「鮓屋」 愛之助の権太 2007.1.7

5日、浅草公会堂で「新春浅草歌舞伎」午前の部と午後の部を通して見てきました。

主な配役
いがみの権太 愛之助
お里 芝のぶ
梶原平三景時 獅童
弥助実は維盛 七之助
若葉の内侍 亀鶴
鮓屋弥左衛門 男女蔵
お米 嶋之丞

「鮓屋」のあらすじはこちらです。

今年の新春浅草歌舞伎はいつものように一つの演目をダブルキャストで上演するのではなく、午前の部が義経千本桜の「鮓屋」と「身替座禅」、午後の部が同じく千本桜から「渡海屋・大物浦」と「身替座禅」で、身替座禅の玉の井と太郎冠者だけがダブルキャストという形で上演されました。

ダブルキャストの場合、双方が全力で競いあう面白さがある反面、若い役者さんが必要以上にがんばりすぎて声をいためたり、感情過多になりすぎて見ているほうががっくり疲れてしまうというマイナス面もあったと思います。もっとも「封印切」のように仁左衛門型に鴈治郎型と型の違いで見せた時などは非常に面白く感じられました。

今回はそういう競争がなかったためか、皆がのびのびと演じていて見ていても楽しく、午前と午後通して見ても疲れませんでした。「鮓屋」も「渡海屋・大物浦」も悲劇ですが、どちらも後味よく見られ、「身替座禅」で楽しく追い出してくれて、良い演目立てだったと思います。

仁左衛門の指導を受けたという愛之助初役の権太は、出てきた時から太くてどすの効いた声が権太に似合っています。愛之助は高い声から低い声まで持っていますが、低い声の方が良いと思います。

権太はしゃべりまくる役なので、愛之助の少しもったりとしたねばりけのある口跡が権太に向くかどうかと思っていたのですが、とても魅力のある権太でした。ごろつきのように妹お里や弥助にからむ権太ですが、腰には息子善太の赤に青の巾着がぶら下がっていて、仁左衛門型の権太はどんなに悪がってみせても、この巾着の存在が常に権太の性根が善であることを表しているように思えます。

しかし母親に甘えかかる場面で舌をのばして頬をぬらそうとするところなどは、もっと思い切ってやったほうが良いように思いました。弥左衛門に腹を刺されてからの、権太のモドリはだれがやっても難しいところだと思いますが、愛之助は親孝行したいばっかりに血を吐く思いで妻や子を犠牲にした顛末をせつせつと聞かせ、退屈させませんでした。既に見えなくなった目で必死に善太の巾着を見ようとし、最後にその巾着に頬ずりして死んでいく権太は本当に哀れに思えました。(蛇足ながらいつも歌舞伎の筋書きに使われている愛之助の写真より、今回の筋書きの写真の方がずっと良いので、とり変えたらどうかと思います。)

全体にテンポよく進んだのは、出演者全員の努力の成果でしょうか。弥助を演じた七之助は重い鮓桶でふらつきながらの花道の出は今一歩でしたが、維盛に「たちまち変わるおん装い」ところはきりっとしていて、なによりも今回声が朗々と響いていると感じました。お里を演じた芝のぶは可憐でしたが「お月さんも、もう寝やしゃんしたわいな」などは、もっと堂々と聞かせて欲しかったです。

梶原の獅童は、昨年より声がどっしりと安定していて、存在感がありました。弥左衛門の男女蔵はなんといっても老け役には若すぎて気の毒でした。

「身替座禅」の勘太郎の右京は、「会いたい、会いたい」というところなどは控えめすぎるようでしたが、太郎冠者に化けた奥方・玉の井に浮気の一部始終を打ち明けてしまうところは、思いっきり身体を使ってユーモアたっぷりに踊り、あちこちでお父さんそっくり!と感じさせました。身体の向きを変えながら右京と花子の両方を演じ分けるところは若干はっきりしていなかったようです。

獅童の玉の井は声が男になってしまうところはあるもののさまになっていました。太郎冠者の七之助は、多少声が高すぎると思いましたが、勘三郎の舞台を見てきて身体にしみこんだものが自然と顕れているようでした。

午後の部の「渡海屋・大物浦」は、花道から出てきた銀平はあつしではなく白と茶色の綱の模様の着物で肩に碇を担いでいました。七之助の典侍の局に落ち着きと品格が感じられたのには感心しました。

そういえば浅草公会堂には廻り舞台がないようで、全部幕を使って場の転換が行われ、そのせいでかなり時間がかかったのは残念なことでした。

亀鶴と愛之助が演じた相模五郎と入江丹蔵の魚づくしの件が場をひき締め、後で御注進で出てきた時も鮮やかな印象を残しました。勘太郎の義経はだれもがこの人物のためには命を惜しまないだろうと思わせる雰囲気がありました。。

手負いになった知盛の述懐は、リズム感にとぼしかったですが、身体に縄をまきつけ入水する場面で天皇の方へ二三歩思わず歩みよろうとして、碇の重みに引き戻されるところがとてもリアルで、最後に後ろ向きに思い切って飛んだところも足の裏がはっきりと見え、荘重で立派な最期だったと思います。こちらも初役の知盛、回を重ねられれば、きっと良いものになっていくのではと感じました。

午後の部の「身替座禅」は玉の井を愛之助、太郎冠者を亀鶴が品よく演じました。新春歌舞伎恒例、お年玉のご挨拶は、午前の部を獅童、午後の部を愛之助が勤め、愛之助は客席に降りてお客さんの質問を受けるというサービスぶりでした。

この日の大向こう

午前の部にはあまり声がかからず、おふたりほど女性ががんばって声を掛けていらっしゃいました。権太が首のはいった桶を手に花道を引っ込む時のそくに立った見得には、私も声を掛けました。

「身替座禅」で、右京が花子のところへ行く花道の引っ込みに「お楽しみ!」という女性の声が掛かったのにはちょっと驚きました。(^^ゞ

午後の部には大向こうさんがお一人みえて、一般の男性の方も二三人声をかけておられました。

新春浅草歌舞伎の演目メモ
午前の部
●「鮓屋」 愛之助、七之助、芝のぶ、男女蔵、嶋之丞、亀鶴、獅童、
●「身替座禅」 勘太郎、獅童、七之助
午後の部
●「渡海屋・大物浦」  獅童、七之助、勘太郎、男女蔵、亀鶴
●「身替座禅」 勘太郎、愛之助、亀鶴、

壁紙:まさん房
ライン:
「和風素材&歌舞伎It's just so so」