『 メリー・メリークリスマス  ― (2)― 』

 

 

 

 

    カタン カタカタ ・・・

 

カーテンの向こう側で 窓ガラスが小さな音をてている。 

 

  ペタン。  ジョーはキッチンのスツールに腰を落とした。

 

「 ・・・ この時期に仕事ってなんだよぉ〜〜〜

 クリスマスくらい帰ってこいってのに ・・・ 

彼は もう何回もスマホを見直す。

「 来れないって そんな大事なこと メールで ・・・

 電話してこいよぉ  久し振りに声 聞けるかなって思ってたのに 」

 

     はあ ・・・・   

 

溜息からはついさっきの ぴんく色 が消えている。

「 仕事・・・って。 あ きっと誰かと代わってやったのかも。

 そうだよ〜〜 家族持ちのおと〜さん とかとさあ

 おう おっけ〜 任せときな! なんてウィンクなんかして

 ・・・ それがジェットのいいトコだけど ・・・

 ぼく達だって お久〜〜で会いたいのに ・・・ 

 

  がさ。  ジョーはリビングのサイド・ボードからカタログを出した。

 

「 バイト代溜めて バイク買お! ってがんばってて・・・

 ジェットにいろいろ聞こうと思ってたんだけどなあ 」

 

    かさこそ。  なとなくツリーの飾りに触ってみる。

 

「 ジンジャ―クッキーマン と この星・・・ 送ってやろっかな

 う〜〜〜ん ・・・ 会いたかったなあ  がっかり 」

 

落ち込んだ気分を吹き飛ばそう、と 彼は枯れ枝の束を運んできた。

「 うん さあ リース 作りだよ!

 本当なら もう飾っていなくちゃいけない時期だもんな〜〜 」

新聞紙を広げ どでん、と座り込む。

「 えっとぉ ・・・  まず 長さ別に揃えて・・・・

 あ〜〜 神父様に教わったんだけど、覚えてるかなあ 

 ・・・ これをこうして  あ そうそう こうだっけ・・・ 」

ぶつぶつ言いつつも かなり手際よくリース用の輪っかを作ってゆく。

「 でっかいのと〜  うん これはリビングに飾るんだ〜

 あと ちっこいのを玄関のドアだろ〜〜

 そうだ! こっちのちっこのは ジェットに送ろう!

 ウチのクリスマスのおすそわけ さ 」

 

    ん〜〜〜  こんなもんかなあ ・・・ 

 

新聞紙の上には 大小いくつかの輪っかが並んだ。

「 これに〜〜 あ リボンとか巻きたいな 〜〜

 そうだ! 松ぼっくりとかドングリ、飾ると楽しいよなあ

 うん 裏山で拾ってこよっと! ・・・ 明日の朝にしよ・・ 」

 

部屋の中はツリーと共にすこし華やかになってきた。

 

「 ふんふんふ〜〜〜ん♪  クリスマスだよ〜〜

 ウチのクリスマス♪ あ キャンドルとか ・・・ あるといいなあ

 ・・・ 作ってみよ!  普通のろうそく、あるはずだもんな 」

スマホで探せば 作り方はすぐにわかった。

「 ・・・ へえ ・・・ 案外簡単なんだなあ 

 やってみっか。  あ でも昼間にテラスでやる方がいいかも・・・

 あそこなら蝋とか垂らしても大丈夫だろうし。

 そうだ! ちっこいキャンドルで、リースに飾ろう!

 うん うん ナイスぼく♪ 」

 

    ガサ ゴソ ガサガサ 

 

新聞紙の上で 先ほどのリースをまた加工し始めた。

小さな普通のろうそくに 色を塗ったりリボンを巻いたりしてみた。

「 ふ〜〜ん いいカンジじゃん?

 もっと細かく枝を組み合わせてみよっか 

手作りの素朴なリースだが キャンドルを組み合わせると

それなりに雰囲気がでてくる。

「 お いいなあ〜〜 ・・・ ふんふ〜〜ん♪

 そうだ! 皆に一個づつ ってどうかな?

 ジェット用は ぎんぎん派手に〜 アルミ箔とか巻いちゃえ

 フランは ・・・ えっとシックに行こうじゃん?

 リボンの色 慎重に選ばないと〜〜  これはどっかな 」

 

夢中になり 手元用のスタンドだけに灯をしぼり

 彼は陽が暮れるのにも気付かなかった らしい。

 

 

     ぽん  ぽんぽん   起きて?

 

  は  ん ・・・?  あれ ・・・

 

ふ・・・っと気づけば。

優しい声が聞こえる。 だれかが軽く肩を叩いている。

身体の上には 毛布が軽くかけてあった。

 

「 ・・・ あ  あれ ・・・? 」

 

ぼんやり起き上がってみたが 周囲はもうすっかり暗くなっている。

「 ・・・ もう夜 ・・・かあ  」

「 うふふ まだよ、カーテンを引いただけ 」

「 え ・・・ あ!! ぼ ぼく ! 」

がばっと立ち上がれば どうやら眠り込んでいたらしい。

彼の周りには 作成中のリースやら リボン、キャンドルが

散乱している。

「 うわ ・・・ やべ・・・ あ フラン!? 」

目の前には 柔らかく微笑む白い顔があった。

「 お お帰り・・・ 」

「 はい ただいま〜〜 

「 お帰り・・・って! あ 晩ご飯!!!

 まだ時間あるって思ってたんだけど 

 ごめん〜〜〜〜 今 すぐに 」

毛布を飛ばす彼に フランソワーズはそっと腕を絡めてきた。

「 大丈夫よ 

「 へ??  あ〜〜 だってまだなにも・・・ 

 なんで寝ちゃったんだ〜〜 」

「 うふふ  あんまりよく眠ってたから ・・・

 ね キッチンに出してあった材料で 御飯つくったわ。

 炊飯器 セットしておいてくれてありがとう 」

「 ・・ ごめん ごめん  」

「 気にしないで?  ねえ 一緒に晩御飯にしましょ?

 出来たて熱々よ 」

「 ・・・ なんか ・・・ ホントにぼくってば 」

「 ジョーのリクエスト、チーズ入りオムレツも作ったわ。

 あとね 豚肉と水菜としめじが 置いてあったでしょ?

 全部使って しゃぶしゃぶ ってどう? 」

「 え!? わ〜〜〜〜 すげ〜〜〜 

 フラン、しゃぶしゃぶ ってよく知ってたね 」

「 いやあだ ジョーが教えてくれたじゃない?

 その時は よせ鍋だったけど ・・・ 」

「 あ ・・・あ〜〜 そんなこと あったっけ・・・ 」

「 ね? 美味しそうよ、食べましょう 」

「 うん! ちょっとここ 片すね 」

「 じゃあ わたしは 卓上コンロにお鍋をかけるわね 」

「 ヨロシク〜〜〜  ふふふ しゃぶしゃぶ♪♪

 そだ! タレつくるね〜〜 さささっと ポン酢系 と 胡麻系 」

「 ジョー すごいわあ 

「 あはは これはね〜〜 手抜き料理の定番!

 でもね 美味しいから安心して。 きっとフランも好きになるよ

 あ・・・ 博士は? 」

「 さっき連絡があって。 今夜は遅くなるからって。

 お食事は済ませてからお帰りのようよ 」

「 そっかあ〜〜  ざんねん!

 博士にも 熱々しゃぶしゃぶ 味わって欲しかったなあ 」

「 また 作って?  ・・・ あ お出汁 いい感じよ? 」

「 お〜〜し・・・ さあ 肉を  あ 箸、使い難かったら

 トングでもいいんじゃないかい  」

「 あ〜ら。 わたしのお箸のテクニック、 ご存知ありません?

 ジョーの好きな 卵焼 はちゃんと菜箸使って作ってますけど? 

「 わっはは〜〜ん ごめ〜〜ん ・・・

 では しゃぶしゃぶ〜〜 って 」

「 きゃ。 どきどきするわ〜〜 

 

   しゃぶしゃぶ ・・・  ぱくぱく もぐもぐ

 

「「  おいし〜〜〜〜 」」

同時に感歎の声が上がった。

「 ねえ このゴマダレ 最高ね! 」

「 ポン酢もいい感じだよ〜〜お 」

「 ・・・ ん! 水菜としめじ いい味になってるわあ〜〜 」

「 ん〜〜〜 ホントだ! 豚肉の脂がいい感じに浸みて〜〜

 で オムレツも〜〜〜  ・・ うま〜〜〜〜♪ 」

「 ふふふ よかったわ♪ 」

 

二人で熱い鍋を間に 用意していた肉やら野菜を ほぼ全部平らげてしまった。

 

「「 〜〜〜 美味しかったぁ〜〜〜 」」

「 やだ〜〜 こんなに食べちゃったあ  太っちゃう〜 」

「 いいじゃん いいじゃん、 全部エネルギーになるよ 」

「 ・・・ そうだといいんだけど〜〜 」

「 大丈夫! あ そうだ、 アイス、買ってあるんだ〜

 デザートに食べようよ 」

「 きゃあ〜〜  ・・・ いいのかしら 」

「 いい。 ぼくが許可しまあす 」

「 メルシ〜〜〜 」

暖かい部屋で 冷たいデザートは最高だった。

 

     ・・・ ほう   ・・・ はあ

 

ジョーも フランソワーズも ため息吐息、ちょっとした

シアワセの放心状態となった。

 

「 あ そうだわ さっきね ジェロニモ から連絡があって 」

「 え・・? 」

「 あのね イヴにはちょっと帰ってこられないんですって。 」

「 え〜〜〜  だってだって〜〜 クリスマスはジェロニモ Jr.の

 誕生日じゃないかあ〜〜 」

「 う〜ん そうなんだけど ・・・ なにか故郷でね

 祭礼があるそうよ。 」

「 ・・・ 故郷で? ・・・ そりゃ ・・・ 仕方ない か も 」

「 すまんな って。 あ 皆へのプレゼントは送りましたって 」

「 プレゼントより  会いたいんだけど 」

「 仕方ないわよね  さあ 片しましょうか 」

「 あ ぼく やるよ〜〜 鍋ものは後片付け 楽だもん。

 フラン、 先にお風呂 どうぞ 」

「 いいの 

「 オムレツ、 超〜〜〜〜〜美味しかった♪

 ありがと(^^♪  ぼく フランのオムレツ、大好き♪ 」

「 ふふふ メルシ〜〜 じゃあ お先に 」

「 ん〜〜〜 」

ジョーは 手を振って彼女を見送ってから

手早くキッチンを片づけた。

「 皆へのリース〜〜〜  仕上げなくちゃな〜 

 フランのリースはねえ 金と青なんだ。 ・・・えっと・・ 」

彼は再び リビングで作業を始めた。

 

    rrrrr rrr〜〜〜〜

 

「 ??  あ  電話かあ  久し振りだよ 」

ジョーは慌てて リビングの固定電話を取った。

 

「 はろ〜〜  ・・・ あ ピュンマ!  元気〜〜? 」

電話の主は南の国の仲間だった。

「 うん 皆元気だよ〜 電話なんて珍しいね 

 

     え ・・・? 

 

にこやかに受話器を取ったが ジョーの表情は こちん と固まってしまった。

 

「 ・・・ そ そうなんだ ・・・?

 そりゃ ・・・ 大変だね  忙しいんだ?   うん  うん 

 そっか ・・・ あ でも年末には  うん うん 待ってるから 

 博士?  あ 今晩は遅いんだ  うん うん 伝えるね

 あ ごめん フランは今 風呂で ・・・ うん  うん   

 がんばって ・・・ うん   じゃあ ・・・ 

 

   カタン。   ジョーはゆっくりと電話を戻した。

 

「 ―  ピュンマも ・・・ 」

ふうう ・・・・  またまた蒼い吐息がもれてしまった。

「 ・・・ ピュンマに って。 これ絶対ウケるって思って 」

   カサコソ。  作ったばかりのリースを取り上げる。

「 皆の前でさ ひとりひとりにプレゼントしたいなあ〜〜って・・・

 そりゃ 郵送するけど ・・・ でも でも

 やっぱクリスマスに ツリーの前で 皆と一緒に・・・ってのが

 いいんじゃないかあ 」

 

盛り上がっていた暖かい気分が 穴あき風船になってきた。

 

「 ジョー。 お風呂、お先に〜〜   ? あら どうしたの。 」

「 あ フラン〜  ・・・ あの 」

「 ?? 寒いの? ヒーターの温度、 上げれば? 

「 ・・・ あ  ううん 寒くない よ 

「 そう?  風邪でも引いた? なんか 寒そうよ 」

「 ・・ あ  うん ・・・ あのね フラン 」

「 はい? 」

ジョーは ぼそぼそとピュンマからの電話を伝えた。

「 あらあ・・・ そうなの?

 ピュンマも大変よねえ 会議ったって 町会じゃあないものねえ 」

この仲間は おおっぴらには言わないけれど

母国では IT関連を中心に重要人物なのである。

「 ん  そうだけど  さ ・・・ 」

「 ほら 彼のとこってお国の首都からも遠いし ・・・

 フライト・チケットだってすぐには取れないのじゃない? 」

「 あ〜 でもね ネットの普及はすごいから

 そんなに不便じゃないって言ってたけど 」

「 そうねえ ・・・ でも 彼自身の移動は ぽちっとな、

じゃあ できないでしょ 」

「 ああ まあ そうだけど 」

「 会えないわけじゃないから ・・・ 待ちましょうよ。

 あ ピュンマが好きな焼き菓子、取っておかなくちゃね 」

「 ・・・ ん〜 そうだね ・・・

 あ 彼さあ 白菜の漬け物とかも好きなんだよ〜〜

 正月用にとっておくね 

「 あら わたしも好き!  そうそう アルベルトも好きだって。

 ジャパニーズ・ピクルス だって  

「 ピクルス?  ちが〜〜うもんね、 漬け物 さ。

 たくさん仕込んであるけど 追加しておこうかな 」

「 お願いね〜  ふぁ・・・ 

「 あ もう寝なよ  明日もリハーサルなんだろ 

「 え ええ ・・・ あ ジョ―は  

「 ぼく ここを片してから寝る 

「 それ ・・・ リースね? 素敵だわ たくさんあるのね 」

「 ふっふっふ〜〜〜 な い しょ♪ 

 クリスマスのお楽しみだよん。 」

「 そうなの?  じゃあ 楽しみに待ちます♪

 おやすみなさ〜〜い ジョー ♪ 」

「 おやすみ〜 フラン ・・・  でへへ ・・ 」

 

ぐっない のキスをほっぺに貰い ジョーはでれでれしていた。

 

「 さて ・・・ これ 仕上げようっと 」

彼は 新聞紙を広げ腰を据えて作業にかかった。

 

   ひゅうううう ・・・・

 

夜半すぎには 雪・・・にはならないけど 北風が吹き荒れ始めていた。

 

 

 

「 ・・・ ? 」

翌朝 ― 寝起きのぼんやりマナコ で ジョーは彼女をじっと見ていた。

「 ・・・ わかった? 」

蒼い瞳が じっと覗きこんできた。

「 あ ・・・ あ〜〜 」

「 さっきメールが入ったの。

 あちらはすごい大雪なんですって 」

「 ・・・ 関越?  立往生 ・・・? 」

「 ジョー?  目 覚ませて!

 日本のハナシじゃなくて。  アルベルトのこと。 」

「 あ ・・・ そっか  そうだよねえ 」

「 009? 覚醒しましたか 」

「 ・・・ ハイ。 」

「 では報告します。  004から連絡あり。

 大雪により公道渋滞。 予定便に間に合わないこと、確定。

 よって 本年の来日は延期となります。 以上 」

「 ・・・ は はい 」

「 了解しましたか 」

「 あ ・・・ え〜〜と・・・? 」

「 ― リピートいたしましょうか  」

「 ・・・ いえ 結構です。

 つまり ・・・ アルベルトは来れないってこと だろ 

「 まあね 端的に言えば。

 こちらの北陸の方も大変だけど ・・・ ヨーロッパも大雪みたい。

 さっき調べたけど ず〜〜っと国道 渋滞よ  」

「 ・・・ ん ・・・ アルベルトなら全然平気だろ 

「 そりゃ 彼自身はね  でも車やその積み荷は大変よ 

 荷物が遅れたら困る人だっているでしょうし 

「 その渋滞って 大人が ぶわ〜〜〜〜〜っとやればさあ 」

「 ふふふ  でも 大人をどうやって派遣するのよ 」

「 あ〜 そっかあ ・・・ 」

「 こればかりはね 天候相手だから。

 ねえ お正月料理にジャガイモ、使いましょ。 」

「 うん  あのね キタアカリ が好みみたいだよ 

「 わたしも好き!  ・・・ 公演 おわったら〜〜〜

 ばかばか食べます! 」

「 あ〜〜 ジェットにジェロニモ。  ピュンマにアルベルト、パスかあ。

 ・・・ そっかあ ・・・  残念 ・・・ 

 今年は 海外からの帰国組 ・・・ ナシだよう 

 ああ つまんないよ〜〜 」

「 仕方ないわよ。 皆 仕事の都合つけて遠くから来てくれるんだもの。

 今年は たまたまアクシデントが重なっただけだわ 」

「 ・・・ そう だけど 」

「 クリスマス当日には間にあわないけど ・・・

 年末までには 皆 来るし。 お正月は賑やかだわ  」

「 ・・・ ジェットは どうかなあ〜〜 」

「 ふふふ 彼なら 最終的には自分で飛んでくるわよ 」

「 フラン〜〜〜 それって反則だろ 」

「 でも やりかねない でしょ? 」

「 ・・・・ まあ ね 

 そうだよね ・・・・ うん ・・・

そうだよ ねえ  日本にいる仲間たちだけでも集まれるんだから 」

「 ね? あ いっけな〜〜い バスに間に合わない〜〜 

「 え。 駅まで送ろうか 」

「 ん〜〜〜 大丈夫! 今から走れば・・・

 じゃ ね。 いってきまあ〜〜す 」

「 いってらっしゃい  がんばれぇ〜〜 」

フランソワーズは 大きなバッグを抱えて飛び出していった。

 

「 ・・・ 」

ジョーは キッチンとリビングを片づけた後

ペタン・・・と座り込んでしまった。

 

    あ〜あ ・・・ なんか 

    気が抜けちゃった ・・・

    皆に会える〜〜って楽しみにしてたもんなあ

 

    でも! 

    国内組は集まるじゃん

    フランは公演終わって駆け付けるっていってるし

    グレートだって打合せあるけど

    大人は 皆に会いたいんや! って。

 

「 ん・・・ ツリーの飾り完了〜〜 っと。

 あとは皆へのリースを こう〜〜〜 周りに飾るかなあ ・・・

 メインの料理 と ケーキ は < 担当 > に任せるけど

 そうだあ サラダとフルーツ、準備しておかなくちゃ。

 あと 御飯! これを忘れちゃだめだよ〜〜ん 」

 

 ふんふん〜〜〜ん♪   再び陽気なハナウタが流れ始めた。

 

 

  ― さて  クリスマス・イヴ の夕方。

 

ギルモア邸のリビングには しっかりクリスマスの飾りつけ 完了。

中央には大きな食卓が引きだされ その上には

 

 大きなボウル 溢れんばかりのサラダ。

 銀のトレイには バナナにオレンジ、イチゴに葡萄。

 

そして。

片隅に椅子に 茶髪の少年がぽつねんと座っていた。

 

「 あいや〜〜〜 すんまへん〜〜  店のバイトはんがなあ

 二名 いんふるえんざ やねん。 

 ワテがお給仕 手伝わな、店が回りまへんのや〜〜 」

「 急にすまん!  怪我人が出てなあ〜 舞台のぴんち・ヒッターなんだ。

 ソワレ 終わったら駆け付けるが ・・・ 」

「 ごめんなさ〜〜い 公演の後片付けが・・・

 スタッフさんが足りないのよ。 わたし達出演者も手伝ってて・・・ 」

 

  ― 結局 イヴの夜 に ここにいるのは ジョー 一人。

 

  ・・・ も〜ろびと〜〜 こぞ〜り〜て〜〜〜 ・・・

 

自然に 聖歌を口ずさんでいた。

ジングルベル じゃないのが いかにも教会育ち、というところだが。

ちかちか光るオーナメントだけが 彼に笑いかけてくれている。

 

     慣れてるはずじゃないか ・・・ 一人なんて。

     いつだって 一人だろ ジョー。

 

     今晩 遅くにはフランも帰ってくるし

 

     ほんのちょっと だけ ・・・ さ

 

        一人 なんて   慣れて・・・ る ・・・                                                  

 

 

「 ! クリスマスなんだ ・・・ い いいもん。 

 ぼく ごミサにゆく ・・・ 」

 

ジョーは さっと立ち上がると メモを一枚残し、

カーテンをしっかり引いて 玄関から出た。

 

「 ・・・ 教会 ・・・ いつもと違うとこ 探そ 」

海岸通りの先には 日頃通っている教会がある。

神父様とも 顔見知りになり、特にフランソワーズは日曜毎に

熱心に通っている   のであるが。

 

「 ・・・・・ 」

脚は自然にいつもとは反対側の方向に向いた。

 

     きゅ きゅ きゅ ・・・

 

薄暗くなってきた道に ジョーの足音だけが やけにはっきりと聞こえる。

「 ・・・ 教会 ・・・ ないかなあ ・・・ あ。 

隣の町との境に近いところに 屋根の上に十字架をいただく小さな建物を

みつけることができた。

「 ・・・ あのう ・・・? 」

彼は そ〜〜〜〜っと正面の引き戸になっているドアを開けた。

 

     あ  やっぱ 教会だよ ・・・

     ごミサの最中かな ・・・

 

それはかなり年季の入った建物で でもきちんと掃除が行き届き

気持ちがいい。

天井が高い御聖堂( おみどう )の中は 温かい色の灯で満ちていた。

 

神父様は鳶色の瞳で かなりのご高齢・・・ そして信者のヒト達も

似たような年齢が多く ぱらぱらと座っていた。

 

「 あ  あのう・・・ ごミサに与っても いいですか 」

 

「 どうぞ どうぞ。 みなさん、この少年と一緒に

 降誕祭を祝う喜びを 主に感謝しましょう 」

年老いた優しい神父様の笑顔に促され ジョーは おずおず・・・

隅っこの席についた。

信者の方々も穏やかな笑みで迎えてくれた。

 

   コトン。  後ろのすみっこの方に座った。

 

不思議に  天にまします  も  めでたし  も 自然に口から出てきたし

聖歌も 全部ちゃんと歌えた。

 

( いらぬ注 : 天にまします ・・・ 主の祈り のこと。 )

 

 「 この教会最後のクリスマスを 共に迎える喜びに感謝いたしましょう 」

 

    え ・・・ 最後?

 

「 オルガンも壊れてしまいましたが 皆さん ご一緒に歌いましょう 」

信者の方々に混じって ジョーも歌った。

彼はのびやかな たっぷりした声で 聖歌を歌った。

 

    も〜〜ろ〜〜びと  こぞ〜り〜て〜〜〜 

 

こんなにしみじみ・・・ 諸人こぞりて を歌ったのは

初めてかもしれない。

「 君 上手ですねえ。 では最後に 」

神父様が出だしを歌い 皆 それに続いた。

 

    人みなねむ〜りて〜〜  しら〜ぬ〜まにぞ〜〜

 

      あ  これ 好きだった聖歌だよ ・・・

      とこよのひかり だっけ・・・?

      

      クリスマスって ― そうだよ、こんな感じなんだよ! 

 

ジョーは 声を合わせつつ 心から祈っていた。  

 

    神様 ・・・ おひさしぶりです・・・

 

    ぼく 生きてます

    ねえ 神様。

    ぼくにも 帰るウチ ができました・・・

    ・・・ ぼく 好きなヒト、できました♪

 

    神様 !

 

    ぼく 生きて  恋してます!

 

     ― 感謝いたします 

 

ごミサの後、ジョーは神父様にご挨拶をした。

「 ありがとうございました。 突然入ってきて

 すみませんでした。 

「 一緒に祈ってくれてありがとう。 いい声をしていますね。

 聖歌もよく知っているし 」

「 あは・・・ チビの頃、聖歌隊やってたんで・・・

 もう忘れたと思ってたんですけど。 

 あ この教会 ・・・ 最後って ・・・? 」

「 ええ あまりに古くなったので  掃除は信者の方がやってくださるのですが

 本当にボロボロなのです。 オルガンも壊れてしまったし。

 でも どこにいても神様は ご一緒です。 」

「 はい!  最高のクリスマスになりました。

 ありがとうございました。 

「 ― 貴方に神様の祝福がありますように 」

 

  ジョーは 心を込めて深々と頭を垂れ祝福を受け取った。

 

  

  

   カタン  そうっと玄関のドアを開け滑り込む。

 

「 ・・・ ただいま ・・・ って誰もいないけど 

玄関のライトを明るくしよう、と手を伸ばした時

 

      ジョー!!!   めり〜 くりすます!!!!

 

ぱっとピン・スポが当たり  仲間達全員の声が降ってきた。

 

   え ・・・ え??  え〜〜〜〜〜〜〜 

 

「 ジョー〜〜  さあ 上がって! 」

満面笑みのフランソワーズが ジョーの手を引いてリビングに連れてゆく。

「 え・・・皆??? 」

 

テーブルの上にはスタッフド・チキンに ブッシュ・ド・ノエル。

彼自身が用意しておいたサラダとフルーツも並べて

その向こうには 8人の仲間たちの笑顔が 彼を迎えてくれた

 

      え   え〜〜〜〜〜???

 

「 ジョー。  フランソワーズがな ドルフィンを飛ばして

俺たちを拾い集めたんだ 」

アルベルトが 珍しく くつくつ笑っている。

「 え〜〜〜〜 フランが?? 」

「 もっちろん 途中からはオレが! 飛ばしてマッハで回ったんだぜぇ 」

「 ジェット・・・ 」

「 吾輩と大人は示し合わせて 野暮用から遁走し

 博士とイワンを連れてきたってわけさ。 」

「 え〜〜〜  そうなんだ ・・・ 」

「 ねえ ジョー。 あなた、毎年 準備してくれてるから・・・

 今年は って思って。 無理いって皆に来てもらったのよ。 」

「 いやあ・・・ 久々のドルフィンの旅を楽しんだよ。

 さあ 皆で乾杯しようぜ。  僕 飲みたい! 」

ピュンマが珍しく 酒杯を楽しみにしている。

 

    あ ・・・ ああ  皆 ・・・!

 

ジョーは しばらく立ち尽くしていた  が。

つ・・・っと部屋の真ん中に 立ち ―

 

「 ねえ 皆! お願いがあるんだ! 」

 

ん?? という視線の中で彼は言う。

「 皆のクリスマス・・・ ぼくにちょっとだけ分けてくれる? 

 これ ぼくからのプレゼントだけど。 」

ジョーは手作りの9つのリースを差し出した そして ― 。

 

 

 

 ― クリスマスの朝。

 

あのおんぼろ教会の神父様は 珍しく寝坊をしてしまった。

目覚ましも止まっていて ふか〜〜く眠っていた らしい。

慌てて起き出した彼の前には 

 

「 ・・・!? ここは ウチの教会 ・・・ ですか?  」

 

雨漏りのする屋根は葺き替えられ天辺の十字架はぴかぴか朝陽に輝き。

古いステンド・グラスは磨きあげられ。

壊れてしまったオルガンは新品同様に修繕・調律してあり。

祭壇も信徒用の椅子も がっちり修繕され。

控え室のテーブルには クリスマス・クッキーとキャンディ・レイが沢山。

チキンにプディングまで ある。

 

入口ちかくには 九個の手作り・リースが掛けてあった。

 

「 おお ・・・ 神様 ・・・ 奇跡だ・・・

 サンタクロースが  いや 天使が9人きてくれました! 」

 

 

    あは♪  めり〜〜〜 メリークリスマス !!

 

どこからか  昨日のあの青年の朗かな声が聞こえていた。

 

 

**************************       Fin.      **************************

Last updated : 12,22,2020.                  back      /      index

 

***********  ひと言   **********

こりゃ 完全に 平ジョー ですなあ ・・・・

クリスマスって ほんの少しでも 祈りと感謝 が

あったらいいなあ ・・・  なんて思って。

みなさま  メリー クリスマス !