『 あの日から ― Turning Point ― (1) 』
その日は 朝から上天気だった。
もっともだいたいが風の強い晴天の日ばかりの場所なのだが。
ともかく その日は風もまあまあ、見通しもよく絶好の日だった。
「 ・・・・・・・ 」
個室を出るとき、彼女は振り返りほんの数秒だけその狭い空間を眺めていた。
簡易ベッドと必要最低限の生活必需品を納めるチェスト。
それが その独房にも似た部屋にある家具の全てだった。
・・・・ さよなら ・・・ そう言えることを願ってね。
愛着のあるものなどありはしない。 しかし。
やはりほんの少し感傷的になっているのかもしれなかった。
ダメよ。 今から緊張しては・・・
「 ・・・・・・ 」
つとめて平静に、彼女はゆっくりとドアを閉めた。
コツコツコツ・・・・
そしていつもと同じに、まったくの無表情で彼女は長い廊下を歩いていった。
― 風が 出てきたな。 ・・・大丈夫か・・・
誰もがそう思っている。
勿論 口に出すどころか仲間内の通信も使ったりはしていない。
ただ。 なんとなく お互いの気持ちが伝わってくる・・・
そしてなによりも はたはたと靡くマフラ−を見る顔が、物語っていた。
だが 誰ひとり無駄口を叩くものはいなかった。
皆 ・・・ 無表情にただ命じられるままに ・・・ その場所に立った。
・・・ いいお天気 ・・・ !
額に流れる髪をかきやり、彼女はす・・・っと目を細めた。
・・・ もうすぐ。 そう、もうすぐ、なのだ。
・・・ クルゾ!
短い呟きにも似た 声 が全員の頭に飛び込んできた。
この一言を、そしてこれから目に前に現れる光景をどんなに待っていたことか・・・!
この日を。 この時を・・・!
そう、再びニンゲンとして生きてゆく、その自由な日々への出発点を。
そして < 彼 > は現れた。
ready ・・・ !
再び飛んできた <指令> に全員がさりげなく立ち位置をずらした。
予定どおり。 ここなら全てが射程距離内だ。
大丈夫かしら。 誰か気付いたヒトがいるかも・・・
彼女は無表情に突っ立ったまま、フル・パワ−で周囲を探ったが
まったくの杞憂だったようだ。 彼らに気を回す人間はいない。
全員の意識と関心が その一点に集中していた。
海の中を 泳いでくる赤い服の ・・・ 少年に。
まあ。 まだ本当に少年なのね。
わたしと ・・・ たいして変わらないかも・・・・
<彼> はゆっくりと海から上がってきた。
彼 ― いや、9番目のプロトタイプ・サイボ−グは 海岸で水を滴らせたまま
ただ 呆然と目を見張り突っ立っていた。
突如放りこまれた異世界に 混乱の極致なのだろう。
目の前に次々と繰り広げられる騒動にも 立ち尽くし見つめているだけだ。
なにがなんだかわからない自分の身体
理解の範疇を超えた 破壊力と防衛力 ・・・
それだけだってかなり混乱して当たり前なのだが。
おまけに 裏切りモノだの 叛乱だの 恐ろしい計画だの。
見知らぬ人々の喧騒を 彼はただただ見つめているばかりだった。
多分、およそそれまでの<彼> には縁のない世界が展開しているのだ。
これが夢だったら・・・
多分そんな風に思っているのだろう。
チリリ・・・ 彼女の瞼の裏が熱くなった。
そうよね。 ・・・ もう何百回も何万回も思ったわ。
これが ただの寝苦しい夜の悪夢だったなら・・・・って!
目が覚めたら また・・・ あの懐かしい街で <当たり前の日々> を送れるんだって・・・
そうよ、もう・・・泣きながら願って無理矢理目を瞑ったわ・・・・
まだ、<彼>は ほとんど声を発していない。
喚き騒ぐ人々の真ん中で 立ち尽くしたままだ。
長めの前髪に隠され、彼の表情はよくわからない。
・・・ でも。 きっと瑞々しいココロを持っているに違いないわ。 そうよ、きっと・・・!
彼女は腕に赤ん坊を抱いたまま、一歩前に出た。 < 彼 > は彼女のほぼ真下にいる。
「 あなたも こちらへ いらっしゃい。 」
「 ・・・・・・・ 」
初めて 彼は顔をあげ。 ・・・ 彼女をはっきりと真正面から見つめた。
あら。 セピア色? 日本人って聞いていたけど・・・
さく。 ・・・ さく さくさくさく ・・・
9番目の少年はその声に導かれ 一筋の道を ― 彼に、いや 彼ら全員にとっての自由への道を ―
歩き始めた。
そして、全てがはじまった。
「 よろしく。 」
「 ・・・あ、 う、うん ・・・ 」
「 行きましょう。 向こうに 岩の割れ目があってそこから地上にでられるの。 」
「 ・・・ うん。 」
赤ん坊を博士に渡すと 彼女はすたすたと先に立って歩き出した。
「 ・・・・・ 」
< 彼 > は素直に着いて来た。
・・・ このコ。 すごくカンがいい。
えっと・・・たしか ・・・・ そう、 ジョ− という名前だって001が言ってたっけ
「 ここよ。 」
「 ・・・ やあ 本当だ。 空が見える。 明るくなっているね。 よし。 ・・・ ほら? 」
「 あら。 ありがとう。 」
相変わらず戸惑った顔をしていたけれど、<彼>、 いや ジョ−という少年は
少し躊躇ってから彼女に手を差し伸べた。
眼の前の岩と岩の割れ目は小さく、 絶壁にちかい岩肌をよじ登らなければならない。
勿論 サイボ−グ戦士にとっては造作ものないことなのだが・・・
温かい手 ・・・・ ああ、久し振りね <普通の女の子> として
扱ってもらえたのは・・・
腕を貸してくれたことがこんなに嬉しいなんて。
そして こんなにこころが 温かくなるなんて。
彼女は ジョ−の腕に引っ張られつつ・・・ 自分でも気づかずに微笑みを浮かべていた。
「 さあ、出るぞ。 ・・・ うわぁ・・・・ すげ・・・・ 」
「 ・・・? 」
先に立って地上に出て、 そのままジョ−はまた棒立ちになっている。
「 なあに、どうしたの。 」
「 なんか ・・・ 怪獣みたいなの、アレ、なんだろう? 鳥も・・・ 見たことないヤツばっか・・ 」
「 怪獣 ・・・? 」
「 あ・・・ なにかヘンなこと、言った? ぼく ・・・ 」
一緒に這い上がってきた彼女は少年の顔をまじまじと見つめていたが、ついにくすくす笑いだした。
う・・・わ。 すげ・・・美人! さっきの声も素敵だったけど・・・
超美少女じゃん。 うわ〜〜〜
ジョ−は改めて自分を見つめている少女に見とれた。
つまり、 二人は傍目にはじ・・・っとお互いに見つめあっている風だった。
すげ・・・ 瞳の中に 空があるよ。 いや 海かなあ・・・・
あら。 綺麗な目ねえ。 セピア色ってこんなに温かいカンジだったかしら。
「 ・・・あ、あの・・・・ この島って・・・ ? 」
先にジョ−がどぎまぎと目をそらせた。
「 え? ああ、ここはね X島って呼ばれているの。
さっき小型機で降りるとき、見たでしょう? 島のカタチがエックスの字に似ているのよ。 」
「 あ・・・ そうなんだ? でもあの怪獣・・・? 」
「 ふふふ・・・あれは怪獣じゃなくて。 トカゲの一種ね。
ここはいろいろな海流がぶつかり合うところらしいの。
だから沢山の生き物のタマゴが流れ着いて・・・ 永年の間にこの島独特のモノに進化したのね。
ダ−ウィンの島みたいなものよ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 あら。 なあに? 」
彼女は 再びジョ−の視線に気がつき、真正面から見つめた。
「 え! ・・・ 綺麗だなあって・・・ あ! あ・・・ あの。 ごめん、なんでもないんだ。 」
「 まあ・・・ 本当に可笑しなヒトねえ・・・ 009って。 」
「 そんなコト・・・ないよ。 えっと・・・え〜 ゼロゼロ・・・? 」
「 003よ。 ふふふ・・・まだ誰が誰だか全然わからないでしょう? 」
「 当たり前だよ! 皆同じ服を着てるし・・・ あ、でもあの赤ん坊は 001!そうだろ。 」
「 ご名答。 」
「 あのゥ・・・・ もしかして・・・ 」
「 はっきり言っておきますけど。 彼はわたしの子供じゃありませんから。
わたし・・・ まだ二十歳前よ。 」
「 ご・・・ごめん・・・ 」
「 謝る必要はないわ。 ただ誤解してほしくないだけよ。 」
「 うん、ごめん・・・ あ。 」
「 ふふふ・・・それってあなたの口癖? 」
「 違うよ! え〜と・・・ 003。 」
「 ま、早く皆の名前だけでも覚えてね。 わたし達 たった9人しかいないのだから。 」
「 うん。 ・・・ あの ・・・ きみの名前は? 」
「 え? だから! 003だって言ったでしょう? 」
「 あ、あの。 そうじゃなくて・・・・ その、本当の・・・
うん? なんかヘンな音がするよ? ・・・ あ〜 また、あの虫が! 」
ジョ−はきょろきょろしていたが、すぐに音の原因を見つけた。
「 ええ、知っていたわ。 さっきから随分飛んでいてよ。
でも 001がわざと目立つようにって言っていたから・・・ 知らん顔していたの。 」
「 ・・・ テレビ虫、だっけ? でも気になるなあ。 」
二人の周辺を小さなツクリモノの虫が煩く飛びまわっている。
「 ふふふ・・・それじゃ 撃ち落したら? ス−パ−ガンの使い方、わかる? 」
「 ・・・・ ! 」
少々ムッとした様子で ジョ−はス−パ−ガンを構え周囲に飛遊する<虫>を撃ち捲った。
「 おみごと。 射撃はね、まず自分の撃ち方のクセを知っておくこと。
まだ無駄撃ちが多いわ。 あなた、カンがいいみたいだからすぐに上達するわ。 」
「 ・・・ うん。 わかった・・・ 」
「 あら。 ほら・・・ ごらんなさい。 ロボット兵団の上陸よ。 」
「 ・・・・ ! 」
足元の海岸には海から続々と様々な種のロボット兵の大軍団が現れはじめていた。
「 すごい・・・数だな。 」
「 数だけはね。 ただの機械仕掛けの人形だもの。 」
「 ・・・ すごい ・・・ 」
「 そんなに感心することじゃないでしょ。 」
「 いや・・・ アイツらじゃなくて。 きみがさ。 普通の女の子だったらあんなの、見ただけで
怖気づくか泣き出すよ? 」
「 ・・・・ わたし。 <普通> じゃないもの。 それはあなたも同じでしょ。 」
「 あ・・・ うん ・・・ そうだね。 ごめん・・・ 」
「 また、ごめん、なの? あ・・・ 009、上! くるわ!! 」
「 ??! 」
無人小型機が急降下し、機銃攻撃をしてきた。
「 ・・・くそ! 岩陰へ・・・! 」
009は003を抱くと 手近な岩場に身を躍らせた。
ダダダダダ ・・・・!! バリバリバリ・・・!!
繰り返し無人機は攻撃をしてくる。
「 ・・・ よし・・・! 003、ここに隠れてろよ。 」
「 どうするつもり? 」
「 ふん・・・! 今度また来たら ぼくの自分自身の能力 ( ちから ) を試してみる! 」
「 いいわね。 腕試しには恰好の相手よ。 」
「 ・・・ 見てろよ! 」
バババババ・・・!!
・・・ダッ・・・・!!
009は 軽く岩を蹴ると宙に飛び上がった。
そして再び急降下してきた小型機に 難無く取り付いた。
「 ふうん・・・? 実戦経験ゼロの坊やにしてはヤルわねえ。
やっぱり9番目・・・ 最後のプロトタイプは性能がいいっていうことなのかしら。
・・・ ふん! 煩いわね!! 」
バリバリバリバリ・・・・・!!!
彼女は振り向きざま、反対側から急襲してきた別の小型機を3機まとめて撃ち落した。
・・・ フウ・・・・
ジョ−は海から上がり、ちょっとだけ息をついた。
宙に飛び 飛行機に飛び移り 海に潜り・・・ 難無く敵を倒した。
自分自身の能力 ( ちから ) が大分わかってきた。
そうか ・・・ そうなんだ・・・・
ギルモア博士に自分の性能の図解を見せられた時には まるで他人事だった。
へえ・・・??
事細かく解説されたその図を ジョ−は好奇心だけで見つめていた。
これが、ぼく?? 信じられないなあ・・・
だってこの手も ・・・ 足も。 以前とすこしも変わっていないじゃないか。
ああ、そういえば鑑別所を脱走した時のキズ、すっかり治ってるな・・・痕もないや。
それが今。 ひとつひとつ ・・・ あの性能の図解が頭の中に蘇る。
そうか ・・・ ぼくは ・・・ ぼくのこの身体は・・・
不思議と何の感情も沸いてはこなかったが し・・・ん、と妙に冷たいものが
こころをじわじわと浸食し始めた。
それが 悲しみなのか怒りなのか。 今のジョ−にはまだ判らなかった。
さっきの島の海岸に 人影はなかった。
群れをなして上陸したはずのロボット兵団も見当たらない。
あれ・・・? あのコ・・・えっと・・・003はどうしたんだ? まさか・・・
「 おおい・・・ 003〜〜 !? どこだ〜〜 あ・・・!? 」
ジョ−の偏光レンズ眼 ( アイ ) が 崖の上に人影を認めた。
「 003〜〜 無事だったね〜 え?? なに〜? 」
・・・ わ −−−−−−−!!!
彼女の言葉が聞き取れた瞬間 ジョ−は激しい衝撃に襲われた。
彼の背後にはいつの間にか巨大なロボットが立ちはだかっていたのだ。
「 ・・・・ ううう ・・・ か、身体が しびれ・・・ 」
「 009! 逃げて!! それはマヒ光線よ! 」
「 ・・・ でも うごけ ・・・ ・・・? ・・・ 」
次の瞬間 ジョ−の姿はロボットの光線の檻から消えていた。
「 あ。 加速装置を使ったのね。 よかった・・・ え〜と・・・? 」
彼女は眼のレンジを拡げた。
・・・ いたわ。 無事のようね。 あらら、ちょっと参っているのかな。
「 009! 」
「 あ・・・ 003・・・ ふう ・・・・ 」
ジョ−はすこし離れた岩場に 座っていた。
「 大丈夫? 危なかったわね。 」
「 うん、 なんだかまだ手足の先がしびれてるよ。 」
「 ふふふ・・・でも加速装置の使い方、 わかったのじゃなくて? 」
「 え・・・ ああ! そうだね、これが スイッチだったんだ・・・ ようし! 」
ジョ−は勢いよく立ち上がった。
「 どうするの。 このぐらいにしておく? 」
「 いや。 折角のチャンスだからな。 加速装置の試験操作さ。 アイツを倒してくる・・・! 」
「 Good luck ! 」
「 メルシ・・・! えっと・・・ 003、きみの本当のなまえ ・・・ 」
「 え? なに、009? 」
「 ― なんでもない。 あとで・・・! 」
ニ・・・・ッと笑うと再び彼の姿は消えた。
へえ?? なかなかホネがあるじゃないの。
ただの身軽な男の子じゃあないのね。
ジョ−は、いや、 009は 実戦を通してひとつひとつ彼の新しい能力 ( ちから ) を知っていった。
「 ひえ〜〜 なんて、まあ大袈裟な・・・ 」
「 うむ。 陸・海・空 ・・・ すべて完全に包囲されたな。 」
「 こりゃ・・・ さすがのオレ達でも突破するのはちと、骨だぜ? 」
サイボ−グ達は再び洞窟に集合し 外の様子を窺っている。
「 001とも話合ったのじゃが。 ともかくココから脱出することだ。 長居は不利じゃ。 」
「 相手ハぼく達ヲ作ッタ人間ダカラネ。 欠点モ長所モ知ラレテイル。 」
「 博士、でも・・・ どうやって? 」
サイボ−グ達にも 名案は浮かばないようだった。
「 ・・・ なにか・・・来るわ! 海の中から・・・! 」
003がはっと顔を上げた。
「 なに? 潜水艦か? 」
「 ちがう・・・ 全然別の機械音 ・・・ なにかとても大きなものが 歩いてくる! 」
「 歩いて?? ・・・・ あ! 海が! 」
「 ・・・ 来たわ! 恐竜?? 」
「 なに??? ・・・・うわ・・・! 」
ズガーーーーン ・・・・!!! バリバリバリ・・・・
上陸してきた恐竜型の巨大ロボットはあっという間にサイボ−グ達の小型機を
破壊してしまった。
「 クソッ !! 全機 やられちまった! 」
グワンッ! ガラガラガラ・・・・ ドドドド 〜〜〜
今度は洞窟の入り口付近を集中攻撃し始めた。
恐竜ロボットの口から ミサイルがつぎつぎと発射される。
ガラガラと洞窟は破壊されてゆく。
うわ〜〜〜 !!
ついに天井が大規模に崩れ落ちだした。
サイボ−グ達の頭上にばらばらと天井の岩が降ってくる。
「 え〜と、君! 加速装置だ! 003と 博士と001を・・・! 」
「 002。 」
「 え?? 」
「 オレ。 002! <君>じゃねえぜ! 」
赤毛の長身が 口を尖らせている。
「 ご ・・・ ごめん・・・ あ、早く! 」
「 オ−ライ♪ 009〜 スイッチの場所、知ってるか〜 my boy〜 」
「 ・・・ 知ってるよッ! 」
微かな機械音を残し、二人のサイボ−グの姿は見えなくなった。
・・・ カチリ・・・
まだ天井が崩れていない岩場に 博士と003、001を連れ出すことができた。
加速を解いた瞬間、 003の驚いた声が聞こえた。
「 ・・・ああッ ・・・ あなたが連れ出してくださったの・・・? 」
「 やあ。 怪我はない? 」
「 ええ、全然。 001も 無事よ。 ありがとう、ジョ− 」
「 よかった。 ・・・後の仲間達は大丈夫かな? 」
ジョ−は少し赤味のさした顔を ふっと彼女から逸らせてしまった。
・・・ このヒト ・・・! 似ているわ・・・ 誰かに・・・
そう ・・・ わたしのとても大事なヒトに・・・
003は001を抱いたまま、009の後ろ姿をじっと見つめていた。
誰だろう。 なにか温かい気持ちがふつふつと彼女の中から溢れでてきた。
・・・・ それは久しく、本当に長い間 忘れていたモノだった。
懐かしい ・・・ 甘酸っぱい気持ち。
緊迫した状況なのに 彼女はそっと眼を閉じてみる。
あれは・・・誰? このヒトと同じに温かい眼差しでわたしを包んでくれたのは・・・
そうだ・・・わ ・・・・ お兄さん ・・・ お兄さんに似てる・・・!
そっと開いた眼の彼方では 009が、いや、ジョ−が恐竜型ロボットを手玉にとって
悠々と破壊しつくしていった。
彼女はそんな彼の活躍を じっと・・・ 見上げていた。
ジョ− ・・・ もう おどおどした眼をした新入りではなくなったわね・・・
この時から009の活躍が始まった。
X島からの脱出は やはり困難を極めた。
しかし 空に 陸に 海に ― 009はまさに縦横無尽に動き活路を開いていった。
そして
ついにヤツらの基地を爆破し、潜水艦を奪い脱出することに成功した。
「 いやあ・・・ 本当にな、あの時はお前さんもオダブツかと思ったよ。 」
「 うむ。 いくらアンタが最新式でも核爆弾に巻き込まれちまったらひとたまりもあるまいってな。 」
「 ごめん・・・・ どうもボスらしいヤツに出くわして、深追いしてしまったんだ。 」
「 ま、これから気をつけることだな。 」
「 アイヤ〜〜 皆安生脱出でけてよかったアル! 」
「 本当ね・・・ ともかく わたし達・・・ 自由になれるのね。 」
「 いや。 その勝負はこれかららだな。 ひとまず、ヤツらを振り切ったが・・・
オレ達が完全に自由になるのは BGを完全に滅ぼしたときさ。 」
「 ・・・・ そうね・・・・ まだまだ ね。 」
「 でも踏み出したんだよ。 」
「 ああ。 そうだな。 お前 ・・・ 結構ヤルな。 」
「 え!? ・・・いや・・・ もう夢中で・・・え〜と・・・ゼロゼロ? 」
「 004だ。 おい、いい加減でちゃんと覚えろよ〜〜〜 」
「 う・・・うん。 ごめ・・・ 」
「 さ〜あさ。 今日の晩御飯は期待しているアルね〜〜 ワテが腕を揮うデ♪ 」
「 ・・・ 腕? 」
「 うほほ。 009のジョ−はん? ワテはな〜〜 料理人なんや。
世界中のどこへ行ってもそこの食材で美味いモンつくりまっせえ〜 」
「 わああ〜〜 楽しみだなあ。 」
「 世界中といえば。 ギルモア博士。これから何処へ行くつもりなんです?」
「 ・・・ 日本じゃ。 」
004の問にギルモア博士は即答した。
日本には博士の親友が住んでいるのだ、という。
「 ・・・ 日本 ・・・ 」
・・・ 日本 ・・・? もしかして ジョ−の故郷 ・・・・
あら。 なんだか嬉しくないみたいねえ・・・ なにか事情があるのかしら。
003は隣にいるジョ−の顔を眼の端で捕らえた。
彼は。 ひどく無表情な顔で博士の言葉を聞いていた。
順番に見張りをするということになり、とりあえずサイボ−グ達はキャビンに散っていった。
003は最後のチェックを終えると 静かにコクピットを後にした。
狭い艦内のことだ、キャビンはなんとか寝場所がある、という程度だが
一人になれるのは はやり嬉しかった。
カンカンカン ・・・・
ブ−ツのカカトが微かに靴音を立てる。
「 ・・・ やあ。 」
「 ! あら。 009。 どうしたの? 」
居住区域へのドアの前で セピアの髪の<彼>が佇んでいた。
「 うん ・・・ あのさ。 あ、ぼく、ジョ−。 島村ジョ−って言うんだ。 」
「 ええ、そうね。 イワンが紹介したわね。 」
「 あ・・・そ、そうだよね。 うん ・・・ そうだよ・・・ 」
「 それじゃ。 <ジョ−>? お休みなさい。 」
「 あ! うん、 オヤスミ・・・ 」
003はドアを開け居住区に入りまたドアを閉じようとした。
パシ・・・!
彼が ドアを押さえた。
「 あの! ・・・ きみの名前・・・ 教えてくれる。 」
「 え・・・? 」
「 003、は判ってる。 そうじゃなくて。 本当の名前。 ・・・ いいかな。 」
「 え、ええ・・・ フランソワ−ズ。 フランソワ−ズ・アルヌ−ル よ 」
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・・ ありがとう! 綺麗な名前だね・・・きみにぴったりだ 」
「 そう? ありがとう。 ・・・ オヤスミ、ジョ−。 」
「 あ・・・ ! お、お休みなさい。 フ ・・・・ フランソ ・・・ワズ ・・・ 」
まあ ・・・ ! 真っ赤になっちゃって・・・
あら。 もしかしてずっとわたしを待っていたの?
ふふふ ・・・ ふふふ ・・・・
軽やかな笑み自然と口元から溢れでてきた。
こんな ・・・ 楽しい・他愛ないコトってなんと久し振りなのだろう・・・・!
久しく忘れていた 若者らしい感情に003・・・いや フランソワ−ズは小さく声をあげ 笑った。
ジョ− ・・・ ! あなた、とっても ・・・ 温かいわね。
お兄さんに ちょっと似ているジョ−。 あなたって・・・ あなたって・・・・
カチン・・・
鼻も閊える狭いキャビンで フランソワ−ズはそっとベッドに横たわった。
ああ ・・・ 長い長い一日が ・・・ 終る・・・
よかった・・・! 生きていて ・・・ よかった・・・・
すうっと眠りに引き込まれてゆくとき、フランソワ−ズはふとあのセピアの瞳を思い浮かべていた。
そう ・・・ あの瞳は ・・・ 温かい。
あの 瞳は ・・・ 瞳の持ち主は ・・・ わたし ・・・
ことん。
亜麻色の髪が枕にちらばり、フランソワ-ズはたちまち寝入ってしまった。
「 グレート・・!! ジョ−を知らない? 」
「 あ・あ〜〜〜〜ああっあっ ・・・・ うん? ああ、ヤツなら海の方へいったぞ。 」
「 そう、ありがとう。 あら、発声練習? 」
「 ご名答。 これでも我輩は役者の端くれ。 いつでもトレ−ニングは欠かさんのだ。 」
「 いいわね。 ・・・ わたしもまた始めたいわ・・・ レッスン。 」
「 おう、いい心がけだぞ、マドモアゼル。 今 地下を拡げているから空きスペ−スを
使わせてもらったらいい。 うむ、我輩もご一緒させて頂きたい。 」
「 Oui, avec plaisir ( よろこんで。 ) ちょっと・・・海まで行ってくるわ。 」
「 行っておいで。 あ・あああ〜〜〜 あっあっあっ! 」
グレ−トはまた発声練習を始めた。
「 ふふふ・・・ 頑張って。 名優さん。 」
「 めるしぃ マドモアゼル。 ・・・ 恋する乙女よ ・・・ 」
名優の最後のセリフは003の耳には届かなかったようだ。
ギルモア博士とサイボ−グ達の一行は 極東の島の首都に程近い街で暮らし始めていた。
博士の旧友・コズミ博士の邸に 身を寄せたのだ。
「 コズミ君・・・・ 本当に申し訳ない。 こんな大勢で・・・ 」
「 いやいや。 ギルモア君、家は娘もとうに嫁にいって気軽な一人暮らしじゃからの。
どうぞ気兼ねなく過してくれたまえ。 ごらんの通り辺鄙な場所だが土地だけはあるからな。 」
「 いや・・ ありがたい・・・・! 」
老友同士は再会を喜び、すぐに研究分野での話題に没頭していった。
サイボ−グ達はコズミ邸の地下に彼らの住居を作りだしていた。
「 ・・・ああ ・・・ いい気持ち・・・! 海が近いけど風が優しいのね。
あの島とは 大違いだわ。 きれいな空 ・・・ 」
こんなゆったりとした気持ちで 空を見上げるなんてずいぶんと久し振りだ・・・
フランソワ−ズは 潮風に亜麻色の髪を揺らし海岸へむかった。
「 あ・・・ いたわ。 」
海を臨む崖の突端に 人影があった。
崖といっても松林の一部で下草も生え 波飛沫が時には足元にもいくつか届く。
フランソワ−ズが見慣れていた荒い外海とは随分表情の違う海だ。
その海をはるか見渡す場所に 少年がひとり座っていた。
どうしたのかしら。 なんだか・・・ 淋しそう・・・
ここは あなたの故郷なのに・・・
時折風に セピア色の髪が流れる。
表情はわからないが こちらに向けた背にはどことなく孤独感がだたよっていた。
「 ・・・・・ 」
足音で判ったのだろう、ジョ−はちらり、と振り向いた。
「 なにを見ているの ジョ−。 」
「 ・・・ 海さ。 」
一瞬 眩しそうにフランソワ−ズの顔を見たが すぐにまた視線を海原にもどしてしまった。
「 ここの海は 穏やかね。 波も風も ・・・ 優しいわ。 歌を歌っているみたい。 」
「 ふふふ・・・ 女の子はなんでもロマンチックにしたいんだな。 」
「 あら・・・! だってわたしにはそう聞こえるのですもの。
お帰り ・・・ よく戻ってきたね ・・・ よかったね ・・・ って 」
「 きみには 誰か ・・・ そのゥ ・・・ 待っているヒトがいるのかい。 」
「 ・・・ ええ。 ジョ−、あなたは? ここはあなたの国でしょ、故郷にはすぐに帰れるじゃない? 」
「 うん。 そうだけど。 ・・・ 誰もいないんだ。 」
「 ・・・ え? 」
「 あの時、イワンが言ってただろ。 ぼくは施設育ち、身寄りはいない。 」
「 ・・・ ごめんなさい。 」
「 あれ? 今日はきみが <ごめんなさい> なのかな。 」
「 え・・・ あ。 ふふふ・・・あなたの口癖が移ってしまったみたいよ。 」
「 あ。 笑ったね。 ・・・うん、そのほうがずっといいよ。 もっと美人に見えるよ! 」
「 あ、あら・・・ ねえ、海が好き? 」
「 え・・・ ああ、・・・うん、好きだな。 こんな平和な海が・・・ 」
ジョ−は手にしていた松の枯れ枝をぽ・・・んと眼下の海に放った。
「 そうね・・・ あの戦いからもう・・・一月ね。 早いものだわ・・・
こんな静かな日々を送っていると なんだか夢だったみたいな気もするわ。 」
「 ・・・BGは ・・・ 恐ろしいヤツラらだ・・・!
こんな平和な世界を闘いに巻き込むことだけを考えているんだからな。 」
「 でも もう大丈夫よ。 あの基地を破壊したし、もう追っ手も来ないわ。 」
「 ・・・ そうだといいけど。 でも ・・・ ヤツらのボスはサイボ−グだった。 だから・・・ 」
「 しッ! ・・・・ 」
不意にフランソワ−ズが表情を険しくした。
「 どうした? なにが聞こえるんだい、フランソワ−ズ。 」
「 ・・・ 誰かが ・・・ コズミ博士の邸に忍び込む相談をしているわ。 」
「 コズミ博士の?? BGの関係かな。 」
「 ・・・ わからない・・・ クスリ、とか言ってるけど。 でも どうも今晩みたい。 」
「 え! 今晩? 」
「 ええ。 ともかく急いで戻りましょう。 」
「 うん。 」
二人は海辺を後にした。
フランソワ−ズが漏れ聞いた会話はサイボ−グ達とは無関係と思われたが
密かにそして確実に 追っ手は近づいてきていた。
「 ・・・ どうして!? どうして・・・ こんな酷いことをするの? 」
「 フランソワ−ズ・・・! あぶないぞ! 」
ジョ−は瓦礫の陰から飛び出すタイミングを狙っている。
「 ・・・・・・ 」
白熱の光を身体中から発するソイツは 黙って彼女を見下ろしている。
地に伏し、泥だらけキズだらけになりつつも 003は必死で問いかけるのだが。
ソイツは無表情のまま ただじっと彼女を見つめていた。
・・・ 危ないな・・・! ああいう表情は一番・・・
ジョ−はじりじりとソイツに近づき始めた。
「 わたし達は ・・・ 兄弟じゃない? おなじゼロゼロナンバ− ・・・ 」
にやり。 ソイツの顔の残忍な笑みが浮かんだ。
・・・バリバリバリ−−−−!!!
電磁光線が地に伏すフランソワ−ズを直撃した。
「 きゃあ〜〜〜〜 !!」
「 あぶないッ !! 」
ジョ−は飛び出して彼女を抱き抱えるとそのまま地に転がり逃げた。
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ダメだ、アイツは耳を貸しはしないよ。 アイツにあるのはただ殺意だけだ 」
「 でも! でも ・・・ ジョ− ・・・! 」
「 これ以上攻撃を受けたらきみは死んでしまうよ! さあ、ここに隠れていたまえ。 」
「 ジョ−! あなたこそ絶対安静だって・・・! 」
「 うん、もうたっぷり休んだから。 ・・・ ねえ、いいかな? 」
「 ・・・え?? ・・・ あっ ・・・・ 」
ジョ−は 腕の中のフランソワ−ズの唇に彼の唇を重ねた。
あ・・・・ ああ ・・・ なんて ・・・ 温かい ・・・
冷え切っていたフランソワ−ズの身体に一点 火が灯った。
それは温かく ・・・ そして彼女の身体中に熱い想いを伝えていった。
「 ・・・ じゃ ね。 」
「 あ・・・! ジョ− ・・・!! 」
ジョ−は彼女を地の窪みに押し付けると ソイツの前に飛び出した。
「 こい! ぼくが相手になってやるッ !! 」
あ・・・・。 ここは・・・
ジョ−はぼんやりと眼を開いた。
目の前がだんだんとはっきり見えてくる。 ここは・・・ どこ ・・・だ・・・?
「 ・・・ く ・・ッ 」
首を廻らそうとしたが 身体中の関節がぎしぎしと悲鳴とあげた。
どうも ・・・ どこか壊れていたらしい。
「 ・・・ う ・・・ ぼくは・・・? 」
最後に見た光景は 雨 だった。
恨みの涙だ・・・と言いつつ不気味な身体のまま0011は死んでいった。
復讐の涙だ・・・と呻き 道連れにしてやる、と降らせた雨は毒液だったのだ。
そうだ・・・ 途中で身体が痺れて ・・・ 気が遠くなったんだ・・・
あれからどうしたのだろう・・・。
そうだ! 仲間達は ・・・ 003はあの攻撃から逃れることができたのだろうか。
相変わらず身体は強張っていたが、意識だけははっきりとしてきた。
「 ・・・ あら。 眼が覚めたの?? ジョ− ・・・ わたしがわかる? 」
「 ・・・ う ・・・? 」
ぱっと眼の前が明るくなり、視界にフランソワ−ズの心配顔が入ってきた。
「 ジョ− ・・・・ ああ、よかったわ・・・ もう大丈夫よ。 よかった・・・ 」
「 フ ・・・ ランソ ・・・ワ−ズ きみ ・・・ 元気になって 」
「 ええ、ええ。 あなたが庇ってくれたから。 もうなんともなくてよ。 」
「 よか った・・・・ みんなは? 」
「 皆も無事。 あの毒液の雨の解毒剤、イワンが指示してくれたの。 ジェットもね、
あなたと一緒にイワンがテレポ−トしてくれたから・・・ もう起き出しているわ。 」
「 そっか ・・・ よかった ・・・ 」
「 ねえ、なにか食べる? お腹空いていない? 」
「 うん ・・・ 今は いいや。 」
「 そう? それじゃ ・・・ お茶でも淹れてくるわ。
ふふふ・・・・わたしね、コズミ博士に教わったの。 美味しい日本茶の淹れ方。 」
「 ・・・ うん? そう なんだ ・・・ 」
「 ええ、だから ちょっと待っていてくれる? 」
「 うん ・・・ あ、 その前に お願いがあるんだけど ・・・ 」
「 なあに? 窓、開けましょうか? 」
「 ・・・・ いいよ。 あの・・・さ ・・・ 」
「 ・・・? 」
フランソワ−ズは席を立ちかけていたが もう一度ジョ−のベッドサイドに身を屈めた。
「 なあに。 」
「 ・・・ もう一度 ・・・ いいかな。 」
「 え?? ・・・・ あ ・・・ ! 」
ジョ−は痺れがまだ残る腕ですぐ側にあるたおやかな身体を抱き寄せた。
「 ・・・ ぼくにクスリをくれる? きみの ・・・ ぬくもりが欲しい・・・ 」
「 もう・・・ 仕様が無いボウヤね ・・・ 」
「 ウン・・・ いいよ ・・・ ね? 」
「 ・・・・・・ 」
二人は今度こそ熱く 深く キスを交わした。
そしてお互いの、そして自分自身の 生命 ( いのち ) の熱さを確かめるのだった。
・・・ 熱い ・・ ! この女 ( ひと ) が ・・・ 欲しい・・・!
ああ ・・・ ああ ・・・! 身体が溶けそう ・・・・!
カサ ・・・
ジョ−の指がフランソワ−ズの襟元に忍び入ってきた。
「 ・・・! だめ。 だめよ ・・・! 」
「 どうして・・・ ぼくのこと・・・ 嫌い? 」
「 そんなこと・・・! でも、今は ・・・ だめ。 まだ、いや。 」
「 いつならいいのかな。 ・・・ねえ? 」
「 ジョ−。 あなたがちゃんと元気になって ・・・ わたし達が完全に自由になった時。 」
「 なら、すぐだな。 きみのためにBGなんか あっと言う間に叩き潰してみせるよ。 」
「 まあ・・・! それじゃね、まずは完全に回復することよ。
今日は大人しくベッドに入っていてちょうだい。 」
「 ・・・ ちぇ。 ああ、おっかないオネエサンだなあ。 」
「 なんですって? 」
「 なんでもナイです。 ・・・ 安静にしてます。」
ジョ−はあわてて毛布を顔の半ばまで引き摺り上げた。
「 ま。 ・・・ ふふふ ・・・ 本当に可笑しな・・・ ジョ− 」
フランソワ−ズは ジョ−のオデコに軽く唇を寄せると、くすくす笑って出ていってしまった。
・・・ ぼくの ・・・ 女性 ( ひと ) だ。
ジョ−の人生は、この日から新しい道が開けた・・・のかもしれない。
秋が来ていた。
暗殺者どもの攻撃で滅茶苦茶になったコズミ邸は 着々と修理が進んでいる。
邸の周囲の木々の葉も色づきはじめ、温暖な気候のこの地にも
ゆっくりと衣替えを始めていた。
「 ジョ−・・・ ジョ−ったら。 まって? 」
「 ああ、ごめん。 こっちだよ。 」
ジョ−は立ち止まって後から登ってくるフランソワ−ズを振り返った。
サイボ−グ達がギルモア博士と身を寄せているコズミ邸は かなり街外れにあった。
ちょっと歩けば海にでられ、裏には低いけれど山が迫っている。
風光明媚、といえば聞こえはいいが、要するに人里はなれた辺鄙な場所だった。
もっとも ・・・ <彼ら>には都合のいい環境だったけれど。
生い茂った潅木の陰から ひょっこりフランソワ−ズが姿を現した。
「 もう・・・! ひとりですたすた行っちゃうんですもの。 」
「 ごめんって。 でも こんな山、なんてことないだろう? 」
「 そりゃ・・・ そうだけど。 わたし、ヒ−ルのある靴だし。 この服も ・・・
防護服の時のようには動けないわ。 」
「 あはは・・・ ちょっと散歩に行こうって言っただけなのに そんなにおめかししてくるからさ。
女の子はこれだからな・・・ 」
「 だって・・・! ・・・ だって ・・・・・ 」
・・・ ぽとり。
彼女の足元に 水玉がひとつ。
ほろり ・・・
彼女のほほに 水玉がころがる。
「 ・・・あ、あ! そ、そんな・・・ 泣かないでくれよ〜〜
ちょっとからかってみただけじゃないか。 」
「 でも ・・・ だって ・・・ ジョ−が。 せっかくジョ−が誘ってくれたのですもの・・・
お気に入りに服で一番大事なパンプスで ・・・ 来たかったの。 」
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
ジョ−は彼女の肩に長い腕をまわした。
しょんぼりと俯いていた彼女の頬が ほんのりと染まる。
「 ・・・ ジョ−。 」
「 ごめん。 ぼくさ。 きみにぼくのとっておきの景色をみせたくて。
誰にも内緒なんだ、この場所。 きみだけに その ・・・ 日本の秋を見てほしくて。 」
「 まあ。 ・・・ 嬉しいわ、ありがとう ジョ−。 」
「 そ、そんな・・・ あ! ほら。 ここいら辺りからだと眺めも最高なんだ。 」
「 わあ・・・ 本当・・・ きれい ・・・ 」
「 うん ・・・ きれいだ・・・ 」
ジョ−は景色を眺めるフリをして こっそり彼女の白皙の横顔に見入っていた。
・・・ なんて ・・・ 綺麗なんだ・・・!
真っ白なすべすべの頬に 紅葉の色が映えて ・・・ すごい ・・・!
「 遠くも綺麗だけど。 ・・・ ほら。 ここにも秋が落ちているわ♪ 」
「 え? 落ちてる? 」
「 これよ。 ・・・ 綺麗ねえ・・・ パリの秋もね、マロニエの葉が色づいてとても綺麗なの。
でも こんなに沢山の色はないわ。 赤やオレンジや黄色や・・・ 」
フランソワ−ズはすっと屈んで足元に散り敷かれている落ち葉をそっと摘まみ上げた。
「 あは・・・ 面白い言い方だね。 秋が落ちてる・・・、か。
あ、ほら。 それなら・・これも <秋> だよ。 ほら・・・ 」
「 まあ なあに。 ・・・あら! 可愛い・・・ これ 木の実? 」
ジョ−が ころん、と掌に落としたどんぐりにフランソワ−ズは目を見張る。
「 どんぐり、さ。 椎やクヌギの実なんだ。 もしかしたらどこかに栗もあるかもな〜〜 」
「 え・・・ マロンも? わあ・・・ スゴイ・・・ 」
「 栗拾いってフランスではしないのかな。 」
「 そうねえ・・・ マロンは農家のヒトが栽培していたみたいよ。 」
「 ふうん? それじゃさ、今度 皆で 栗拾い とか キノコ狩り、しようよ。
どんぐりはリスやネズミの御馳走だけど、栗やキノコはニンゲンが頂くんだ。 」
「 まあ・・・ キノコ?? ・・・ マッシュル−ム・・・とか? 」
「 あ・・・ さあ、それはどうかなあ? ちょっとフランスのとは違うかも。 」
「 ふうん ・・・? 」
二人は見晴らしのよい場所に 並んで腰を下ろした。
フランソワ−ズは紅葉とどんぐりを スカ−トの膝にならべにこにこしている。
「 ねえ。 聞いてもいいかな。 」
「 なあに。 」
「 うん ・・・ あの、さ。 きみは帰らないの? 生まれた国に 」
「 ・・・ええ。 でも、なぜ? 」
「 故郷に お兄さんがいるんだって言ってたから。 」
「 わたし。 ココにいたいの。 あの ・・・ ジョ−の 側にいたい・・・の ・・・ 」
俯いてしまった頬が 熱い。
・・・ どうして? どうして わたし、こんな気持ちに・・・?
フランソワ−ズは自分自身の感情を持て余していた。
「 ・・・ ありがとう、フランソワ−ズ ・・・ 」
「 ありがとう、なんて・・・ どうして? 」
「 え・・・うん。 ぼくはさ。 ずっと一人だったから・・・
誰かに必要とされているってすごく ・・・ なんて言っていいかわからないけど・・・
すごく ・・・ 嬉しいんだ。 」
「 ・・・ 嬉しいだけなの。 」
「 きみ、言ったじゃないか。 ぼく達が完全に自由になってから、って。 」
「 ・・・あ、あら・・・ それは ・・・ そうだけど・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 約束は守るから。 だから・・・ ちょっとだけ。 」
「 え? ・・・ きゃ ・・・ ぁ 」
ジョ−はどんぐりを握っている彼女の手を捉えた。
そして・・・
二人は芳しい秋の野に そのまま倒れこんだ。
・・・ ジョ−。 あなたは ・・・ いつのまにか見上げるヒトになったのね・・・
わたしの ・・・ ジョ− ・・・・!
よく晴れた空には 鳥が一羽 ひときわ高声をあげ飛び去っていった。
サイボ−グ達の束の間の休息の日々は終わりを告げようとしていた。
Lsat updated : 04,29,2008.
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***** 途中ですが ・・・
え〜〜 三月末に放映になった 『 とことん〜 』 をご覧になった方、おわかりと思いますが・・・
あのS氏の発言にインスパイアされました〜〜〜 (#^.^#)
お姉さん目線 は やがて 仲間目線 そして・・・ 恋人目線になってゆく・・・?
はい、フランちゃんサイドから見た < サイボ−グ009 > でござりまする♪♪
原作裏事情シリ−ズかな〜 そうだったらいのにな♪ かな? み〜んな混ぜこぜかも。
原作設定ですが ちょびちょび平ゼロ風味も混じっております。
あ、第一世代設定は用いておりませんです。
さ〜て どこまで書こうかな??? ( ヲイ! )
こんなんもあり〜〜かな? って笑ってやってくださいませ <(_ _)>