『 つばさ ください ― (2) ― 』
ふんふん ふ〜〜〜ん ♪
フランソワーズは 低くある旋律を口ずさんでいる。
「 〜〜〜♪♪ で・・・ 次は座席三つ目で ・・・ 」
メロディの合い間には ぶつぶつ呟く。
「 ・・・ふ〜んふんふん ・・・で ららら ら〜ら〜〜 」
時に立ち止まり 手をこそっと動かしたりしている。
カタン − リビングのドアが開いた。
ジョーが ストライプのシャツを手に入ってきた。
「 フラン〜〜 あのさ ぼくのシャツ ・・・ あ?? 」
「 ら〜〜らら ら〜〜らら〜〜〜 」
「 ・・・ ふ フラン・・? 」
「 らら ら〜〜 ・・・っと ・・・ 」
「 あ あのう・・・ フラン ・・・? 」
ジョーは ドアにへばりつきつつ じ〜〜〜っと彼女を観察した。
ど どうしたんだ???
どこか不具合 が・・・・?
・・・ !
イヤホンしてるのかあ〜
目敏く彼女が耳にしている小型のモノをみつけた。
なあ〜んだ・・・
それじゃ聞こえてないよなあ
「 え〜と あのう フラン〜〜? 」
ジョーは 彼女の前に周り話かけた。
「 ・・・ で 座って 〜〜 」
彼女はいきなり 床に伏せた。
「 おわ?? フランッ どうした、大丈夫か!? 」
彼は慌てて彼女を抱き起こす。
「 !? きゃ〜〜〜〜 なに 」
びっくり仰天したのは 抱き起こされた方で大きな悲鳴があがった。
とっさに防御の姿勢をとられ 次は攻撃か??? と
ジョーも思わず身構えてしまった。
「 え え ぼ ぼくだけど〜〜 」
「 ・・・ ああ ジョー なに どうしたの?? 」
「 それは ぼくのセリフだよ ・・・
いきなり床に倒れるんだもの 」
「 え? いきなり?? 振りの復習をしてただけよ? 」
彼女は 耳からイヤホンを取りだした。
「 なにか御用? 」
「 あ ・・・ あ〜〜 あのう・・・
このシャツなんだけどぉ 」
ジョーは 床に投げ捨てたシャツを拾いあげた。
「 はい? あら これ、お気に入りでしょう? 」
「 ウン ・・・ あのう アイロン、かけてくれますか 」
「 いいわよ〜 夜 出しておいてくれれば一番でやるわよ? 」
「 あ そうなんだ? これからそうするね 」
フランソワーズはシャツを受け取りばさり、と広げた。
「 お願いね。 ああ これは今すぐかけるわね〜〜 」
「 ありがとう あ あのう コツって教えてくれる? 」
「 え アイロンかけの? 」
「 ウン。 ぼく やったことなくて 」
「 あらあ 簡単よ。 今 アイロン もってくるわ。 」
「 あ ぼくが持ってくる。 掃除機、しまってあるトコだよね? 」
「 ええ。 あそこの棚の上。 あ 一緒にアイロン台も
出してきてね。 掃除機の横にあるはず 」
「 了解〜〜 」
シュワ −−−−− !
スチームを上げてプレスしてゆく様を ジョーはそれはそれは
熱心に眺めていた。
「 〜〜〜 っと。 これで いいかしら? 」
「 ・・・すっげ ・・・ 」
「 え? 」
「 スゴイよ〜〜 フラン〜〜 魔法みたいだあ 」
「 えええ? このアイロンの性能がいいからよ 」
「 いや 襟のトコのかけ方なんて神技だ ・・・ 」
「 やだあ〜 これは、慣れ よ。
わたし、 お兄ちゃ・・・いえ 兄のシャツ、アイロンかけしてたから 」
「 そうなんだ〜〜 いいなあ お兄さん 」
「 も〜ね ちょっとでもシワが寄ってるとうるさくて うるさくて 」
「 ふうん ・・・ いいな 兄弟って 」
「 そう?? 暴君でもあるのよぉ 」
「 でも 護ってくれる。 」
「 あ〜 まあ ね・・・ 」
フランソワーズは 少しばかり淋しい表情を浮かべた。
「 あ・・・ あの! え〜と ・・・
さっきさ なにやってたのかい?? イヤホンでなに聞いてたの 」
「 え? ・・・ 復習してたの。
次の公演の振りと位置の確認! 」
「 そうなんだ? いきなり床に伏せたりするから びっくり 」
「 あ それも振りなのよ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 < 白鳥〜 > のね 二幕と四幕。 群舞ばかりなんだけど
大変なの。 」
「 がんばってるな〜〜 フラン。 楽しそうだよ? 」
「 そう??? もう必死よ〜〜 」
白鳥に ・・・ 鳥になれる かな
鳥に なりたい な
「 翼をください だね 」
「 ?? なあに? 」
「 あ・・・ 知らないか。 あのね、日本にはそういうタイトルの歌が
あってさ。 学校で合唱したりするんだ。
まあ 日本人ならほぼみんな歌えるかな
」
「 歌なの? つばさ を ください か・・・
いいタイトルね 」
「 ぼく、好きだった・・・ こんな歌さ 」
〜〜♪ つばさが ほし〜い
ジョーは 低い声で歌った。
「 ・・・・ 」
「 〜〜 ってさ。 あれ どした? 」
「 ・・・う ううん いい歌ね 」
フランソワーズは そっと滲んできた涙を拭った。
「 そんなに感動した? ・・・ あ〜〜 そうだね〜
ぼくも つばさ欲しいなあ って思ったもんな
」
「 そうよね ・・・
ねえ ・・・ ジェットっていいわね 」
「 うん めっちゃそう思う。 ぼくもさ〜
つばさをひろげ とんでゆきた〜い〜 ♪ って 」
「 ね ・・・ 」
「 きみはさ 舞台で鳥になれるんじゃん? 」
「 え? ・・・ ああ そうねえ 飛ばないけど 」
「 白鳥だろ〜〜 いいな フランにぴったし 」
「 えへ・・・ いつかオデット姫を踊れるといいなあ〜って。
あ 主役のお姫サマのことね 」
「 ふうん ・・・ あ 練習するならさ
ここ、片そうか? ソファとか寄せて ・・・ 」
ジョーはリビングを見回す。
「 あ 大丈夫。 今回はね〜〜 踊りのテクニックも必要だけど
揃える とか きっちり位置を取る とかが大変なの。 」
「 そっか〜 あ なにか手伝えること、あったら
遠慮なく言って 」
「 ありがと〜〜 あ 今晩 食べたいモノ、教えて! 」
「 え? 今晩の晩飯?? 」
「 そ。 献立 考えるのって結構大変でしょ 」
「 そうだねえ ・・・ あ くりーむ・しちゅ〜 とか・・・
いい?? 」
「 オッケ〜〜〜♪ 美味しいチキン、買ってくるわ。
ありがと〜〜 あ ジョー バイトしてるんでしょ 」
「 うん 毎日じゃないけど 」
「 あの 勉強、大丈夫? 」
ジョーは 大検を目指していた。
「 へ〜き へ〜き そんな無理してないって。 」
「 そう?? 」
「 フラン が ん ば れ♪ 」
「 うん ありがと♪ 」
さ・・・っと出された大きな手を フランソワーズは きゅ・・・っと
握り返した。
出来る限りのこと するわ!
Do
my best ! よ。
ジョー ありがとう
あなたの笑顔がわたしのパワ〜のモトだわ
ザワザワ ザワ ・・・・
スタジオの中は緊張感と熱気が漂っている。
靴音高く入ってきて マダムは鏡の前の椅子に座った。
「 はい 今日から二幕。 私、ちょっと見てるから かっ君、
始めてくれる? 」
「 あ はい。 」
音響機器をセットしていた男性が 振り向いた。
「 音・・・ ゆみさん 頼めます? 」
「 はい。 了解 」
それじゃ・・・ と 彼は鏡の前に立った。
「 二幕 始めます〜〜 白鳥たち〜 振りは大丈夫かな 」
研究生たちは緊張の面持ちで こくこく・・・ 頷く。
後ろの列にいたフランソワーズも しっかりと頷いた。
「 それじゃ 出 から。 えっと 背の順、小さい順にならんで
それで ・・・ 」
― 聞き飽きるほど聞いた音楽と共に ・・・
とて〜〜もとても有名な、白鳥達がうねうねと登場するシーンが
始まった。
〜〜 ♪。 音楽は静かに消えた。
はあ ・・・ ふう ・・・
声にならないため息がそちこちから 漏れてくる。
研究生たちは群舞のシーンのみ、だが 二幕を踊り終わった。
「 はい お疲れ様。 見せてもらいました。 」
マダムは立ち上がり 中央に立った。
「 音はいいわ。 位置の確認をするわ 動いてみて 」
カツカツカツ コツ ・・・・
ダンサー達が 移動して行く。
「 位置取り! 先頭さん もっと進む〜〜〜 !
この音の終わりまでにとにかく全員が舞台に出ないと ダメなのよ 」
「 ああ やっぱり 音、出して・・・ うん そこからでいいわ 」
音楽が流れ始める。
「 皆〜〜 音 音 音 聞いて! カウントしていいから 」
「 前のヒトと重なって。 いつもと違うのよ〜〜〜
前後左右の間隔を確認! 目の端でみるのよ、目の端で!! 」
「 振りは合ってるわ。 でも アームス!!!
白鳥 なのよ! アームスは羽根でしょう?? 」
マダムの注意が雨あられと降ってきた。
ひえ・・・ ひゃ ・・・
若いダンサー達の間からは 悲鳴に近い呟きが聞こえる。
「 ここは! 揃えること 命! なのよ。
るみ、あなたの脚が上がることは よ〜く知ってます。
みちよ、パワーがあるってわかってます。
ゆか、腕が長いって皆知ってます。
フランンソワーズ、 音感いいわね、素敵よ。 」
だけど ね! と マダムは声を張り上げる。
「 揃える! 全員が全員に。 オッケ―? 」
・・・・・ 研究生たちは黙って俯いている。
「 ちょっと休憩。 よ〜〜〜く考えてね。 レスト!
えっと 三幕のヒト達、 いるかな〜〜
次 順番にやってみよう 」
すこし年上のダンサー達が 後ろから立ち上がった。
ふう ・・・ カタカタ ・・・ コツ
コールドを務める若手は ささ・・っと引き下がる。
なんとな〜〜く控えめな雰囲気で ダンサー達は端っこに寄った。
「 ・・・ う〜〜〜 ストレスぅ〜〜 」
「 みちよ どうしたの? 」
「 アタシぃ〜〜 皆と揃えるって苦手だなあ〜 」
「 え ちゃんとできてるじゃない? 」
「 ん〜〜んん かなり無理してるもん、アタシ。
あ〜〜〜 気分的に苦手だなあ・・・ 」
「 ・・・ 皆 そうなのかしら 」
「 まあ ヒトによると思うけどさ
ちょっと靴 脱いで休憩だあ〜〜 」
「 あ わたしも ・・ 」
フランソワーズは 皆の後ろでそっとポアントから足を抜いた。
「 あ 三幕だよ 」
ちょんちょん・・ みちよが肩をつついた。
「 え? あ ・・・ 各国の踊り ね! 」
「 ん〜〜 あ〜 やっぱおね〜さま方、上手だなあ 」
「 ん・・・ 」
〜〜〜 ♪♪ ♪
センターでは 特徴のある音楽と共に < 各国の踊り > が
展開してゆく。
いずれも少人数で パートナー付きに振りが改訂してある。
「 う〜〜ん ・・・ 稽古着なのに ちゃんとそれっぽく見えるね 」
「 そう! そうよねえ ・・・ スペイン とか踊ってみたいわあ 」
「 へえ フランソワーズっぽくないね? 」
「 そうかしらあ わたし、 フラメンコっぽいの、好きよ。
みちよは? 」
「 アタシは断然 チャル! ( チャルダッシュ のこと ) 」
「 あ〜 みちよっぽい! 」
「 でしょう? ああ いつか踊りたいなあ 」
「 うん ・・・ あ 黒鳥 よ! 」
「 ん! えりさん ・・・ すっげ・・・ 」
二人は、いや スタジオ中が 静まり返る。
♪♪♪ ・・・ ♪〜〜
練習用のチュチュを付けただけ なのだが − そこには黒鳥と王子がいた。
フランソワーズも もう目が離せない。
・・・ ! すっごい ・・・
鳥だわ。 黒鳥 ・・・
ああ つばさ ・・・ 欲しいなあ
あ れ。 えりさんのカウントって
・・・ 二幕の皆と同じ・・!
目と耳、 生まれ持った感覚をすべて使って吸収する。
そ・・っか。
皆 このカウントが自然なんだ・・
わたし の耳 ・・・
やっぱり皆と違うのかなあ・・・
先輩たちのリハの後 ― 研究生たちは ばっちりとしごかれた。
「 ・・・ ただいまぁ ・・ 」
玄関のドアを開けると ―
ふわ〜〜〜ん ・・・・
「 ? あ いい匂い〜〜〜〜 おいしそ ! 」
重たいバッグを置いて 靴を剥ぎ取るみたいに脱いだ。
「 ・・・ つっかれたあ〜〜〜 」
玄関の上がり框に腰を下ろしたまま 立ち上がりたくなかった。
パタパタパタ ― エプロンをしたジョーが顔を出す。
「 おかえり〜〜 フラン ! 」
「 ただいま ・・・ ね なに?
ものすご〜〜くいい匂い! あ〜〜 お腹 空いたぁ 」
「 へへへ 今日はね〜 なんと! 鱈とマッシュルームのトマト煮!! 」
「 え・・・ すご・・・ 」
「 初めて作ったんだけど なんかさ〜〜 美味しいんだ! 」
「 わあ 〜〜〜 はやく食べたいい 」
「 ね 荷物おいて 手 洗ってきて。
そうだ そうだ、美味しいバゲットも買ってきたよ! 」
「 めちゃくちゃ うれしい〜〜〜 」
えいやっと立ち上がり 彼女は二階に上がっていった。
さてその晩御飯は ― ジョ―の < 力作 >、 博士にもフランソワーズにも
大好評だった。
「 ジョー すごい〜〜〜 」
「 うむ、 美味かったぞ。 ジョー、料理の才能があるなあ 」
「 ええ ええ 美味しかったあ〜〜 」
「 え へへ・・・ よかった・・・
トマトとニンニクって 魔法ですよねえ
白ワインとものすごく合いますね ! 」
「 うん サンテミリオンの白 なんだが ・・・
鱈に合ったのだろうな 」
「 あ〜〜〜 なにもかも 美味しすぎ・・・
幸せ ・・・! 」
「 ・・・ 笑顔 戻ったね 」
「 え ? 」
「 なんかすごく疲れた感じだったから 」
ジョーは 彼女のピンク色の染まった頬を
にこにこと眺めていた。
「 ・・・ すごく疲れてたの! 」
「 リハーサル、大変? 」
「 大変! 」
「 次の公演に出る、と言っておったな。
演目はなにかね 」
「 あのう ・・・ 『 白鳥〜 』 なんです。
今回 わたし達、研究生がコールド・・・ あ 群舞を
踊るんです。 」
「 ほう ・・・ あの群舞は大変じゃろう 」
「 博士〜 ご存知なんですか?? 」
ジョーが 驚いている。
「 ジョー。 有名な演目じゃ、ワシでも知っておるよ。 」
「 ・・・ 知らないのはぼくだけかあ 」
「 気にしないで ジョー。 これから知ってくれればいいわ。
ああ でも本当に大変! 」
「 あのう・・・ ぼく わからないんだけど・・・
なにが大変なの? 難しいテクニックがある、とか? 」
「 ううん。 派手なジャンプも ピルエットもないの。
だけど ね !! 」
フランソワーズは 堰を切ったようにしゃべり始めた。
「 ふうん・・・ ふ〜〜ん 」
「 ほう ・・・ カウント、ねえ 。 」
ジョーも博士も 耳を傾けてくれた。
「 ・・・ あ ごめんなさい・・・
わたしったら自分のことばっかりしゃべって・・・ 」
「 いいんじゃよ、フランソワーズ。
気になることは 口にだした方がよい。 」
「 そうだよ〜〜 言うだけでもいいじゃん。
言ってみると 案外軽くなることもあるし
」
「 ・・・ そうなんだけど ・・・ 」
「 だからなんでも話ておくれ。 」
「 博士 ・・・ 」
うんうん・・・と ジョーも笑顔だ。
・・・ ジョーがいてくれて よかった ・・・
博士やジョーと 一緒に暮らしていて よかった!
「 え へ ・・・ ありがと ・・・ 」
「 なんだよぉ〜 一応 < 家族 > じゃないかあ
泣くなよ フラン 」
「 そ そうよ ね・・・ ふふ 美味しいご飯と
皆がいるのに ・・・ ヘンね 涙が ・・・ 」
フランソワーズは ブラウスの端っこで涙を拭った。
「 ぼく さ。 ごはん 作って誰か待つって。
すっご〜〜〜く憧れてたんだ・・・なんか いいね! 」
「 え そうなの? 」
「 うん。 そんでもって おいしい〜〜 なんて言ってもらえるのって
も〜〜〜 最高だあ〜〜 」
「 へえ〜〜 ジョーって 面白い〜 専業主婦願望?? 」
「 そうかなあ ・・・でもさ いいよね〜〜
あ 勿論 ただいま〜 って帰ってくると お帰り〜の声と
美味しいご飯が 出来てるってのも だ〜〜〜い好きだけど 」
「 わたしもよ♪ それでね こんな風に皆でおしゃべりできるの、
大好き♪ ・・・ ああ 素敵な夜ね。 」
うんうん ・・・ 皆が笑顔で頷く。
「 ねえ 疲れてる? 」
「 そうね あ でも 美味しい晩御飯でしっかり りかば〜〜♪ 」
「 それじゃ ちょっとさ 付き合ってくれる? 」
「 ?? 」
「 ジョギングさ 海岸 ぶっとばす〜〜 」
「 え〜〜〜〜 」
「 行こうよ しっかり着込んでこいよ〜 」
「 え ええ・・・ 」
「 いっておいで。 気分転換になるぞ 」
「 はあ ・・・ 」
「 脚の筋肉も ほぐれる。 なに この程度で疲労する003では
あるまい? 」
「 はい! ジョー ちょっと待っててね〜〜〜 」
「 ウン。 風邪ひくなよ ダウン着て 帽子手袋必須! 」
「 了解〜〜 あ お皿 ・・・ 」
「 ぼくが洗っておくってば。 」
「 食洗器にいれておくから。 ワシの改良型は万能じゃ 」
「 めるし〜〜 博士、 ジョー 」
フランソワーズは キスを投げると二階に駆けあがっていった。
ザザザザ −−−−−
冬の海は 案外穏やかだ。 暗い水面には星々が蒼白い光を落とす。
「 ふ 〜〜〜 やっぱり冷えるわね 」
「 うん。 ここいらは温暖だけどね。
」
「 ねえ 海岸線を走るの? 」
「 ・・・ あ 走りたい? 」
「 だってジョギングするのでしょう? 」
「 ウン。 そうだな 空中ジョギングってか 」
「 く 空中?? 」
うん、とジョーは笑って頷き、彼女の手を取った。
「 空、飛んでおいで 」
「 ??? 」
「 ぼくが放り投げるから。 鳥になって飛んでこい。 」
「 こ ここで?? だって落ちる ・・・ 」
「 絶対に受け止めるから。 空中散歩、してこいよ 」
「 え え?? 」
「 白鳥にさ、なれるかも だよ? 羽ばたいて さ 」
「 ・・・ 白鳥 ・・
いいわ。 お願い、ジョー。 あ 防護服、着てないから
お手柔らかに お願いシマス。 」
「 了解。 あ 帽子、しっかり被っとけよ 〜〜 」
「 はいっ 」
せ〜〜〜〜 のっ ・・・・・ !!!!
ジョーは彼女を抱き上げると反動をつけ ― 思いっ切り放り上げた。
わ あ −−−− ・・・・・
フランソワーズは 星の海に身を投じた、と思った。
突きさす冷えた夜気は つめたい水にも似ていた。
鳥 ・・・ わたし 飛んでる
・・・ !
そっか ・・・ 皆と鳥になれば いいんだ
一緒に 鳥になれば !
ほら つばさ がある わ!
ひゅう〜〜〜 ・・・ 夜の海に彼女は飛んでいた。
ひゅるん! 突如 とてもよく馴染んでいる空気が飛び上がってきた。
?? な なに・・? あ。
ザッ !
空中で頼もしい腕が彼女をしっかりと受け止めた。
「 ! う わ ・・・ 」
「 へへ ぼくも跳んできちゃった ・・・
さあ 降りるから・・・ しっかり掴まってろよ 」
「 ウンっ 」
ひゅ −−− すとん。
さすが009は ほとんど衝撃などなく、彼女を抱いたまま
砂浜に着地した。
「 あ は ・・・ どうだった? 」
「 ・・・ ジョー ・・・ すごく すてき ・・・!!! 」
「 そっか〜〜 よかった〜 」
「 鳥になれた わ! わたし、鳥になれたの! 」
「 そっか ・・・ 」
「 ん! ありがと〜〜〜 ジョー!
わたし ・・・ 踊る。 皆と白鳥になるわ 」
「 そっか ・・・ 」
「 わたし 白鳥なの 〜〜〜〜 」
フランソワーズは 夜気の冷たさに頬を染めつつ叫だ。
ジョー ・・・・! だいすき !
ちゅ。 彼の唇に温かいキスが落ちてきた。
!!! わっはははは〜〜〜〜〜ん
― ジョーは文字通り 舞い上がった。
ザワザワザワ ・・・・
ホールはほぼ満席、 開演時間を間近にしてロビーから人々が
戻って来始めた。
「 ・・・ ほう 緊張するなあ 」
「 博士。 マドモアゼルは準備万端整えとりますよ。 」
ソワソワしている博士を グレートが軽くいなしている。
「 そ そうかのう 」
「 目 吊り上げて練習しておりましたからな。 」
「 うむ ・・・ 」
「 わはは 吾輩も少々緊張しておりますがな 」
粋にスーツを着こなした名優は ふ・・・っと息を吐く。
「 ジョー my boy? お前さんは如何かな 」
「 ・・・・ 」
返事がない。 反応する気配も ない。
「 なんだ、居眠りかい・・・ 想い人の大切な舞台だぞ
しっかり目ぇ見開いて ・・ うん? 」
「 ・・・ ぼ ぼく ・・・ き 緊張 して
う うごけ ない ・・・ 」
「 はあ?? おいおい〜〜 しっかりしろ?
そろそろ一ベル ( いちべる )だぞ
」
「 う ・・・ あ と トイレ ・・・ 」
「 ! たわけ! さっさと行ってこい! 」
「 は はい〜〜〜〜 」
ドタドタドタ ・・・
人波に逆行してゆく茶髪青年に 人々は眉を顰めたが
行き先をチラ見したヒトは 苦笑していた。
ま しょうがない か・・・
りんご〜〜〜ん りんご〜〜〜ん
開演ベルが優雅に鳴り ・・・
大変ながらくお待たせいたしました
アナウンスが始まり 公演の幕が 上がる。
フラン ・・・・ ・・・・
・・・ と 鳥に なれ ・・・
ジョーは 座席で背筋を伸ばしかっきりと目を見開いた。
― その頃 楽屋では。
「 きゃ〜〜 二ベル 入ったね〜 」
「 ん ・・・ 」
「 どしたの フランソワ―ズ? 」
「 黒髪って フシギね〜〜〜 」
「 へ?? 」
「 うふふふ ・・・ なんかいいわね〜〜 」
フランソワーズは メイクの仕上げも途中で黒髪の自分自身の顔を
しげしげと見つめている。
「 ほらほら はやく描いちゃいなよ〜 」
「 あ ・・・ うん 」
「 トロワ、見ようよ〜 」
( 注: パ・ド・トロワ のこと )
「 あ うん! 」
二、四幕の群舞を踊る研究生たちは 一幕に出番がない。
若い踊り手たちは ごろごろ着こんで舞台袖から
先輩たちの踊りを じ〜〜〜〜っと見つめていた。
フランソワーズも 仲間たちの間から覗いている。
・・・ すご ・・ い ・・・
わたしも 鳥になります!
つばさ ― ください。
白鳥たち の出番はもうすぐだ。
******* ちょいとオマケ
☆二人の内緒話☆
「 ねえ? 教えてくれる? 」
「 え なにを 」
「 あの ね。 ジョー、あなたも時々 飛んでる の? 」
「 あ あ〜〜〜 」
「 009は本気でジャンプすれば 滞空時間、相当なものでしょ 」
「 ・・・ あ まあ ね 」
「 飛んでる でしょ? 」
「 ・・・ ウン。 ときどき ・・・ 」
「 ずる〜〜い〜〜 ・・・ ねえ 時々でいいから
また わたしも飛ばせて ? 」
「 ナイショだぞ? 」
「 ウン♪ 二人のヒ・ミ・ツ 」
*************************** Fin. ************************
Last updated : 02,04,2020.
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********** ひと言 ********
全幕物って 物凄く大変なんですよ〜〜〜
めっちゃ楽しいけどね☆
空中散歩 のネタは以前にも使いました(>_<)
・・・ だってやってみたいんだもん ♪