『 お気に召すまま ― (1) ― 』
「 ・・・ 博士? ジョー達を知りません? さっき張大人が来てましたよねえ。 」
フランソワーズはリビングをきょろきょろとながめまわし、テラスにいる博士に声をかけた。
海と反対側に張り出した北のテラスでは 今朝方からずっとなにやら若干調子に外れたハナウタと
パチパチ植木鋏の音がしている。
「 博士〜〜 聞こえますゥ?? ・・・もう・・・ 夢中になると他のことなんかな〜んにも感知しなく
なっちゃうのよね。 どんなメカよりも完璧な遮断装置をお持ちだわ・・・ 」
フランソワーズは溜息をついてから す・・・っと一息、深く吸い込み ―
「 ・・・ 博士! ギルモア博士!! ジョー達、どこにいますかッ!? 」
崖の上に建つ、ちょっと古びた洋館 ― ギルモア邸。
そこはサイボーグ達の第二の故郷であり、時には重要な作戦本部とも前線基地ともなるのだが・・・
ごく平和な普通の日々が菜なれる今、寝起きしている住人は少ない。
ご当主のギルモア老、茶髪の青年と金髪碧眼の美女、そして眠ってばかりいる赤ん坊だけだ。
若い二人はまだ20代前半と思われ、どうやら夫婦者らしく、
赤ん坊を連れ買い物などに地元の町へしばしば姿を見せていた。
「 ・・・ああ、岬の・・・ ナントカいう研究所だろ? 気のいい爺様と若夫婦がいるよ。 」
「 そうだねえ、挨拶なんかもちゃんとしてるし。 赤ん坊も丸々太ってて可愛らしいねえ。
若くてもなかなか礼儀正しいガイジンさんらだなあ。 この辺も若いヒトが増えるはいいこった。 」
「 時たま、親類達が来てるようだけど・・・ 別に騒ぐこともないしよ。
ま、カタギのイイ人らだよな・・・ 」
彼らの評判はごく 普通・当たり前、で、地元の善良な人々は目に端に留める程度で
余計な詮索やら関心を持つ、といったこともないようであった。
それこそが <洋館の住人達> の望むところであった・・・のかもしれない。
「 ・・・ うむ・・・ やはりこの枝は落とすべきだったか・・・?!
・・・ あ ・・・? なんじゃね、フランソワーズ? なにか 言ったかね。 」
古ぼけた麦藁帽子がやっとコチラを向いてくれた。
ギルモア博士は今、盆栽に填まっているのだ。
もとはといえばコズミ博士から譲られた縁起モノの松竹梅の寄せ植えだったのだが
北側のテラスはあっと言う間に盆栽棚に占領されてしまった。
今や朝晩の熱心な手入れは 博士の重要な日課となっている。
「 ええ。 ジョー達、出かけたのですか? 張大人も一緒ですかしら。 」
「 ・・・ さあ・・・? ・・・おお!そうじゃった・・・・
二人でちょいと 晩飯のオカズを調達してくる・・・とか言ってな。 また例の コレじゃよ。 」
博士はくいくい・・・と釣竿を引く素振りをしてみせた。
「 まあ。 ・・・ それじゃ、買い物の行ってくるほうがよさそうですわね。
ちょっと下のマーケットまで行ってきますから・・・ イワンのこと、お願いします。 」
「 それはいいが・・・ しかし時ならぬ大漁、ということもあるやもしれぬぞ? 」
「 さあ・・・それは今までの <成果> から考えてもちょっと無理ですわねえ。
奇跡でも起こって魚の大群が押し寄せるとかしない限り・・・ ね。 」
「 ははは・・・ そうじゃったな。 ワシもいまだかつて彼らの <獲物> を口にした覚えはないな。 」
「 でしょ? 今晩のオカズはマーケットで買ってくる方が無難ですわ。
あ・・・ なにかご用事、あります? 煙草とか・・・雑誌とか? 」
「 おお、ありがとうよ。 う・・・ん・・・ 大丈夫じゃ。 今のところは・・・なにもない。 」
「 そうですか。 それじゃ・・・行ってきますね。 ああ、博士? いくら日陰でもこの暑さですから。
盆栽もほどほどになさってくださいね。 」
「 ああ・・・わかっとるよ。 お前も気をつけてお行き。 」
「 はい。 じゃ・・・ ああ、イワンのミルクも買ってこなくちゃ。 新発売のってキライかしら。
ちょうどキャンペーンやってて、特価品なんです。 」
「 う〜ん・・・ まだ本人は<夜>じゃでのう・・・ たまには気分を変えてみるか? 」
「 そうですね。 人生、変化が必要ですもの。 じゃ・・・ 」
フランソワーズは軽い足取りでリビングを抜けて行った。
ふふふ・・・いつも元気じゃなあ・・・
ほんにこの子は 最近見違えるほど綺麗になったのう・・・
・・・ 笑顔が輝くようじゃ・・・
博士はボーダー柄のTシャツに、亜麻色の髪がぴんぴん跳ねている姿が
軽い足取りで玄関から出てゆくのを のんびりと見送っていた。
見慣れたはずの、すっきり背筋の伸びた後ろ姿なのであるが・・・
しかし ― なぜかいつまでも博士の眼の奥に残っていた。
「 ・・・ なにかって・・・ なにアルね。 」
「 じゃから・・・なにかってナニじゃよ! 怪しい物音とか怪しい人影とか・・・
お前達は海に出ていて気がつかんかったか?! 」
博士は珍しく声を張り上げ語気を強め、せかせかとリビングを歩きまわっている。
ミッションの時、作戦会議などに使う大型のモニター・スクリーンやら PCがとっくにフル起動させてある。
「 あのコの車は海岸線を見下ろす場所に乗り捨ててあった・・・ 故障はしておらんかったし、
事故に遭った様子もない。 ただドア・ロックだけが破壊されておった。 」
博士は演説口調になり、舞台で独白する俳優の雰囲気が濃厚になってきた。
「 それなのに・・・! あのコの姿はどこにも見あたらない・・・
車の側には少々争ったらしき跡があった。 若干の毛髪や微量の血痕が採取できたが
いずれもあのコのものではなかった・・・・ 」
「 博士。 やはり ・・・ 彼女は拉致されたのですよ。 これが ・・・ なによりの証拠です。 」
ジョーは沈痛な面持ちで、そうっと掌を開き息を詰めて覗きこんでいる。
「 ・・・ これ。 今年のバースデイにぼくがプレゼントしたやつで・・・
フランソワーズ、すごく気に入ってくれて・・・ずっと ・・・ いつでも着けていてくれましたから・・・ 」
「 ああ・・・知っておるよ。 皆にさんざん冷やかされていたヤツじゃろう?
一月の誕生石はガーネットだろうが。 とか ひょお〜♪ 雪が降るぜ?! とか 」
「 ・・・ 博士。 お上手ですね。 」
仲間達の口真似までしてみせた博士を ジョーはすこしばかり呆れ顔で見つめている。
「 いや・・・なに、ちょっとな。 あんまり面白かったので・・・ いや! それどころではない!
そのペンダントは引きちぎられて、車の下に転がっていたのじゃな。 」
「 はい。 ぼく・・・ ガーネットよりも彼女の瞳を同じ・・・ このアクアマリンが好きで。
これを着けてくれて微笑んだフランは・・・ 本当にキレイだった・・・ 」
ジョーは視線を中空に漂わせ、早涙声まで混じってきている。
・・・ おい?! 大丈夫か、ジョー!?
お前 ・・・ フランソワーズの事になると もう完全に操縦不能に陥ってしまうのじゃな!
博士は大きく溜息を吐くと、張大人を振り返った。
彼は珍しく眉間に縦ジワを寄せ じ〜っと腕組みをしている。
「 大人 ・・・ どうじゃね、なにか・・・ 記憶はないかね。 」
「 ・・・ ふん ・・・ やっぱりあの時やったんやな。 」
「 な、なにか心当たりがあるのかね?! 」
「 ふん。 ワテら・・・ 相変わらずようけ獲物がありまへんでなあ・・・
釣り場ァを替えようか、てジョーはんと言うてましてん。 リールを巻き上げてた時に
えらいけったいな音たててモーターボートが外海に向かって飛ばして行きよってなあ。 」
「 ・・・ あ! そ、そうだったね! まだ明るい頃だったっけ。 」
「 そうや。 陸でん海でん 暴走族 っちゃおるもんやなあ・・・・てジョーはんと言うてましてん。
あの時・・・ 気ィがついてたら、すぐに追いかけとったんになあ・・・ 」
「 ・・・ くそゥ〜〜 ! 」
ぼすん!とジョーは拳骨を我が掌に当てた。
「 いったい何処の野郎だ!? まさか・・・ N.B.G. が? 」
「 その線も考えられなくもないが。 もしヤツらならすでに何か次のアクションを起こしているはずじゃ。
我々を脅迫するとか、攻撃をしかけるとか、な。 」
「 そうですよね。 もう ・・・ 連絡が取れなくなってから半日以上たちますから。
博士! 仲間達に連絡して応援を頼みましょう! 」
「 そやそや! 未来都市の時みたいなコトになりよったらえらいこっちゃ。
はよ、皆はんに連絡してや。 ほんならワテは晩御飯、作ってくるアルよ。 」
「 大人 ・・・ 申し訳ないけど、ぼくはとても・・・食事なんかする気分じゃないよ。
こんなコトしている間にも フランがどんな目に遭っているかと思うと ・・・ 」
ジョーはくしゃっくしゃと前髪をかき上げ、イライラと歩きまわっている。
「 はん! 心配なのはワテも同じやで! だけどな、ちゃ〜んと腹拵えしとかんと!
いざ!ちゅう時に な〜んも役に立たれへんで! 」
「 そ・・・そりゃそうだけど。 しかし、ぼくらはサイボーグだから多少の空腹には 」
ググググ 〜〜〜〜 きゅるきゅるきゅる −−−−
盛大な音がリビングに響き渡った。
「 ほ〜れみなはれ。 ジョーはん? あんさんの腹の虫のほうが正直でっせ。
ちょっとの間、まっとってや。 すぐに美味しい焼飯でも作るよって。 あ、そやそや!
待ってはる間にアルベルトはんに連絡してや。 」
「 あ! そ、そうだね。 うん、まずは彼の応援を頼もう。 え〜と・・・ 番号は・・・? 」
ジョーはがさがさとリビングの書棚を捜し始めた。
「 ジョー!? お前、仲間の連絡先もすぐにわからんのか!? 」
「 え・・・あ・・・ いつもはフランソワーズは連絡を引き受けてくれてるんで・・・ぼく、全然・・・
え〜と・・・? あ! ああ・・・これはクリスマス・カードのリストかあ・・・ う〜ん 」
「 おいおい! ほれ、ワシの携帯を使え。 諸君の緊急連絡先はちゃんと登録してあるぞ。 」
博士はずい・・・!と携帯を取り出した。
「 うわ〜 博士、凄いですねえ。 お。 これって どこも の最新バージョンじゃないですか。
へえ・・・ これがウワサの ・・・ふうん、なるほど・・・ 」
ジョーは博士の携帯を手に取るとなにやら熱心に操作をし始めた。
― ぶち ・・・ !!!
ついに博士の堪忍袋の緒が ・・・ キレた。
「 ジョー −−−−−!!! 早くせんかッ !!! 」
ジョーは一瞬 ぽかん・・・と博士の顔を眺めていたが、慌てて短縮番号を打ち始めた。
ひえ〜〜 びっくりした〜〜
博士って あんなに怒ることがあるんだ??
・・・ やっぱ フランの事になるとなあ。 ウンウン・・・当たり前だよなあ・・・
「 ・・・・ あ! アルベルト?? うん、ぼくゥ。 ・・・ わ〜〜 ごめん、ごめん〜〜
すいません、 ヘル・ハインリヒ? 島村ジョーですが。 今、電話していて宜しいでしょうか。 」
どうも電話口でがんがん怒鳴れられたらしく、ジョーは携帯を持ったままぺこぺこ頭を下げつつ・・・
やっと本題に入っていった。
・・・・ ったく。 コイツは ・・・ !
戦闘時と日常では まったく別人じゃの。 ・・・フランソワーズも苦労するのう・・・
ギルモア博士は相変わらず携帯を持ったまま ごめん! を繰り返す茶髪のジャパニーズ・ボーイを
呆れ顔で見つめていた。
ギルモア邸の門を出ると 下の公道までだらだらと坂道が続く。
フランソワーズは軽くブレーキを踏みつつ、愛車でイッキに降りていった。
左手には 夏の海が陽の光を集め、きらきらと輝く水面をゆらしている。
「 ・・・ もうすっかり夏ねえ・・・ ジョー達はどの辺で釣っているのかしら。 」
フランソワーズは少し、窓を開けた。
海風が さわさわと吹きぬけてゆく。 亜麻色の髪が一緒になって靡く。
「 ああ・・・ いい気持ち・・・ ふふふ・・・夏の匂がするわ。
海って季節によって全然ちがうのよね。 ここに住むようになって初めて知ったわ。 」
坂を下りると一応 公道にでるが、そこからもしばらくは海沿いの辺鄙な場所を通ってゆく。
対向車もなく、この辺りは彼らの私道といってもよかった。
「 夏 ・・・ ヴァカンスの季節ねえ。 この国の夏休みってとっても短いみたいだけど。
ジョー・・・ 今年はどうするのかしら。 アルベルトみたいに長期の海外旅行は無理でも・・・
短くていいからどこか行きたいなあ・・・ 二人で旅行したのって・・・最後は何時だったかしら。
ジョーは美術館めぐり、なんて考えもつかないでしょうねえ・・・ 」
フランソワーズはのんびりと道なりにハンドルを切ってゆく。
「 ・・・ そうそう! いつかパリに来た時・・・途中でピュンマのところに行ったりしたけど・・・
あの時も ・・・ 」
彼女は懐かしい思い出を辿り始めていた。
「 まずね・・・ ルーブルへ行って。 それから帰りに印象派美術館は必須よね・・・
う〜ん ・・・ その後は・・・ ジョー、どこか希望がある? オランジェリもいいわよね。 」
フランソワーズはメトロの地図を広げ、あれこれジョ−に話かけているのだが・・・
当のご本人はイマイチ、熱意がなくガイドブックや地図はそっちのけで彼女の顔ばかり眺めているのだ。
「 ねえ? ジョーのリクエストは? 」
「 う・・・ うん ・・・ あの。 エッフェル塔 とか 凱旋門 ・・・ 」
「 あら。 エッフェル塔って・・・あんまり面白くないわよ? 日本の高層ビルからの方が眺めもいいし。
ほら、トウキョウ・タワーも楽しかったわよね、あそことあまり変わらないわよ。 」
「 そ、そうなのかな。 でもせっかくパリに来たんだからさ、記念に・・・ 」
「 そうよね、だからルーブルでヴィーナスをしっかり見ていって♪
凱旋門はね〜 下に通っている道路の交通量が多いから空気も悪いのよ。
上にはな〜んにもなくて全然面白くないから やめ。 じゃあ・・・ ルーブルからでいいかしら。 」
「 う・・・ うん・・・ きみがそれでいいのなら。 」
例によって曖昧な返事と 曖昧な笑顔が帰ってきたので・・・フランソワーズはさっさと決めてしまった。
「 ・・・ ふふふ ・・・ アレは大失敗だったわよねえ・・・・ ジョーったら美術館とか全然 ・・・ 」
くすくすくす・・・ 小さな思い出し笑いが彼女の唇から零れた。
「 ・・・ 何回見ても ・・・ いいわァ・・・ なんかね、見るたびにこう・・・ヴィーナスの表情が
違う風に感じるの。 あ・・・今日はご機嫌がいいな、とか。 今日はなにか悲しいことがあったのかしら、
とか。 ふふふ・・・ 仲良しのお友達みたいよ。 」
「 う ・・・ うん ・・・ 」
「 ジョーはどう? 他にもいろいろ素晴しい作品がいっぱいだけど。 お気に入りはなあに。 」
「 え?! ・・・ ええ〜と ・・・あの。 言ってもいいかな・・・ 皆さ・・・・ 」
「 ええ、是非ジョーの感想が聞きたいわ? 皆 ってどのヴィーナスたちのこと? 」
「 う ・・・ あ・・・ あの。 皆、さ。 皆 ・・・ どうしてその・・・あんな恰好なのかな。
ぼく ・・・ まともに見られなくて・・・ せめてちゃんとあの布を巻きつけていて欲しいなあ・・・
これじゃさ・・・丸見えだもの。 ねえ? 」
ジョーはちょびっと赤くなりつつ、布を纏う仕草をしてみせた。
「 ・・・ なかなかユニークな感想ね・・・ 」
「 え・・・ そ、そうかなあ。 気に入ってもらえて嬉しいなあ。 フランもそう思ってたんだ? 」
「 ・・・ え、ええ・・・まあ、ね。 」
「 やっぱりなあ。 ぼく、昔から絵とか美術品とか・・・苦手でさ。
学校の図書室なんかでたま〜〜に画集とか見ると 眠くなっちゃうんだよね。
絵とかきれいだなあ〜って思うけど。 へへへ・・・ それって逆様! なんて言われたこともあるし 」
「 ま・・・まあ、趣味はヒトそれぞれだから・・・ 」
「 ぼくとしては本当のところ ・・・ あ、言ってもいいかな、感想。 」
「 ええ、勿論。 ジョーは本当はどう思ったのかしら。 」
「 うん ・・・ あの、さ。 ヴィーナスたちよりも ・・・ フランソワーズ、きみの方がず〜〜っと
キレイだなあ〜〜って ずっと思いながら見てたんだ。 」
「 ・・・ ま ・・・ まあ・・・ 」
「 ふふふ・・・ あの頃って。 わたし達、まだお付き合い始めてすぐの頃だったから・・・
わたし、どぎまぎして ・・・ 一人で真っ赤になってしまったけど。
あれはジョーのまっさらな感想だったのよね・・・ ふふふふ・・・・懐かしいわァ・・・ 」
フランソワーズの愛車は快調に進んでゆく。
次の切通しを曲がればやっと国道に出る。 海抜もやや低くなり海が近づいてきた。
「 懐かしい・・・か。 そうねえ・・・ パリにも随分帰っていないわ。
わたしの故郷って もうこの海沿いの町も半分以上、わたしの故郷になってきたけれど・・・
そうだわ、この夏は久し振りにパリに行く ・・・ いえ、帰ってみようかしら・・・ 」
一瞬 彼女は視線と空の彼方へと飛ばした その時。
「 ・・・!? 危ないッ! なんなの!? 」
対向車線をバイクが数台、横列になって驀進してきた。
こちらを見て車線変更するか・・・? と思っていたが、相手はそのまま突き進み、彼女の車を包囲した。
「 ・・・ 何? そこをどいて! 何の用なの? 」
フル・メットの男達がバイクから降りて近づいてきた。
・・・ 暴走族? いえ・・・ただのゾクではないようね。
なにが目的なの。 ・・・ 普通の人間ね、車で跳ね飛ばすわけにも行かないし・・・
フランソワーズはドアのロックを確認し、ダッシュ・ボードの中にスーパー・ガンを探った。
「 ・・・ あら? しまった・・・! ほんの近所までだから・・・ 持ってこなかったんだわ。
いいわ、普通の人間相手ですものね。 なんとか ・・・ 撃退するわ。 」
― バシュ ・・・ッ!
突如 車全体に衝撃が走った。 ついでなにかの気体が車内に充満し始めた。
「 !? ドア・ロックを外から破壊したのね! ・・・ あ! この匂・・・・クロロフォルム!」
フランソワーズはドアを蹴破ると、車から飛び出した。
「 なにをするのッ !! 」
案の定、飛び掛ってきた男の腕をねじ上げると、後ろにいたヤツめがけて投げつけた。
「 ただのゾクじゃないわね! ・・・甘く見ないで欲しいわ。 」
スーパーガンがないことが悔やまれたが、フランソワーズは油断なく身構えた。
「 ・・・ くそ〜〜 なんだ、 この女! 」
「 ふん、面倒だ。 アレを使え! 」
「 おう! 」
一番後ろにいた男が銃器を構えた。
「 あ ・・・! これは ・・・・ パラ ライ ザ − ・・・・ 」
咄嗟に身を沈めたが、細かい針様のものがフランソワーズの全身に突き刺さり ―
次の瞬間、 すべてが途切れてしまった。
「 ウン ・・・ うん・・・・ それでさ。 フランソワーズが行方不明なんだ!
何の手掛りもなくて・・・ 君たちにも協力して・・・あ、ごめん! 協力して頂けますか。 」
ジョーは携帯を握り締め 大汗をかいている。
「 ・・・え? 気紛れ一人旅 ? そんな訳、ないよ! 彼女が・・・そんな、ぼくを置いてゆくなんて・・・
それにね、彼女はマーケットに買い物にゆくって言ってたんだよ!? 」
「 うん ・・・ うん ・・・・ そりゃ・・・ ぼくも忙しくてさ。 バカンスなんて日本ではとても無理・・・
だけど! 今まで何の連絡もないんだ、これは絶対に拉致 ・・・・ え? 君たちも? 」
「 ジョー! どうしたね、 アルベルトはなんと言っておるのじゃ。 」
博士はジョーの横で聞き耳を立てていたが ついに痺れを切らし、割り込んできた。
「 え? あ・・・こめん、ちょっと博士が・・・。 なんですか、博士? 」
「 じゃから! アルベルトの返事は?! 」
「 え〜と・・・・ お前はヒトにモノを頼む時の言い方をしらんのか!って怒られました。
そして いったいどういう教育を受けたのか、日本の学校では ・・・ 」
「 ちがう、違う! え〜い・・・貸せ! 」
「 あ・・・ 博士・・・ 」
博士はジョーの応対に痺れを切らし、彼の手から携帯をもぎ取った。
「 あ〜 モシモシ? ギルモアじゃが。 アルベルト、聞いての通りなのじゃが・・・ なに・・? 」
( 以下 盗聴・・・・ )
「 博士。 お久し振りです。 実は丁度電話しようと思っていたのですが。 こちらも事件がありまして。
ビーナス像盗難の件でグレートに応援を頼んだのですが。 化けたまま行方不明なのです。
だから申し訳ないが日本にはちょいと行けないです。 フランソワーズのことは心配ですが・・・ 」
「 ふむ・・・ そっちも取り込んでおるのじゃな。 アルベルト、お前なにか心当たりはないかのう。
その・・・彼女の失踪について・・・ 」
「 ・・・ 実はちょいと気にかかることが。 最近、高価な美術品ばかりか、折り紙付きの美女達が
相次いで行方不明になっているのです。 」
「 なんじゃと?? 美術品に美女じゃと? 」
「 そうです、所謂ミスコンってヤツですか、アレの入賞者たちがごっそり姿を消して
こっちではちょっとしたセンセーショナルな話題になっています。 」
「 博士〜〜〜 !! ソイツですよっ フランを誘拐したヤツらは!! 」
「 ジョー・・・? お前、急に割り込んでくるな。 しかしその線も充分に考えられるなあ。 」
「 充分って アルベルト! 彼女はその辺の ミス・なんとか なんかよりず〜〜っとず〜〜っと
美人だよッ! ぼくは! ヴィーナスなんかよりもフランの方が全然美人だよ、絶対! 」
「 ・・・ ジョー。 お前 ・・・ 大丈夫か。 」
「 え・・・ ? あ・・・ ぼく。 ぼく達はそんなんじゃ・・・ あ、あのウ〜〜 」
「 ふん。 今更なにをほざくか、この惚気ヤロウが! ま、いいさ。
それじゃ こっちで合流だ。 ヤツらの根城はおそらくエーゲ海のどこかだ。 」
「 エーゲ海?? 」
「 ああ。 ヴィーナスに化けたグレートからの連絡が エーゲ海で途絶えた。
ともかく ドルフィンで全員を集めろ。 いいな。 」
「 了解。 ・・・ ぼくのフラン〜〜〜 今、行くからなッ ! 」
「 ・・・ あ。 もう。 ・・・ いきなり切りやがって。 ・・・ふん、でもまあいいか。
ふふん・・・アイツもやっと本音を吐いたな。 ・・・フランソワーズ? よかったなあ・・・ 」
アルベルトは通話の切れた携帯を眺め 妹分の幸せをしみじみと願っていた。
「 閣下! 福利厚生担当の部署のものが至急お目にかかりたいと申しておりまして・・・ 」
「 ・・・ なんだと? 福利厚生・・・? 」
「 はい。 あの・・・例の <アフロディーテ島>の運営に当たっている者なのですが・・・ 」
秘書官は当惑した顔で振り返った。
贅を尽くした執務室の入り口で、その男は極力身を縮めていた。
部屋の奥にいる人物とは できれば顔を合わせたくなかったし、係わり合いにもなりたくなかった。
しかし ・・・ これはヘタをすれば直属の管轄者である彼自身にも波及する恐れのある一大事なのだ!
「 アフロディーテ・・・? ・・・ ああ、休暇用の施設を置いた島だな。
それがなんなんだ?? わざわざ直接訴える必要があるのか! 私は忙しいのだ!」
「 申し訳ありません、閣下。 ワタクシもそのように言い、帰るよう申し付けたのですが。
どうしても・・・と粘りまして。 ほら、お前。 あとは自身の口から申し上げろ。 」
「 ・・・は・・・。 」
入り口の男はおずおずと顔を上げた。
「 ・・・偉大なる・我らが総統閣下。 是非ご報告せねば、と・・・ 」
「 だ〜から! ナンだというのだ!? 私は非常〜〜に忙しいのだ! 」
「 は・・・はい・・・ ようく存じておりますが。 一大事でありまして・・・ 」
「 ふん?! どうせ予算が足りんとかそんなコトじゃないのか? 」
ギシ・・・と音を立てて大きな椅子が回転した。
そして 不気味な髑髏のマスクをつけた男がゆっくりと顔を起こし、
入り口にへばりついている小男を真っ直ぐに見据えた。
「 ・・・ ( うぐ ・・・ ) あ・・・いえ。 あの! さ、サイボーグです! 」
「 ・・・ はあ?? それがどうした。 」
「 はい! サイボーグがいます。 あ・・・アフロディーテ島に ・・・ 」
「 そりゃ居るだろうな。 あの島は警備はロボット兵どもに、接待やデモンストレーションには
下級サイボーグどもを使っているからな。 ・・・だから、それがどうしたというのだ!? 」
「 へ・・・へえ・・・・ その・・・接待ですが。 例のオンナ達の中に さ、さいぼーぐ が・・・ 」
「 ああ、あの女達か。 世界中から駆り集めてきた<美女>集団だな。
ふん ・・・ 下級隊員の下司野郎どもの相手には丁度よかろう。
ん? ・・・ サイボーグ?? そのオンナ達の中にサイボーグがいたのか?」
「 へえ・・・ オンナたちはここで 例のチップをちょいとオツムに埋め込みます。
その処理の時に ・・・ 担当の医務員が発見したです。 ・・・あの! 閣下! 自分はちゃんと
こうやって報告しました! 決してもみ消したり隠匿したり ・・・ 知らなかった〜フリはしてません! 」
「 ・・・ おい。 そのオンナ・・・いや、サイボーグは。 」
「 ですから! どうぞ引責辞任とか詰め腹を切らせるとかはご容赦・・・ は? 」
「 だから! そのサイボーグはどうした、今どこに留置しているのだ。 」
「 へ・・・へえ・・・ アフロディーテ島の処置室で・・・ 麻酔剤をう〜んとぶち込んで眠らせてあります。
閣下〜〜 給料カットとか契約切りとかしないでください〜〜 自分は報告の義務はスルーしてません〜 」
「 ああ、わかった、わかった。 よ〜くわかったから。 もう下がってよい。
おい! 秘書官? 即刻高速艇を準備しろ! アフロディーテ島へ行くぞ! 」
髑髏マスクの男は控えていた秘書官に命じた。
「 ・・・ は! 」
・・・・ったく気紛れなんだからなあ・・・ 決裁待ちの稟議書が山積みなのに・・・
発注が遅くなれば順繰りで納品が遅れ 苦情を持ち込まれるのはオレなんだからな!
やっちゃらんね〜な・・・と小声で呟きつつ、秘書官は廊下を急ぎ足で抜けていった。
数々の輝石を壁にはめ込み描かれた < N B G > のロゴがきらり、と光っていた。
「 閣下。 ・・・例の・・・<女司祭>を連れてまいりました。 」
「 ・・・おお、待っていたぞ。 ささ・・・入れ。 」
「 は・・・ 」
白衣の男は一礼すると ドアの外にいる人物に呼びかけた。
「 入れ。 閣下がお目通りくださるそうだ。 くれぐれも粗相のないように・・・ 」
「 はい。 」
りんとした声が聞こえ 衣擦れの音と共に一人の女性が入室してきた。
「 ・・・ 閣下がアフロディーテ島の女司祭に新たに任命されたものです。 名は決まっておりません。
おい、ご挨拶しろ。 」
「 ・・・・・・・ 」
女性は裳裾を揺らし進み出ると 膝を少し折り優雅に会釈をした。
結い上げた亜麻色の後れ毛が きらり・・・と光る。
慎ましく目を伏せているので、濃い睫毛の下の瞳は見えないが輝く美貌の持ち主だった。
「 ・・・ ほう ・・・ これが そうか。 さすがに ・・・ 素晴しい・・・!」
「 は。 ご命令の通り・・・ チップに流す電波も<特別>仕立てとなっておりまして・・・
この女は只今、自分の使命のことしか頭にありません。 」
「 うむ。 よくやった。 それで・・・過去の記憶とかはあるのか。 」
「 いえ。 電波を受信している限りは <女司祭> の自覚のみ、であります。 」
「 そうか。 ・・・ 下がってよいぞ、ご苦労だった。 しばらく休息するがいい。 行け。 」
「 は。 閣下、ありがたき幸せ・・・ 失礼いたします。 」
白衣の男は頭を垂れると そそくさと出て行った。
「 ふん ・・・ おい? 護衛官? 今出ていったヤツ、白衣のヤツだ、始末しろ。 いいな。
それから・・・ しばらく総統室には誰も案内するな。 厳命だ。 」
閣下 と呼ばれていた男は机上のインターフォンに向かって命じるとぶつん!とスイッチをオフにした。
「 これで邪魔はしばらく入らないからな ・・・ 」
男はちらり、と先ほどの女性に視線をとばした。
「 ゆっくりと楽しみたいところだが・・・ まあ、 いい。 」
ぼそりと呟くと 彼は髑髏のフェイス・マスクに手を掛けた。
― 程無くして 不気味なマスクは取り去られ、・・・ 眉目秀麗な若々しい顔が現れた。
ぱさり、と乱れ落ちる濃い色の髪を掻きあげると、彼はゆっくり女性に近づいてゆく。
「 ・・・ 待たせたな。 ほう・・・ ギリシア風のローブがよく似会う。 スタイルも申し分ない・・・
おい、私が誰だか わかるか。 」
「 ・・・ はい、閣下。 偉大なる NBG団の総統閣下でいらっしゃいます。 」
「 よし。 ・・・ふふん・・・ お前、こんなにいい女だったとはな。 私としたことが・・・見落としていた。
X島で見たときにはキツイ目をした男まさりの少女だったがな・・・ ん? 003。 」
男は女性の顎に指を掛け、 その顔をじろじろと眺めた。
「 ・・・ 閣下。 ゼロゼロスリー ・・・とはなんですか。 わたくしはこの島の女司祭です。」
「 ふ・・・そうだったな。 ふふふ・・・ははは ・・・そうだったな!
それでは お前に名をやらねばな。 そうだな・・・ アフロディーテ、ではありきたりだ。
・・・ うん、ダイアナ がいい。 月の女神、男優りな弓矢の腕を持つ女神の名をやろう。 どうだ? 」
「 ダイアナ ・・・ ありがとうございます、閣下。 」
「 ふむ。 お前にはこの島を預けよう。 ここで、各国の名士からNBGの下級団員までの
もてなしを頼む。 ここには全て第一級の 美 が集められているのだ。 」
「 はい、閣下。 」
「 ダイアナ。 お前はそれらの美の統率者だ。 そして ・・・ 私専属の ・・・ 」
男はダイアナという名をつけた美女を抱き寄せ 白い頬に手を当てた。
「 まずは・・・味見、とゆくか。 ふん、本当にダイアナの名に相応しい、輝く美貌だな。 どれ・・・ 」
「 閣下。 ・・・ もったいないお言葉です。 お慕いしております・・・ 」
白い腕がするり、と男の首に絡みついた。
「 閣下こそ月の光も褪せる凛々しさ・・・。 闇色の髪はどんな夜よりも濃く深くわたくしを魅惑しますわ。 」
「 ・・・ お前の口から漏れるとそんなキザな言葉も真実に聞こえるな。
ふん、長い間捜していた逸品が やっと手に入った・・・ 」
男は珊瑚色の唇を奪おうと・・・
「 ― 閣下!!! お邪魔いたします! 」
いきなり インターファンからドラ声が響いてきた。
「 ! な、なんだ?! 接続は切っておいたはずだぞ! 無礼者〜〜〜!! 」
「 申し訳ありません! 緊急コードを使用しおります! 」
「 う〜〜〜 ・・・ !! だから、なんの用件だ?? 」
「 はい! 中東からVIPのお客様がご到着です! 」
「 ・・・・ わかった。 すぐに行く。 」
ぷつり、とスイッチを切ると 男は深い溜息を吐いた。
「 ・・・ 止む終えまい。 大切な客だからな。 ・・・ ダイアナ、お楽しみは暫くお預けだ。
客人が来た。 お前の<女司祭>としてのデヴューになる。 」
「 はい、閣下。 ご期待に沿えますよう・・・務めさせていただきます。 」
ダイアナは優雅にお辞儀をすると 裳裾を翻しその部屋を出て行った。
「 ふふん ・・・ お前の手腕に期待しよう。
ははは・・・ヤツら、目を剥くな。 あんな美女をさんざん見せびらかしておいて・・・
あの身体を自由にできるのは私だけ、というわけだ。 はははは・・・・!!! 」
男の部屋からは 不気味な高笑いが響き続けていた。
「 本当にこの ・・・ エーゲ海のどこか、なのかい? ヤツらの本拠地ってのは・・・ 」
ピュンマはレーダーとソナーのモニターを睨み続けている。
「 ・・・ ああ・・・ 003がいないと サーチ作業は全然捗らないよ! 」
「 うむ、すでに断層線上の島は虱潰しに調査したのだがな。 」
「 ・・・ きっとこの海のどこかに・・・・ 彼女はぼく達の援けを待っているんだ。
ぼくは ・・・ 絶対に諦めないからな! 」
ジョーは胸の奥に下げた、彼女のペンダント・トップにじっと手を当てた。
「 おいおい・・・ 誰も諦めるとは言ってやしないぞ。 お前・・・大丈夫か? 」
「 そうアル。 フランソワーズはんもやけど、グレートはんのことも心配やで。
ピュンマはん、はよ、めっけてんか。 」
「 僕だって心配だよ。 だけど・・・ 本当に皆目・・・ わ!!!??? な、なんだ?? 」
「 どうした? 」
「 レーダーが! ヘンなんだ。 ・・・ くそ〜〜 全然反応しないよ! 」
「 ええ? ・・・・わ! こっちもだ! コンパスも ・・・滅茶苦茶だ? 」
「 どういうこっちゃねん? ・・・下にはな〜んもあらへんで。 海だけや〜〜 」
ドルフィン号のコクピットは騒然とした空気に包まれた。
「 ― 地磁気の異常だ! 」
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updated : 07,14,2009.
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********* 途中ですが☆
す、すみません〜〜〜 例の物理的作業が多忙でして・・・ 今回、短いです・・・
そしてそして終ってませ〜〜ん (;_;)
そしてそして ・・・ こめでぃ なんですよ〜 ジョー君、なんだか情けないぞ??
こ、後編に 期待・・・出来るかな??
はい、もうお気づきですね、原作あのお話の こめでぃ版 でござりまする♪
閣下美形説は ・・・ 某素敵絵師様の以前拝見した素敵オエビ絵からの
連想でございます〜〜〜 (^_^;)
うわははは・・・・と笑いとばして頂ける方、あと一回、お付き合いくださいませ <(_ _)>