『  白いスカーフ  ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

  ******  初めに  ******

 

      559333 を 踏んでくださった方からの

      キリリク作品です。

      原作設定 で フランちゃんを巡っての

      ジャン兄 と ジョー の 葛藤 

      という テーマを頂きました。

 

      原作 あのお話 を バックにしています。

      ( あのお話そのもの ではありません )

 

 

 

 

  ―  ガタン。  大きく窓を開けた。

 

つう〜〜ん ・・・と 澄んだ空気が入ってくる。

空は 淡い水色ですこしばかり頼りなく思えた。

アパルトマンの最上階、地上よりちょっとばかり空に近いせいなのかもしれない。

 

   ああ  いいお天気 ・・・ すこ〜し寒いかな 

 

フランソワーズは 大きく息を吸いこみついでにう〜〜んと伸びをした。

 

   やっぱりここは秋が早くくるわね

   あ〜〜  マロニエも綺麗に染まったわあ〜

   あら こんなとこまで 落ち葉が・・・

 

カサ ・・・

窓の柵に 黄色に染まった葉が一枚、挟まっていた。

そうっと摘まみ上げれば その秋色が鮮やかに朝陽に照り映える。

 

   わあ ・・・ キレイ ・・・

   秋は 本当に綺麗だわ 公園のマロニエ並木、見にゆこうかな

 

       日本の秋は 紅葉がキレイなんだよ

 

ふ・・・っと 彼の言葉が耳に奥に蘇る。

 

   ああ ああ そうね そうだったわねえ・・・

   あれは ・・・ 初めての日本の秋 だったわ

   もっと 後だった気もするなあ 11月くらい?

 

   ふふ ・・・ あのお家なら 今頃、半袖かも

   そうよ、海もまだまだ明るい色よねえ・・・

 

   わたしの部屋の窓から 背伸びすると水平線が見えたのね

   夏はちかちか光の海 それからだんだん海の色が濃くなって

   冬は深い紺色 になるの

 

   ふふ ・・・ わたしだけが知ってたのかも・・・

   なんか ― 波の音がきこえないって 淋しいかも・・・

   そうねえ・・・ 今頃は

   朝晩は少しはひんやり してきているわよねえ

 

   ・・・ ねえ 

 

   ちゃんとタオルケット かけて寝てる?

   秋用のジャケット、出してあるの?

   いつまでも Tシャツ じゃあ 可笑しいでしょう?

   そろそろ長袖のシャツ、着てね

 

   ねえ ・・・  元気で いる・・・?

 

      ねえ  たまには想ってくれてる・・・?

 

フランソワーズは首に巻いているスカーフを そうっと撫でた。

艶やかな布は 触れればひんやり、身に纏えばほっこりと温かい。

 

      ・・・ ねえ ジョー ・・・

 

碧い瞳は とおく とおく 海の彼方に向けられているのかもしれない。

 

 

  ガッタン ―  リビングのドアが開いた。

 

「 ふひゃあ〜〜  朝はもう冷えるなあ 」

「 ・・・ 兄さん 」

フランソワーズは やっと窓辺を離れた。

兄がガシガシ・・・髪を拭きつつ、バス・ルームから戻ってきた。

「 おはよう 兄さん 」

「 おう〜 おはよ・・・ ひゃ・・・ さむ〜〜〜

 おい 窓、閉めろよ〜〜  空気 冷えてるぜ  」

「 髪、ちゃんと拭いてらっしゃいよ。 雫が飛ぶわよ〜〜

 ホントに ・・・ 朝シャワー 相変わらず好きねえ 」

「 ふん こりゃずっと習慣だからな〜〜  へ〜〜っくしょい! 

兄は 少々わざとらしく大きなくしゃみをした。

「 ・・ もう ・・・ わかったわよ 

フランソワーズは 窓を閉め ― でもほんの少し開けたままにして ―

エプロンを手に取った。

「 オ・レ でいい 」

「 あ〜  パンは 」

「 さっき バゲット、買ってきたわ。  あの店、まだあるのね 」

「 ふん? 老舗だからな〜〜 息子がちゃんと継いだよ 」

「 そう ・・・  あ 卵 どうする? 」

「 はあん?  朝、そんなもん、食わねぇぞ

 ・・ お前のカレシとは違うんだ 」

「 あら そう。 卵かけごはん ってオイシイのよ〜〜 」

「 げ★ 

「 ホントだってば。 朝は 卵かけごはん に お味噌汁 って

 すご〜〜く元気でるし美味しいわ 」

「 俺は! 卵はオムレツ。 ミソ・スープ なんざ 飲まん。 」

「 ふ〜〜ん ニンゲンの幅が狭いのね 

「 お前こそ偏ってるじゃねえか。  外国ってばあの島国だけじゃ

 ね〜〜んだ 

「 そこも知らないクセに 

「 な〜〜んだと〜〜 」

「 はい オ・レ 」

 

   どん。 湯気の上がるカフェ・オ・レ ボウルがテーブル上に置かれた。

 

「 あ  あ〜〜  ・・・ ん。 」

兄は口を閉じ カップに口をつけた。

「 寒いわねえ・・・ ねえ ヒーター いれていい。 」

「 はあ??  まだ雪は降ってないぞ 」

「 だって寒いじゃない。  この部屋 ・・・ 隙間風とか入ってくるし

 いいでしょう? 」

「 ・・・ お袋がヒーターのスイッチを入れたのは

 初雪が降った日だったぞ! 」

「 それは そうだけど ・・・ でもね 寒いもん。 」

「 お前が今 住んでいるトコでも この時期からヒーターいれるのか! 」

「 冗談でしょう〜〜  まだ あっちは夏日っていって暑い日もあるのよ? 

 それに隙間風なんかないし。 あのね 秋はとってもいい季節なの。

 紅葉はキレイだし お日様は気持ちいいし 菊とか金木犀とかキレイな

 お花も 沢山咲くし  柿でしょ 栗でしょ 梨でしょ 葡萄でしょ

 お芋も トウモロコシも  そう ! 新米も! 美味しいもの

 ばっかりなのよ 」

「 ・・・ はいはい  よ〜〜くわかりました。

 そんな天国みたいなトコから な〜〜んでこんな寒くて隙間風が入る

 ぼろアパルトマンの部屋に帰ってきたんだ? 」

「 ・・・ 自分の家に帰ってきちゃ いけない? 」

「 誰もいけないなんて言ってないぞ 」

「 ・・・ そう だけど ・・・ 」

「 とにかく ヒーターは まだ だ。 もう一枚、着ろ。

 あと 部屋の中でそれを着るのはやめろ。 鬱陶しい。 」

兄は肩の辺りをひらひらさせている。

「 だから 寒いの 」

「 スカーフやマフラーは 屋外でつけるものだ。

 お  いかん、遅れる 〜〜 」

兄は 新聞を放りだし、朝食のテーブルから離れた。

 

    ・・・ もう 〜〜〜

 

妹は 半分の膨れっ面のまま、ぽすん、と椅子に座りなおした。

 

    だって これ・・・ 大好きなんだもの。

 

白いスカーフを 肩からふんわりと纏う。

マフラー はあまり好きではなかった ―  あの特殊な服を着た時に

いつも身体に纏わりついてくるから。

 

    でも これは ・・・ 好き 大好き !

    シルクって こんなに優しい肌触りなのね 

 

    自然に身体に寄り添ってくれて ・・・

    でも べったり、じゃないのよ。

 

    うふふ ・・・ ジョー みたい ・・・

 

    きぬ っていうのよね   き ぬ 

    ああ 素敵 〜〜〜

 

フランソワーズは 首に巻いたスカーフの中に頤を埋め目を閉じた。

 

    ・・・ ねえ ・・・ あなたの腕の中 みたい ・・・   

 

 

「 それじゃ いってくる。  戸締り、しっかりな 」

兄が リビングのドアから首を出した。

「 うん。 」

「 おい〜 ウチの中じゃ ソレ、とれよ〜 

「  だって寒いんだもん  いいじゃない 」

「 ・・・ちぇ  じゃあ ヒーター、いれろ 」

「 きゃ めるし〜〜 

「 温まったら 切れよ ? 」

「 わかってるわよ。  あ お兄ちゃん、今日は? 」

「 あ? ・・・ 遠出はせんから安心しろ。  じゃ な 」

「 いってらっしゃい 」

兄は ちょい、と手を上げると さっさと出かけていった。

「 ・・・ な〜によ〜〜  ふん。 パパとママンは 

 行ってらっしゃい のキスもしてたのに ・・・ ふん 

しばらく 椅子に座っていた が。

 

   カタン。 立ち上がると窓辺に飛び付き 窓を全部開けた。

 

「 ん・・・しょ。  兄さ〜〜ん いってらっしゃ〜〜〜い ・・・! 」

大きく乗り出し、 わさわさ・・・ 手を振る。

「 ・・・・ ! 」

こら・・と 兄は鉄拳を送ってきたが 顔は笑っている。

「 い〜〜ってらっしゃ〜〜い〜〜〜 !! 」

角で 振り向かずに大きく手を振って 兄の姿は消えた。

 

    ・・・ いっちゃった ・・・・

 

    ふう ・・・ そうだわ

    この街にだって オープン・スタジオ、 あるわよね

    レッスン、行ってこよっと

 

窓を閉めると フランソワーズは自室に駆けていった。

スマホで調べれば たちまち情報が得られた。

 

    あ ここ いいかも〜〜〜

    メトロで一本ですものね。

    う〜〜ん 身体 鈍っちゃうもん ・・・

 

    さ フランソワーズ、 やるわよ!

 

大きめのバッグに荷物を詰め込み、白いスカーフをしっかりと巻きなおすと

アパルトマンの部屋から飛び出した。

 

 

 

何年か過ごした東洋の島国。 

言葉も習慣もすっかり馴染み 暮らしてゆくには何の不自由も感じない。

ずっとずっと切望していた踊りの世界への 復帰もできた。

 

    ・・・ こんなに幸せで  いいの ・・・?

 

時として そんなことまで感じてしまうほどだ。

 

 フランソワーズは  < 普通の日々 > を 満喫していた。

 

 

 それが。

  

  ― 特別な事 があったわけでは ない。 

ましてジョーとケンカした、とか もう我慢できずに出てきた・・とか

 そんな理由も ない。

 

ただ ― なんとなく 帰りたくなったのだ。 

兄と一緒に暮らしたかった  故郷の街を歩きたかった 

母国語の中にずっぽりと浸りたかった  焼き栗をたべたかった

 ・・ そんな他愛もない理由が積み重なったから ・・・なのかもしれない。

 

    ううん ・・ 違う。

    これは わたしの ワガママ なの 

    ええ そうなのよ ・・・

 

フランソワーズ自身は そんな想いでいっぱいだった。

 

 

「 ジョー。 」

「 ? なんだい。 」

茶色の瞳は いつもと変わらず温かい。

「 あの ・・・ わたし、帰るわ。 」

「 へ??  帰るって なに・・・? 」

「 あの ね。 パリに帰る。 」

「 ・・・ あ ああ ・・・ あ! なにかあったのかい?

 その・・ お兄さんに ・・・? 」

ジョーは ものすごく遠慮がちに聞く。

「 あ ううん ううん  そういうことじゃないの。

 ちょっとウチに帰ってくるわ。  博士とイワンのご飯、

 お願いね  冷凍食品とかいっぱいあるから ・・・ 

「 ・・・ フラン。 ねえ なにがあったのかい?

 よかったら聞かせてくれ。 ぼくにできること ない? 」

今度は かなり真剣な顔で訊ねてくる。

「 え なにもないわ。 」

「 あの ぼく、なんかやらかした? 

 ごめん、気に障るようなこと ・・・ やっちゃった ・・・? 」

「 やだ〜〜 そんなこと、なんにもないわよ。

 あ そうだわ〜〜 お願いがあるの 

「 うん なに?? なんでも言って 」

「 あのねえ・・・ 悪いけど、空港まで送ってくれるかしら 」

「 ・・・ いいけど・・・ 」

「 そ? メルシ〜〜〜  じゃ すぐにチケット、取るわ!

 荷物は少ないから〜〜 」

フランソワーズは 二階に私室に駆けあがっていった。

 

「 ・・・ な なんなんだ・・・?? 」

 

ジョーは まさに豆鉄砲をくらった鳩ぽっぽ みたいな ぽか〜〜ん とした

顔のまま だった。

  そして ぽかん・・とした表情のまま 曖昧な笑みを浮かべ

空港まで送ってくれた。

 

「 じゃ ね。 」

「 あ 気をつけて!  なにかあったら すぐに連絡してくれ。

 飛んでゆくから ! 」

「 うふふ 加速装置の無駄使いはしないこと。

 大丈夫よ、 故郷に帰るんだもの。  じゃ ・・・ 」

「 う  ん ・・・ あ これ。 機内で使って・・・ 」

「 なあに? 」

「 ・・・ 」

ジョーは 黙って薄い包みを渡した。 簡易包装で軽い。

「 開けて いい 」

「 うん・・・ 」

 

   ひゅるりん。    光が零れ出てきた。

 

「 ・・・ !  わあ〜〜〜  素敵・・・! 」

中からは 真っ白のシルク・スカーフが顔をだし、光をあつめ輝いている。

「 ありがとう!!  きゃ 気持ちいい〜〜 」

「 ・・・ え へ ・・・ 似合ってる ・・・ 」

さっそく肩に掛ける彼女を ジョーはにこにこ・・・ 見つめるばかり。

「 すべすべ ひんやり・・・ あ でも 温かいのね ・・・

 不思議な布 ・・・ 」

「 シルクなんだ。 日本の布だよ  きぬ っていうんだ。

「 メルシ〜〜〜  これ、お気に入り、って決めてたわ。 

 じゃあ 」

Au revoir とも またね とも 言わないまま。

別れの挨拶もなく 彼女は機上の人となり空の彼方へと消えていった。

 

    ・・・ ・・・・・・・

 

ジョーは 飛行機の消えた空をただ ただ じっと見つめていた。

 

 

 

          *******************

 

 

 

目指すスタジオはすぐに見つかった。

「 えっと ・・・? 受付 は どこかな〜〜

 それと クラス・スケジュールは ・・・っと? 」

大きなバッグを抱え フランソワーズは建物の入口近くで

しばらくうろうろしていた。

 

 カツカツカツ   タタタタ ・・・  また 明日!

 

中から 数人が早足で出てきた。

皆 リュックや大きなバッグを持っている。

 

  トン。  一人の少女とバッグが当たった。

 

「 pardon !

「 あ ごめんなさい ・・・ 」

咄嗟に日本語で返してまい ちょっと怪訝な顔をされた。

 

   いっけな〜〜い ・・・ ここは パリ!

 

「 pardon ! 」

明るく言い直し にこ・・・っと笑ってから

フランソワーズも足早に中に入った。

 

   ! ああ この雰囲気〜〜〜  これよ!

   うふふ〜〜〜 シャボンとトワレの香の中に ・・・

   やっぱり汗臭さが 漂うのよ

 

   わたしの世界♪ わたしの生きる場所 !

 

わさわさと人の出入りがあるので クラスが終わった時間らしかった。

あまり広くない廊下を行き交う人々を避け 壁際による。

どこのスタジオも同じ、ごたごたとチラシやらお知らせが貼ってある。

やっと目指す スケジュール表を発見した。

「 ・・・あ プロフェッショナル・クラス! 間に合うわね!

 よかった〜〜〜  うけつけ〜〜〜 どこ〜〜 」

フランソワーズも 人込みの中に混じっていった。

 

手慣れた事務所のバイトさんは さささ・・・っとチケットを切ってくれた。

「 あのう このクラス、受けたいんですけど 」

フランソワーズは タイム・テーブルを指した。

「 ああ Cスタジオです。 ドアに大きく C と書いてありますから。

 女子更衣室は 廊下を右。 トイレは その奥を左。

「 ありがとう・・・あ メルシ〜 」

荷物を抱えなおし、更衣室へ急いだ。

 

 

まだストレッチも途中な時に ・・・ ピアニストさんのオジサンと一緒に

ミストレスと思しき女性が入ってきた。

 

「 ボンジュール 皆さん?  さあ クラス、始めます。

 ピアノは ムッシュ・二コラ。 私は ジュリア。 」

全員が さ・・・っとレヴェランスをした。

 

「 はい 一番から〜〜  」

 

   ♪♪♪ 〜〜〜〜〜〜 ♪♪ 〜〜〜

 

ピアノの滑らかな音とともに クラスが始まった。

古ぼけたピアノが 信じられないほど優美で円やかな音を響かせる。

 

    ・・・ うっそ ・・・!

    すごいピアニストさんだわ ・・・

    ふふふ・・・ アルベルトに話してみよう〜っと

 

プロフェッショナル・クラスだけに 皆 すっきりとバー・レッスンを

始めている。

 

    きゃ ・・・ 気持ちいいわ  !

    うふふ  身体がしゃんとするもの 

 

アンディオールに身体を開けば バレエは世界中、どこでも共通な世界。

フランソワーズは レッスンに没頭した。

 

バー・レッスンが終わり、センターに出てからはラスト・グループに

加わった。

街中のオープン・スタジオだが さすがプロフェッショナル・クラス・・

どの人もそれなりに上手だった。

 

    あ あの人、いいわあ〜〜〜

    綺麗な脚〜〜〜  アダージオ、上手ね ・・・

 

ついつい見とれていたり ・・・

 

    あっと いけない。

    あ この曲 いいわあ〜〜 好き♪

 

アダージオも 小さいワルツも 楽しんだ。

ミストレスの振り付けは オーソドックスな中にも

ちょいちょい・・・難しいテクニックが入っていて 挑戦するのが

とても楽しい。

 

「 はい、ワルツね〜〜  ピルエットからフェッテ二回〜 そのまま 

 ランベルセいれて ピケ アラベスク あ 二番ね〜〜 

 ジュッテ・アントルラセ して 裏向いて。

 ピケ・ターン 二回 ジュッテ アチチュード!  で はけます

 オッケ? 」

 

    え・・・っと ・・・・〜〜〜 あ ここで反対側ね・・・

 

すぐにピアノの音が鳴り始め 最初のグループが踊りだす。

 

    わあ  フェッテ、ダブルでやる〜〜?

    う〜〜〜  そっか ・・・!

 

たちまちフランソワーズの番になり ―

「 ・・・ !  行くわっ ! 」

どのグループも ちゃんと課題をクリアした。

勿論 フランソワーズも !

 

「 ボン! メルシ〜〜〜〜  じゃあ 次はアレグロね 」

 

息を整えつつ フランソワーズはますますワクワクしてきた。

 

    うっふっふ〜〜〜 アレグロはね♪

    ・・・いつもは 散々 叱られてるけど〜〜

 

    ねえ 任せて!

 

皆の呼吸音と トントン ・・・ ポアントを慣らすおとだけのスタジオで

フランソワーズも 息をひそめている。

 

「 〜〜 で   ラストはブリゼ カトル ブリゼ カトル。 

 はい 前列からどうぞ 」

ミストレスの女性の指示はクリアだ。

 

  さささ・・・っと ファースト・グループの女子達が並んだ。

 

 ♪♪♪  ♪♪  端切れのよい音が流れる。

 

「 ・・・っと  あ これ! マダムのクラスでやったわ・・・ 

 ようし・・・ やるわ! 」

 

  はい 次〜〜〜  どうぞ!

 

最後列のはじっこ で 彼女は脚捌きも鮮やかに速いテンポで踊った。

 

    ブリゼ は アームス注意! ここはバッチュを入れて・・・

 

マダムの声が 耳の奥から聞こえてくる。

 

「 ボン!  そこのあなた! 彼女の音の取り方が一番ね 」

ミストレスと ばっちり目が合った。

 

    パチパチパチ・・・ 

 

ミストレスが褒めてくれ 参加者たちも拍手をしてくれた。

フランソワーズは にっこり・・・レヴェランスをした。

 

「 アレグロは 音をよく聞いて! ステップが合っていても

 音に遅れたり早すぎてもだめ。  では次 グラン・ワルツ〜〜 」

 

大きなジャンプの連続のグラン・ワルツを踊った後は 女子はグラン・フェッテ。 

男子は セゴン・ターン。

プロフェッショナル・クラス なので 誰もが難なく回りきる。

 

     〜〜〜〜〜っと !

 

フランソワーズも 軸をずらすこともなく安定して32回、 回った。

 

「 皆さん メルシ〜〜  ムッシュ・二コラ メルシ〜〜〜 」

全員で ミストレスと素晴らしいピアニストさんに拍手をし

プロフェッショナル・クラスは終了した。

 

    ふう〜〜〜  ああ 楽しかった ・・・ !

    気持ちいいわあ〜〜 

 

    やっぱり毎日 クラスにでなくちゃね

  

フランソワーズは タオルに顔を埋め、心地よい汗を拭った。

 

「 ハイ?  あなた、 上手ね。 どこのバレエ・カンパニー? 」

ミストレスの女性が 声をかけてくれた。

「 あ ・・・ いえ 」

「 フリー? 」

「 いえ あのう ・・ 日本で踊ってます。 」

「 え ジャポン??  フランス人よね? 」

「 はい。 日本のカンパニーにいます。 今は 休暇で戻ってきてて 

「 あ〜 それでアレグロ 上手なのね。 」

「 あ ・・・ 」

「 日本人のダンサー、 皆 アレグロ上手だわ。

 それに 腰とか脚の強さ!  ねえ 日本ではどんなクラスなの? 」

「 え あ あのう〜〜 日本のカンパニーの先生は 若い頃には

 こちらに留学していた方です。 」

「 まあ そうなの?  ねえ あなた、 えっと・・・ 」

「 フランソワーズ、 フランソワーズ・アルヌール といいます 」

「 フランソワーズ。 興味あったらわたしのカンパニー、覗いてみて。 」

彼女は 小さなカードを渡してくれ

「 メルシ〜〜  カンパニーを持っていらっしゃるのですか 」

「 うふふ 私、まだ現役なのよ〜〜 私も踊ります。」

「 あ・・・ コンテ ( コンテンポラリー・ダンス ) の? 」

「 それもあるけれど クラシックのテクで創作をしているの。

 そんな人の集まりよ。 よかったら 来てみてね 

「 はい ・・・ ! 」

待ってるわ〜 と 彼女は手を振ってスタジオを出ていった。

 

    きゃ♪ なんか素敵な出会い〜〜〜

    創作かあ〜〜  やってみたいのよねえ

 

    それに どんなレッスンなのかしら

    ― 行ってみる価値 ある!

 

フランソワーズは 手渡されたカードをじっと見つめていた。

    

 

 

 ― 一方 日本のギルモア邸では

 

夕食後 ジョーはテーブルを拭いていたが その手は次第にゆっくりに

なってゆく。

 

「 ・・・ なにかあったのかなあ ・・・ 」

「 うん? なにか言ったかね? 」

博士の声がリビングから返ってきた。

食後のお茶を楽しんでいる、と思っていたのだが・・・

「 あ  い いえ・・・ その・・・ 」

「 ふふふ ・・・ 行ってこい。 

「 え? 

「 迎えに行ってこい。 ・・・ 待ってるはずじゃよ 

「 ・・・ そ そんなことは  ない・・・と 」

「 な〜にごたごた言っとる! 行動せよ それがオトコだ! 」

「 ・・・ で でも その 」

「 でも は なし。  行ってこい。 」

「 あ は はい ・・・ 丁度 グレートから写真撮影に誘われてるから 」

「 わかった わかった。 なんでもいいから とにかく行動だ!

 ここでぶつぶつ言っていてもなにもならんぞ 」

「 は はい 」

「 今晩中にチケット予約だ。 そして明日一番で ! 」

「 は はい 」

「 ぐずぐずしていたら チャンスは通りすぎてしまうぞ! 

 行け! ジョー 〜〜〜〜〜 」

「 は はい ! 」

盛大に博士にハッパを掛けられ ジョーはやっと御神輿を上げた。

ぱたぱた自室に駆けてゆく姿を 博士は苦笑しつつ見送った。

 

「 ・・・っとになあ〜〜 奥手というか引っ込み思案というか・・・

 あれが 009 と同一人物なのかね??

 おっとそうじゃ グレートに連絡してパリに直行するよう言っておくか。

 アイツなら ちゃんと察するじゃろうからな 」

博士は 手元のタブレットを操作し始めた。

・・・どうも 年配者の方が行動力がある らしい ・・・

 

 

 ガサガサ ゴソゴソ ・・・

 

「 え〜っと ・・・ スーツ・ケース〜〜〜 どこだっけ? 」

ジョーは 荷造りに大わらわだ。

  

 ― そう ・・・ 009の場合、

初めて出会ったその日から 恋のハナは咲いてしまったのだ !

 

生き残るための激しい闘いの中でも ジョーはその花を心の中に

秘め続けた。

気がつけば いつもいつも目の隅で彼女を確認していた。

なんでこんなに彼女が気になるのか ・・・ 自分でもわからなかった。

 

 でも 今は よくわかる。

 

      彼女が ・・・ 好き なんだ !

 

「 ・・・ お兄さんと 居るんだよなあ 」

荷造りの手が 止まった。

「 ジャンさんって さ。 フランのこと、めっちゃ大事にしてて ・・・

 いいヒトだなあ〜〜って思うんだ けど・・・ 」

 

    はあ〜〜〜〜  少し重いため息が漏れる。

 

「 ちょっと 怖いんだよなあ ・・・ なんか さ。 」

  ふうう  ・・・  溜め息ばかりが積み重なってゆく。

 

あの時 ジョーは フランソワーズの兄に会っていた。

ほんの短時間だったし 彼女にも話してはいない。

 

でも その短い間に ジョーはジャンの、彼女の兄の妹への想い を

痛いほど感じとったのだ。 

どんなに 彼が妹の失踪 いや 拉致に 心を傷めていたか も・・・。

 

彼女と再会したその夜 ― 

「 あの ・・・ 初めてお目にかかります、 ジョー・シマムラ といいます。 」

夜分いきなり訪ねてきた異国の青年を ジャンはすぐに部屋に入れてくれた。

「 ジャン・アルヌール だ。 フランソワーズの兄です。 」

「 フラン・・・ いや 妹さんと ― ミッションに行きます。

 すいません ―  でも ぼくが 護ります! 」

「 ― 本当か。 」

「 誓います。 ぼく自身を掛けて 護ります。 」

「 君も ・・・ その ・・・ 妹と同じ・・? 」

「 はい。 ぼくはフランソワーズ さん を 護るためにサイボーグに

 なった、と思っています。 」

「 そう か。 ―  戻って来い 必ず。 」

「 はい ! 」

二人は しっかりと握手をした。

 

 

 「 ・・・ でもなあ ・・・ その結果 ぼく、燃えちゃったんだよなあ

 ・・・お兄さんの信用、ガタ落ちだよ〜う 」

 

   でも、 と ジョーは口を真一文字に結ぶ。

 

「 ぼくは ― 彼女を護る。 

 うん、 お兄さんになんて言われても そうさ 罵倒されたっていい。

 ぼくは  フランソワ―ズと一緒に居たいんだあ〜〜〜 」

 

   ぼすん。  シャツとパーカーをスーツ・ケースに突っ込んだ。

 

 

 ― 翌朝。

 

ジョーは 眠れない夜を過ごして 出発して行った。

 「 がんばってこいよ ・・・ ふふふ 」

 ≪  ガンバレ じょ〜〜 ≫

博士はイワンと共に に〜んまり・・・ 見送ってくれた。

 

 

Last updated : 10,08,2019.                index     /    next

 

 

*********  途中ですが

最初にも書きましたが キリリク作品です☆

わ〜〜〜 何年振りでしょうね???

で 原作設定です、 あのお話を下敷きにしていますが

例の あの異世界話 じゃないです〜〜 (^_-)-