女殺油地獄 一世一代の与兵衛 2009.6.14 W244

6日と12日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
河内屋与兵衛 仁左衛門
父・徳兵衛 歌六
母・おさわ
芸者・小菊
秀太郎
妹・おかち 梅枝
兄・太兵衛 友右衛門
叔父・森右衛門 彌十郎
豊嶋屋七左衛門 梅玉
女房・お吉 孝太郎
娘・お光 千之助
小栗八弥 新悟

「女殺油地獄」のあらすじはこちらです。

一昨年大阪で、怪我で休演した海老蔵の代役という形で思いがけず見ることができた仁左衛門の与兵衛を、歌舞伎座さよなら公演で一世一代として再び見ることができたのは幸運でした。

徳安堤の場で不良仲間の後から花道を出てくる仁左衛門の与兵衛は、すっきりとした姿の美しさ、張りのある高い声で23歳という与兵衛の年齢とのギャップを少しも感じさせません。

刻々と変わっていく与兵衛の心理が細やかに表現されているうえに、殺しの場や殺してしまったあとの場面などの動きが三味線と見事に一体化していて、義太夫狂言としての格を保ちつつ、その面白さを出しているところがさすがだと思いました。

与兵衛の思いきり突きだす刀の勢いが、ちょっとあやまれば危険なほど迫力にみちていたのも、油と血まみれのすさまじいこの場面が、練りに練られているからできることでしょう。お吉の孝太郎との呼吸は素晴らしくよく合っていました。孝太郎はもう少し柔らかみがあれば良いのにと感じるものの、父仁左衛門が演じる与兵衛より確かに年上に見えました。

お吉の娘・お光の千之助は茶屋の中の母と与兵衛の様子を覗いて父親に報告するところや、櫛の歯が折れる件をまじめに演じていました。孝太郎が筋書きのインタビューに「千之助に最後の与兵衛を見せておきたいという父の思いを感じます」と答えていますが、さもあらんと思います。

父親徳兵衛を演じた歌六はいかにも番頭から女主人の夫となり遠慮しながら暮らしている人という感じが出ていました。ただ豊嶋屋を訪ねた場面で、竹本の語りに合わせて煙管を吸ってせき込むところだけは、間に合わせるためあわてているという風に見えてしまいました。

秀太郎はこれでこのお芝居の主な女形全てを演じることになるという芸者・小菊と、母親・おさわの二役を演じました。ことにおさわの、この芝居を隅々まで知り尽くした人らしいきっぱりとした台詞に拍手が沸き起こっていました。

妹おかちの梅枝も、兄が更生するためだと言い聞かされ恐ろしい死霊のまねをしたのにというところにおかちの真心が感じられました。白稲荷法印の橘三郎はひょうきんな軽さが似合っていました。豊嶋屋の前で与兵衛を呼び止め借金の催促をして結果的に殺人をおかすまで与兵衛を追い詰める綿屋小兵衛の松之助がいかにもそれらしく自然でよかったです。

豊嶋屋七左衛門の梅玉は律儀で働き者の商人。小栗八弥の新悟も青年らしい涼やかさが印象に残りました。それからこれまでは気がつかなかったのですが、五月の節句に魔よけのために軒にさすという軒菖蒲が、与兵衛が豊嶋屋から走り出てくるときの衝撃で、軒から転げ落ちたのを見ました。

仁左衛門一世一代の「女殺油地獄」はチームワークもよく、最初から終わりまで目が離せない見ごたえのある舞台でした。

昼の部の最初は「正札附根元草摺」(しょうふだつきこんげんくさずり)。五郎を松緑、舞鶴を魁春が踊りました。若々しく勢いのある松緑の五郎に対して魁春の舞鶴が落ちついた姉さん女房のようで、バランスが良かったです。

次が幸四郎の濡髪、吉右衛門の放駒長吉で「双蝶々曲輪日記」より「角力場」。吉右衛門の長吉は昭和40年以来ということですが、長吉の若者らしい素直さがよく出ていたと思います。しかしなんといっても柄が大きく存在感も十分なので、濡髪の方が圧倒的に大きく強く見えるはずなのに、そういう風には見えませんでした。吉右衛門にはやはり濡髪がニンにあっていると思います。

濡髪の幸四郎はどっしりとした風格はありますが、どことなく暗さがただよっているため敵役に見えてしまいます。この場の濡髪はお主のために八百長相撲をしたとはいえ、まだ人を殺したわけでもなく鬱屈がありすぎるのには違和感を覚えました。

与五郎の恋人、遊女・吾妻の芝雀は短い出ながら爽やかな色気を感じさせました。おつきの仲居たち、吉之丞、歌江が得難い味をかもしだしていました。与五郎の染五郎はなよなよしたつっころばしが意外によく似合っていました。

次が福助の小槇に梅玉の助国で「けいせい倭荘子」(けいせいやまとそうじ)から武智鉄二構成演出の舞踊「蝶の道行」。お主のために身替わりとして首を差し出した二人なのに、死んで蝶になってからも炎に焼かれもだえ苦しんで息絶える?というのは、あまりにも理不尽でかわいそうに思えるストーリーです。

真っ暗な舞台に輪郭が骸骨ように蛍光色に光る大きな二匹の蝶がふわふわと飛び交う幻想的な導入部から、大きな牡丹の花が咲きほこる花園に死んで蝶となった二人が黒の衣装で現れて踊り、さらに引き抜いてオレンジ色とブルーの縞柄に華やかな模様の入った派手な衣装となり、最後は蝶の衣装になって踊り狂う大変ドラマチックな舞踊です。助国の梅玉が最初から最後まで憂い顔なのに対して、小槇の福助がずっとほほ笑みを浮かべているのがいまひとつ合わないように感じました。

この日の大向こう

6日は週末だったので「草摺引」からすでに6~7人くらいの大向こうさんの声が威勢よくかかっていました。「蝶の道行」ではほとんど声がかからず、「油地獄」はどうなるのかしらと思ったら、再びたくさんの声がほどよくかかっていました。

いよいよ豊嶋屋の場になって、仁左衛門さんの与兵衛が揚げ幕を開ける音もさせずに暗い花道にさまよい出てきた時、どなたからも声がかからなかったのは、そうあってしかるべきでほっとしました。この場はほとんど声がかからず松之助さんが引っ込んだ時にかすかに「緑屋」と聞こえたくらい。

殺しの場は鬼気迫る舞台の迫力に圧倒されどなたも無言。お吉が後ろ向きに海老ぞりになり与兵衛がまさにとどめをさそうと脇差を大上段にふりかざしたところで、初めてたくさんの声がかかりました。そして与兵衛が花道に走りでてきて七三で倒れ、頭をきっとあげて揚げ幕を見るところ、ここにはそれまでだまっていた方たちも惜しみなく声を掛けられたようでした。

12日は序幕から数人の方が声をかけられ、会の方は3人いらしてました。「蝶の道行」で「御両人」と声がかかり、「油地獄」では最後の引っ込みに「大当たり!」とどなたか声をかけておられました。

六月歌舞伎座昼の部演目メモ
「正札附根元草摺」―松緑、魁春
「角力場」―幸四郎、吉右衛門、染五郎、芝雀、吉之丞、歌江、宗之助
「蝶の道行」―福助、梅玉
「女殺油地獄」―仁左衛門、孝太郎、千之助、梅玉、歌六、秀太郎、梅枝

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