『 かく語りき ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

俺様は 猫である。

名は ―  う〜ん いっぱいあってなあ ・・・  

そうさな一番気に入ってるのは   虎の介   だ。

 

俺達 猫族の寿命はニンゲンなんぞには信じられんほど長いんだ。

え?  猫なんて長寿でせいぜい20年だろって?

 

    は!  と〜んでもないぜ。

 

俺らは一回の 猫生 を終えると、とっとと虹の橋を渡る。

そんでもって 猫神様の元でちょいと休憩するんだ。

の〜〜んびりしてるヤツもいるし さっさと済ませるヤツもいる。

それは 俺らの自由だぜ。

そんでもって  新しい毛皮 に着替えるんだ。

 

      では 新しい猫生を生きておいで

 

神様に 尻をぽんぽん・・・ってしてもらって ― 地上にもどる。

 

これをさ 何回も何回も繰り返す。

俺様なんか もう・・・ひ〜 ふ〜 み〜〜・・・ 両手の指じゃ

数えらんないぜ。

そりゃ さ。 しんどくて苦しい猫生 もあったさ。

事故に遭って 仔にゃんのまま・・・ってこともある。

でもよ、さ・・・っいこうにシアワセ! って経験もあるんだぜ?

長生きってことじゃないんだ。  短い猫生でもめっちゃ充実してたりも する。

 

 え?  俺自身のこと?   拘り・・・ かあ・・・

 

あ〜 俺は一応 いつも茶トラ縞々毛皮を選ぶんだ、カギ尻尾とね。

知ってるかい? 幸運を引き寄せるカギ尻尾 って

猫好きのニンゲン達は 珍重して大事にしてくれるんだぜ。

茶トラっても 全身縞々の時も 白茶の茶トラ や ハチ割れ茶縞 とか

いろいろ さ。  その時の気分で選んでる。

まあ これは単なる 個人的趣向 ってヤツ。

 

 ― ああ それじゃ 俺様が 虎の介 って呼ばれてた時のこと、

ちょっくら話そうか。

 

 

今まで いろんなウチにいたけどなあ ・・・

一番印象的なのは アソコなんだよ、 うん。 

若い夫婦と双子がいたんだ。 ニンゲンにもふたごっているんだな〜

猫族は 5つ子 とか普通だけどさ。

そこんちのちびっこ達、俺達と同じでやっぱ毛色がちがっててさ 

メスとオスだったね。

金色毛の姉貴と 茶色毛の弟さ。

なかなか可愛い顔してて ま〜〜 元気いっぱいだった。

 

 ― そこの夫婦が さ。   あれ ニンゲン かなあ ・・・

 

いや とっても優しかったぜ 俺のこと、拾ってくれて

ちゃんと世話して可愛がってくれた うん いいヤツらだった。

 けど・・・  手とか違う味がしてさ ふつ〜のニンゲンとは ね。

俺は 仔にゃん だったからふざけて噛みついたり 引っ掻いたりしたけど・・・

指とか手の味が ど〜もヘンなのさ。 特にダンナの方が。

固いっていうか こう・・・ なんか感触がちがう。

オクサンは ふつ〜に洗濯モノやら料理の匂いがして・・・

 でもさ やっぱちょいと味がちがってた。

なんなんだろうなあ〜?  あんなの、初めてだった。

ああ 毛色違いのチビ達は どこにでもいるガキんちょさ。

ちっこい手はねばねばした飴やらチョコやらミルクやら 時に泥の味がするんだ

俺も仔にゃんの時には 一緒くたになって遊んで 同じ毛布に包まって

昼寝したりしてた・・・ いい日々だったなあ・・・

 

そうそう  そもそもあのウチに行ったのは ―

 

 ・・・あん時は ついてない猫生で ・・・ まだ仔にゃんの俺は

海岸に近い田舎町を ふらふら・・・ 歩いてたんだ。

あの日 ― 朝からなんも食べてなくて腹ぺこで オマケに雨まで降ってて

 

    あ〜  ・・・ 今回 これで終わり かなあ

 

俺は 道路脇にへたりこんでいたんだ。  そしたら ―

 

「 !  おか〜〜さん!  ねこさんが いる!  」

「 ? あ ねこさん・・・ ねえ ぬれてるよ ふるえてるよ! 」

 

  キキキ ・・・。  俺の脇で車がとまった。

 

    ・・・ やば・・・ 逃げなくちゃ・・

 

必死で身体を起こそうとしたけど もう無理だった。

  みゃ ・・・  鳴きたかったけど 声もでなかった。

 

「 おと〜さん ねえ ねこさん たすけて! 」

「 ねこさん ・・・ 僕 あっためてあげる! 」

きんきん声が炸裂し ちっこい手が俺様をそ〜〜っと抱き上げた。

 

    !  ガキかよ〜〜〜  に にげなくちゃ・・・

 

俺は必死に手足をうごかしもがいた。

なんとかこのちっこい手から脱出しなきゃ・・・と焦った。

最後のチカラを振り絞り、 噛みつくんだ! と決心したとき ―

 

「 うわ・・・ 小さいなあ〜〜 」

 

ゆったり温かい声がして 大きな手がひょい、と俺様を抱き上げてくれた。

ほわり。 俺は優しい雰囲気と一緒に温かい手に包まれた。

 

 で さ。   俺、遠のく意識の中で ふ・・っと思ったさ

 

     あれ  この匂い 知ってるぜ? 

 

「 まあ 可哀想に・・・  ジョー これで包んであげて 」

またまた優しい声がして 俺はふんわり温かい毛布でくるまれた。

そこで 俺の記憶は途切れちまった。

 

     あ ・・・ ああ ・・・

     ・・・ 今回はこれで 虹の橋 かあ・・・

 

     みっじけ〜一生だった なあ・・・

 

 

「 ・・・ うみゃ・・・? 」

次に気が付いたとき 俺様はふかふかあったかいモノの中に いた。

      

     ・・・ はあ・・・ 虹の橋、渡っちまったか・・・

     雲のクッションの中 だな ・・・ここは

 

      ・・・ ん ???

 

「 おと〜さん!!  ねこちゃん、お目目 開けたよ〜〜 」

「 え どれどれえ? すばる、アタシにもみせてよっ 」

「 こらこら・・・騒がない。  そっとしておやり 」

なんとか眼をこじ開けてみると ―

 

       おわ???

 

あの毛色違いのチビっこ達が 俺様のすぐそばにいた。

俺は ・・・ なんとふかふかの毛布に包まれてたんだ。

 

     あれ ・・・ 生きてる・・・?

     生きてる!  にゃ〜〜

 

「 あ 鳴いたよ 鳴いた〜〜 ねえ にゃあ〜 って! 」

「 ねえねえ だっこしていい? 僕 あっためてあげるから〜〜 」

「 そんな急に触ったらだめよ。 ねこさん、まだ弱ってるの。

 栄養のあるごはんをあげて そっとしておかなくちゃ 」

「 えいようのあるごはん?  ・・・ あ! 牛乳は!?

 ねこちゃ〜〜ん アタシの牛乳 あげる! 」

「 ぼ 僕のぎうにうも!  ねこちゃん・・・ 」

 

俺は毛布に包まれてちっちゃな籠の中に入れてもらってたんだけど

その周りで まあ・・・あのチビっこ共が大騒ぎさ。

 

    やば・・・ やたらと触られるとなあ・・・

    シッポ や 耳、 引っ張られたら ・・・

 

    今の俺は 抵抗できないし。

 

やっべ〜〜と思って でもなんとか身構えてたんだ。

一発だけでも 猫ぱんち 喰らわす!ってな

仔にゃんだって 甘くみんな〜〜〜  しゃ〜〜 ・・・

 

   ― でも。

 

「 だめだよ。 すぴか すばる、 お前たちだって

具合の悪い時に 側でさわがれたらイヤだろう? 」

穏やかな声が チビ達を止めた。

「 ・・・ あ ・・・ うん ・・・ 」

「 ねこさん ・・・ ぐあい わるいの? おと〜さん 」

キンキン声は突如 ひそひそ話にかわった。

「 ゆっくり寝かせて あったかい猫さん用のミルクをあげて。

 それから病院につれていってくる。 

「 え  やまだいいん?  ヤマダ先生、ねこさん なおしてくれる? 」

「 いや 猫さんは猫さん専門の病院さ。

 商店街の先に タナカ動物病院 があるだろう? 」

「 僕 しってる!  あそこね タナカくんのおと〜さんと

 おか〜さんのびょういん なんだよ 」

「 へえ すばるのトモダチの家か。 

 フラン〜〜 これから ちょっと連れていってくる。 」

「 ええ お願いね。 ついでに仔猫用ミルク、買ってきてね。 」

「 ・・・ おか〜さん このねこさん ウチにいていい ・・・? 」

「 おと〜さん ・・・ いい? 」

「 とにかく元気にならないと な。 」

 

     あ ・・・ とりあえず大丈夫 か・・・

 

俺は ほっとして ― また す〜〜〜っと気が遠くなってしまったさ。

 

まあ そんなこんなで 俺はその家の猫にしてもらえた。

病院では ぶっとい注射もされたけど ( ワクチン とかいうらしい )

病気持ちじゃないってお墨付きももらえた。

 

そんでもって  虎の介  って名前になった。

これはさ 例の茶色毛のチビがつけてくれたんだ。

「 おなまえはぁ〜〜  ・・・・ と ら の す け。 」

「 とらのすけ??  へん〜〜〜〜

 まいける とか あれきさんだ〜 にしようよ〜〜 」

 

金色毛のアネキは暴君だったけど すんごく弟を可愛いがってたぜ。

うん これも俺ら猫族と同じだな。

一番上のアネキ猫 は 兄弟みんなを舐めたり遊んだりしてくれるもんさ。

 

「 と ら の す け。  ね〜〜 とらのすけ?

 このお名前が いいよね〜 

 

茶色毛の坊主は 俺のアタマをそう・・・っと撫でて

顔を覗きこむ。

 

     わあ コイツ、かわいいなあ〜

     目も茶色じゃんか

 

     ふうん・・・

 

     とらのすけ・・・かあ 

     なんかかっこいいじゃん?

 

     ふっふっふ〜〜〜

     俺様の今度の名は とらのすけ!

 

俺はおおいに気に入った。 そのしるしに大きく鳴いた。

 

「 みゃああ〜〜〜 」

 

「 ね! とらのすけ がいいって。 きまり〜〜 」

「 う〜〜む〜〜〜 猫さんの希望は ゆうせんしなくちゃな〜〜

 うん いいよ。 このコ とらのすけ。

 アタシとすばるの弟 だよ 」

「 わ〜〜〜 すぴか〜〜〜 

 えへへ・・・ とらのすけ? なかよし しよ〜ね〜 」

 

 ほわん。 茶色毛のチビはそ・・っと俺様にほっぺをくっつけた。

 

      あったかい ・・・

      ・・・ 心もあったかいや コイツ・・・

 

「 みゃあ〜〜 」

俺はチビのまん丸なほっぺを舐めた。

「 うひゃ・・・  とらのすけ〜〜〜  うふふ 」

「 あ  いいな〜〜 とらのすけ〜〜 アタシにもちゅ〜して 」

金色毛のアネキも ほっぺを寄せてきた。

「 ・・・ みゃ 」

  ぽふ。  すべすべのほっぺに 俺はそっと前足を当てた。

「 ・・・ きゃあ ・・・ ほわほわだあ〜〜 ・・・ 

 とらのすけ。  アタシたちの弟だよ〜〜ん 

 

この日から 俺はこの家族の一員になった。

 

あ  あとなあ  白い髭のじい様もいたな〜

部屋に籠ってることが多いじい様だったけど いいヒトだった。

 

「 おお 仔猫か。  ワシもなあ コドモの頃、家に猫がいたよ 」

「 へえ〜〜 そうなんですか?? 」

「 まあ どんな猫さんですの? 」

チビ達よりも 親たちの方が驚いていたぜ。   どうしてかね??

このじい様も 俺のこと、優しく撫でたり気持ちいい籠ベッドを

作ってくれたりもした・・・穏やかなヒトだった。

仔猫の俺は 美味しいメシをもらいあったかいベッドで寝て

もりもり元気になっていった。

 

そして 元気になれば家中を探検したり 時には庭とかにも

出してもらって  ―  気がついたんだ。

 

     ・・・ あ。

 

     俺 ここ  知ってるな

     前の前の猫生んとき 来たぜ

     うん ・・・ 何回か遊びにきたんだ 

 

     家の形とかは違うけど・・・

     俺 この庭 覚えてるもんな。

 

ってね。 そうなんだ。 そうなんだよ。

 ― だからあの < おと〜さん > って茶色毛のオトナ、 

知ってる・・・って思ったのさ。

 

 

  ―  あの時 ( この前の前の猫生だったけど )

 

俺は コズミって学者サンちのコだった。

チビっちゃい頃に貰われてきて なんか大事にしてもらってた。

隣の家がさ < 茶道師範 > ってとこで

そこにいた可愛いメス猫とすぐにいい仲になったさ。

も〜〜さ〜〜 かっわいい三毛猫でさあ 俺 ぞっこん。

あっちも  あなた すてきね  なんて言ってくれてさ〜〜〜

可愛い仔猫もいっぱい生まれた。

アイツはいい母猫で 子育て上手。 俺もちゃんと子守りしたぜ。

そんなある日 コズミ先生が言ったんだ。

 

「 トラや。 ちょいと来ておくれ 

「 にゃあ? 」

「 うん・・・ワシの友人のところの若い坊主がなあ

 大事にしてたワンコウを亡くして落ち込んでいるのじゃ。

 トラ、 慰めてやってくれるかい? 」

「 にゃあ! 」

俺は先生の肩に乗って お出かけした。

なんかすっげ〜坂を上って  コズミ先生は見かけによらず健脚で

ほいほい歩いていったっけ・・・

 

    すっげ〜な〜〜〜 せいせい・・・

 

俺は肩の上から感心して眺めてた。

 

「 こんにちは  おられるかな 

「 はあい  コズミ先生 ようこそ! 」

玄関の前で先生が声をかけると すぐに中から返事が聞こえて

 

  かちゃ。     金色の髪のめっちゃキレイな女の子がでてきた。

 

あのコ・・・ 今のここんちの < おか〜さん > と

よく似てる。 でももっと若いかんじだったぜ?

う〜ん・・・ あのコ、オトナになって < おか〜さん >に

なったのかなあ   そのへん、俺にはよくわかんねえな。

 

  けど。  あの時 出会った 少年  は   さ。

 

「 お邪魔してもよろしいですかな 」

「 どうぞ どうぞ〜〜  あら 可愛いお供さんが 」

「 はいな。 これはトラといいましてね ウチの家族です。 」

「 まあ トラさん。 ようこそ〜 さあおあがりくださいね

 あ トラさん。 ミルクで 大丈夫ですか 」

「 ありがとう、ご馳走になりますよ  あ ギルモア君は 」

「 今 呼びますね。 」

「 お願いします。 ・・・ 時に 彼は 

「 ええ   あの・・・ 」

「 ははあ あそこ ですか 」

「 はい ・・・ 」

「 このトラが お相手できるかもしれません

 なあ トラ? 頼めるかい。 」

「 ・・・ にゃあ? 

「 最愛の相棒を亡くした少年がおってなあ ・・・

 トラ お前、慰めてやれるかな 」

「 にゃ〜〜あ 」

「 おお そうか そうか ・・・

 お嬢さん トラに任せていただけますか 」

「 トラさん ・・・ お願いします。

 ねえ トラさん。 彼はとても落ち込んでいるの。

 どうぞ側にいてあげてくれますか 

 

青い瞳が じ〜〜っと俺を見つめた。

くりん。 白い手が俺のアタマをそっと撫でてくれた。

 

   ・・・ う わ〜〜〜 

   ふるいつきたくなりそ〜な 美メスだぜ!   

 

俺、 ウチのカミさんにちょいと後ろめたい気分にすらなったっけ。

だから 俺、胸を張って答えたよ。

「 にゃあ。 ( 任せてください ) 」

「 お願いします。  あのね あそこ・・・

 花壇の端っこ のところ。 あそこに彼がいるのよ 」

「 にゃ! ( 了解! ) 」

 

   とととと ととと ・・・  

 

俺は広い庭を横切って行った。

ぴん!っと尻尾を上げて な。   俺様に任せとけ!

 

「 ? にゃ ・・・ ( あそこかあ ) 

奥まったトコに 花がたくさん植えてある一画がみえた。

その中に 白い石が置いてあって その前に少年が座り込んでいたんだ。

「 ・・・・ 」

始め、彼は寝てるのかな〜って見えたよ。

でも ちがってた。

「 ・・・ ねえ ぼく ここにいるから。 

さみしくないよね ・・・ ねえ クビクロ 

茶色毛の少年は ぶつぶつ喋ってたんだ。

 

   ・・・?   にゃんだ コイツ。

   誰としゃべってんだ?

 

「 にゃああ〜〜〜〜 」

俺は わざと大きく一声。 これは挨拶さ。 

「 ・・・? 」

茶色毛はやっとこっち 見た。

「 ・・・ ああ 猫さんだ・・・ おいで? 」

「 にああああ〜〜〜  」

初めて会うヤツだったけど 全然イヤな感じがない。

俺は安心して 彼の側の寄っていった。

「 おいで ・・・ ほら よしよし・・・ 」

「 に あ〜 」

少年はさ 俺のアタマの後ろを そ・・・っと撫でた。

 

    あの なあ。

    俺 猫なんだ。  それ ワンコウ用だぜ?

    俺らは わしゃわしゃ〜〜〜って やってくれよ?

 

「 ふふ・・・ あったかいね ・・・ 」

「 に〜あ 」

俺、彼の手にぴた・・っと顔を寄せたんだ。  その時 ―

 

    ・・・?  あ  れ・・・

    なんか ちょこっと ・・・ ヘン?

 

    コイツ ちがう匂いがするぜ?

    ニンゲン ・・・ かなあ・・・

 

「 ふわふわだねえ ・・・  クビクロもね チビの頃は

 こんな感じにふわふわだったんだ ・・・ 」

 

 ぱた ぱた ぱた ・・・  俺の顔に なんか水滴が落ちてきたさ。

 

「 にゃあ・・・ 

俺は そいつの手をそうっと舐めてやった。

あったかい おっきな手 だったんだ    けど。

 

    あ  れ ・・・?

    ・・・ こいつの前足 

    なんか味 ・・・ ちがう ・・・

 

    ちがう けど。 あったかなあ・・・

    あれれ・・・ また なんか水だ?

    あ〜〜  これ 涙だぜ

    なんでこんなに涙 落とすんだい?

 

    ねえ ・・・?

 

ぺろり ぺろりん。  

俺 彼の膝にあがって ほっぺ、舐めてやったさ。

 

「 う ひゃ・・・  ありがと ・・・ 

 ああ 温かいなあ ・・・ あは ・・・

 ・・・ こんなふうに舐めてくれたんだ・・・

 おはよう〜って いうと飛び付いてきてさ ・・・」 

 

   ぱたぱたぱたぱた ・・・・

 

ありゃあ〜〜 止まるどころか涙の雨になっちまった。

彼の切れ切れの言葉を 俺は一生懸命、聞いてやった。

 

そして わかったんだ。

あの白い石はわん公の墓 なんだって。

彼がと〜っても可愛がってて あいぼう だったわん公が眠ってる。

でもさ それ以上は話してくんないんだ。

ただ ただ 俺を撫でて ― 彼は一人、涙を落としてた。

 

「 にゃああ〜ん ( 元気だせよ〜〜 オスだろ? ) 」

「 ・・・ うん ありがとう ・・・ 」

「 にゃんにゃんにゃ〜〜 ( なあ あの美人メス、お前のカノジョ?

 すっげ〜〜〜 美人じゃんか ) 」

「 ・・・ そうだね  ううん カノジョなんてとても とても・・・

 うん  綺麗なヒトだろ 」

「 にゃああ〜〜〜 にゃ ( おい! しっかりしろよ〜

 押せ押せでカノジョにしちまえよ ) 

「 ・・・ え ・・・ でも 」

「 にゃにゃにゃ〜〜〜〜 ( でも じゃねえよ!

 お前もオス猫なら いけ〜〜〜 ) 

「 あは ・・・ 元気だねえ 猫さんは・・・

 どこから来たのかい  ウチはあるの? 」

 

「 お〜 トラ、 ここにお邪魔してたのかい 」

 

コズミ先生が 庭下駄を鳴らしてやってきた。

「 にゃ! にゃああ〜〜〜〜 ( うん せんせい! ) 」

俺は ぴょこん、と跳んで コズミ先生の足元に駆け寄った。

「 よしよし ・・・ ジョーくん トラは悪戯せんかったですか 」

「 あ コズミ先生。 トラくん っていうんですか 」

「 はいな。  ずっとウチにいるコで地域のボスですわ。 」

「 そうなんですか・・・ トラくん。 ありがと・・・ 

「 猫もなかなかいいでしょう? 

「 ええ・・・ 毛皮族 好きです、ぼく・・・ 」

「 そうか そうか  また寄せてもらいましょう 」

「 どうぞ どうぞ〜  ウチの庭で遊んでいってください 」

 

少年は やっと白い石の前から立ち上がったんだ。

 

     ・・・ なんで?

     なんだって そんなに哀しんでんだ?

     ワン公のこと、 好きだったんだな〜

     それはわかるけど。

 

 

俺は 彼の哀しみの重さがとても気になってたんだ。

それから ちょくちょくその家に連れていってもらった。

「 あら トラちゃん いらっしゃい 」

あの美人メスさん とも仲良くなって俺、ご機嫌さ〜

彼女の腕の中で ご〜ろごろごろ・・・・

若いメスは いい匂いがしていいよなあ

彼女の笑顔 最高〜〜さ。  

あの少年は たいていその墓の側に座りこんでたっけ。

俺 こそ・・っと近寄っていって墓の上に前足、置いてみた。

 

「 ・・・ ここに誰か眠ってるかい? 」

 

 ― そしたら ・・・

 

茶色毛のワン公がでてきて 話してくれたんだ。

( ヤツは首んとこだけ黒い毛があって面白い毛並にゃった )

「 やあ ・・・ 僕、クビクロ。 」

「 お。 わんこさんかい。 俺 トラ。 」

「 僕さ 本当はここには眠ってないんだ。 」

「 へえ? あ 虹の橋んとこ? 」

「 ううん。 僕 ずっと彼の側にいるんだ。 

 ずっとずっと一緒だよ 」

「 ふうん  大好きだったんだね 」

「 ウン。 ねえ 聞いてくれる? 僕と彼のこと。 」

「 うん 聞くよ。 」

「 あの ね。 僕と彼が出会ったのはね 」

茶色毛のワン公はとつとつと語ったさ。

短いハナシだったけど。  けど・・・  けど ・・・!

 

    俺。  泣いちゃった ・・・

 

    そっか ・・・ そうだったのか・・・

    そりゃ ・・・ 悲しいよなあ

 

よくみれば 彼の側にはいっつもその茶色毛のワン公がいるんだ。 

そうなんだよ、白い石の墓には いない、眠ってなんかいない。

 

「 僕ね ずう〜〜っと 彼と一緒なんだ。

 彼の一生は たぶんすごく長いと思う。 でも いつでも

 僕は 彼と一緒さ。 」

「 そっか・・・ うん いいね 羨ましいなあ 

「 君だって いつかそんな人と巡りあうよ 」

「 ・・・ そうだといいなあ 」

「 じゃ ね。 側にいてやらないと・・・

 僕としてはさあ 彼に ふらんそわーず と一緒に

 なってもらいたいんだ 」

 

    ふらんそわーず?

    ・・・ ああ あの美メスのことか

 

「 うん  ばいばい。 」

ワン公は またぴったり彼の側に座ったんだ。

 

 

 

        そうか!  そうなんだ!

 

俺、あの時のことをはっきり思い出した。

そんで 気が付いたんだ。

 

    あん時の茶色毛の少年 と ここんちの < おとうさん >

    この二人  匂いがおんなじだぜ。

 

    あの少年が ・・・ < おとうさん > ?

 

    う〜〜〜ん ???

 

俺はこのウチで 虎の介 って名前 もらった。

裏庭を探検してて わん公の墓がまだここんちにあるのを見つけたよ。

でも ・・・ もう墓だとはわからないようにしてあって。

ただ いい香の花が咲く樹が植わってた。

 

< おとうさん > は 今でも時々 ここに来る。

花や木の手入れをしつつ と〜〜〜〜〜っても暖かい瞳で

その場所をみつめてる。

 

もちろんね あの茶色毛のワン公、< おとうさん > と一緒だ。

うん 俺にはちゃんと見える。

ワン公はしっかり彼を護ってるんだ。

 

    お前さあ 最高の人生じゃん か、ワン公!

 

俺は ばちん! とウェインクを送った。

 

 

Last updated : 10,27,2020.               index     /     next

 

 

**********   途中ですが

え〜〜 語り手は にゃんこ、 猫でございます。

少々不適切な表現 無礼な言葉遣い 等々・・・・

どうぞ 見逃してやってくださいませ <m(__)m>