『 来訪者 − visitor − ( 1 ) 』
「 ・・・ 泊まってゆけば・・・ 」
「 ジョ− ・・・ ごめんなさい、目が覚めてしまった? 」
よく眠っていると思っていたのに・・・
フランソワ−ズはそっと首をすくめ、傍らのジョ−を振り返った。
「 ・・・ ううん ・・・ 眠ってなかった。 ねえ・・・? 」
「 ・・・ きゃ・・・ 」
毛布の間から腕を伸ばすと ジョ−はフランソワ−ズを引き寄せた。
半身を起こし身支度をしていた彼女は 難無く彼の腕に倒れこんだ。
「 ねえ たまには・・・一緒に朝までいたいなあ・・・ 」
「 もう・・・ だめよ、ウチは <おとうさん> が厳しいの。
嫁入り前のムスメが外泊なんてとんでもない!ってね。 」
「 ふうん。 結構ガンコ親父なんだな〜 博士って。 」
「 ふふふ・・・ だから、またね。 」
「 う〜ん ・・・ ちゃんと送ってゆくからさ。 いいだろ・・・ 」
「 ねえ。 戻って来て・・・ううん、ウチに戻ってこない? また一緒に・・・皆と一緒に暮らしましょう。」
「 ・・・ やっぱりさ、 アソコは不便なんだよね。 」
「 ジョ−が戻ってくれば 博士も喜ばれると思うわ。 」
「 うん・・・ 」
「 ね? 考えておいて。 一人暮らしはいろいろ・・・それこそ不便でしょ。
じゃあ・・・ また週末に来るわ。 」
「 うん・・・あ、あのさ。 明後日そっちに行くよ。 博士に話が、うん・・そのお願いがあるんだ。 」
「 まあ、それじゃ皆でディナ−ね♪ 久し振りで嬉しいわ。 」
「 泊まっていっても ・・・ いいかな。 」
「 勿論よ、ギルモア邸はジョ−のお家でしょう。 ただし<お行儀よく>してね。 」
「 ・・・ちぇ ・・・。 じゃあ ・・・さ。 もう一度だけ ・・・ 」
「 ・・・あ ・・ん 。 ダメだってば ・・・ あ・・・ジ ・・・ョ・・・ ヤダ・・・ 」
ジョ−は腕の中の身体を抱き締めたまま 姿勢を変えた。
「 ・・・ フラン・・・? 夜は ・・・ まだ長いよ 」
「 ・・・ いやな ・・・ジョ− ・・・ あ ・・・ぁ・・・・ 」」
ジョ−の恋人は 彼の腕の中で白磁の肌を再び染めあげていった。
お休み、のキスを交わして 彼女はギルモア邸の玄関に消えた。
邸の明りは玄関の常夜灯以外はとっくに消えている。
彼女の髪が煌いて ・・・ そして見えなくなった。
− ・・・ お休み・・・ ぼくのフランソワ−ズ・・・
ジョ−はすっきりした気分と惜しい思いのまぜこぜになった不思議な気持ちで
すんなりした後姿を見送った。
ふうゥ・・・・
大きく伸びをしてフロント・ガラスから見上げれば 満天の星空だった。
くりかえす波の音も懐かしく、ジョ−は車を返すのも忘れバックシ−トに身体をあずけた。
ココに帰ってこない・・・?
フランソワ−ズの言葉が耳のそこでずっと響いている。
再び始めたレ−ス関係の仕事は だいぶ軌道に乗ってきた。
以前のような表の華やかなポジションではないけれど、好きな車に関われることで
ジョ−は 十分に満足していた。
ただ時間に不規則なのが玉に瑕、で 郊外の − というより辺鄙な − ギルモア邸は
少々不便すぎた。
それにさ。 また、きみに負担をかけるだろう?
フランソワ−ズは彼がどんなに遅くなってもきっと起きて待っていてくれた。
一人の生活に慣れていたジョ−にとっては ありがたさよりもすまない気持ちの方が強い。
結局、今ジョ−は車で20分ほど離れた街で一人暮らしをしている。
いつの間にか ・・・ 週末に彼女がジョ−のマンションを訪ねてくるのが習慣になっていた。
− ああ・・・ 星が綺麗だ ・・・
深夜の中天を横切り冷たい炎を引いて星が ― 流れた。
− ・・・ しばらく何も起きないといいな。
ふっと蘇った記憶を振り払い、ジョ−はゆっくりと車を返しギルモア邸の門を出ていった。
夜更けの道は対向車もほとんどなく、彼は快適に飛ばしていく。
カ−ラジオの低い音楽も 星の瞬きにも似て心地よい。
宝石箱をぶちまけたみたいな街の明りが だんだんと近づいてきた。
きらめく明りは ダイヤモンドかサファイアか・・・・
ふふふ・・・ どんな宝石だって彼女の瞳には敵わないよ。
ジョ−は手を伸ばすとカ−ポシェットを開け、小箱を取り出した。
濃紺のビロ−ドの箱をパチン、と開ける。
今度は箱の中から街の明りが ・・・ いやダイヤが硬質な煌きを見せた。
フランソワ−ズとのこと。 ・・・もう、きちんとしなくちゃ。
コレ・・・ 気に入ってくれるかな。
星明りにも似た透明な光を湛え、幸せを誓う指輪は彼に微笑みかけている。
うん。 そうさ・・・・ これはきみへ誓い、そしてぼく自身への誓いのシルシでもあるんだ。
今まで いろいろわがまま言ってごめん・・・
・・・ きっと。 いや、必ず。 ― きみと。
明日、博士に きみの<おとうさん>に お願いにゆくからさ・・・
・・・ フランソワ−ズ。 ぼくだけの ・・・ 宝石・・・
ジョ−はそっとその宝玉に唇を寄せた。
初冬の夜は穏やかに 更けていった。
ふうん・・・ ジョ−は腕組みをしてソファに座りなおした。
「 それで・・・ これが問題の 腕 とメダルなんだね。 」
「 左様。 」
「 そうアル。 」
「 二人の話だと、どうもただの泥棒とは違うようだ。 それにこの腕・・・
素人のぼくがみても 物凄く精密なのが判るよ。 」
「 まったくな。 ソレが道路に落ちていた時には一瞬ホンモノかと思ったぞ。 」
「 痺れてノビていたワン公のことも気になるアル。 あれは多分パラライザ−やね。」
「 その怪我人、いや、この腕の持ち主も気になるなあ。 いくら義手でも・・・
それに女連れなんだろ。 」
「 そうアル。 薄い色の髪やったけど黒い大きな眼が印象的なおなごはんやった。 」
「 黒い瞳? 日本人かな。 」
「 う〜ん・・・どうやろか。 整った顔立ちしてはったで。 」
「 気丈な女性でな、怪我した彼氏を一生懸命励ましていたよ。
・・・ それにしても・・・ 」
「 まだなにか気がかりな点があるのかい。 」
ジョ−は冷めてしまったコ−ヒ−の残りを飲んで眉を寄せた。
「 ああ。 あの酔っ払い運転のヤツ・・・ どうも単なる飲酒運転とは思えない。 」
「 それは・・・ 酒を飲んでの上じゃない、ということかい。 」
「 おお、さすがジョ−。 カンがいいな。 ヤツもかなり怪我をしてて
我輩が引っ張り出したときには意識朦朧としていたが ・・・ 息は酒臭くなかった。 」
「 ・・・ それは! 」
「 まあ、クスリかなにでラリっていたのかもしれないがな。
もしかして ・・・ 計画的に操られていた可能性も否定できんよ。 」
「 ・・・うむ。 それにしてもタイミングが良すぎるよね。 飯店の前はそんなに交通量も多くないだろ。 」
「 それそれ。 時間的にも車が込み合う道路じゃない。 それを・・わざわざ・・・
どうも引っかかる。 このメダルもな。 」
「 確かに、変だね。 ・・・うん、大きさの割りに重いね。 」
テ−ブルの上にはもぎ取られた義手と 不思議な光を湛えたメダルが置かれている。
「 ともかく・・・ ギルモア博士にみてもらおう。 人工臓器学の方から何かわかるかもしれないしね。 」
「 それがいいな。 やはり 餅は餅屋ってコトで。 」
「 それにしてもジョ−はん。 いい加減であの邸に戻ってあげなはれや。
ココは・・・あんさん、寝泊りしてるだけとちゃうか。 」
大人はぐるりとジョ−の部屋を見回した。
オトコの一人住まい、一応の家具はあるが生活感はほとんど感じられなかった。
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 誰かさんも 待ってなはるで。 」
サイド・ボ−ドにあった写真立てに 大人は温かい視線を向けた。
それは彼の部屋で唯一の装飾品でありそこには ・・・ フランソワ−ズが明るく微笑んでいる。
「 ・・・ うん。 実はね 出来れば今月でここを引き払うつもりなんだ。 」
「 そりゃいいな。 」
「 ほっほ。 めでたく <上がり> になることを祈ってまっせ。 」
「 ・・・・・ 」
ジョ−は前髪の陰でひそかに赤くなっていた。
数分後、マンションの駐車場から彼の車が郊外目指して発車していった。
初冬の空は その夜も星たちの煌きに満ちていた。
「 博士 ・・・ あまり夜更かしなさらないで・・・ 」
「 わかっておる。 あ・・・ 悪いがフランソワ−ズ・・・? 」
「 はい、コ−ヒ−の御代わりですね。 あとでポットごとお持ちしますわ。 」
「 すまんのう。 それじゃ諸君・・・ 何かあったらすぐに知らせてくれたまえ。
ジョ−、それではメダルの方は頼んだぞ。 」
「 はい。 博士・・・あまり無理をしないでください。 」
「 ・・・ ああ ・・・ 」
生返事を残してギルモア博士は問題の義手を持ってさっさと研究室に引き上げてしまった。
すぐにでも詳しく機能を解明したいのだろう。
「 それにしても・・・ これを落とした青年は無事だろうか。 」
「 う〜む。 車にぶつかって、だからなあ・・・ 」
「 そうアル。 きっと・・・ そのメダル通信機になにか言ってくるアルよ。 」
「 そうだね。 まあ・・・先方の出方を待つとするか。 」
「 みんなも コ−ヒ−の御代わりはいかが。 マカロンもあるわ。 」
フランソワ−ズがコ−ヒ−・ポットとお菓子のトレイを持ってきた。
「 おお〜 これはありがたい。 丁度小腹が減った時分ゆえ・・・ 」
「 謝々♪ フランソワ−ズはん、さっき気がついてたんやけど、
な〜んか今晩はいつもにもまして別嬪はんアルね〜〜 」
「 ま・・・。 大人ったら相変わらずお上手ね。 」
コ−ヒ−を淹れなおしつつ、フランソワ−ズは明るく微笑んだ。
その頬は薄紅色に染まり、瞳の青は艶やかに潤んでいる。
もともとの美しさに愛情という魅力がさらに磨きをかけているのかもしれない。
・・・ 本当に。 きみはどんどん綺麗になってゆくね・・・
ジョ−は例のメダルを手にしたまま、しばし彼女を見つめていた。
「 ほ〜ら・・・ ジョ−がヨダレが垂れそうな顔しとるぞ。 」
「 ほっほ。 ジョ−はん? 据え膳喰わぬは〜ってお国の諺があるやないか。 」
「 ・・・え ・・・ ぼくは ・・・ ぼく達はべつにそんな・・・ 」
「 すえぜんってなあに? 」
ソファに腰を降ろしてフランソワ−ズがにこにこと尋ねた。
「 魅惑的なご婦人、という意味ですぞ、マドモアゼル。 」
グレ−トが慇懃に頭をさげつつ・・・ ジョ−に密かに脳波通信を飛ばした。
< オラ! なんとかフォロ−しろよ、my boy? >
< そやそや。 今日の口紅は素敵だね・・・くらい言うてあげなはれ。>
続いて大人からも檄が飛んできて、ジョ−は余計に目を白黒させてしまった。
「 あ・・・ぁ・・・ 綺麗、だね・・・ 」
「 ? あ、そのメダルね? なんだか・・・不思議な手触りね。 ツルツルしてるけど・・・
奥になにか・・・熱いものが潜んでいるみたい。 」
フランソワ−ズはジョ−の手元からメダルを手に取った。
「 なにか ・・・ 見えるかい? 」
「 ううん・・・ 全然だめ。 なにか内側に強力なシ−ルドが張ってあるわ。 」
「 そうか。 ・・・じゃあ、コレはぼくがこうして・・・ 」
ジョ−はメダルに下がっているチェ−ンを自分の首にかけた。
「 これなら、いつ連絡がはいってもすぐわかるし。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 大丈夫? 」
彼の後ろに回り、フランソワ−ズはチェ−ンの留め金を繰った。
「 フランソワ−ズ? なんだ、ぼくじゃ頼りないかい。 」
「 そんな ・・・ でも、でもね。 わたし ・・・ 」
ジョ−の笑顔にフランソワ−ズも思わず笑みを浮かべたがすぐに頬を引き締めた。
「 だって・・・ もし、またB.G.だったら・・・ だって<滅びない>って言ったのでしょう。
その・・・ あの時・・・ 」
「 大丈夫だよ。 まだヤツらだと決まったワケじゃない。
グレ−トや大人もいるし・・・ まずは先方の出方を待つよ。 」
「 ・・・ そう? あの ・・・ アルベルト達に連絡しなくていい? 」
「 う〜ん ・・・ まだ事件ともなんとも言えないからね。
案外・・・ どうってコトなくて、あとで笑い話になるかもしれないよ? 」
「 ・・・・そう・・・ そうね。 ・・・ でも・・・ 」
「 もう・・・ きみってそんなに心配性だったかな。
そうだ〜 イワンは? 夜の時間なのかい。 」
「 ええ。 一昨日 <夜> になったばかりだから・・・・当分は夢の中よ。 」
「 夢の中、か・・・ ふふふ・・・ どんな夢、見てるんだろうね。 」
「 せめて夢の中だけでも 赤ちゃんらしいふわふわ温かい想いをしているといいわね。 」
フランソワ−ズは立ち上がり、テラスへのフレンチ・ドアを開けた。
「 あら・・・ 今晩も星がきれいね・・・ 何事もありませんように・・・ 」
夜空をバックに 彼女のすんなりとした姿が浮かび上がる。
タ−トル・ネックのセ−タ−とチェックのスカート ・・・ ごくありきたりの普段着なのだが
彼女の愛らしさを充分に伝えている。
− ・・・ぼくの ひと。 ぼくだけの ・・・ フラソソワ−ズ。
ジョ−は湧き上がる熱い衝動に 思わず腰を浮かし彼女に続いてテラスに出た。
「 ね・・・ そんな顔、しないで・・・。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
引き寄せた細い肩は夜気に冷え始めていた。
ジョ−の腕は彼女の肩にしっかりと回された。
「 笑っていて・・・ 微笑んでいて欲しいんだ。 ね、フランソワ−ズ・・・ 」
白い顔がジョ−の腕の中でほんのりと笑みを浮かべる。
「 ああ・・・ きみの笑顔だね。 ふふふ・・・ きみの笑顔はさっきの大人じゃないけど
本当に素敵なんだ・・・! 」
「 ・・・ ま ・・・ イヤな ・・・ ジョ− ・・・ あ ・・・ 」
初冬の風にさらされていた唇は思いのほか冷たかったが
すぐに ・・・・ 二人はお互いの暖か味に引きこまれた。
熱い想いがどっと溢れ出、それは唇を通して二人の中で渦巻き燃え上がった。
絡まりあう一点で ジョ−とフランソワ−ズは想いの丈 ( たけ ) を語りあっていた。
「 ・・・ね ・・・ 明日、大事な話があるんだ。 遅くなるかもしれないけど・・・
待っていてくれる? 」
「 ・・・ええ・・・ 」
「 ひとつ、頼んでもいいかな。 」
「 なあに。 」
「 あの、さ。 明日、あの・・・この前、一緒に買ったワンピ−ス、着ていて欲しいな。 」
「 え・・? ・・・ああ、あの、オフ・ホワイトのね? 」
「 うん・・・。 あれ、好きなんだ。 あれを着たきみ・・・一番綺麗だ・・・ 」
「 ・・・ わかったわ・・・ 」
「 じゃあ ・・・ 明日。 急に来てごめんね。 」
「 みんなでお茶できて楽しかったわ。 ・・・ また、明日・・・ 」
「 うん。 お休み・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
「 お休みなさい、ジョ−・・・ 」
お休みのキスでさよならするのは もう今夜でお終いさ。
もう一度彼女を引き寄せて、 ジョ−はそっと呟いた。
星々は金銀に煌く光を存分に注いで恋人達を見守っているようだった。
・・・ああ、行っちゃった・・・ お休みなさい、ジョ−・・・
ほ・・・っとタメ息をひとつ、フランソワ−ズは寄りかかっていたテラスから身を離した。
ギルモア邸の一番南端のテラスからは海岸の崖を巡ってくる道路が見渡せる。
その最後の角で ジョ−はいつもテ−ル・ランプを2〜3回点滅させてゆく。
・・・ じゃあ、お休み。
ええ、お休みなさい・・・
彼がこの邸を出てから始まった二人だけのヒミツの挨拶なのだ。
初冬の夜風は身を切るようになってきて、フランソワ−ズはあわてて室内に逃げ込んだ。
・・・ 一緒に買ったワンピ−ス、か・・・
ドレッサ−の前で髪を梳きつつ、彼女はくす・・・っと笑う。
だってあれは・・・
バレエ団のクリスマス公演、その打ち上げパ−ティ用にと捜しにいったセミ・フォ−マル。
季節に関係のない薄物なのだ。
「 あ・・・ ねえ、コレがいいよ。 これにしなよ。 」
ドレス売り場で居心地悪そうにもぞもぞとしていたジョ−が 突然フランソワ−ズの腕を引いた。
「 え? なあに、どれ? 」
「 ほら・・・ あれ。 あれがいいよ。 きっときみにぴったりさ。 」
「 え・・・あれって。 あの・・・オフ・ホワイトの? 」
「 そうそう。 あれって白だけど・・・ほら、スカ−トの襞とか肩の・・・袖のところとか
影がブル−に見える。 ・・・ きみの目の色だ・・・ 」
「 そう・・・? でもこれって・・・ 」
まるで披露宴の花嫁さんみたいじゃない?
フランソワ−ズはちょっと気恥ずかしかった。
「 ね? きっと・・・絶対に似合うよ。 これを着たきみが・・・みたいな。 」
ジョ−は普段、彼女の服装についてはほとんど口を挟まない。
そんな彼が熱心に勧めてくれる。
・・・いいわ、上にヴェロアのチュニックでも羽織れば冬場でも大丈夫よね。
「 それじゃ。 コレにするわね。 」
「 うん、うん、そうしなよ。 」
ジョ−の笑顔にフランソワ−ズも引きこまれて微笑んだ。
ジョ−はブル−が好きなのだ。
彼自身もブル−系統を好んで身に着けている。
彼がまだ大怪我から完全に回復しないころ、リハビリも兼ねて二人は海岸をよく散歩したものだ。
「 海は・・・いいな。 」
「 ジョ−は海が好き? 」
「 うん ・・・ 海も空も ・・・ あの色が好きなんだ。 」
ジョ−は砂浜に腰を下ろすと遥か海原に視線をとばし ぼそり、とつぶやいた。
「 海と空の ・・・ この星の色、そしてきみの瞳の色。 ぼくはこれを目印に還ってきた・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ぼくの還るところは ・・・ きみの許だ。 」
不意にそんな遣り取りが思い出され、フランソワ−ズは熱い吐息をつく。
ねえ、ジョ−。 大事なお話・・・って なあに。
それは ・・・ それは、もしかして。
わたしが こっそり望んでいるコト、と同じかしら・・・
・・・勿論わたしはね、あなたが側に居てくれさえすればそれで・・・いいの。
それで、それだけで充分に幸せよ。
・・・でも。 もしも。
ソレを望んではいけないかしら。 こんなわたしには許されないコトかしら。
ほろほろと 水晶の雫にも似た涙が頬を滑り落ちる。
思わず押さえた指に それは露となって留まった。
星の光が ・・・ この露を照らしてくれるかしら。
フランソワ−ズは そうっと。 そうっと ・・・ 左手の薬指をさすった。
翌日、ドレス・アップして待っていたフランソワ−ズの許に ジョ−はやって来た。
・・・ 薄い色の髪をし、艶やかな黒い瞳の少女を伴って。
例の腕の持ち主と一緒にいた少女だという。
ただ、何を尋ねても 名前さえ明かさずに彼女は 黙って涙を流すだけだった。
とりあえず、客用寝室を彼女に提供し、この邸に留まってもらうことになった。
「 ・・・ごめん! 急にこんなコトになってしまって・・・
せっかく待っていてくれてたのに・・・ 」
「 いいのよ、ジョ−。 だって ・・・ もしかしたら重大な事件、かもしれないし。 」
「 うん ・・・ それがまだ判らない。 あの娘 ( こ ) は何を聞いても
泣いているだけだしなあ。 」
「 ・・・ そう。 一緒だったという青年は・・・どうしたのかしらね。 」
「 うん、それも気になるな。 」
「 そう ・・・ね・・・ ちょっと着替えてくるわ・・・ 」
さり気なく部屋を出ようとしたが 声の震えを隠すことはできない。
ジョ−はそっと白いドレス姿の彼女を抱き寄せた。
「 ・・・フランソワ−ズ ・・・ ごめん、本当にごめん。
綺麗だよ、ぼくの・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ちゃんと話したいんだ、博士とそしてきみに。 <ついで>じゃなくて。
だから ・・・ この事件が片付いたら、きっと。 それまで ・・・ 待っていて欲しい。 」
「 ・・・・・・ 」
ジョ−は彼女の左手を取ると その薬指に熱く唇を寄せた。
「 ・・・ 今は ・・・ これがぼくの気持ちさ。 」
「 ・・・・・・ 」
大粒の涙が、今は熱い涙がジョ−の手にも降り注ぐ。
フランソワ−ズは 黙って・・・ 何回も頷き微笑んでいた。
ジョ−達が連れて来た少女は リナと名乗った。
整った容姿の持ち主だったが、彼女の瞳がなによりも印象的だった。
「 ・・・あの、リナさん? よかったらこれ・・・わたしのものなんだけど
着替えに使ってくださいな。 」
「 え・・・ あ・・・ ありがとう。 えっと・・・? 」
「 フランソワ−ズです。 」
「 ごめんなさい、フランソワ−ズさん・・・ 」
「 あの・・・ どうぞゆっくり過してくださいね。
わたし達のこと、奇妙に思われるかもしれませんけど・・・怪しいヤツらではないのよ。 」
「 ・・・ふふふ・・・ ありがとうございます。 」
フランソワ−ズの明るい口調にリナもほんのりと笑顔を返した。
「 リナさん ・・・ ご家族は? 」
「 ・・・ 兄が一人います。 」
「 まあ、そうなの? わたしもよ。 といってもパリにはずっと帰っていないから・・・
いつもいつも兄に心配ばかりかけているわ。 」
「 ・・・ パリ ・・・ あなたは・・・ フランスの方なのですか。 」
「 ええ。 リナさんは? 」
「 ・・・ 私 ・・・ 」
リナははっとして顔を伏せてしまった。
「 ねえ? ご事情はわからないけれど・・・
わたし達が元気で笑顔で暮らしていることが あなたのお兄様やわたしの兄への
一番の安心になるんじゃないかしら。 ・・・ ちょっと自己中かな。 」
「 元気で 笑顔・・・・ 」
「 ええ。 」
「 ・・・あの・・・ みなさんは? あの・・・ジョ−・・さんや中国の方とか
あの ・・・ 変装の名人さんは・・・ 」
「 ふふふ・・・お料理名人の中国人は張大人。 変装名人はミスタ−・グレ−トよ。
今朝早くに三人で あなたが教えてくれた島へ行ったの。 」
「 ・・・ そう・・・ですか。 」
「 ええ。 なにか ・・・ そう、わたし達が少しでもあなた方の力になれればいいなって思うわ。 」
「 ・・・ ごめんなさい。 」
「 あらら・・・ そんな謝らないで。
未来から来た ・・・ あなたはわたし達のお客さま、ううん、お友達よ。 」
「 友達って ・・・ 思ってくださるの。 」
「 ええ。 ジョ−達がなにかいいニュ−スを届けてくれるといいわね。」
「 そうですね。 」
ジョ−とグレ−トと張大人。
三人が南の島に発ったその日のうちに フル・オ−プンにしていた脳波通信は
まったく途絶えてしまった。
Last
updated; 11,28,2006.
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**** 途中ですが ひと言
はい、あのお話しです♪
誰もが VISITOR なのであります。
原作と珍しくも旧ゼロ設定を一部拝借しています。やはり そうだったらいいのにな♪編かも〜〜
アクション・シ−ンは御大描かれる原作でどうぞ♪ 旧ゼロ・DVD も必見ですよぉ〜
コチラでは ・・・ 二人の甘々<裏模様>をお届けして行きます。
お宜しければあと一回、お付き合いくださいませ。<(_ _)>