TOP
/
Novel
/
NEXT
湖畔。
そこに彼女は佇んでいた。
その表情は、過去に囚われたモノのソレであり、果たされるべき未来を達観とも諦観
とも判らぬ想いの元で待ち続けるように見える。
そんな彼女に後ろから声が掛かる。
「やあ、またかい?」
「……」
彼女はいつものように、勝手に喋らせていた。
「君と僕とは同じだね」
「……」
「待っているって事さ、彼をね」
「……」
「さて、いったい何時になるのやら。楽しみだねぇ。君もそう思うだろう?」
彼女はそれに答えなかった。
彼女は休日になるとここを訪れる。それが彼女の生活の一部となったのはそれほど昔
ではない。だが、人の心が移ろうには十分といえる時間ではある。
――だが、彼女の胸元で、輝きがこぼれた。これが彼女に確認を与えてくれる。
あの戦いの中で得られたモノは少なくないが、これがもたらす絆にまさるモノはなかっ
た。その絆は、彼女は海を越えても、空を飛んでも、星海を渡ろうとも、辿り着けない遠
くへと行ってしまった彼の存在を伝えてくれる。彼の想いを伝えてくれる。
だから、彼女はここで待つ。彼が、あの戦いの終わりに残した、最後の叫びを信じて。
彼女はあの戦いを思い返していた。
スーパー鉄人大戦F
序章〔戦雲:-X Days〕
<−7days・ハワイ>
「なんなんだっ、ヤツは」
攻撃がソレに前方に展開された何かに防がれる様をみて、激昂するブライト。
先程、ポセイダル軍を何とか撃退した【ロンド・ベル】に畳みかけるように接近する
正体不明機。
その姿は漆黒の人型であるが、猫背気味で腕が異常に長く猿のような印象を受ける。
頸部から上は存在せずその代わりに頸があったであろう場所に仮面の様な無機質な顔
が鎮座しているが、その体表は滑らかでとても機械には見えない。また、肋骨が尽きだ
したように見える胸部の中央には、禍々しい赤色光を放つ光球がある。
当初、静観していた【ロンド・ベル】であるが音声・無線・信号弾等あらゆる警告を
無視して接近してくるソレに、先程までポセイダル王朝軍と交戦していたMS隊が一斉
射撃を加える。しかし、前述の光景を繰り返すだけだ。
「オーラバリアの類か!? ならっ!!」
【ロンド・ベル】の機動戦闘団を率いるアムロ少佐が、攻撃が無効化された情景から
過去の経験を思い出す。
3ヶ月前、異世界で交戦したオーラバトラーと彼らが呼んでいた小型の機動兵器は、
原理はよく判らないが、並の出力のビーム兵器では全く効果が無かった。その為ビーム
兵器が主兵装であった【ロンド・ベル】MS隊は苦戦を強いられたが、少数装備されて
いた実弾系兵器が有効であったため、これで対抗した。
その経験からアムロは接近して、愛機 RX-78NT【ガンダム・アレックス】腕部に内蔵
された九〇mmガトリングで攻撃を加える。重装甲であろうとも間断なく加える打撃によ
りズタズタにしてしまう凶悪な火線が、漆黒のソレに伸びる。
が、やはり命中寸前にソレの前方には何かが展開され、全く攻撃は効果を上げていな
いように見える。事実、ソレに損傷は見られない。アムロの何かもそれを肯定している。
逆に突出したアムロ機に対して、それは向く。振り向きざま仮面の目に当たる場所に
ある孔を一瞬光った。
戦闘経験豊富なアムロは、既に回避行動を行っていたため直撃は免れたが、攻撃余波
が左腕に装備されたシールドに傷を入れた。
「MS隊は、敵を牽制しつつ後退!
【マジンガーZ】をヤツにぶつけろ!」
全く効果を上げないMS隊の攻撃に苛立ちを覚えるブライトは、指示を下す。
『まぁかしとけって!』
言われるまでもなく、ソレとの距離を縮めるべく【マジンガーZ】を走らせていた兜甲児。
あいも変わらず、有り余る活力を目一杯注ぎ込んだ快活さで応える。
ソレが【マジンガーZ】に内蔵された最も高い攻撃力を持つ武装の有効射程に届いたとこ
ろで必殺の気合を込めて叫ぶ。
『ブレストファイヤー!』
ソレが灼熱の地獄ののたうち回ることを確信していた甲児は、次の瞬間呆気にとられ
た。ソレが展開した八角形の半透明な防壁が一切の妥協を許さず、今まで数多くの敵を
屠ってきた灼熱の熱線を遮断したからだ。
その隙をつくように再び仮面の孔を一瞬光らせ、今度は間違いなく目標に攻撃を命中
させる。
『ちっきしょう……』
目標となった【マジンガーZ】を覆う超合金Zは開発者の謳い文句通りの堅牢さを示
したが、旧日本帝国海軍艦艇のようにダメージコントロールに問題を持つその躯に納め
られた内部機器は耐えきれず、【マジンガーZ】は崩れ落ちるように片膝をつく。
その姿をみて、興味が無くなったのかソレは悠然と歩を進める。
【ゲッター1】が、自力で行動することが困難になった【マジンガーZ】を援護すべ
く、接近する姿を見つつブライトは、猛烈な速度で善後策を練る。そこへ報告が入った。
「司令、環太平洋軍管区総司令部より入電。
[交戦中ノ目標ヨリノ離脱ヲ命ズ]です!」
オペレータのサエグサがこの地区を統括する司令部よりの、おそらくは更に上部より
発せられたであろう電文をブライトへ報告する。
「以後の行動命令は?」
「ありません!」
言われるまでも無く、実戦経験豊富なベテラン達をもってしても有効な対抗手段を見
つけかねていたブライトは引き際だと判断し、展開中の全所属機に後退命令を出す。
「【ロンド・ベル】各機に通達。
損傷機を回収しつつ、全機後退!
所属不明機へ無人追撃機を有線制御で追尾!
見失うな!」
「了解!」
また、別のオペレータへも指示
「環太平洋軍管区総司令部へ返信。
[我、コレヨリ目標ノ監視ヲ行ウ]以上だ。
復唱はいらん!
急げ!」
「了解、返信します」
なんら有効な対抗手段を得られないまま、【ロンド・ベル】はこの戦闘を終えた。
<−3days・東京都武蔵野市>
武蔵野市近郊の一軒家で少年は、無感動に昨今の出来事を思っていた。
ニュースが喚き立てるには、ペンタゴナというところから来たポセイダルを名乗る連
中が地球連邦に対して宣戦布告を行ったそうだ。
《何光年先にあるか分からないが、余所の星系まで来て戦いを始めるなんて、宇宙人っ
て暇なんだな》
この近年、地球はありとあらゆる災いが降りかかるかのように、戦いが続いていた。
つい、3年程前には、とうとう本物の宇宙人が攻めてきたそうだ。
《まぁ、でももう買い出しも済ませたし、僕には関係ないか。》
などと、事実にそぐわない多分に誤解のある呑気なことを他人事の様に少年は思って
いた。実際問題、少年にとっては他人事だ。どうなろうと目の前の現実に流されてしま
えばいい、その程度でしかない
所詮少年には、TVの中の出来事でしかなく、関係あるとすれば物資が不足しがちな
ために多少不自由な思いをするぐらいであるが、それは既に少年には幼少の頃から続く
馴染みの光景であった。
……そう、あの日から変わらない馴染みの光景。
母が少年を抱きしめることが出来なくなり、辛うじてその立場へ相応しい役目を曲が
りなりにも実践していた父がその役目を放棄したあの日から続く馴染みの光景だ。
幾人かの表面的な友人とのつきあい。
親権代理人たる、叔父達の額面的な親権者としての立ち振るまい。
……そして、時折飛び過ぎるどこのモノともしれないロボット。
事情通の友人によると本当は地球連邦軍ではなく、彼らがこれまで戦いをその勇気と
行動をもって、終結に導いたそうだ。
……あのような力があれば、僕にだって。
だが、心のどこかでそんな都合の良い話あるわけないさと、思いつつ家事を終え午後
の微睡みを堪能していた少年は、玄関より聞こえる無粋な呼び鈴の音で現実へと引き戻
された。
少年は、いつの時代も変わらない少し癇に障る音を連呼する玄関へ出たところ、そこ
にいたのは郵便配達員であった。
「内容証明で〜す」
少年は今し方愛想の良い郵便配達員より手渡された、やたらに【親展】だの【速達】
だの判を押された封筒を手にして困惑してしまった。
手にした封筒から出てきたものは、2枚の便箋と一枚の写真とカード。
カードは、何気ない一般的なICカードであったが、その表面にはカードの発行組織
の名前らしきものとイチジクの葉を半分にして傾けた、見ようによっては頭のない女神
が飛翔しているようなイメージを与える図形が組み合わされたトレードマークらしきモ
ノと自分の名がある。
一枚目の便箋には、少年を三日後に伊豆半島へ建設されつつある次期遷都予定都市(
と言われている)【第三新東京市】で待っているということが記されていた。その便箋
の最後には、この便箋を記したらしい女性の名が署名されている。
その便箋にクリップで留められていた写真には、少年の熱き血潮を溢れさせてしまい
かねない20台半ばのグラマラスな美女が、にこやかな顔で襟ぐりの深いタンクトップ
とカットソージーンズを纏い、その肢体を見せつけるような蠱惑的なポーズで写ってい
た。
ただ、その胸元へ【胸の谷間に注目】と印を付け、ダメ押しのキスマークがあったの
は、やりすぎであろう。
実際、少年はこれで少しひいていた。
若年層を対象とした新手のキャッチセールスの類のように思われたからだ。
これらは、少年を別の意味で十分困惑させたが、少年を本当の困惑に叩き込んだのは
もう一枚の便箋である。
そこには、誤解のしようも無い程簡潔に用件と少年にとって最も近くて遠い肉親の名
が記されていた。それを見た少年の手は小刻みに震え、何かを糾弾するように呻く。
「……いまさら
……なんで!
どうしてなんだよ!!」
激情はその便箋を贄に欲し、少年の手には寸断された紙屑が残された。
これが、少年が運命の激流へ放り込まれた瞬間だった。
NEXT
ver.-1.10 2003/01/19 序文追加、一部修正
ver.-1.01 1998/07/19 誤字修正
ver.-1.00 1998/04/15 初公開
感想・質問・誤字情報などは
こちら
まで!
<後書き>
「あー、やっとでけた」
作者は、コリ症に悩む肩を揉みながら、一息ついていた。
文章を書くのが嫌いで、小学校の頃は3行で完結した作文を先生に『もっとちゃんと
書きなさい』と怒られた(中学校以上は先生も諦めていた)ヤツが、無謀にもTVアニ
メヒーローが入り乱れる原作付きのエヴァSSを書こうとしていたからだ。
吹けば飛ぶような極軽の話であった筈が、書いてみたらとんでもなく”濃い”話にな
ってしまったのは、誤算だったがこの際目をつぶろう。
そうしておもむろに、対面にいるブライト・ノア大佐 -35才。連邦軍外郭軍事組織
【ロンド・ベル】司令。妻子・愛人有り- に訊ねた。
作者 「今回は、こんなもんですかね?」
ブライト「まあ、序章でもあるしこんなものだろう。
だが、私の略紹介はなんだ!」
作者 「事実をありのまま、述べてみました。
あなたは、軍人でしょう?
事実を目の前にして取り乱すのは感心しませんが?」
ブライト「ばかなことをいうな!
人事データがプライベート情報まで含めて漏れているのだぞ、大問題だ!
なんでそれに35才なんだ納得いかんぞ!」
流石、叩き上げの軍人。
最重要機密 -但し本人とその関係当事者のみ- には、何も価値が無いかのように触れ
ず、そこへ話の論点が向かわないようにしている。
作者 「それぐらいじゃないと、官僚主義の連邦が外郭団体とはいえ部隊指揮官に据
えるわけ無いじゃないですか。
まあまあ、それはこっちへ置いといて。
【使徒】はどうでした?」
ブライト「何がまあまあだ。
それはいい、【使徒】だったな?
冒頭のあの化け物のことか?」
作者 「そうです。
ここから少し外れの世界ではシュウ=シラカワにその呼び方教えて貰ってい
たんですけどね。
なかなかどうして。
【マジンガーZ】なんか、行動不能になっていたじゃないですか」
ブライト「甲児君が油断していただけだ。
無闇に諸定に満たない戦力を投入して、壊滅した連邦軍の親戚筋の軍よりは
マシだろう。
確実とはいえないが現在、マジンガー・ゲッター共に改修中だ。
無敵の存在などあり得ない、必ず敵性体は排除する!」
作者 「某反憲法性国防軍事組織みたいな用語使って、リキ入ってますね〜。
それじゃ、地球の平和は任せました。健闘を祈ります。
じゃ!」
したっ、と手を挙げてどこかへ行こうとする作者。
思わずつられて、敬礼を返してしまうブライトであったが、
ブライト「こら、今後の増強計画を聞かせろ!
戦力投入計画に関わる。
今日はそれを確かめに来たのだ」
作者 「あっ、覚えてましたか。
確実なのは、連邦政府非公開組織の汎用人型決戦兵器3機ですけど。
他は、10m級x2・15m級x1・20m級x2・30m級x1・35m
級x1・55m級x1が確実です。
だーいぶ後に100m級2機に200m級1機ってとこですか?
これには、現在使用している機体のリプレースは含んでいません。
不確実なので……20m級x1ってとこです。
その他はここから少し外れの世界次第ですね。
4月末から5月中ぐらいには、判明すると思います」
ブライト「今後の展開を考えると足らないような気がするが……
この不確実って言うのはなんだ?」
作者 「本人の希望をまだ聞いていないもんで。
参加するとしたら、かなり悲惨な経験をしてもらうことになりますし、年端
もいかない少年兵なんで、その辺りのことを本人とよーく話し合おうとおも
いまして」
ブライト「そうだな、そういうことはじっくり話し合った方がいいだろう。
だが、何故決戦にしか使わない用途の限定された兵器が汎用なのだ!?」
作者 「さあ、ただの予算獲得時名目上の名称じゃないですか?
ほら、こういうのはやっぱりインパクトが必要ですから。
ウチの会社でも、盛大に膨らませた要求書の方が通りがいいですから」
ブライト「何か違う気がするが。
それでそいつはアテになるのか」
作者 「ちょっとクセがありますが、機体の方は間違いなく。
ただ……」
ブライト「ただ?」
作者 「パイロットの方が」
ブライト「どうした?
まさか、強化人間の類なのか」
作者 「いえ、それが問題なんじゃなくって。
手っ取り早いハナシ、究極の無菌培養にサイド7在住の頃のアムロ拡大強化
型と更に悲惨な幼児体験を持ち歪められたセイラといえば、わかりますか?
かなり荒れますよ、これは」
ブライト「うっ、アムロにもかなり苦労させられたが……
あの日々が甦るのか? 拡大増強されて?」
作者 「ご愁傷様です。
まぁ、本当に被害を被る人はまだ【ロンド・ベル】に居ませんから。
リラックス〜、リラックス〜」
ブライト「暢気なことを抜かすな〜、って。
どこ行った!」
音もなく、居なくなっていた作者。
憮然とした表情のまま立ち去るブライト
ほんとに大丈夫なのであろうか。
どこからか、風にながれて聞こえてきた。
? 「リラックス〜、リラックス」
TOP
/
Novel
/
NEXT