『 ことだま ( 言霊 ) ― (1) ― 』
その人は < にほんじん > だ、と言った。
そして −
「 日本の食事が食べたいなあ 」 とも言ったのだ。
その一言は 彼女のココロに深く響いた。
そう なんだ ・・・
うん それなら !
ある日 フランソワーズはギルモア博士の書斎をノックした こそっと。
「 ? 開いておるよ〜 」
「 はい 失礼します ・・・ 」
「 ? どうした なにかあったのかね? 」
「 あの ・・・ お願いがあるのですが 博士 」
「 なにかね? ああ キッチンを改築したいかの 」
「 いいえ いいえ 今のキッチン、大好きです。
そうじゃなくて ・・・ あのう〜 」
「 どうしたね 遠慮せずにいいなさい。 」
「 はい あのう・・・ 学費を拝借したいのですが ・・・ 」
「 学費? ああ ああ 借りる なんて言うんじゃないよ
いくらでも出す。 ・・・で なにをしたいのかな 」
「 あのう ・・・ お料理教室に通いたいのです 」
料理・・・? あ ああ!
な〜るほど ・・・ うむ うむ
珍しく赤くなってもじもじしている彼女に
ギルモア博士は ぴん と来た。
無駄に齢を重ねている訳ではないのだ〜〜〜。
「 料理教室?? ああ それはいいなあ〜〜 嫁入り修業に一番じゃ 」
「 よめいり?? 」
「 ・・・と この国ではよく言っておったのだと。
コズミ君に聞いたのだがね。 そうそう それに・・・
フランソワーズ? 腕のいい料理人は一生安泰というぞ 」
「 ??? 」
「 ふふふ・・・ まあ 頑張りたまえ。 費用の心配はナシ じゃ。
これからも な。 ああ アイツは果報者じゃなあ 」
「 え?! あ アイツって そのう〜〜 」
ますます彼女の頬が赤くなる。
「 いやいや なに ・・・ま しっかりおやり。 」
「 ・・・ あ ありがとうございます ・・・ 」
ぽんぽん・・・と 肩をたたかれ 必要以上の費用を振り込んでもらうことになり
フランソワーズは いささかキツネに抓まれたみたいな気分だった。
・・・ 003であっても 実態はまだまだ経験の浅い19歳なのである。
― そして 月日は廻る ・・・
「 いってきます。 」
「 うむ 気をつけて行っておいで 」
「 はい 」
フランソワーズは にっこり笑顔を残すと静かに玄関を出ていった。
「 〜〜〜 わ〜〜 フラン 〜〜〜 」
ダダダダ −−−−− !!
おそらく家の門が閉まったであろう頃 二階から階段をジョーが
転がり下りてきた。
「 は は 博士〜〜〜 フランは ・・・ 」
「 おう おはよう ジョー。 ・・・ かなりいい時間だと思うが? 」
「 え あ そ そうですねえ〜〜 走ってもヤバいか ・・・
いえ それよりも フランは?? 」
「 ああ さっき出かけたよ。 」
「 あ レッスンですか 」
「 いや 今朝は 料理学校。 今日から専科に進むので
始まる時間が早いんだと
」
「 へ え ・・・ すごいなあ〜〜〜 さすがフラン〜〜 」
ジョーは 玄関に佇み ひとり感心している。
「 ジョー。 」
「 はい? 」
「 時間。 いいのか? 遅刻するぞ 」
博士は だまって壁に収まっている大きな柱時計を指した。
「 え? あ あ〜〜〜〜〜〜〜 やば〜〜〜〜〜
は 博士〜〜〜 いってきます〜〜〜 」
彼はそのまま玄関のタタキに降りて スニーカーに足をつっこみ・・・
「 おい? お前、 顔 洗ったのか?? 」
「 え っと 昨夜 洗いましたあ〜〜 じゃ 」
「 ちょ・・・ 財布は? 持ったか 」
「 あ す すまほ ・・・ああ あります、 いってきます〜〜〜 」
バン。 バタバタバタ 〜〜〜〜
大きな音で玄関ドアが跳ね 賑やかな足音が遠ざかって行った。
「 ― やれやれ ・・・ あれが 009 かのう ・・・
言いたくはないが ・・・ BGのやるコトは本当に・・・ 」
博士はため息をつきつつ 玄関マットを直し ついでに
玄関のタタキを掃除した。
「 さて ・・・ 盆栽の手入れでもするかな 」
この岬の洋館には 三人が生活を共にしている。 ( 日本人は一人だけ。)
ご当主であるギルモア博士は当然だが そこに二人の若者が
常住しているのだ。
「 わたしも 一緒に住まわせてください。 」
博士がこの邸を本拠地と決めた時、彼女はすぐに申し出た。
― 彼女 ・・・ 紅一点の フランソワ―ズ。
「 故郷には戻らんのかい 」
「 はい。 わたし、ここで暮らしたいのです。 」
「 ・・・ ありがとう、宜しくな。 」
「 わたしこそ 」
博士とフランソワーズは しっかりと握手をした。
「 あ あのぅ〜〜 ぼくも いいですか? 」
一番最後に仲間入りした彼が おずおずと口を開いた。
― 彼 ・・・ 最新最強 なはずの ジョー。
「 え。 ここは君の祖国ではないか。 故郷に戻っていいのだよ 」
「 故郷 ― ぼく どこにも帰るところがないんです。
ここに 置いてください 」
「 一緒に住んでくれるのか ありがとうよ 」
「 博士〜〜 」
博士とジョーは しっかりと握手をし ジョーはぺこり、とアタマをさげた。
そんなワケで 三人はごく自然に < 家族 > として
生活を始めたのだった。
・・・ ごく普通の 平凡は日々が穏やかに 巡ってゆく ・・・
「 ただいま〜〜〜 買い物 いってきました〜 」
「 ただいま 戻りました。 ジョー この袋、冷蔵庫にお願い 」
玄関が賑わい ワカモノ達が帰宅した。
「 おお お帰り〜〜 ご苦労さんじゃったの〜〜
今 イワンからメールが届いてな 」
「 まあ イワンから? 元気ですの? 」
「 わ〜〜 メール? 自分の指で ・・? 」
「 あら 念じればなんでもできるんじゃない? 」
「 あ そうだね〜〜 すっげ〜な〜 」
「 さあさあ 二人とも読んでやっておくれ 」
「「 は〜い 」」
あ! まず 冷蔵庫だ〜〜 と ジョーはキッチンに駆けてゆく。
「 博士 イワン、元気ですか? 」
「 おお 元気にやっておるようじゃよ。 ほれ 読んでごらん 」
「 あ ・・・ ジョー〜〜〜〜 たまご はいってるのよ〜〜
気をつけて〜 」
フランソワーズが キッチンに向かって声をかける。
「 わ〜かってるぅ〜〜〜 」
― やがて
チリン チリン −−− カチャ ・・・
涼し気な音が聞こえてきた。
「 えへ・・・ 麦茶 どうですか〜〜
ね これ フランがちゃんと煮だしてくれたヤツだよね 」
「 あ そうなのよ。 お味、どうかしら? 」
「 皆で味わおうよ。 ど〜〜ぞ 」
皆の前に 露を結んだグラスがみっつ 並ぶ。
「 まあ ありがとう〜 」
「 おお これは美味しそうじゃな。 ジョーよ ありがとうな 」
「 さあさ 飲もうよ〜〜 」
チリン。 なんとなしに三人でグラスを合わせ美味しく頂いた。
「 ・・・ おいしい〜〜〜 なんかいい香ね? 」
「 うむ うむ ・・・ これは麦の香じゃな 」
「 そっか〜〜 これが麦の匂いなんだ ・・・ ふ〜〜ん
ん〜〜〜 なんかさ うす〜〜いアメリカン・コーヒーみたいだね?
なんか ・・・ ペットボトルの麦茶とはちがう種類なのかな〜 」
「 よい香じゃのう ・・・ 香ばしい 」
「 こうばしい・・? というのですか こういう味・・・ 」
「 そうこの国では表現するようじゃな 言葉の豊かな国よのう 」
「 そうですねえ こうばしい・・・ ああ いい味 」
「 フラン〜〜 美味しいよう〜〜 ありがとう !
」
「 え ・・・ 」
「 だって これ、つくって冷やしておいてくれたんだろ 」
「 ・・・ わたし、袋に書いてある通りにやっただけ ・・・ 」
「 うん でもさ ・・・ 美味しい♪ 」
「 ええ 美味しい♪ あ イワンのメール〜〜
」
「 あ そうだった〜〜 博士 〜〜? 」
「 おお そうじゃな ほれ ・・・ これじゃ 」
博士がモニターをクリックすると
― 皆 元気カイ? 僕トじぇろにも 元気ダヨ〜
画面から可愛い声が流れてきた。
「 うわ〜お 音声メールかあ 」
「 うふふ ・・・ イワンの声 久し振り〜 元気そうね 」
「 ウン 」
二人はモニターの前で耳を澄ます。
イワンのメールは 本当に他愛のない内容で ― 要するに
ジェロニモ Jr. と 充実した日々を送っている、ということだった。
邪魔スル人達モ イナイシネ〜〜 と 可愛い憎まれ口もつけたしてあった。
「 あは ・・・ なんか イワンらしい ね 」
「 そう ねえ〜 お世辞でもいいから淋しいよ、なんて
一言付け加えてくれたらいいのに 」
「 そ〜ゆ〜のって 彼のキャラじゃないじゃん? 」
「 そうねえ そうかも ・・・ 」
「 ふふふ 必要なコトはちゃんと文字のメールで届いておるよ。
ドルフィン号のニュー・バージョン が固まってきた 」
「 え すご・・・・ 」
「 やっぱりスーパー・ベビーは違うんだね 」
「 そうだけど ・・・ 」
「 なんかさ 充実した日々でウラヤマシイなあ 」
「 イワンにとって 思考することが楽しみ、娯楽 なのね 」
「 すっげ〜な〜〜〜 001だなあ〜 」
「 うふふ ・・・ ジェロニモJr.もだけど ・・・
他のメンバーも皆 元気で暮らしているし 」
「 そう だねえ 〜
あ フラン〜 料理学校、専科なんだって? 」
「 うふふ そうなの〜〜〜 やっと基礎科が終わったの。
ねえ ジョー。 お料理ってほっんと奥が深いのねえ
わたし ずっと日本料理科なんだけど 」
「 うわ ・・・ すご ・・・
え〜〜 フランって 料理とかそっちの方面にも興味があるんだ? 」
「 え あ ・・・ ううん 興味っていうか ・・・
あの ・・・ そのう えっと・・・ 」
「 ??? 」
「 あ そう! せっかく日本に住んでいるだから
日本のお料理とか 知りたいな〜〜って ・・・ 」
「 すっげ ・・・ ぼくなんかず〜〜っと日本人なんだけど
全然わかんないもんなあ 」
「 あ・・・ わしょく とか キライ? 」
「 キライかどうか よくわかんない 本格的な和食とか
食べたこと ないから ・・・ 」
「 あ そうなの? 」
「 ま〜ね 普通の日本人、 ワカモノは皆そんなカンジだと思うな 」
「 そう ・・・ 」
「 えへ でも ・・・ ホントは美味しい和食 食べたいんだ 」
「 そうなの?? 」
「 なんつ〜かな〜〜 美味しいおうち・ごはん が食べたい〜〜 」
「 おうち ごはん・・・ 」
「 そ。 ふつ〜に毎日食べるごはん さ。 」
「 ふつ〜の・・・って そのう ・・・ ジョーが好きなカップ麺とか
レンジでチン! っていう献立のこと? 」
「 あは そ〜いうご飯じゃなくて いや それも好きだけどさ。
美味しいご飯に味噌汁、 卵焼にはんば〜ぐ ほうれん草のおひたし〜
みたいなご飯〜〜 憧れなんだ。 」
「 ・・・ そうなの 〜〜〜 」
「 えへ フランの和食 楽しみにしてる♪ 」
「 え ・・・ あ ありがとう がんばるわね 」
「 すごいな〜〜 」
「 ジョーだって バイト、毎日 がんばってるでしょ
印刷所ってどんなお仕事なの 」
「 えっへっへ 大分慣れてきたよ。 印刷ってもほとんどPC処理だしね
今さ、 ぼくの担当はさ 編集部さんの雑用なんだ。 」
「 編集部なの?? すご〜〜い ・・・ 」
「 ぼくもびっくり。 手が足りないから来てくれって言われて。
でもね すごく面白いよ〜〜
ま〜 雑用だからさ いろんなこと、やるんだけど。 」
「 ふうん ・・・ 忙しいのね 」
「 あは 掃除とかもしなくちゃなんないからね〜
あ あのね 編集部ってすっげ〜〜 ごたごたなんだ。
ぼくの部屋、負けてる! 」
「 え ・・・ 」
「 『 え 』 ってどういうことかな〜 」
「 ごめん・・・ だってね ジョーの部屋ってば ・・・
昔のお兄ちゃんの部屋みたいなんだもの 」
「 へ〜〜 お兄さんの? 」
「 そうよ。 リセに通っていたころの兄さんの部屋って ・・・
ママンいわくウチのゴミ箱。 だったの 」
「 へ〜〜 ・・・ え じゃ ぼくの部屋も ・・・ 」
「 えっと〜〜 でもね 大学生になって 空軍に入るころには
もうすっごいきっちり片付いてたわよ。 煙草の匂いは滲み付いてたけど 」
「 あは ・・・ ぼくもそのうち 部屋、片付くかな〜〜 」
「 あのね! 部屋は自然にはキレイにはならないです〜〜〜
掃除してね。 」
「 ごめん ・・・ 掃除します。 」
「 お願いします。 あ いっけない〜〜〜
晩ご飯の準備 しなくちゃ 」
「 あ 手伝うよ ジャガイモの皮むき とかまかせてよ。 」
「 うふふ ありがと、ジョー 」
「 あ やべ〜〜 さっきさ、買い物、袋ごと冷蔵庫に突っ込んだまま 」
「 きゃ〜 レタスとか 入ってるのよ〜〜 」
どたばた わいわい ・・・ 若者たちはキッチンに駆けこんでいった。
― その日の晩御飯時 のこと。
「 ん〜〜 このハンバーグはいい味じゃのう 」
博士は にこにこに箸を動かす。
「 まあ そうですか 嬉しい〜〜〜
これ・・・ お料理教室で習ったのがモトなんです。 」
「 モト ? 」
「 はい。 ジョーが教えてくれた 豆腐ハンバーグ の具材を
応用しました。 」
「 ああ このコクのある味は豆腐か 」
「 そうなんです。 ホント美味しい ・・・ 」
「 えへ 皆 気に入ってくれてよかった〜〜〜
ぼく 豆腐いれるとね えへへ・・・ 安上りになるし味もいいです。
ってね〜 昔 施設の寮母さんが言ってたんだ。
ホントは 100%ビーフとかがいいんだろうけど 」
「 ワシはこれがいいなあ〜〜 うん うん よい味じゃ 」
「 わたしもよ〜 日本の 豆腐 ってすごい万能食品だと思うわ。
わたしね 冷たいお豆腐も好き♪ 」
「 あ 冷ややっこのこと? 」
「 ・・・ じゃなくてね 冷えたお豆腐に黒蜜とかかけるの。
プリンみたいでオイシイのよ〜〜 」
「 へ え ・・・ 黒蜜 かあ
え フラン 黒蜜 なんてよく知ってるね〜〜〜 」
「 うふふ〜〜〜 実はね バレエスタジオのお友達から聞いたの
ほら プリンよりカロリー低いでしょ 」
「 ふ〜〜ん 女子はそういう情報 スゴイよね 」
「 そ〜です♪ スウィーツは世界中のオンナの子が好きなの 」
「 だよね〜〜 」
あ ・・・ れ ?
でれ〜〜〜っと彼女の笑顔を見とれていたが ― ジョーは
こちん、 としたモノが心に沈むことに気が付いた。
フラン ・・・ トモダチと 女子と〜く とか
してるんだ ・・・?
日本語 で !
勿論 彼女だって003、彼と同型の自動翻訳機が搭載されている。
だから 日本語のおしゃべりは100%理解可能だ。
だけど。 ― 聞いて理解はできる。 でも。 しゃべれない。
機械に頼っていては 自分自身の言葉での発言は
できないのだ。
ミッション中は全員が自動翻訳機を使用するから各自が自国語でしゃべりまくっても
お互いに理解可能だ。 問題はない。
しかし。 ― 実生活では おおいに問題 あり なのだ。
機械にのみ頼っていたら 生活はできない。
フランは さ。 ちゃんと日本語 しゃべってる ・・・
なぜか ジョーのココロはシン ・・・としてしまった。
あのヒトは < ふらんす人 > なんだ。
そして −
「 日本のお食事は美味しいわね 」 と言った、 日本語で。
その一言は 彼のココロに深く響いた。
そう なんだよ! フランス人なのに!
ぼくは! なにを見て 聞いてたんだ ・・っ !!
― フランソワーズはこの家ではずっと日本語で過ごしている。
それも とても綺麗な優しい日本語を使う。
・・・ 当たり前だと思ってた ・・・ !
ジョーは自分自身の暢気さ いや ぼんくらさ加減に
思いっ切り横面を張り飛ばしたかった。
っ! ぼくって ・・・ !!!
「 ・・・ あ あ 楽しそうだね・・・ レッスンに料理教室に・・・・
なんか 充実してて いいなあ 」
「 うふふ わたしね〜 壮大な目標を設定しちゃったの♪
だから いろいろ忙しいのよ 」
「 壮大な目標 ・・・ なに? 」
「 うふ 今はまだ な〜いしょ 」
「 ふうん ・・・ あ 可愛いなあ ・・・ 」
「 え なあに 」
「 なんでもな〜い あ お願いがあるのですが 」
「 はい? 」
「 明日も 弁当 ・・・ 頼めますか あのう 晩ご飯の残り、
詰めてくれれば ・・・ 」
「 あら ちゃんとジョーの好きな卵焼き 入れますよ? 」
「 うわ ! あ ありがと〜〜 フラン〜〜〜
ぼく 頑張ってバイト 行きま〜す 」
「 ジョー 頑張ってね。 」
「 ありがと フラン〜〜〜 あ 後片付けするよ 」
「 一緒にやりましょ 」
「 ウン 」
皿洗いも 二人でやれば楽しい時間なのだ。
「 あ〜 ゴミすて やっとくから〜 風呂、先にどうぞ 」
「 ありがとう〜 じゃ お先に〜〜 」
「 ウン。 お休み 〜〜 」
「 うふふ お休みなさ〜〜い 」
ひらひらと手を振れば 手を振り返してくれる彼女。
いつも優しい柔らかい、ごく自然な日本語で話す彼女。
・・・ ぼく だって。
ちゃんと彼女の言葉で 答えたい!
― ようし ・・・ 決めた!
― 翌日。
「 あ 島ちゃ〜〜ん ここの片付け 頼めるかな 〜 」
ジョーのバイト先、編集部で主任が声をかけてきた。
「 はいっ 」
「 悪いけど ・・・ こっちのは議題の種類別にファイルして ・・・
これは日付順かな 」
「 はい。 あ 中身 みてもいいんですか 」
「 え〜〜 ウチあたりで マル秘事項なんてないわよ〜〜う 」
「 そうですか 〜 あとは この山は 」
「 悪い 一応 シュレッターしてくれる 」
「 はい 了解しました。 」
「 ああ 助かるわあ〜〜 島ちゃん、 雑用ばっかじゃ惜しいなあ 」
「 いえ ぼく なんもわかりませんから 」
「 わからないヒトが 議題別にファイルなんかできないよ〜 」
「 え ・・・ えへ ・・・ 」
「 よろしく〜〜 」
「 はい。 ・・・ あ あのう〜 主任さん 」
「 ん? 」
「 忙しいとこ すいません。 ちょこっと教えてくれませんか 」
「 なに? 」
「 あのう ・・・ どっか地味なフランス語教室 しりませんか? 」
「 じ 地味な ・・?? 」
ポニーテール、というか ひっつめ髪の主任女史は 目をまん丸にしていた。
ふむふむ・・・とジョーの話を聞くと ―
「 そりゃ実力第一! なら あてね・ふらんせ とか にちふつ だけど
あそこは < 学校 > だからね〜〜〜 」
「 そういうのは ちょっとぼくにはハードル 高くて・・・ 」
「 そ〜だなあ ・・・ あ あの大学で 夜やってるよ 」
「 へ? 」
主任は 壁越しに指さした。
「 あの大学って ・・・ 駅の向うの? 」
「 そ。 S大。 知ってるでしょ 」
「 知ってますよぉ〜 超難関大じゃないっすか〜〜 無理むり〜〜〜 」
「 語学教室だよ、入試とかないよ。 申し込めば誰でも参加できる。 」
「 へえ ・・・ 」
「 大学の教室だから 地味だけど定評あるね。 スパルタだって 」
「 え なんですか? 」
「 いや ・・・ まあ 行ってみたらどうかな?
費用もリーズナブルだって聞いたけど 」
「 そうですか! ありがとうございます〜
え〜と じゃあこれ シュレッターしてきま〜す 」
えいや・・・っと ジョーは書類の束を持ち上げた。
次の週、 ジョーは早速S大の 『 フランス語講座初級 』 に申し込み
バイトの後で 駅向こうのS大キャンパスに向かった。
夜のキャンパスは ほとんど人影もなく 昼間とは別世界に見えた。
「 ふうん ・・・ 大学かあ ・・・ 行ってみたかったな ・・・
えへ・・・ちょっとの間だけど大学生気分 かな〜〜 」
購買部で買った真新しい教科書が なんだか嬉しい。
「 え・・・っと・・ 一号館の 105教室・・・? 」
ジョーは 講座案内を頼りに結構古びた建物に入っていった。
ギシ −−− 木製のドアは軋りながら開いた。
「 ここ かな ・・・? あ 」
そ・・っと入った105教室は 案外狭く ―
「 あれ・・・? 誰もいない・・・? 」
「 ようこそ 私のクラスへ 」
いきなり教壇の机から声が飛んできた。
「 へっ??? あ ・・・ あの? 」
「 私が フランス語講座初級の講師、デュポンです。 」
ゆったりと かなりの年配の男性が立ち上がった。
「 あ あ〜〜〜 せ 先生 ・・・ ぼ ぼく ・・・
し 島村じょー といいます 」
ジョーは ぎくしゃくお辞儀をした。
「 ようこそ、 ムッシュ・シマムラ。 」
「 は はい ・・・ あの? 」
「 ああ 君のクラス・メイトは あと二人来る予定です。
すこし待ちましょう。 」
デュポン先生は にこにこ・・・ ジョーに席を指した。
「 あ はい ・・・ 」
あ この先生 ・・・ 神父さまだ ・・・
えへ ・・・ なんかいい感じ
教会の施設で育ったジョーには デュポン先生のローマン・カラーが
懐かしかったのだ。
タタタタタ −−−− バンッ !
「 ・・・! 」
ドアが勢いよく開いて ジョーとあまり変わらない年頃の青年が飛び込んできた。
「 ようこそ、ムッシュ・マスダ。 」
デュポン先生は やっぱりにこにこ・・・その青年に話しかけた。
Last updated : 06,18,2019.
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********** 途中ですが
こりゃどうしても 平ゼロ 93 ですよね〜〜
しかし ギルモア博士って 語学も万能だったのですね〜
ふつ〜のヒト のジョー君は おたおた・どたばた しています☆