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スーパー鉄人大戦F    
第壱話〔戦端:D Day〕


<第三新東京市外苑・某駅>      

 少年は、駅前だというのに人ひとり見えない路上で人を待っていた。

 風が台風でもないのに吹き荒び、電線が紐を振り回したかのように喚き立てる。

 ふと、路上へ誰かが立っているような気がしたが、気のせいのようだ。見間違いかと
思って、眼をこすり、もう一度見たときには誰も居なかったからだ。

 もう10分して誰も来なかったら、あの武蔵野の一軒家に戻ろうかとそう思い始めた
頃、青いスポーツカーはエレカではあり得ない爆音を発して、少年に向かって突っ込ん
できた。

 少年の長くはない一生が走馬燈のように流れ始めたが、その車は耳障りなスキール音
を立ててスピンターンを行い、少年の靴先50cmでその爆走を終えた。何か文句の一
つでも言おうかと少年が口を開く前に助手席側のドアが開き、彼女――送られてきた写
真に写っていた美女だ――が、こちらに話しかけていた。

「お待たせ! 碇 シンジくん……よね?
 私が葛城 ミサト。遅れたのは謝るわ、ごめん!」

「いいえっ。
 僕の方こそ!」

 ミサトの外見に違わない、美麗な声に聞き惚れたかのように少年――碇 シンジ――
は、意味の通らない、訳の分からない返事を返していた。



<ジオフロント内ネルフ本部>      

 その後、ミサトに連れられ第三新東京市地下構造部【ジオフロント】へ案内された。

「葛城さん……」

 シンジは意を決したように声をかけた。

「ミサトでいいわよ、シンジくん。
 何を聞きたいのかな〜?」

 ミサトは、憧れている年上の女性にはこう話して欲しいと、十代中頃の男の子の7割
が考えるであろう口調と声色で聞き返してきた。

「僕は何で父さんに呼ばれたんですか?
 父はもう僕のことなんて、忘れているのかと思ってました」

「……それは
 司令……あなたのお父さんに直接会って聞いた方がいいわね」

 ミサトの口は重いかった。先ほどとは打って変わって、業務上のやむを得ず、厭な客
からの質問に答えるOLのような返事が返ってきた。その口調に失望したかのように、
シンジは以後の質問をやめてしまった。



<ジオフロント内第6ケイジ>      

 途中、金髪に黒い眉毛・泣きぼくろとかなり印象的なミサトはまた違ったタイプの美
女――彼女は自ら赤木リツコと名乗った――が合流し、ソレがいるケイジへ向かった。


 ソレは、圧倒的な存在感を持っていた。

 頭部らしいが、その頭部だけで人の何倍の大きさを持っているのだろうか?

 視界にあるのは紫色の一本角を持つ鬼のような印象の頭部だけであったが、シンジに
とっては十分すぎるほど巨大に感じられた。水面下に隠れているであろう体躯はいかほ
どの大きさになるであろうかは、シンジの理解の範囲を超えていた。

 呆気にとられて数秒、出来の悪い木偶人形のように固まっていたシンジは、まるで始
業三分前の食べ始めた昼食を平らげる学生のように、渡されたネルフ――シンジの父が
司令をしているらしい組織の名前だ――のパンフレットをめくり返す。

「それには、載っていないわよ」

 ここまで案内してくれた、リツコ女史が素っ気なく言い放つ。続けて、目の前の異形
の説明を、素っ気なくみえる態度で始めた。

「これは、人の作り出した究極の汎用決戦兵器
 【人造人間 エヴァンゲリオン】……
 これは、その初号機よ」

 シンジがエヴァンゲリオンの方を見上げると、巨人の頭部の上の方にガラス張りの一
室が見えた。そこにいた。記憶もあやふやにかりかけていたが、父だ。そこに碇ゲンド
ウが自分の息子を、紅い眼鏡の奥から見下している。

 思わず、シンジは叫んでいた。

「父さん!」

「久しぶりだな」

 素っ気なくゲンドウは口を開た。続けざま、まるで事前に十分な意志疎通があったか
のように告げた。

「シンジ、私が今から言うことをよく聞け。
 これには、おまえが乗るのだ。
 そして、我々の敵【使徒】と戦うのだ」

 当然、シンジは反発を覚える。数秒の間をおいて、絞り出すように応え始める。

「そんなの……出来る訳、無いだろう!
 見たことも聞いたことないロボットに乗って戦うなんて……出来るわけないよ!!」

 俯いて、シンジは叫ぶ。

「説明を受けろ」

 何事もなかったかのように、ゲンドウは続ける。

「他にもいるんだろう、パイロットぐらい!」

「必要だから呼んだ。
 それに無理だからな、他の人間には」

「もし、僕が乗らなかったら!」

「彼女が乗ることになる」

 ゲンドウは後ろを向き、何か指示を出しているようだ。

 シンジ達が入ってきた扉とは、反対側のそれが開き移動式手術台へ載せられた少女が
運ばれてくる。その少女は、抜けるように白い肌を持ち、ウエットスーツの様なツナギ
を纏っていた。髪の毛は染料を使っては絶対出来ない美しい蒼銀の色合いを持ち、顔を
見ると片目は包帯よって見えない。もう片方の瞳が微かに開いたが、その瞳は鮮やかな
鮮血色をしていた。その姿は痛々しく、各所に巻かれた包帯には血が滲み、その腕から
点滴もまだ外されていない。

「どうする、シンジ。
 乗るならば早くしろ。
 乗らないなら、帰れ!
 人類の存亡を賭けた戦いに臆病者はいらん!!!」

 ゲンドウは、離れていても変わらない圧倒的な存在感と言葉で、シンジを問いつめる。

 その時、ケイジに何の前触れもなく強烈な振動がはしった。

 少女の乗せられた手術台が左右に振られるさまをみて、シンジは無意識に駆け出し、
手術台から投げ出されようとしていた少女をその腕で受け止めようとし、それは成功し
た。そこまでは幸運であったが、次の瞬間運のパランスシートが均衡することになる。
そこへ天井の構造材の一部が崩れ落ちてきた。シンジは、守れないと思いつつも、その
少女の躰をかき抱き覆い被さる。
 その行動が幸運の女神の寵愛を呼んだかは判らない。唐突に水面から何から飛び出す
ような音がしたかと思ったときには、自分たちへ降りかからんとしていた何かが弾き飛
ばされ、自分の上に何かがかざされていた。

 何がかざされているのかと思い見てみると、それは目の前の巨人の手であった。

 側でそれを見ていたリツコは、小さく独白していた。

「嘘よ、エントリープラグも入っていないのに動くなんてあり得ないわ。
 ある訳ないのよ……」


 ミサトは、通信端末相手に

「今の衝撃は何。
 えっ?
 【使徒】!?
 まだ、ヤツは海岸線で阻止されているんじゃなかったの!?
 ……言い訳はいいから、私がそっちへ行くまでにデータ揃えといて!!」

 と、激しくやりとりしていた。

 その様子が全く目に入らないで、必死に痛みを堪え呻く腕の中の少女へ、何故だか分
からないが強烈な既視感と庇護心とを覚えつつ、シンジは決断した。

「……やります。
 僕が乗ります」

 巨人の頭の向こうにいる父親に向け、静かに宣言した。その時、彼は何かを決断した
紛れもない漢の顔をしていた。

        :

 エントリープラグへ乗り込む直前に見たものは、何だったのだろうか。

 こちらを見ていたゲンドウが、成長した息子をみて喜ぶかのように、微かだが確かに
笑っていたのだ。信じられない光景の記憶を拒否する脳をなだめすかしつつ、シンジは
エントリープラグへ乗り込んでいた。

 パイロットシートへシンジが座ると同時に発令所でも慌ただしく指示と復唱と報告が
乱れ飛んでいた。

「初号機の固定問題なし」
「ケイジ内全てドッキング状態」
「パイロット、エントリープラグ・パイロットシートへ」
「パイロットシート定位置へ固定!」
「了解、エントリープラグ挿入」

 シンジの乗ったエントリープラグは、エヴァンゲリオンと呼ばれた巨人のうなじ下の
辺りにある挿入口へ、ネジのように螺旋を描くように挿入されていく。

「プラグ固定終了」
「第一次接続開始」
「エントリープラグへLCL注水開始」

「うわっ、何だこれ!」

 シンジはエントリープラグ内へ、いきなり鮮やかなオレンジ色の液体が浸水してきて
慌てる。

「心配しないで。
 それで溺れることは、ないわ」

 リツコが説明をするが、シンジはまだパニックを起こしている。

「我慢しなさい!
 すぐ慣れるわ」

 ミサトに至っては、危機に直面しすぎて感性が摩耗してしまっているのか、単に体育
会系の無責任なのか、実に全く無責任な助言を飛ばしていた。

「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「コントロール起動シーケンス・スタート」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト・オールグリーン」
「双方向回線、開きます」

「すごいわ、シンクロ率が40ポイントを超えている」

 リツコは心底感心しているようだ。人前では冷徹な彼女にしては、珍しく口調が熱を
帯びている。

「いけるわ」

 その言葉に、ミサトは静かに頷き、

「エヴァンゲリオン初号機!
 発進準備!!」

 その身を固定する安全装置が、次々と解除されていく。

「第一ロックボルト解除」
「解除確認」
「アンビリカルブリッジ移動」
「第一・第二拘束具除去」
「1番から15番までの安全装置解除」
「内部電源、102%チャージ確認」
「外部電源コンセント異常なし」

 そこまで発振準備を終えたところで、EVA初号機は台ごと移動を始めた。

「EVA初号機、射出口へ!!」

「5番ゲート、スタンバイ」
「進路クリア、オールグリーン」
「発進準備完了」

「了解」

 ミサトは報告に満足しつつ、、後部上層に陣取っているゲンドウへ確認した。

「碇司令、よろしいですね?」

 それが、シンジを死地へと送り出すことか、EVA初号機の出撃の許可かは判らない。
しかし、ゲンドウは即答する。
「無論だ。
 【使徒】を倒さぬ限り、我々に未来はない」

 それを受け、ミサトは短く指示を下した。

「発進!!」

 EVA初号機は、無対策であればパイロットが潰れるような加速を行って、地上へと
打ち出されていった。驚ききるより前には地上だ。地上へ射出されたシンジは、既に視
界内へ【使徒】が居ることに恐怖した。

「シンクログラフ正常。
 シンクロ率42.62%。
 エヴァンゲリオン初号機起動に問題ありません」

「最終安全装置解除!
 エヴァンゲリオン初号機、リフト・オフ!」

 葛城ミサト一尉は、エヴァンゲリオン初の実戦投入を高らかに宣言する。
 一瞬の間を置いて、EVA初号機は今、その身を拘束していた全ての安全装置が解除
された。

「シンジ君、まず歩くことだけ考えなさい」

 ミサトは、凛とした声でエントリープラグ内のシンジへ指示を下す。
 その言葉に反応するように、EVA初号機が力強く一歩目を踏み出した。

 発令所のオペレータ達にどよめきが走る。

 次の一歩踏み出し蹌踉めくようにふらつき、発令所のオペレータ達のどよめきが失望
の嘆きに変わってしまう直前にEVA初号機は、全力で【使徒】へ向かって疾走してい
た。

「うっ、わっ〜〜〜!」

 シンジは、恐怖に耐えられなかったのか、何かが弾けたように叫んで、EVA初号機
を【使徒】へ突っ込ませていた。動きの余りの唐突さに、【使徒】も混乱したのか、E
VA初号機が繰り出した拳をまともに喰らい吹っ飛ばされる。

 後方に存在したビルへ叩きつけられた【使徒】へ、シンジは更なる一撃を加えようと
した。しかし、その一撃はあの『ロンド・ベル』の猛者たちの攻撃を退けたあの半透明
に輝く八角形の壁によって阻まれていた。

「このっ!
 このっ!」

 EVA初号機は、何度か壁を叩き付けるが全く効果がない。

「なによ、あれ!」

 ミサトは、鉄火場でのイカサマを見咎めたかのように言う。

「ATフィールド。
 【使徒】の持つ絶対不可侵領域。
 フィールドを展開する限り、【使徒】を倒せないわ」

 リツコが誰に言うともなく話す。


 EVA初号機が叩き続けているATフィールドが、一瞬かき消えた。
 ATフィールドへ叩き付けられるはずの衝撃が虚しく空をきり、EVA初号機は体勢
を崩す。その左腕を【使徒】は掴み取り、一瞬爆発的な力を発揮して装甲ごと腕をへし
折った。

「左腕損傷!
 回路断線!!
 フィードバック・リミッター、機能していません!」

 オペレータがEVA初号機の損傷を報告する。

 無論、起動指数3〜4倍程の低レベルとはいえ、神経接続を行っている先程までごく
普通の少年が、そのようなフィードバックに耐えられるはずもない。

「シンジくん、しっかりして!
 あなたの腕じゃないのよ」

 リツコが、そのような気休めを言っても何の慰めにもならない。

 シンジにはただ痛みを呻きながら堪えることしかできなかった。

 【使徒】は休む間もなく、次の攻撃を与えるべくEVA初号機の頭部を掴み吊し上げ
る。シンジは何をされるのかと、モニターをみると【使徒】の掌にある何かを打ち出す
ような孔が目の前で不気味に光り始めるところだった。

 発令所からは、【使徒】がEVA初号機の頭部へ光で出来たパイルを打ち込む姿をた
だ眺めているしかなかった。
 EVA初号機の頭部へパイル断続的に打ち込まれる。

「頭蓋前部装甲に亀裂発生」
「装甲がもう持ちません!」

 オペレータ達は、悲壮としか言いようの無い口調で状況を報告する。
 とうとう、EVA初号機の頭部装甲はうち破られ、完全に頭部を人間でいう眼窩から
後頭部へ向けて、【使徒】のパイルが貫通する。

 この時点でパイロットであるシンジは、意識を失っていた。

 【使徒】は、すかさずEVA初号機の腹へ蹴りを入れる。
 電源ビルへ叩き付けられるEVA初号機。
 【使徒】のパイルが抜けた後、傷口から吹き出す体液。


「頭部破損、損害不明!」
「制御神経接続切断!」
「シンクログラフ反転!」
「パルスが逆流していきます。!」

「回路切断!
 堰き止めて!」

「ダメです!
 信号拒絶!
 受信していません!!」

 沈没寸前の船のようにバッドニュースの束が報告される。

「シンジくんは!」

「モニター反応しません!
 パイロット生死不明!!」

「初号機、完全に沈黙!!」


 ミサトは、これまでと観念しパイロット回収指示を出す。

「作戦中止!!
 パイロット保護を最優先!!
 エントリープラグを強制射出。パイロットを回収!」

 しかし、

「信号拒絶。プラグを射出できません!
 完全に制御不能です!」

「何ですって!?」

 年端の行かない少年をむざむざ初戦で戦死させてしまう最悪の事態を回避すべく、ミ
サトは何か打つ手は無いかと、時間稼ぎにもならないであろう指示を出しつつ、考えを
巡らせる。

「攻撃可能な兵装ビルは、牽制射撃を実施!
 全ての通信手段を使用して付近の連邦軍へ、応援要請を!
 【ゴールキーパー】に出動命令!
 少しでも時間を稼ぐよう、私の名前で通達しなさい!
 【使徒】がEVA初号機から2km以上離れるようなら重機回収班を最寄りの搬入坑
 より展開!
 EVA初号機を回収させな……」

 そこまで、叫んだところで戦場では何かが起こっていた。
 潰されていない反対側の眼窩が煌めいたかと思ったら、EVA初号機は動き始めた。
 立ち上がると、閉じられていた口らしき部位が固定ジョイントを強引に引き千切って
雄叫びを上げていた。

 リツコは誰に言うともなく呟いた。

「まさか、暴走!?」


 その上層でモニターの様子を眺めていたゲンドウの隣で、副司令の冬月はゲンドウに
だけ聞こえるように呟いた。

「勝ったな……」


 そのころ戦場ではEVA初号機が、駆け出していた。
 しかし、その姿はシンジの制御の元でのそれとは違い、両腕を拡げて獲物に飛びかか
る獣のように駆けていた。

 再起動した直後、存分に自らの存在を誇示した後、EVA初号機は重力が存在しない
ように跳び、【使徒】に一撃を与え後方へ跳んだ後の話だ。

 が、【使徒】はATフィールドを展開して、EVA初号機の進撃を阻む。EVA初号
機は数度、ATフィールドを殴ると力無く垂れていた左腕をおもむろにかざした。瞬時
に修復される左腕。

「左腕部、復元!」

 EVA初号機の各部モニターをしている伊吹マヤ三尉が言わずもがななことを報告す
る。

「EVA初号機、ATフィールド展開!
 【使徒】の展開する位相空間を中和しています!」

 続いて、報告するマヤは、ATフィールドについて造詣があるのだろうか、何か自分
のドッペルゲンガーと遭遇したような口調だった。

「違うわ、浸食しているのよ……」

 世の中の全てを知っているようなリツコ女史が呻くようにいう。

 そんなことが発令所である間も、どこかの神話を彷彿とさせる巨人同士の戦いを繰り
広げている。ある程度、【使徒】の位相空間を中和したところで、EVA初号機はその
半透明の防壁中央部付近へ手を突っ込み、引き裂いた。

 そこを狙い澄ましたかのように【使徒】は、あのマジンガーZを行動不能にした一撃
を放つ。

 が、EVA初号機はその攻撃を全く避けようともせず受け止め、そのままその顎で使
徒の左上腕部へ噛み付き、喰い千切った。

 【使徒】は蹌踉めくように後ずさると同時に、その喰い千切られた腕がいきなりEV
A初号機の頭部へ巻き付き、爆発した。

        :
        :
        :

 爆発の閃光が収まった後には、活動を停止し全身の関節をロックさせて突っ立ている
EVA初号機が、残されていただけだった。



<ジオフロント・ネルフ本部第一発令所>      

 まずは、【使徒】の迎撃は成功した。
 発令所の誰もがそう思い始めていたその時、観測所から報告が届いた。
『ワレ、ぽせいだる軍ラシキ、機動兵器群ミユ。
 南西方向ヨリ接近中。
 ソノ数20ヲ下ラズ
 第三新東京市外郭マデ、オヨソ320秒。』

 その報告に発令所はざわめく。
 ミサトは、素早く指示を下す。

「重機回収班の展開を急いで!
 付近の連邦軍は何しているたの!
 大至急、攻撃を行うよう通達しなさい」

 しかし、オペレータの青葉二尉は一切の私見を入れることなく正しく状況を報告した。

「付近の連邦軍は、【使徒】への阻止攻撃で壊滅状態。
 戦自の実戦部隊も連邦軍指揮下に組み込まれていたので同様です。
 先程の攻撃要請を受けた部隊も、到着まであと30分かかります。
 こちらの戦力は、向こう30分、先ほど出撃命令を出された【ゴールキーパー】小隊
 だけです!」

「何ですって!」

 それは、戦闘結果が秒単位で決まってしまう機動兵器同士の戦いでは、30分は永遠
に等しい。

 ミサトは、次々と悲観的になってしまいそうな状況の大放出に、ヒステリーを起こし
そうになる自分を自覚しつつ、迎撃の指示を下していた。



<第三新東京市第8搬出口>      

 ネルフ保安部弐課所属、相田マサル二尉は、先ほどまで腐っていた。

 第三新東京市を【使徒】を除いた他の驚異から守るために存在する保安部が誇る精鋭
MS部隊【ゴールーキーパー】小隊の面々。

 その彼らの操るMSは、 RGM-89C【ジェガン】2機と RGM-88A【ヌーベルGM3】2
機で、大多数の連邦一般MS部隊指揮官が見たら、滂沱の涙無しには語れない贅沢な構
成だ。

 【ジェガン】は、型番が示すようにGM系列に属する連邦軍量産MSである。そして、
最も新しい部類の機体でもあり、一線級部隊にも配備がまだ十分には行われていない最
新鋭機だ。地球連邦軍が運用するために要求されている項目内容を十二分に吟味して開
発されており、開発初期から安定した機体で、生存性・整備性・汎用性が高く、機動性
もそれまでのGM系列の機体とは全く比べモノにならない。フレームも安全係数を充分
に取り、将来余裕も十分と判断される強度を確保されていた。すでに、総合性能では連
邦軍MS最高と、現場の評価も高い。

 すでに数種のサブタイプが【ジェガン】には存在するが、相田二尉と流三尉がパイロッ
トを務めているのは、現在生産されている主力のC型だ。

 これは通常仕様機で、もっとも各サブタイプの基本となっている機体だ。この機体を
基本とするサブタイプは、軽量高出力化したF型が、第二次地球圏大戦で【ロンド・ベ
ル】使用されて有名である。まあ、それはさておいて、ネルフ所属機は、多少無理が感
じされるF型のような改修も行われておらず、歩兵その他の脅威も高い地上運用機であ
るため、スカートアーマー等も外されていない。機体そのものは実にベーシックな仕様
だった。

 一方、甘木三尉と加賀三尉の乗る【ヌーベルGM3】は、元々一線級MSの能力を維
持するため旧式GMを改装した【GM3】を再設計し新造した、連邦MSとしては贅沢
な部類に入る機体である。基本的に使用する艤装品は変わらないが、GMの各部独立し
たモノコックフレームをリニアアクチュエータ(磁気式関節)で結合する旧式化した構
造を改め、ムーバブルフレーム(動骨格)を採用して最適化された構造は、それぞれの
部品本来の性能を十分に引き出し、ペイロード(兵装搭載量)も増加している。【GM
III】の名を持ってはいるが、実質的にはほとんど別物だった。
 その彼らが、ようやく出撃命令が出たので喜び勇んでみれば、自分たちを地上まで運
び出したリフトの搬出スピードが余りに遅いため、エヴァのケイジから遙か上層に位置
する待機所から、エヴァの射出に掛かるそれとは比べものにならない時間をかけて、よ
うやく地上に出られたからだ。

「エヴァと同じリフトを使わせろよ……
 そうしたら、間に合ったのに……」

 そう相田二尉がブツクサ独り言を言っていると

『まあいいじゃありませんか隊長。
 ウチらがアレ使ったら、機体ごと潰れちまいますぜ。』

『そうそう。
 【使徒】相手じゃ、玉砕覚悟の無謀な戦いになるとこでしたが、今度は異星人とはい
 え、まともな敵なんでしょう?
 望むところじゃないですか。』

『う〜、腕が鳴る、腕がなる』

 口々に好き勝手なことを言っている部下に苦笑すると相田二尉は叱りつけた。

「バカ野郎!
 気を引き締めて行け!
 相手はこっちの5倍以上だ。上陸戦でも成功する戦力差だぞ!」

 ちなみに、上陸戦は数ある戦闘の中でも、トップクラスに位置する防御側優位の戦闘
だ。あるオペレーションズ・リサーチの結果では、上陸戦に勝利するために必要の目安
とされる戦力は、防御側の5倍とされている。

「ネルフ・コントロール!
 こちら、【ゴールキーパー】小隊、相田だ。
 これより敵性体の迎撃に向かう。
 送れ!」

『こちら、ネルフ・コントロール、誘導はリアルタイムに行う。
 T3ICS(The Third Tokyo Intercept Control System)クライアント
 起動。
 レーザー回線開け!
 IFF(敵味方識別装置)無反応機への全兵装の使用を許可する。
 グッド・ラック!』

 まぁ、何分持つか判らないが何とか明日の陽を拝みたいものだと、コックピットシー
ト正面サブモニタの脇に張り付けられた妻と眼鏡をかけた息子の写真を一瞬見つめて、
彼はスロットを上げ、叫んだ。

「【ゴールキーパー】小隊、出撃!!」



<第三新東京市外郭部付近>      

 残弾のある攻撃可能な兵装ビルが攻撃を始めるが、接近する敵を阻止するには数が少
な過ぎた。もちろん、戦果は認められない。

 そのか細い支援の中【ゴールキーパー】小隊は地の利を生かして、ヒットアンドウェ
イを繰り返しているが芳しくないようだ。既に1機が戦線を離脱している。とうとう、
発令所の第三新東京市内戦術モニター上にも輝点がいくつも現れた。監視モニターには
接近してくるポセイダル軍とかいう異星人の軍が運用する機動兵器が数機大映しになっ
ている。

「野郎っ!」

 そのような状況で、相田二尉のモビルスーツ【ジェガン】は、技術部からチョロまか
した試作型のMS用パレットガンの弾を、大きな単眼が印象的な敵機動兵器へ叩き込ん
でいた。

 瞬く間に敵機動兵器の四肢は吹っ飛び、行動不能に陥る。しかし、爆発はしない。敵
僚機がその他の機体の援護を受け、行動不能機のパイロットを回収に向かう。

 相田二尉達は、他の連邦部隊の交戦記録をみて敵が光学兵器対策がかなり進んでいる
ことが判っていたため、出撃直前に実弾系装備を選択して出撃した。それが、これまで
の交戦記録と比較しても全く恥ずかしくない、寧ろ誇るべき戦果を上げているが、そん
なことは戦場にいる彼らには何の慰めにもならない。奮闘虚しく、小隊は既に2機が損
害を受け、内一機の【ヌーベルGM III】は後退をさせざるを得なかった。

 そろそろ、潮時と考え自分たちも後方抵抗線へ後退しようとしていたとき、それは突
っ込んできた。

 その機体は、青を基調として痩せこけた武者のようなフォルムを持っていた。ショル
ダーガード前面の赤が映える。

 とっさにこちらへ寄せ付けぬよう、その青い機体に対して牽制射撃を行うが、連邦M
Sより動きのよい他のポセイダル軍機動兵器と比較しても、次元の違う動きをするそれ
には効果が無く、全くその突撃速度を鈍らすことすら出来なかった。

「疾い!」

 こちらが放つ火線を絶妙の機動で避けつつ、損傷機へと距離を詰め、その手にした大
振りなビームサーベルらしき光剣を煌めかせた。

「あっ、甘木ぃ〜!」

 一瞬後に激光に包まれる【ヌーベルGM III】。
 すかさずヤツは、振り向き様こちらへその右腕に取り付けられたビーム砲をこちらに
放ってきた。必死の回避運動を行うがその内の一発がパレットガンに当たりそれを破壊
する。

「くそ!」

 相田二尉は、舌打ちしつつ【ヌーベルGM3】のパイロットがコックピットユニット
ごと脱出したのをコンバットレコーダのプレイバック映像にて確認すると、その青い機
体から逃れるように全力で後退した。



<ジオフロント・ネルフ本部第一発令所>      

 一向に好転しない事態にミサトが絶望的な気分を味わっているときに、それは起こっ
た。

 いきなり、先頭切って進撃していたアローンとか呼ばれているらしい、比較的小柄で
ずんぐりしたの青緑色の機動兵器へ、重巡航艦クラスのビームが降り注いだのだ。その
哀れな青緑色の機動兵器は、各部から煙を出して攫座する。

「何が起こったの!?」

 ミサトは、予期せぬ援護に混乱しつつも青葉二尉にただす。
 急行している部隊が何かの奇跡を起こして到着したとしても、可変MSかドダイへ乗
り込んだMSが主力の、精々が全て併せてみても2個小隊程度。多分な僥倖に恵まれた
としても一個中隊程度の筈だ。
 しかし、目の前で攻撃を行っているのは、重巡航艦クラスの粒子ビームだ。着弾して
いる角度からみると、数少ない大気圏降下可能なMクラフト搭載艦が、その攻撃を行っ
ているらしい。

 青葉二尉も困惑の表情を浮かべ、

「わかりません、M粒子の密度が高すぎます。
 ですが、要請に応えた部隊到着まで最低でも20分はあります」

 そのようなやり取りが行われている間にも、攻撃は加えられ一機の敵へ損傷を与えて
いた。

 もちろん異星人も、バカでは無いらしい。部隊を十分散開させ、砲撃の効果を減らす
行動を取り始めた。これで艦砲射撃の効果は、激減した。

 だが、異星人の部隊が十分散開し、砲撃が効果を失いつつあるころに彼らは現れた。

 実戦機としては、信じられないような鮮やかなトリコロールカラーを施されたその機
体は、間違いなくあのガンダムだ。ミサトの知っているガンダムとは背中のバックパッ
クへ樽のような大型のバーニアが装備されているなど、細部がかなり違っているような
気がするが、ガンダムであることは間違いない。

 その機体は、ビームライフルを乱射しつつ、突っ込んで敵機動兵器一機を屠ると左手
にビームサーベルを持ち二機目へ斬りかかっていた。

 その後からも続々と同じ様なイメージを持つMSがなだれ込んでくる。

 その様を見て、生粋の作戦部所属で機動兵器関連に詳しいオペレータの日向二尉へミ
サトは質問する。

「あれは何!」

 困惑しつつも日向二尉は、敬愛する上官に説明を始めた。

「……最初のあれは、 RX-83GP01Fb【ガンダム・ゼフィランサス】ですね。数年前、対
 MS戦闘を重視して少数試作されたと聞きましたが実戦配備されていたとは知りませ
 んでした。次のヤツは、やはり RX-78系列の機体らしいですけど、見るのは初めてで
 すね。その後ろにいる機体は……」

「もういいわ!
 要するにあれは何!?」

「よく分かりませんが、これだけはいえます。
 あれは、味方です!
 それも飛びっきり強力な!」

 日向マコトは、喜色満面と言った風情で言い切った。そこへ新たな報告をオペレータ
が行う。

「先ほどのMSが、レーザー発振にてモールス信号を発しています。
 『ワ・レ・ロ・ン・ド・ベ・ル』を繰り返しています」

 発令所に歓声が沸き起こる。
 一般には知らされていないが、軍に携わるものなら第一次地球圏大戦から始まる数々
の戦いでのロンドベルとその前身である第13独立部隊の功績を知らないものはいない。

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 期待に違わず、彼らは瞬く間に敵を撃退していった。

 最後に甘木三尉の【ヌーベルGM III】を屠った指揮官機らしきあの青い機体を、日
向マコトですら知らない白一色の機動兵器が撃破したところで撤退を始めた。その機体
がポセイダル軍と呼ばれる敵が使用する機動兵器と共通する意匠が多いことなど、目の
前の吉事に比べれば、どうでも良いことだった。

 敵指揮官機のパイロットが離脱間際、何か叫んでいたようだが、その言葉は発令所の
誰にも理解できなかった。
 しかし、その意味は理解していた。
 後で異星人の翻訳機から解析された翻訳メソッドを使用したソフトをMAGIで稼働
させて記録を調べてみると、やはり「覚えていろ」とか「今度会ったら」とか言う意味
合いの罵声だったらしい 悪意は、言語を越えることを皆が実感した。

 ネルフの長い一日は、ようやく終わりを告げようとしていた。


<第壱話・了>


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ver.-1.03 1998/10/12 一部修正
ver.-1.02 1998/10/12 誤字脱字修正
ver.-1.01 1998/07/19 誤字脱字修正
ver.-1.00 1998/04/18 初公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!

<後書き>      



作者  「あー、眠い」

 懲りもせず、SSを書いた作者は呟いた。
 傍らの冷え切ったコーヒーを煽りつつ、静かな時間が流れる。

 が、その作者の頭部へ後方から現れた何かが踵落としをくれる。

「ピげッ!」

 と、あまり気持ちよくない悲鳴を上げ、目からは視神経付きでピンポン玉のような目
玉が飛び出し、口からは玩具の吹き戻しのように -だが瞬時に- 舌が伸びた。
 ひとしきり、痛みにのたうち回った後、自分へ無慈悲な一撃を与えた相手を確認しよ
うとする。

 そこには、紅毛碧眼長髪の、美の女神の少なくとも親戚筋か、もしかしたら直系の子
孫かと思わせてしまうような折り紙付き美しいの”おぜうさん”が、踵にヒビの入った
マネキンの脚を持って、微笑んでいた。


       目は、笑っていない      


おぜう 「あんたとは、初めて会うわね!」

 お世辞にも、友好的とは言い難い口調で話しかけてきた。

作者  「ちっ、直接会うのは、初めてですが……
     ご活躍はかねがね聞いていますぅ……」

 タリタリと擬音付きで冷や汗を流している固まって作者へ、その”おぜうさん”は詰
問した。

おぜう 「なに、このSSは!
     私が全然、欠片も出てこないじゃない!」

作者  「すっ、すいません!
     でも、しょうがないじゃないですか。
     貴女は、たいていの本編系SSでは登場まで少しかかるのが普通なんですか
     ら」

おぜう 「言い訳してんじゃないわよ!!
     だから、何!?
     私が放って置かれてもいいわけ無いでしょ!!!」

 作者の襟首を掴み、前後に激しく振る”おぜうさん”

 そんな中でも作者は必死に、

作者  「あっ、……だか……っら……
     つぎ……に……は……でまっす……」

 なおも、容赦のなく作者に危害を加える”おぜうさん”。

 とうとう、元来凶悪な作者がキレる。

 某国会議員(元プロレスラー)のかけ声のような一声と共に、”おぜうさん”の手を
はじく。
 そのまま、激突させるかのような勢いで、”おぜうさん”に顔を近づけた。

作者  「いい加減にしろ、このガッキャ!
     人間、殴られっぱなしでおとなしくすると思っとんか、コラッ!!
     ナメとったら、コンクリの下駄履かして明石の大橋の下、沈めたるぞ!!
     それとも、【ハレルヤ】聞かしたろか!!
     しまいにゃ、ゲンの字とこの長男坊、ヨコ添えて【皇帝行進曲】聞かしたる
     ぞ!!」

 その剣幕に一瞬、硬直していた”おぜうさん”であるが、何故か最後のフレーズまで
を聞いて、俯いてしまった。
 余程、怒り心頭に達しているのであろうか、耳が赤い。
 そのままで、

おぜう 「……やって貰おうじゃないの。
     出来るもんなら、やってみなさいよ。
     ハンッ、どうせ出来もしないでしょうけどね!!!」

 何故か、かすれ気味に発せられるその台詞を不可思議に思いながらも、先ほどから踵
落としの余波で、論理的な思考が出来ない頭を過剰稼働させて応える

作者  「おうっ、やったぁらい!
     てめえ、三つ指ついてまって……ろっ」

 とうとう、意識が薄れて倒れてしまう作者。
 その薄れゆく意識で、”おぜうさん”が帰っていくを虚ろな目で眺めていた。
 その姿は、どこか楽しげな様子で、作者は何がそんなに楽しいのか理解できないでい
た。

『コンクリの下駄とシャネルのハイヒール間違えてんじゃねーだろうな……』

 これが、作者最後の思考であった。

 次第に、冷たくなって行く作者。

 その脇を、紙同士を擦り合わせる音を立てて転がる丸い灌木。

 風が、虚しく寂しげな音を立てて吹く。

 死して屍拾うものなし、……合掌。


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