証拠保全申立書

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証拠保全申立補充書(2003年3月3日)

                    2003年(平成15年)1月24日

 

水戸地方裁判所 民事部 御

 

 申立人の表示                               別紙申立人目録記載の通り

 申立人代理人の表示                別紙申立人代理人目録記載の通り

 相手方の表示         別紙相手方目録記載の通り      

  証拠保全のため、次のとおり検証を求める。

                 申立人ら代理人

                弁 護 士   安   江       祐

                同       五   來   則   男

                同       谷   萩   陽   一

                同       佐   藤   大   志

                同       今   村   英   子

                同       坂   本   博   之

                同       鈴   木   延   枝

                同       梶   山   正   三

                同       広   田   次   男

                同       井   口       博

                同       越   智   敏   裕

 

【申 立 の 趣 旨】

   上田砂利産業株式会社、宇田千代、宇田一郎、葛西年子らが所有し、及び相手方財団法人茨城県環境保全事業団が管理する別紙物件目録記載の土地について検証をする。

【申 立 の 理 由】

第1 証すべき事実

   相手方財団法人茨城県環境保全事業団(以下「相手方事業団」という)が、管理型廃棄物最終処分場(以下「本件処分場」という)の建設・操業を予定している別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)に相当量の湧水が存在する事実

第2 検証

 1 目的物 

   本件土地に存在する元、周囲約1キロメートル、最大水深約37メートルの湖で、水抜き作業により、現在周囲2〜300メートル、最大水深約2メートルに縮小された湖(ふじみ湖)。

 2 検証によって明らかにしようとする事項

    ふじみ湖の現在の湛水状況、湖岸の状況、従前水中にあって湖底を形成していた岸壁からの湧水状況(湧水箇所の特定及び主な湧水箇所における水の流量、水質等)

    なお、どの湧水箇所の湧水を測定するかは、事前に湧水箇所を特定しておき、その内の数ヶ所を選定して実施すべきである。

    その測定に使用する機具の規格及び性能は甲のとおりである。

 3 具体的内容

  A ふじみ湖の全景(写真撮影)

  B ふじみ湖の湖岸岩盤の状況(写真撮影)

    特に湧水の状況

  C ふじみ湖湖岸岩盤に存在する湧水から出ている水の水量及び水質調査

    電気伝導率、pH 、水温等を野外用測定器によって測定する。

第3 証拠保全を必要とする理由

 1 建設差止仮処分の申立

   相手方事業団は、本件土地上に、管理型廃棄物最終処分場及び廃棄物溶融処理施設を建設・操業する予定であるが、申立人らを含む同処分場の周辺地域である笠間市等に居住する住民らは、その生命、身体、健康、生活、財産、環境に重大な侵害を受ける危険性が高いことを理由に、2002年11月1日、貴庁に対し、相手方事業団を債務者として、建設の差止を求める仮処分の申立を既に行っている(甲9、仮処分申立書)。

   本件処分場及び廃棄物溶融処理施設の建設・操業には、水質汚濁のほかに、産業廃棄物焼却施設等による大気汚染等の多数の深刻な問題点があるが、本申立においては、水質汚濁に起因する問題点に限定して述べる。

 2 本件廃棄物処理施設の計画概要

   略

  

 3 相手方事業団及び茨城県の事実認識と調査の著しい不備

  A 相手方事業団及び茨城県の事実認識と説明

    相手方事業団は、茨城県が資産を拠出している財団法人であり、本件処分場等の事業主体である。最近の廃棄物処理法改正により県の事務に市町村の委託による一般廃棄物処理並びにその処理を行うための施設の建設が加えられたのを機に、平成12年7月、茨城県が相手方事業団の寄付行為を改正して廃棄物処理センターの指定(廃棄物処理法15条の5)を受けさせて産業廃棄物及び一般廃棄物の処理及びその処理のための施設建設をできるようにしたものである。したがって、本件処分場の実質的な建設主体は茨城県であると言っても差し支えないところ、相手方事業団及び茨城県は、調査の結果、本件土地には湧水はなく「ふじみ湖」も湧水により形成されたものではないとして、本件土地に湧水が存在しないことを前提とした本件処分場の建設・操業計画を立てている(甲4、5、6、7)。

  平成13年11月9日付茨城県公共処分場生活環境調査委員会作成の地下水・地質調査報告書(以下「本件報告書」という。甲6)によれば、処分場計画地について、「湖水」「湖面」「湖底」「湖脇」「湖水温」などの言葉が使われており、同委員会は、「湖」であることを前提として調査を行っている(地理学では、水深5メートル以上あれば、「湖」として扱っている)。

 しかし、茨城県及び相手方事業団は「ふじみ湖」が湧水によってできた湖であること、及び、現在も本件土地において平均でも1日100トン以上の水が湧き出していることを否定し続けている。

  B 調査の著しい不備

    生活環境調査については、数字にわたる「詳細な」報告書はあるが、専門家の目で見れば、環境地質学分野に限っても、不備の目立つ内容になっている(甲13・坂巻幸雄意見書)。

 すなわち、県は、潜水士による潜水調査を行ない、「湧水はない」という結論を出しているが、広い湖面全体に対して、潜水地点はわずか4地点に留まり、視界がほとんどなく写真にも画像が残らない状況下で、「湧水に伴う泥の巻き上がりが見られない」ことと、「底部に冷水層があり、湧水に伴う水温上昇がみられない」ことをもって、短絡的に「湧水はほとんど無い」と結論づけていた。

 しかし、全湖面面積約7.4ヘクタール、平均水深約19メートル、総水量約140万立方メートルの湖水域に対して、毎分数百リットル乃至数立方メートルの有水量が附加されている程度(水道栓4本程度を全開した程度)では、よほど注意深く観察しない限り湧水状況は掴めない。まして、底面だけでなく側面の割れ目からの流入も考慮すれば、たまたま潜水士の視野に明瞭な湧出点が入ってこなかったからといって、「湧水がない」と結論づけることは決してできないのである。さらに、最深部では、約37メートルの水深があるのに、潜水士は20メートルレベルまでしか潜っていない。

 なお、水層の混合が起こっていない夏期に行われた調査であるため、湧水は、周りの水と混じることなく、本来の水温に相応する位置まで上昇して停滞する。「水温は成層構造をしているから、湧水はあり得ない」というのも、基礎的な理解を欠いている。

 現に、「日常的にポンプアップによる排水を行わないと、底部の採石作業はできなかった。」という作業従事者の供述もある。これらを総合すれば、「湧水がある」ことを前提として環境影響評価を行うのでなければ重大な誤認をする危険がある(甲13・坂巻幸雄意見書)。

 4 本件土地における湧水の存在の明白性

(1)2002年(平成14年)12月27日の証拠保全の結果

   2002年(平成14年)12月27日、御庁によりふじみ湖に対する検証を内容とする証拠保全手続が実施された(平成14年囁謔T95号、以下「12月証拠保全」という。)。

 その検証過程の中で、従前湖水中に没していた岩盤の何カ所から湧水が確認され、急遽、その1ヶ所を選び、水量、水質、水温の測定が実施されたものである(別紙1、2の@で示されている箇所)。

 その結果は、甲6の2枚目中「3ふじみ湖湖岸湧水」で示されている。

 これを見れば、申立人側の測定でも、相手方の測定でも、水温が湖水のそれよりもおよそ4度高く、また、電気伝導率においても約200ジーメンス/pも高くなっていることが明らかである。

 この結果は、当該箇所からの湧水が岩盤の割れ目で長時間滞留していた地下水と考えなければ説明がつかないものである(甲14、1枚目)。

(2)同日のふじみ湖湖岸岸壁の状況

 12月証拠保全手続が実施されていた間にふじみ湖湖岸岸壁を撮影したビデオテープ(甲17、別紙1、2のA)には、水質調査等をした箇所の反対側の岸壁のところからかなりの水量の湧水が湖水に落下している状況が撮影されている。

 この湧水も、アで述べた湧水と同じように長時間岩盤の割れ目で滞留していた地下水と考えられるものである。

しかも、この箇所以外のふじみ湖湖岸岩盤の多数箇所から、同様の地下水が湧出している可能性が高いと考えられる。

(3)その他、湧水の存在を示す証拠

 ア 本件報告書(甲6)において計画地の湖水について調査した水文地質調査報告(11頁)によれば、「湖水の外部流出量は、渇水期においては湖出口で40リットル/分、豊水期においては、池出口で降雨後以外は100リットル/分程度を示す」とされている。これらは、一日当たりに換算すると、渇水期でも57.6トン、豊水期で144トンもの水が、降雨量とは一切関係なく、常時流れ出ている計算となる。すなわち、平均したとしても、一日あたり100トン(しかし、500トン〜1500トンとの推測もある)の湖水が、湖・池出口から流出しているのである。

  このような大量の湖水の外部流出量があるにもかかわらず、湖面はつねに一定(標高73.44メートル)に保たれている(例えば、甲9の3、14頁など)。本件報告書には「降雨後以外」と書かれており、雨とは関係なく、毎日、これだけ大量の水の外部への流出があることが報告されている。これらの大量の水は、湿地帯を形成(ここでは貴重な動植物が生息している)した上で、涸沼川へとそそがれる。さらに「ふじみ湖」には、地形図(9頁)や航空写真(甲8)からも明らかなとおり、流れ込む河川は一本もない。そして、上記流出量は、晴天時のデータである。とすれば、ここから導かれる結論は、論理的にはただ一つしかあり得ない。

 すなわち、雨天・晴天とは全く関係なく、河川からの流入が全くないにもかかわらず、毎日の流出量に等しい水がどこかからかこの湖に供給されていることになる。とすれば、湖底から、あるいは湖の側面部から、湧水が出ていて、それが常に湖水の供給源となっていることしか、論理的にはあり得ないのである。そう考えて初めて、湖水が透明であること、湧水発生後わずか1年足らずで現在の湖まで形成されたこと、湿地帯につねに清らかな水が供給されることで、貴重な動植物が生息できるようになったこと、など、すべての事実が説明できるのである。

イ 採石作業従事者の供述及び航空写真

  本件土地における大量の湧水については、昭和60年頃に採石業者が採石中に、岩盤を掘っている内に水脈を掘り当ててしまい、そこから水が湧き出したものと推測するのが合理的である。当時の採石作業従事者である木村義美は砕石作業中に湧水があり、昼夜ポンプで出していた旨陳述している(甲11)。

 そのため、採石業者は仕事ができなくなり、昭和61年に倒産した。その後、わずか1年足らずで、現在の湖面まで水がたまり、ほぼ現在の姿になったのである(甲11)。

この点、茨城県は湖の存在そのものを否定した上で、さらに、湧水はなく、雨水による水たまりがあったのみ、とホームページ(甲7)やマスコミの取材で説明しているが、昭和62年5月当時の航空写真(甲8)には、既に現在の形と同じ湖が、本件土地上に写されており、かかる説明は誤りである。

ウ 水質調査結果

  本件報告書(甲6)における水質調査結果(11〜12頁)によれば、湖水の水質を調査すると、それはCaSO4型を示し、これは坑内水や温泉水タイプである、と分類されている。すなわち、地中から湧出する湧水に特徴的な水質である、と結論付けられている。

 茨城県の説明によると「ふじみ湖」は、雨水によってのみできたものであるから、湖水の水質はCa(HCO)型・降水型でなければならない。しかし、報告書による水質調査結果では、そのようなことは全く報告されていない。

 5 湧水地における処分場建設の危険性

(1)本件処分場に搬入される廃棄物の危険性

  本件処分場に搬入される廃棄物は、上記のとおりであるが、一見して明らかなとおり、本件処分場は、いわば、「何でもあり」の処分場である。即ち、非常に多種多様な有害物質等が、本件処分場に持ち込まれることになる。

 そもそも、本件処分場は、管理型処分場である。管理型処分場とは、@遮水工によって搬入された廃棄物や廃棄物に触れた水を場外に漏らさないようにし、A廃棄物に触れた水は浸出水処理施設によって無害化して場外に放流する、ということを生命線にする。このような思想のもとに作られ、このような構造を有すること自体、管理型処分場の中には、「厳重な管理を行わなければならない」有害物が大量に搬入されることを、当然の前提にしているのである。

 本件処分場に持ち込まれる廃棄物には、ダイオキシンを始めとして、その有害性、危険性が指摘されている。

(2)有害物質等が処分場外に漏出する危険性

  ア 本件処分場は、何度も述べるとおり、管理型処分場である。管理型処分場の安全性についての生命線は、第一に遮水シートであり、第二に浸出水処理施設である。しかしながら、次に述べるように、本件処分場においては、その両者共に全く当てにならないものである。そして、それ以外にも、本件処分場には、有害物が、周辺地域に飛散して、申立人らに被害を及ぼすことも考えなければならない。

 本件処分場の遮水工は、既に述べたように、底面においては、上から順に@保護砂50p、AGCL4o、B遮水シート(TPU〔熱可塑性ポリウレタン〕製)2o、C不織布の保護材、Dベントナイト混合土50p、Eコンクリート盤5pとなっており、法面においては、やはり上から@保護土50p、A遮光性保護材4o、B遮水シート2o、CGCL4o、Dモルタル吹きつけ10p、ということになっている。これらのうち、遮水性能において取り上げるに足りるのは、底面部分ではABDE、法面部分ではBCだけであり、ほかは遮水性のものは全くない。

 本件では、GCLは、遮水シート(素材は不明)とベントナイトとを複合した一種の遮水シートと見ることができるので、一種の2層の遮水シートを採用した管理型最終処分場であると見ることができる。

イ 遮水シートの欠陥

 あ 遮水シートの寿命、破損の原因について

   まず、遮水シート自体の寿命は、概ね10年であると考えられている。この数字は、遮水シートメーカーのほぼ一致した見解である。

   そして、右のようなシート自体の寿命に加えて、自然条件下では、熱、圧力、紫外線、可塑剤の流出、湿度、廃棄物や当該場所に存在する様々な化学物質との間の化学的作用、生物分解等、様々な原因により、遮水シートは破損することになる。このような様々な要因により、遮水シートは、寿命よりも前に劣化・破損することが考えられる。

   さらに、それら様々な要因は、それぞれ単独で遮水シートに作用するのではなく、複合的に作用することが、自然条件の下では通常であるのは自明のことである。そのような要因が複合的に作用すれば、単独で作用した場合よりも、劣化の速度や度合いが高まることも、ほとんど自明のことである。そして、自然条件の下では、右のような様々な要因が複合的に遮水シートに作用することが必然であるから、遮水シートは、実際に処分場において使用された場合には、右の寿命よりもずっと短期間で劣化・破損するものであると考えなければならない。

 い 本件処分場において採用される遮水シート

   本件処分場において採用される遮水工のうち、多少なりとも遮水性能を有すると思われるのは、GCL、TPU、ベントナイト混合土、アスファルトコンクリートである。この中で一般に遮水シートとよばれる物は、GCLとTPUである。

  このうち、GCLは、ジオテキストタイル(不織布)とジオメンブレン(遮水シート)によって支持された、難透水性無機系ベントナイトからなる水理バリア、ということのようである。本件処分場に使用される物が具体的にどのような物であるか(遮水シートに用いられる素材がどのような物であるか等)は、明らかにはされていないので、役に立つ物なのかどうかは明らかではない。しかし、相手方事業団は、おそらく、通常の2層の遮水シートよりはいくらかましな物を作る、という意識なのであろうと推測される。

   しかし、本件処分場の遮水シートは、上記の2層の遮水シートよりも若干厚さが厚い程度の差しかない。早晩破損し、有害物質等を遮断する役には全く立たないことは、火を見るより明らかである。まさに、「五十歩百歩」とはこのようなことを言うのであろう。

 う 接合部分の脆弱性

      さらに、遮水シートは、上に述べてきたような、それ自体の破損の可能性のほかに、接合部分の脆弱性という極めて重大な欠陥を有している。即ち、現実の処分場においては、接合部分は必然的に極めて長大な距離となる。そのような 長大な距離の全てに亘って完全な接合を行うことは不可能である。ドイツやアメリカでは、その接合部分の脆弱性がとみに指摘されている。

      また、遮水シートが二重になったり、様々なものを間に挟むということになれば、実際の接着は一重のものよりも困難になるであろうこと、従ってその接合部分は一重のものよりも、より脆弱になるであろうことは、容易に予想できることである。

      実際上も、一重の遮水シートの例であるが、町田市の処分場ではかなりの長さに亘る接合部分の剥離が写真撮影されている。二重の遮水シートにしても、各地で、接合不良による破損が報告されている。「最新技術の粋を集めて造られた」とされる日の出町第二処分場では、事業者が行った試験接着(熱融着)の際、わずか4枚の接着で2メートルもの接着不良箇所が出たと報告されている。

      既に述べた愛知県津島市の新開処分場においても、施工段階から、接合不良による破損が報告されている。また、茨城県龍ヶ崎市の処分場は、本件処分場に近い、2層の遮水シートを5層と豪語してその安全性を強調しているが、1999年の埋立開始直後から、次から次へと遮水シートの剥がれが報告されている始末である。

    え 遮水シートの有害物質に対する透過性

      遮水シートは、水は通さなくても、浸透圧の関係で、有害な有機物などは通してしまうことが、実験で確かめられている(遮水シートの透過性。透水性とは異なるので注意されたい)。特に、遮水シートの上に水を貯めてしまうと、遮水シートの上下にかかる圧力の差が高まるので、透過性が高まる。従って、そのような場合、地下水に有害な有機物がどんどん漏出していってしまうことが考えられるのである。

    お 遮水工の遮水性自体の問題点

      さらに、相手方事業団は、本件遮水工の安全性について、遮水工を構成する遮水シート等が「難透水性」であることを強調し、「安全である」と自信ありげに述べている。

      しかし、「難透水性」は「不当水性」とは異なる。後に述べるように、本件遮水工が相手方事業団が期待するとおりに十全に機能したとしても、約4年8ヶ月浸出水が遮水工の上部から底部まで到達してしまう。即ち、約4年8ヶ月経過した後は、本件遮水工からは、始終浸出水が漏れ続けることになるのである。

      果たして相手方事業団は、このようなことを理解して上で「安全である」と豪語しているのであろうか。

    か 漏水検知システム

      本件処分場では、電位測定法という漏水検知システムを設置するようである。いくつかある漏水検知システムの中で、この方法を採用した理由は、「信頼性が高く、実績が多い」と言うことが理由とされているようである。

      しかし、この方法(ほかの多くの方法もそうであるが)が、実証実験すら行われていない。

      また、どの程度の範囲の漏水を検知することが可能なのかどうか、一旦敷設した後、検知システム自体の耐久性がどれくらいあるのか、仮に漏水を検知できたとして、具体的な補修の施行方法はどのようなものか(抽象的なものではなく、例えば、ケーシング工法を取る場合に、どのようにして遮水工を傷つけないようにするのか等)、補修のための費用はどれくらいを要するのか、明らかになっていない。

      従って、これが役に立つのかどうか、明らかではない。

      その上、漏水検知システムで漏水が検知された場合には、既に汚水が漏れてしまっているのである。

    き ベントナイト混合土について

      相手方事業団は、本件処分場で用いる予定のベントナイト混合土層について、透水係数が10−6p/秒以下である旨誇らしげに述べているが、その値を前提としても、1年に31.5pは水が浸透することになる。従って、仮に50pの厚さの同遮水工を用いたとした場合、2年経たないうちに、遮水シートを漏れた浸出水は、完全に処分場外に漏れてしまうことになる。

      しかし、上の透水係数は、純水を用いた場合の値である。現実の浸出水は、様々な物質を含んでいるから、純水を用いた透水係数がそのまま当てになるものなのかどうか、定かではない。

      また、ベントナイト層に触れた浸出水が酸またはアルカリであったとき、粘土の成分を溶解することがある。酸はアルミナ、シリカ、鉄、アルカリ金属、アルカリ土類金属を、アルカリは、シリカを溶かす。粘土中の成分が溶けだしてしまうと、粘土層自体がなくなったり薄くなったりするほか、粘土層中の空隙が増加するから、透水性が増す。遮水シートを支える地盤の均一性も失われ、遮水シートの破損を助長することになる。

      それから、粘土層を水と異なる液体が流下するとき、粘土粒子の間隙巾が変化する。例えば、誘電率の小さい液体で粘土中の水が置換されるとき、間隙巾が狭くなり、そのために粘土が収縮して別の空隙が生ずる。このような空隙の再編成によって、はじめの空隙分布が変化して、より大きな空隙を持つ分布状況が生まれる。そのような大きな空隙が生ずると、粘土層の透水性は増加する。その上、上記のような浸出水の溶解作用等により、空隙が大きくなると、流下する液体の乱流特性が助長されて、浸食作用が大きくなる(バイピングといわれる)。バイピングは、通常、粘土遮水工の下部から始まり、粘土粒子が剥離していき、空隙が次第に上方へと進行する。その結果、大きな穴が空くことになる。

      それから、粘土の透水係数は、実験室でのデータよりも、現場での測定値の方が圧倒的に大きな値になることが普通である、といわれる。これは、現場での地層が均一ではなく、木の根や小石などの異質の成分が混入していたり、透水性のよい土壌がレンズ状に存在していたり、亀裂が存在していることがあるからである。

      本件処分場のように、数万u以上もの面積に均一に粘土遮水工を敷設することはまず不可能であるといわねばならない。その上、本件処分場予定地は、豊富な湧水があり、粘土層が洗い流されてしまうことも考えられるし、相手方事業団の用いるベントナイト系粘土は、水に触れると膨潤するということであるから、水に触れた部分とそうではない部分との間で、均一性が破れ、粘土層の間に空隙や亀裂が生ずる可能性がある。一旦水に触れた部分が乾燥していく速度にも、部分部分で差異が生ずるものと考えられるので、早く乾燥する部分と層でない部分との間に空隙や亀裂が生ずる可能性もある。殆ど水に触れない部分は、乾燥のために亀裂が生ずる可能性もある。

      以上のような点から、ベントナイト混合土の信用性はないものということができる。

      また、GCLについても、上記ベントナイトの弱点がそのまま当てはまるものということができる。

    く 水密アスファルトコンクリート盤について

      水密アスコンの透水性は、空隙率と密接な関係にあるとされている。しかしながら、本件処分場のような広い面積に亘って、適切な空隙率を保ちながら、完全に敷き詰めることは、まず不可能である。

      また、水密アスコンは、追従性(たわむ性質)を持っている。従って、基盤の形状、上に埋め立てられる廃棄物の種類等によって、変形することがあり得るし、周辺部分と中央部分とではたわみの度合いが異なってくることが予想される。たわみは、亀裂を生ずる原因となる。

      それから、水密アスコンは、温度変化により膨張、収縮するが、特に冬期の急激な温度低下により、ジョイント部(施工継目や浸出水集排水管との接合部など)や、断面が変化している場所では、応力集中によるひび割れ等の被害が発生するおそれがある。

   イ 本件処分場の立地の不適性(甲13・坂巻幸雄意見書)

     本件処分場用地は、豊富な湧水が存在する場所である。豊富な湧水は、当然のことながら、豊富な地下水の存在を前提とする。このような場所に処分場を作ると、事故が発生して汚水が漏れると、その地下水を広汎に汚染してしまうことになる。ひとたび地下水が汚染されると、その汚染を除去することはまず不可能である。このような意味からも、地下水の豊富な場所には、絶対に処分場を作ってはならないのである。

     のみならず、豊富な地下水が存在する場所は、遮水工が、不断に地下水によって攻撃される。粘土層や、コンクリート、遮水シートに含まれる可塑剤等の物質は洗い流されたり、溶出していったりすることになるし、遮水シートの上からの廃棄物による圧力のほかに、下からも圧力が加えられることにもなる。

     豊富な地下水は、遮水工に対して必然的な劣化をもたらすと同時に、劣化を促進することになるのである。

   ウ 廃棄物の安定化に要する期間

     第二次世界大戦前までの時代の、生ゴミ主体の時代とは異なり、現代の廃棄物が、無害化ないし安定化することは半永久的にない。

     例えば、重金属類等は、処分場外に流出や飛散するのでなければ、分解されることなく、永久にその場に存在し続ける。ダイオキシン類などは、極めて長期間、分解されずに残り続けるのである。

   エ 以上のとおり、本件処分場から有害物質等が漏出する危険性は高い。

  C 湧水による遮水シート破損の容易性

    専門家によれば、湧水のあるところに最終処分場を作ることは、絶対やってはならないことである(甲13)。なぜなら、遮水シート等の遮水構造は、湿気や湧水のない地盤、しかも、強固な地盤の上に、さらに廃棄物側からの水漏れのないよう、安全性を高めるために施工されるものであって、湿気や湧水のないこと、及び強固地盤であることは、遮水シート施工上の当然の前提だからである。そこに、もし湧水があったり、軟弱地盤だったり

    すれば、シートは反対側から水が浸透していくことになり、また、シートそのものには強度はないので、廃棄物の重みによって簡単に破れてしまうからである。すなわち湧水があるところに処分場を作るならば、遮水シートによって安全性を高める、その前提そのものが崩れてしまうのである。

  D 本件処分場の建設・操業による申立人らに対する被害

   ア  飲料水及び生活用水の汚染による被害

     申立人らは、飲料水及び生活用水を地下水に依存している者であるところ、すでに述べたとおり、本件処分場から有害物質等が漏出することによる地下水汚染によって、飲料水及び生活用水が汚染され、その生命・身体に取り返しのつかない重大な被害を受ける蓋然性が高い。

     本件処分場は、豊富な湧水がある場所に立地することは先に述べたとおりであるが、この湧水は、地下水を通して、これら申立人らの井戸水につながっており、その井戸水を汚染する。また、地下水の汚染は、地層内のクラック等を通じても暫時拡大する。さらに、本件処分場の地下集水管や雨水集水管の水は、涸沼川に流れ込むことになるが、地下水が汚染されると、涸沼川を汚染することになるし、汚染された涸沼川は、その下流域の地下水を暫時汚染していく。涸沼川が涵養する地下水と、申立人らの井戸水につながる地下水とが、つながっていることも考えられる。

     この為、飲料水及び生活用水を地下水に依存せざるを得ない申立人らの生命・身体に対する侵害は際限なくかつ継続的に拡大していくことになる。

   イ 農業用水の汚染による被害

     申立人らは、表流水(涸沼川)を農業用水に利用する者であるところ、すでに述べたとおり、本件処分場から有害物質等が漏出することによる涸沼川の汚染により、農業用水が汚染され、これを使用した農作物の汚染により、農作物の販売ができなくなる者である。農作物の販売ができなくなることにより、その生活の基盤ともいうべき収入源が奪われる。さらに、風評被害も深刻である。加えて、これら農作物を家庭内において食物として食しているのであるから、その生命・身体・健康に重大な被害を受ける蓋然性が高い。

   ウ 水道水源の汚染による被害

     笠間市居住者は、茨城県企業局涸沼川浄水場が供給する水道を使用している者であるところ、同浄水場が水道水源としているのは、涸沼川であり、しかも、本件処分場の下流から取水している。本件処分場から汚水が漏れた場合、地下水を通して涸沼川が汚染される可能性があるし、地下水集水管の水は、本件処分場の直近の涸沼川に放流される。従って、本件処分場の遮水工が破綻した場合、これらの者が、将来、汚染された水道水の供給を受ける蓋然性が高い。

   エ 貴重な自然の破壊

     本件処分場用地は、もともと砂利採取場の跡地であった。しかし、砂利の採取をやめた後、非常に清冽な地下水が湧出し、全国的に見ても稀に見る透明度の高い湖となった。まさに、自然が自らの力で回復した姿である。この湖自体、貴重な自然であると言わねばならない。

     また、何度も述べるように「ふじみ湖」を涵養しているのは、豊富な地下水である。しかも、汚染をされていない、清冽な地下水である。このような汚染されていない地下水は、それ自体、貴重な遺産であり、将来の世代のために残し、伝えなければならないものである。

     そして、「ふじみ湖」は、その周辺に貴重な湿地を作り出した。この湿地には、シダ植物以上の高等植物に限ってみても、122科648種、もの豊富な種類の植物が生育している。その中には、「茨城における絶滅のおそれのある野生生物〈植物編〉」に記載されたものを4科7種を含んでいる。ふじみ湖から湧き出した水は、かって採石プラントが建っていた所を流れているが、そこが現在では良好な湿地となっており、その所にのみ絶滅危惧種に指定されているシランが生育しているのである。

     また「ふじみ湖」周辺では、頻繁にオオタカの飛行が見られる。本件処分場予定地のすぐ近くにはオオタカが営巣と育雛をしていることが確認されている。従って、本件処分場予定地は、オオタカの日常的な狩り場となっていると同時に、幼鳥の狩の練習場ともなっているものと思われる。

     そして「ふじみ湖」がはぐくんでいる湿地には、ハッチョウトンボやオゼイトトンボという、「茨城における絶滅のおそれのある野生生物〈動物編〉」において希少種に指定されている、貴重な昆虫も見られる。

   『茨城県が産業廃棄物の処理施設建設の場として、"ふじみ湖"というこの生物多様性に富んだ湖(たとえ人工湖であっても)を埋め立ててまで建設するという計画は、誠にもって時代錯誤の発想と言わねばならない』(甲29・河野昭一意見書)のである。

 6 証拠保全の必要性に関するまとめ

  A 湧水の存在による本案裁判の判断への影響

    以上のとおり、本件土地に豊富な湧水が存在することは明らかである。

    そして、湧水が存在する本件土地に本件処分場を建設するならば、そこから有害物質が漏出して周辺の飲料水・生活用水、農業用水及び水道水源の汚染や湿地環境の破壊を招く危険性が極めて高いということができる(甲28・坂巻幸雄意見書)。

    従って、湧水の存在は、本訴で問題となる本件最終処分場の危険性を立証する上で、重要な証拠となることは明らかである。

  B 相手方らによる水抜き工事の実施と将来の本件証拠方法の利用不可能性

   ア 2003年(平成15年)1月18日付の新聞報道(甲15、16)によれば、相手方は、現在、ふじみ湖の水抜きをほぼ終了させ、約70万トンの水量中、約69万トンまで排水し終え、ほぼ水抜き作業が終了した旨を表明している。

     今まで湖水中の岩盤からの湧水の状況が明らかでなかったものが、この段階に至って初めて、ふじみ湖全体の湧水状況を現認できる上、その水質等を測定して地下水からのものかどうかを容易に明確にできることとなる。

   イ 現在水深約2メートルの湖水は、今後、ポンプで泥やヘドロと一緒に除去し、引き続き場内から掘削された土砂で埋め立てる作業が開始されることになっている。

     このまま工事が進行した場合には、本件処分場の危険性の立証にとって重要な証拠となる湧水に関する正確な事実を将来にわたって調査することが不可能となる。

     従って、本件検証を行わなければ、本案訴訟手続においてその証拠方法を利用することが不可能ないし困難な事情にあることは明らかである(甲13・坂巻幸雄意見書)。

     よって、本件証拠保全の申立を求める次第である。

第4 疎明方法

1 甲1の1ないし6  登記簿謄本

2 甲2        公図

3 甲3        本件処分場等の位置図

4 甲4        一般廃棄物処理施設設置許可申請書(最終処分場、抜粋)

5 甲5        産業廃棄物処理施設設置許可申請書(最終処分場、抜粋)

6 甲6        地下水・地質調査報告書

7 甲7        県のホームページ

8 甲8        航空写真(昭和62年5月)

9 甲9        仮処分申立書

10 甲10         意見書(河野昭一)

11 甲11      陳述書(木村義美)

12 甲12      公共処分場生活環境調査(地下水・地質調査)

           (補足説明資料・平成14年9月)

13 甲13      意見書(坂巻幸雄)

14 甲14           証拠保全データ解析・中間報告(坂巻幸雄、6枚)

15 甲15      新聞記事(平成15年1月18日付新いばらき新聞)

16 甲16      新聞記事(平成15年1月18日付茨城新聞)

17 甲17      ビデオテープ

            平成14年12月27日撮影 

            撮影者 水戸翔合同法律事務所職員 江尻大祐

 

第5 添付書類

1 甲号証各証         各1通

2 委任状           11通

3 資格証明書          1通