『 冬の日に ― (1) ― 』
ひゅううう 〜〜〜〜〜 ・・・・・ !
裏山から乾いた冷たい風が 崖っぷちの邸の上を吹き抜けてゆく。
ビュウウウウウ −−−−−
海からの冷たく湿った風が 崖の上の邸めがけて吹き上げてくる。
「 ううう ・・・ さっむ〜〜〜い〜〜〜〜 」
フランソワーズは あわててテラスに続くフレンチ窓を音を立てて閉め
リビングに戻った。
「 あ 〜〜〜 もう ・・・ 冬の洗濯モノ干しはほっんとうに冷たいわ・・・ 」
彼女は赤くなった指先を ゴシゴシとこすりあわせるのだった。
「 ・・・ そりゃね、乾燥機を使えば楽だし早いわよね・・・
でも わたし、どうしてもお日様に干したいの。 だって匂いが違うもの・・・
お日様の香って最高だと思うのね〜〜 ああ けど寒い〜〜〜 」
サイボーグであっても 冬の北風は寒い!のである。
この辺りは温暖な気候で真冬であっても 燦々とたっぷりな陽ざしが降り注ぐ。
日中の日溜りは 蕩けるほど暖かくまるで常春の国〜〜 みたいなのだが
吹き抜ける風は やはり冬の風、人々はマフラーに埋もれ首を竦め
背を丸くする。
― この崖っぷちの洋館でも 同じこと。
朝晩の冷え込みに 住人たちは身を縮めるのだった。
「 ふ〜〜〜 ・・・ ああ お日様の光はこんなに明るいのにねえ ・・・
なんて寒い風なのかしら ・・・・ ふう〜〜
さあ さっさと片づけて〜〜〜 ふふふ〜〜 今日はのんびりできるのね〜〜 」
パタパタ・・・ ランドリー・ルームに洗濯もの用の籠と洗濯ばさみを置きにゆく。
そのまま キッチンに行きしばらくゴソゴソやっていたが
やがて ―
「 うふふ ・・・ さ〜〜 わたしだけのお茶タイムで〜す。 」
ことん。 お気に入りのカップにカフェ・オ・レ をたっぷり・・・
彼女はにこにこ〜〜 そのままするり、と滑り込む ― コタツに。
冬になるとギルモア邸のリビングに 大き目なホーム・コタツ が出現するのだ。
特殊な事情を持つ彼らがこの地に住みついた年の冬に 地元民でもあるジョーが
持ち込んだ。
最初は敬遠気味だったメンバー達も 今では ―
「 〜〜〜〜〜 ・・・ あ〜〜〜 シアワセ〜〜〜〜 」
広々としたコタツの中に 思いっ切り脚を伸ばし 天板にほほを寄せた。
「 んん〜〜〜〜〜 ・・・・ ああ いい気持ち♪
コタツって。 日本人が発明した人類最強のマシンよね〜〜〜 」
あ〜〜 フランソワーズさん・・・ コタツの発明者は日本人かどうかわかりませんが?
「 細かいことはいいの。 こうやっているだけでもうほっんとうにシアワセ〜〜 」
うふん ・・・ カフェ・オ・レを一口味わうと 彼女はまた ぱたん…と
コタツの天板に顔を乗せるのだった。
「 ・・・ あは〜〜〜 コタツ 独り占め〜〜〜 最高だわ〜〜 」
ちょっとだけ・・・ と彼女はアラームを掛けると すう〜〜っと寝入ってしまった。
普段のリビング、 いや コタツ の周辺では ・・・
「 ふう〜〜 やっとお掃除終わったわ〜 ・・・ ねえ おかあさんも入れて。 」
「「 ・・・ ん〜〜〜 」」
色違いのちっこい頭は 生返事をしもぞもぞ〜〜ちょびっとだけ動いた。
姉は左に、弟は右に ほんの心持ち空間をあけた。
「 あの〜〜〜 お母さんがここに入れると思う? 」
「「 おもう〜〜
」」
二人はろくにこっち見もしない。
「 あ そ。 それならお母さんもここにはいらせてもらいます、pardon! 」
母は強引に狭い隙間に入りこんだ。
「 〜〜 うわお〜〜〜 」
「 うわ〜〜〜 宇宙怪獣が攻めてきたあ〜〜〜 」
「 ふん。 ここはお母さんの席です。 」
わらわらしている4本の脚を左右に散らし、 フランソワーズはなんとか
空間を確保した。
「 ほらあ〜 もうちょっとそっちに行ってよ〜〜 すばる〜〜 」
「 むり〜〜〜 ここじゃないとTVが見えないも〜ん 」
「 あ コタツでTVは禁止 でしょ。 消しますよ。 」
「 え〜〜〜 あ ・・・・。 」
母は無情にスイッチ オフ にする。
「 え〜 じゃないでしょ。 コタツTVしてたらな〜〜んにもできないでしょ?
コタツはいっててもいいから 宿題は? もう終わったの? 」
「 ・・・ これから。 」
「 すぐにやりなさい。 ここでやっていいから。 」
「 ・・・ う〜〜 取りに行くの めんど〜 」
「 宿題に脚は生えてませんよ。 」
「 ・・ う〜〜 さむ〜〜〜 」
すばるは不承不承子供部屋に宿題を取りに行く。
「 すぴかさんは? 宿題は? 」
「 おわった〜〜 とっく! 」
母の横で寝そべって 娘は本に夢中である。
「 あ そ。 あら 今日はお外に遊びにゆかないの? いいお天気よね〜〜 」
「 いかない。 」
「 なわとびけんてい があるから練習する〜って言ってたじゃない? 」
「 けんてい、おっけ〜だもん。 アタシ、にじゅうとび 20回かるくくりあ〜 」
相変わらず運動神経抜群の娘は 顔もあげない。
「 ふうん〜〜 すごいなあ〜 でも練習しといた方がよくない? 」
「 学校でやったも〜ん 」
「 ウチでもやったら? あ 公園でゆみちゃんたちと 」
「 さむいから。 今日はちゅうし なの。 」
「 あ そ。 ・・・・ ねえ なに読んでるの? 」
「 めいたんてい ホームズ。 」
「 まあ〜〜〜 お母さんも読んだわ〜〜 どんなお話? 」
「 おか〜さん 読んだならしってるでしょ〜? 」
読書の邪魔をされたくない娘は ごろん・・・と反対側を向いてしまった。
「 あ・・・ら。 あ すぴかさん〜〜〜 寝っ転がって本 は だめ。
目が悪くなりますよ 」
「 わかったよ! 」
うるさいなあ〜〜 って顔でもぞもぞ座り直し ― 目は本から離れない。
「 ― それならいいわ。 ・・・ え〜と お母さんは・・・
あ 学校からのお知らせ 読まなくちゃ。 ・・・ ほごしゃかいのおしらせ。
ふうん ・・・ 」
「 うわ〜〜〜〜〜 滑り込み〜〜〜 せーふ〜〜 」
どすん。 すばるが宿題を持ってコタツに乱入してきた。
「 あ〜〜〜 さ む〜〜い〜〜 はやく入ってよ〜〜〜 すばる! 」
「 うお〜〜〜 あったかい〜〜〜 」
「 あっちいって。 じゃま。 」
「 すぴかこそ じゃま。 僕 宿題するだもん。 」
「 アタシはと〜〜〜〜っくに終わってるも〜〜ん
」
「 えっと〜〜 プリント〜〜 は 」
すばるは 姉を無視してプリントをひろげた。
「 あら すばるクン。 国語の宿題? ねえ ねえ 音読 とかないの?
お母さん 聞きたいなあ〜 」
「 ・・・ 音読はおじいちゃまに聞いてもらうやくそくだから いい。 」
「 あら そう。 それなら・・・ あ〜〜 漢字ね これ。 」
「 ・・・ 見ないで 」
「 見てないわよ。 」
「 見てるってば。 僕 ひとりでやる。 」
「 しゅくだいは〜〜 ひとりでやりましょ〜〜〜 」
すぴかが 本から目を離さずに声を上げた。
「 わかってらい! だから おか〜さん みないで。 」
「 わかりましたよ 」
「 ・・・ おか〜さん まちがえるからな〜〜〜 かんじ・・・ 」
「 え なあに? 」
「 なんでもな〜〜い〜〜〜 」
「 おか〜さん しずかにしてて〜〜 」
くるり。 子供たちはそれぞれの世界に没頭してしまった。
「 ん ・・・ も〜〜〜〜 ・・・ いいわよ〜だ。
お母さんは ― 学校からのお知らせ。 読むんです。
えっと ほごしゃかいのおしらせ。 ほごしゃかい・・・ってことは〜〜
えっと ・・・ 辞書〜〜 ふぁ〜〜〜 」
おっとっと・・・ フランソワーズは慌てて欠伸を隠したが 子供たちはぜ〜〜んぜん
彼女の方を見てもいなかった。
あ よかった・・・ ふぁ〜・・・
けど〜 このプリント〜〜 やっぱ辞書がないとワケわかんないわ〜
< 放課後活動での児童指導員、及び保護者の参加について > ってなに?
あ。 そっか。 自動翻訳機、使っちゃえ〜〜 <おんどく>すれば
訳してくれるわよね〜〜
この国に暮らしだし そしてこの国の青年と結婚して10年近く ・・・
フランソワーズは日本語の日常会話にはほぼ不自由していない。
TVもラジオも ほとんど理解できる ― が。 読む は今だにちょっと苦手なのだ。
「 え〜と ほうかごかつどうでのじどうしどういんおよびほごしゃのさんか・・・ っと。
〜〜〜〜〜 ? え? 」
003の自動翻訳機 は ズズズ −−−− と雑音を発しただけだった。
「 ヘンねえ?? 錆び付いちゃったのかしら。
やっぱり辞書 使わないとダメなの〜〜 ・・・ コタツ 出るのお?? 」
― BGの名誉?のために言っておくが。
BGの言語モジュール・日本語版@196X年版 に 初等児童教育分野の単語が搭載されている・・・
はずはないのである。 錆び付いているわけじゃないよ、フランちゃん☆
「 ・・・ま いっか〜 さんかします に ○。 あとはジョーにたのみま〜す 」
島村さんの奥さんはさっと ○ をつけてプリントをしまった。
「 ふ〜 ・・・ ! いたっ だあれ〜〜 蹴飛ばしたの? 」
「 ! あ ごめ〜ん お母さんのあしだったのか〜〜 」
すぴかが ヤバ・・・という表情で母を見た。
「 も〜〜 コタツの中ではお行儀よくしましょう? 」
「 ごめ〜〜ん ・・・ 」
「 よろしい。 さ〜て 今晩のご飯は〜〜っと ・・・ ジョーはどうせ遅いし〜
博士も晩御飯は済ませてくるっておっしゃっていたし〜〜 」
「 おじいちゃま おそいの? 」
すばるが 宿題ノートから顔をあげた。
「 そうなんですって。 コズミ先生や他の専門家の方たちとの会議なんですって。」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
「 あ すばるクン、音読! お母さんが聞いてあげるわ。 」
「 ・・・ いま ここで? 」
「 そうよ〜 そうすれば宿題 終わるでしょう? 」
「 ・・・ 漢字は終わったけどぉ〜 」
「 じゃ 音読。 ほら どこを読むの? 教科書は? 」
「 今日は先生のぷりんと。 ちょっとむずかしいけど チャレンジしましょうって 」
「 まあ〜〜 すてき。 それなら ・・・ はい どうぞ? 」
「 ウン・・・ え〜と ・・・ 」
「 あら? ほら ちゃんと姿勢を正しく。 背筋を伸ばして大きな声でどうぞ。」
「 ・・・・ 」
すばるは うっせ〜な〜〜・・・って目つきでチラっと母を見ると読み始めた。
「 『 だいぞうじいさん と がん 』 〜〜〜〜〜〜〜 」
フランソワーズは 息子の隣できちっと背筋を立てて座り彼の声に耳を澄ませた。
「 〜〜〜 〜〜 〜〜〜〜 〜〜〜 」
「 え! 行け〜〜〜 ざんせつ!! 行け! ハヤブサに負けるな〜〜〜 」
「 。 お母さん。 黙って聞いて。 」
「 あ・・・ ごめん ・・・ どうぞ続けてください。 」
「 えっと 〜〜〜 〜〜〜〜〜〜 」
「 ・・・ まあ なんて潔いのでしょう〜〜〜〜 ざんせつは武人なのよね♪
誇り高いサムライ なんだわ〜〜〜 」
「 お母さん。 」
「 ぶ〜〜〜〜〜。 じょうえん中はおしずかにねがいます〜〜〜
すばる、そこ よみかたちがうよ〜〜 」
いつの間にか すぴかも本を閉じて聞いている。
「 わ わかってらい! いま 読みなおすもん。 え〜と・・・ 」
「 < え〜と > って ぶんしょう、ないよ〜〜 」
「 すぴか〜〜〜 だまってて〜〜〜 」
「 注意しただけだも〜ん 」
「 すぴかさん? 今は すばるが主役だから。 静かにききましょう。 」
「 ・・・・・・ 」
「 〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜〜 」
すばるは つっかえることなくとつとつと読んでゆく。
「 〜〜 ました。 おしまい 」
「 ・・・ ああ 〜〜〜 ステキなお話ねえ〜〜面白かったです。 」
「 この表に○、つけて〜 」
「 はいはい・・・ えっと? 元気よく大きな声で ◎ 正しい姿勢で ◎
気持ちを込めて ◎ 間違えないように ◎ ・・・ 」
「 あ さっき間違えたじゃ〜ん すばる〜〜〜 」
「 ちゃ ちゃんとよみなおしたもん! 」
「 そうね〜〜 気がついたからいいわ。 はい よく読めました。 」
「 お母さん < つづき > は? 」
「 は??? つづき??? この・・・ お話の? 」
「 ウン。 おじいちゃまはいっつも < つづき > をお話してくれるよ〜〜 」
「 そうだよね〜〜 ガン と ハヤブサ のちがい とか いろ〜〜んなこと。
アタシ おじいちゃまの < つづき > 大好き〜〜 」
「 僕も! 学校の先生よか おじいちゃまのお話 面白いも〜ん 」
「 ね〜〜〜〜 」
「 あら いいわねえ お母さんも聞きたいわあ〜 」
「 僕たちが おんどく する時に聞けば。 」
「 そ〜だよね〜〜 」
くるん。 子供たちは またそれぞれの方向を向いてしまった。
「 ふ〜〜ん ・・・だ。 わかりました。 じゃあ お母さんも本でも読もうかな〜 」
「 ! おか〜さん ばんごはん なに。 」
「 え 〜 ・・・ と? 」
「 僕 カレーがいい! 」
「 アタシも〜〜〜 」
「 日曜日 カレーだったでしょう? 」
「 ウン。 今日もかれーでいい。 」
「 ね〜〜 おか〜さん カレ〜〜〜〜 」
「 ・・・ そ〜ね・・・ お父さんもおじいちゃまも遅いし〜 じゃ カレーにしましょ。
チキン・カレーでいい? 」
「 「 いい〜〜〜 ♪ 」 」
「 あ〜 それなら二人とも手伝ってくれる? 」
「「 あ〜〜〜〜 う〜〜〜 ん ・・・ 」」
「 すばる、 ジャガイモ 剥いてよ? すぴか サラダにするプチ・トマト、
温室から採ってきて? 」
「「 え 〜〜〜 しゅくだいが〜〜 」」
子供たちは ずずず・・・っとカメさんみたいにコタツの中にもぐり込んでしまった。
「 あ〜〜ら 宿題、と〜〜っくに終わったんでしょ すぴかさん。
音読やって お終い、でしょ すばるクン? 」
「「 ・・・・・
」」
「 お手伝いしてくれないなら ・・・ あ そうだわ、お魚があるから
焼き魚に大根おろし にしようかな〜〜 あとは 長ネギとお豆腐のお味噌汁に 〜 」
「「 おてつだい する〜〜〜 」」
「 まあ〜〜 ありがと。 それじゃ 」
「 う〜〜〜〜 えいっ ! 」
すぴかが 意を決したみたいな顔をしてコタツから脱出した。
「 ぷち とまと とさ〜 いちご もとってきていい? 」
「 いいわよ〜〜 でも 苺はまだ赤くなってないかもね 」
「 みてくる。 」
「 はい お願いね〜〜 今 ボウルをもってくるわ。 」
「 ・・・ おか〜さん ・・・ じゃがいも、ここにもってきて いい? 」
すばるは まだコタツの中でもぞもぞしている。
「 あ〜〜ら? ここはキッチンじゃありませんよ?
包丁を使う時は ちゃんとキッチンに行きましょ。 ほら いっ せ〜〜の! 」
「 ! うわあ〜〜〜 」
フランソワーズは 息子の腕を掴んでコタツを離脱した。
「 「 いっただっきま〜〜〜す〜〜〜 」」
「 はい どうぞ。 」
ふわ〜〜ん ・・・ カレーのいい匂いがリビング中に充満している。
「 〜〜〜〜 むぐむぐむぐ〜〜〜 」
「 はぐ はぐはぐ〜〜〜 」
「 〜〜〜んん おいし〜〜 すばるの剥いたジャガイモ〜 おいしいわあ〜〜
プチ・トマト 〜〜 真っ赤なのばかりね〜 すぴか 」
三人だけの晩御飯だけど 結構楽しく盛り上がった。
「 〜〜〜 ふは〜〜〜〜 なんかアツいね〜〜 おか〜さん 」
すぴかが はふはふ〜〜赤い顔をしつつカレーを頬張っている。
「 ふ〜〜〜 僕も〜 おか〜さん 冷たいお水〜〜〜 」
「 コタツからでたら、すぴかさん。 すばるクン 自分でもっていらっしゃい。 」
「「 ・・・ じゃあ いいや 」」
「 やっぱりね、ちゃんと食卓でご飯にするべきだったわ。 もう・・・ 」
「「 コタツがいい〜〜〜 」
母は渋っていたのだが ― 結局 コタツで晩御飯となった。
「 だってあったかいし〜〜 」
「 だってキモチいいし〜〜〜 」
「 今晩だけよ? お父さんやおじいちゃまがいらっしゃる時はだめ。 」
「 なんで〜〜〜 」
「 だって・・・ほら 二人とも背中 丸くなってるわよ?
ほらほら ・・・ コタツ布団の上にぼろぼろこぼさないの。 」
へいへい〜〜〜 子供たちは顔を見合わせ もぞもぞ背筋を伸ばした。
「 う〜〜ん 今日のチキン・カレー 美味しくできたわね〜〜 」
「「 うん♪ 」」
ぶつぶつ文句を言いつつも、母はにこにこ〜〜 のんびり晩御飯を楽しんでいた。
「 二人ともお手伝いありがとう。 それじゃ〜〜後片付けも手伝って♪ 」
「「 え〜〜〜〜〜 」」
「 ほらあ〜〜 いっせ〜のせっ! でキッチンに行きますよ ! 」
― バサっ フランソワーズはさっとコタツ布団をめくりあげた。
「「 うわ〜〜〜 さむ〜〜〜〜 」」
「 ほらほら お皿 もって? 二人で洗ってちょうだいな。 」
「「 へ〜〜い 」」
この家では子供たちでもちゃんと自分の食器を洗うのだ。
カチャ カチャ ・・・ チリン 〜〜 カチン
「 あらった〜〜〜 おか〜さん 」
「 僕もあらった〜〜〜 」
「 はい。 じゃ きちんと手を拭いて 」
「「 わ〜〜〜い♪ 」」
子供たちは あっと言う間にリビングに ― いや コタツに突入してしまった。
「 ・・・ もう〜〜 ああ でもキッチン 寒いものねえ〜〜〜
ま ちゃんと食器は洗ったし。 うふふ・・・デザート〜〜もっていこうかな♪ 」
母は にこにこ・・・冷蔵庫から杏仁豆腐の小皿を取りだした。
「 ― 戻ったよ ・・・ 」
「 お帰りなさい、博士。 お寒かったでしょう? 」
門の音を聞くと フランソワーズはすぐに玄関に行きドアを開けた。
カチャ。 博士がカシミヤのマフラーに埋まって入ってきた。
「 〜〜〜 暖冬とはいえ 夜は冷えるのう〜 」
「 ええ ええ。 早くお上がりになって ・・・ 」
「 うむ ・・・ ともかくちょいと手を洗ってくるよ。 」
博士は鞄を置くと バスルームへ向かった。
「 〜〜〜〜 はあ〜〜 暖かいのう〜〜 」
3分後、博士はリビングのコタツでふか〜〜〜いため息を吐いていた。
コトン。 熱々のお茶が前に置かれた。
「 どうぞ? 」
「 おお ありがとうよ・・・ うむ 〜〜 美味い〜〜 」
「 いかがでした、学会は 」
「 うむ ・・・ なんかどうもなあ〜〜今回ワシはどうやら推敲不足じゃったようだ。 」
「 まあ そんなこと あるんですか? 」
「 ああ どうもなあ〜 大反省じゃ。 少々ネジが緩んでおったな。 」
「 博士が ?? 」
「 キリキリ締め上げなくてはな〜 すまんが熱いお茶をもう一杯もらえるかな? 」
「 あ はい。 今 淹れますわね。 」
「 ありがとう。 これをもらってこれからちょいと根を詰めるぞ。 」
博士は 茶碗を手に立ち上がった。
「 あら こちらにPC、お持ちになったらいかがですか?
このところずっとコタツでお仕事なさっていたじゃありません? 温かいし・・・
どうせジョーが帰るの遅いんですもの、わたしここにいますわ。 」
「 う〜ん ・・・ まあ いろいろ資料も必要なのでなあ〜
今晩は 書斎でやることにするよ。 」
「 あの〜〜〜 あまりご無理なさらないでくださいね? お部屋のヒーターを強にして 」
「 いやいや これで十分じゃからな。 クリスマスにお前たちからもらったぽかぽかの
ひざ掛けもあるでな。 ではお休み 」
「 ― お休みなさい 博士 ・・・ 」
元気な足取りで博士は書斎に籠ってしまった。
「 はあ〜〜 ・・・ スゴイわねえ・・・ あら もうこんな時間・・・
ジョー ・・・遅いなあ 〜〜 」
ふぁ〜〜〜〜 ・・・ と欠伸を連発してしまう。
「 キッチンも片づけたし・・・ ジョーの夜食の用意もオッケ〜〜
あ ・・・ ポアントにリボン、縫い付けとこうかなあ〜〜
・・・ でも部屋まで取りにゆくの、 めんどくさいし〜〜 寒いし〜〜〜
・・・ いいや 明日は古いの、履こう〜っと 」
ことん。 彼女はまたもコタツの天板にオデコを落としてしまった・・
ポッポウ ポッポウ ・・・ リビングの鳩時計が日付が変わったことを告げた。
「 ・・・ う・・・ん? ! いっけない〜〜 こんな時間 ・・・ 」
跳ね起きたけど、リビングの中はし〜〜〜ん ・・・としていて フロア・スタンドが
ぼんやりした明かりを灯しているだけだ。
「 ・・・ ジョー ・・・・ 遅いなあ・・・ ! あ。 帰ってきた ! 」
フランソワーズは ぱっとコタツから立ち上がり玄関に飛んでいった。
「 寒かったでしょう ・・・ 」
チャイムが鳴る前に フランソワーズは玄関のドアを開けた。
「 やあ ただいま フラン 」
「 お帰りなさい ジョー 」
んんん〜〜〜〜〜 玄関の暗がりで 二人は熱く唇を合わせる。
< お帰りなさいの・ただいまの・キス > は 結婚したその日からず〜〜〜っと
続く二人の習慣なのだ。
「 さ 早く手を洗ってきて? 熱々のシチュウが 」
「 あ ・・・ ちょっと待っててくれるかな 」
ジョーは鞄だけ玄関の上がり框に置くと、また外に出てゆこうとした。
「 ?? どうしたの?? 」
「 うん ・・・ ちょっと掃除してくるね 」
「 え・・・ 掃除?? そんなの 明日わたしがするわ。 」
「 うん ・・・ でも玄関前にゴミ・・・って気になるし。 」
「 ゴミ? 」
「 うん 落ち葉や枯れ枝がほとんどだけど 」
あ。 庭掃除! 忘れてた・・・
博士がお留守の時は チビ達の担当なのよね〜
― ! わたし、あの子たちに念を押すの、忘れたわ
「 あの! わたしが掃除するから。 ジョー、どうぞ手を洗ってらして?
夜食 用意できてるし。 」
「 いいよ〜 外 寒いから ぼくが 」
「 ジョーはお仕事で疲れているでしょう? わたし ウチに居たし 」
フランソワーズは サンダルをつっかけた。
「 あは ・・・ じゃ 一緒にやるかい? 」
「 ・・・え? ウン♪ 」
「 ね? 」
うふふ ・・・ えへ ・・・ 見つめ合えばなんとなく楽しい。
それがたとえ真夜中の庭掃除であっても ・・・
「 じゃ ちゃっちゃとやっつけよう〜 」
「 ええ 加速そ〜〜〜ち! ね? 」
「 あはは 〜〜 」
ことん。
「 あ・・・ いい香り〜〜 」
「 うふふ〜 ジョーが好きな玄米茶よ〜 」
「 ありがとう ・・・ ん〜〜〜 んまい〜〜 」
深夜の掃除を終え、熱々の夜食を終え ― 今 二人はコタツで向き合ってお茶を啜る。
「 うふふ〜〜 わたし達ってば おじいさんとおばあさんみたいね〜〜 」
「 いいじゃないか、美味しくて暖かいんだから 」
「 そうねえ ・・・ 」
「 ふ〜〜〜 ・・・ ウチは最高だよ〜〜 ・・・んん? なんだ?
なにか固いモノが入ってるよ? 」
ジョーはコタツの中から引っ張りだしたのは ―
「 『 めいたんていホームズ 』?? 」
「 あ すぴかが読んでる本! 」
「 へえ〜〜 あ ぼくもこれ、好きだったなあ〜〜 うん? 座布団の下になんか
はさまってるよ? 『 おんどくカード 』 ? 」
「 それ すばるの! もう〜〜 置きっぱなし〜〜〜 」
「 あは ぼく、子供部屋に届けてくるね。 」
「 いいのよ ジョー。 放置した本人の責任デス。 」
「 そうだけど ・・・ えへへ・・・アイツらの寝顔、見たいんだ〜 」
「 うふふ ・・・ それならお願いね? 」
「 ウン。 」
ジョーはにこにこ・・・ 立ち上がったが ― ドアの前で振り向き
少し口ごもってから ぽつり、と言った。
「 あの さ。 今年の手袋 ほしいな〜 ・・・って思って さ 」
「 ・・・ え? 」
「 あは さ〜〜〜 チビたち〜〜 お休みなさい、言わせてくれよな〜〜 」
パタン。 ジョーは静かに出ていった。
! わたし! 今年の冬用の手袋とマフラー !!!
ジョーの分 編んでないわ〜〜〜〜
― なにやってるの〜〜 わたし ・・・!!
Last updated : 01,12,2016.
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************ 途中ですが
お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズ ・・・
例によってなんてことない ・ ふつ〜の冬の日デス