『 こっち側 ― under the rainbow ― (2) 』
ふぁ −−−−− ・・・・・・ !
ジョーは特大の欠伸をして どたん・・・! とソファに引っ繰り返った。
「 あ〜〜〜ああ ・・・・ 」
― いつもなら ・・・
「 お父さん〜〜 じゃま〜〜〜 」
「 し しずかにしてッ TVの音が聞こえないじゃないかあ〜 」
「 ソファで寝たらだめ・・・ってお母さん 言うよ? 」
「 眠いのなら 早くベッドにはいりなさい! っていうよね〜〜 」
たちまち混声二部合唱に集中砲火を受けるのだが ・・・
今日は コチ コチ コチ コチ ・・・ 時計の音だけがやたら耳につく。
いつもごたごた ・・・ モノがあちこちに点在してるリビングが 今日はやたらと広くみえた。
天井はやけに高く そして いつか独占してやる!と楽しみにしていた TV は見たい番組なんか
全然ない・・・って結論に早々に達した。
ふぁ −−−− 〜〜〜 ふぁ ふぁ ふぁ ・・・・ !
ジョーはまたしても大きな欠伸をし、このまま昼寝しようか ・・・と本気で考え始めていた。
ちぇ。 校了明けで や〜〜っと取れた半休なのに なあ 〜〜
なんだって 誰もいないんだよ〜〜 ふんっ!
ちぇ ・・・っと舌打ちをし ジョーの上機嫌はどんどん曇っていった。
「 い〜さ い〜さ ・・・ すこしココで昼寝タイムだあ〜 」
寝転がったまま う〜〜〜ん ・・・ ! と手脚を思いっ切り伸ばしてみる。
― ガサリ ・・・ 左手が なにか に触れた。 紙 ・・・ 本 か?
「 なんだあ? ここに本の置きっ放し は <るーるいはん> じゃあないのかな〜
坊ちゃん お嬢さん ? 」
ジョーは 声をだしつつ手に触れたものを持ち上げた。
「 ? 本 ・・・ とも違う?? なんだ ・・・ 『 オズの魔法つかい 』 四年
・・・・ あ! わかった〜〜〜 これ すぴか達の劇の台本なんだ? 」
ぱらぱらとめくってみる。
「 へえ ・・・ もう書き上げたってわけかあ。 早いなあ ・・・ 締め切りは楽々クリア か。 」
ジョーは編集人の目になって 娘の書いた ( とおぼしき ) 台本を読み始めた。
「 ・・・ うひゃ ・・・ こりゃまたずいぶん ・・・ へえ〜〜〜 」
ストーリーはかなり簡略化されていて 単なる冒険モノになっていた。
演じる方も観客も小学生が対象なのだから 当然だろう。
原作を簡略化したものを 教師がすぴかに書きやすいような形で示したに違いない。
それにしても なかなか <読める> 脚本なのだ。
「 ふうん〜〜 うっふっふ・・・ウチのお嬢さんはなかなか文才 あるなあ〜〜 」
ジョーは親バカ視点からだけではなく かなり感心していた。
― バターン ・・・ たっだいま〜〜〜〜 !!
玄関のドアがかなり乱暴に開いて 閉った。
「 ・・・お。 脚本家先生のご帰宅だ。 おかえり〜〜 すぴか。 」
タタタタタ ・・・・ パタン !
「 ? あ〜〜〜〜 お父さん!? どうしたの?? 会社 ・・・ おしまい? 」
すぴかが リビングに駆け込んできた。
いや 彼女としては < 普通 > なのだろうが いつも少女の足取りは跳ぶみたいに軽いのだ。
「 おかえり。 うん、 お仕事がひとつ、終ったからね、早く帰ってもいいぞ〜って
編集長さんがさ。 」
「 あ〜〜 あのクマさんみたくなへんしゅうちょうさん ? 」
「 そうそう。 よく覚えているね。 」
すぴかは以前の夏休みに ジョーの < しょくばけんがく > に行き ず〜っとひっついて、
編集長をはじめ会社に人達と会ったことがある。
「 覚えてるよ〜 ふうん それで早いんだ〜 おかえりなさい〜 お父さん! 」
ぽん、と彼女はジョーに飛びついてきた。
「 おわ? ・・・ ははは ただ今〜〜 なあ これ 読んだよ〜
すぴかが書いたんだろ? 」
ジョーは娘を片手で抱き上げつつ 今まで読んでいた台本を示した。
「 あ? あ〜 ここにあったんだ〜 探しちゃったよ〜 」
「 ・・・ 置きっぱなしだったぞ。 」
「 へへへ ・・・ またお母さんに怒られるね〜〜 ちゃんとしまっておかないからですっ!
ってさ〜〜 」
「 あは そうだな。 ほら・・・ 大事なものだろ。 」
「 うん。 」
「 すぴかの書いたの、面白かったよ。 すごいなあ。 」
「 そ そう? 竹山先生も上田先生もね〜 面白いわね〜〜って。
あ わははは・・・って笑っちゃうって意味じゃないよ? 」
「 ウンうんわかってるよ。 で 練習は上手くいってますか? 」
「 うん! あのね あのね〜〜 すごく面白いんだ〜〜 」
「 ほう? すぴかの脚本がいいからだよ。 」
「 あは 違うよ〜〜 お父さん。 えんしゅつがいいからさ。 」
「 えんしゅつ? 」
「 そ。 このヒトがえんしゅつ。 」
ばし・・・! とすぴかは台本の拍子を指した。
演出 宮崎 俊
「 ・・・ふ〜〜ん ・・・ 演出も子供がやるのか。 」
「 そうだよ。 しゅん君がね すぴかのきゃくほん読んでね〜 いろいろ考えてね〜 」
「 しゅんくん ? 」
「 僕は えんしゅつ ってか ぶたいかんとく だってしゅん君は言ってるよ。
学級委員だしね〜 しゅうさいでね〜アタマいいんだ〜 それでね しゅん君がね 〜 」
「 ・・・ 秀才かあ ・・・ 」
「 うん。 それでね〜 嵐の場面とかさ、 人間が嵐、やろう! って。
でね〜〜 嵐のダンス、踊るチームができたんだ〜 」
「 へえ ・・・そりゃまた斬新だな。 」
「 ざんしん? 」
「 あ〜 ・・・ ナウい ・・・ いや もう死語か・・・ もえ〜〜 ってこと。 」
「 そうなんだよ〜〜 それでね しゅん君ってばすごいんだよ〜 嵐のダンスもね〜
いろいろ・・・考えちゃうんだ。 ふりつけ もするんだよ。 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・ 」
「 すばるとだいち君にね〜 ちっちゃい家、作って・・・って言ってさ、 それを使って
嵐ちーむ がおどるんだ。 」
「 へ〜〜〜え 」
「 お母さんに話したらね〜 すごいアイディアねえ〜 って!
皆もおもしろい〜〜って言ってるよ。 ダンス・チームはきゃわきゃわ言ってるし。
男子が うわ〜〜って面白がっておどってるんだ。 皆 言ってるよ〜〜
しゅん君 アタマいい〜〜〜 かっこいい〜〜〜って 」
「 ほ〜〜〜〜う 」
「 でね〜〜 しゅん君、 すぴかの脚本 いいね〜〜 って。
読んでるといろんな場面が浮かんでくるね〜って。 島村さん、上手だね〜って! 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・ 仲良しなんだな〜 」
「 うん♪ かっこいいんだ〜 しゅん君ってばね サッカーもね〜 チームに入ってるし。
走るのも速いしさ〜〜 」
「 へ〜〜〜え ・・・・ なあ お父さんも走るの、速いぞ? 」
「 へ? ・・・ あ あ〜 そだね、 でも大人だから。 で しゅん君ってばさ〜 」
すぴかはさかんに しゅん君がね〜〜 を連発しにこにこ喋っている。
ジョーはなぜか意味もなく もわもわした気分になってきた。
ふん? なんなんだよ〜〜〜
すぴかが 男の子こと、こんなに熱心に話すの、初めてかもなあ・・・
例の 蝉取りのカレシ 以来 か?
・・・ ちょいと許せん なあ。
「 ― 二人で しゃべること、多いのかい。 」
「 うん。 いろいろお話して相談しなさい、って竹山先生も言うもん。 」
「 ! う〜〜〜 ・・・ こりゃ油断ならんな〜 」
「 ゆだん?? 」
「 あ ・・・ いや なんでもないよ。 で 他のヒトもいるんだろ?
ほら ・・・ 音響効果担当とか さ。 」
ジョーは < しゅん君 > から すぴかの話題を逸らしたくて話を他に振ってみる。
「 え? あ ・・・ うん! 他にもいるよ〜〜 <すたっふ>。 」
「 すばる や だいち君もスタッフなんだろ。 」
「 そ! あの二人もねえ しゅん君と話て・・・ってかしゅん君がねえ いろいろしじして・・・
つくってるよ〜 だいち君ってさ〜〜 すごくきようなんだ。 」
「 ・・・ すばるだって器用だと思うけどなあ お父さん。 」
「 あ〜 まあまあ ね。 で ね 今 あの二人は < 小さい版おうち > つくりに
熱中してるよ。 ほら〜 この前 すばるがおじいちゃまに教わってたでしょ? 」
「 ・・・ あ〜〜 そうそう ・・・縮尺の方法を教わってたね。 」
「 でしょ。 それでね〜 今 二人はドロシーのお家・小さい版 つくってる。
しゅん君がね〜〜 いいねえ〜〜 って喜んでるんだ。 」
「 ふ〜〜〜〜ん ・・・・ で このコは? 」
ジョーはなんとか話題を < しゅん君 > から逸らそう! と音響担当の名前を指した。
それを見て すぴかは ああ・・・っと深く頷いた。
「 はねけん君はねえ〜〜 」
「 ・・・ はねけん?? 」
「 あ おんきょう担当の 羽田 健君。 はねけん君って皆よぶよ。 かっこいいよね。 」
「 ・・・ あ〜 まあな ・・・ 」
「 でね! はねけん君はね〜〜 音楽はね、全部ピアノで弾くんだよ! 」
「 へえ〜〜〜 生演奏なのかあ〜〜 」
「 なま? 」
「 ああ ・・・ MDとか使わないんだろ? 」
「 うん。 はねけん君はそのほうが好きなんだって。 歌のところも全部ばんそうするしね〜
ほら じゃじゃじゃ〜〜〜ん! って登場の音 とかァ ご〜〜って 嵐の音とかも 全部! 」
「 へえ〜〜〜 音響も生か! すごいなあ 」
「 でしょ でしょ? 全部ねえ 作っちゃうんだよ。
歌の練習もね〜 全部伴奏してるし。 もう音楽はばっちり。
宮川先生もさあ すごくいいね〜〜 最高のみゅ〜じかるになるね〜〜って。 」
「 宮川先生? 」
「 そ。 音楽の先生。 歌の練習、してくれるの。 」
「 ああ そうなんだ? キャストのヒトたちは大変だよね。 」
「 でね でね〜〜 人数が足りない・・・ってはねけん君がさ。
大合唱がほしいんだ〜って言ってね。
皆で歌うって場面はねえ ・・・ 嵐チーム とか すぴか達すたっふも歌うんだよ。 」
「 ふうん ・・・ なかなかのアイディアだねえ ・・・ 」
「 でしょ? も〜さ〜 しゅん君とかはねけん君とか〜だいち君とか〜 わいわい言ってて
どんどんいろんなアイディア が でてくるんだ〜 」
「 ・・・ すばるは? 」
「 へ?? 」
「 島村すばる君 だって スタッフの一員だろ? 」
「 あ〜 ・・・ うん すばるはねえ〜 いつだってアタシの意見と同じ!だから。 」
すぴかは事も無げに言い切った。
「 あ ・・・ そ そうなんだ? 」
「 うん。 アタシ達はず〜〜〜っとそうだもん。 お父さんとお母さんと いっしょ。 」
「 え!? 」
「 え? だってさあ ・・・ なんでもお母さんが決めてさ ・・・
お母さん 「 それでいいかしら ジョー? 」
お父さん 「 ああ いいよ。 きみの意見に賛成だ 」
・・・ が ウチのパターンじゃん? 」
「 ・・・ あ ・・・ ああ まあ そう いうことも ある な ・・・ 」
「 でしょ? だから〜 すばるはなんだってアタシの意見に賛成なの。
アタシ そうシツケてきたから。 」
「 し しつけ?? 」
「 そだよ〜〜 あ〜〜 ねえ ねえ お父さん アタシ、お腹すいた!
この前のさ そうかせんべい が カンの中に入ってるから ちょうだい! 」
「 あ ・・・ う うん ・・・ 」
ジョーは ぎくしゃく立ち上がりお菓子類が入っている戸棚を開けた。
な なんか ・・・ フランに言われてるみたいだなあ ・・・
すぴかはホントによく似てるんだよなあ・・・
! し しかし ! 問題だぞ!?
ぼくって そんな風に子供たちにみられているのか?!
「 お父さんってば〜〜 ほら そのカン! 上のトコにあるでしょ 」
「 あ・・・ う うん ・・・ ああ これだね。 ・・・ はい。 」
「 うわい♪ サンキュ♪ アタシ〜 遊びに行ってくるね〜〜
ゆみちゃんとサアちゃんと〜 公園で遊ぶ約束なんだ。 」
すぴかは草加煎餅を貰うと さっさとリビングを出てゆこうとした。
「 公園? ああ 気をつけてな〜 」
「 うん! あ お父さんも気をつけてね〜 じゃね! 」
少女は ひらひら手を振って飛び出していった。
「 ・・・ じゃね ・・・ ふ〜〜〜〜ん ・・・ なんか なあ・・・ すぴかはぼくに似てる・・・って
思ってたんだけど ・・・ いやいや やっぱりフランそっくりだよなあ・・・ 」
ジョーは 娘のおしゃべりを聞いていて もや〜〜〜ん・・・と不可解な想いを持て余していた。
「 ・・・ なんなんだ ・・・? こう・・・なんか不安というか不愉快・・・とも違うか?
う〜〜〜ん ・・・ しかし この気分は経験があるぞ? 」
バリン ・・・ テーブルの上にあった草加煎餅を齧る。
「 大切な存在に対して 抱くこの不安 ・・・・? う〜〜ん ・・・なんだろう ?
― あ。 アレだ! フランがぼくにいろいろ 公演のこととか話してくれるとき ! 」
「 ねえ ジョー。 今日のリハでねえ〜 タクヤったらねえ ・・・ 」
「 それでね・・・ 自習しよう〜ってタクヤと頑張ってて ・・・
二人ともヘロヘロだったのよ〜 わたし リプカで落っこちそうになってね〜 」
「 ねえ ねえ ジョー。 聞いてきいて! タクヤがね〜〜 」
「 うふふ? 嬉しそうにみえる? 今日ね 珍しく〜〜 褒められちゃった♪
あ リハで、なんだけど。 タクヤとねえ〜〜 」
彼の細君は < タクヤがねえ > を連発するのだ。 それも大変に楽しそう〜〜〜に
とっても嬉しそう〜〜に。
そのたびに ジョーはなんともいえない もや〜〜〜ん ・・・としたフクザツな想いに
囚われ続けている。
< タクヤ > こと 山内拓也 は フランンソワーズの < 仕事上のパートナー >で。
つまり 彼女と彼はよく組んで グラン・パ・ド・ドゥを踊ることが多い。
彼はまだ20代半ばの青年で ジョーからみれば < 若造 > なのだが・・・
バレエ・ダンサーとしては めきめきと頭角を現しつつある有望な若手 というところ らしい。
「 え? タクヤ? ええ いいコでしょ。 ほら〜 ウチにも来たこと、あるでしょう?
すぴかやすばるのこと、可愛がってくれるし。 いい青年だって博士も仰っていたわ。
え? 彼女? いるんじゃない? カッコイイしモテモテだもの。 」
彼の細君は ごく当たり前っぽく事も無げににこやかに言う。
「 わたしのこと? や〜だあ〜〜〜 こんな子持ちのオバサンのこと、な〜んとも思ってやしないわよ〜〜
や〜だ〜〜 ジョーったら〜〜 」
「 タクヤと幾つ違うと思っているの? わたしにとってタクヤは すばる と同じようなものよ。 」
ふ〜〜〜〜ん ・・・・ そうなのか?
すばる に対してあ〜〜〜んなに うっとり♪した目線、送るのか??
・・・ そりゃ? 演技・・・って言われればそれまでだけどさ〜〜
! この感情は! 断じてヤキモチなんかじゃないからな!
ジョーは常々そう思ってはいる のだが ―
バリン ボリン ・・・ 草加煎餅が盛大な音をたてる。
「 はあ〜〜〜 ・・・・ 妻と娘の言動に翻弄される ・・・ って か ・・・
おい だらしないぞ〜〜 ジョー! もっとこう ・・・ 鷹揚に構えて だな ・・・ 」
― ばった〜〜〜ん ・・・! ジョーの沈思黙考? は玄関のドアの悲鳴に遮られた。
「 た〜〜〜だいま〜あ〜〜〜〜〜♪♪ た だ い まア〜〜〜〜♪ 」
「 ?! ・・・ ああ すばるか。 すばる〜〜 お帰りっ!
・・・ ったくなあ ・・・ もう少し静かに開け閉めしろよ〜〜
ウチのドアは一応 超ハイテク・超防護壁も兼ねている精密機器なだからな〜 」
「 ただいま〜〜〜♪ あ 〜〜〜 お父さん?! 」
歌声と共に 茶髪のアタマがリビングにの〜〜んびりやって来た。
すばるは基本 走ることはあまりない。 いつもゆっくりのんびり愉快そう〜〜に歩く。
「 おう すばる。 お帰り。 なんだ〜 道草、喰ってたのかい?
すぴかはもうとっくに帰ってきて ・・・ また遊びに行ったぞ 」
「 え〜〜 僕、 草なんか食べないよ? 」
「 あ 〜 つまり 寄道してたのかってこと。 しんゆう君と さ。 」
「 ぶっぶ〜〜〜★ ちがいます。 僕たち、舞台設定係 はア〜 舞台そうちの作成に
いそしんでいたのでありまア〜す。 」
「 舞台装置? お〜〜 すごいじゃないか〜〜 で 何を作ったのかい? お城? 」
「 またまたぶっぶ〜〜〜★ 今日はア ドロシーの家 のもけいを完成させてェ〜
< 魔法のようせい > が使う 花 とか おかし を作ったんだ〜 」
「 魔法のようせい? それ・・・ オズの魔法使い に出てくるのかい。 」
「 ウン! 宮崎君とすぴかのアイディア なんだけどね〜 よいまじょ の 魔法があ
魔法のようせい なんだ〜 」
「 ???? 良い魔女 の 魔法?? 」
「 そうだよ〜ん サアちゃんがやるんだ〜 サアちゃんのね〜 ながい金色の髪がさ〜
ふわ〜〜〜って広がって・・・ すごくキレイなんだよ〜〜 」
「 サアちゃん? ・・・ ああ ああ! あの金髪美少女か。 ウチに遊びに来たね。 」
「 そ。 それでね〜 魔法 って見えないじゃん?
だから、良い魔女・グリンダ が 杖を振る と 魔法のようせい・サアちゃんが
ふわふわ飛んでいってね〜 金色の髪がふわふわしてね〜 すご〜〜いキレイでさ〜
花が咲いたり お菓子が出てきたりするの。 」
「 ・・・ へ え〜〜 すごいアイディア だねえ〜〜〜 」
「 でしょ でしょ? 僕たちは 魔法の花 とか 御菓子 をでっかく作ったんだ〜 」
「 ふう〜〜〜ん ・・・ そりゃ すごいなあ〜〜 ・・・ ふう〜〜〜ん 」
ジョーは本気になって感心してしまった。
「 へえ〜〜〜 近頃の小学生って なんか ・・・ すげ〜 」
「 お父さん〜 僕 オヤツ〜〜〜 チョコ、食べたいよ〜う 」
「 え チョコ? さあ ・・・ あるかなあ? どこにしまってあるんだろう。 」
「 え〜〜〜 チョコは冷蔵庫に決まってるじゃないかあ〜 ねえねえ 僕、 ミルク・チョコと
ホワイト・チョコとぉ〜〜〜 」
「 ちょっと待てよ。 すばる〜〜 まずはランドセルを置いて! 手を洗ってうがい! 」
「 はア〜〜い チョコ チョコ チョコ チョコ チョコレェ〜〜〜〜〜トぉ〜〜〜〜♪♪ 」
すばるはぴいぴい囀りながら ランドセルを置きに子供部屋に上がっていった。
「 ふ〜ん ・・・ そういや すばるのヤツ、 いっつもふんふん歌ってるよなあ・・・
みゅ〜じかる に出てみる気はないのかい? そりゃ ・・・ 芝居はテレるけど ・・・ 」
ジョーは よっこらしょ・・・と立ち上がり すばるのチョコを探しにキッチンに向かった。
― カタン ・・・ ただいま ・・・・
やっと玄関のドアはごく当たり前に、普通の扱ってもらって穏やかに開いて 閉った。
「 あ フラン〜〜〜 お帰りっ ! 」
ジョーは雑誌を放り出して玄関に飛んでゆく。
「 お帰り 〜〜〜 フラン♪ 」
「 あら!? ジョー ・・・ どうしたの??? 具合、悪いの?
え ・・・ それとも ・・・ なにかあったの??? 」
フランソワーズが荷物を両手に持ったまま 顔色を変えて立ち尽くしている。
「 へ? なにもない けど? 」
「 ・・・ でも でも ・・・ ジョーがこんな時間にもう家にいるなんて ・・・
ねえ 本当のこと、言って! わたし ・・・ 覚悟はできているわ。 」
うん うん ・・・ と彼女は悲壮な表情で頷いている。
「 え・・・ 本当にな〜〜んにもないよう〜〜〜 今日は校了日。
それで一件あった取材の後 直帰オッケー がでてました。 」
「 あ ・・・ な〜〜んだア〜〜〜〜 ・・・・ ハア ・・・ 緊張してソンしたわあ ・・・ 」
バサリ。 ドン。 彼女は両手の荷物を玄関の床に置いた。
「 え〜〜 ちゃんと言ったはずだけどなあ ・・・ まあ いいや。 ほら 荷物もつよ〜 」
「 あ ・・・ ありがと ・・・ あ! それじゃ御飯 急ぐわね。 」
「 いいよう チビたちのオヤツを一緒にもらったから ・・・ 」
「 オヤツ? わたし、出しておいてないわよ。 フルーツ・ゼリー が作ってあるけど・・・
冷蔵庫の奥に隠してあるし。 」
「 あ う〜ん アイツらのリクエストで草加煎餅とチョコを出してやったんだ。 」
「 あら。 それも隠しておいたのよ、どうして場所を知ってたのかしら〜〜 」
「 隠して・・・って なんで? オヤツに煎餅とかチョコって普通だろう? 」
「 適量なら ね。 すぴかもすばるも〜〜 好きなだけ持っていったんじゃない? 」
「 ・・・ ごめん。 監督不行き届きでした。 」
ジョーは言い訳せずに がば!っとアタマをさげた。
「 しょうがないわ。 ねえ 今度からお煎餅もチョコも 一個 にしてね。 」
「 了解です。 な〜んかすぴかの話に気を取られててさあ・・・ 」
「 すぴかの話? 」
「 うん。 例の オズの魔法使い の話なんだけど さ。 」
「 ああ なかなか上手よねえ、 すぴかの脚本 。 」
「 そりゃ〜 〜 ぼくの娘だからな♪ ・・・ じゃなくて。
すぴかってば しゅん君 とか はねけん君 のこと、絶賛大好評〜〜〜 でさ。
しゅん君がね〜〜 しゅん君ってばね〜〜 しゅん君はすごいんだ〜〜 とか・・・
演出担当君のことば〜〜〜っかなんだ。 」
「 そうそう 宮崎君、でしょう? 学級委員の秀才でね、すごくアタマいいみたい。
すぴかと頑張ってるみたいよ? 」
「 ・・・ なんか さ。 ぼく ・・・ 不愉快 ってか不安ってか ・・・ 」
「 え〜〜〜 なんで? 」
「 だってさ。 ぼくの娘が だよ? 目、きらきらさせて他のオトコのこと、褒め捲くるんだよ?
これって父親としては〜〜 か〜〜なり〜〜〜 」
「 うふふふ ・・・ ジョーのヤキモチ妬き〜〜〜♪ 」
「 や ヤキモチじゃあないぞ! 相手、娘だぞ? 」
「 うふふふ〜〜ん それでもヤキモチでしょ。 すぴかが取られそうな気がする? 」
「 ・・・ う うん ・・・ 」
「 あはは 大丈夫よ〜〜 お父さん♪ あのコがお嫁に行くまでにはまだ10年は掛かるから。」
「 お お嫁って! そ そんな ・・・・ けど。 きみとそっくりな顔でさあ ・・・
ぼくの前で他のオトコのことば〜〜っか話題にされると ・・・ う〜〜〜 」
「 うふふ♪ 娘の青春を 暖かく見守ってあげましょう♪ 」
「 ・・・ く ゥ 〜〜 ・・・ ああ! きみのお兄さんの気持ちがよ〜〜〜〜〜〜くわかる! 」
「 ― お兄ちゃんは ジョーのこと、ちゃんと認めてくれたでしょう? 」
「 うん。 そう だった ね。 」
「 そうだったわよ。 」
二人はしんみりとした気分で でも暖かい微笑を交わした。
( この経緯につきましては 『 クリスマス・キャロル 』 ご参照ください )
「 ・・・ と ともかく! ぼくはすご〜〜くナーヴァスだったわけ さ。 」
「 父親の心境は複雑ね。 」
「 ・・・まあ ね。 あ ・・・ 夕食の用意、手伝うよ。 これ キッチン行き? 」
「 ええ お願い。 こっちは卵が入っているから気をつけてね。
わたし、部屋に荷物置いてくるから ・・・ 」
「 了解〜〜〜 」
フランソワーズは二階へ上がっていった。
彼女のきゅ・・・っとした格好のいいヒップをつくづく眺めつつ ― ジョーはこっそり溜息だ。
ああ 相変わらず魅惑のオシリだなあ・・・ ぷりん、ってしたい♪
ふ 〜〜〜 ん ・・・ 察してくれよ〜〜〜
きみの < タクヤがね〜〜 > の連発にもさあ
・・・ ぼく がもやもやしてるってコト ・・・
お父さんのフクザツな心境は どうも誰にも理解してもらえていない ・・・ らしい。
月が変ると 子供たちの帰宅はさらに遅くなった。
授業の後の < 学芸会の練習 > で すぴかもすばるも大忙しなのだ。
「 ・・・ 学校にいるのだからいいのだけど。 でも ねえ・・・ 」
秋の夕暮れは釣瓶落とし ・・・ おそらく学校を出るころに もう日は沈んでいるだろう。
フランソワーズは 気が気ではなかった。
彼女自身、 帰宅を急ぎなんとしても子供達より前に玄関に飛び込む日々なのだが・・・
― バタン。 玄関に小さなスニーカーは並んではいない。
「 ・・・ふう ・・・ やれやれ・・・ ああ まだ二人とも帰ってないのねえ・・・
今日もれんしゅう〜って言ってたけど ・・・ でも5時には下校しているはずよねえ ・・・ 」
手早く荷物を片付けつつ フランソワーズは時計をちらちら・・・眺めっぱなしだ。
「 ・・・ ウチまで歩いてくると やっぱり最後は薄暗くなってくるし ・・・ 」
ふう 〜〜〜 心配性のお母さんは溜息吐息の連続だ。
― バンッ !!! 玄関のドアが鳴り響き ・・・
「 たっだいま〜〜〜 」 きんきん声が聞こえてきた。
「 あ ・・・ すぴか〜〜 お帰りなさい〜〜! あら すばるは? 」
「 あ? アイツはの〜んびり歩いてるから〜 あと15分くらいかかるんでない?
ね〜〜〜 お母さん〜〜 お腹 空いたア〜〜〜 」
「 え ・・・ ねえ すぴかさん。 遅くなる時はすばると一緒に帰ってきてちょうだい。
二人なら暗くなっても怖くないでしょう? 」
「 アタシ。 一人でもちっとも怖くないも〜ん♪ ず〜っと走ってくるし〜 」
元気モノの娘は ぴんぴんお下げを振って笑っている。
「 ね〜〜 ね〜〜 オヤツゥ〜〜〜 」
「 まずランドセル置いて。 手を洗ってウガイしてから。 あ ・・・ でもねえ もうすぐ
晩御飯だから 少しだけ ね。 」
「 え〜〜〜〜 じゃあさあ 晩御飯 なに。 」
「 チキン・ボールの酢豚風。 すぴかの好きなたまねぎも人参も沢山 よ。
たけのこの水煮も入れたわ。 張伯父さんから頂いた木耳もね。 」
「 わい〜〜〜♪♪ うっほほほ〜〜〜♪ 」
すぴかはどたどた子供部屋に駆けてゆく。
「 ・・・ やれやれ。 のんびり坊やはまだかしらねえ ・・・ 。
はあ〜〜〜 ・・・・とまたまた溜息をつき、 お母さんは食器棚から色違いのカップを出した。
「 そ〜れでね♪ 嵐チーム がダンスしてね〜〜 お家を運んでゆくの ! 」
「 わたなべ君とね! 僕がね! つくったんだよ〜〜 模型のおうち!
図工の長田先生もね〜〜 上手だねって♪ 」
「 ふふん ・・・ まあまあ ね。 」
「 ! 宮崎君は! すげ〜〜な〜〜って言ってたもん! はねけん君だって! 」
「 ま 合格ってトコよ。 それよかさ〜 はいけい ってもっと 絵 描いてよ? 」
「 だから〜〜 いま わたなべ君が下描きしてて〜〜 」
晩御飯中も 子供達は学芸会の話に夢中なのだ。
「 まあ そうなの? その宮崎君と 羽田君ってすごいのねえ・・・ 」
「 ウン。 すたっふ がしっかりしてるから安心だわ・・って竹山先生、言うもん。 」
「 ふふふ〜ん♪ 僕とわたなべ君で〜〜 盛り上げるもん♪ 」
「 しっかりやってよ〜?? あんた達がちょんぼったらみゅ〜じかる、台無しになるよ〜 」
「 ちょんぼらないもん! ね〜〜 お母さん!? 」
「 お母さん! あのね〜〜 すばる達のチーム、作業がおそいんだよ〜〜〜 」
「 お おそくなんかないもん! だいち君だって かくじつにやろう! って言うもん ! 」
「 でもさ〜〜 いっつも最後まで残ってるじゃ〜ん! 」
「 だってッ! 」
すと〜〜〜っぷ。 フランソワーズは娘と息子の間に割り込んだ。
「 ほらほら。 御飯の最中にケンカなんかしないでちょうだい。
お母さんね〜〜 美味しく晩御飯 食べたいの。 アナタたちだってそうでしょう? 」
「 ・・・ う うん ・・・ たまねぎ ・・・ おいしいね。 」
「 鳥さんダンゴ〜〜〜 好き♪ きのこも好き♪ 」
「 でしょう? 楽しく美味しく晩御飯を食べましょう。 」
「「 は〜〜〜い 」」
双子は 口げんかをやめて熱心に箸を動かし始めた。
「 学芸会の準備、皆熱心にやってるのよね。 お母さんにもよ〜〜くわかったわ。
すぴかは演出の宮崎君を助けてるし すばるはわたなべ君と舞台装置とか
作っているのね。 お母さん すご〜〜〜〜く 楽しみよ。 」
「「 えへへへへ ・・・・ 」
」
「 それで キャストの人達はどう? サアちゃんもキャストなのでしょ? 」
「 うん。 サアちゃんねえ < 魔女の魔法のようせい > なの。
すご〜〜くじょうずなの。 ホントのようせい ( 妖精 ) みたい! 」
「 僕とだいち君 ( わたなべ君のこと ) とでね! 魔法の花 とか 御菓子とか
いろいろ作ったんだよ〜〜 」
「 そうなんだ? 皆 歌を歌うのでしょう? 」
「 うん。 ドロシーの アユミちゃんは本当に歌、上手だよ。
宮川先生も きれいな声だねえ〜〜って褒めてるし。 」
「 ぶりきオトコ の 加藤君もね! すごく上手だよ〜〜 」
「 でね すぴか達もみ〜〜んなで歌うの にじのむこうに って 歌。 」
「 ああ 知ってるわよ、お母さんも。 〜〜〜 でしょ? 」
フランソワーズは綺麗な声で歌い始めた。
「 ・・・ 曲は同じだけど ・・・ 文句がちがう ・・・ 」
「 すぴか〜〜 お母さんさ えいご で歌ってるのとちがう? 」
「 あ そっか〜〜 アタシたちのは日本語だもんね〜 」
「 でも曲はいっしょじゃん♪ ・・・ すてき〜〜なおとぎの国が〜〜♪ 」
「 ん〜〜〜 きっと あるゥ 〜〜♪ 」
すばるに釣られてすぴかも日本語版で歌いはじめた。
「「「 〜〜〜〜♪ 」」」
混声合唱はステキに響いて終った。
「 うふふふ ・・・ 二人とも上手ねえ〜〜 」
「 あは。 この歌はねえ 皆で歌うから。 練習してるんだ〜〜 」
「 僕たち すたっふ も歌うんだ〜 僕、 他の歌もみ〜んな歌えるよ〜 〜〜♪ 」
すばるはご機嫌ちゃんで ぴいぴい高音で歌い続ける。
「 う〜〜るさいってば〜〜〜 あの さ。 ねえ お母さん ? 」
「 なあに。 」
「 ウン・・・ ねえ おかあさん。 ホントに虹の向こうに ・・・ あるの? 」
「 え なにが。 」
「 だから しあわせ。 にじの向こうのどっかに あるのかなあ・・・ 」
「 え ・・・ それは歌詞のことね。 」
「 それもあるけど ・・・ しあわせ ってとお〜〜〜くにあるの? 」
同じ色の瞳が じ・・・っとフランソワーズを見上げている。
「 ― すぴかさんはどう思うの。 」
「 え ・・・ アタシ? う〜〜ん ・・・ そんな遠くにあるのは ・・・ イヤかも・・・ 」
「 そうねえ。 」
「 すばるだってそう思ってるよ。 ね〜〜 すばる? 」
「 〜〜〜〜♪♪ なに〜〜 すぴかア 」
「 だ〜から! あんたはアタシと同じ意見でしょ? 」
「 あ うん。 すぴかと同じでいいよ〜〜 僕、 ドロシーの歌もね、おぼえちゃったんだ〜
〜〜〜〜 〜〜〜〜♪♪ 〜〜〜〜♪ 」
すばるの高い声が リビング中に響いていた。
学芸会の 四年生の出し物 『 ミュージカル・オズの魔法使い 』 は 順調に仕上がり・・・
大道具も舞台設定も 係の男子二名が奮戦努力し! ほぼ完成した。
「 やったネ! 」
「 うん! あとは〜〜 ほんばん で上手に変えてゆければいいね。 」
「 だ〜いじょうぶさあ〜〜 僕たちがやるんだもん。 」
男子二名はにこにこ・・・ < うちあわせ > をしている。
「 あははは ・・・ いいねえ〜〜 」
「「 あ ・・・ 長田先生 ・・・ 」」
図工担当の長田先生が わっはっは・・・と笑っている。
「 君達〜〜 いつでもポジティブ・シンキングで いいなあ〜〜 」
「 ぽじ??? きんぐ? 」
「 ・・・ あ〜 そうだなあ〜〜 いいことが起きる! って考えられるってことさ。 」
「 長田先生! あのね〜 僕たち ・・・ こんなふうにしたいな〜 ってじゅもんで
いろいろ作ってたんだ。 」
「 こんなふうにしたいな? 」
「 そ。 僕の伯父さんが教えてくれんたんだ。 グレート伯父さん なんだけど。
だ〜から♪ きっとうまく行く〜 ね〜〜 だいち君! 」
「 ね〜〜〜 すばる君♪ 」
「 ほうほう こりゃスタッフは万全だな。 キャストの方はどうなのだろうなあ。 」
明日はいよいよ本番 ― 最後の練習が講堂で行われた。
パン パン パン ― 総監督を務めている竹山先生が 大きく手を叩いた。
「 は〜〜い 皆さん よくできました! 」
わやわやわや ・・・ 舞台に並んでいた子供達が がやがやし始めた。
「 こら 静かに。 で〜〜〜 皆 〜〜 今日は早く寝ること! いいですね!
はい〜 それじゃ すぐに下校の準備! もうすぐ5時になっちゃうからね。 」
は〜〜〜い ・・・と子供達はばらばら教室に戻り始めた。
コンコン ・・・ ゴホン ・・・ ドロシー役のアユミちゃんが咳をしている。
「 あれ。 アユミちゃ〜ん 大丈夫? 」
「 ・・・ すぴかちゃん ・・・ うん 大丈夫。 ちょっと・・・風邪っぽいだけ ・・・ 」
「 ふうん ・・・ あったかくしてあつ〜〜いおばんちゃ ( 番茶 ) のんで〜
ぐ〜〜って寝ちゃうといいよ〜 」
「 う うん ・・・ じゃあ 明日ね。 ゴホン ・・・ 」
「 うん バイバイ〜〜 コン コン ・・・ 」
アユミちゃんは ちょいとしわがれた声で言うと帰っていった。
「 あれえ ・・・ アユミちゃん もしかして なんか ・・・ 疲れてる のかな? 」
すぴかは 彼女の後ろ姿をじ〜〜っと見ていた。
「 あ 島村さ〜ん 最後のかーてん・こーる なだけどさ〜〜 」
「 なに、しゅん君 ? 」
脚本家さんは最後の最後まで演出家さんと 打ち合わせをしていた。
さて 次の朝 ― ぴかぴかに晴れた秋の朝。
「 きょ〜〜〜うは楽しい学芸〜〜〜会〜〜〜〜♪♪ 」
すばるは朝から ぴ〜ぴ〜歌っている。
「 うるさいよっ! 」
「 はっせいれんしゅうだも〜〜ん♪ きっとあるわ〜〜〜♪ 」
「 もう〜〜 先に行くよっ! おか〜さ〜ん イッテキマスっ! 」
「 あ すぴか! 頑張ってね!! すごく楽しみにしてるから! 」
お母さんは慌てて玄関まで走ってきた。
「 ふふふ〜〜ん♪ 期待してて〜〜 」
「 おじいちゃまとお父さんと。 皆でゆくからね! 一番前に座って ・・・ 」
「 お母さん。 一番前って見にくいんだよ? 真ん中くらいがいいのって
お母さん、いつも言ってるじゃん? 」
「 あ ・・・ ああ そうだったわね・・・ 」
「 や〜だなあ お母さん、あがってる? じゃね〜〜♪ いってきます〜〜〜 」
「 はい 行ってらっしゃい。 ? すばる〜〜〜 早く御飯 たべるっ! 」
「 にじ〜〜のむこう〜〜〜にィ〜〜〜♪ ごはん〜〜〜♪ 」
キッチンからは 舞台設定担当者のすばらしいボーイ・ソプラノが響いていた。
― ザワザワザワ ・・・ ヒソヒソヒソ ・・・
四年生の集合場所 ( 楽屋も兼ねる ) の家庭科室 は妙に し・・・んとしていた。
衣裳に着替えたり準備を済ませた子供達は み〜んなヒソヒソ・・・ 内緒話だ。
すぴかは < よい魔女 > と < 魔法の妖精 > と ヒソヒソやっている。
「 え?? アユミちゃん ・・・? 」
「 ・・・ 高い声 でないんだって。 風邪ひいて ・・・ 」
「 あ。 昨日 ずっとセキしてた ・・・ 」
「 そうなだって。 ず〜っと風邪っぽかったんだって。 」
「 お家帰って お薬のんで ・・・ 普通の声なら出るようになったんだけど 」
「 ど〜すんのさ? ドロシーの歌は ・・・ 」
「 先生達がお話してる ・・・ 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・ あ しゅん君とはねけん君だ 」
すぴかは とととと・・・っと 演出家氏 と 音響担当氏 の所に駆けて行った。
「 しゅん君! はねけん君 〜 」
「 あ すぴかちゃん ・・・ 聞いた? 」
「 ウン。 どうすんの? 歌 歌わないドロシー なんて無理だよね? 」
「 うん。 でも ・・・ アユミちゃん、 ホントにね高い声 全然でないんだ。
普通の声ならなんとか出るんだけど ・・・ 」
「 歌だけ ・・・ DVDの使う? 」
「 そんなこと、できるの? 」
「 ・・・ う〜〜ん 急には無理 だよなあ 」
「 歌だけ かあ ・・・ 」
「 そうなんだ。 セリフは言えるって。 お芝居もする!って ・・・ 」
「 歌だけ ・・・ う〜〜〜ん ・・・ 」
きっと ある〜〜〜〜ヮ おとぎのくに〜〜〜♪ おはよう〜〜〜
舞台設定担当氏 の一名がの〜んびり ・・・ 到着した。
「 あ〜〜〜 もうウルサイなあ〜〜 」
「 ? 今の ・・・ すばる君? 」
「 うん。 アイツさあ もう一日中 ぴ〜ぴ〜 ぴ〜ぴ〜 うるさいんだよ 」
「 ・・・ 全部 歌えるのかな。 」
「 え? あ〜 うん。 皆 覚えて歌ってるよ・・・ もう騒音なんだ〜 」
「 はねけん君! すぴかちゃん! ― いいこと思いついた!!! 」
宮崎総監督が がば!っと立ち上がった。
「「 へ ? 」」
「 できる! 僕たち、 『 オズの魔法使い 』 やれるよ! 』
「「 え〜〜〜〜??? 」」
「 すばるく〜〜〜〜んっ !! ちょっと来てくれよ〜〜〜 」
しゅん君は すばるを大声でよびずんずん・・・音楽の宮川先生のところにひっぱっていった。
― で。 無事に四年生の ミュージカル 『 オズの魔法使い 』 は幕を開けた。
客席はお父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃん ・・・ でぎっちりである。
ジョー達もなんとか後ろの方に博士を挟んでイスを確保した。
「 ・・・ ほら 始まるわ! きゃ〜〜〜どきどきどき・・・ 」
フランソワーズはさっきからそわそわしっ放しである。
「 なんだな、お母さんや。 舞台なんぞ、お前が一番慣れているじゃろうが。 」
「 あら〜〜 それは < 出る方 > ですもの。 こうして < 見る方 > は〜〜
自分が踊るより100倍以上どきどきどき・・・! 」
「 あは ・・・ でも すぴかもすばるもスタッフだろう? どきどきする必要、ないじゃないか。 」
「 い〜〜え! だって すぴかの脚本なのよ? すばるが舞台装置、作ったのよ?
舞台が上手くゆくかどうかは ウチの二人に掛かってるじゃない!? 」
「 まあ ・・・ そういえなくも無いけど ・・・ あ 始まるぞ。 」
「 きゃ ・・・どきどきどき ・・・ 」
― 次は 四年生による ミュージカル 『 オズの魔法使い 』 です。
短いアナウンスの後 するすると緞帳があがった。
ログ・ハウスの中、 みたいな設定で 可愛い女の子が縫い包みのわんこを抱いている。
・・・ それで みゅ〜じかる は始まったのだが。
ドロシーは大熱演だった。 セリフの活舌もよく、声も透って聞きやすい。
やがて 彼女は例の超〜〜有名なテーマ・ソングともいうべき歌を歌い始めた。
〜〜〜〜 ♪ 〜〜〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜〜 ♪
澄んだ綺麗なソプラノが 講堂中に響いてゆく。
― 最初に気がついたのは フランソワーズだった。
「 !? ちょ ・・・ これ・・・ すばる よ? 」
「 はあ??? 」
「 この声! すばるの声だわ! ・・・ あ ドロシー は 歌ってない・・! 」
「 え ええええ??? だって まさか そんな? 」
「 い〜え。 ・・・ ジョー。 わたしの目と耳を疑うの? 」
「 !!!!! 」 ジョーは ぶんぶんと首を振った。
だれが 003の、 いや すばる君のお母さんの 目と耳を疑うだろうか!
「 けど ・・・どうしてなんだ? だって ・・・ 」
「 ちょっとまって。 探索してみる! 」
「 ・・・お おい ・・・ 」
島村さんちのおばちゃんは じ〜〜〜〜〜〜っと舞台袖に目を凝らした。
― その頃 舞台の袖では。
すぴかがぎっちりすばるの片手を握っている。 すばるは舞台袖の天井を見ている。
じ〜〜っと見上げて ― 歌ってる。 綺麗なボーイ ・ ソプラノ が朗々と響く。
「 ・・・ はい おしまい。 」
「 ・・・ッ ・・・ はあ〜〜〜〜 ・・・・ 」
「 あと 二回 あるから ! しっかり歌ってよっ ! 」
「 う うん ・・・ すぴか、また 手にぎって教えて。 」
「 おっけ〜〜。 あ〜〜 アユミちゃん、上手だね〜〜 えんぎ。 」
「 すぴかちゃん! すばる君! 大成功〜〜〜♪ 」
舞台監督の しゅん君 がにこにこ顔で走ってきた。
「 だ〜〜れも気がついてないよ〜〜 客席のおと〜さんやおか〜さんたち! 」
「 そ そう? しゅん君のアイディアがすごいから〜〜 」
「 すばる君、 すごく歌 いいね〜〜〜 他の皆もさあ すごく頑張って歌ってるし〜 」
「 ウン ・・・ あと半分だね! 」
「 うん。 みんな〜〜がんばれ! すばる君! よろしくっ 」
「 ・・・ う うん ・・・ すぴかア〜〜〜 」
「 なにっ?? 」
「 < すばる がんばってね > って お母さん声 で言って! 」
「 ・・・ わかったよっ 『 すばる〜〜 がんばってね〜〜 ちゅ♪ 』 これでいい? 」
「 うん。 僕 が がんばる ・・・ 」
舞台はいよいよ佳境を迎えていた。
「 ・・・ な〜るほど ねえ〜〜〜 ・・・ 」
フランソワーズはふか〜〜〜く頷いて感銘の溜息を吐いた。
「 おい〜〜 どうなってるんだよ〜〜 」
「 し −−−− っ。 他の親御さん達にご迷惑でしょ。 」
「 う〜〜〜 でも ・・・ 教えてくれよ 」
「 しょうがないわねえ・・・ ≪ あのねえ・・・ 」
フランソワーズは 脳波通信のプライベート回路を開いた。
≪ うん なになに〜〜 ≫
≪ ドロシーの子 ・・・ 咽喉を傷めて歌えないらしいの。 あの子は演技して
セリフはしゃべってるけど ≫
≪ うん うん なかなか上手だよね ≫
≪ ええ でも 歌はね ・・・ アレよ、 口パク 。 ≫
≪ ・・・ へ ? ≫
≪ で 実際に歌ってるのは すばる なの。 ≫
≪ へえ〜〜〜〜〜?? ≫
≪ 舞台の袖で すぴかがぎっちり手つないで 指示してるわ。 脚本書いた本人だもの。 ≫
≪ へえ ・・・・・ すごいなあ・・・ウチの坊主をお嬢は ・・・ ≫
≪ ・・・ 発案は 宮崎君 みたいね。 さすがよ〜〜〜 すごいわ〜〜〜 ≫
≪ ・・・ う ・・・ フクザツ ・・・ ≫
― やがて
『 オズの魔法使い 』 は無事に大団円を迎え 全員で < 虹の彼方に > を合唱し
幕を閉じた。
わああ 〜〜〜〜〜 ・・・・!!! ぱちぱちぱちぱち〜〜〜〜!!!!
客席は もう〜〜〜 大騒ぎの大感動の大拍手の海、だった。
四年生の保護者の方達だけじゃない、み〜〜んながばしばし拍手をしてくれた。
「 カーテン ・ コール です 皆様 ありがとうございました 」
アナウンスと共に 四年生がスタッフもキャストも全員、舞台に出てきた。
キャストたちは 皆 大にこにこ〜でほっぺを真っ赤にしている。
スタッフ達は いろんな道具を手にしてでてきた。
宮崎君はメガホン、 羽田君は楽譜 すぴかは台本、
そしてわたなべ君とすばるは とんかち と のこぎり を手にしてやっぱり笑っている。
それで。 皆で せ〜の! でお辞儀した。
「 さようなら〜〜 また明日 ・・・ 」
「 サアちゃ〜〜ん ばいばい〜〜〜 」
「 すぴかちゃん ばいば〜〜い 」
学芸会は無事に終了し、 子供たちはお家の人達と一緒に帰る。
金髪のサアちゃんも お父様とお母様の間に挟まってにこにこ・・・帰っていった。
島村さん一家も おじいちゃまと一緒にの〜んびりぷらぷら歩いて帰った。
・・・ すぴかもさすがに今日は走ったりはしなかった。
コツコツコツ カツカツカツ コトコトコト たったった とんとんとん
家族で歩く 手を繋いで歩く。 お日様はもう沈みかけていてお空は茜色だ。
みんな にこにこ ・・・ 歩く。
そのうち 孫に両手を引かれ博士と子供達が少し先を行くようになった。
ジョートフランソワーズは ゆっくり後ろから歩いてゆく。
「 ねえ ・・・? 」
「 ・・・ なに。 」
「 ねえ? 幸せって ― 虹の向こう じゃないわよね。 」
「 うん。 ― ここ さ。 」
「 ね? そうよね ・・・ ここ よ。 こっち側 よ。 」
「 うん。 under the rainbow だね。 」
そう ― 幸せは ここにある ・・・
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Fin. **************************
Last updated
: 09,24,2013. back / index
************** ひと言 ************
すばる君は やがて変声期を迎えまして ・・・ 寡黙な男子 に
なるのでした。