角力場 三越歌舞伎 2004.10.9 W90

6日、三越劇場で初日の三越歌舞伎を見てきました。

「双蝶々曲輪日記」のあらすじはこちらをご覧下さい。

昭和2年に作られた三越劇場は第二次世界大戦の被害を受けずに焼け残り、他の劇場が焼けてしまった戦後の混乱期に歌舞伎を上演し、歌舞伎復興に貢献しました。

昭和21年の第一回公演は中村吉右衛門一座の公演でした。当時の海老蔵(十一代目團十郎)、もしほ(勘三郎)などもこの劇場の舞台にたったそうです。しかし昭和25年に歌舞伎座、明治座が復興したのを機に、三越歌舞伎はいったん中止されます。

昭和51年に再び勘九郎や現在の三津五郎などの若手によって復活公演が行われましたが、この時も3回しか続かず、再び空白期間ができました。

そして平成4年、3度目の復活後今日にいたっているということで、前回からは三年ぶりです。

前回三越歌舞伎を見たときは一階の後ろの方に座ったので気がつかなかったのですが、今度二階席からだと天井の照明の凝ったステンドグラス、細かい象嵌細工、たくさんある扉のデコラティブな装飾など、作られた時代のレトロな雰囲気がそのまま残されているのがよく判ります。(客席数543)

今回は亀治郎、獅童、愛之助、亀寿、松也という若手人気役者たちで公演がおこなわれました。

「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」の「角力場(すもうば)」では、獅童の濡髪長五郎が相撲小屋の出口からヌッと現れるところが素晴らしく大きくて立派に見えました。痩せ型の獅童がどんなお相撲さんになるのかと思いましたが、堂々としていて、声も濡髪らしいどっしりとした低い声。

前半はほとんど動きがなく風格だけが勝負の濡髪を緊張感を失うことなく演じていました。獅童の顔はすると本当に役者らしい良い顔になると前から思っていましたが、とてもきりっとしていて目の利いた魅力的な顔でした。

今年は歌舞伎には一月に浅草に出て以来出ていないそうですが、そのためか亀治郎、亀寿、松也の声が安定しているのに比べると、若干声が定まらない感じでした。これからはもっと本来の歌舞伎役者として活躍して欲しい人だと思います。

与五郎と長吉の二役を演じた愛之助は、つっころばしの与五郎にぴったりの風貌。科白も義太夫をよく研究しているようで、ちょっとした仕草も秀太郎を思い出させる柔らかみがあるところが良かったです。長吉も懸命に演じていて好感が持てましたが、熱演のあまりこちらも声に少し無理が掛かっているようで、ちょっと心配になりました。

長五郎と長吉の二人が幕切れでする大見得は、二人とも立派で絵になっていました。

吾妻の亀治郎は連れの仲居たちが小顔なのに比べて、丸顔が目立ちますがさすがに遊女の雰囲気はあります。

この亀治郎、次の「白浪五人男」では弁天小僧菊之助を演じましたが、やはり娘の時はちょっと地味な感じ。しかし、見顕された後は目の覚めるようなあっと驚くほどの変化を見せ、大変面白かったです。

猿之助によく似た声と科白まわしが、心憎いほど間がよく上手いと感じさせました。亀治郎といえば女形と思っていましたが、そう決め付けるのはもったいないと思うほど、不良少年の弁天小僧を小気味よく演じてみせました。ただ赤い襦袢を肌脱ぎにして、すごんで見せるとき、下がりを気にして時々引っ張っていたのは止めたほうが良いのではと思います。

獅童の南郷は前半は良かったと思いましたが、後半になると少し地が出てしまうようです。初日のためか弁天が手拭で頬かむりする時、押し込むはずの赤い手絡を引っ張ってしまったり、尻っぱしょりしようとした弁天の襦袢の裾が落ちてしまったりして、上手くいかず手こずっていました。

浜松屋の最後で弁天と南郷は普通ですと花道を引き上げます。しかし三越劇場の花道は公文協歌舞伎より少し長い程度でとても短く、しかも反対側からやってきた按摩と三人ですれ違うほどの幅もないためか、引っ込む時に下手の客席の通路を通りましたが、これに客席は大喜び。

ところでこの劇場の揚幕は舞台に平行にではなく、斜めの花道に直角に出るように、つまり揚幕から出て来た役者がすぐ直角に曲がらないといけないという珍しい構造になっています。

稲瀬川の場でも狭い花道で傘がぶつかったりする不便さを忍びながらの渡りゼリフでしたが、かえってそれが新鮮で楽しかったです。今回初めて花道の渡り科白が終った後、リレーのように五人が次々とうなずいてから本舞台に行くことに気がつきました。

傘の模様は花道ではちゃんと上手から「志ら浪志ら」と揃っていてよかったのですが、本舞台では一人持ちかえるのを忘れてしまっていました。

勢ぞろいの場では弁天の亀治郎と赤星十三の松也が良かったです。赤星の松也はこの難しい科白をなかなか魅力的に聞かせてくれました。亀寿の忠信利平も男性的な顔の骨格なので、傾城をやっているよりずっと似合っていると思います。

駄右衛門の愛之助はやはり声に少し無理を感じるのが気になりますが、若い役者さんが年配の役をやるという違和感は思ったほどはありませんでした。

この日の大向こう

初日とあって、大向こうの会の方が4〜5人見えていたようで、弥生会の会長もいらしてました。一般の方も掛けられてにぎやかでした。

三越劇場の二階は天井が迫っているせいか、舞台の声はよく聞こえるのですが、大向こうの声はあまり響かないようです。

弁天小僧の名科白では「しらざぁ言って”おもだかや”聞かせやしょう」”まってました”という具合に入っていました。南郷力丸には「待った、待った」と言って中央で手を広げて皆が弁天を殴るのを止める時”よろずや”と言う時が一番たくさん声が掛かったように思います。

三越歌舞伎の筋書きには名題役者さん以上には全部屋号が書いてあって、これは親切だと思いました。一般の方からも声が掛かるようにとの配慮かもしれません。

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