『 つばさ ください ― (1) ― 』
ジ −−−−−−− ・・・・
リビングから 小さいけれどずっと連続した音が聞こえてくる。
「 ・・・? なんだ? 」
ジョーはキッチンから 耳を欹てた。
彼は コーヒーを淹れに自室から降りてきたのだが 妙な音が
気になったのだ。
「 なんの音だ? あ フランがDVD見るって言ってたけど・・・
オフにしてないのかなあ ・・・ まさか ね 」
マグ・カップ片手に ひょい、とリビングを覗けば ―
「 ・・・ あ れえ 」
リビングに置かれたTVの前で 金色のアタマが突っ伏していた。
モニターは なにも映していない画面が続いている。
「 寝ちゃったのかあ・・・ 」
ジョーはカップを置くと、そうっとリビングに入った。
「 フラン〜〜〜 こんなトコで寝たら風邪ひくよ〜〜 」
カーディガンを羽織った肩を そっと揺する。
リビングはヒーターを切ってあるらしく かなり冷え込んでいた。
「 ・・・ オフにしなくてもいいのに ・・・
フラン〜〜 ほら ここ 寒いよ〜 」
「 ・・・ ん ・・・? 」
「 DVD、終わってるよ? 」
「 ・・・ え ・・・ あ ・・? 」
金色のアタマがゆっくりと起き上がる。
「 ・・・ ! やだ わたし〜〜 寝ちゃったの? 」
「 らしい ね 」
「 きゃ ジョー〜〜〜 起こしちゃった?? 」
「 まだ寝てないけど・・・ 風邪ひくよ ここで寝てたら。
リビングの暖房、切ってたのかい? 」
「 え ええ・・・ ちょっとだけDVD 見るだけだから・・・ 」
「 ちょっとだけ じゃなかったみたいだよ・・・
寒い時期はヒーター 切らなくてもいいのに 」
「 だめよ、そんな勿体ない。 ああ わたし 付けっ放しで・・・
ごめんなさい 」
フランソワーズは しょんぼりしてTVのモニターをオフにした。
「 謝る必要ないけど ・・・ 風邪ひくから・・・ 」
「 ありがと、大丈夫よ。 あ〜あ ・・・
もう ちっとも覚えられなくて ・・・ 」
「 ?? なんのDVD? 映画かなんか? 」
「 ううん 振りを覚えなくちゃならなくて 」
「 ふり・・・? 」
「 そうなの。 バレエ団の次の公演の・・・ 」
「 あ ああ そうか そうだったね!
次の公演に出られるっていってたよね 」
「 そうなの。 今回はコールドの人数が多くて
わたしみたいな研究生にも声がかかったのよ。 」
「 へえ・・・ すごいじゃん! 舞台に出るんだね 」
「 ありがと。 ふふ・・・でもね < その他大勢 > なのよ。 」
「 皆 最初は < その他大勢 > なんだろ?
ぼく 演劇とか目指してるトモダチもいたから
少しはわかるよ 」
「 まあ そう・・・
そうね、わたしとしてはもう最高にはっぴーよ♪ 」
「 よかったね 頑張ってるもんな〜 」
「 ええ でもね ・・・ 」
ふう〜〜〜 ・・・・ フランンソワーズは大きくため息をついた。
「 でも? 」
「 うん。 振りは あ 踊りの順番のことね、 ちゃんと覚えたけど
でも・・ 皆と合わせるの、大苦労なの 」
「 あわせるって ・・・ あ 大勢で同じ動きするよね
あのこと? 」
「 そう。 順番は間違えてないし音はよ〜〜く聞いてもうしっかり
覚えているんだけど ・・・ 」
はあ 〜 彼女は 俯いてしまった。
「 はい お疲れさま〜〜〜 」
「「 お疲れ様でした 」」
全員で優雅にレヴェランスをし、拍手をしあう。
― 朝のクラスが終わり スタジオ中の雰囲気が和らいだ。
「 はあ〜〜 やれやれ・・・・ 」
「 あ〜〜 ポアント 潰れたかなあ〜
」
「 あは・・・ 着替えるわ、ワタシ 」
「 お腹へったぁ〜〜 」
「 ・・・ 足 いったァ〜〜〜 」
ダンサー達は スタジオの隅っこにあちこちで座り込んだ。
「 う〜〜〜 靴 潰れたあ 」
「 え もう? 」
「 ウン。 あ〜あ また作らなくちゃ めんどくさ 」
「 そうねえ 」
「 フランソワーズは どこの靴? 」
「 レペット。 ああ でもそろそろダメかなあ 」
スタジオの隅で みちよとおしゃべりをしていたら
フランソワーズ? と マダムがピアノの脇で手招きしている。
「 ・・・ はい! 」
慌てて立ち上がり彼女は 飛んでいった。
「 ・・・ あの・・・? 」
「 ねえ よく音、聞いて!
それでね 皆のカウントの取り方を 覚えて 」
「 は ・・? 」
「 揃える って。 皆のマネするのとは違うのよ?
全員が 同じカウントで動くの。
音をよく聞いて。 アナタのカウントの取り方が
間違ってる、というのじゃないの。
でもね そろえるためには 同じカウントで踊って 」
「 あ は はい ・・・ 」
「 次の公演ね、コールドで人数が必要なの。
研究生からも出演してもらうわ。 フランソワ―ズ、あなたもお願い 」
「 え・・・! 公演に ですか! 」
「 そうよ。 それでね、クラスで気がついたの。
コールドは 揃えてなんぼだから。
これも勉強、と思って頑張ってほしいわ。 」
「 はい。 ありがとうございます! 」
「 朝のクラスの研究生は全員参加だから。
皆でしっかりお願いね。 あ 事務所でDVDをもらってね。
振り、覚えておいて。 」
「 は はい・・・! 」
じゃあね、 と マダムは上機嫌でスタジオを出ていった。
うっそ ・・・ !
本公演のステージに立てる なんて!
・・・ やった わ !
このクラスの研究生全員・・・ってことは
わあ〜〜 みちよ や あみちゃんも一緒!
やったわあ 〜〜〜
「 ・・・ !!! 」
彼女は 思わずタオルをぽ〜〜〜ん と放り投げていた。
ジョーは カップを持ったままソファの隅に座った。
「 へえ よかったねえ 公演に出るんだ? 」
「 そうなの! ああ でも ね・・・ 」
「 でも? 」
「 ええ。 わたし、全幕の作品に出たことって
子役しか経験がないの。 それでね ・・・ 振りを必死で覚えて 」
「 ふうん ・・・ 見るだけで覚えられるんだ??? 」
「 え だってチビの頃とか TV見て人気アイドルの真似とか
してたでしょう? 」
「 あ〜 ぼく さ TVとか見る時って皆でぼ〜〜っと見てたから
・・・ 団体生活 だったからね 」
「 ・・・ あ ごめんなさい 」
「 謝らないでくれよ そういう環境だったってことだけだもん。
気にしてないよ 」
「 そう ・・・ ごめんなさい あ 」
「 で きみはそのう・・・踊りの順番を 見て覚えるんだ?
ぼく バレエのこと、わかんないけど・・・ 長いだろ? 」
「 そうね。でもね バレエの振りは全部 文字で書けるの。 」
「 え そうなんだ〜〜 」
「 ええ ひとつ ひとつのパには名前があるし、その連続だから。
あ ピアノとか楽譜があるでしょう? あんな感じ 」
「 ふうん ・・・ え それを見て書きとるわけ? 」
「 そうよ。 レッスンでもパの名前を先生が 言って
ピケ パッセ 二回 シャッセ パ・ド・ブレ アラベスク〜
から四番で降りて・・・ ってね 」
「 ひ え・・?? それ聞いただけで踊れるのかい? 」
「 うん。 ず〜〜っとそうやって習ってきてるの。 」
「 すっげ・・・ それで全部覚えたわけ?? 」
「 うん。 でもね〜〜 順番を覚えただけ じゃ ダメなのよ 」
「 なんで?? 」
「 バレエは 音楽に合わせて踊るでしょ。
音を踊るというか・・・音に合ってないとだめなの。
それに 今回はコールドだから 皆と合わせないと ね 」
「 ふうん ・・・ なんか すごいね ・・・ 」
「 だから頑張らなくちゃって DVD、見なおしてたんだけど
あ〜〜 寝ちゃった ・・・ 」
「 冷えるしさあ 今晩はもう寝たら?
しっかり休んですっきりしたアタマで って方がいいよ 」
「 ふふふ なんか試験の前みたいねえ 」
「 あ そう? 」
「 ウン。 あら ジョーこそまだ起きてたの? 」
「 あ ぼくももう寝ます。 コーヒー 飲みたいな〜って
思ったけど 寝るよ。 」
「 はあい。 じゃ お休みなさい〜〜 」
フランソワ―ズは TVのスイッチを切った。
「 なんか元気もらえた気分(^^♪ ありがと〜 ジョー 」
「 え 」
ちゅ。 彼女は背伸びして彼のほっぺにキスをした。
「 じゃあ お休みなさい〜 」
「 お お おや す み ・・・ 」
わっひゃあ〜〜〜〜〜
き きす してもらったあ〜〜〜〜〜
・・・ 寝られないかも ・・・
ジョーは カラのコーヒーカップを握りしめ立ち尽くしていた。
〜〜〜♪♪ ぷつり と 音楽が消えた。
「 はい じゃ 10分休憩。 次 四幕のコールドだからね 」
ぱん。 マダムは大きく手を打った。
わいわい たたた ・・・・
し・・んとしていたスタジオは 急に賑やかになった。
「 はあ〜〜〜 神経つかう〜〜 」
「 ・・・ えっと 最初は通路の一席 こっち側にたち 」
「 あ〜〜〜 トイレ! 」
「 水 買ってくる〜〜 」
秩序だった動きから解放され 彼ら彼女らはほっとした様子だ。
「 ・・・ 」
「 フランソワーズゥ〜〜 ねえ チョコ たべる? 」
「 ・・・ 」
「 どうしたの? 」
「 ・・・ わたし 合ってない わよね 」
フランソワーズが こそ・・・っと呟く。
みちよは 食べかけていたチョコの手を止めた。
スタジオの後ろにいる研究生たちのカタマリの そのまた隅っこで
若い二人がくっついてる。
「 え 今の < 序曲 > のとこ? 」
「 うん・・・ 」
「 そ そっかなあ 振り、間違えてないよ? 」
「 みちよの側から見てて 大丈夫だった? 」
「 うん。 」
「 でも ・・・ はやい! て一回 言われたし 」
「 皆 なんか言われたけど 」
「 ええ でも ・・・ 」
「 さ 気分かえよ! はい チョコ〜〜 」
「 あ ありがと。 ん〜〜 おいし♪
じゃ わたしは フルーツ・ボンボン。 はい 」
「 きゃ〜〜 〜〜 おいし☆ 」
「 そ? よかったあ〜 これね わたしのお気に入り 」
「 元気 出たね フランソワーズ 」
「 え ・・・ あは ありがと みちよ 」
「 一緒できて めっちゃ嬉しいんだ アタシ。 」
「 わたしも♪ 」
「 ま〜 いろいろ言われて 当たり前ってことよん
」
「 ん 」
二人は チョコを頬張りつつ突っつき合っていた。
「 はい 始めますよ。 コールドちゃんたち 」
マダムの声がひびく。
ササササ −−−−
若い研究生たちは 緊張した顔でスタジオの上手 ( かみて )と
下手 ( しもて )に分かれた。
「 あ アタマからゆくからね 〜〜〜
振りは大丈夫ね? 」
全員が 真剣な顔でこくこく・・・と頷く。
「 Good girls ! じゃ 四幕ね〜〜 音 出して。 」
♪〜〜〜〜 ♪♪♪
皆の耳に馴染すぎるほど馴染んでいる音が 響きだした。
< 白鳥たち > が つぎつぎに登場する。
「 場所取り 考えて。 ここがセンターよ 」
マダムは 自らが鏡の前に立った。
♪♪ ♪♪
ダンサー達は整然と列を作り 同じ動きを音に合わせ踊る。
「 下手 後ろから三人目! すこしはやい ! 」
「 上手 ! えっと・・・ りえ? 位置 ちがうでしょ? 」
「 左右対称!! よく見て! 」
「 フランソワーズ! 合わせて 合わせて。 音 聞いて! 」
音楽よりも強く マダムの声が飛ぶ。
名指しされたモノは びく・・・っとするが動きを止めてはいけない。
踊りつつ 修正してゆかなければならないのだ。
「 円、でしょ 二つ。 こっちにオデットが入るのよ〜
ほら もうちょっと大きくして 」
「 ん〜〜〜 あ 止めて。 」
マダムは音を止めさせ いくつか場所の修正をした。
「 覚えて! 振りを合わせて 目の隅で自分の位置を確認!
○○ホールだからね ここと そっちに通路があるでしょ。
そこを目当てに!
まみ と ゆか が 通路の前。 あとは等間隔で立ってみて。
だいたい 自分の位置 わかるでしょ。 」
研究生たちは 歩いて次に移動する場所を確認する。
・・・ っと。 最初は通路から座席3つ外。
で 次は ・・・
フランソワーズの位置は 後列の上手 ( かみて ) 寄り なので
ぶつぶつ・・・自分の場所を目で追っている。
パンっ マダムが手を打った。
「 場所、確認できたかな。 それじゃもう一回。
四幕のアタマから 〜〜 」
コトコトコト コトコト ダンサー達が左右に控えた。
「 アタマからオデットの出まで通すわよ。
それから ・・・ オデット、加わって? いいかしら えりちゃん 」
「 はい 」
オデットを務めるプリマさんは にっこり頷く。
「 ささっと行きましょ。 はい 音、お願い〜 」
♪ 〜〜〜 ♪♪
音楽が流れ始め、スタジオの中には再び緊張感が漲る。
「 あ〜 お疲れ様〜〜 今日のとこ、しっかりチェックしておいて。
コールドちゃん達 お願いね〜 」
きっちり時間通りに マダムはリハーサルを終わらせた。
「 四幕 あげてから二幕にもどるから。
リハになれておいてね〜 合わせるのは二幕の方が大変だから
はい お疲れ〜〜〜 」
「「 ありがとうございました 」」
ざわざわ がたごと ・・・
ダンサー達はわらわらと動きだす。
スタジオに残り自習をする者、お互いに位置確認を繰り返す者もいる。
若い研究生たちは だいたい同じくらいの年代なので
なんとなく共有感があるらしく、 雰囲気は和やかだ。
「 う〜ん ・・・? たららら・・で 振返り ・・・ 」
フランソワーズもスタジオを出てゆきつつ ぶつぶつ順番を
繰り返していた。
「 ねえ フランソワーズ、 お茶して帰ろ〜〜 」
「 みちよ ・・・ うん ・・・ ねえ やっぱりわたし、
合ってない ・・・? 」
「 え そんなこと、ないと思うけどなあ 」
「 う〜〜ん・・・ なんか ねえ 」
「 ねえ ねえ 気晴らし! お茶してこ〜〜 」
「 いいわね♪ ・・・ ケーキ たべたい! 」
「 アタシも〜〜 」
二人で じゃれ合っていると 私室から出てきたマダムと
顔を合わせた。
「「 あ ・・・ ありがとうございました 」」
「 はい お疲れ様ね〜〜
あ フランソワーズ。 あなた コールドってあんまり経験ない? 」
「 あ は はい・・・ 白鳥は 初めてです 」
「 あ〜 そうなのね。 よく音聞いて。 カウントしていいけど
皆と同じ速さでカウントしないと ね 」
「 は はい・・・ 」
「 これも勉強だから。 頑張って。 」
「 はい。 」
「 みちよちゃん、今回は 張り切りすぎないでね〜 」
「 あ はあい 」
「 じゃ ね〜 お疲れ〜〜 」
マダムは ピン・ヒールを鳴らし 颯爽と出て行った。
「 はあ ・・・ 相変らずカッコいいねえ〜 」
「 ホント あんな風になりたいわ 」
「 ・・・ 無理だなあ 」
「 ウン ・・・ 」
まっすぐ帰ろうか ― 二人は寄り道せずに家路についた。
「 ― やっぱり わたし、皆と合ってない わ。 」
電車の中で 一人になるとどうしても考えてしまう。
皆と同じ速さで カウントして
マダムの声が浮かんでくる。
リハーサルでの場面も蘇る。
わたし、結構 注意されちゃった・・・
場所 しっかり覚えなきゃ。
・・・ 前のヒトとの距離しか考えてなかったわ
< 白鳥 > のコールドは あの特徴的なアームスの動きも
しっかり揃えなければ価値がない。
同じ カウントで、 かあ・・・
う〜〜ん ・・・
ちゃんと数えてる つもり、だったんだけど・・・
そう なのよねえ 微妙〜に違うのよねえ
・・・ どうしたら わかるかなあ・・・
横目で? まさか ね・・・
見て真似してたら やっぱり微妙に遅れるし
同じ曲を聞いて 同じカウントしてるはずなんだけど・・・
― タイミング かしら
ふう〜〜〜〜 ・・ 溜息ばかりが漏れてしまう。
タタタタン ・・・ タタン ・・・
電車の単調な音にかえってほっとする。
ぼんやり車窓から外を眺めれば 冬枯れの景色が
どんどん後ろへと 飛んでゆく。
ふうん ・・・
加速そ〜〜ち! ってこんなカンジなのかしらね
あ〜 速さが全然違うかあ
色彩の乏しい冬景色の中 郵便配達の赤いクルマが目を引いた。
・・・ 防護服みたい ね ・・・
あ。
突如 見慣れたシーンが蘇った。
赤い特殊な服を着てたった8人の仲間達と闘っていた日々 だ。
いつもは 意識して封印している記憶なのだが
今 彼女は仔細にそれを手繰り寄せ丹念に辿る。
タイミング よ ・・・!
そうよ! わたし達 タイミングを読み合ってる!
戦闘の現場 ― そこは命のやり取りをする凄惨な現場だ。
サイボーグ達は いわば 戦闘のプロ として
数少ない味方同士、自然にお互いのタイミングを覚えていた。
ドガ −−−− ン ッ 爆音がひびく。
≪ おい! 上からだ ≫
≪ お〜らい ≫
赤い風が急降下し、さっと現れたやはり赤い服の仲間を運び上げる。
ババババババババ −−−−− !!!
マシンガンが 上空からある一点に集中して炸裂した。
サ −−−− 赤い風は悠々と飛び、仲間は宙で一回転し
余裕で瓦礫の陰に身を潜めた。
グワ −−− !!!
しつこく攻撃してきていた敵の一拠点が爆発した。
≪ 002 004 やったな〜〜 ≫
≪ ふん ・・・ ≫
≪ あったりめ〜よ ≫
絶妙なコンビ・プレーを繰り広げる二人は 顔を合わせることもない。
何回言ったらわかるんだっ うっせ〜な オッサン!
普段は 顔を合わせればケンカばかりしている二人なのだが
戦闘中は ぴたり、と息が合う。
「 はあ?? あ〜 オッサンのタイミング、わかってっからよ〜 」
「 アイツは 俺のスピードをわかっている。 」
二人は 当たり前のように言うのだ。
互いに称賛し合ったりもせず 当然、といった表情なのだ。
仲よくないからかな〜 って思ったこともあったけど。
ちがうわ。
そうよ!!! しっかわかり合ってるからなのよ!
あんな場面、通信してる暇なんかないもの
打合せてなんて余裕、ないし。
二人は ううん わたし達はプロフェッショナルだから。
なにも言わなくても わかってる。
・・・命をかける時なんですものね
そうよ、そうなのよ!
普段は思い出したくないはずの記憶だが 今はもっともっと
細かく思い浮かべたくなる。
「 お前の走る音の特徴を知っているのさ 」
あの地下での凄惨な闘いで 004はさらり、と言ってのけた。
彼は 加速して闘っている仲間の援護射撃を見事にやったのだ。
そうだったわ ・・・!
あ わたしも!
ジョーの走るタイミングを覚えてるわ。
そうよ ― だから!
だから 彼が加速装置を解除する隙にデータを送れるのよね!
打合せしたわけでも 教えあったわけでもない。
おなじこと かも!
わたし。 プロフェショナルとして舞台にたつ のよ。
― よまなくちゃ タイミング!
○○〜〜 ○○〜〜〜 次は ・・・
ふと 車内アナウンスが耳に入ってきた。
「 あ!! いっけない〜〜 おります〜〜 」
大きなバッグを抱え フランソワーズは慌てて降りた。
ふう ・・・ 乗り越さずに済んだわあ・・・
「 ふ ・・・ 美味しい晩御飯つくろっと!
そうだわ ジョーに聞いてみなくちゃ 」
バッグを抱えなおし、 フランソワーズは元気に歩きだした。
「 きゃ ・・・ 風が強いわねえ ・・
」
マフラーをしっかりと巻き直した。
そう よね!
わたし いちいち皆のこと 見てないもん。
ジェットとジョーじゃ 全然タイミング、違うし。
アルベルトは 無言が普通。
でも わかる。
ピュンマは ちゃんとタイミングを計って
わたしにデータを送ってくれてる
グレートは 皆の隙間を埋めるのよ。
彼こそ 間を読む天才かも。
大人の炎は ジェロニモ Jrが合図してるものね!
― わたしだって できるはず!
その晩の食事は ジョーの大好物・肉ジャガになった。
「 ・・・っと。 あとは最後の仕上げだけ ね 」
カタン − キッチンのドアが開き、 博士が顔を覗かせた。
手にしたザルを差し出す。
「 フランソワーズ? 温室のイチゴがいい具合じゃぞ 」
「 わあ〜〜 可愛い! 博士 ありがとうございます 」
「 まだ数少ないがな。 」
「 春の色ですね! あ ジョーは 今日遅いのでしたっけ? 」
「 ん? ああ 多分バイトじゃなあ 」
「 え なんの? 」
「 あれ 知らんかったか? 今日はコンビニでレジだな 」
「 え〜〜〜 ジョーが コンビニで?? 」
「 ああ。 秋口からやっておるよ。 やっと慣れたといっておるよ 」
「 まあ そうなんですか!
じゃあ いっぱい晩御飯、食べてもらいますね 」
「 そりゃいいな。 もうおっつけ戻るじゃろうよ
ワシも手を洗ってくる。 」
「 はい。 お願いします。 ふんふんふ〜〜ん もうちょっと
煮込んでおきましょ♪ 」
「 ただいま〜〜 」
しばらくして 玄関が開いた。
「 ジョー 〜〜!!! 」
フランソワーズは 菜箸を持ったまま玄関に飛んでいった。
「 お帰りなさいっ!! 」
「 ただいま〜〜 」
「 ねえ ねえ ジョー! 聞いてもいい? 」
彼女は靴も脱いでいないジョーに 息せき切って尋ねた。
「 え え?? な なんだい 」
「 皆のタイミング どうやってわかるの? 」
「 ・・・ は?? 」
彼は 目をぱちくりさせているばかりだ。
「 だからね、どうやって知ったの? 」
「 な なにを?? 」
「 だから〜〜〜 皆のタイミング よ! 」
「 たいみんぐ? 」
「 そ! ジェットの下降速度とか アルベルトの切り替えとか
ピュンマの射撃速度とか ・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ 戦闘中の、ってこと? 」
「 そうです〜 」
「 でもどうして? 」
「 知りたいの。 タイミングって とて〜〜〜〜も大切なの。 」
「 そう思うけど・・・ なぜ 今? 」
「 ・・・ あの ね 」
やっと彼女は 詳しく話し始めた。
「 ・・・ ふ〜〜ん ・・・ そうなんだ? ・・・・
へえ ・・・ ああ それで ・・・ 」
「 そうなの! だからぜひ教えてほしいなって思って。
そのう・・・ コツとか 」
「 コツなんて ないよ。 きみはどうやってぼくのタイミングを
読むんだい? 戦闘中に さ。 」
「 それは ― ずっと一緒に闘っているから・・・ 」
「 だよ ね。 きみも同じなんじゃないかな。
ぼく、バレエのことは全然わかんないけど ・・・
皆で同じ動きをするんだろ? 」
「 ええ。 」
「 その時は 皆に溶け込んでみれば?
ぼくら 戦闘時は9人でひとつ、だしね。 」
「 ― !!! そ そうよ ね!!! 」
ぱあ〜〜〜っと 笑顔の華がひろがった。
「 あは ・・・ あのう ぼく、腹ペコなんだけどぉ 」
「 あ ごめんなさい! 手、洗ってウガイしてきて!
ふふふふ〜〜〜 今晩は 肉ジャガ です♪ 」
「 わお〜〜 やた〜〜〜〜 」
ジョーは スニーカーを脱ぐとぱたぱた・・・バスルームに
駆けていった。
ありがと ジョー ・・・ !
わたし 白鳥たち になれる わ!
Last updated : 01,28,2020.
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************ 途中ですが
こてこてバレエ物です〜〜 (>_<)
群舞 ( コールドバレエ ) ってね〜〜
それなりに大変なのですよん☆
ひとつだけウソ → < 序曲 > に
踊りはありません・・・ ごめん☆