『 冬の日に ― (2) ― 』
わっせ わっせ〜〜〜〜 ガサガサガサ〜〜〜〜
たっ たっ たっ タカタカタカ ・・・・!
「 ふう〜〜〜 もうちょっと〜〜 がんばれ〜〜〜 フランソワーズぅ〜〜〜 」
金髪美人は 両手の大きな嵩張る袋を持ち直し〜〜 再びダッシュしてゆく・・・
― ここは 町外れの崖っぷちに通じる坂道 。
そう ・・・ 島村さんちの奥さんが大荷物を抱えて急坂を駆け上っているのだ。
「 うう〜〜 もう大急ぎなのよ〜〜 なんだって忘れちゃったのかしら ・・・
もう〜〜〜 フランソワーズの おばかさん ! 」
ぶつぶつ言いつつ、それでも足をとめることなく 彼女はがしがし ずんずん坂を登る。
両手の荷物は嵩張るわりには 重くはない。
深いブルーやら 明るい空色、そして黄色やらピンク、グリーンも見える荷物の中身は
毛糸玉なのだ。
「 うふふ・・・ ジョーの好きなのはちゃ〜んとわかっているの。
青系統が好きなのよね〜〜〜 ジョーってば。
でも 青ばっかりじゃつまらないから アクセントにいろいろな色を入れるわ。
もう〜〜〜 毎年の年中行事なのに ! なんで〜 もう〜〜 わたしってば!
」
えっほ えっほ〜 と門まで辿り付いた。
「 季節に追いこされちゃった・・・ でも 頑張るわ!
手袋に マフラーに ・・・ 遅れたおわびにセーターも がんばる? 」
ようし・・・・! 彼女は一人、力強く頷くのだった。
その季節は いつでもふわふわの毛糸と一緒にやってきた。
「 ・・・・ わあ 〜〜〜 なあに 」
幼い娘は ソファの上で目をまん丸にした。
「 うふふ・・・ これはねえ、 冬を知らせる妖精 かしら 」
「 ・・・ ようせい? はね がはえているの? 」
「 ふふ・・ 羽根が生えるのはファンションやジャンかしれないわね 」
「 アタシやお兄ちゃんに?? 」
ファンションは 思わず反り返って自分の背中を見ている。 」
「 あらら・・ これがね、羽根の代わりになるのよ〜 」
「 そのふわふわのまるまるが ? 」
「 そうなのよ。 え〜と ファンションにはどれがいいかな〜〜
ほら どの色が好き? 」
母は大きな袋を開けてみせる。
「 わ〜〜〜〜 ・・・ きれ〜〜〜 」
「 ね どの色がいい? 」
「 ・・・ ボール? 」
「 いいえ これはね〜 毛糸よ、暖かい玉なの。 ファンション、好きな色はどれ? 」
「 え アタシ〜〜〜 あ! これ! このぴんく! 」
「 ああ これね。 はいわかったわ。 このピンクの玉がファンションの
手袋とマフラーになりま〜す 」
「 え〜〜〜〜〜 ママン ・・・ まほうつかい?? 」
「 うふふ・・・ 魔法使いの杖はねえ これです。 」
母は 細長い棒を娘に見せる。
「 まほうつかいの ・・・ つえ?? 」
「 そうよ、ほら見ててごらんなさい 」
「 ウン! 」
幼い娘は 碧い瞳をきっかり開いて母の手元を見つめている。
うふふ・・・・ そうなのよ〜〜〜
ママンの手はホンモノの魔法使いみたいに編み棒を操って
たちまち 小さな手袋やらマフラーを編み上げたのよね ・・・
幼い日、 秋も終わりの午後、母の膝の側で揺れる毛糸玉にじゃれて遊んだ。
「 そうよねえ・・・ ママンは本当に手先が器用だったものね ・・・
寒いのは好きじゃなかったけど、冬が来るのはちょっと楽しみだったわ 」
学齢期になってからも 晩秋のある日、帰宅して居間のドアを開けると ―
鮮やかな色彩がパッと目に入った。
「 ! わあ〜〜〜 ママン! それ あたらしいセーター? 」
「 お帰り、ファンション。 手を洗ってきましたか 」
「 ウン。 わあ〜〜〜〜 あったか〜い・・・ 」
少女は 母の側に寄ると そ・・・っと毛糸玉に頬を寄せた。
「 うふふ・・・ 冬の匂いがするかしら
」
「 うん! 雪のにおいがするわ ・・・ これは え〜と パパの? 」
「 そうよ、パパの手袋。 パパの好きなネイビーブルー・・・ 似合うと思うでしょ? 」
「 ウン! ぴったり♪ うわあ〜 あったか〜い〜〜〜 」
「 うふふ・・・ ファンションにはねえ〜 何色がいい? 」
母は 手元の袋をあけてくれた。
「 わあ ・・・ いろんな色がいっぱ〜〜〜い ! 」
「 新しい毛糸とね、昔のパパとママンのセーターを解いたのをまぜるわ。
皆キレイな色でしょう?
」
「 うん。 きれい〜〜〜 」
「 さあ ファンションはどれにしますか? 」
「 え ・・・ 好きなの、選んでいいの? 」
「 いいわよ。 毎年の手袋とマフラーは特別ですもの。 え〜と いつものピンクがいいかしら 」
「 え ・・・っと ・・・ あ あのね マフラーは・・・ これ! 」
「 まあ 雪の色 ね? 」
「 そうなの! 雪の精になれるかな〜〜
」
「 素敵ね、じゃあ ファンションのマフラーは決まりね。 手袋は? 」
「 う〜ん・・? あ! このグリーン、 お兄ちゃんに! 」
「 どれ? ああ これはねえ、パパが若い頃のセーターだったのよ・・・
上等の毛糸だからまだまだ使えるの。 じゃ これはジャンのマフラーね。 」
「 すご〜〜くぴったり! 手袋はねえ ・・・ あ これ! 」
妹は兄に 深緑色の毛糸を選んだ。
「 あら いいわね。マフラーともよく映えるし・・・ファンションはセンスがいいわね。 」
「 えへへ ・・・ あ そうだわ、ママンのは? 」
「 え? ああ ママンは去年のでいいわ。 」
「 え〜〜〜 ダメよ〜〜 あ ・・・ あのね ママン。 お願いがあるの 」
「 なあに。 」
「 アタシ ・・・ マフラー ・・・ あめる? 」
「 まあ ファンション〜〜 ええ ええ かぎ針編みならすぐに出来るわ。 」
「 じゃ 教えて? 」
「 いいわよ。 ええと ・・・ じゃあ この編み棒でねえ 毛糸は〜〜 」
「 あの ・・・ これ いい? 」
娘は 明るいオレンジ色の毛糸を選んだ。
「 まあ いい色を選んだわね。 じゃ これで編みましょ まずねえ 」
「 うん・・・? 」
母の側に張り付いて、 ちっちゃなファンションは毛糸と格闘を始めた。
「 まずね 毛糸の端っこをこうやって丸くしてね 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・? 」
なかなか言うコトを聞かない毛糸を ちいさな指が一生懸命ひねくっていた。
うふふ ・・・ そうよねえ〜 あの時が初めてだったわねえ
くる くる くる ― 編み棒を繰りつつ フランソワーズは自然に笑みがこぼれてしまう。
お日様燦々〜〜 な リビングで、彼女は熱心に編み続ける。
「 そうよねえ チビの頃、ママンが毛糸を編み始めると あ 冬がくる って思ったわ ・・・・
初めてのわたしの作品は ママンに!って編んだのよねえ 」
「 これ。 ママンのマフラーよ、わたしからのプレゼント。 」
「 まあ ・・・ ファンション ・・・! 」
母は 目を見張り、きゅ・・・・っと彼女を抱きしめキスをくれた。
そして 編み目もガタガタの短いマフラーをず〜〜〜っと大切に使ってくれていた。
くる くる くる ― 今はもう慣れたもので そろった編み目がどんどん続いてゆく。
「 初作品はねえ・・・ でこぼこだったけど、ママンはとっても喜んでくれたっけ・・・
そうそう ジョーと初めてここに暮らし始めた冬、 クリスマスに手編みのマフラーと手 袋を贈ったのよねえ 」
くる くる くる ころん。 彼女の足元で毛糸玉が転がる。
「 あの頃・・・ お金もなくて・・・仕方無く手作りしたのだけど ・・・ 」
この地に家を建て 定住するようになった年の冬のこと。
当たり前の穏やかな日々が流れはじめ ― クリスマスやら正月などの年中行事に
気持ちが向くようになった。
この国の クリスマス は やたらと賑やかで 若いカップルや家庭ではそれぞれ
それなりに 楽しもうとしていた。
崖っ淵のギルモア邸でも ―
「 ・・・ あの これ・・・。 手作りでごめんなさい ・・・ 」
ささやかなクリスマス・ディナーを準備して < 家族 > で これまたささやかに
プレゼント交換をした。
「 え ・・・ な なにかな〜〜 あけて いい? 」
「 ええ ・・・ もっと素敵なの、買えたらよかったんだけど ・・・ 」
「 ? ・・・ う わ〜〜〜〜〜〜 こ こ これ きみがつくった??? 」
ジョーは 半開きの包みを前に絶句している。
「 手編みなの。 あの・・・ カシミヤとかのを買いたかったんだけど 」
「 き きみの手編み?? これ ・・・ 」
「 あの ごめんなさい・・・ あの 気に入らなかったら 」
「 わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・!!!! ありがと〜〜〜〜〜〜〜 」
きゅう。 空色に紺の模様が入ったマフラーを彼は胸に抱きしめている。
「 あ ・・・ き 気に入ってくれた ? 」
「 さ い こ〜〜〜〜 だよぉ〜〜 ぼく ・・・てあみってもう
ず〜〜〜〜〜っと憧れてたんだ ・・・・ うわ〜〜〜 あったかい〜〜〜〜 」
「 あの ・・・ 使ってくれる? 」
「 もっちろ〜〜ん♪ うわ〜〜〜〜 うわ〜〜〜 すごい〜〜〜
手編みだよ 手編み? ぼくだけの手編みのマフラーだあ〜〜 」
彼はもう有頂天で マフラーをぐるぐる巻きにすると部屋の中を飛び回った。
「 この色さ、冬の空の色だよねえ〜〜 あは ・・・ きみの瞳の色 かな〜 」
「 ジョーって青系統 好きでしょ? シャツとかハンカチとかも青とか多いわよね 」
「 あ そうかも〜〜 ウン ・・・ 青、好きなんだ。 きみの目と同じだから・・・ 」
「 え? 」
「 あ ううん なんでもない〜 あ〜〜〜 最高だなあ〜 」
ジョーはマフラーに顔を埋めて なぜか頬を赤らめていた。
そう ― 手編みのマフラーにジョーは 滅茶苦茶に喜んだのだ。
彼は感激し毎日そのマフラーを巻いた、そう どこに行くにも・・・
そのあまりの喜びように 彼女は慌てて余り毛糸で手袋も編んだ。
「 あの これ・・・ あんまり必要ないかもしれないけど・・・
青、好きって言ってたでしょ? 」
「 !!!!!! 」
やたらとぶんぶん首を縦に振り、ジョーは感激でモノも言えず 彼女の作品を押し頂いた。
そして ―
「 あら もう手袋はいらないでしょう? 」
早い春の陽射しが照らすころになっても 彼はその手袋をはめマフラーを巻いていた。
「 帰り 寒いかもしれないし〜 朝はさあ 冷えるし 」
「 そう? それなら役立ててね 」
「 うん! イッテキマス〜〜〜 」
サイボーグとは思えない発言をし、彼は毎朝幸せそう〜〜に青いマフラーに包まり
青い手袋をはめて 出かけるのだった。
以来 毎年冬が近づくと、フランソワーズは < 家族 > のマフラーやら
手袋を編み始めるのだった。
彼が 仲間 から 恋人 になり ホンモノの家族 になり さらに 新しい命が
二人の間にやってきてからも その習慣は続いている・・はずだった。
それなのに。 チビたちのは編んだのに。 ジョーのを 忘れるなんて。
「 もう〜〜 わたしったら! ごめんなさいね、ジョー。
今年は セーターも編むわ! 青だけじゃなくてグリーンも好きなのよね〜 」
ころころころ ・・・ フランソワーズの足元に色とりどりの毛糸玉が転がっている。
「 ほらほら〜〜〜 もうベッドに入る時間でしょう? 」
母はコタツでこっくりやっているすばるの肩を揺らす。
「 う ・・・ うん ・・・ 」
「 すぴかさんも。 もう本はお終いよ、お休みの時間です。 」
反対側では すぴかがねそべって本を広げている。
「 アタシ まだねむくないもん〜〜 」
「 ベッドに入ればすぐ眠くなるわよ。 」
「 もうちょっとで〜〜 おわるんだもん〜〜 」
「 明日のお楽しみ、よ。 本はにげません。 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
ほらほら と 母は子供たちをコタツから引き出し?た。
「 おと〜さんがかえるまで まつ〜〜 」
「 僕も〜〜〜 」
「 お父さんは遅いの。 ほら〜〜 寒いでしょ、ベッドに入りましょ 」
「 ・・・コタツ べっど だめ? 」
「 だめです。 」
「 う〜〜〜 」
チビ達はぶつくさ言いつつも 本当は眠くてふらふらしているのだ。
「 また明日 ね〜〜 」
母は小さな背中を子供部屋まで押して行った。
ふう ・・・ やっと寝てくれたわ。
やれやれ とリビングに戻ってくると 彼女は毛糸の籠をもってコタツに陣取った。
「 さあ これからダッシュよ〜〜〜 ジョーが帰るまでにどこまでにできれば・・・・
マフラーが形になっていればいいんだけど 」
カチ きゅ きゅ カチカチ きゅ ・・・
静まり返った部屋に 編み棒と毛糸の触れる小さな音がきこえる。
「 ・・・ ん〜〜〜 と ここでグリーンを入れてっと ・・・ 」
こち こち こち。 壁の鳩時計がやはり小さな音で時を刻む。
「 ふう・・・ ジョー・・・今晩も遅いわねえ ・・・ 」
時々 首を回したり伸び〜〜をしたり ― それでも彼女の指は休みなく動く。
カタン ― 博士がそっとリビングのドアを開けた。
「 あ 〜 すまんがなあ 」
「 はい? 」
「 お茶をな ・・・ 熱いのをもらえるかな
」
「 はい すぐに。 どうぞコタツに入っていてくださいな。 」
「 ありがとうよ 」
フランソワーズはキッチンにゆくと 熱々のほうじ茶を博士の湯呑みにいっぱいにした。
「 はい どうぞ。 あの・・・ 今晩は冷えますからこちらにいらっしゃいません? 」
彼女はコタツを指した。
「 あ〜〜 ちょっとなあ・・・ コタツは気持ちが良すぎてなあ こう・・・
アタマも眠ってしまうので ワシにとって考えゴトには不向きじゃな。 」
「 あ そうですわね。 この前もおっしゃっていましたっけ 」
「 うむ ・・・ 子供たちと過ごすには最高じゃがな〜〜
コタツは皆でお茶でも飲むときの楽しみにするよ。 」
「 はい ・・・ 博士 ほらこの魔法瓶にもお茶を入れておきましたから・・ 」
「 お すまんな〜〜 これですっきりするぞ。 」
「 うふふ・・・ どうぞあまり夜更かしなさらないでくださいね〜 」
「 了解 了解 ・・・ お休み・・・ 」
「 お休みなさい、博士 」
ギルモア博士は 熱々の湯呑みと魔法瓶を抱え書斎に戻っていった。
「 やっぱり。 コタツは 人類を堕落させるわ。 」
うん ― フランソワーズは一人 重々しく頷き えいや!っとコタツから離脱した。
「 〜〜〜 あ ・・・ 温まるなあ〜〜〜 」
ジョーはコタツに入り、天板につっぷしている。
案の定、彼は日付が変わるころ帰宅した。
深夜のコタツで二人はぴたりと寄り添っている。
「 うふふ・・・ 夜食、どうぞ〜 」
「 ウン ・・・ うわ〜 いい匂いだねえ・・・わ 筑前煮〜〜♪ 」
「 ジョー、好きでしょ。 ず〜っとコトコト・・・煮てたから味、浸みてると思うわ 」
「 いただきま〜す 〜〜〜 んま〜〜〜〜 」
「 よかった〜〜 はい ほうじ茶どうぞ。 」
「 サンキュ〜〜 〜〜〜 んま 〜〜〜 」
「 うふふ・・・ 」
するり。 長い指が伸びてきて ― フランソワーズの襟元に忍び込む。
「 ・・・ あったかい ・・・ 」
「 こら・・・ お行儀悪いわよ〜 」
「 ぼく お腹ぺこぺこなんだ ・・・ 」
「 え ・・・ おかわり、あるわよ? 」
「 うう〜〜ん ・・・ きみが食べたい〜〜 んん 〜〜〜 」
「 ! こ〜ら ・・・ ダメよ、こんなトコで ・・・ 」
「 いいじゃないか ・・・ んん〜〜 」
「 こら〜〜 ・・・ あ やだ もう ・・・ 」
「 寒いし〜 お腹へってるし〜 きみが食べたい たべたいよ ・・・ 」
「 ・・・ ! だ だめ ・・・ ねえ ちゃんと ベッドで ・・・ 」
「 ・・・ いいじゃ〜ないか … 誰もいない ・・・ 」
「 いやよ ここはリビングなのよ ・・・ 皆の部屋 よ ・・・ 」
「 へいへい ・・・ それじゃ 〜〜っと 」
ジョーは さっと彼女を抱き上げるとそのまま寝室に上がって行った。
― 翌朝 ・・・ まだお日様が完全に顔を出す前 ・・・
フランソワーズは すっきり爽やかな顔でリビングに降りてきた。
「 おっはよう〜〜 さあ〜 コタツを撤収しま〜す 」
ばさ。 コタツ布団を取りのける。
「 ! あ … やっぱり ここに ・・・ ! もう〜〜 ジョーってば〜 」
彼女は 昨夜、ここに置き忘れた 彼女自身のレースの小さな布切れ を
慌ててエプロンのポケットに突っ込んだ。
「 あら? 靴下? あ〜〜 これはすばるのね〜〜 脱ぎっぱなし! 」
黄色と緑の縞々ソックスを摘みあげると、彼女は洗濯カゴに放り込んだ。
「 さあて ・・・と。 今から編み物〜〜〜 ラスト・スパート〜〜〜 ! 」
フランソワーズは ソファに座ると編み棒を熱心に動かし出した。
・・・ やがて リビングには朝陽が差し込んできて ・・・
「 おはよ〜〜〜〜 おか〜さ〜〜ん 」
すぴかは毎朝 一番元気よく、そして 時間ぴったりにリビングに降りてくる。
もっと小さな頃から この娘は早起きで一人で起きられるのだ。
「 はい おはよう〜 すぴかさん。 お顔 洗った? 」
「 あらったよ〜〜 ぷるん ぷる〜〜ん♪ ね〜 かみ ゆわえて〜〜 」
「 はいはい ・・・ ちょっと待ってね、もうすぐオムレツできるから 」
「 ウン♪ ふ〜〜んふんふん〜〜 ? あれ??? 」
すぴかはソファの陰から出て 棒立ちになっている。
「 ・・・ ないよ〜〜〜〜 」
「 はい お待ちどうさま〜 あら どうしたの? 」
「 おか〜さん! たいへんだ〜〜〜 コタツが コタツがどっかいっちゃったよ〜〜 」
「 ああ そうね、 ほらここで髪を編みましょ。 」
母はぽんぽん、とソファを叩いた。
「 いい けど ・・・ あ〜〜 もっとぎっちぎちにあんで〜〜 」
「 はいはい ねえ ピンクのおリボンつけても 」
「 だめ。 ゴムでぎっちりとめて〜〜 なわとびしてもとれないよ〜に 」
「 ・・・ はいはい 」
「 ね おか〜さん コタツ〜〜〜 」
「 あ コタツは今朝からおやすみなの。 ・・・ と はい、編めましたよ 」
「 ふ〜〜〜ん ? うん サンキュ 」
金色のお下げをぶんぶん振ってすぴかはに〜んまり している。
「 さあ 朝ご飯よ〜 あ すばるは 」
「 おきろ〜〜って いっといたけど? 」
「 ・・・ そ ・・・ ありがとう。 じゃあ ほら先に食べて? 」
「 う ん ・・・
」
すぴかは ちらちらリビングのドアを見て居る。
− カタン、 ドアが開いて〜〜
「 やあ おはよう〜 」
博士が タオルでごしごし・・・顔を拭きつつやってきた。
「 おじ〜ちゃま〜〜 おはよう〜〜〜 」
「 おはようございます、博士。 」
「 はい お早う さすがに冷えるのう〜〜〜 」
「 コーヒー 淹れたてです、どうぞ。 」
「 うむ うむ ありがとうよ ふう〜〜〜 」
どっこいしょ・・と博士は自分のイスに座った。
「 おじいちゃま〜 ねえ コタツがね おやすみなんだって 」
「 はん? 」
「 今朝はちょっと・・・ あ お寒いようでしたらヒーターの温度 上げますが 」
「 いや よいよ。 このくらいの方が目がすっきり冴える。
すぴかや、寒いかい 」
「 むぐ〜〜 ・・・ ううん さむくないよ〜 」
「 それならば ワシもこのままでよいよ。 すぴかや、しっかりマフラー巻いて登校しなさい。 」
「 うん! おか〜さんのマフラーとてぶくろ と〜ってもあったかいもん♪ 」
「 そうじゃなあ〜 お母さんの編み物は最高じゃよ。 うん? 相棒はどうしたね 」
「 まだねてる〜〜 」
「 あ! 時間が ・・・ すばる〜〜〜〜!!! 起きなさい〜〜〜 」
母は時計を見ると 子供部屋に飛んでいった。
トタ トタ トタ ・・・
はやく はやく〜 と母に急かされつつ ― すばるが のんびり起きてきた。
「 ふぁ〜〜〜 おはよう〜〜〜 おじ〜ちゃま〜〜〜 ふぁ〜〜 すぴかぁ〜 」
居間に入ってきて すばるは大あくび。 そしてなにやらきょろきょろしている。、
「 ・・・ あれぇ〜 僕の〜 クツシタ・・・・ 」
「 すばるクン、持ってきてませんよ 裸足でしょ 」
「 ウン ・・・ ゆうべ コタツにいれといたんだ〜 コタツ?? 」
「 え やだ、あの靴下は新しいのだったの? 」
「 ウン あっためといて〜 あさ はくの。 あれえ コタツ〜〜〜 は? 」
「 まあ ・・・ いつもそうしていたの? 」
「 ウン。 こんど しゃつもさ〜 いれとうこうかな 」
「 ダメです! もう〜〜 あの靴下は洗濯機に入れちゃったわよ。
ほらほら〜〜 今 お母さんが靴下、もってくるから。 はやくご飯 食べて 」
「 うん ・・・ コタツ〜〜〜? 」
「 コタツはおやすみ! さき ゆくよ〜〜 」
ごちそうさま〜〜 と すぴかはぽん、とイスから飛び降りた。
「 すぴかさん ちょっと待っててね ごめんね。 」
「 う〜〜〜 すばる〜〜 はやくしろ〜〜〜 アタシ、 なわとびやりたいの〜〜
はやく校庭でようね〜〜って ゆみちゃんとやくそくしてるの〜〜 」
「 むぐ〜〜〜〜 おか〜さん さむい〜〜 」
「 ほら クツシタ! 履けば寒くないわよ。 ほらほら急いで〜〜 」
「 ウン・・・ ね〜 コタツさんにさ〜 明日はおやすみしないで〜って
いっといて 」
「 コタツさんはしばらくおやすみ よ。 」
「 え〜〜〜 こしょう? おじいちゃま〜〜〜 なおして〜〜〜 」
「 別にコタツは壊れません。 お休みです。 」
「 ふ〜〜ん? いんふるえんざ? 」
「 違いますよ、 ほら〜〜〜 はやく食べて! すぴかが待ってます 」
「 うん むぐ〜〜〜 」
結局 いつもの通り ― すぴかがじれじれした挙句、弟をひっぱって登校して行った。
「 いってらっしゃ〜〜い すぴか〜 すばる〜〜 気をつけてね〜〜 」
「 いってきま〜〜す〜〜〜〜 」
坂の上、門の前で手を振る母に 二人はぶんぶん手を振り返す。
「 おか〜さ〜〜〜ん ・・・コタツさん〜〜〜もどってきて〜って呼んでおいて〜〜〜 」
最後に角を曲がる前に すぴかが絶叫して行った。
「 あらら ・・・ やっぱり寒かったのかしらねえ ・・・ 」
部屋に戻ると 博士が新聞を広げていた。
「 元気に登校したかい。 」
「 はい。 コタツさんをよんでおいて ですって。 」
「 うん? あ〜 チビさん達には 寒いかもなあ・・・ この部屋は 」
バサリ。 新聞を置いて博士はぐるりと見回した。
「 あら そうですか。 」
「 うむ ・・・ ほれ オトナの背の高さだと温風をよく感じるがなあ
子供じゃと床に近いから寒いのかもしれんよ。 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 床暖房にでも改築するか 」
「 あ いえ! そんなことしたら 子供たちは床にごろごろします〜〜〜
コタツだってもう寝ころんで入りっぱなしなんですもの。 」
「 あはは・・・ そうじゃなあ〜 コタツの心地よさはなんというか
麻薬的じゃからな。 」
「 ええ。 だからしばらく撤去しようと思うのですけど 」
「 うむ ・・・ まあ あの楽しさも捨てがたいからのう・・・
時間を決めて使ったらどういかな。 」
「 時間をきめて ? 」
「 なんというか・・・ 皆ですごす時に使う とかな。
ワシもチビさんたちとのおしゃべりが 楽しみなんでなあ 」
「 はあ ・・・ そうですねえ 」
「 ま 考えておいておくれ。 ふむ、ワシは温風が床近くから噴出するように
ちょいと改造を考えてみる。 」
「 あの・・・ お仕事のお邪魔では ・・・ 」
「 いやいや・・・ ちょっとした頭休めじゃよ 」
発明好きの博士は に〜んまりしていた。
「 〜〜〜 さむ〜〜〜〜 」
子供たちがとっくに登校した後 やっとジョーが起きてきた。
「 お早う ジョー。 ヒーターの温度、上げましょうか? 」
「 あ ・・・ いいよ あれ コタツは? 」
「 あの ― それがね 」
フランソワーズは コタツ撤収 について話をした。
「 ・・・ なるほどなあ〜〜 」
「 あ でもジョーが寒いのなら ・・・ 」
「 いや いいよ。 うん ・・・ 博士の おっしゃる通りかもな〜 」
「 え? 」
「 コタツ さ。 リビングでコタツ は 皆で楽しむ時間 にすればいいんだよね 」
「 ・・・ あ そうねえ 」
「 べつにさ〜 コタツは悪くないよ〜 やっぱ人類の宝モノだと思うよ。
ただ さ・・・ 使う ぼくらがだらしないのかもしれないよね〜 へへへ 」
「 そう かも ・・・ わたしも 脚が楽だし・・・ 」
「 じゃ ちょっと庭の落ち葉掃き してくるね 」
「 え?? でも出勤の時間 ・・・ 」
「 あは 今日はね〜 午後からなんだ〜 」
「 そうなの? それじゃ ・・・ これ どうぞ! 」
フランソワーズは 朝方編み上げたばかりのマフラーを ぱさり、と彼の首にかけた。
「 !! うわ〜〜〜お〜〜〜〜〜 ♪ 」
「 遅くなってごめんなさいね 」
「 ううん〜〜〜 うわ〜〜〜〜 あったか〜〜〜〜 へへへ〜〜〜
編集部で皆にみせびらかすんだ〜〜〜 うわ〜〜〜い〜〜〜〜 」
ジョーは手編みのマフラーをぐるぐる巻きにすると 軽い足取りで庭に出ていった。
朝の空気は ピリリ ・・・と厳しいけれど。 燦々お日様はあたたかい。
島村さんち の 冬の日は 今日も明日もぽかぽか・あったか〜〜♪
************************** Fin. *****************************
Last updated : 01,19,2016.
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************ ひと言 ***********
ね? な〜〜〜んにも起きません ・・・・・
コタツって 麻薬的効果 あり、ですよねえ・・・