『 ここに ― (1) ― 』
§ ある夏の日
み〜〜〜ん みんみんみん じ〜〜わ じ〜わ じ〜〜〜〜わ ・・・
今日も朝からセミの大合唱である。
この辺りは温暖な気候の地域なのだが 夏の盛りはやはり ― 暑い。
海辺に近いのでさわやかな海風が吹いてくるが、日中の暑さは時に < 警戒レベル > となる。
「 わ〜〜〜い こうえん こうえん 〜〜〜 ♪ 」
「 ・・・ こうえん 〜〜〜 」
「 ほらほら ・・・ よく見て。 車はこないかな〜〜 すぴか、ちゃんと右も左もみる。 」
「 は〜〜い お父さん。 みぎ〜〜 ひだり〜〜 みた! 」
「 よし。 くるまは? 」
「 いないよ〜〜 」
「 よし。 すばる? おい すばるもちゃんと見る! 」
「 お父さん 〜〜 みた。 」
「 よし。 くるまは? 」
「 僕のすきなくるま いない。 」
「 あのな、 好きじゃない車は? 」
「 いないよ。 」
「 よ よし ・・・ さあ それじゃ道を渡るぞ。 公園めざして〜〜 GO ! 」
「「 ご 〜〜〜 !! 」」
ジョーは左右に幼い我が子たちの手を引いて 海岸通りから少し山側に入った公園に
やってきた。
夏休み ― 仕事もなんとか休みがとれたので久し振りに子供達との <お出掛け>である。
今までも家族四人での お出掛け は何回もやっている。
特にこの公園は 双子が赤ちゃんのころからべビーカーに乗せて遊びにきている。
が 今日はジョーひとり。 背中にはマザーズリュックがぱんぱんになっているし
両手には彼の双子のムスコとムスメがひっついているのだ。
「 ― 本当に大丈夫? 」
今朝フランソワーズは ジョーのリュックに荷物を詰めつつ ・・・ 心配顔をしていた。
「 だ〜いじょうぶさあ〜〜 ぼくの育児能力をしらないのかい? 」
「 知ってます、 ジョーは最高のベビー・シッターさんで 最高のイクメン・パパよ。 」
「 なら 安心したまえ。 きみはレッスンとリハーサルに集中しろ、子供たちはぼくに任せて!
今までだって何回も ぼくはベビー・カー押して買い物とか散歩とか・・ やってきたじゃないか。」
ジョーは得意気に胸を張っている。
確かに ジョーは子供たちが赤ん坊の頃から沐浴だのオムツ替えだの ・・・ なんでもやってくれた。
いや そうしなければ 元気いっぱいの双子を育てることはできなかった。
「 そうね。 でもね ジョー ・・・ 」
「 なんだい。 」
「 ・・・ あのね。 あのコ達はもう ベビーさん じゃないのよ?
おとなしくベビー・カーに座ってもいないし、 ジョーの背中でねんねしていてもくれないの。
ちっこい二本のあんよで ― たかたかどこまでも歩いていっちゃうのよ? 」
「 カワイイじゃないか〜〜♪ ぼくは 009だぜ? 子供のお守りくらいできるさ。 」
「 そう? ・・・ それなら お願いします。 飲み物にオヤツもタオルも ・・・
そしてね、万が一の場合・・・ パンツも入れておくわね。 」
「 了解。 さすが003、 装備は万全だな。 」
「 もう ・・・ 真面目に聞いてよ? それでね、暑いようだったらお水を買い足してね。
ジュースはダメ。 あの子達はまだお茶は飲めないから ・・・ お水でいいの。 」
「 それも了解。 ほら、 すぐ近くにコンビニがあっただろう? あそこで補充するよ。 」
「 お願いします。 」
「 任せてくれたまえ。 あ ほら〜〜 バスの時間〜〜 」
「 あ ・・・ いけない。 それじゃ ・・・ お昼過ぎには帰ってきます。 」
「 急がなくていいよ。 晩御飯も任せろ。 ・・・っても カレーだけど・・・ 」
「 うわ〜〜〜 ジョーのカレー〜〜♪ 大好きよ〜〜 楽しみ〜〜 」
「 えへへへ ・・・あ 時間だってば〜 」
「 わ! ・・・ じゃあね ( ちゅ♪ ) かそくそ〜〜〜〜ち!! 」
ジョーの愛妻はひと言叫ぶと 玄関から駆け出していった。
「 ― 最後のひと言は ・・・ なんなんだ〜〜 」
― こうしてジョーの <子守の一日> が始まった のだが。
この公園は 結構広くて緑も多く、地域の子供たちがよく遊んでいる。
早朝にはラジオ体操があったり、近所の人々がジョギングをしたり ― なかなかの人気スポットなのだ。
「 二人とも〜〜 ちゃんと帽子を被っているんだよ〜〜 暑いからね〜 」
「「 は〜〜い 」」
「 え〜と ・・・ ぶらんこにのるかい。 今日は空いているね。 」
「 う〜〜ん アタシ! じゃんぐるじむ 〜〜〜〜!! 」
すぴかは 炎天下なんかへっちゃらで銀色に輝くジャングルジムに駆けていった。
「 そっか〜〜 すぴかはジャングルジムかあ。 すばるはどうする?
すばるもジャングルジムで遊ぶかい。 」
「 ・・・ 僕。 いい。 」
「 そうか? それじゃ ・・・ ブランコにするか。 」
「 ううん ・・・ いい。 」
「 それじゃ〜 あ すべり台があるぞ。 行こうか〜〜 」
「 ・・ 僕 いい 」
「 ? じゃあ すばるはなにがいいのかな。 鉄棒かな。 」
「 ううん。 僕 ・・・ おすなば。 」
「 へ? ・・・ ああ 砂場 かあ。 ・・・え〜と ・・・? あ 使用禁止だってさ。 」
「 しようきんし ? 」
「 使えません って。 修理でもしているんだろ。 じゃあ ・・・ あ 登り棒があるぞ!
はだしになっていいからさ、 やってみようよ。 」
「 僕 ・・・ いい。 すぴか 見てる。 」
「 え ・・・ ジャングルジムを見てるのかい。 」
「 うん。 お父さん、 すぴかのとこ いこ。 」
「 あ ああ うん。 ・・・ お〜い すぴか〜〜 」
ジョーは息子の手を引いて お転婆娘がよじ登っている銀色の山へ歩いていった。
「 あ おと〜さ〜〜ん〜〜〜 みてみてェ〜〜 アタシ てっぺん〜〜 」
「 うわ〜〜 すごいなあ すぴか。 暑くないかい。 」
「 へ〜〜き〜〜〜 てっぺんはすずしいも〜ん♪ 」
お転婆娘はジャングルジムのてっぺんに立ち ばんざいをしている。
「 お〜〜い すぴか! あぶないよ〜 ちゃんと掴まってろ! 」
「 へ〜きだも〜〜ん うわあ〜〜 すばる〜〜 ちっこ〜〜い 」
「 ・・・ ちっこく ないもん。 」
「 ちっこいも〜ん♪ ここまでおいで〜〜〜 だ 」
「 ! ぼ 僕も〜〜 」
ずっとジョーの手をぎっちり握っていた息子は もうぜんとダッシュしてジャングルジムに取り付き
― 一段目で脱落した。
「 ・・・ あ ・・・ おい、大丈夫かい すばる? 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
涙目になりつつも すばるはコシコシ ・・・ 打った膝を撫でている。
「 よかった。 しっかし暑いなあ ・・・ お〜〜い すぴか。 降りておいで。
ここは少し暑過ぎるから ― ほら、あっちの木の側のベンチに行こう。 」
「 え〜〜〜 てっぺん のがいい〜〜 」
「 降りておいで。 お水、 飲もうよ。 ね、 暑いから。 」
「 ・・・ わかった〜 」
すぴかはしぶしぶ降りてきた。
「 さあ ・・・ ほら ベンチに座って。 こっちの陰の方に座りなさい。 はい カップ 持って。
え〜と・・・ お水 お水・・・っと 」
ジョーは水筒を出すと トクトクトク ・・・ と子供達のカップに注いだ。
「 はい どうぞ? 」
「「 わ〜〜い 」」
こっくん こっくん こっくん ・・・ 二つのカップはすぐに空になった。
「 おと〜さん もっと 」
「 ・・・ もっと。 」
「 お そうか? それじゃ ・・・ 注ぎま〜す 」
「「 わ〜〜〜い 」」
― 水筒はすぐに軽くなってきて ジョーはしまった ・・・ と思った。
「 ・・・ マズったな。 公園に入る前にコンビニに寄る予定だったんだが ・・・
あ そうか。 すぴかのおしゃべりを聞きつつ歩いていてすっかり忘れたんだ。 」
「 おと〜さん〜〜 おみず、のんだ〜 」
「 おと〜さん〜〜 僕ものんだ〜 」
子供たちは汗びっしょりだけど 元気いっぱいだ。
「 そうか〜 ああ 二人ともちょっとおいで。 汗、 拭いておかないとね〜
タオル タオル・・・っと。 ああ これだな。 は〜いこっちおいで〜 」
ジョーはくるりん くるりん ・・・ 汗だらけの顔と頭を拭いてやった。
「 ・・・ むにゅ 〜〜ゥ・・・ 」
「 ぴひゃ〜〜 あは えへ うふ〜〜 」
「 はい、おしまい。 なあ 二人とも ちょっとおいで。 」
「「 は〜〜い 」」
すぴかとすばるはジョーの膝の前に寄ってきた。
「 あのね。 お父さんは そこのコンビニに行ってお水を買ってくる。 ほら 見えるだろう?
すぐ! だから ・・・ 二人はここのベンチでまっていられるかな〜〜〜 ? 」
「 アタシ ! できる! 」
すぐにすぴかが は〜い ! と手をあげた。
「 お〜 いいお返事だな〜 さすがお姉さんだね、すぴか。 」
「 えへへへ〜〜〜 」
「 ぼ! ぼくも! ・・・ きる! 」
すばるが慌てて姉と父の間に割り込んだ。
「 そうか〜〜 えらいぞ〜 すばる。 オトコはそうじゃなくちゃな〜 」
ジョーは娘と息子の頭を両手でくしゃり、と撫ぜた。
「 このベンチは木の陰になってて少し涼しいから ここで座って待っていなさい。
いいかい。 お父さんはすぐに帰ってくるから。 ここから出てはだめだよ。 」
「「 は〜〜〜い !! 」」
「 よし。 じゃあ大急ぎでぴゅ〜〜っと行ってしゅばっ!と帰ってくるからね。 」
「「 うん おとうさん 」」
双子は仲良く手を繋いで並んでベンチに座った。
ジョーは二人の帽子をしっかり被せなおし、 よいしょ・・っと深く座らせた。
「 行ってくるよ。 すぐ だからね。 」
「 ばいば〜〜い おとうさん〜〜 」
「 ・・・ ばいばい ・・・ 」
ジョーは子供達に手を振ると ― かなり本気の全力疾走で目と鼻の先のコンビニに向かった。
5分 ・・・ いや 3分だな。
・・・ 大丈夫、 レジは混んでないし ・・・
シュ ・・・・! ジョーは店に飛び込むと保冷の飲料水類の棚に直行した。
「 ・・・っと。 これこれ・・・ エ〇アンはあいつらも大好きだしな〜 二本、買っておくか・・・ 」
彼は2リットルのペットを二本、保冷棚から取り出しレジに向かおうと ・・・
「 ・・・ ん? どうしたんですか 」
店の隅っこで 老女がしきりに床をみつめてうろうろしていた。
「 ・・・ おばあさん? あの〜〜 なにか落としたのですか? 」
「 え?? あ ああ ・・・ あの カギを ・・・落としてしまって ・・・ 」
「 え〜〜 それは大変ですねえ。 どの辺で落としたんですか。 」
「 ・・・ え ええ ここでお財布を出した拍子に 転がり落ちて・・・ どこへいったのか ・・・ 」
ジョーはおばあさんが指す辺りをず〜〜っと眺めてみたが それらしいモノは落ちていない。
「 ないみたいですねえ〜 あ ・・・ 棚の下にでも入っちゃったのかなあ 」
ジョーはペット・ボトルを置くと 床に這い蹲った。
「 ああ お兄さん〜〜 そんなコトしないで・・・ 」
「 え〜〜 ・・・ あ! アレかなあ〜 う〜ん モップかなんか長い棒、ないかなあ〜 」
「 お客さま? どうしましたか〜 」
「 あ? 店員さん? あの、このおばあさんのカギがね ・・・ 」
結局店員さんに応援をしてもらって 二人がかりでカギの救出に大奮闘してしまった。
「 ・・・・ 〜〜っと! これ ですか、おばあさん。 」
「 あ 〜〜〜 そうです そうです ありがとうございます〜〜〜 」
「 あ よかった〜〜 」
なんとか < ミッション > は成功し ・・・ おばあさんと店員さんに大感謝されて ジョーは
ペット・ボトルを入れた袋を持ち上げた。 すこし、ぬるくなっている。
ん ・・・? あ ・・・ 結構時間、掛かっちゃったかなあ・・・
チビたち! ベンチにいるよ・・・な?
タ ・・・・! まさか、とは思うが ジョーは加速そ〜ち直前のスピードでコンビニを出た。
「 うわ ・・・ 暑〜〜〜! え!! 木陰が ・・・ 移動してるじゃないか!! 」
ちらり、と眺めた公園は太陽が動いてゆくにつれほとんどが炎天下になっていた。
「 ヤバ ・・・! すぴか すばる 〜〜〜!!! 」
― 時間は少し遡る。
ジリジリジリ ・・・ お日様はぐう〜〜んと強さを増してきた。
さっきまで涼しく二人を隠してくれた木の陰は ベンチより後ろの方に行ってしまった。
ぽと ぽと ぽと ・・・ ベンチの上に汗が水玉模様を描く。
お父さんは こんびに に入っていった。 それはしっかり見ていた。
で。 お父さんは こんびに から出てこない。 ずっと見ているのに。
ジリジリジリ ・・・ ぎっちり繋いだ手は二つとも汗でにゅるにゅるだ。
お帽子の下から汗がぼとぼと落ちてくる。 オシリの下も熱くなってきた。
もぞ もぞ もぞ ・・・ ちょびっと動いてみたけどベンチはどこも熱い。
「 あついよ〜 すぴか ・・・ あっち いこ〜 」
すばるは くいくい・・・っとすぴかの手をひっぱった。
「 ! だめだよ すばる! うごいちゃだめ って おとうさん、いった! 」
「 ・・・ うん ・・・ けど ・・・僕 あつい〜〜〜〜 」
「 アタシもあつい! けど おとうさん、ここにいなさい っていった! 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
お顔が熱い。 アタマも煮えそうな気分になってきた。
「 すばる ・・・ おかお まっか 〜 」
「 すぴかも まっか〜 」
「 ・・・ おとうさん ・・・ まだかな ・・・ 」
「 う ・・・っく ・・・ おとうさん〜〜〜 」
「 あ〜〜 すばる ないてる〜〜 」
「 ち ちがうもん! あせだもん〜〜 すぴかだって〜〜」
「 ・・・ アタシも ・・・ あせだもん ・・・ 」
二人ともお顔が汗だか涙だかハナミズだかよくわからないけど ぐちゃぐちゃになってきた。
アタマもぼう〜っとしてきて どうしたらいいのかわからない。
泣き声をあげることもできずに 二人は炎天下、ただただじ〜〜〜っとしていた。
お父さんの言いつけをしっかり守って ・・・
― その時
ガサ ・・・ッ !! すぐそばの草むらがゆれた。
ぴょ〜〜ん ・・・! 茶色の猫が二人の前に飛び出してきた。
「 ? あ〜〜〜 にゃんこ だあ〜〜 」
「 ・・・ ちゃいろ にゃんこ〜〜〜 」
ゴソゴソ ・・・・!! 反対側の草むらもゆれた。
タタタタ ・・・! 茶色毛に黒い縞がある犬が双子の前に駆け寄ってきた。
「 ! あ〜〜〜 わんこ だあ〜〜 」
「 ・・・ ちゃいろ・くろ わんこ〜〜 」
にゃ〜おう〜〜〜 !! わんわんわん!
茶色のにゃんこ と わんこ が双子の前に座ってしきりと鳴いたり吠えたりする。
全然知らないにゃんことわんこなのに、怖いカンジじゃない。
二匹は双子の側に来て一生懸命なくのだ。 じ〜〜っと二人を見詰めている、じ〜〜っと。
「 ??? な〜に〜〜 にゃんこ に わんこ 〜 」
「 コンニチワ〜 」
にゃ〜〜お!! にゃんこがすぴかの運動靴を ぱくっと銜えて引っ張った。
「 あれ ・・・ にゃんこ〜〜? 」
わんわんっ!! わんこもすばるの運動靴を そっと銜えて首を振る。
「 わんこ? 」
にゃ〜〜お にゃ〜〜! くぅ〜〜ん わん!
「「 あ ・・・ りゃりゃ・・?? 」」
双子はベンチから降りた。 にゃんこが先に立ち わんこが後から二人を押す。
すぴかもすばるも 不思議にどんどん引っ張られてゆく。
茶色毛の猫と犬は それぞれ子供たちを懸命に木陰にひっぱって行くのだった。
§ いつもお側に
ひた ひた ひた ― 足の裏に当たる感触は 悪くはない。
ただ いつもと絶対的に違うことがひとつ。 そう ― 熱く ないのだ。
彼は身を屈め周囲を注意深く窺った。
ここは どこだ?
?? なんだ アレ。 見たこと、 ないぞ?
・・・ けど ・・・ オアシスの中 みたいだ ・・・
くんくん ・・・ 注意深く空気を嗅いでみたが 怪しい臭いも気配もない。
彼はそのままそろそろと進む。 周囲に当面の敵はいない と思えた。
ふんふん ・・・ !? こ これは ・・・!
同じ匂いだ!!! 懐かしい 温かい あの匂い !
た ・・・・っ ! 彼は地を蹴って しかし密やかに ソレ に向かって突進した。
ぴん! 彼のレーダーが急を告げる。 ぱし! 彼は無敵の武器をむき出しにする。
ん?? ・・・ !! 大変だ! 緊急事態だ!
今 ! 今 お助けします!!! 姫様 〜〜〜〜
― ボクは 大地を蹴ると力いっぱいジャンプをした ― ! ボクの姫様にむかって !
ぴょ〜〜〜〜ん ・・・ !
ボクの名前 ― ボクの大切な姫様が下さった名前は トトメス。
ボクは暑い 熱い国の王宮の奥深い宮で生まれた。
7人兄弟の長男で お母さんはボクを お兄ちゃん と呼んでいた。
「 お兄ちゃん? 私たち一族は代々この宮のご主人様にお仕えしているの。
お父様は 王妃様の一番の護り猫なのよ。 お前はどなたの護り猫になるのかしらねえ 」
「 まもりねこ ? 」
「 そうです。 定められたご主人様に仕えて ・・・ そのご家族もお前がお護りするのですよ。」
「 ふうん ・・・ 」
「 お前はりっぱな耳と爪とシッポを持っているわ。 きっとよい護り猫になれますよ。 」
お母さんは目を細め ボクを舐めてくれたっけ。
「 おう、長男坊。 父さんと一緒にこい。 」
時々 お父さんはボクたち兄弟とお母さんが住んでいる部屋にやってくる。
「 あ お父さん! 」
「 さあ 狩りのやり方と敵を撃退する方法を教えてやるぞ。 髭を張れ。
爪はちゃんと磨いでいるだろうな? 」
「 はい! お父さん! 」
ボクは毎朝、念入りに手入れをしている爪を出してみせた。
「 ・・・ お〜〜 よし よし。 爪と髭の手入れは絶対に手を抜いてはいかん。
特にオレたち一族は 王族の方々をお護りせねばならんのだからな。 」
「 お父さんは どなたをお護りしているの? 」
「 王妃様だよ。 遠い異国から嫁いでいらした方だが それはそれはお美しくて
お優しい方だ。 ファラオ陛下もよい御方様を娶られたよ。 」
「 ふうん ・・・ あ この前いらした 空の色の瞳をした方? 」
「 おお そうだよ。 よく覚えていたな。 」
「 うん! と〜ってもきれいな方だった。 ボクたち兄弟を優しく撫でてくださったよ。 」
「 ほう それはよかった! 父さんは王妃様にどこまでもご一緒するのだ。 」
お父さんは ぴん!と左右に張ったたくさんの髭を 得意気に振っていた。
長い尻尾をくるりくるりと回し すっきり立った両の耳はどんな物音でも聞こえるんだって。
そして 鋭い牙と爪。 ぴかぴかに磨き上げておくことは 護り猫の責務でもあるんだって。
お父さん ・・・ カッコいいなあ〜〜〜
ボクもお父さんみたいな立派な護り猫になりたい!
ボクはお父さんにいつだって憧れの視線を送っていた。
ある日 ― あの方はやってきた。
ボクはちょうど兄弟たちと同じ籠に入って遊んでいた。
「 まあ〜〜 カワイイ! あ わたし ・・・ このコがいいわ、お母様。 」
ひょい。 細くて白い手が ボクを抱き上げた。
「 あら! ねえ お母様。 このコ、青い眼よ! 」
「 そう? そのコは お母様のユリアヌスの一番目の息子ですよ。 」
「 そうなの? コンニチワ ・・・ 猫さん。 わたし、 アンケセナーメンよ。
アナタは ・・・ そうね、 トトメス。 それに決めたわ。 」
トトメス。 それがボクが姫様から頂いた大切な名前。
ふんわり芳しい花の香りがして ボクに柔らかなほっぺがすりすりしてくれた。
うわ〜〜〜♪ なんていい匂いなんだ〜〜
ボクは自然に咽喉がゴロゴロと鳴ってしまった。
「 あら。 そのコも喜んでいるよね。 それじゃ ― そのコを姫に上げましょう。
ユリアヌス、 ミケーネ ・・・ いいかしら。 」
な〜〜〜お! ボクの父さんが王妃様の足元で大きく鳴いた。
父さんの隣で母さんもくるり くるり とシッポを回している。
「 そう ありがとう。 姫、そのコは姫の護り猫ですよ。 」
「 ありがとうございます、お母様。 あの ね。 このコは トトメス です。
ね〜〜〜 トトメス? 」
にゃ〜〜あ おぅ〜〜〜 ボクは自分でもびっくるするほど大きな返事をしてしまった。
「 さあ 今日から一緒よ。 わたしの部屋で暮しましょう。
あ でもね、 トトメスのお母さんや兄弟にいつだって会いにいっていいわよ。 」
「 ありがとうございます、 姫様 」
「 うふふ ・・・ ちゃんとお返事できるね。 賢い猫さんね、トトメスは。 」
姫様はにこにこ笑って くるりん・・・とボクの頭をなでてくださった。
「 にゃあ お〜〜〜う ・・・! 」 ボクは特別に大きな声でお礼を申し上げた。
その日から ボクは姫君の護り猫となり、一緒の宮で暮している。
もう一年くらい経ったので ボクは仔猫から立派な雄猫になった。
お父さんほどじゃないけど ・・・ ぴん!とはったお髭と鋭い爪と牙は 自慢なんだよ。
ボクの姫様は それはそれはカワイイ方なんだ。
父さんがお仕えしている王妃様はとても美しい方だけど、姫様はもっとカワイイ。
亜麻色の髪がくるくる・・・肩のところで跳ねていてキラキラ輝いている。
この国の空と同じ色の それでね、ボクと同じ色の、青い瞳がとてもきれいなんだ。
ボクはもう〜〜 大ファン。 いつでもどこへでもお供をしている。
「 トトメス〜〜 はい お水ね。 」
「 にゃ 〜〜〜 ぁ 」
「 北の泉から汲んで来て 氷室にいれておいたのよ。 ほら 冷たいでしょう? 」
「 にゃ♪ 」
姫様はご自分でボクの世話をしてくださる。 食事や水は全部姫様が用意してくださるんだ。
夜もね ボク専用の寝床じゃなくて ・・・ 姫様と一緒に寝るんだ。
毎晩 眠くなるまで姫様といろ〜んなお話をする。 勿論、ボクは警護を怠ったりしていない。
普通は食事や水やトイレ砂の世話は奴隷のヒトの役目なんだけど 姫様は全部ご自分でなさる。
ボクはだから片時も姫様のお側を離れずにいる。 お護りしているんだ。
「 ・・・ はい どうぞ? 」
ボク専用の御影石のボウルに透明な水がなみなみと満たされた。
この国は本当に空気まで熱いから 冷たい水ってとても貴重品なんだ。
「 ・・・ ね? おいしいでしょう? うふふ ・・・トトメスはいつも元気ね〜 」
「 にゃ〜〜〜 」
「 ねえ 今度 西の外れのオアシスまで遊びに行ってみない?
紅花の花園があるのですって。 」
「 にゃあ? 」
「 紅花ってね ・・・ え〜と、ほらこれ。 わたし、大好きでいつでも飾っているのだけど・・・
朝摘みの紅花を花束にしてお母様に差し上げようと思うの。 」
「 にゃ〜〜 ! 」
「 あら 賛成してくれるの? ありがとう〜〜 トトメス♪ 」
姫様はボクを抱き上げると ちゅ・・・っとハナの上にキスをしてくださった。
えへへへ ・・・ ボクの姫様はこの国で一番カワイイ♪
「 じゃ 行きましょう。 ばあやが来るとまた煩いから ・・・ 急いで出かけちゃうわ。
えっと ・・・サンダルを換えて・・・っと。 はい いいわ〜 」
ボクは簸璃玉のスダレの前で 姫様を待っていた。
「 待っててくれたの? ありがとう〜 トトメス。 ほら ・・・ いらっしゃい 」
「 にゃあ〜〜〜ん ・・・ 」
姫様の腕めがけ ボクはぽん・・・とジャンプした。
西のオアシスは とても広々としていて、沢山の潅木やら果樹が涼しい木陰を作っていた。
水路は縦横に走り、 中央には滾々と湧き出る泉もあった。
でもやっぱりちょっと遠くて、ボクはなんだか足元がふらふらしてしまう。
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 あら? 大丈夫、トトメス? 咽喉が乾いたのね ・・・ ほら ・・・ お飲み・・・ 」
姫様は泉の水を掬って ボクに飲ませてくださった。
あ ・・・・ おいしい〜〜〜 ・・・ 生き返ったなあ ・・・
「 ね? ここのお水は素晴しいでしょう? ちょっとお休みしましょうか。 」
姫様とボクは泉のそばの東屋に腰をかけた。
サワサワサワ ・・・ 涼しい風が通り 足元では涼しげな水が噴き上げている。
「 ふう〜〜 いい気持ち ・・・ ね ・・・? トトメス〜〜 ちょっと見ててくれる? 」
「 にゃ〜あ ? 」
姫様はボクを東屋の風が通る場所に座らせると 泉の脇の石畳に立った。
「 ねえ? 昨日 考えたの。 新しいステップよ? 」
「 ・・・?? 」
ひら ひら ひらり。 くる くる くるり。
― 姫様は 天使みたいに踊り始めたんだ ・・・!
「 ねえ ・・・ どうかしら。 これはねえ ・・・ 実りの神への感謝の舞なの。
穀物やらおいしい果物なんかを沢山 実らせてくださる神へ ・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
ボクは瞬きも忘れて じ〜〜っと姫様を見ていた。 ― すると
ピン! ボクの髭が揺れ、耳が立つ。
んんん?! なんだ!?
・・・ 誰か いる!
「 にゃあ〜〜〜お〜〜〜〜う!!! 」
ボクは鋭く威嚇の泣き声をあげ すた!っと姫様の前に飛び出した。
「 ?? あらら ・・・ どうしたの、トトメス? 」
「 にゃ〜〜!!! にゃあああ〜〜〜おぅ〜〜〜 !! 」
「 え・・・? 誰か いるの ・・・? 」
ボクが キ!っと一点を見詰めているので ようやく姫様も脚を止めた。
ガサ ― 潅木の茂みの陰から ひとりの若者が姿を現せた。
「 ― やあ ・・・ 邪魔をしてしまったかな ・・・ ごめん ・・・ 」
「 ・・・ まあ ・・・! 」
「 王宮の姫君 ですよね? 見事な舞でした。 」
青年はセピアの髪を揺らし ちょっと頬を染めて笑った。
爽やかな笑顔で優しそうだ。 黄金の腕輪が二の腕に煌き、腰に吊るした剣の鞘には輝石が
散りばめてある。
あ。 この方は ― 王族だ。 それもとても高貴な ・・・
「 ・・・・・・・ 」
ボクは爪をひっこめ 身体を低くして姫様の足元に座った。
「 まあ ・・・ 見ていらしたの? はずかしいわ ・・・ ねえ トトメス? 」
「 にゃ〜〜 」
「 いや 本当に素晴しい舞でした。 今朝はちょっと遠出した甲斐があったな。 」
「 若君様 ・・・ 」
「 また ・・・ お目にかかれますか 姫君。 」
「 ・・・ あ は はい ・・・ あの ・・・ トトメスも一緒で いいですか? 」
「 ああ この賢い護り猫さんのことだね? 勿論だよ。 」
この方は ― 姫様の 運命の相手 だ! ボクはピン!ときた。
「 にゃあ〜〜〜 ・・・ 」
姫様の脚を ボクはちょんちょん・・・と突いた。
「 え なあに トトメス? 」
「 にゃ 〜〜〜〜〜 ! 」
するり ― ボクは姫様の腕をかわして 若君の足元に駆けてゆく。
「 トトメス ・・・だっけ? おお 立派な猫だね。 名前に相応しい・・・ 」
若君は ひょい、とボクを抱き上げた。
「 わたしの護り猫です。 でもね、 一番のお友達なの。 」
「 そうですか。 僕の宮にも猫がいますよ。 是非 遊びにいらしてください。 」
「 まあ ありがとうございます。 」
「 ふふ ・・・ 紅花がとてもよくお似合いになる ・・・ 美しい姫君 ・・・ 」
「 ・・・ え ・・・? 」
え〜〜〜い じれったい! 二人とも一目惚れしたクセに!
「 にゃ 〜〜 にゃ〜〜 にゃ〜〜〜 」
ボクは若君の腕の中で わざと派手に鳴いてみせた。
「 あ・・・ ごめん、僕じゃイヤなのかな。 ・・・ 姫君にお返しします。 」
「 どうしたの、トトメス? お利口さんのアナタがこんなに騒ぐなんて ・・・ 」
姫様は本気で心配そうに ボクへ手を差し伸べてくださる。
「 いらっしゃい あ ・・・! 」
ぽん ・・・! タッチの差でボクは若君の腕から石畳へと飛び降りた。
「 おっと ・・・ わわわ ・・・ 」
「 きゃ ・・・ 」
若い二人の手が触れ合った。
「 ! こ これは失礼しました 姫君 」
「 い いえ ・・・ わたしこそ ・・・ あの あの ・・・ 失礼します。
トトメス 戻りますよ 」
姫様はむんず!とボクを抱き上げると たたたた・・・と駆け出したしまった。
あ〜あ ・・・ もう〜〜〜 姫様ったらぁ
あの若君の目! 姫様に釘付けですよぉ〜〜
それでもって姫様だって 若君のことしか見てなかったでしょ〜?
「 ・・・ や ・・・ やだ ・・・ もう〜〜 」
「 にゃ 〜〜〜 ぉ ? 」
「 やだ トトメスったら ・・・ でも ステキな方だったわね! 」
「 にゃあ! 」
「 あら お前もそう思うの? どちらの宮の若君かしら ・・・ 」
姫様のほっぺは真っ赤 ・・・ 走っているから じゃあないもんね。
やれやれ ・・・ 世話の焼ける二人だなあ〜
ボクは姫様の腕の中でこっそり溜息をついた。
― で もって。
へへへ ・・・ ボクのカンは大当たり〜〜♪
その年の内に 姫様とあの若君とのご婚礼がとり行われた。
それでね! なんと ― あの茶髪の若者は 次期のファラオ陛下だったんだ。
つまり。 ボクの姫様はこの国の次の王妃様ってわけ。
ご婚礼の時には ボクもキラキラ輝石をちりばめた首輪を賜り、新しいご夫妻の足元に
王妃様の護り猫として きり! っと座っていた。
若君、 いや 新しいファラオ陛下は本当にいい方だった。
ボクは姫様が今まで以上に 幸せな微笑みでいっぱいなのを見てとても嬉しかった。
それと ね。 ボク自身も・・・えへ。
「 なあ トトメス? お前に是非紹介したいコがいるんだけど。 」
「 にゃあ? 」
ある日 ファラオ陛下がボクを手招きした。
「 僕の宮にいるコなんだ ― 美人でカワイイよ。 会ってみるかい。 」
「 にゃ! 」
「 そうか! よ〜し ・・・ ちょっと待ってておくれ。 」
・・・ それで ね。 ボクは イシス と巡り合ったんだ。
「 は 初めまして。 ボク トトメス です! 」
「 ・・・ こんにちは。 アタシはイシス。 」
彼女は きらきら輝く金色の瞳をもちしなやかな身体と長いしっぽの ― 美人だ!
「 やあ どうだい、トトメス。 気に入ってくれたかな。 」
ファラオ陛下は 笑ってボクのアタマを撫でた。
「 にゃあ〜〜〜〜 お! 」
ぼくは 力強く返事をし ― 隣にいたイシスはまっかになって俯いた。
「 陛下! 是非彼女を ― 」
「 お似合いのカップルだね。 イシス? ・・・ この立派な護り猫さんの
お嫁さんになるかい ? 」
「 ! にゃ 〜〜〜あ! 」
イシスがね ものすごく大きな声で返事をした。
うわあ〜〜 嬉しいなあ 〜〜 ボクも一緒にひと声 鳴いて二人で合唱しちゃった。
「 おお いいな。 お前たちも相思相愛ってわけだ。
ふふふ ・・・ ぼくとアンケセナーメンと同じだね 」
ファラオ陛下はとてもとても嬉しそうに笑っていらした。
あは♪ み〜んな 幸せなんだ〜〜 ボクはとってもとっても嬉しかった。
― そして その秋。 ボクはね、 3匹の仔猫の父さんになった♪
ファラオ陛下もボクの姫様も。 そして ボクの家族も ― 皆幸せ ・・・ だと思っていたんだ。
この宮の人々も 王宮に仕える人々も この国の人々も 皆幸せ と思っていた。
けど。 そうじゃなかった。 そうじゃなかったんだ。
姫様の背の君、ジョー様がファラオ陛下として即位なさってから しばらくは平和な日々だった。
若いファラオ様と可愛い王妃様は 王宮中を明るく陽気にした。
ファラオ様は政 ( まつりごと ) にお忙しかったけど、 ヒマをみつけては王妃様とご一緒に
あちこちのオアシスにお出掛けなさるのだ。
もちろん! ボクもお供する。 うん。 ボクの奥さん、イシスも一緒だよ。
皆で笑って 遊んで ・・・ 熱い砂の国はとてもステキだった ・・・
けど。 だんだんと周りは変わっていったんだ。
ファラオ陛下のちょっとしてご病気から始まって ― 黒い噂があちこちから滲みでてきた。
「 にゃお 〜〜!!! 」
ボクは必死になって邪気の鬼を払ってた。 イシスも手伝ってくれたよ。
「 トトメス ・・・ どこ? 」
「 はい 姫様 ここに! 」
ボクはさ・・・っと姫様のお側に駆け寄った。
「 ・・・ ああ ここにいてくれたの ・・・ 嬉しいわ トトメス ・・・
もう信じられるのは お前とばあやだけ ・・・ お母様の宮から一緒に来た者たちだけに
なってしまったわ ・・・ 」
姫様 〜〜 姫様! あんなに幸せの微笑みに輝いていたボクの姫様が。
辛そうに 涙を流されている。
「 にゃ ・・・・ 」
ボクはさ・・・っとお膝に乗って姫様の頬に伝う涙を舐めるんだ。
「 ・・・あ ・・・ ありがとう ・・・ トトメス 」
「 姫様 ! ボクがお護りいたします!! 」
「 ・・・ トトメス ・・・ 」
けど。 それもついに ― できなくなってしまった。
ボクは 今 ・・・ 死の床にいる。
「 ・・・ トトメス ・・・ 大丈夫? トトメス ・・・ 」
泣きそうな声が ボクを呼ぶ ・・・
「 ・・・ にゃ ・・・・? 」
熱にうかされ傷はずきずき痛んだけれど ボクはうっすら目を開けてみた。
「 あ! トトメス 〜〜〜 やっと目がさめたのね ・・・ 」
「 ・・・ にゃ ぁ ・・・ 」
「 お薬よ ・・・ 飲める? 侍医に特別に調合させたの。 傷薬も換えましょうね。 」
「 ・・・ にゃ ・・・・ 」
姫様はボクの口元につるん、としたモノを入れてくれた。 冷たくておいしい ・・・
「 あ ・・・ 飲んでくれた? お薬をイチジクの実で包んで・・・ 冷しておいたの。
ねえ? ちょっと沁みるけど ・・・ 我慢して? 」
「 ・・・ にゃ・・・ ぅ ・・・・ 」
姫様はとてもとても そう〜〜っとボクの傷を覆っている薬を換えてくださった。
・・・ でも その痛みにボクは思わず呻いてしまった。
ボクは刺客の放った剣から 姫様を護った。 ― ボクの身体で剣を叩き落としたんだ。
でも 大きな傷を負ってしまった・・・
「 これでいいわ。 トトメス ・・・ 」
白い手がふんわりふんわりボクを撫でてくださる。
ああ 姫様 ・・・ ごめんなさい。 ボク ・・・ もう ・・・
「 トトメス ・・・ 早く元気になって・・・ ジョーもとても心配しているわ。
王妃を護った勇者が側にいないとな〜〜って ・・・ 」
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 ジョーも ・・・ 体調が思わしくないの。 トトメス お願い、元気になって・・・ 」
「 ・・・ な〜ぉ ・・・ ごめんなさい、姫様 ・・・ 」
大きな声でお返事したいのに ・・・ 声が もうでない。 ああ 身体中からチカラが抜けてゆく。
姫様。 ボクは ずっとお護りします!
未来永劫 ・・・ 姫様と一緒です。
いつも一緒にいます ・・・
・・・ いつも ・・・ お側に ・・・
「 ?? トトメス? どうしたの? しっかりして! トトメス!? 」
「 ・・・ に ぃ ・・・・ 」
ボクは静かに目を閉じた。 大丈夫 ・・・ 魂は永遠にお側に・・・!
・・・ ながい ながい 眠りから なにかがボクを呼んだ。 なんだ??
ぎらぎらの陽射しの下で 小さな子供が二人、固まっていた。
女の子は ― ボクの姫様にそっくりで ・・・ 同じ匂いがした。
うん! このコたちは絶対に姫様の家族なんだ。
「 あ ちゃいろにゃんこだあ〜〜 うわ〜い 」
「 ・・・ にゃんこ ・・・ にゃ〜 ・・・ 」
ちっこい姫様はボクに手を伸ばす。 ・・・ そうです、姫様 ・・・こちらへ!!
ボクはもう必死で小さい姫様と坊やを 木陰に連れてゆこうとしていた。
§ いつまでも側に
フンフンフン ・・・ この匂いは!
彼はますます嗅覚を研ぎ澄まし、そしてぴん!と耳を立てた。
不意に − 意識の中にとても馴染んだ匂いが飛び込んできた
ここは ・・・ どこなんだろう?
・・・ あ! この空気は ・・・ 知ってる! うん 海が近いんだ。
よく ご主人様と散歩した海岸と 同じ匂いだ!
フンフン ・・・ 注意深く周囲を嗅いでみたけれど敵の存在は感じない。
彼はひたひたと陰を拾って歩き出した。 なにかが ・・・ 彼を惹き付ける。
クンクン ・・・ あ! これは!!!
そうだよ、忘れるもんか! ご主人様の匂いだよ!
シュタッ ・・・! 彼は地を蹴り 疾走して ソレ に向かっていった。
ぴん! アラート・シグナルがアタマの中でさかんに点滅している。
SOS だ! 助けを呼んでいる ・・・!
今 ! 今 参ります、ご主人さま −−−−− !
― 僕は 大地を蹴って草むらから飛び出した ! 僕のご主人様の元へ !
シュ −−−−− ・・・!
Last updated
: 08,20,2013. index / next
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え〜〜 < トトメス > については〜〜
拙作 『 熱砂の都 』 『 愛の奥津城 』 を
ご参照くださいませ〜
あのコ と あのコ のお話 であります♪