『　来訪者　　−　visitor　　−　（　２　）　　』

 

 

 

 

****　お断り　****

このＳＳは基本的に原作設定ですが

一部旧ゼロ設定を取り入れています。ご了承ください。

 

 

 

 

「　それでまったくダメか。　三人とも？　」

「　ええ・・・。　ノイズが入って、というのではなくて本当に突然なの。

　ぷっつり途絶えてしまって・・・　」

「　アンタの　＜耳＞　でも拾えないのかよ？　」

「　距離的に可聴範囲を超えているわ。　念のため持っていった通常の発信機の方もだめ。

　レ−ダ−からも消えてしまったの。　」

「　ふむ・・・」

アルベルトは腕組みをして　一言唸ったきりだ。

ジェットはがしがしと赤毛をかき回す。

「　そんじゃ・・・　そのオンナノコは？　本当に＜未来人＞なんだろうな？　」

「　さあ・・・　それは本人の言葉を信じるしかないわね。

　でも、彼女の話はとても作り事とは思えない。　」

「　はん？　ＳＦ映画の見すぎってわけでもなってか。　」

フランソワ−ズは黙って頷いた。

リナと名乗るあの少女の語る＜未来＞は　戦慄ものだった。

それは単なる阿鼻叫喚の世界の恐ろしさというだけはなく、

自分達の時代の延長としての可能性を充分に感じさせられた。

その現実感に　フランソワ−ズは背筋を這い上がってくる恐怖を覚えたのだ。

 

「　義手についてのギルモア博士の見解は？　

　やはりB.G.の息が掛かっているのだろうか。　」

「　凄く精巧で、現在の技術ではとても無理だろうって。

　でもね、武器関連のパ−ツが一切組み込まれていないから

　Ｂ.Ｇ.との関係は薄いって仰っていたわ。　」

「　そうか。　まあ一先ずは安心だな。　それで　・・・　その娘　（　こ　）　は　普通の人間なのか。　」

「　・・・ええ。　わたしが＜見た＞範囲ではね。　ただ・・・　」

アルベルトの短い問いに　彼女は言葉を選んで答えた。

「　うん？　」

「　あの、ね。　ただ　・・・　彼女は脚が。　あの腕と同じよ。　」

「　う〜ん　・・・　核戦争や核兵器の影響なのだろうか。　」

「　多分、ね。　」

「　俺らの時代のツケを受け取っちまった・・・ってワケかよ。　」

「　・・・　そうなるのかしらね。　」

「　まあ、大まかな事情は推察できたが・・・　だからといって

　彼らの強引な割り込みを黙認することはできんな。　」

「　それはそうだわ。　」

「　とりあえず、先方の出方を待つか・・・　」

「　ち！　先制攻撃ってわけには行かねえか？　だってよ、ジョ−達に・・・　」

「　それはわかっているが、皆目見当の付かない相手だぞ？

　むやみに敵地に乗り込んでも無駄だ。　」

「　・・・　ふん、相変わらず冷静なこって。　

 フランだって心配だろう？　悠長に構えてる場合じゃねえよ。　」

なあ、とジェットはフランソワ−ズの顔をのぞきこんだ。

「　心配なのは勿論だけど。　・・・　でも　」

フランソワ−ズは手を伸ばし、冷えてしまったカフェ・オ・レのカップを取った。

「　でもね。　相手は普通の・・・いえ、わたし達とは違う人間みたいなのよ。

　こちらも慎重に動かなくてはいけないと思うの。　」

「　・・・　お前も苦労性だなあ。　」

「　ふん。　思慮深い、と言うべきだな。　

　フランソワ−ズ、あの子から出来るだけの事を聞いてくれ。　」

「　ええ、わかったわ。　彼女も、わたし達に協力したいって。　」

「　信じても大丈夫かよ？　」

「　信じるしかないわ。　」

「　ま、スタンバイしておこう。　」

「　お願いね。　」

 

やっぱり、仲間達は頼もしいわ。　

 

自国からか駆けつけて来た二人に、フランソワ−ズは安堵の視線を向けた。

 

 

 

「　・・・リナ？　どこに居るの。　」

ノックに応えがないので、フランソワ−ズはそっとドアを開けた。

普段は客用寝室にしている部屋はきちんと片付いており、人影は見当たらなかった。

「　・・・　バスル−ムかしら　・・・　リナ？　」

「　あ・・・　ここです〜　テラスにいます、フランソワ−ズさん。　」

テラスへのサッシが細目に開いており、その隙間からリナの声が聞こえた。

フランソワ−ズはほっとして　テラスへ出て行った。

 

「　ここにいたの。　寒くない?　」

「　いいえ。　気持ちがいいです。

　綺麗ですね・・・　空って　・・・　海って　本当はこんなに澄んだ色なんですね。　」

リナは両手を空に伸ばし、振り返ってフランソワ−ズに微笑みかけた。

「　映像でしか見たことがなかったんです。　自然の風も　・・・　気持ちがいい。

　濾過装置を通過した生温い風じゃないんですもの、本当に　・・・おいしい。　」

「　ここは辺鄙な場所だから・・・　都会の真ん中ではとてもこんなに綺麗な空気は

　味わえないのよ。」

「　ええ・・・　ああ、いい香り。　海の匂い、本当の海の、潮の匂いだわ。

　空も海も　どきどきするくらい綺麗な色ですね・・・　　」

リナは目を細め、水平線の彼方に視線を飛ばす。

「　ブルー　が好き？　」

フランソワ−ズもリナの隣で空を見上げた。

空気はぴん・・・と冷たかったが　初冬の空は青く透明に晴れ上がっている。

日の光を受けて海原もその煌きを照り返していた。

 

この空を　・・・　海を。　汚してしまうのは　・・・　わたし達・・・？

 

遠い未来の悲惨な結末、その種は自分達の時代から蒔かれていたのかもしれない。

言葉をとぎらせてしまったフランソワーズに　リナは屈託なく話し続ける。

 

「　ええ、大好き！　本当を言うと・・・私もフランソワ−ズさんみたいな目の色だったらなあ・・って。　」

「　あら。　あなたの瞳、とても素敵よ。　夜の色ね、神秘的・・・

　あの　・・・　あなたは日系の方なの？　」

「　さあ・・・　でもどこか遠い祖先に日本のヒトがいるのかもしれません。　

　・・・聞いてもいいですか。　」

「　なにかしら。　」

「　ジョ−さんは　・・・　日本人？　顔立ちとかはちょっとこの国のヒト達とは違いますよね。

　瞳の色も明るい茶色だし。　」

「　彼は　ハ−フなの。　お母様が日本の方よ。　」

「　・・・　愛していますか。　」

「　・・・　え？　」

「　フランソワ−ズさんってジョ−さんの恋人でしょう？　」

「　・・・　え、ええ・・・　」

「　やっぱり。　・・・　あの　・・・　ごめんなさい。　」

「　？　」

「　あのね。　私がココに来た日、とても綺麗なドレスを着ていらしたから・・・

　きっとなにか・・・　楽しいご予定があったのかな、と思って。　」

「　ええ・・・。　　でも、どうぞ気にしないで。　」

「　私、この時代に来てよかった。　短い間だったけどジャックと一緒に暮らせたし。　」

「　・・・　一緒にいたあの方は　・・・　あなたの・・・恋人だった・・・の。　」

「　はい。　何があっても二人ならって　・・・　この時代に＜来た＞のですけど・・・　」

「　・・・　そう　・・・　」

「　本当の空を見たいねって。　そよ風の中を一緒に歩こうって・・・

　ジャックと　・・・　話して　・・・　」

リナの大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ足元に水玉模様を描いた。

海風が　彼女の薄い色の髪をゆるやかに撫でてゆく。

フランソワ−ズは　思わず彼女の肩を抱いた。

「　ごめんなさい・・・　辛いことを思い出させてしまったわ。　」

「　・・・　いえ・・・　もう　・・・　大丈夫。　

　私達、覚悟を決めてこの時代に来ましたから・・・　　それに・・・　」

リナはことん、と頭をフランソワ−ズの肩に預けた。

「　ジョ−さんや皆さんに　・・・　フランソワ−ズさん、あなたと逢えました。

　お姉さんって　・・・　こんな感じなのかなって。　私、嬉しくて・・・　」

「　リナ　・・・　」

「　勝手なこと言ってごめんなさい。　

　私　・・・　皆さんに出来るだけ協力します。　それでもし、あの島に行ったら

　兄に　ちゃんと話してみます。　」

「　・・・　ありがとう、リナ。　」

「　・・・　ああ　・・・！　私も　この時代に生まれたかった・・・・！　」

冬の陽がうらうらと穏やかな光を　注ぎかけている。

海辺の邸で、二人の娘達がそれぞれの想い人にこころを馳せていた。

 

 

 

「　ここから海中を行くの？　もう少し海岸に近くなってからにしたら。　」

「　いや。　ここいらからでも多分すぐにバレるだろうな。

　しかし、少しは時間稼ぎになるだろう。　」

「　気をつけて！　脳波通信、オ−プンにしておいてね。　」

「　了解。　行くぞ　」

アルベルトはちら、とレ−ダ−を再度確認するとすたすたとコクピットから出て行った。

「　んじゃな。　ホントなら飛んでゆきたいトコけど、格好のマトにはなりたくねェからな。

　ま、安心してな。　お前達の援護はバッチリさ。　」

「　ありがとう。　」

「　いいってコトよ。　・・・うわ！　オッサンががなってら。　今行くって！　」

ほんじゃ・・・　バチン、とウィンクを残し、ジェットは飛び出していった。

「　さ。　わたし達は甲板に出ていましょう。　」

「　ええ。　」

フランソワ−ズはリナと一緒に上部甲板へと上っていった。

 

 

 

ギルモア邸に飛び込んできた小型通信機は、捕虜交換の申し出を伝え

＜そちらの女性と来て欲しい＞　と暗にこちらの内情を見透かしている風だった。

「　行くわ。　あなたと一緒に！　」

「　・・・　フランソワ−ズさん　」

「　おうよ。　ガ−ドは俺たちに任せな。　ドルフィンならヒトっ飛びさ。　」

「　おい？　油断するな。　現地は敵サンの本拠地だからな。　

　コチラの情報はどうやら筒抜けらしい。　」

「　私・・・　基地の様子はほとんど知らないのです。

　こちらに来てすぐに街中に出てしまったので・・・　すみません、役にたたなくて　」

「　いいのよ、リナ。　ともかく、行動を起こしましょう。　」

「　そうだな。　」

サイボ−グ戦士たちは再び赤い服に身を固めた。

 

 

 

「　卑怯者！　罠だったのねっ！！　」

捕虜交換の名目で上陸した島で　フランソワ−ズは絶叫した。

半身を黒く覆ったオトコ　−　どうやら青年といってよい年頃らしかったが　−　は単身、

ジョ−だけを伴ってフランソワ−ズとリナの前に現れた。

しかし。

話合いを始める前に、フランソワ−ズの眼は攻撃を仕掛けてくる円盤を捉えていた。

「　危ない！　岩陰に飛び込むんだっ、フランソワ−ズ！　」

「　ジョ−　−−−！　」

フランソワ−ズはリナを抱えて手近な岩の後ろに転がり込んだ。

「　ジョ−！　無事なの？　グレ−トや大人はっ　」

「　大丈夫だよ、フランソワ−ズ。　司令官どの？　コレはどういうことなのかな。　」

ジョ−はどうやら両腕を拘束されているらしく、迎撃ができない。

「　そんなバカな。　私はこんな命令は下していないぞ。　」

「　ともかく！　この手錠を外してくれっ。　このままでは　アンタもやられるぞ！　」

ジョ−は呆然としている青年に両腕を突き出した。

司令官、と呼ばれた青年ははっと我に帰りジョ−の足元に小さなキ−を放った。

「　・・・コレを使え。　ふん、一応今は解放するが。　・・・どうせまた会うだろうがな。　」

「　なんだと？　」

彼がヒュッと口笛を吹くと小型の円盤が現れた。

「　状況が変わってしまった。　この女性は私が預かる。　」

「　なにっ！？　なにをする！！　フランソワ−ズッ　！！　」

青年は女性二人に銃を向けるとあっという間に昏倒させそのまま円盤に連れ込んで

飛び去ってしまった。

「　・・・　！！　フランソワ−ズ　−−−−！！　」

 

「　００９！　どうした？！　」

「　おい、今の円盤はなんだ？　」

タッチの差でアルベルトとジェットが飛び込んできた。

足元に投げられていたキ−でようやくジョ−の戒めは外された。

 

「　なんだと？　フランとあの女の子が？　」

「　・・・ああ。　眼の前で・・・！　くそゥ！！　」

「　それで、グレ−トも大人もまだ敵さんの手中か。　」

「　そうなんだ。　あの男は、司令官だそうが、ぼくだけを連れ出したんだ。　」

「　ふむ・・・？　さっきの攻撃といい、どうも解せないことばかりだな。　」

「　んなコトぼやいてないでよ、早くフラン達を助けに行こうぜ。　」

イライラしてジェットが二人を促した。

「　ああ。　こっちの方角さ。　あのブッシュを越えるとすぐに・・・　ほら。　」

「　？？　なんだぁ、ありゃ・・・　ドーナッツのお化けかよ？？　」

「　・・・・・　」

３人の前に　巨大なリング状の塔が姿を現した。

 

 

 

「　やっとお出ましかな。　」

「　どこだっ！　何処にいる？？　この　・・・　卑怯者め！　」

油断なく身構える３人のサイボ−グ達の前で　リング型の塔はぽかり、と入り口を開けた。

守備隊の姿は見えず、先ほどの司令官の音声だけが響いてくる。

「　おやおや・・・　いきなり卑怯者呼ばわりとは。　」

「　ふざけるなっ！　フランを、フランソワ−ズを、そして二人の仲間を返せ！　」

ジョ−は入り口の奥にむかってス−パ−ガンの照準を合わせた。

「　おっとっと・・・　ひとまず、銃は下ろしてもらおうか。　今　・・・　出てゆく。　」

「　なんだと？？　」

 

シュン・・・と圧縮空気の音がして小型のタグ・ボ−トの様なモノがゆっくりと飛んできた。

先頭にあの青年が立っている。

「　先ほどの攻撃については失礼した。　裏切り者がいてね・・・　ああ、もうヤツラは拘束した。　」

「　我々の仲間を返してもらおう。　」

「　ふん、もともと捕虜交換はアンタ方が言い出したんじゃねえか！　」

「　捕虜・・・とは　この女性のことかな。　」

「　・・・？　　！！　フランソワ−ズッ！！　」

するするとタグ・ボ−トは３人の前に着地した。

司令官を名乗る青年の足元には透明なプラスチック・ケ−スのごときものがあり

・・・　その中にフランソワ−ズが横たわっている。　

ジョ−は飛び出そうとしたが　背後から現れた護衛に足元を威嚇射撃され釘付けとなってしまった。

「　フランソワ−ズっ！！　　おい、彼女に　・・・　なにをした？？　」

「　安心したまえ。　ちょっと　・・・　眠ってもらっているだけだ。　」

「　眠っている　?　」

ジョ−はじっと眼を凝らし、彼女の防護服の胸が微かに上下しているのを

確認し、ほっと胸をなでおろした。

少なくとも　・・・　生命の危険はないらしい。　

 

「　おい！　彼女をどうする気だ？　捕虜交換はウソだったのか！　」

「　少々事情が変わってね。　我々にとって待望の日がやって来た。

　タイム・ワ−プの周期を大幅に伸ばすことに成功したのだ。

　もう、無理にこの時代に割り込む必要はなくなった。　

　我々は移住する・・・超古代へ。　そう・・・人類発生の時に移り住む。　」

「　ふん、それはよかったな。　しかしその前に彼女を含めて

　我々の仲間を返してもらおうか、司令官どのよ？　」

油断なく右手を構えつつアルベルトがずい、と前に進み出た。　

「　あんたらも卑怯者呼ばわりはされたくあるまい？　」

「　キミ等とコンタクトを取った時はそのつもりだったが・・・

　今は状況が変わってね。　」

「　なんだと？！　」

「　我々は過去に移住する、と言ったろう。

　そして。　」

司令官は透明なケ−スに眠るフランソワ−ズの側に屈みこんだ。

彼の手がケ−スごしにフランソワ−ズの頬をそっと撫でる。

「　彼女は　我々と一緒に来てもらう。　妹が大層気に入ったようでね。

　それに　・・・　我々の世代は健康な遺伝子を求めている。　

　彼女は新天地で私の妻として　私に多くの元気な子供達を与えてくれるだろう。　」

「　なんだとっ！！　」

ジョ−のス−パ−ガンが司令官の足元に炸裂した。

「　おっと・・・　危ない真似はやめたまえ。　彼女がどうなってもいいというのか。」

「　・・・・　くそう！　フランソワ−ズを返せ！　」

「　ふん。　お前達はサイボ−グだそうだな。

　この時代には＜いるはずのない＞モノたちじゃないか。

　人目を避けてこそこそと生きるよりも　新天地で我々と生きて行く方が

　何倍も彼女の幸せだとは思わないのか。　」

「　・・・・　ぼくは　・・・　僕らは確かにサイボ-グだ、普通の人間じゃない。　・・・　でも！　

　ヒトを愛するこころにかわりはないんだ！　」

 

「　お兄さん！　」

「　リナ・・・　」

別の小型の飛行艇が警護隊を掻き分けて飛び出してきた。

椅子の形をしたその物体にはあの少女が座っている。

彼女は飛行艇ごと真っ直ぐに司令官の元に乗り付けた。

「　お兄さん、ジョ−さんに乱暴はやめて！　」

「　リナ。　なにもしていないよ。　」

「　君は　・・・　指揮官の妹だったのか！　」

ジョ−は驚いて少女を見つめた。

少女の、リナの黒い瞳からぽろぽろと涙が零れる。

「　・・・　ごめんなさい、　どうしても・・・コレだけは言えなかったの。　」

「　・・・　そうか　・・・　」

「　さあ、リナ。　彼女はお前の姉さんになってもらおう。　

　そして　新天地で皆で新しい生活を始めるのだ。　」

「　お兄さん　・・・　」

 

「　だめだ！　だめだぁ〜〜！　」

 

ジョ−は加速装置で司令官の乗るボ−トに接近した。

警護隊の銃が炸裂し　たちまち彼の防護服は焼け焦げだらけになった。

未来人の銃弾は防護服をも貫通してしまう。

 

「　無駄なコトはやめるんだ。　」

「　・・・　くそ！　やめないぞ！　フランソワ−ズを取り返すまで　・・・　ぼくは　・・！　」

「　本気でお前を排除するぞ。　」

「　だれが　・・・　負けるか！　」

ジョ−はぼろぼろになりつつも　フランソワ−ズの横たわるケ−スににじり寄る。

彼らのボスとも至近距離になったのでさすがの警護隊も手が出せない。

司令官の銃だけが冷徹にジョ−の心臓を狙っている。

そんな状況など目に入らず、ジョ−はケ−スの覆いを跳ね除けた。

 

「　・・・　フラン？　フランソワ−ズ！　起きてくれ。　起きて・・・　一緒に帰るんだ！　」

 

一声叫ぶとジョ−は　・・・　昏々と眠るフランソワ−ズの唇にわが唇を重ねた。

 

 

　　−　・・・　ジョ−　・・・・？　

 

ぴくぴくと彼女の瞼が動く。　ゆっくりと白い手が上がり傍らのジョ−に向かって伸びる。

空よりも海よりも深く青い瞳が開きじっとジョ−に注がれた。

「　・・・　ジョ−。　ここに・・・いたの・・・ね　」

「　！！　フランソワ−ズッ！　眼が覚めたんだね！？　フラン・・・　ぼくの　フランソワ−ズ！　」

「　・・・　ジョ−　・・・　どうしたの。　・・・　泣かないで。　

　相変わらず・・・可笑しな・・・　ジョ−ね　・・・　」

細い指がジョ−の頬を伝う涙を受け止めた。

「　フラン！　ああ、よかった・・・　よかった・・・！　」

ジョ−は愛しいひとの身体をしっかりとかき抱き　透明なケ−スから連れ出した。

「　怪我は？　海岸で撃たれたじゃないか。　傷はどこだ？　」

「　わたし　・・・　そうだわ、あの時撃たれて身体が痺れてそれっきり・・・　」

「　ああ、パラライザ−だったんだね。　もう大丈夫だよ。　

　さあ・・・　一緒に帰ろう。　　・・・つ・・・！　」

「　ジョ−！？　どうしたの？？　まあ・・・！　ひどい傷だわ。　

　わたしは　大丈夫よ。　」

ジョ−の腕をそっと外しフランソワ−ズは静かに立ち上がった。

彼女はまっすぐに司令官を見つめた。

 

「　卑怯者。　これじゃだまし討ちだわ。　」

「　お嬢さん・・・　これは心外な。　あなたは我々と共に新天地に行くのだ。　」

「　何のことかわかりません。　

　わたしの生きる場所は彼の、ジョ−の側だけです。　」

フランソワ−ズは静かにス−パ−ガンをホルスタ−から抜いた。

「　彼が帰る、というならわたしも一緒に行くだけだわ！　」

 

　　−−−−　バシュっ！

 

フランソワ−ズの銃が炸裂し遠巻きに彼らを狙っていた警護兵の銃が吹っ飛んだ。

「　さあ。　道を開けてちょうだい。　」

傷だらけのジョ−を庇い、フランソワ−ズは毅然として言い放つ。

 

　　−−−−　パン！

　

再びス−パ−ガンが未来人の銃を撃ち落す。

「　無理するな！　ぼくに任せろ。　」

「　ジョ−！　大丈夫？　怪我は？　」

「　はん、これしきで参るわけないだろ。　きみこそ眠らされていたんだ、気をつけろよ。　

　さあ、ぼくの後ろに入るんだ。　」

 

　　バンっ！　−−−

 

今度はジョ−の銃が警護隊の飛行艇を破壊する。

「　さすが００９ね。　そうね、大きなメカを狙った方が効率がいいわねえ。　」

「　ふふふ・・・　まだまだきみには負けないさ。　」

「　あら。　見損なわないで？　わたしだって００３なんですからね。　」

フランソワ−ズのス−パ−ガンが次々と武器を弾き飛ばし、ついには時間砲の基部を吹っ飛ばした。

「　・・・　お見事！　」

「　メルシ−、ムッシュウ♪　」

 

「　お二人さん。　あまり調子にならないで頂きたい。　」

 

司令官の銃口がぴたり、とジョ−の頭部を狙った。

「　・・・　ジョ−！！　」

「　わぁっ！　」

フランソワ−ズが彼の前に飛び出した瞬間　後方で叫び声があがった。

警護隊の兵士が一人、銃を持ったままもう一人の人影とともに倒れている。

「　だめよ！　」

兵士から銃をもぎ取った人影は　ゆっくりと身体を起こした。

額に縺れた薄い色の髪の間から　黒曜石の瞳がきりっと司令官を見つめた。

「　・・・リナっ！　なにをするんだ？　」

今度は司令官が驚きの声を上げた。

「　お兄さん！　だめ、駄目よ。　お願い、愛し合う人たちを引き裂くのは　やめて。　

　ジャックと私だけで・・・もう沢山。　」

「　しかし　・・・　コイツらは我々の秘密を知りすぎている。　」

「　ジョ−の　・・・　彼の言葉を聞いたでしょう？　

　ヒトを愛するこころは　・・・　みんな同じ、誰でも一緒なのよ。　」

「　・・・　リナ　・・・・　」

リナの黒い瞳からぽとぽとと透明な雫がこぼれ散る。

「　・・・　お願い　・・・　お兄さん　・・・！

　私、もう何も望まないわ。　ううん、私が望むのは愛する人たちの幸せだけ・・・　」

 

誰もが固唾を呑んで立ち尽くしている中、兵士とは違った穏やかな足音が

司令官に近づいた。

白衣の男がそっと声をかける。

「　司令官　・・・　」

「　なんだ？　」

「　先ほどのDNA鑑定の結果が出ました。」

「　ご苦労。　・・・・　これは・・・！　」

司令官は差し出された小型の画面を覗き込み、一瞬息を呑んだ。

すぐに彼は襟を正しフランソワ−ズの前に立った。

 

「　ひとつ伺いたい。　・・・　あなたの名は　フランソワ−ズ　ですか。　」

「　そうです。　」

「　・・・　そうですか。　」

司令官は眩しそうに彼女を見つめると、軽く頭をさげジョ−とフランソワ−ズに道を空けた。

 

「　どうぞ。　あなた方の・・・無事を心から祈っています。　

　これで　・・　お別れです。　」

 

「　・・・　どういうことだ？　」

ジョ-は後ろ手にフランソワ−ズを庇い、油断なく身構えた。

「　先日あなたの情報を頭脳から読み取らせてもらった。　

　その時にあなたが私達、私とリナの遠い祖先だという事が判明したのだ。

　だがあなたの配偶者は名前しかわからなかった。　」

「　祖先・・・？　　それで？　」

「　それで　・・・　先ほどこちらのお嬢さんのＤNAを調べ、今結果を見て

　全てがわかった。　　　私達の祖先は　あなた方二人だ。　」

「　えええ　・・・　？！　」

「　彼女は　・・・　本当に連れて行くつもりだった・・・　　

　どうぞ・・・　幸せに。　・・・　私個人としては非常に残念だが。　」

司令官はふっと視線を宙に飛ばし　つ・・・と踵を返した。

 

 

「　よし。　出発だ。　」

 

 

 

宙に消えて行く塔を見送り皆でドルフィン号へと雑木林をぬけている最中だった。

「　そうだ、　ちょっと・・・。　」

「　どうしたの、何かあったの、ジョ−？　」

しんがりをゆくジョ−がふと、歩みを停め傍らのフランソワ−ズの腕を引いた。

 

「　え〜〜と・・・　うん、これがいいかな。　」

「　？？　」

ジョ−は手を伸ばし、傍らの藪に絡まるつる草を抜き取った。

しなやかな緑の蔓に白い可憐な花が咲いている。

「　これで今は我慢して。　」

「　え、なあに　・・・　まあ。　」

つる草が　フランソワ−ズの薬指にくるくると巻きつけられた。

「　あのさ。　もうぼくのマンションに訪ねて来なくてもいいよ。

　ぼくもギルモア邸を訪問はしない。　」

「　・・・え　・・・　どういうこと・・・　どうして・・・　」

 

じわり、とフランソワーズの目尻に涙が浮かぶ。

咽喉が塞がり　声が出ない。

　

どうして・・・　どうして、　ジョ−・・・？？

 

「　あ、やだなあ・・・　泣かないでくれよ。　」

「　・・・　だって　・・・　」

「　あのね。　」

ジョ−はフランソワ−ズの手を取ると　しっかりと握った。

「　もう　visitor　はお終いだ。　　一緒に暮らそう。　　」

「　ジョ−　・・・　それって・・・　」

「　これからはさ。　ただいま、の合図に海岸通りでヘッドライトを点滅させるよ。

　ぼくが帰るところ・・・　それは　きみの元なんだ。　」

 

それでさ。　あの。

く・・・っとジョ−は何かを飲み込んだ風に一瞬息を吸い込んだ。

 

そして。

 

「　フランソワ−ズ。　ぼくと結婚してくれる？　」

 

ざわざわと雑木林を風が吹き抜けてゆく。

南の島にもやっと次の季節が巡ってきたらしい。

なにか　・・・　鳥達が白い羽毛を見せて南の空をめざして行った。

 

「　・・・・・・　」

フランソワ−ズは　・・・　声もなく、ただひたすら・・・首を縦に振り続けた。

 

 

 

 

「　・・・ふうん　・・・　そんなにソレが気に入ったんだ・・・　」

「　ジョ−・・・？　やだ、起きていたの。　」

顔の上に手を翳し指に留まるダイヤの煌きに見とれていたフランソワ−ズは驚いて顔をねじ向けた。

「　ずっと起きてたってば。　」

本当にもうオンナノコって　・・・　とジョ−は寝返りを打ち、タメ息をつく。

「　また邪魔が入ると困るからって　取り合えずはめてもらったのに。　」

「　あら・・・　だって。　こんな素敵なの、初めてなんですもの。　嬉しくて・・・

　あのつる草リングもステキだったけど。　」

「　・・・　本当はさ、　あの白い服を着たきみに填めてあげたかったんだ〜。　」

「　いいの・・・　あなたの気持ちは　ちゃんとわかっているもの。　」

フランソワ−ズはそっと指輪に唇を寄せる。　

「　・・・　大好き・・・　」

「　・・・ちぇ。　指輪がライバルになるなんて思ってもみなかったな。　」

「　ま・・・　イヤなジョ−　・・・　」

「　そんな指輪　・・・　忘れさせてやるよ。　フラン・・・　」

「　きゃ　・・・　やだ、ジョ−。　もう・・・　今夜は。　あ　・・・　あぁ　・・・　」

「　いつかも言ったろ？　・・・　夜はまだまだ長いよ？　

　フラン　・・・　ぼくの、　ぼくだけのフランソワ−ズ・・・！　」

「　・・・　ジョ　・・・　−　・・・　わたし　・・・　の　・・・　ジョ−　・・・　」

 

・・・　どうか　・・・　幸せに。

わたし達にステキなメッセ−ジを残してくれた visitorさん達　・・・・

 

芳しい奈落に落ち込む寸前に　フランソワ−ズは心の中で

そっと呟いた。

 

 

*******　　　Fin.　　　*******

Last updated : 12,05,2006.                          back      /      index

 

***   ひと言　　***

旧ゼロ設定使用です　⇒　リナは司令官の妹であの青年とは恋人同士。　（　原作では兄妹　）

後半はやはりアクション・シ−ンを省くわけには行きません。　それで♪

フランちゃんにも頑張ってもらいました♪

はい、ど〜しても　オ−ロラ姫と王子　にしたかったので

ジョ−君、行動的にラテン・ジョ−？？になってもらいました。

めでたし・めでたし・・・・　お気に召しましたでしょうか。　

ひと言でもご感想を頂戴できれば幸いでございます。　<(_ _)>