・ベル】戦闘機動団隊長アムロ・レイ少佐がブライトの留守を預かっていることも、
その一つかもしれない。

 これが通常の部隊であればナンバーワンと呼ばれる先任士官が艦長の替わりを務める
のが通例であろうが、【ロンド・ベル】にはその先任士官がいない。

 これは、【ロンド・ベル】が第十三独立部隊になる更に前からの出来事に起因する。

 前々大戦勃発で原隊からはぐれた軍人(とその見習い)と難民が、生き残るため成り
行きで協力し助け合いし出来た組織で、戦闘の連続による混乱で正規軍人が次々と倒れ、
各部署に必要最小限の軍人を配置することすら不可能だった。もちろん、そこには先任
士官などという、限りなく贅沢で便利な存在はいない。不幸なことにそんな彼らは必要
最低限以下の指揮系統で闘いを強要され、幸運なことに戦争を乗り切った。

 とはいえ、そのような例外をいつまでも放置するわけには行かないと、前々大戦終結
後、外郭軍事組織への改変時に正規編成へと再編成されたのであるが、再び起こった戦
乱がまたも【ロンド・ベル】を規格外編成への復帰を強要した。

 そして前大戦の終結後、【ロンド・ベル】は組織の効率化を理由に正規編成への復帰
を放棄して現在に至る。

 半ば押しつけられるようにして役目を仰せつかったアムロが、そのような事を考えつ
つ艦長席――歴史的理由からサルノコシカケと呼ばれる――で艦内に睨みを利かせてい
た。

 そこへブライトが戻ってきた。

 だが、戻ってきたブライトのその顔には困惑と疑問の二つで埋め尽くされおり、艦長
席前まで来ても上の空であった。

 いつも明確な意志と指導力で【ロンド・ベル】を率いるブライトが、そのような表情
を見せることに、どうしても口元が歪んでしまうのをどうにか押さえつつアムロは話し
掛けていた。

「どうだった、ブライト?」

 ブライトはそのアムロの一声で、ようやくこっちへ戻ってきたようだ。アムロを確認
すると、労いの言葉を掛けてきた。

「うん……?
 ぁあ、アムロか。
 すまんな面倒なことを押しつけて……」

「それは構わないが……
 どうした、また何か面倒事を押しつけられでもしたか?」

「……よく判らん」

「何を言われた?」

「これを見てくれ……」

 ブライトは、アムロへ手にした書類を渡しながら話を進める。

「【ネルフ】の作戦部隊をこちらへ出向させると行って来た」

「何!?」

 手早く書類へ目を通したアムロが呻く。

「こ、これは……」

「そうだ、表向きは【ネルフ】の作戦部隊が【ロンド・ベル】へ出向する形式を取って
 いるが、指揮系統から行くと【ロンド・ベル】が実質的に【ネルフ】指揮下へ正式に
 組み込まれている。
 現在の統合幕僚部直轄ではなく、政府直轄組織としてな……」

「向こうは、何と言ってきているんだ?
 この状況下で我々を此処へ留まり続けろとでも言うのか!?」

「それがな……【ネルフ】が言うには……」

 歯切れの悪いブライトに、話を促すアムロ。

「ブライト……勿体ぶるな……」

「いや、私にもよく判らんのだ……
 向こうが言うには『君たちには今までどうり、独立部隊としての判断で行動して貰い
 たい』、だそうだ。
 ただ、【使徒】を補足した場合は最優先で叩くことを要求されたがな……」

「……どういうことだ?」

「全く見当もつかんよ」

 投げやりに言い放つブライト。

「さっきの不快感といい今度の件といい、僕たちの知らないところで物事が進んでいる
 ようだな……」

「そうだな、取り敢えず今の我々では、我々の判断で行動するしかないと言うことだな。
 取り敢えず今は、な……」

「そうだな、そうすれば本当の敵も見えてくるだろう」

 アムロはそこで一旦話を区切り、ブライトと今後の方針の話を始めた。



<第三新東京市・路上>     

 今日は本当にいい天気だ。

 いや、寧ろ良すぎるかも知れない。初夏であるのに早くも蝉の鳴き声が溢れ、路には
陽炎が立っている。

 その熱気の中を、全く動じないまま一心不乱に歩く少女がいる。

 その蒼銀色の髪に、細身でしなやかな身体。そして、見つめられたら恐らく今際の際
まで心に刻み込まれるであろう鮮血色の瞳を持つ彼女は、間違いなく綾波レイだ。

 数歩後ろへついて歩く少年は、当然碇シンジである。

 シンジは未だにレイへカードを渡せていない。少年は何度も声を掛けようとするが、
その度にあのレイのどこまでも白い肌が目に浮かび、声を掛けられずにいた。

 そんな少年をどう評するかはともかくとして、そうしている間にも彼らは着々と【ネ
ルフ】本部へ向かうためのリニアトレイン駅へと近付いている。

 シンジは状況を打破するため、最近多用することが徐々に増えてきている積極性へ一
層の働きを厳命して、レイに呼びかけた。

「あっ、綾波っ……」

 だが、レイが振り返る気配は無い。

「本部に行くんだよね……」

 依然として、レイは振り返らない。

《どうしよう。
 なんか、しゃべんなくちゃ……》

 シンジは何故か近親者に見放されたような絶望感を味わいながらも更に語りかける。

「……今日の零号機との再起動試験だよね?」

 シンジは依然として反応しないレイに、朝より感じていた疑問をぶつけていた。

「……綾波は怖くないの?」

「…………何が?」

 レイに反応があったことに驚きながらも、更に言葉を続ける。

「何がって……
 ……その、EVAに乗るのが……」

 それを聞いて、レイが尋ね返す。

「アナタは怖いの?」

 それを聞いてシンジの脳裏にあの赤紫色の【使徒】の姿が蘇る。
 怖気を振るいながら、シンジは心中を吐露する。

「そりゃ怖いよ。
 怖くないって言う方がおかしいんじゃない?」

「……お父さんの仕事が信じられないの?」

 ソレを聞いてシンジは誰に言うともなく呟く。

「……そうかもしれない。
 ……父さんとは殆ど一緒にいた記憶が無いんだ。
 そんな他人より遠い父親なんて、信じられないよ……」

 それを聞いてレイは歩みを止めた。
 そして、静かにシンジへ振り返ると彼へ哀れむようでいて蔑むような、そして悲しみ
を湛えた目でシンジを見つめた。



<東京都吉祥寺・住宅街>     

 光に巻き込またところで意識を失っていたショウ・ザマであるが、懐かしさを感じる
眩しさを瞼の裏に知覚して目を覚ました。

「ここは……どこだ?」

 頭を振って、辺りを見渡すとそこにあったのは、幼き日より異世界に堕ちるまで見慣
れた住宅街の風景であった。頭上には間違いなく、バイストンウェルでは存在しなかっ
た物体……【太陽】が燦然と存在を誇示していたからだ。

 思わず、そこに在る筈のモノを確認すべく目を向ける。

 あった……。やはり、間違いないようだ。そこには、ショウの家が存在していた。

「ここはバイストンウェルじゃない……間違いない地上だ」

 ショウがそこまで呟いた呟いた時だった。ショウの腹で気を失っていた小妖精――ミ・
フェラリオ――チャム・ファウが目を覚ます。二、三度頭を振ってから、その背に生え
ている翅を震わし、宙を舞った。

「ショウ、ここどこ?」

「地上らしい」

「えぇ〜〜〜〜〜!?
 どうしてよ!」

「さぁな、多分ジャコバ・アオンが何かしたと思うんだが……」

「お姉さまが?」

「あぁ。
 恐らく、バイストンウェルからオーラマシンを無くすという以前の約束を果たすのを
 待ちきれなくなったみたいだな」

 ショウは、以前ジャコバ・アオンと接見したことがある。
 そこで聖戦士として、バイストンウェルの秩序を取り戻すこと――この場合、オーラ
マシンの排除。人の世界の覇権など、フェラリオの知ったことではない――を約束させ
られていた。

「じゃぁどうやって、バイストンウェルへ帰るのよ〜」

「わかるかよ!」

 そういって、自らの乗るオーラバトラー【ビルバイン】のキャノピーを開く。人で言
うところの胸部から腹部に掛けての装甲が開き、操縦席が外界に解放される。

「ショウ、どうするの?」

「ここはオレの家だ。
 オフクロやオヤジに挨拶でもしてみるさ……」

「ふうん、そうなんだ〜」

 ショウはそう言って【ビルバイン】から飛び降りた。チャムも後に続く。そのチャム
にも聞こえないほど小さな声で、ショウは呟いていた。

「オフクロやオヤジが居ればだけどな……」

        :
        :
        :

 家に入って見るとそこには人の気配など全くなかった。予想通り、相変わらず両親は
家に寄りついていないらしい。

 ショウは、慣れた足取りでキッチンに向かい冷蔵庫のドアを開けていた。いくつかの
飲み物と日持ちのする惣菜が入っているだけである。一つだけあったリンゴと、数本あっ
た缶ジュースの一つを手にして、冷蔵庫を閉じる。

「ショウ、それ何?」

「ああ、地上の飲み物だよ。
 飲んでみるか?」

「やったぁ!
 頂戴、ショウ」

 ショウは缶のふたを開け、チャムに渡してやる。身長三〇cmなチャムであるから、ふ
らつきながらもそれを抱きしめるようにして受け取り、缶を傾けた。
「あまぁい」

「程々にしとけよ、チャム」

 ショウがチャムへ向け、そう言ったがチャムは初めて味わうジュースの甘さに全く聞
いていないようだ。

 苦笑しながら、リビングへ向かいTVをつける。そして、チャネルをCATVの24
時間ニュース放送局へ合わせる。それを見てショウは思わず、驚嘆の声を上げていた。

『……繰り返します、世界各地へ正体不明の戦闘マシンが突如出現しました。
 それも全世界範囲でかなりの数が確認されいます……』

 ニュースキャスターが憑かれたようにがなり立てるその後ろのモニターでは、次々と
映像が切り替わる。

 そして、画面は赤黒い物体を映し出す。一緒に映っているオーラマシンや、浮揚戦闘
艦の対比からいっても間違いない。

「何、【ウィル・ウィプス】も!
 ドレイクも地上へでたのか!?
 じゃぁ、他のみんなも地上へ来ているのか?」

 そこまで、ショウが呻いた時だった。
 家の周りで何やら騒がしい。

《面倒なことになりそうだ》

 ショウは急いでここを出ることにした。

「チャムッ!
 ここをでるぞっ!」

 その怒声に驚いたチャムは、思わず缶から手を滑らしてしまい残ったジュースを全身
に浴びてしまう。

「やぁ〜ん」

「何している、チャム!
 置いて行くぞっ!」

 ブーツを履いたショウは、そう言って玄関を出ようとする。このままだと、本当に置
いて行かれると思ったチャムは、全身を濡らした不快感を我慢して、ショウを追いかけ
ていた。

「ショウ、まってよ〜」



<ジオフロント・【ネルフ】本部・第二実験場>     

 窓越しに見える白い壁に囲まれたその部屋に妙な圧迫感を感じていた。見渡したとこ
ろ、不自然なぐらい何もない。向かって正面壁面に肩を固定され、力無く佇んでいる黄
色い巨人以外は。

 窓の内側プリブノーボックス側にいるシンジの背後では、リツコの叱咤を受けながら
慌ただしく技術部員が試験前の準備に追われていた。それを聞き流しながらもシンジは、
先程のレイの視線が何であったのかという疑問を解決できずに、思考にひたっていた。

《……どうして、あんな目で僕を見たんだろう……》

 先程から繰り返されているが、ある程度まで考えが進むとあの視線が脳裏をちらつき
また元へ戻る。

 あの後、レイの視線に呪縛されていたかの様に動けなかったシンジであるが、レイが
再び歩き始めたため、ソレから解放された。しばし固まっていた彼だが自分の頼まれた
ことを思いだしレイの後を追いかけた。そして、やっとセキュリティカードを渡したシ
ンジは、ほとんど惰性でレイと同行して今此処にいる。

 ここでシンジは、自分が思考の迷宮へと迷い込んだことを自覚しながらも、陰鬱に難
題を弄んでいた。

 試験オペレータ達は、そのようなシンジの様子を窺うがそれも一瞬のことである。彼
ら達は、己の職務を十分以上に達成すべく任務を遂行する。ようやく、実験準備が整っ
たことがリツコに伝えられると彼女は傍らに副司令と共に立つ、数少ない上位責任者へ
向け、報告する。

「第81次EVA零号機起動試験、準備完了いたしました」

 その報告に何の反応もせず、責任者であるゲンドウはEVA零号機のパイロットに話
し掛けていた。

「レイ……準備はいいか?」

「はい」

 レイの返答を受けたゲンドウは、感情を一切排除した声で宣告を下す。

「これより、零号機再起動試験を行う」

 ゲンドウの一声でプリブノーボックス内が再び喧噪に満ちる。

「第一次接続試験開始」
「主電源コンタクト」
「稼働電圧臨界点を突破!」
「了解」
「フォーマットをフェイズ2へ移行」
「パイロット零号機と接続開始」
「パルス及びハーモニクス正常」
「シンクロ問題なし」
「オールナーブリンク終了」
「中枢神経素子に異状なし」
「1から2590までのリストクリア」
「絶対境界線まで後2.5」


 シンジは、オペレータ達の騒がしいその様子にも全く構っていなかった。
 相も変わらず、一人思いに耽っている。

「1.7」

 オペレータの読み上げる声が響く。

《何故、僕をあんな目で……?》

 ちらつくあのレイの視線。

「1.2」

《綾波は、そんなに父さん達を信用しているの……?》

「1.0」

《この前の実験であんなに酷い目にあったってことなのに……》

「0.8」

《今日まで入院するような酷い怪我をさせたのに……》

 横たわるベットでこちらを向く何の感情も感じられないレイの視線。
 ……そして、透き通るようなあの笑顔。

「0.6」

《そんな綾波を無理矢理出撃させようとしたのに……》

 初出撃前の施術から投げ出されて呻くレイが思い浮かぶ。

「0.4」

《どうして……》

「0.3」

《どうして……そんなにまで父さん達のことを……?》

「0.2」

《へんだな……》

 シンジは、ふと疑問を持つ。
 此処へ来てからの自分に……

「0.1」

《他人のことがこんなに気になるなんて……》

 そう、此処に来るまでの無感動な変化の無い毎日。

 ……そして、此処へ来てからの変化と新しい出会いの毎日。
 父さん……アスカ……ダバさん……ミサトさん……リツコさん……甲児さん。

 次々と浮かんでは消える人々。

 そして……綾波。

「ボーダーラインクリア!
 零号機起動しました。
 引き続き連動試験に入ります」

 零号機が起動した、その時だった。ボックス内に警報が鳴り響く。その警報は【ネル
フ】本部各所のみならず、第三新東京市全域に鳴り響いていた。冬月は、傍らの内線電
話を引掴み、鋭い声で状況報告を聞き出している。

「どうしたっ!
 何があった。
 ……何、連邦軍の戦闘飛行隊と交戦しつつ未確認飛行物体が接近中?
 ……判った。
 何か状況に変化があったら、私の個人端末へ直接。ああ、優先事項だ」

 そうして、冬月は彼が唯一報告の義務を持つ傍らの男へと伝えた。

「碇っ。
 未確認飛行物体群が連邦軍と交戦しながら、ここに接近中だ。
 正体はまだ判らんが、【使徒】かもしれん。
 報告ではビーム攻撃等は、弾いているそうだ」

 しばし、逡巡するゲンドウ。だが、それも一瞬だった。

「テスト中断!
 総員第一種警戒態勢!」

「零号機は、このまま使わないのか」

「まだ、戦闘には耐えん。
 ……初号機は!?」

 ゲンドウは冬月の問いにぞんざいな答えを返しつつ、傍らのリツコへ問う。

「380秒で準備出来ます。
 弐号機は完全ではありませんが820秒で出撃可能です」

「よし、両機とも出撃準備」

 ゲンドウのその言葉と共に、ボックス内の人員が警戒態勢時の配置へと駆け出す。シ
ンジは、その動きについていけず呆然としていた。それを見つけたゲンドウがシンジを
糺す。
「どうした?
 さっさと行け」

 シンジは、冷たい父の言葉に落胆を感じながらも、努めてそれを表さないようにして
応えた。

「……はい」

 シンジがボックスを出ようとしたとき。微かに背後でゲンドウの声を聞いたような気
がした。

「シンジ……すまんな」

 それが、少年の願望がもたらした幻聴であるか、父の内心から零れた真実の声である
か確かめようもない。



<ジオフロント外郭・地下ドック内機動巡航艦【アーガマ】ブリッジ>     

 そこでは、アムロとブライトが【ロンド・ベル】へ新たに配備されることになった機
体へ誰を乗せるかを淡々と話し合っていた。

「……で【リガズィ】にはジュドー、【BWS】にはルーに乗って貰おうと思う」

「そうなのか、アムロが【リガズィ】へ乗れば良いじゃないか」

「やめておくよ。
 第一、あの【ガンダム・アレックス】を乗りこなせるのは他にいないだろう」

「そうだな、では今ジュドーが乗っている【ネモ】はどうする?」

「取り敢えずは、予備機だな……」

 そこまで、言ったときだった。
 通信オペレータのファがアムロ達へ叫んだ。

「艦長、緊急電です!」

「なんだ、何があった!」

「正体不明機が付近の連邦軍と激しく交戦しながらこちらに向かっているそうです」

「情報は?」

「映像、メインモニターへまわします」

 それを見て、アムロがうめく。

「あれは……オーラバトラー!?」

「何、知っているのか」

「あぁ、この間の報告書へ書いたろう」

「【ラ・ギアス】事件のか?」

「そうだ。
 アレは【ドラムロ】と……後ろの戦闘艦は【ブル・ベガー】タイプか……
 たしか、ドレイク軍の連中だな」

 そのアムロの返答に質問を重ねる。

「だが、なぜこっちに出てきているんだ」

「判らん。
 言えることは、こいつらを叩かないと被害が増す。
 それだけだ」

 そこへ病院から直行してきたと思われる甲児が、パジャマ姿で飛び込んできた。乱れ
る息を整えながらも、大声を張り上げる。

「アムロッ、ブライトさんっ!
 大変だぁ!」

「どうした、甲児君?」

「どうしたもこうしたも、あるかい。
 ニュースを見たか!?」

「オーラバトラーの事かい?
 ああ、聞いている」

「そのようすじゃあ、まだの様だな。
 ショウのヤツも出てきているらしいんだよ、こっちに!」

「何?
 ショウ君が?」

「あぁ間違いねぇ、ショウだ。
 さっきチャンネルNews24hで吉祥寺にいる【ビルバイン】とそれに飛び乗るヤ
 ツの事流してた。
 その後、真っ直ぐこっちへ向かってきているらしいぜ!」

「何っ?」

「アムロ、そのショウというのは……」

「あぁ、【ラ・ギアス】事件で我々に協力してくれたオーラバトラーのパイロットだ。
 ……たしか、【聖戦士】とか呼ばれていて、ドレイク軍と敵対する連中のカリスマ
 らしい」

「ならば、是非接触する必要があるな……」

「そうだな」

 それでブライトの意は決したようだ。オペレータのファに指示を下す。

「ファ、総員第一種戦闘配置を出せ!
 出撃可能な機体から順次出撃!」

 ファは最近の【ロンド・ベル】の立場を考え、ブライトへ聞き返す。

「よろしいんですか?」

「かまわん!
 既に指揮権はこちらへある!」

 それを聞いてアムロも、ブライトへ一声掛け、動き始めた

「じゃぁ、ブライト。
 俺も【ガンダム・アレックス】で出る。
 オーラバトラーの件、【ネルフ】への連絡を頼む」

「あぁ、判った。
 頼んだぞ!」

 事態の急展開に置いて行かれる甲児。情けない声を上げながら、慌ててアムロの後を
追いかける。

「おぉ〜い、アムロぉ。
 まってくれー」



<第三新東京市・第17公園>     

《あたし……何やってんだろう……》

 デレつくシンジへ一撃を加え【第四使徒】解体現場から飛び出したアスカであるが、
気が付くとこの公園で佇んでいた。

《何よ、あんな大年増の垂れた胸に抱かれたぐらいでデレついちゃってさっ!》

 アスカは、先程の事実にリツコに聞かれたらソレは盛大な歓待を受けるであろう修飾
詞を加えて、 碇 怒りを募らせている。

 あのシーンと、その後のシンジの情けない顔が思い浮かぶ。

《何よ何よ、私だって……》

 そこまで心の中で叫び、自分の胸元を首裾より覗き込む。そして顔を上げ虚空を見据
え、思い出してみる。

 ……アスカは、何となくもの悲しさを感じた。

        :
        :
        :

 ふと気付く。
 今の自分に。
 幼き日になると誓った自分とは、かけ離れた自分に。

《どうしたのよ、アスカ!
 何でワタシは日本まで来たのよ!
 敵を倒すためでしょう。》

 考えてみれば、自分は今まで一人だったのだ。
 だがインド洋からこっち、気が付くとアイツを傍らに置いて、はしゃぐ自分がいる。

 この様な事は、今まで唯一気が許せた加持でも無かったことだった。

《ホントにどうしたのよ……
 眉目秀麗、頭脳明晰、天下無双のこの私が……》

 そこまで、心の中で呟くと脳裏に引き締まった精悍な顔をしてイントロダクションレ
バーを操るシンジが浮かぶ。

《どうして、あんな冴えないヤツがここで出てくるのっ!
 違うっ、違う!》

 否定するが浮かんで来るのは、
    頬に紅葉を張り付けたシンジ……
    輸送船で倒れ込んだ自分に覆い被さり何とも言えない顔をしたシンジ……
    世にも情けない顔をして懇願するシンジ……
    ……そして、絶叫して【使徒】と戦うシンジ……

 だが、アスカのそのような思考を押しのけるように強烈な強迫観念が巻き起こる。

《違うっ!
 私はこの才能をEVAを使ってこの世に知らしめるのよっ!
 そうよ、居並ぶ敵を殲滅してね!
 この私に敵なんて居るわけないじゃない!
 ……そうよ、そうなんだから。》

 いつしか、その他の想いを排除するようにして暴走する闘争本能。
 その時、アスカはまごう事無く戦闘機械と化していた。

 そして、鳴り狂う警報。

「……戦闘警報。
 敵」

 そして、アスカの口元が歪む。

 そのアスカへ横から慇懃無礼な口調で声がかかる。
 それはいつの間にか側に現れた【ネルフ】のM.I.B.からだった。

「惣流・アスカ・ラングレーさんですね。
 召集がかかっております。
 お送りいたしますので、御同行願います」

 言われるが早いか、いつの間にか公園出口で停車している黒いセダンに足を向けるア
スカ。その瞳は闘争本能を満たすことに打ち震え、狂的な期待に輝いていた。



<東海地方・箱根山付近>     

「このぉ!」

 相手の一撃を手にした剣で防ぐショウ。

        :

 あの後、家の周りを取り囲む群衆と警官を後目に吉祥寺を後にしたショウであるがア
テがあるわけではない。なんとなく南へ進路を取り、伊豆半島付け根付近まで来たその
時だった。
 バイストンウェルの破壊神の名を奉られた、黒いオーラバトラー【ズワゥス】が問答
無用で戦いを仕掛けてきたのだ。

「戦いをやめろ、ここはバイストンウェルじゃない。
 地上だ!
 地上で戦って死んでも、犬死にだぞ!」

 ショウの尻馬にのってチャムも騒ぐ。

「そーよ、そんなに早死にしたいの!」

 防戦一方のショウであるが、実力差のあまり手が出せなかったわけではない。無意味
な戦闘を回避しようと努力した結果であった。今もショウは相手と切り結びながら、相
手パイロットへ向かって怒鳴る。

 その言葉に触発されたのか、無線を通じて相手が怒鳴り返してきた。その答えはショ
ウの想像を超えていた。

『そうはいかんのだ!
 地上で最初に貴様に会うのは僥倖なのだ。
 私にとってはな!』

「僥倖!?
 運が良かったというのか」

『そうだ、地上に出てまでチャンスを与えられた』

 ショウはその言い分に腹を立てつつも、戦いを止める努力をする。

「やめろ!
 地上にまで悪しきオーラを広める気か!!

『私の知ったことではない!』

 そこまで聞いて、ショウの戦意に火がついた。

「このぉ!」

 その声と共に剣撃をみまうが、だが相手に軽く受け流されてしまう。

『はっはっは、どうしたショウ!』

「こいつぅー」

 一層頭に血が昇るのを自覚しながらも、冷静な戦士としての自分が静かに状況を分析
し圧倒的不利であることを自覚するショウ。

 相手は主導権を握って、一方的に剣を振りかざしてくる。これまでどうにか受け流し
ていたが、ショウの操る【ビルバイン】がついに体勢を崩す。機を逃すでは無いことは
【ズワゥス】からの攻めが証明していた。

『地上で死ねるのを幸せと思え!』

「南無三!!」

 その一撃はどうにか回避したが、破滅的状況に変わりはない。相手もそれを十分判っ
て、口上と共に更に剣撃を繰り出してくる。

『今日こそ、今日こそショウ・ザマ!
 ワタシの屈辱はらしてやる!』

「誰だ、キサマぁー」

『私は【黒騎士】……
 キサマに全てを奪われた者だっ!』

 相手がそう叫んだ時、【ズワゥース】が左腕に装備された盾に備え付けられたランチ
ャーで攻撃。どうにか回避するショウであったが、相手はソレを完全に見越していた。

 回避行動で体勢を崩し、格好の的と化したショウに渾身の剣撃を繰り出さんとしたい
た。

『終わりだな、ショウ・ザマ。
 トドメを刺さして貰う!』

「やられるかよ!」

 彼我の体勢を一瞬にして判断したショウは、捨て身の反撃を行った。

 無様に撃破される【ビルバイン】を確信していたらしい敵の意表をついたショウの一
撃は、黒いオーラバトラーの動力部を貫いていた。

『おぁぁぁぁぁっぁ〜〜〜〜
 ショウ・ザマァァァァァ!』

 そう叫びながら相手は完全に操縦不能となり、芦ノ湖へと墜落した。墜落時の水柱に
続き、薄汚れた強大な大きな水柱。【ズワゥス】の動力部爆発に間違いない。
 危ない戦いであったが、どうにか勝つことが出来た。

 だが、それで終わりではなかった。視界の向こうには、数隻の浮揚戦闘艦と、少なく
とも十数機のオーラバトラーがいたのだ。

 相手もこちらを見つけたようだ。真っ直ぐ、こちらへ向かってきている。

 【ズワゥース】撃破と引き替えに自らの機体にも重大な損傷を負った【ビルバイン】
は徐々に高度を下げていた。機体を飛翔させることすらが、困難と呼べる事態に陥って
いたのである。もう、あの部隊を叩くことも逃れることも、出来そうにない。

 ショウは、傍らのチャムに向かって、奇妙な満足感を感じさせる声で問いかけた。

「なぁ、チャム……」

「どうしたの、ショウ?」

「俺達、精一杯やったよな……」

「ショウ、何言っているの!」

「いや……
 地上で死ねるのが唯一つの幸せかなと思ってさ……」

「ショウ!
 何言ってるのよ。
 それじゃ、アタシ不幸な女じゃない」

 チャムのらしからぬその一言に苦笑しながら、ショウは覚悟を決めていた。



<第三新東京市・外郭付近>     

「やった!
 ショウのヤツ、ヤりやがったぜ!」

 そう言って、甲児は体調の不調を押して出撃したマジンガーZのコックピットで、ショ
ウ・ザマの勝利に喝采をあげていた。だが、ショウも無傷ではないらしく、高度が明ら
かに下がってきている。隊内通信でアムロを呼び出した甲児は、手早く行動を協議した。

「まずいぜ、アムロ。
 ショウのヤツ、ヤられたらしいぜ。
 見ろ、どんどん降りてきてやがる」

『あぁ、そのようだな。』

 モニター上のアムロも、緩やかにだが確実に降下する【ビルバイン】を見ているよう
だ。視線が他を向いている。

『よし、ショウを援護し敵を叩く!』

「そうこなくっちゃな!」

 そうして、アムロは指揮下の各機へ指示を下す。

『【マジンガーZ】は、【ビルバイン】を援護!
 【ゲッター】はモード1で【ゲシュペンスト】と共に、MS隊の統制射撃実施後、
 敵後方の戦闘艦を!
 近接信管弾頭装備機は、本機と共に統制射撃へ参加。
 その他の機体は、各小隊ごとに各小隊長に従え!』

 アムロの指示に、【ロンド・ベル】各機からの返答が一斉に入る。

「『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』」



<ジオフロント・【ネルフ】本部・第一発令所>     

 そのころ、【ネルフ】側でも一連の戦闘を、通信を含めて克明に観測していた。

「どうやら、あの派手な赤白の機体……敵じゃない様ね」

「そうらしいわね。
 で、どうするの」

「さぁ、司令はさっきからだんまり決めたまんまだし……
 【ロンド・ベル】の話じゃ、【使徒】じゃないって事だし……
 司令が待機命令解除してくれないと、どうにも出来ないわ」

「そうね……」

 そこへ【ロンド・ベル】機動戦闘団の隊内通信が響く。

『……装備機は本機と共に統制射撃へ参加。
 その他の機体は、各小隊ごとに各小隊長に従え!』

 それを聞いて、おもむろに口を開くゲンドウ。

「葛城一尉、待機中のEVA両機を戦闘予想区画へ射出。
 以後の指示を【ロンド・ベル】アムロ少佐へ仰げ」

 ゲンドウの唐突な指示に虚を衝かれ、間抜けな返答をするミサト。

「はっ?」

 ゲンドウは再び力強く指示を下す。

「復唱はどうした!
 EVA各機を射出、【ロンド・ベル】アムロ少佐の指揮を仰げ」

「はっ、はい!
 EVA各機を射出、【ロンド・ベル】アムロ少佐の指揮を仰ぎます!」

 そうして、ミサトは慌ただしく、指示を下しはじめた。



<第三新東京市外郭付近・アムロ直率第一小隊>     

 前線で指揮を執っていたアムロは、【ネルフ】からの唐突な申し出に困惑していた。

 だが、どこの誰だろうと、戦力は戦力。その存在そのものに価値がある。それが自分
の指揮下へ加わるといるなら、尚更だ。

 戦闘に関しては経験豊富で、なおかつリアリストである彼は、素早くそれを受け入れ、
、ミサトを始めとするネルフスタッフにEVAの簡単な諸元と兵装を確認。その上で、
甲児の行動を支援するよう指示を下した。

 そこまで手早く済ますと、敵は射程範囲にもう少しのところまで侵入。幸いなことに
まだこちらに気付いていないようだ。

 アムロは、各機へ指示を下す。

「アムロより各機へ!
 統制射撃戦参加機は、本機の射撃開始を持って、事前指示に従い射撃開始。
 所定弾数を投入後の行動は、各小隊長ごとの判断に委ねる。
 ……深追いはするな!
 以上!」

 アムロの戦術プランは以下のようなものだった。

 油断する敵を統制射撃による先制で切り崩し、戦闘開始時点だけでも組織的な戦闘を
行い、あわよくば戦力を削いでから乱戦になりがちな白兵戦を有利な体勢で行う。極め
てシンプルで健全な戦術選択といえる。

 ここでいう統制射撃とは、ハイパーバズーカの散弾やGMキャノンの対空砲弾などの
各種広域制圧火器を多数使用して、目標付近の空域を砲弾の海にして敵を叩くやり方だ。

 この方法では個々の照準など無視される。

 何故なら出来る限り目標と目標の周りを隙間無く砲火で埋め尽くすことが求められる
からだ。そこで、発射砲弾全弾命中などと夢のような事を求めるのは、犯罪的ですらあ
る。寧ろ全弾ミスを前提にして、部隊の放った一撃の少なくとも一発は当てて、標的に
傷を付けることを望んでいるからだ。

 これは、歴史的に見れば別段珍しい戦法もなんでもない。

 古くは、第二次『世界』大戦でも連日の防空戦で独軍高射砲部隊が、同様の戦法で連
合軍爆撃隊を大いに悩ませたことが、筆頭にあげられる。

 だが、機動兵器部隊がこのような事を行うことは非常に希であった。

 何故なら、機動兵器の激しい機動と、M粒子の通信妨害効果が、統制射撃に必要な部
隊内の迅速なコミュニケーションが阻害されるからだった。

 しかし、今日はそうでは無い。
 少なくとも目標はまだこちらに気付いていないから、今のところ激しい戦闘機動は不
要だ。加えて第三新東京市近郊という地理的条件からレーザー通信による高密度通信が
可能。火砲も、統制射撃で必要とされる数を満たしている。

 だからアムロは、この方策をとったのだ。

 アムロは自分の策に最後の吟味を行いながら、【ガンダム・アレックス】の戦術コン
ピュータが指示した割り当てに従い、愛機に装備させたハイパーバズーカを構えさせた。
込められた弾は、対空・対軽装甲目標用の散弾だ。

 少し離れた所では、ルー・ルカとエル・ビアーノが乗るMS【ジェガン】も、その手
にしたバズーカを構えてようとしている。

 唯一、コウ・ウラキの【ガンダム・ゼフィランサス】だけは、統制射撃向きの火器を
装備していないため、統制射撃に参加しない。九〇mmSMGを手に敵の接近に備える。

 見えていないが、クリスの火力支援チームやエマの第二小隊も同様に、攻撃態勢を整
えているだろう。

「……まだだ……もう少し」

 アムロは、蟹かコガネ虫が歪んだ擬人化をした印象を受けるオーラバトラー【ドラム
ロ】の編隊が間合いに近付いてくるのを焦れながらも、冷静に待つ。それはもっとも基
本的なことであるが、もっとも難しいことである。他のパイロットも焦れているであろ
うが、よく耐えていた。

「もう少し……もう少し……
 今だっ!
 いっけぇっ!」

 アムロは、待たされた鬱憤を晴らすかのように、バズーカを乱射する。続いて他の機
体も射撃を開始し、【ドラムロ】の編隊がいた辺りは魔女の大鍋と化していた。何機か
は、初撃で明らかに戦闘不能となったらしく、カトンボの様に墜ちた。

 だが、その地獄すら突き抜けて敵オーラバトラーは味方に突撃してきた!



<第三新東京市外郭付近・エマ小隊>     

 その日【ロンド・ベル】は5つのグループを作って戦闘へ望んでいた。

 その一つを任されているエマ・シーン中尉は、アムロの策が巧くいったことに彼への
信頼感を一層確実なモノとした。

 だが、その策も敵を撃退するまでには至らないようだった。地獄の様相を見せる空間
から、次々と敵が飛び出してくる。数機がエマの小隊へ向かってくる。

「エマさん、正面3機こっちへ向かってきます」

 【ガンダムMk.II】に装着されている追加ユニット側のコックピットで戦闘管制を行
うカツ・コバヤシ曹長が、エマに警報を発する。

 もっとも優秀なパイロットであるエマが、気付いていない訳がない。だが、手にした
バズーカにはもう残弾が無い上、弾倉交換をやれるほど呑気な状況でも無い。

 エマはバズーカを投げ捨てながら、頭部脇へ備え付けられたバルカンを乱射。しかし、
敵は小憎らしい機動でそれを避け、実剣を手に突っ込んでくる。

 もっともそれは、【ラ・ギアス】事件で既に彼らとの交戦経験を持つエマの予想通り
の展開であった。

「このっ!」

 自機のバックパック・バーニアブームへ貼り付いているビームサーベルを抜き、相手
の斬撃を受け止める。驚異的なことに只の剣状の金属塊は僅かな変化すら見せず、ビー
ムの刃と切り結ぶのであるが、そのようなことは技術者や科学者でないエマには、何の
感慨も与えない。彼女にとって大切なのは、二回りも小さい敵が自分のMSと鍔迫り合
いをして、まだ倒れていないこと。ただ、それだけだ。

 敵と切り結ぶ【ガンダムMk.II】エマ機へ、残り二機の【ドラムロ】が左右から攻撃
を仕掛けてくる。

 しかし、右の【ドラムロ】は、カツが放ったマイクロミサイルに不意を衝かれ、あっ
さりと撃墜された。だが、左の機体は、同じく加えられたミサイル攻撃を、悠々とくぐ
り抜ける。

「ヤられるっ!」

 そう覚悟したその時だった。

 その敵の更に側方から、機体各所のスラスターを全開にして、バルカンを乱射しなが
らジュドーの乗るMS【ネモ】がビームサーベルを手に突っ込んできた。

 見事にその【ドラムロ】は撃破され、その機体のパイロットは機体前面の装甲を吹き
飛ばし備え付けられた飛行ユニットで脱出した。

 エマと切り結んでいた【ドラムロ】は仲間が撃墜されたことで怖じ気づいたのか、急
いで離れ、退却しようと背を向けた。だが、弾倉交換を終えたジュドーの仲間でサイド
1ジャンク屋店員、イーノ・アッバーブの操るMS【ネモ】のバズーカから放たれた不
幸な一撃を受け、撃墜された。



<第三新東京市外郭付近・クリス小隊/火力支援チーム>     

 エマ小隊が激しい白兵戦に突入したそのころ、クリスの率いる火力支援チームにも、
敵は襲いかかってきた。

 やはり、チームを構成する機体の動きの鈍さが上空からでは歴然としてしまうのだろ
う。弾幕を抜けてくる敵オーラバトラーの6割以上がこちらへ向かってくる。

 だが、アムロはそれを見越してダバ達3機のHM(ヘビーメタル)をクリスのチーム
の周辺へ配置していた。


 ダバ達は、向かってくる敵オーラバトラーへ向け、パワーランチャーを放つ。
 が、MSに比べ二回りも小さいオーラバトラーの中でも一際小さいシルエットを持つ
【ドラムロ】が相手であるため、なかなか当たらない。

 ようやく、命中弾を得たがダバの乗る白一色のHM【エルガイム】の放ったそれはど
うにかダメージを与えた様だが、キャオやアムの乗るB級HM【ディザート】の攻撃は
【ドラムロ】の機体表面近くで水のように拡散して弾かれてしまった。

「やはり【ディザート】のランチャーは、効かないか。
 それならっ」

 ダバは、事前にアムロから言われていたように光学兵器の攻撃が効かないことを再確
認しながら、パワーランチャーを放ちつつも【エルガイム】の手にセイバーを持たせる。

 押し寄せる敵の数にダバの顔に懸念の色が深まる。

 彼の乗るA級HM同士の戦いでは、光学射撃兵器が役に立たないことなど珍しくとも
何ともない。

 彼が懸念しているのは、敵の小さい機体がチョコマカと飛び回っていることである。
 後方のクリス達へ襲い掛かる事をくい止められるか、ただその一点だけを心配してい
た。

        :

 ダバ達は、地上に張り付いているという不利を抱えていても、十分以上に敵を押さえ
ていた。

 しかし、ここは敵の方が一枚上手であった。数機が、別方向から地表すれすれを飛ん
でクリス達に襲い掛かったのだ。

 これに対してキースの【GMキャノンII】と、ビーチャ&モンドの【ガンタンク】は、
どうにか対応することが出来た。

 しかし、ダバ達への援護射撃に気を取られて不意を衝かれたクリスは、【ドラムロ】
の一機が放った、ランチャーの一撃を、肩のミサイルポッドに受けてしまう。

 ミサイルポッドが暴発時の事を十分考慮しており、その納められていた殆どを発射し
ていたのである。しかし、数少ないとはいえどミサイルの誘爆は、クリスの機体を一時
的にせよ擱坐させて、行動不能に陥らせるには充分であった。

「動いて、動くのよ!」

 クリスは、必死に操縦桿を操作するが機体はいうことを聞かない。

 その手にした剣を振りかぶる敵オーラバトラーを視界の片隅に捉えて絶望的になった
クリスだが、その敵が濃緑色の陰と共に目の前から消えたことを一瞬我を失った。

「てりゃぁぁ!」

 その声に振り向いてみると、そこには見事にショルダースパイクの形を貼り付けて行
動不能へ陥った先程の【ドラムロ】と、それとは別のもう一機の【ドラムロ】へヒート
ホークの一撃を叩き込むバーニィのザク改がいた。



<第三新東京市・外郭>     

 ショウは、目の前の出来事に目を疑った。

 覚悟を決めて最後の一暴れをしようと、操縦桿を握り直したところでこちらに向かっ
てくるドレイク軍のオーラバトラー隊が壮絶な炎に包まれたのだ。

「なんだ、どうしたというんだ!」

「……あれ、ショウがやったの?」

 絶句しつつ、チャムが聞いてきた。

「バカいうな、あんな事どうやったら出来るって言うんだ……」

「知らないよ、そんなこと……」

 そう言ってご機嫌を悪くし、後ろを向いた。
 彼女は何かを見つけたようで、そちらの方を指差し騒ぎ始めた。

「ショウ、ショウ。
 あそこ!」

「何があった」

 ショウは、チャムがさす方向へ向け目を凝らしてみる。

 そこには、【ラ・ギアス】で共に戦った【マジンガーZ】と見知らぬ強面の紫の機体
と鮮やかな赤の機体がいた。

 見ると【マジンガーZ】等はこちらへ向かって手を振ってきている。

《たしか【マジンガーZ】は一機だけしか作られていないよな》等と考えつつ、ショウ
は【ラ・ギアス】で使っていた呼び出し回線を開き、呼びかけてみる。

「こちら、ショウ!
 バイストンウェルのショウ・ザマだ。
 聞こえてたら、返事をしてくれ!」

 そうすると返事が返ってきた。

『やぁーぱり、ショウか。
 大丈夫か、いま援護するからこっちへ来い。』

 甲児の遠慮のない元気な声を聞いて、緊張がほぐれるショウ。
 指示通り、何とか甲児達の近くへ機体を導こうとする。

 だが、そこにも弾幕を抜けた敵の一隊が向かってきた。

 流石に正体不明である【ロンド・ベル】を相手にするのとは違って、明確な敵である
ショウの【ビルバイン】へはいささかの躊躇いもなく攻撃を仕掛けようとする。

「ショウに敵を近付けるんじゃない!」

 甲児はシンジ達にそう呼びかけた。

『誰に言ってんのよ!』

 そういってアスカは、手にしたパレットガンの発砲を始めた。
 流石に大言するだけあって、瞬くまに数機へ損害を与えていた。
 完全に敵しか見ていない様子だった。

 一方、シンジは顔を引きつらせて動こうとしない。

 その様子を見て、甲児が怒鳴る。

「何してんだ、この野郎!
 戦え!」

 しかし、シンジは動かない。
 顔を真っ青にして震えるだけだ。

「ちぃっ」

 そういって、甲児はシンジに見切りをつけ自らの機体を操ることに専念する。

 そうしていた時だ。

 飛び抜ける【ドラムロ】の放ったランチャーの一撃がシンジを外れ少し離れた所へ着
弾し、爆発した。


 爆炎が晴れた後に見えたのは、大きな爆発痕と少し離れた所に倒れた人だった。



 シンジは、むずがる子供の様に首を振りそちらの方へ駆け出した。

「甲児さん、甲児さん!
 人が、人が、ひとがーーーー」

『シンジ君、落ち着きなさい。
 大丈夫よ、生きているわ。』

 EVAのセンサーから得られた情報を元に、シンジを落ち着かせるべく呼びかける
ミサト。

「でも、でも!」

 その叫びを聞いて、アスカの顔から憑き物が取れたように険が取れる。

「シンジ!?」

 周りを改めて見回すと、甲児は繰り出す攻撃を悉く躱されていた。やはり、体調が万
全でないのだろう。基本的に【マジンガーZ】は性能至上主義で、人間工学の『に』の
字も考慮されていない機体である。ただひたすらパイロットに、努力と根性を要求する。
そこにはパイロットのチョットした不調でも、運用に響いてしまうデリケートさがあっ
た。

 その向こうでは、パレットガンを投げ出して何かを手にして呆然とするEVA初号機
がいた。その何かは、見事な赤毛を戦風にたなびかせている。
 
「何してんのよ、シンジィ!
 戦いなさいっ!」

 だが、帰ってきたシンジの返事は正気とは思えなかった。

「だって、だって人が……」

「だって、じゃない!
 今そこでアンタがヤられたら、アンタが手にした人も一緒に死んじゃうのよ!
 アンタ、それでもいいの!」

 アスカはそういってシンジを叱咤した。
 ようやく、シンジは動き始めた。

 投げ捨てたパレットガンを手にしようと近付いたが、動きの鈍いシンジを見逃す敵で
はなかった。

 【ドラムロ】三機が、三方向から同時に攻撃を仕掛けた。

 それを見て、シンジはEVAの人を乗せた右手を機体に引き寄せA.T.フィールド
を全開にした。

 そこへ三機の敵が突っ込んでくる。

        :

 右後方からの敵は、甲児のマジンガーZが間に入って止めた。交差させた腕で【ドラ
ムロ】の剣を受けた止めたのだ。マジンガーZの外装に使用された超合金Zは、この一
撃を余裕を持って受け止め、壮絶な機体重量差に負けた【ドラムロ】を弾き飛ばした。
そして、制御を離れた【ドラムロ】の動きは、甲児に反撃の機会を与える。

「この距離で外しゃしねぇぜ!
 ルスト・ハリケーン!」

 その叫びと共に、人で言う口の辺りに開いたスリットから強腐食性の禍風が吹き出す。
 幾ら的が小さく動きが速いと言ってもこの状態では敵も避けようが無かった。

 瞬く間にその【ドラムロ】の機体表面は腐食によってボロボロとなり行動不能となっ
た。

        :

 左後方からの敵は、アスカが仕留める。正確なその射撃は【ドラムロ】を操縦不能に
陥らせた。

「ワタシの前通って無事でいようなんて、百億年早いのよ!」

 パイロットは機体を捨てたが、その機体は煙を噴きながら市街地の方へ向かって墜ち
ていった。少し間をおいて何かに激突したらしく、ビル越しに盛大な爆炎が見えた。

        :

 残りの一機は、唯一EVA初号機に斬り掛かることが出来た。
 が、それは初号機の展開するA.T.フィールドによって阻まれる。

 なおも剣を押し込もうとする敵を見据えながら、シンジは呟く。

「ニゲチャダメダ……
 にげちゃダメダ..
 ニゲチャだめだ.
 にげちゃだめだ、
 にげちゃ駄目だ、
 逃げちゃだめだ、
 逃げちゃ駄目だ、
 逃げちゃぁ、駄目だっ!」

 最後の言葉と共に右肩ウェポンベイからニードルが発射される。それは避けられたが、
シンジその間に足元に転がるパレットガンを持ち、銃口を敵に向けた。

 が、その時にそこにいたのは敵……そして、その敵に剣を突き立てた【ビルバイン】
だった。




 気取り屋で冷静さがウリの【ゲシュペンスト】パイロット、シド――シドルー・リグ・
マイア:22歳/テスラ・ライヒ研究所所員――であるが、さすがにその時彼は興奮す
る自分を押さえられなかった。

 理由は簡単だ。敵の戦闘艦が隊列組むド真ん中へ、たった2機で、攻撃を仕掛けよう
としていたからだ。

 目標の周りから護衛機が続々とこちらへ向かってくるが、それをまともに相手にはし
ない。自分の機体や流竜馬の乗る【ゲッター1】は、出力ならばともかく、機動性では
到底オーラバトラーには対応できないからだ。

 そういう機体が取れる戦法は、第二次『世界』大戦の頃から変わりない。申し合わせ
たように、【ゲシュペンスト】と【ゲッター1】は急降下を始める。それを追いかけて、
相手も急降下した。

「……残念だったな」

 頃合いを見計り、今度は垂直上昇へと行動を変更した。慌てて、敵オーラバトラー隊
が上昇に転じるが、機動性は高くとも、加速力や上昇性能ではシド達の方が勝る。敵オー
ラバトラー隊は追いつけない。

 敵浮遊戦闘艦は盛んに防空弾幕を張るが、その程度では開発に際して、冗談じみた出
力に重点置かれることが多く、その例に漏れないスペシャルメイドマシンの【ゲシュペ
ンスト】と【ゲッター1】の突撃を阻むこと出来ない。

 そうして、小煩い敵護衛隊を抜いた、2つのマシンは、敵戦闘艦群とすれ違いざまに
一撃を加えた。
「運がなかったな……」
『ゲッタァビィムー』

 シド達の連携攻撃を受けたその敵浮揚戦闘艦【ブル・ベガー】タイプは、ただ一撃で
大破した。

「うまく、逃げろよ……」

 正規の軍人では無い彼はそう呟く。

 その言葉を合図にしたように船体各所から、独立記念日の祝砲のように次々と乗員が
小型飛行ユニットで脱出していた。

 不意に【ゲシュペンスト】の常時開かれている汎用呼び出し回線が通信を捉える。

『……(ズゥー)……レイク軍、ビショット軍各機に告ぐ。
 ……(ザァーァ)……ちに、電波発信源へ向け……結せよ……
 ……り返す、電波発……集結せよ……
 この際、自衛以……撃は、許可されな……(ジィーィ)
 繰り返す……以外の攻撃は、許.されない……』

 そこまで通信が入ったところで、戦闘艦群の指揮を執っているらしい艦が、三色の信
号弾を上げた。なんの合図か一瞬緊張するが杞憂だった。その信号弾を合図にして、敵
オーラバトラー・浮揚戦闘艦共に後退を始めた。

 追撃を行おうとしたリョウやシドであるが、狂わんばかりの弾幕と後退しつつ展開さ
れた煙幕にジャマをされ、それ以上の戦果は得られなかった。



<第三新東京市・天蓋ブロック格納庫>     

『『『たいちょぉ〜〜〜〜』』』

 相田二尉は彼ら【ゴールキーパー】小隊隊員が何を云わんとしているか手に取るよう
に判っていた。が、その先を促す。

「なんだ……」

『『『俺達、今回も出番無しっすかぁ〜〜〜〜〜〜〜』』』

 彼自身も些かの落胆を隠せないまま答える。

「……そうだ」

『『『そんなぁ〜〜〜〜』』』

「ばきゃろーーー
 俺達は、最後の一線なんだぁ!
 俺達が出るって事は、この第三新東京の最後だってことだぁ!
 テメエらも判ってんだろうが!」

『『『でも〜〜〜』』』

「でもじゃねぇ!
 俺だって、出てぇんだ!
 くそー、【ロンド・ベル】のバッキャロ〜〜〜〜〜!」

 第三新東京市の平和は今日も守られたようである。



<ジオフロント外殻地下ドック内・【アーガマ】ブリッジ>     

 ブリッジへ人が入ってくる音を聞き、出迎えの声を掛ける。

「任務、ご苦労」

「あぁ」

 ブライトの堅苦しい不器用な労いの言葉に応えるアムロ。

「どうだった」

「どうもしない。
 いつもの通りさ」

「そうなのか」

「あぁ、ショウ君と【ネルフ】の二機以外はな」

「……EVA初号機のパイロット。……シンジ君か?
 苦労したようじゃないか」

「そのようだな。
 甲児君がおかんむりだったよ」
 
「戦いを忌避しているところがあるからな、彼は……」

「あぁ、まるで昔のアムロを見ているようだよ」

「昔の話はやめてくれ、ブライト」

「あぁ、そうしよう。
 しかし、彼も【ロンド・ベル】の一員になるんだ。
 頑張って貰わんとな……」

「そうだな……でも今暫くは様子を見た方が良いだろう。
 時間が解決してくれることもある」

「そうしよう」

「僕の方でも気を付けておく。
 ブライトの方でも、気にしてやってくれ」

「了解した」

 そして、ブリッジを後にするアムロ。

 ブライトは、ブリッジのモニターから見えるドックの中の映像に目を向けながら、よ
うやく何かが始まったことを感じていた。


<第四話・了>




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ver.-1.01 2003/01/23 一部修正
ver.-1.01 1998/07/19 公開
ver.-1.00 1998/05/25 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<後書き>

今回は部屋3000hit突破記念として後書きに少し色を付けておきました。
チョット、大きくなったので別ファイルにしてあります。

ここからいって読んでやって下さい。

なお、この後書きについてのご意見・苦情・お叱り等につきましては全て頭を掻いて
誤魔化します。_(..)_




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