義経千本桜 海老蔵の狐忠信 2007.7.23 W220

11日と22日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
狐忠信 海老蔵
静御前 玉三郎(吉野山・
川連法眼館)
春猿(鳥居前)
弁慶 権十郎
早見藤太 市蔵
義経 段治郎(鳥居前)
門之助(川連法眼館)
川連法眼 寿猿
妻・飛鳥 吉弥

「義経千本桜」―「鳥居前」「吉野山」「川連法眼館(あらすじは演目をクリックしてご覧ください)

いつもより開演時間が30分おそい今月の昼の部でしたが、海老蔵玉三郎の共演とあって大変な人気でチケットは早々と完売。11日は東側の席で観たため「吉野山」では見えないところがあったので、22日の朝ネットで一瞬戻ってきた正面席のチケットを捕えてもう一度観てきました。(^^ゞこういうことができるのがWEB販売の良いところです。

今回の「義経千本桜」は狐忠信が主役として登場する「鳥居前」「吉野山」「四の切」いわば「忠信篇」で、海老蔵がすべての場で忠信を演じました。特に「鳥居前」の忠信は初役、海老蔵に似合う荒事なので楽しみにしていました。

その「鳥居前」の忠信は、海老蔵にしては珍しく隈取が今一で、音羽屋の火炎隈ともちょっと違った感じでしたが、顔全体のバランスからいっても下膨れに見えて損だと思いました。菱皮の鬘に、紅隈、力襷に衣装が四天で膝から下がむきだしという、上に重心がある拵えのためか、腰が少し高く感じられました。

けれども気合が入った勢いのある忠信で、気が飛んでくるというより近寄ると巻き込まれてしまう竜巻のようでした。やめようとしてもつい狐手になって本性を出してしまう狐六方の引っ込みを海老蔵は楽しく見せてくれました。

義経の段治郎は声を抑えすぎているのが惜しかったですが、すっきりとした憂愁の色が濃い御大将。春猿の静御前は義経の愛妾らしい雰囲気はありましたが地声の混ぜ具合の極端なのがどうしても気になります。弁慶の権十郎は荒事の漫画チックでおおらかなところが合っていたと思います。

「吉野山」はいつもの清元と違い竹本による上演。竹本は愛太夫、幹太夫など若手の太夫さんたちでした。「鳥居前」で静御前が花道から出てくるので、重ならないようにするためか、前面の桜が左右に別れるとすでに静御前が上手の坂の上にたたずんでいて、中央に進みでてくる演出です。

下手の奥には川が流れていて吉野川のような滝車でキラキラ輝く早い流れが表現されており、一面桜の背景がとてもあでやかで美しい舞台でした。壇ノ浦の戦いの仕方噺のところは同じで、忠信が肩越しに投げる扇を静御前がキャッチするという文楽で見るような型が見事にきまっていました。

静の打つ鼓にひきよせられるように本舞台に背を向けるようにすっぽんから登場する忠信は車鬢で、それに合わせて静が手に持ってでる笠は約束通り黒塗りの笠。玉三郎の静御前は出てくるところから美しく堂々としていて、忠信の主人だとはっきりわかる品格がありました。

再び出発しようという時、桜の木の後ろへつと隠れた忠信と入れ替わりに文楽のような狐の人形が出てきて静の身じたくを手伝うのが変わっていて面白く感じました。(人形遣いは弘太郎)鳥居前に出てしまった早見藤太は登場せず、二人が絵面で終わるすっきりとした「吉野山」でした。

「川連法眼館」は海老蔵が猿之助に教えを仰いだ澤瀉屋型。前回に比べて前半の忠信がずっと良くなっていると思いました。澤瀉屋では「本当の忠信」は病み上がりということを大事にするそうで、前回は顔色が極端にバター色で唇にも血の気がないような化粧でしたが、今回はそういうことはなく、義経の身を気遣う颯爽とした美男の忠信でした。

源九郎狐になってからは、長く伸ばすセリフまわしに自分なりの工夫をしたあとがみえたものの、長く伸ばしただけで、狐言葉の特徴である語尾を早口でつめることをまったくしないのでは成功しているとは言えず、一度原点に戻って考えた方が良いのではないかと思いました。子狐の純粋な気持ちは伝わってくるのですから、これから何度も演じていくうちに良くなってくるだろうと期待しています。竹本は前半愛太夫、後半の出語りは葵太夫。

海老蔵は数々のケレンを小気味良いほど軽々とこなし、その面での澤瀉屋型の魅力は十二分に生かされていたと思います。最後の宙乗りは空中で体をまっすぐにのばして身体の大きさを見せてしまうのは避けた方が良いのではと思いましたが、いかにも嬉しそうで微笑ましい狐忠信でした。

22日に見た時には、この宙乗りは手足の動きが格段に良く自然になっていてほとんど完璧でしたが、あまりにも激しい動きはワイヤーが外れはしないかと心配になるほどでした。

「四の切」の静御前も玉三郎が演じましたが、存在感と求心力があり前半は静御前を中心に話が進行しているようにさえ感じる風格のある静御前でした。この場の義経は門之助でしたが、この風格ある静御前に対して位負けせずに立派に演じていました。

この日の大向こう

11日は一般の方が数人と会の方がお一人声を掛けていらっしゃいましたが、なぜかあまり盛り上がらず、見得でも声がばらけていたのが印象に残りましたが、そのバラバラな中で大向こうさんの声がきまるべきところにちゃんと聞こえたのには、安心しました。

22日は歌舞伎チャンネルの録画をとっていましたが、大向こうさんがどなたもいらしてなかったためか、一般の方も遠慮がち。「四の切」で本物の忠信が引っ込む時に最初のツケでお一人掛けられましたが、ちょっと早かったなぁと思いました。最後の源九郎狐の宙乗りでは二三人の方が良い感じの声を掛けていらっしゃいました。

8月歌舞伎座昼の部演目メモ

「義経千本桜」
「鳥居前」 海老蔵、春猿、段治郎、権十郎、市蔵

「道行初音旅」 海老蔵、玉三郎
「川連法眼館」 海老蔵、玉三郎、寿猿、吉弥、猿弥、薪車

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