『 早春ものがたり ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

「 おか〜〜さ〜〜〜〜ん!!  おなか すいた〜〜〜 」

「 おかさ〜ん ちょこ! 」

 

  バタンっ!   甲高い声と共にキッチンのドアかなり乱暴に開いた。

 

「 ! だれ?? 

びくっ・・・と身体を震わせ 鍋から顔をあげたフランソワーズの瞳に写ったのは ―

 

どたばた どたばた〜〜〜 

「 わ〜〜〜〜 いいにおい〜〜〜 」

茶髪の まさに ジョーの小型版 なちびの男の子。

「 ねえねえ おせんべ〜〜〜 

自分によく似た金髪を ぎちぎちお下げにした ちびの女の子。

 

  「「 ね〜〜〜〜 おか〜さん っ !! 」」

 

小さな手が フランソワーズのエプロンに纏い付き色違いの瞳が、じ〜〜〜っと

彼女を見上げている。

 

   え ????  な なに???

   < おかあさん > ・・・ って 誰?

 

   このコたち ・・・ なんなの〜〜〜

 

レンジの前で固まっている彼女に チビっこ達はわいわいいいつつ

エプロンをひっぱったり スカートに顔をこすりつけたりしているのだ。

「 あ  あの ・・・? 」

「 ね〜〜 おか〜さん アタシ おせんべい たべるぅ〜〜 」

「 僕 ちょこ!!!   びっくりまん・ちょこ ほしい〜 」

「 え・・っと・・・ 」

 

わらわら纏い付くチビたち ― よくよく眺めれば

 

   え ・・・?  このオンナノコ ・・・ 昔のわたし・・・?

   あら でも わたし もっとお淑やかだったはずよ?

 

   やだ〜〜〜 このオトコノコ ・・・  ジョーそっくり☆

   いや〜〜ん ジョーの小型版 カワイイ〜〜〜

 

彼女はおそるおそる手を伸ばしチビたちのアタマに手を置いた。

 

  ほわん ふわん ・・・ 温かい。

 

「 あ ら  ・・・ 」

 

      ほんわ〜〜り  じわ〜〜〜ん 

 

身体の奥から暖かい感情が湧きあがってきた。

だ・けれども ― ど〜しても ど〜しても初めて見る顔 なのだ。

 

   う〜〜〜ん  勝手に食べさせてあげては マズいわよね?

   このコたちのお母さんに許可をもらわないと。

 

「 えっと ・・・ あの・・・ < オヤツ > って お菓子のこと? 」

「 アタシ おせんべい! 」

「 僕 びっくりまんちょこ!  ちょこ〜〜〜 」

「 あ あの 今から食べたいの? 」

「「 うん!!!  」」

「 そ そう・・・ あ〜 でもいいのかしら〜〜

 お母さんにきいてからの方がいいんじゃない? 」

どこから見ても < いつもの・ウチのお母さん > の この発言に チビっこ達は

 

    はあ????    な顔をした。

 

「 ! ・・ いえ その あの ・・・ 勝手にお菓子を食べたらダメでしょう?

 ね? ちゃんと断わってからのほうがいいと 

「 ん〜〜 だから〜〜 オヤツ ちょうだい、って おか〜さん 」

「 オヤツ〜〜っ て おかあさ〜〜ん 」

色違いの瞳が 真剣に彼女を見上げている。

「 あ あのぉ〜〜 ・・・ オウチのヒトは? 」

「 ?? おうちのひと? 」

「 そ そう。 あ〜〜 あの ・・・ パパ とか ・・・ 」

「 ぱぱ?  あ〜〜 おと〜さん はね〜 かえってくるの、おそいじゃん 」

「 おと〜さん 僕がおやすみなさい〜 してからかえってくるよ 」

「 あ  え〜〜〜 そ そうなの? 」

「 おか〜さん そういったじゃん 」

「 えっとぉ〜〜 そ それなら ・・・ 」

 

    う〜〜ん  いいわ このコたちのお母さんにわたしから

    事情を説明すればいいのよね

  

    えっと ― おせんべい と ちょこ?  

    どこにおいてあるのかしら・・・

 

    あ ら。 キッチンはウチのと < 同じ > だわ

    それじゃ 食材は ・・・ ここ?

 

フランソワーズはキッチンのパントリーを開けてみた。

「 う〜〜ん ・・・ と ・・・?

 うわ ・・・ ぎっちり。 インスタント物っぽいものがたくさんねえ

 こんなの、見たことないわ ・・・ なあに これ ? 」

「 おか〜さん まだあ〜〜? 」

「 え  あ  ごめんなさい ね  おせんべい おせんべい〜〜〜 っと? 」

「 〜〜〜 ほら あのカンだってば〜〜 」

隣にひょこんと座り込んだチビの女の子が 銀色のカンを指した。

「 え?  ・・・ あ〜〜 これね。 はいはい ・・・ ん〜〜っと・・・ 」

ぱっか〜ん とフタをあければ 海苔で巻いたお煎餅が詰まっている。

「 あ〜〜 これで いいの? 」

「 ウン!  いっつもおか〜さんがだしてくれるじゃん。 

「 そ そう?? 」

「 うん。 ヘンなおか〜さん  

「 ね〜〜 僕のちょこ はぁ〜〜〜 」

ジョーのミニチュア版みたいな男の子が 彼女の後ろで足踏みをしている。

「 え あ ごめんごめん ・・・えっと ミルク・チョコ がいいのかしら? 」

「 え〜〜 僕 いっつも びっくりまん・ちょこ だよぉ〜〜〜 」

「 びっくりまん・ちょこ??    ・・・ え なにそれ???

 どんなパッケージなの??  びっくりまん??? 」

フランソワーズは 棚に首を突っ込んだままうろうろしている。

「 おかあさ〜〜ん まだ まだぁ〜〜〜 」

「 え ごめんなさい ・・・ どこぉ〜〜〜 

「 − こっちのはこ ! 」

さっきのチビの女の子が また隣に潜ってきて白い箱を指した。

「 あ  そ そう なの ・・・ えっと  あ〜 これかあ・・・

 えっと? ボクは何個 食べるのかしら? 」

「 ? いっつも さんこ ってきまってるよ おか〜さん 」

セピアの瞳が じ〜〜〜っと彼女をみつめいている。

「 あ そ そう  ね・・・ はい どうぞ。 」

「 うわ〜〜い 」

「 ね〜ね〜〜 おか〜さん アタシ う〜ろんちゃ! 

「 僕 みるくてぃ〜〜〜 」

チビたちは テーブルについてオヤツをかじりつつ、彼女を呼び続ける。

「 え ・・ ウーロン茶? ミルクテイ?? 」

キッチンを右往左往しつつ なんとか色違いのマグカップで

ご注文の品を提供した。

あっという間に食べ終わると チビ達はわいわい〜〜庭に飛び出していった。

 

  ふう ・・・・  ねえ これって! 一体なんなの???

 

キッチン椅子に座りフランソワーズはくらくらする気分だ。

ここは ― 確かに < 我が家 > のキッチン。 ちょっとだけ年期が入った風

にも感じるが・・・

「 わたし ・・・ アタマがどうかしちゃったの???

 あ ・・・ 補助脳の不具合かしら。  だって確かについさっき・・・

 わたし チョコを作っていたはず よね? 」

そうなのだ。 固まらないチョコの鍋を絶望的な気分で見つめていたのだ。

 

 それが。  今 レンジの横にはハートの形の中でチョコは大人しく?固まっている。

先ほど覗きこんでいたはずの鍋の中には 固まったチョコが少々へばりついているだけだ。

 

「 こ れ ・・ ヴァレンタイン用?  でも誰が作ったの??

 さっきのチビのおんなのこ? まさか ね・・ う〜〜ん??? 

 ねえ  わたし ・・・ どこにいるの?? 」

彼女はまさに < アタマを抱えて > しまった。

 

 

 

「「 おやすみなさ〜〜い〜〜〜 」」

チビっこ達は 色違いのパジャマを着て、ともかくベッドに収まった。

「 はい お休みなさい。 」

ぷっくりしたほっぺにキスを落とすと ぽんぽん・・・と羽根布団を直してから

フランソワーズは子供部屋を出た。

常夜灯だけにした室内からは じきに可愛い寝息が聞こえてくるだろう。

なんとか ・・・ ここまで辿りついた  が。

 

    ふう〜〜〜〜〜〜 ・・・ ああ なんとか ・・・

    でも  これから どうなるの???

 

    ねえ〜〜 わたし どこにいるの?? ココは ウチ だけど・・・

    でも でも ウチじゃないのよぉ〜〜〜

 

キッチンに戻ると、隅っこにあるイスに 彼女はぺたん、と座り込んでしまった。

 

    ・・・ このイス ・・・ お気に入りなのよね ・・・

    でも ちょっと急に少し古くなったよ〜な雰囲気 ・・・

 

きちんと片づけたキッチンは 見慣れた空間だ。

なんとか オヤツタイム はクリアした。

それとな〜く < 家族 > のことを尋ねると チビ達は口々に

< おじいちゃま > は 今日はお留守 だそうだ。

< おと〜さん > の帰宅は毎日遅いらしい。

 

    おじいちゃま? ・・・ 博士 のこと?

    おと〜さん?  ・・・このコ達のお父さんってことよね?

 

    ― も もしかして ・・・ ジョー???  

 

    だ だって このコ達 ・・・ 4〜5歳 にみえるけど・・・?

 

しかし 悶々と悩んでいる暇は ― なかった。

「 おか〜〜さん! ばんごはんに〜〜 ぷちとまと たべたい! 

「 僕 なっとう!  おさとう かけて 」

「 は ・・・? 」

「 おにわであそぶね〜〜 いこ!すばる 」

「 う うん ・・・ 」

チビ達は キッチンにちょいと顔を出すと またぱたぱた・・・駆けだしていった。

「  は???  ばんごはん ・・・? 」

 

    わ わたしに 晩ご飯 作れって言うのぉ〜〜〜???

 

料理は 得意じゃないのだ。

この地に住み着いてからも 夕食は仲間の料理人 が担当していた。

どうしても仕方ない時には < チン! > に頼り、それでも結構おいしいモノを

食卓に並べることができた。

「 ど どうしよう ・・・・ 

絶望的な気分で冷蔵庫を開けると  

「 あ  卵 がある!  ・・・ オムレツよ!  オムレツに決定! 」

オムレツは彼女が唯一つくれる料理なのだ。

野菜庫には キュウリ やら レタス、ちっちゃいトマト など

見慣れた野菜が詰まっていた。

「 あ・・・ よかった〜〜〜 あとはサラダね。

 えっと・・・ パン!  バゲットはどこで売ってるのかしら?

 あ ・・・ それとも ジョーが好きな < ごはん > がいいのかなあ

 < ごはん > って どうやって作るかしら?? 」

ごはん  は ジョーがとても好む食材なのだ。

「 チャイニーズ・レストランとかでは ライス を食べたことあるけど・・・

 彼が作る < ごはん > とは違う気がするのね〜

 でも あれ・・・ どうやって作るの?? ゆでる? 煮る?

 あ! そういえば ライス専用の鍋があったっけ・・・ ここにも 〜〜 

キッチンをぐるり、と見回せば ―

 

   あった!!  レンジの脇に < ごはん > 専用の鍋が収まっていた。

 

「 これよ これ!  え〜〜と ライス は?? 」

 

キッチン中をさんざん ごそごそやって ― ともかくなんとか夕食はつくった !

 

ライス専用の鍋? には <使用法> がかなり親切に記してあった。

問題のライスは < 無洗米 > という袋を発見した!

「 むせんまい・・・?  洗ってないってこと??  それじゃ 

細かい粒粒をよ〜〜〜〜く洗い ライス専用鍋に入れて水を入れ セットした。

 

「 うわ〜〜〜〜 これ なに〜〜〜 」

「 わおお〜〜  すくらんぶる えっぐ ? 」

お皿の上に ぐっちゃ〜り横たわった黄色い物体にチビ達は歓声をあげた。

「「 おか〜さん  なに これ 」」

「 ・・・ オムレツです! 」」

「 わ〜〜〜 おむれつ??  ウチのおむれつがヘンシンしたあ〜 」

「 すくらんぶる・えっぐ ときょうだい? 」

「 あ〜〜 味は!  いつものオムレツといっしょです。 サラダも食べるのよ 」

「 う〜ん ・・・ おか〜さん おしょうゆ ちょうだい。 」

「 僕ぅ〜〜〜 じゃむ! 」

「 ジャム?  ジャムって・・・ あのパンに塗るジャム? 」

「 ウン。 だってこれ〜〜 おさとう はいってないんだも〜〜ん  」

「 あら オムレツにお砂糖はいれません? 」

「 え〜〜〜 いつも いれて っておねがいしてるよぅ〜〜 」

「 今日はこれをたべましょう。  ほら < ごはん > もあるわよ 」

「 ?? ・・ これ おかゆさん だよ? 」

「 わ〜〜 おかゆさん すき〜〜 僕 」

「 お かゆ??  」

 bouillie de riz という単語が脳裏に反映された。

「 あ〜〜〜 そ そう! 今日は おかゆ です。 」

「 ふうん  ね うめぼし ちょうだい! 」

「 僕ぅ でんぶ!  ぴんくのでんぶ ちょうだい! 」

「 う うめぼし??  ・・・ あ! ジョーが食べてたアレかしら・・・

 ぴんくのでんぶ?  でんぶ ってなに?? 」

「 おか〜さん! うめぼし も でんぶ も やさいしつ だよぉ〜〜 」

「 あ  そ そうなの ・・・ え〜〜と 」

 

    うめぼし と でんぶ  でんぶ〜〜 え???   

 

フランソワ―ズはまたあたふた・・・キッチンを駆けまわることになった。

「 アタシ〜〜 きょうのおむれつ すき〜〜 おいし〜〜〜  

「 僕も! でんぶ さ〜 おむれつ にのせてもおいし〜〜〜 

「 あ そ そう? 

「 おか〜さんもたべないの? 」

「 え ・・・え ああ 食べるわ ね 」

彼女は げんなりする形状の残念なオムレツ にフォークをつけた。

 

    あ れ ・・・ ? 結構おいしいかも・・

    ごはん  も おかゆ だわね、オイシイわぁ

 

―  それで きゃわきゃわ〜〜大騒ぎのウチに 晩ご飯は終わった。

 

「「 ごちそ〜さま でした  」」

チビっこ達はお皿も茶碗もキレイに空っぽにしてくれた。

「 いっぱい食べた? 二人とも 」

「「 うん!! 」」

「 そう よかったわ ・・・ 」

「 ね〜 おか〜さん てれび みていい 」

「 え っと ・・・ いいんじゃない?  えっとあなた達 寝る時間は ・・・ 」

「 はちじ!  いっつもおなじじゃん 」

「 あ そう?  仲良くみてね 」

「「 うん  」」

兄弟 と思われる二人のチビっこは まあまあ仲良くソファに収まった。  

 

  ふう〜〜〜〜〜〜 ・・・ 

 

その後、お風呂に入り 歯磨きもし。  チビたちはなんとかベッドに入ったのだ。

 

「 やれやれ・・・・   !  ジョー ・・・ 帰ってくる のよ ね 」

キッチンに戻ってきてほっとしたのも束の間 重大なコトが頭に浮かんだ。

 ― そう ・・・ このウチには < おじいちゃま > と < おとうさん >

がいる らしい。

「 ・・・ ジョー なの? あのジョーが このコ達の父親なの??

 じゃ ・・・ 母親は ― わ た し ??? 」

ぺたん ― キッチンの椅子に腰を落とした。

 

   子供??  ジョー の ・・・? 

   わたし  が  産んだの??  

   え〜〜〜〜 うっそ ・・・!!??

 

全く < 覚え > はないし そもそも彼女の中で < 島村ジョー > は

< 好ましい存在 > ではあるが < 結婚相手 > にはなっていない。

その お父さん・ジョー が 帰ってくるところは ココ らしい。

「 ・・・ と ともかく 晩ご飯の用意はしておかなくちゃ ね 

 仕事 ・・・ってなにやってるの?? でも 遅くなるっていうことは

 どこかに勤めているってことよねえ ・・・ 」

アタマをひねりつつも 彼女はキッチンを片しつつもう一人前の夕食を整えはじめた。

 

 

  ぴんぽ〜〜〜ん   チャイムが鳴ったのはかなり遅い時間だった。

 

「 ! ・・・ じょ ジョー ・・・? 」

咄嗟に玄関外を < 視て > しまったが スーツ姿にコートをひっかけた男性が

 茶髪の あの! 見慣れた姿が 立っていた。

「 ・・・ あ  ・・・ お おかえりなさい ・・・  

エプロンを外しつつ フランソワーズは玄関に出ていった。

「 ただいま ・・・ あ〜〜 夜はまだ寒いよ 〜〜 」

ジョーは 玄関に入るなりぽん、とコートを彼女に渡した。

「 う〜〜〜 手袋 マフラーは必須だなあ〜 」

「 ! ・・・ あ  そ そう? 」

「 ウン  あ〜〜 やっぱさ〜 ウチに帰ってくるとほっとするよ〜 」

彼はゴシゴシ顔をこすっている。 

 

   ??  ちょ ・・・ なんか ジョーってば  ― オジサンくさくない??

 

「 そ そうなの? 」

「 ウン 二月の夜はまだまだ冬だもんなあ ・・・ ただいま〜〜 」

長い腕がのびてきて彼女の胴に絡まった。

 

 ほわん。  冷たい空気に混じって < 匂い > が押し寄せた。

 

   なに??  え? なんか知らない匂いがする ・・・?

 

そう 彼のスーツからは クルマ やら パソコン やら 書類 やら

 ちょっとの煙草 やら なにかの食べ物の匂いが した。

 

   ・・・ なんか ・・・ パパのスーツからもこんな匂い した かも・・・

   でも パパはちゃんとコロンを使っていたけど なあ ・・・

 

だけども。 彼女が知っている < ジョー > は お日様の匂いがするコなのだ。

ちょっと焦げたみたいな、でも ほっこりする匂い・・ それがフランソワーズが

知っている 島村ジョー君 の香りなのだが ・・・・。

    

   ・・・ どこから見ても < ジョー > なんだけど ・・・

   でも なんか 違うの  なんか ・・・雰囲気というか 匂いというか

 

くい。  胴に絡まった腕が 彼女をきゅっと抱き寄せてきた。

「 ?? え?? 」 

「 ・・・・ 」

 

   え??  うわ・・・・!

 

冷えた顔が近づいてきた!

彼は 無言で彼女を引き寄せると唇を寄せて ― つまり! キスをしようと

迫ってきたのだ。 それも ごく当たり前の顔で・・・

 

   え〜〜〜〜〜〜???  ちょ ・・・  やめてよぉ〜〜〜

 

 どん。  彼女は反射的の彼を押しのけた。

 

< 島村ジョー > クン のことは 勿論嫌いじゃあない。

好ましいなあ〜〜 頼りになるときもあり なあ〜〜 って思ってる。

 

 でも。 お口のキスを許すほどの距離感 ではないのだ! 断じて。

 

「 ?? どうした フラン 」

いきなり押しのけた愛妻の行動に ジョーの方が目をぱちくりさせている。

「 え  あ  あの ちょっと その〜〜 か 風邪っぽいの!

 そう ジョーに移したらたいへんでしょう?? 」

「 え  」

「 だから その・・・ 離れていた方がいいな〜〜って思って

 あ  ごはん! ごはん できてるわ! 

「 あ ああ ・・・ うん ありがと。 」

「 あ! すぐに温めてくるから ・・・ え〜と 手を洗ってきてね 」

「 うん ・・・ あの さ フラン 」

「 は はい?? 」

「 あの 美容院とかにいった? 」

「 え? いいえ  なぜ 

「 う・・ん  なんかきみ ・・・ いつもとちょっと違うカンジだから さ 」

「 そ そんなコト ない けど ・・・? 」

「 そっか ・・・ 」

ジョーは少々首をひねりつつ ともかくバス・ルームに向かった。

 

    な なんとか 切りぬけたわ!

    ともかく 晩ご飯よ! 作って食べさせれば眠くなっちゃうかも?

 

彼女はぱたぱた・・キッチンに駆けて行った。

 

 

「 ん〜〜〜 ごちそうさま。 あ〜〜〜 美味かった ・・・ 」

ジョーは空の皿小鉢を前に箸を置くと ちょっと手を合わせた。

「 あ ・・・ 食べられた? 」

「 ?? 美味かったよ?  お粥もいいね、身体あたたまるし・・・

 卵かけお粥 ってなんか懐かしい味だよ 」

「 ・・・ たまごかけおかゆ ・・・? 」

 

     オムレツと! < ごはん > なんですけど??

       コドモたちは ちゃんとオムレツって言ってくれましたけど?

 

食後に ジャパニーズ・ティ を飲む習慣は 知っていたので

なんとか ・・・ 煎茶を淹れることができた。

「 あ〜〜 腹いっぱ〜〜いだあ〜   うん? なんかいい匂いするね? 」

ジョーは お茶を飲みつつもクンクン・・・鼻を鳴らしている。

「 ? 」

「 甘い匂い・・・ すばるがオヤツを置きっぱなしにしているのかな 」

「 ・・・ そんなはず ないけど ・・・  あ  ! 」

キッチン・テーブルに置きっぱなしのハート型が目に入った。

「 あ  あの ・・・ これ 」

「 うん? 」

「 あの ・・・ もうすぐヴァレンタインでしょう?

 ちゃんとラッピングしてないんだけど ―  どうぞ。 」

「 あ〜〜 チョコレート!  きみの手作りかい 

「 ・・・・・ 」

フランソワーズは 少々後ろめたい気分ながらも曖昧に頷いた。

「 わお♪  ありがと〜〜 嬉しいなあ〜〜  たべてもいい? 」

「 ・・・・・ 」 こくん、と彼女は頷く。

無造作に型からチョコを抜きだすと ジョーはぽりり・・・と齧った。

「 ん〜 んま〜〜 ♪  うんバレンタイン かあ ・・・ 

 きみのチョコってさ ホント美味いんだよなあ 

「 そ  そう ・・・? 」

「 ウン。  これはどこにも売ってないぜ? ぼくだけの特権さ。

 あ それにしても懐かしいよ〜〜 」

「 え  な なにが ・・・ 」

「 え〜〜 言わせるの?  ほら あの初めてきみからもらったチョコ!

 きみの初手作りのさあ 固まってないチョコ。 」

「 ! だって どうしても固まらないんですもの! 」

思わず彼女は声を上げてしまい あわてて口を噤んだ。

「 え?  ぼくさ あれ ものすご〜〜く嬉しくて・・・ 感激して・・・

 ぼくのお嫁さんはこのヒト! ってあの時に決めたんだ 」

「 え!! 」

「 ?? 何回も話したけど・・・・ 」

「 え  ・・・ ええ そう  ね 」

「 ふふ だからさ ヴァレンタイン・チョコって ぼくにはとってもいい思い出

 なんだ。  どんな高価でレアなチョコよりも ぼくはきみのチョコが好きさ 」

「 ・・・ そ そうなの? 」

「 そうさ♪ あ〜〜〜 美味かったぁ〜〜 

熱いお茶を飲み干すと 彼はやれやれ・・・といった表情で立ち上がった。

「 風呂 はいってくる。  あ〜 先にやすんでていいよ〜 

「 ・・・ は はい 」

「 ?  きみ さ  熱 あるのかい?  やっぱなんかヘンだぜ 」

「 そ そんなコト ないわ。  あ お風呂 どうぞ? お湯 いっぱいよ 」

「 うん? ありがと じゃ あったまってくるね〜〜 」

「 どうぞ 

 ふんふんふ〜〜ん♪ ハナウタ混じりにジョーはバス・ルームにむかった。

 

    ふう ・・・ よかった ・・・ 

 

晩御飯 は なんとかクリアした。  今 ジョーはご機嫌ちゃんで風呂に浸かっている。

 けど ― 大問題が! その先に控えている!

 

    ベッド ・・・ どうしよう ・・・・

 

フランソワーズはエプロンを付けたまま ぺたり、とリビングの床に座ってしまった。

そう ― いずれは < 寝る時間 > になるのだ。

さっきチラっと覗いた寝室には 清潔で温かそうなダブル・ベッドがあった。

この家では ジョーは < おとうさん >  自分は < おかあさん >

つまり 正真正銘の夫婦 らしい。

 

    で でもね!! わ わたしは!

    ここにいる・わたしは!  ・・・ 彼のオクサン じゃないのよ!

 

    そりゃ? ジョーのこと、嫌いじゃないわ? 

    そりゃ ・・・ いつかは ・・・ 恋人になってもいいかも

    ・・・ そりゃ  将来は け 結婚って選択も 

 

    でも! でもね!  

 

    わたしが 好きなのは  ―  日向の匂いがする・ジョー なの。

    姿形は同じでも オジサン・ジョー じゃないのよぉ〜〜〜

 

 

「 あ〜〜〜 いい湯だったあ 〜〜〜  」

ガシガシバスタオルで髪を拭きつつ 彼がバスルームから出てきた。

「 ふぇ ・・・ あ〜〜〜 やっぱウチがイチバンだなあ〜〜

 ?  あれ・・・ フラン? まだキッチンにいるのかい? 」

「 え ・・・ ええ あ  あの  

「 片づけなら手伝うよ? 」

「 え あ もう終わったわ  あ あの チョコの残りを ね 」

「 そう? それなら ・・・ ふふふ〜〜〜 明日は遅番だから さ♪

 ゆっくり〜〜(^^♪  ふふふ まってるよ〜〜ん 」

ばちん ・・と相変わらずぎこちないウィンクを残し 彼はベッド・ルームに

行ってしまった。

 

     う ・・・ ど どうしよ ・・・

 

風邪気味で〜 というテはさっき使ってしまったし。

「 そりゃ 困るけど ・・・ あんまし冷たくするのも ちょっと・・・ 」

どうしよう ・・・ リビングをウロウロしたあげく、

キッチンにもどり 鍋に残っていたチョコレートをぼんやり眺めて ― 

 

      

   ふ・・・っと気がつけば  ―  鍋を熱心に覗きこんでいる自分が いた。

 

        ・・・ あ  あれ ???

 

目の前には とろ〜〜ん と茶色に波打つ液体の入った鍋が ある。

「 あ??   < どうして固まらないのぉ > って見てたヤツ? 」

 

  バタン。  キッチンのドアが開いた。

 

「 ただいま〜〜 あ いいにおい〜 」

ジョーが マフラーを外しつつキッチンに入ってきた。

「 牛乳 買ってきた!  あは 今朝の分、昨日のホット・ケーキに使っちゃったもんね〜 」

「 あ ありがとう ジョー。 

 あ あのね  うふ ・・・ ね これ。 ヴァレンタインのチョコなの。 」

「 え きみが 作ったの? 」

「 そ そう!  でも でもね!

 あの ・・・ 固まってないんだけど ・・・ ジョー、 す き よ♪ 」

「 !!!  うわ〜〜〜〜 お 〜〜〜〜〜 」

ジョーは本当に少し飛びあがってから そ・・・っと鍋を受け取った。

「 うわ〜〜〜 すげ〜〜〜 きみの手作りチョコだあ〜〜〜 

 ありがと〜〜 もっのすごくうれしいよぉ〜〜〜 」

こそ。 彼は鍋を持ったまま 彼女の肩にそ〜っと腕を回した。

 ― ほわん・・・  お日様の香が フランソワーズを取り巻く。

 

      あ。 わたしの < ジョー > だわ♪

 

 

      がたがたがた ・・・ 窓の外には早い春の風

 

 

   そっか。 春がこっそり ― ステキな未来を見せてくれたの かも。

   うふふ ・・・ わたし がんばるわ!

 

   あなたの側で いっつもヴァレンタイン・チョコ をつくれるように ね!

 

 

これは 早い春が贈ってくれたちょっと不思議な・甘い夢♪

 

 

**********************************    Fin.     **********************************

Last updated : 02,21,2017.                back      /     index

 

***********  ひと言  **********

チョコ話 にはならなかったです (+_+)

オジサン・ジョー と お日様・ジョー ・・・

きっとフランちゃんはどっちも好きなんだろうな〜