「青砥稿花紅彩画」 菊五郎の弁天小僧 2008.5.8 W215

初日2日に歌舞伎座夜の部を観てきました。

主な配役
弁天小僧菊之助 菊五郎
赤星十三郎 時蔵
南郷力丸 左團次
忠信利平 三津五郎
日本駄右衛門 團十郎
千寿姫 梅枝
田之助
浜松屋幸兵衛 東蔵
倅・宗之助 海老蔵
薩摩典蔵 團蔵
青砥左衛門藤綱 富十郎

「青砥稿紅花彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)のあらすじはこちらです。

いつもは「浜松屋」と「稲瀬川勢揃い」だけの上演が多いこの狂言ですが、通しで見ると面白さがさらに増します。

「初瀬寺花見の場」は「新薄雪物語」の発端にそっくりで、有名な先行作品を借りてくる歌舞伎の作劇のユニークさをつくづく感じました。

菊五郎が65歳で演じる27回目の弁天小僧。まず感じたのは菊五郎の声が若々しく、弁天小僧の甘さに似合っているということで、さすが音羽屋のお家芸。たっぷりやっても決してくどくならないのは、当代の持ち味なのかと思います。そのためか菊五郎が演じると神輿ガ嶽の場の弁天小僧もあまり悪人に見えません。

浜松屋で正体を現して赤い襦袢で煙管を手にあぐらをかく姿は美しく華がありました。厄払いの台詞もわりにテンポが遅めで「弁天小僧菊之助た〜、俺がことだ」と片肌脱ぎになるところなどもゆったりとやっていました。

5年前の前回は襦袢の前をバタバタと広げていた菊五郎も、今回は控えめに、あっさりと演じていました。ちょっと気になったのは花道を南郷と引っ込む際、押し付けあう荷物がずっしりと重いという感じがあまりしなかったこと。

三津五郎の忠信利平は重みがあり、見どりだと影の薄い利平ですが、存在感がありました。時蔵の赤星十三郎は勢揃いの台詞を朗々と華麗に聞かせ、千寿姫の梅枝も声にも姿にも品があってとても良かったです。(あらすじにある赤星の叔父が出てくる場面は省略されていました。)

團十郎の駄右衛門は目が生き生きと強く効いていて魅力的。はまり役の鬼門の喜兵衛を思い出しましたが、勢揃いの場の台詞が、妙に急ぎ気味だったのは惜しかったです。

宗之助を演じた海老蔵は、だれよりも深く頭を下げていたのは良かったですが、弁天の正体が暴かれる件になると視線に落ち着きがないのが気になりました。弁天小僧も演じる海老蔵ですから、菊五郎がどのように演じるか参考にしようと思ったのかもしれませんが、宗之助はあくまで脇役、つつましく目を伏せているのが本当ではないかと思いました。

浜松屋の番頭・与九郎(橘太郎)が使いこみがばれないうちに逃げようとするのを止めに、丁稚の子役が二人出てきて、与九郎とオリンピックネタの野球やサッカー、卓球の福原などを実演。ところでこの丁稚が番頭を止める台詞「そこ、うご〜くな〜」と後ろ足に重心をかけ両手両足を開いてきまりますが、同じ黙阿弥の「髪結新三」で新三を迎えにきた小僧が同じ台詞と同じしぐさをするのは、もしかしたらこれが元なのかと思いました。

序幕にちょっとだけ登場した柵の田之助、悪者・典蔵の團蔵、浜松屋の場の幸兵衛の東蔵が、きっちりと舞台をひき締めていました。狼の悪次郎の菊十郎は特徴のある声が似合っていました。

勢揃いの場の傘は花道ではきちんと舞台に近いほうから「志ら浪志ら」となっていました。舞台へ行くと順番が変わるのに左團次一人直すのを忘れてしまっていましたが、左團次の南郷は漁師で菊之助の兄貴分という南郷の荒っぽさと面倒見の良さをよくだしていました。

極楽寺の屋根の上での弁天小僧と捕り手の立廻りは、スピードがあり手に汗にぎる技の連続でした。捕り手の持つ棒を平行棒のように使って中の一人が宙返りをしようとしたとき、いきなり片方が折れたのにはハッとさせられましたが、無事でなによりでした。青砥藤綱の富十郎が最後を格調高く締めくくっていました。

夜の部はもう一つ松緑の短い舞踊「三升猿曲舞」(しかくばしらさるのくせまい)がありました。「しかくばしら」というのは狂言の「靭猿」(うつぼざる)の詞章から、三升とあるのは七代目團十郎が初演したのに因み、猿は主役・此下兵吉(木下藤吉郎)からつけられた名題ということです。繻子奴姿は松緑によくうつって、軽快に踊っていました。

この日の大向こう

会の方は初日にしては少なく4〜5人ということでしたが、非常に良く知られた狂言なので一般の方がたくさん声を掛けていらっしゃいました。

弁天小僧が「騙りめ、返事はなな、何と!」と玉島逸当に問い詰められガバッとつっぷしているところに「どうしましょう!」という声が聞こえてギクッとしました。間は絶妙で笑い声がさざなみのようにわき起こりましたが、あそこは緊張を要する大事な場面だけにやはり何もないほうが良かったのではと思います。

「勢揃いの場」では一人ひとりの台詞の途中で、次々と尻あがりな声を掛ける方があり、これもせっかくの美しい台詞の妨げになったように感じました。

「初瀬寺花見の場」で三津五郎さんの忠信利平と左團次さんの奴駒平・実は南郷力丸のにらみ合う場面で、二人揃ってのツケ入りの見得の直前にあごを引いてきまった時、すかさず「御両人」と声が掛かりましたが、見得になるとどっと声が掛かり聞こえなくなるので、なかなか上手いタイミングで掛けられたなと思いました。

「勢揃いの場」で團十郎さんが登場する直前「大成田」という声が聞こえました。

歌舞伎座夜の部演目メモ
通し狂言「青砥稿花紅彩画」
菊五郎、三津五郎、時蔵、左團次、團十郎、團蔵、田之助、東蔵、海老蔵、梅枝

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