『 自由研究 ― (1) ― 』
******* はじめに ******
この物語は 【 Eve Green 】 様宅の <島村さんち>設定を
拝借しています。 ジョーとフランソワーズの双子の子供達が
小学二年生の夏休みのお話です。
「 ふぁ 〜〜 ・・・・ 」
気の抜けた欠伸を もう何回くりかえしたことだろう。
ジョーは うう −−−−ん ! と伸びをし ― ついでに伸ばした手でぼりぼり背中なんぞを掻き・・・
のんびりとリビングに入ってきた。
ぱったん ぱったん ぱったん ・・・・
スリッパの音がやけにはっきり聞こえるのはだだっ広い部屋に誰もいないから、なのだ。
「 あ〜あ ・・・ よく寝たよなあ・・・ ふうん・・ この部屋ってこんなに静かだったっけか。 」
ジョーはぐしゃぐしゃの髪のまま、ぼすん・・・!とソファに腰を落とした が。
「 いて!! な、なんだ〜〜!? 」
なにかひどく固く尖ったモノの真上に、 ジョーは見事に着地してしまったらしい。
いててて・・・とオシリを摩りつつ、 ジョーは掘り出したモノをテーブルの上に戻した。
「 ・・・・? これ ・・・ セロテープのカッター台じゃないか! ・・・いててて・・・
なんだってこんなトコに・・・ ああ、すばるか! 昨日のここで <じゆうけんきゅう> してたんだな
いって〜〜・・・ おい、切れてないだろうなァ・・・ 」
ジョーはさかんに引き締まったオシリを撫でている。
いくら 009 であっても無防備に 尖ったモノに座れば痛いのだ。
「 ふ〜ん ・・・ それにしても 静かだな〜 ・・・ 波の音ってこんなに大きかったかなあ・・・ 」
海辺の崖っぷちに建つギルモア邸、住人達は四六時中波の音を足元に聞き海風が耳元をすり抜けてゆく。
ここに住みついた当初は それでも多少は気になっていたが、 皆いつしか慣れ親しみ、
波と風の音は彼らの生活の一部になっていた。
― 波の音が高くなってきたわね。 夏が近いのねえ・・・
― ・・・ この風はもう木枯らしの音じゃな。 ソーラー・システムを冬用に切り替えるか。
― 春がくるね! 海の色が明るくなってきたよ。
彼らは季節ごとの、日々の そして 朝夕の 海や空の変化を楽しみつつ暮らしていた。
自然からもっとも離れてしまった身体でも 自然はいつもやさしく包んでくれるのだった。
人里はなれた辺鄙な場所に、彼らはひっそりと穏やかな日々を送っていた。
しかし
そんな長閑で静かな日々も あっさりと消え去った。
すぴか と すばる
そう ・・・ 二つのこの新顔がギルモア邸に加わったときから両親は勿論のこと、博士までも
微かな風の音や 海の色の変化に気を巡らしている時間は ― 皆無となった。
そして 広々としていたリビングは。
たちまち 雑多なモノが散らばり、常に人影がちらちらし、時にはTVが付けっ放しの ・・・
どこにでもある <お茶の間> になり果てていた・・・
多くはないが、地元の人々にとってなとなく敷居の高かった・見知らぬ <ガイジンさんのナントカ研究所> は
ご町内の <島村さんち> に変身したのである。
「 ・・・ギルモア研究所? 知らないねえ・・・・ あ! あの元気な双子のいる岬のウチか! 」
「 そうそう・・・ すげ〜美人のオクサンとイケメン旦那のトコさ。 」
「 あはは・・・けどさ、あの二人、若いけどしっかり頑張ってるよなあ。 」
「 ああ。 このご時勢、子育ても楽じゃないから・・・また あのチビ共が可愛いんだ! 」
「 そ〜そ〜♪ お袋さんがしっかりものらしくて、躾もきちんとしてるしな〜 」
国道脇の雑貨屋で ( ドラッグ・ストア の看板つきだが・・・ ) 道案内を請えば
こんな答えが返ってくるだろう。
要するに 島村家の人々はしっかり地元に根を張り堅実な生活をしている。
・・・ それは多分に賑やかで ― 騒々しい日々なのだが。
「 ちょっとあなた達! リビングで宿題をしてもいいけど。 終ったら教科書やノートはお部屋に
持ってゆきなさい。 置きっぱなしにしないの! 」
「 ジョーォ ! これ、 あなたのお仕事で使うCDでしょう? こんなトコに放っておいたら
どこかへ紛れてしまうわよ? ・・・わたし、探し物担当、じゃありませんからね。 」
「 博士、博士! 眼鏡〜〜 お持ちにならないとすぴかに踏んづけられちゃいますわ。
すぴか! ソファの上を歩いちゃいけません〜〜 ! 」
「 すばる! ハサミを使ったらちゃんと元あったところに仕舞うの! 危ないでしょう? 」
彼の妻は朝から晩まで 高声を響かせ、その合間をぬって どたばた走り回る音やら
時には小競り合いをし泣き虫声が混じる場合も ある。
はっきりいってそこは相当喧しい ・・・ のであるが。
・・・ いいんじゃないかな。 これが ― ウチ なんだもの。
家族の音って ・・・ いいよなあ・・・
うん・・・ これが 家庭 なんだ。 ぼくの ウチ だ。
ジョーは煩がるどころか 家にいる限り、好んでリビングで仕事をしたし、 子供達は宿題を持ち込み
博士も 夕食後はここで本を開くことが多い。
キレイ好きの彼の妻は小言を言い通しだが彼女自身も、この部屋で針仕事をひろげ家族の繕い物やら
季節の仕度に精を出していた。
― ようするに。 この家の人々はこの広い部屋がお気に入りなのだ。
散らかり放題のリビングが この家の中心になっている。
そんな ごちゃくたなリビング なのであるが。
今朝は ・・・ 久々に 波の音と 風の声 がはっきりと聞こえる ―
・・・ふうん ・・・ こんなに静かだったかな。 それに 広いし・・・
お〜お ・・・ 蝉が盛大に鳴いているなぁ ・・・ 今日も暑そうだな ・・・
もう一度 う〜〜〜ん ・・・ とジョーは身体をいっぱいに伸ばした。
途端に ― ぐ ゥゥゥゥゥ −−−−− 腹の虫が大きく不満の声を上げた。
「 お。 腹減った〜〜 朝メシだ〜〜 フランの朝御飯〜♪ 」
ジョーはがば!っと跳ね起きるとご機嫌でキッチンに跳んでいった。
ジョーはこのところ忙しい日々の連続だった。
彼は都心に近い出版社に勤めている。 ほんのアルバイトのつもりで始めた仕事だったが
フランソワーズと結婚し、やがて二人の我が子を授かり ― 彼は家族を養うために全力で働いた。
編集部の一員として記事も書けば写真も撮り― 小さなオフィスを支える重要な戦力になっている。
深夜帰りや朝帰りもあり仕事漬けの日々だったがやっと昨日、一区切りがついたのだ。
日付が替わってから帰宅し それでもちゃんと迎えてくれた妻をそのまま寝室に抱いて行き・・・
・・・後には気持ちのよい眠りがジョーの心身を癒してくれた。
ゆっくり目覚めたジョーを待っていたのは 誰もいないリビング。
博士は昨日からコズミ邸に出向いており、フランソワーズは毎朝のレッスンと子供達の教えに
都心のバレエ団に通い 子供達は ・・・ これは夏休みでいろいろと <忙しい>らしい。
「 ・・・ちぇ。 静かすぎて・・・調子が狂うよなあ。 」
妻の手作り・美味しいサンドイッチと冷えたオレンジでご機嫌な朝食を終え、
ジョーはコーヒー・カップ片手に またぼそぼそとリビングに戻ってきた。
「 今日は午後出だからな・・・ はぁ〜〜 校了明けは ・・・ ふぁ〜〜〜 あれ? 」
「 ただいまぁ〜〜〜 ! 」
ガチャリ、とドアが開き彼の小さな娘がひょっくり入ってきた。
「 あれ。 すぴか・。 ・・・ おい、どうしたんだ? 今朝は・・・え〜と・・・ 」
「 あ〜〜 お父さん、お早う! うん、 <夏休み・とくべつクラス> だよ。 」
母譲りの亜麻色の髪のお下げを振って すぴかはジョーに飛びついてきた。
すぴかは母の希望もあり、幼稚園のころから地元のバレエ教室に通っている。
母の同僚が開いているこじんまりした教室だが、自転車で行ける距離なので都合がよかった。
・・・あまり熱心、とはいえないが、跳んだりはねたりは大好きなので気に入ってはいるらしい。
「 うわ・・・っとォ。 そうそう! フランがそんなこと、言ってたよ。 一週間特訓なのよって・・・
あれ、でももう終ったのかい? 」
ジョーはひょい、と彼の娘を抱え上げ肩の上に座らせた。
「 うわ〜〜お♪ お父さん、すご〜い・・・ <かたのり>っていう りふと なんだよ、これ。 」
「 へえ、そうなんだ? お前もお母さんみたくにお姫さまが踊れるようになるといいね。 」
「 ・・・アタシはさあ・・・どっちかっていうと〜 男の子のパが好きなんだ〜
こうやってね〜 くうちゅうでいっかい回るの。 とぅ〜る・あん・れ〜るっていうんだ。 」
「 ふうん・・・すごいなあ。 ・・・で、今日の <とくべつクラス> はもうお終いかい。 」
「 ― 明日からだった。 」
「 え?! だってお母さんも 今日から すぴか達も朝にお稽古があるのって言ってたぞ。 」
「 お母さんってば。 ひにち、まちがえてたみたい。
おおきなお姉さんたちのクラス、やってて・・・ 先生が じゅにあ・くらす は明日からよ、って。 」
「 あちゃ〜〜 ・・・ お母さん、そそっかしいからなあ・・・ 」
「 先生もわらってた。 フランソワーズはおもいこみがはげしいからね・・・・って。
お父さん おもいこみ ってなに。 」
「 う〜ん ・・・ 勘違いってことかな。 」
「 ふうん・・・ 明日からいらっしゃいね、まってるわ、って先生が言ってたよ。
アタシ、とくべつ・くらす に水色のおけいこぎ、きよう〜っておもってたんだけどな〜 」
「 あは・・・ そりゃ残念だったな。 まあ、明日から頑張れ。 」
「 うん。 あれ、すばるは、お父さん。 」
「 うん? すばるは ほら、しんゆう のわたなべ君ちさ。
二人で <きょうどう・じゆうけんきゅう> の仕上げをするんだって。 」
「 あ、そっか〜 ・・・ あの二人さ〜 紙ででんしゃ、つくるんだよ。 お父さん 知ってた?
そんな じゆうけんきゅう っ ありかなあ。 」
「 う〜ん? 自由研究、なんだから なんでもいいんじゃないかい。
あ・・・すぴかのは なんなんだい、 <自由研究> ? 」
「 ・・・ まだ。 」
「 まだ ってなんだい。 新しいゲームかな。 」
「 ちがうよ〜〜 まだ は まだ。 ・・・アタシ、まだ きめてないの。 」
「 え!? だってすぴか〜〜 もうすぐ夏休み、お終いだよ? 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
すぴかは父親の肩から すとん、と降りると、きゅっと後ろに手を組み ちいさな頭をくいっと反らせた。
「 これから かんがえるんだ〜 」
・・・ あは。 すぴかのヤツ〜〜〜 この顔 フランにそっくりだよ〜〜
あはは ・・・ あの恰好も母親の真似、してるんだろうなあ。
ジョーは笑いを噛み殺すのにしばし苦心していた。
「 まあ、頑張れ。 でも急がないと間に合わないよ。 」
「 うん ・・・ ねえねえお父さん。 お父さんはさ〜こどもころ、どんなコトやった? 」
「 どんなコトって ・・・ ああ、自由研究かい。 」
「 そ。 」
すぴかはお下げを振ってうんうん・・・と頷いた。
うはは・・・ フランと同じコトを 同じ顔で言うんだなあ。
ほっとうに <見た目> はコイツってば フランの小型版だ・・・
「 あ、お父さん、ねえ、すぴか、コレ 飲んでもいい? 」
「 これはコーヒーだから子供はだめ。 ちょっと待ってろ。 ココアでももってくるから。 」
「 え〜〜 すぴか、ココア〜〜嫌いだ。 麦茶がいい、おとうさん。 」
「 そうか? うん、わかった。 冷たいのがいいだろ。 」
「 うん。 あ・・・ れいぞうこのひだりがわのほうがつめたいよ、おとうさん 」
「 お。 さんきゅ、すぴか。 」
ジョーは飲み残しのコーヒー・カップも一緒にキッチンに持って行った。
・・・ そうだよ。 昨夜 フランも同じこと、言ってたっけ・・・
ベッドの中で、熱い時間が過ぎれば 二人はどちらからともなくぽつぽつ話始める。
最近は ほとんどが子供達のことだ。
フランソワーズはジョーに相談したいことも沢山あったし ジョーは平日は寝顔しか見れない子供達の
日常を聞きたがった。
「 ねえ、ジョー。 じゆうけんきゅう って、あなたは何をやった? 」
「 ?? じゆうけんきゅう・・・? ・・・ああ! 夏休みの宿題かい。 」
「 そうなのよ。 去年もあったけど・・・一年生はたいてい 朝顔のかんさつ くらいで済んだの。
あれって毎年あるの? 二年生にはないのかと思っていたのに。 」
「 う〜ん ・・・そう言えば毎年あった・・・みたいな気がするなあ・・・
ぼくはお金をかけられなかったらから・・・朝顔の観察 とか 昆虫採集 とか
そうそう、教会の近くの海で貝殻をひろったり岩石の収集とかもやったな。
ふふふ・・・ 地味なことばっかで ・・・ 全然目立たなかったけどね。 」
「 ふうん・・・ 貝の収集なんて素敵ねえ。 あのコたちもそんなの、すればいいのに・・・ 」
「 ウチのお嬢さんと坊ちゃんは なにをするんだって? 」
「 すばるはね。 わたなべ君と協同で 紙の模型ですって。 電車みたいねえ。 」
「 へええ・・・??? アイツらしいなあ。 すぴかは? 」
「 さあ・・・ 何にするの?って聞いても ナイショ! って教えてくれないの。 」
「 ふうん? すぴかもなにか工作なのかな。 」
「 さあねえ? あ、蝉取りに精出しているから昆虫採集するつもりなのかしら。 」
「 おいおい・・・ すぴかもちゃんと見てやれよ。 」
「 見てるわよ。 でも ・・・ あのコ、教えてくれないんですもの。
ジョーから聞いてちょうだい。 お父さんになら教えてくれるわよ、きっと。 」
「 うん、明日にでも聞いてみるよ。 ・・・ なあ ・・・ もう一回さ・・・? 」
「 ・・・・ あら。 大丈夫? 徹夜続きの後に・・・連続って。 」
「 お。 言ったな〜 ふふん。 大丈夫かどうか、思い知らせてやるぞ。 俺は元気だからな。 」
「 ・・・ あ ・・・! もう・・・ いきなり ・・・ 」
「 さあ、おいで。 ふふふ・・・まだまだ平気だろ・・? 」
「 ・・・ イヤな ・・・ ジョー ・・・ ! 」
「 おとうさん!? 」
「 ・・・ え。 あ! あああ すぴか。 なな、なんだい。 」
キッチンでにんまり<昨夜の思い出>に耽っていたジョーは すぴかの声に飛び上がった。
「 おとうさんってば れいぞうこ、あけっぱなし! 」
「 え・・・あは。 まいったまいった・・・ おかあさんにはナイショだぞ。 ほら・・・麦茶。
このコップ、好きなんだろ。 」
ジョーは景品でもらったジョッキ型のコップになみなみと麦茶を注いだ。
「 わあ〜い、さんきゅ〜おとうさん。 ・・・ あ〜〜 おいしい〜〜 」
すぴかは両手でジョッキを持つと こく ・・・ こくこく・・・と飲み干した。
「 お〜〜 いい飲みっぷりだなあ。 」
「 あ〜〜 きぃ〜〜ん・・・っておでこがつめたい〜〜♪ 」
「 おでこ?? ははは・・・お前って面白いこと、言うねえ。
なあ、すぴか。 自由研究、お父さんと一緒に考えよう。 な、いいだろ。 」
「 うん。 いいけど・・・ 」
「 そうだなあ・・・ 定番ってとこで朝顔の観察日記は? 」
「 ・・・アタシ、一年生じゃないもん。 それにウチのはお母さんがお世話してるし。 」
「 あ、そうだったねえ。 昆虫採集は? 蝉捕り、好きなんだろ。 」
「 すぴか、捕まえらんない・・・ ハヤテ君がね、<きょうどう・さいしゅう> にしよう、って言うんだけど。 」
「 ・・・ハヤテ君? ・・・ あ! あの、幼稚園からず〜っと一緒に坊主か! 」
「 うん。 ハヤテ君ね〜 カッコいいんだ〜 びしばし蝉、とっちゃう。 すぴかがね、ぬけがら とか
あつめて それで ふたりではじめてだけどふたりのきょうどう ・・・ 」
「 だ、だめだよ! ( 冗談じゃないよ! ウェディング・ケーキの入刀じゃないんだ〜〜
すぴかは ぼくの娘だ! そのヘンの馬の骨にやれるかッ! ) そ、そそんなの、だめだ! 」
「 え〜〜 どうしてェ〜 だってすぴか・・・なにやっていいかわかんない・・・ 」
いつも元気なお転婆娘の瞳 に ― ジョーの最愛のヒトと生き写しの瞳 に
透明な水玉がみるみる盛り上がってきた・・・!
「 あ! あああ わわわわ・・・ な、泣くなってば。 」
ジョーは。 たかが小学生の娘の涙に ずん・・・ と胸の底が痛んだ。
な、泣くな〜〜!
すぴか。 そんな目で そんな涙を 流さないでくれ!
「 すぴか、すぴか〜〜 泣くなってば。 う〜〜ん・・・・??
あ。 そうだ! ・・・ なあ、すぴか。 お父さんと一緒に 会社、ゆくかい。 」
「 え??? おとうさんの ・・ か、かいしゃ?? 」
「 そうさ。 自由研究だろ。 別に理科や工作じゃなくてもいいんだろ。 」
「 うん。 」
「 それならさ ― ほら、お父さんのシャツで涙、拭け。 ― 社会科見学だ。
お父さんの仕事・観察日記 はどうかな。 」
「 おとうさんの ・・・ 観察日記?? 」
「 う〜ん? ちょっと違うけど。 あのさ、お父さんのお仕事、すぴかに見て欲しいな。 」
「 え・・・ ほんと? 」
「 うん。 お父さんが会社でどんなコトやってるか ・・・ 自由研究 しよう。 」
「 うわ〜〜〜い♪♪ すごい・・・! そんなの、だれもやらないよ。 」
「 お父さん、今日はお昼から会社だから。 一緒に <出勤> だね。 」
「 うわ〜〜 うわ〜〜 お父さんと お出掛けだあ〜〜 あ。 アタシ、 おきがえ、してくるね。
あせ、かいちゃったから。 お父さん まっててね! 」
「 ああ。 お父さんもお仕度するから。 すぴかもおめかし、しておいで。 」
「 うん! 」
ぱたぱたぱた・・・・
軽い羽が生えたみたいな足取りで すぴかは子供部屋に飛んでいった。
「 ふふふ ・・・ やっぱ娘はいいなあ〜〜
この前、買ってやったあのふわふわのピンクのワンピースでも着てくるかな。
うん、あれを着たらきっと・・・・フランの子供時代にそっくりだよ、うん♪ 」
ジョーは一人、悦に入って彼も身支度をしに部屋に上がっていった。
すぴかは くるくるカールした亜麻色の髪と、青味のかかった翡翠色の大きな瞳を持っていた。
要するに 母親に生き写しな娘なのだ ― 外見だけは。
見た目は生きてるフランス人形みたいな女のコ、なのだが。
その髪はいつもぎっちりお下げに編まれ、可愛いお口はきゅ!っと真一文字に閉じられている。
お外で友達と跳ね回るのが大好きなので 一年中焦げたトーストみたくなお顔の色だ。
お家の中でご本を読んだり、お人形さんごっこをするよりも缶蹴りや木登りの方が得意。
あま〜い・ふわふわのケーキよりも かっちり固いお煎餅がすき。
― 要するに。 ジョーの最愛の女性とはか〜なりちがった 中身 の持ち主なのだ。
そんな娘が ジョーは可愛いくて可愛いくてたまらない。
できれば ず〜っと側につれて歩きたい! と思うほどなのだ。
お気に入りの娘を連れて職場で大いに自慢できる・・・と ジョーもいっぱしの親ばかぶりを発揮している。
「 おとうさん! おまたせしましたァ〜〜 」
「 お。 おめかし、したかい。 どれ、見せて・・・? 」
「 うん! これ、すぴかのおきにいり なんだ〜 」
「 ・・・ え。 あ・・・ あれ・・・? 」
「 さ、おとうさん! しゅっきん しよう。 」
「 あ・・・う、うん ・・・ 」
すぴかは短Gパンににゃんこの顔がついたTシャツ、編み上げタイプのサンダルを履いて。
亜麻色のお下げを キャップに押し込め ― 意気揚々と父親の前に現れた。
「 ちゃんとハンカチはあたらしいの、もった? くつした、びっこたっこはだめよ。 すばるみたい・・・
あらあら ・・・ ねくたいが・・・ あ、ねくたい、しないの、お父さん 」
「 ・・・ あ うん。 今日は校了明けだからね、 カジュアルでいいんだ。 」
「 ふうん?? さ、いきますよ。 とじまり、おねがいね。 」
「 はいはい フラン・・・ じゃなくて すぴか。 」
ぷぷぷぷ・・・・ いやあ〜〜 フランそっくりだよ・・・
あは、子供ってちゃ〜んと聞いているんだなあ。
ジョーは毎朝細君の口からでる言葉を小さな娘の声で聞き、そっくりな眼差しを受け、
・・・ 最高に苦心しつつ笑いを噛み殺していた。
ガタン ・・・ゴトン・・ガタタン ・・・ゴトン ・・・!
夏の真昼時、 ローカル電車はがら空きでのんびり・まったり走っている。
アチコチに空きの目立つ座席では ほとんどの乗客がこっくり・こっくり船を漕ぎ、中にはだらしなく
口を開けて寝ているヒトまでいた。
そんな片隅で。 一組の連れがぼそぼそ話しをしている。
どちらもラフな恰好で ― でもシャツにはピンとアイロンが掛かり 洗い立てのTシャツもぱりっとしていて、
この二人の <おかあさん> はしっかり者だ、と誰の目にも一目瞭然だ。
その < 二人 > ・・・ 歳の離れた兄妹 か 若い叔父と姪 か 従兄妹同士 か ・・・
なんとなく似た雰囲気を持つ < 二人 > だなあ・・・と思わせる。
「 すぴかはさ・・・・ お父さんのお仕事、知ってるかい。 」
「 うん! ざっししゃ、でしょ。 ご本をつくってるって。 お母さんが。」
「 そうだよ〜 雑誌社の編集部さ。 皆でね 文章を書いたり写真を撮ってきたりして
雑誌を作っているんだよ。 」
「 ふうん ・・・ おとうさんのつくったご本、みたけど。 すぴか、よくわからなかった・・・
きれいなおしゃしんはいっぱいあった! 」
「 う〜ん まだ すぴかには難しいかな。 ・・・ねえ、どうしてあのワンピース、着ないのかい。 」
「 あのわんぴーす? 」
「 ほら・・・夏休みの初めにお父さんが買ってきただろ。 ふわふわのスカートのヤツ。
すぴかにきっとよ〜く似会うなあ、可愛いだろうなあって思ったんだけど。 」
「 ・・ あれ、かあ。 う〜ん ・・・ 」
「 うん。 あれを着たすぴかと、一緒にお出掛けしたいなあ、お父さんは。 」
「 今日は おしごと なんでしょ。 あそびにゆくのじゃないもん。 そうでしょ? 」
「 あ・・・ はい、そうです・・・ 」
「 それに、さ。 アタシ・・・スカートってすきくないんだ〜 」
「 そっか・・・ 」
「 うん。 お母さんはさ、女の子はスカートはきなさい、っていうけど。
アタシは おんなのこ だけど。 ずぼんがすき。 」
「 うん わかった。 すぴか、その短いGパン、とってもよく似合うよ。 」
ジョーはすぴかのちっちゃな手を ぽんぽん・・・と軽く叩いた。
すぴかは に・・・っと笑うと ぱたん、とお父さんに寄りかかってきた。
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
二人はお口を噤んだまま 目だけで笑いあった。
がたたん ・・・ がたたん ・・・ がたん がたん ・・・ がたたん・・・!
二人を乗せて真昼の電車はのろのろと灼熱の太陽の下、都心に向かっていた。
「 おとうさん、おとうさん! 起きろ〜〜 つぎ、のりかえだよ〜〜
ジョーォ〜〜〜 起きてェ〜〜 アイシテル〜〜 」
「 ・・・わわわ??? ふ、フラン??! 」
いつの間にか寝入ってしまったらしい。
突然 細君の囁き声を耳元に聞き、きゅ〜うっと耳を引っ張られ ― ジョーは飛び起きた。
目の前には ― 彼の娘が真剣な顔をして、覗き込んでいた。
「 ・・・ あ! す、すぴか! し、しぃ〜〜〜〜!! 」
「 つぎだよ〜〜 おきて、おとうさん!! 」
「 あ ・・・ ああ。 わかったよ・・・ ああ・・・びっくりした・・・
すぴか〜〜 お前の声ってお母さんに似てきたなあ。 」
「 そうかなあ? ジョー? はやくおきて〜 アイシテルゥ〜 って? 」
「 わわわ! そ、そんな大きな声で・・・ さ、降りるぞ。 」
「 うん。 あ! お父さん、おとうさ〜ん! このご本 おとうさんのだよォ〜〜 」
すぴかはぱたぱた父の後について電車を降りていった。
「 ・・・ 父子 ( おやこ ) だったんだ・・・?! 」
ちらちら二人を見ていた乗客達は 誰もがかなりびっくり顔をしていた・・・
「 きゃ〜〜〜 可愛い〜〜〜 !! 」
「 ホント!! お人形さんみたい〜〜〜 」
「 うわ〜〜ん 超美少女〜〜 ねえねえ、モデルとかやらないの? 」
「 すっげ〜美少女・・・! 奥さんそっくりですねえ〜〜 」
「 え・・・あ〜。 すいません・・・ 今日はコブ付きです。 」
ジョーは編集部につくと デスクの前でぺこり、とお辞儀をしたが ― 彼の言葉なんかだ〜れも
聞いてはいなかった。
皆 ― 編集長から同僚達までみ〜んなが うわ!っとジョーが手を引いてきた女の子に注目した。
「 ふうん ・・・ 島ちゃん、お嬢さんかい。 」
「 あ、編集長。 はい、長女の すぴか です。 すぴか、この方が編集長さん。
ここの編集部で一番偉いヒトだよ。 」
「 あはは・・・エライかどうか、わからんけどね〜。 こんにちは、すぴかちゃん。
編集長のスズキ イチローです。 」
ちょっと張伯父さんに似た体型のオジサンがにこにこしている。
「 こんにちは! 島村 すぴか です。 たくのしゅじんが いつもおせわになっています。 」
「 ・・・あは?! ああ、ああ〜〜 そうだね、うん〜〜 こちらこそ よろしく。 」
ぴょこん と頭をさげた少女に ― 編集部中が ぷ・・・っと吹き出しそうな顔をし ・・・
全員が必死に堪えた。
・・・・ははは ・・・ お母さんの真似、してるんだねえ、 おしゃまさん。
可愛い〜〜 島ちゃんの奥さんにそっくり〜〜♪
「 す、すぴか・・・ あ、編集長、あのゥ〜 実は自由研究で、ですねえ・・・ 」
「 ・・・ はあん?? 」
「 あ、すぴか。 この辺、見ておいで。 でも邪魔しないようにな。 えっと それでですね・・・ 」
「 お父さん わかった〜 」
ジョーが例によって要領悪くごにょごにょと説明している間、すぴかはそろそろ・・・<探検>に出発した。
<へんしゅうぶ>にいるヒト達は なんだかみ〜んなのんびりしていた。
おしゃべりをしていたり 表紙のない雑誌をぺらぺら捲ったりしている。
お茶を飲んでいるヒトもいるし、煙草を銜えているヒトもいた。
すぴかはそうっと・・・足音を立てないように、静かに・静かにお机の周りを歩いていった。
そこは ― 会社 というよりも 物置 に近い雰囲気だった。
・・・ お母さんが見たら。 う〜んと叱られそう。
すぴかは まずそう思った。
「 まあ・・・ 出したものはちゃんと元の場所にもどすこと! お約束でしょう?
あらあら・・・パソコンは使い終わったらちゃんと消す! このカップはもう空でしょう、置きっ放しはだめ。
紙なら燃えるゴミに捨てなさい。 ああ、ほら、姿勢が悪いですよ! 目が悪くなるわ。 」
そんなお母さんの声が もうすぴかの頭の中ではがんがん響いていた。
お父さんの会社 ・ へんしゅうぶ は。
どのお机の上にもいろんなものが ― 大体はご本や紙だったけど ― 重なって積み上がっていた。
お兄さんやお姉さん達は パソコンの画面を睨んだり紙になにか書き込んだりしている。
これでどうやって ざっし とか ご本 を作るのだろう・・・
すぴかは目をまんまるにして またそう〜〜っと 歩きまわりだした。
「 すぴかちゃん すぴかちゃん・・・ いらっしゃい? 」
「 ? はい。 お姉さん ・・・・ 」
「 ほら・・・見てごらん? これ、すぴかちゃんのお父さんが写してきた写真よう〜 」
ポニー・テールにして眼鏡のお姉さんが すぴかにパソコンの画面を見せてくれた。
「 ・・ うん ・・・あ、はい。 しってます。 」
「 そう? すごいなあ〜 うん・・・これをね、次に出る雑誌に載せるの。 」
「 ・・・ふうん ・・・ 」
「 すぴかちゃんのお父さんの撮る写真ね、人気があるのよ〜 ふふふ 次の号もイケるなあ〜 」
「 ???? 」
パソコンの画面はよく見えたけど、 どうやってご本を作るのか・・・すぴかにはさっぱりわからない。
かちゃかちゃかちゃかちゃ −−−−−!
隣の席では お兄さんが猛烈なスピードでキーボードを打っていた。
・・・・ あれ。 このお兄さん、なんにも見てないよ? あんきしているのかなあ?
すぴか達もけっこうパソコンには親しんでいるけれど、 DVDを見たりゲームをしたり
お父さんに教わってなにかを調たり・・・するくらいだ。
文章を打ち込んだこともあるけど、 お手本をみながら人差し指だけで打つので
ものすご〜〜く ものすご〜く時間がかかってしまう。
・・・ アタシ、えんぴつで書くほうが はやいしすきだなあ・・・・
字を書くことが得意なすぴかは いつもそう思っていたのだけれど。
目の前にいるGパンにTシャツのお兄さんは両手の指をぜ〜んぶ使って猛烈な速さで打っている。
・・・ アルベルト伯父さんが ピアノを弾いているみたい・・・!
すぴかは ますます目を丸くしてお兄さんの手元を見つめていた。
「 ・・・うん? 記事に興味があるのかな。 ・・・ 彼はさ、今 <お詫び> を書いててねえ。
記事とはいえないのよね〜 もしもし? 美少女が興味あり、だって。 」
「 ン〜〜〜っと 申し訳ございませんでした・・・っと。 え? な、なんですかァ?? 」
「 だ〜から。 タナカ君、 彼女にちょっと見せてあげてよ。 」
「 ななな なにをですか。 ボクのチョンボ・お詫び をですかァ・・ 」
「 そうじゃなくて。 記事を書くってとこ。 ・・・ ほら、島ちゃんのお嬢ちゃんだからさ。 」
「 あ、そうだったスね〜 わあああ〜〜〜ほっんとうに国民的美少女だなあ・・・ 」
「 ・・・ こんにちは。 島村すぴか です。 」
「 あ・・・あ。 ども。 タナカ ジローです。 ジョーさんのお嬢さんかあ〜〜うわ〜可愛いなあ。 」
「 お兄さん。 お兄さんは ぴあにすと ですか。 」
「 へ??? い、いやあ? ボクはピアノなんか弾けないよ。 どうして? 」
「 だって・・・お兄さん ・・・かちゃかちゃかちゃ〜〜って両手ですごい・・・
すぴかのアルベルトおじさんがピアノをひくときみたい・・・! 」
「 は?? ・・・へえ〜〜 君のおじさんはピアニストか〜 凄いねえ。
お母さんはバレリーナだろ? 君んちは芸術家そろいだね。 」
「 ??? あの・・・ ご本・・・ ぱそこんの中でつくるの? 」
「 え??? あ・・・う〜〜ん ・・・ これは原稿の下書きっていうかァ・・・
う〜〜ん ・・・ なんつってい〜んだ?? ・・・あ、そうだ、本のね、準備をしています。 」
「 準備?? すごいね、お兄さん ・・・ 」
「 すぴかちゃん、モデルとかやらないの? 君ならたちまち人気だよ〜
あ・・・それとも劇団とかにいるのかな? 」
「 ・・・アタシ。 びじんじゃないもん。 」
「 え〜〜 そんなこと、ないよ。 可愛いよ〜〜 すっごく♪
あ、よかったらタレント事務所とか紹介しようか? 君、歌は好き? 」
「 え。 アタシ。 お歌は好きだけど。 」
「 ちょっと! タナカ君! あンた、なにやってんのよ!?
( 島ちゃんのお嬢さんだよ? あンた・・・島ちゃんに聞こえたらどうなるか・・・わかってるわね?! )」
「 ひぇ・・・ッ そ、そうだった・・・ ジョーさん・・・ 実は実は ・・・ おっかないんじゃないかなあ。 」
「 こら。 子供の前で! それよか <お詫び>は書けた? あンたねえ、ごめんで済めば 」
「 はい! はい! チーフ! すぴかちゃん ごめんね〜 ちょっとお兄さんは大急ぎの仕事が
あるからさ・・・ あ、美人のお母さんにヨロシク〜♪ ・・・て!」
「 そ〜れが余計なコトだっての! 」
ガン・・・!とお机の下でなにか音がしたけれど。 すぴかはこの ピアニストじゃない・お兄さん の席から
離れた。
「 すぴか。 ちょっとこっちへおいで。 す〜ぴか・・・ 」
「 ・・・ あ。 お父さん。 は〜い。 」
お父さんがお机の前から手招きしている。
すぴかは 早足で ― でも足音がしないように ― お父さんのトコまで行った。
「 どうだい、面白いかな。 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ お片付け、しないとお母さんに叱られるね。 」
「 え? ・・・ あは・・・そうだねえ。 」
ジョーは自分のデスクと改めて眺め ― 他と同様、本やら雑誌、CDがトコロ狭しと積んである ―
娘にそうっと耳打ちした。
「 ・・・ お母さんには ナイショ だぞ。 」
「 うん・・・! 」
「 あのな、 これからちょっとだけなんだが、編集の打ち合わせがあるんだ。
すぴかにはつまらないと思うから・・・ 資料室で本や雑誌を見ているかい。 」
「 うちあわせ って なに。 」
「 う〜〜ん ・・・? 相談会みたいなもんかな〜 そうだ! 学級会ってあるだろう? 」
「 うん。 クラスの係とかきめるよ。 すぴかは けいじ係! いろんなモノ、クラスの壁に貼るんだ。 」
「 そうなんだ? じゃあ ・・・ 資料室、行こうか。 」
「 お父さん。 アタシ・・・ ここにいたい。 うちあわせ、きいたらだめ? 」
「 え・・・ いいけど。 きっと退屈だよ? ず〜っとおしゃべりしないで居られるかい。 」
「 うん、へいき。 おしゃべり、しない。 お口、とじてる。 」
「 そうか ・・・ それじゃ。 お父さんの後ろに椅子、置くから。 ここで聞いてなさい。 」
「 うん、わかった。 」
すぴかはこくん、と頷くとお父さんが準備してくれたパイプ椅子に腰掛けた。
「 すぴかちゃん? 咽喉、渇いたでしょう? どうぞ、召し上がれ。 」
「 あ ありがとうございます。 お姉さん。 」
さっきのポニー・テールのお姉さんが ジュースを持ってきてくれた。
すぴかは 本当は甘いジュースは好きじゃないのだけど、一生懸命飲んだ。
「 それじゃ ・・・ 打ち合わせ会、始めます〜 」
お姉さんの一言で 皆が椅子だけず〜ず〜引っ張って寄ってきた。
「 はい、次号の特集企画について ラフを話すと ― 」
へんしゅうぶ のヒト達は一生懸命 聞いたり、意見を言ったり・・・ 相談会 を始めた。
すぴかはお父さんの後ろで 椅子に座ったまま ― 脚をぶらぶらさせることもなく ―
じ〜〜〜っとお父さん達の話し合いを聞いていた。
「 うん ・・・ そうだな。 島ちゃん、イイコト言うねえ。 うん ・・・
ちょっといい意味でインパクトだな。 うん ・・・ じゃあ、そんな方向でゆくか。 」
張伯父さんみたいなオナカをした・編集長サンが ぼそ・・っと言った。
「 はい、それじゃそ〜ゆ〜コトで。 スケジュールは今日中にメールいれときます〜
ちゃんと確認しておいてね! はい それじゃ おわり〜 」
眼鏡のお姉さんが立ち上がって言うと、みんなまた椅子をず〜ず〜引っ張って自分のお机に帰っていった。
「 ・・・すぴか? 寝ちゃったかな・・・・ 」
「 おきてるよ! お父さん。 」
「 え・・・ あ、ごめん。 退屈だったろ。 大人しくしてて・・・偉かったね、すぴか。 」
ジョーは振り返って娘の頭をくちゃ・・・っと撫ぜた。
「 アタシ、かんさつ日記 かくんだもの。 おしごと、でしょ、お父さん。 」
「 あ・・・そうだよね。 自由研究、できそうかなあ。 」
「 う〜〜ん ・・・ わからないけど。 さっきのお父さんのいけんはわかった。 」
「 さっき?? 」
「 うん。 そうだん会 でお父さんのいけん。 すぴかもさんせい。 」
「 あ・・・そ、そうかい。 ( ・・・ なんだっけ?? )
さあ ・・・ もう少し社内を見学してゆこうか。 下のロビーに印刷所の写真とかあるから・・・ 」
「 ふうん ・・・ そこでご本のつくり方、わかる? 」
「 う〜ん 多分。 印刷所の紹介とかもあるからな。 ・・・わかるかなァ・・・ 」
「 すぴかちゃん。 ウチはね、 本や雑誌の <下ごしらえ> をするお仕事をしているんだよ。 」
じ〜っと娘に見つめられて大汗のジョーに 編集長が助け舟をだしてくれた。
「 へんしゅう長さん ・・・ 下ごしらえって? 」
「 うん、御飯を作るときに 野菜を切ったり肉に味付けしたりするだろう? あんなモンかな。 」
「 ふうん ・・・ 」
すぴかはぐる〜〜っと編集部をみまわした。
ここはもしかして。 張伯父さんトコのお店の ちゅうぼう と同じなのかなあ・・・
すぴかにはなんとな〜〜くお父さんの おしごと がわかったみたいな気がしていた。
「 さ、すぴか。 ロビーに行こうか。 自由研究 の資料をもらおう。 」
「 うん、お父さん。 」
「 あ、島ちゃん。 今日はもうお嬢ちゃんと直帰していいよ。
すぴかちゃん、自由研究頑張れよな。 もしよかったらオジサンにも見せてくれるか。」
「 うん、いいよ〜 あ・・・ はい、 いいです。 」
「 お〜〜 さすが島ちゃんちのお嬢さんねえ。 奥様の躾が素晴しいわァ
ねえねえ、 すぴかちゃん。 記念写真、皆で撮ろうよ。 すぴかちゃん、自由研究 に貼るといいわ。 」
「 え・・・ いいの。 」
「 いいわよ〜う 皆もすぴかちゃんとお写真撮りたいって。 ねえ? 」
どどどど・・・・ とお姉さんやお兄さん達たよってきた。
皆で固まって ― ちょっとぎゅうぎゅうだったけど ― ポーズをする。
すぴかは編集長さん と お父さんの間に収まった。
「 すぴかちゃん。 笑って 笑って〜〜 」
「 すぴか。 ほら、チーズ・・・って。 」
「 ・・・ だって。 お父さん、これっておしごと でしょ。 すぴか、笑わない。 」
「 あは・・・ そっか〜〜 あ、じゃあお願いします。 」
「 はい〜〜 」
― パシャ ・・・ もう一枚 パシャ・・・
ひどく生真面目な顔をした少女がメインの集合写真になった。
「 ただいま〜 」 「 ただいま! お母さ〜〜ん 」
お父さんとすぴかがお玄関の前で 全部言い終わらないうちにドアが開いた。
「 お帰りなさい! 」
「 ただいま〜 フラン ・・・ 」
「 ジョー お帰りなさい ・・・ 」
すぴかはそうっと しっかり抱き合って ちゅ〜〜〜ってやってる二人の脇をすり抜けて靴を脱いだ。
<ただいまのキス> ― 島村さんちではこれはなににも優る最優先行事で
子供たちも あつ〜〜い両親の姿にはもう慣れっこだった。
「 すぴか〜〜 お帰り〜〜 」
すばるがにこにこして走ってきた。
「 すばる〜 ただいまァ〜〜 あのさあ アタシさ・・・ あ、あれれ? 」
「 すぴか〜〜 !! ごめんなさいね〜〜 日にち、間違えてて・・・ お母さん、本当にダメね・・・ 」
急にふわ・・・っと抱き上げられ お母さんにきゅう〜〜っと抱っこされて ― すぴかはびっくりしてしまった。
「 お母さん ・・・ 」
「 えり先生から メールもらって・・・ もう お母さん、どうしよう〜〜って泣きそうになっちゃった・・・
すぴかがお家で一人なんて・・・って。 」
「 平気だよ〜 お母さん。 アタシ、もう二年生だもん。 」
「 だっておじいちゃまもいらっしゃらないし・・・ すぐにお家に帰ろうって思ったらお父さんからも
メールが来てね・・・ 」
「 うん! ねえねえ お母さん、すばる? アタシね〜〜 お父さんといっしょに しゅっきん したの! 」
「 え〜〜〜 え〜〜 いいなァ〜〜〜 」
「 えへへへ〜〜 いいでしょう〜〜 お父さんのかいしゃ で そうだん会 にでたんだ。 それでね・・・」
「 あらら・・・さあ、まずは二人とも手を洗って嗽してきて?
晩御飯にしましょ。 それからお話をしてね。 おじいちゃまもお帰りよ。」
「 は〜〜い♪ 」
島村さんち は全員揃ってまたまた賑やかな晩御飯たいむ を迎えるらしい。
― ぽちゃ −−−−ん ・・・・ !
天井から雫がひとつ。 湯船に落ちた。
「 ・・・うわ。 つめた〜い ・・・ 」
「 なあに? すぴか・・・ 」
シャンプーをしているお母さんがちら・・・っと振り返った。
「 ううん ・・・ なんでもない。 」
「 そう? 夏だけど ちゃんと浸かっているのよ。 もうすぐお母さん、終るから・・・ 」
「 うん ・・・ 」
すぴかは こっそり湯船から半分身体を乗り出した。
その夜、 すぴかは珍しくお母さんとお風呂にはいった。
いつもはすばると一緒なのだけれど、今晩はすばるはお父さんにひっついていたから。
お母さんは真っ白なお背中をこちらに向けて シャンプーをしている。
・・・ お母さん ・・・ きれい・・・
すぴかみたく、ひやけ してないし ・・・
お母さんの おしごと って。 どんなことなのかなあ・・・
えりせんせい みたくなこと、でしょ。 それから・・・??
ザ ァ −−−− シャワシャワシャワ −−−−
お母さんはシャワーでシャンプーの泡を洗い流している。
真っ白な背中に きらきらひかる髪がお湯に揺れて・・・とっても綺麗だ。
やがて きゅっとしまったウェストとカッコイイオシリが泡の下から見えてきた。
お母さん ・・・ すぴか ・・・ お母さんみたく きれいになれるかなあ・・・
そうだ ・・・ ! やっぱし。 お母さん の !
すぴかはぶくぶくぶく・・・と湯船に目の下まで沈んで うん! と <けっしん> をした。
Last
updated : 09.22.2009.
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********** 途中ですが・・・・
すすすす すみません 〜〜〜〜 <(_ _)>
またしても・またしても 終りませんでした・・・!
もう すぴかちゃん がどんどん行動してゆくので ・・・追いかけるのが大変・・・(^_^;)
お宜しければあと一回、お付き合いくださいませ <(_ _)>
後半は ・・・ お母さん が ターゲット・・・かも???
え〜〜と お判りかと思いますが。
ワタクシは 編集部 なる場所に勤務したことも見学に行ったこともありません★
したがって 全くの妄想で書いておりますので >> 編集部風景 ・・・
現場をご存知の方々には 噴飯モノ でありましょうが・・・
どうぞどうぞ寛大に お目を瞑ってくださいませ〜〜〜 <(_ _)>