『 飛ぶ理由 ― (2) ― 

 

 

 

 

 

  カツ カツ カツ ・・・

 

じゃあね と手を振って マダムはスタジオから出ていった。

 

「 うひゃあ〜〜 言われちまったな〜〜〜

 う〜んと悩んでね かあ〜〜〜 」

「 ・・・ え  ・・・ 」

タクヤは口ほどは悩んでいる風ではなく 明るい顔をしている。

「 ま〜ったくなあ〜 なんだってお見通しってな? 」

「 ・・・ そ うね 」

フランソワーズは 壁を見つめている。

 ― いや 壁に顔を向けたまま 固まっているのだ。 

「 あ? ・・・ フラン  気にしてるのか? 」

「 ・・・ え ? 」

「 マダムがさ〜 ズバっと言うの、知ってるだろ?

 キツいけど あのヒト、悪意ってか ヘンな裏はね〜だろ? 

 あ〜いう率直な意見、 貴重だぜえ 」

「 え ええ ・・・ それは よくわかってる わ 」

「 ん〜 ・・・ なあ どした? 」

「 ・・・え? べ べつに ・・・ 」

「 別に じゃねんでね?  ナンかあったのかよ? 」

「 なにも ・・・ 気にしないで タクヤ 」

「 なあ?  気になること、あれば 言ってくれ 」

「 え・・・?  ないわ  別に・・・

 さ さあ  リハ 続けましょ  」

「 あ ああ・・・ 最初からやってみるか? 音 流して 」

「 そうね  お願いシマス。 」

「 あ うん。 お願いします。  ・・・ってリモコンで 」

「 ・・・ 」

 

   〜〜〜♪♪   ♪  のんびりした音が始まった。

 

「 〜〜〜 ん〜〜  って こんなカンジ? 」

「 ええ ・・・ このままで 」

「 ん〜〜 次 リフト〜 」

「 ッ! 」

「 お〜〜 ・・・ あ そんなに張り切って跳ばなくていいかも 」

「 ・・・ はい 」

「 のほほ〜〜ん ・・・と行こうぜ 

「 ・・・ はい 」

先ほどのぎこち無さは消え アダージオはなんとかカタチになってきた。

  が。  タクヤは ご機嫌ちゃん では ない。

「 ・・・・? 

 

    フラン ・・・ どうか したか?

   さっきまでの こう〜〜 弾けるみたいな感じ

   ・・・ 消え た・・・?

 

「 ・・・っと。 ヴァリエーションも やってみるか? 」

「 タクヤは? 」

「 え 俺は ・・・ うん やろうかな 」

「 そう?  それじゃ 音、流すわ。 」

「 おう。  フランは? 」

「 ・・・ 振りの復習 します 」

「 あ ああ  じゃ 音 出すね 」

「 お願いします 

 

フランソワーズは 踊る、というより振りを確認し始めた。

 

「 ・・・? 」

 

   やっぱ なんかあった・・・?

   俺 なんか余計なコト 言ったか??

   それとも  さっきのマダムの言葉、気にしてる?

 

   AI がどうの〜 って だったよなあ

   気にするコトか???

 

タクヤは じ〜〜っと彼のパートナーの動きを見つめている。

 

   俺は。  フランが好き なんだ!

   いつだって 溌剌と 楽しそうに踊る 彼女がさ。

 

   ああ もちろん、アイツが人妻で母親だってこと

   ちゃんと知ってるぜ。

   そりゃ 若い子たちみたく ばりばり稽古して

   がんがん舞台で踊る ってのは無理かもしんない。

   でも 彼女はず〜〜っとダンサーとしても

   頑張ってるんだぜ?

 

   フランは バレエが 踊ることが 好き なんだよ

 

   ― そんで 俺は。 そんな彼女が 好き なんだ!

 

   俺が 踊る理由 ( わけ )?

   そりゃ ― 彼女を一番 輝かせるため さ!

 

   それができるのは ― 舞台上で だけど・・・

   世界中に この俺様だけ なんだ!

 

「 ・・・ 次 ・・・ タクヤ どうぞ。 

「 フラン。 今日はもうやめよう。 」

「 え? だってまだ時間 ・・・ 」

「 いや。 今日はもう帰って − 休めよ。 」

「 ・・・・ 」

「 ゆっくり・・とは行かないかもしんないけど・・・

 すばる達が騒いで さ・・・ でも のんびりしろよ 」

「 ・・・ タクヤ ・・・ 」

 

   フラン。  なに 気にしてる?

   言ってくれよ!

 

   俺じゃ ダメか?

   そりゃ フランはアイツのオクサンで

   すばる達のおか〜さん だけど。

 

   でも。 この世界じゃ 舞台では

   俺が フラン、君の最高のパートナーだって 決めてるんだ

 

   ・・・ これは誰にも渡さねえ。

 

   だから ・・・ フラン ・・・!

   なんでも俺に言って 俺を頼ってくれよ 

   そんでもって

   笑顔で踊っていてくれ〜〜〜

 

 

「 な?  リラックスして ・・・

 そんでもって また 頑張ろうぜ 

「 タクヤ ・・・ あ ありがとう  ・・・ 」

「 あは〜 そんな ・・・

 な? 誰だって 調子の波ってあんじゃん?

 気にするなよ〜  ヤバい時は ちょっち休む!

 そんでもって元気回復 さ。 」

「 ん ・・・ そうね 

「 そ〜さ。  俺ら AI じゃね〜んだもんな

 そら いろいろ ・・・・ あるさ 」

「 ・・・・・ 」

碧い瞳が 伏せられてしまった。

「 ( ?? なんか ヤバいこと、言ったか 俺?? )

 あ〜〜  な? でもさ〜〜

 美味いもん 喰って 寝れば ― また頑張れるじゃん。

 あは これって俺の元気回復法 だけど〜 」

「 ・・・ ホント ありがとう タクヤ・・・

 ごめんなさい ・・・ 貴重なリハ時間なのに・・・ 」

「 まったまた〜〜〜  ごめん は言いっこなし。

 俺も調子の悪い日は が〜〜〜って寝ちまうし。  

 だから今日は もうお終いにしようぜ 」

「 ごめ・・・ あ いえ  ありがとう!

 明日 また ・・・ 頑張るわね 」

ようやく 薄くだけど笑顔が戻った。

「 お その調子!  じゃ また明日 な 」

「 はい。 お疲れ様でした 」

「 お疲れ〜〜〜 です!  あ すばるにヨロシク! 」

「 ふふふ ありがとう ・・・ じゃあ お先に・・ 」

「 ん〜〜 」

フランソワーズは ぺこり、とアタマを下げると

静かにスタジオを出ていった。

 

「 ・・・ かっわいいなあ ・・・ 」

 

    ああ ・・・ !

    なんで 俺! あと10年くらい早く

    生まれなかったのかなあ・・・ !

 

    そしたら 俺たち

    公私ともに ベスト・パートナー に

    なれたかもしんね〜のになあ・・・

 

 ふう ・・・  しょうもないため息をついてから。

 

「 ふん!  俺は 俺の踊りをがっちり決めとく! それっきゃね! 」

 

  パパン ・・・!!  彼は派手にカブリオールを決めた。

 

 

 

「 ・・・ ただいま 」

玄関を開けると ― 家の中は し・・・んとしていた。

「 ??? どうしたのかしら ・・・ 」

最近 というか チビ達が生まれて以来 この家の中は 

< し〜〜ん > という状況とは 無縁なのだ。

 

「 ? ただいま〜〜  すぴか すばる? 」

「 ああ お帰り 」

ギルモア博士が 顔をみせた。

「 あ 博士 ・・・ あの チビ達は 」

「 ああ ジョーが早く帰ってきてな〜〜

 チビさん達を連れて クルマで買い物に出たよ 」

「 まあ そうなんですか 

 どうりで 静か過ぎると思いましたわ 」

「 ふふふ ・・・ ワシはちょいと物足りないがな・・・

 まあ しばしのんびりしておいで。

 今晩は なにやらジョーが作る と張り切っていたぞ 

「 へえ・・・ あ きっとカレーですね 」

「 たぶん な。 」

「 ええ。 彼が作れる晩御飯って カレーとシチュウだけですから 」

「 ふふふ そうじゃなあ まあ でもアレは美味いよ 」

「 ええ ええ。 いろいろ・・・ 煮込むだけ、ですけどね。

 わたしは サラダでも作っておきます 」

「 では オトナ向けにワインでも開けよう。 

 ちょいといいのを見繕ってくるよ 」

「 きゃ♪ ありがとうございます〜〜  嬉しい! 」

「 なにがよいかなあ ・・・ 選んでくるよ 」

「 はい お願いします   楽しみ♪ 」

博士は 地下のワイン・セラーに 降りていった。

「 ワイン〜〜〜♪  久し振りね〜〜  

 ジョーのカレーには 案外ぴったりくるのよね 

 チビ達が寝た後 ゆっくり飲めたら嬉しいわあ 」

よいしょ・・ と 買い物袋を持ちあげた途端 ―

 

    AI には 踊れない  

 

ふと また その言葉が心の隅から浮き上がってきてしまった。

 

「 ・・・ やだ  ・・・ なんで ・・・ 」

しゅ〜〜〜・・・っと 浮き上がっていた気持ちが 萎んでゆく。

荷物が いきなり重く感じた。

「 ・・・ なによ ・・・ 003にこんな荷物 軽々でしょう?

 疲れる なんて無縁よねえ  だって機械なんだもの 」

きゅっと唇を噛み 彼女はキッチンに向かった。

 

「 ん〜〜  これはどうだね? サンテミリオンの 」

博士が上機嫌で戻ってきた。 両手にワイン・ボトルを持っている。

「 ・・・ あ 」

「 赤 と 白、 両方もってきた。 白は冷やして・・・

 ? どうしたね? 

「 え ・・・ あ いえ 」

「 なにか あったのかい。 」

 

    やだ ・・・ そんなにヘンな顔してる?

    ・・・ 機械なのにね 003?

 

「 い いえ ・・・ 」

「 言っておくれ。 なんでも。 ぶつけておくれ 」

「 ・・・ あ 」

「 なんでもいいから。 さあ 」

「 ・・・ あ  あの ・・・ 」

フランソワーズは 思い切って口を開いた。

 

「 あの  AI に、 機械に 踊れます か 」

 

「 ・・・ ! 」

博士は 全ての動作を止め じっと彼女を見つめた。

「 お前自身の質問か。 」

「 ― はい。 」

わたしは ・・・ フランソワーズは一旦 目を伏せたが

さっと顔を上げた。

「 はい。 わたしは ― 半分 機械です。

 でも 踊ってゆきたい。 踊ることがわたしの人生だから です 

歯切れよく言い切る彼女に 博士は限りなく温かい視線を注ぐ。

 

「 これは ワシが応えなければならない問題だ。 」

博士は 言葉を切ったが すぐに明解に話し始めた。

 

「 お前たちは ロボット ではない。 皆 日々 変化する人間だ。 

 機械によって生きているのでは ない。 」

「 ・・・ あ ・・・ 」

「 フランソワーズ、 お前とジョーの間にチビさん達が生まれたのも、

 そして あの子達が育ってゆくときお前は母親の顔になり 

 ジョーはすっかり父親になった。 ごく自然に な。 」

「 あ  ・・・ ああ 」

「 機械に そんな変化は出来ない。 経験は学ぶがそれによって

 自身が変化することはない。 データを蓄積し違った局面にも

 対応できるようには なる。

 しかし ― 変化できるのは ニンゲン だから だ。 」

「 変化  ですか 」

「 そうじゃ。 

 全身で そして 指先にまで神経を使い、音に乗って 踊ることは

 ニンゲンだけができることじゃないかね? 」

「 ・・・ そ それは ・・・ 」

「 フランソワーズ。  踊っているじゃないか。 

 お前の努力が お前の踊りをどんどん変えてゆく。

 ヒトの心を変えられるのは 自分自身だけ、だと信じているよ 」

「 ・・・ 自分自身だけ ・・・ 」

「 ワシは 贖罪の証として 生涯お前たちを見守ってゆく 」

「 ・・・・ 」

「 フランソワーズ。 君は ニンゲンだから 踊っているのだよ 」

「 ニンゲンだから ・・・ 」

「 お前の踊りを もっともっと楽しませておくれ。

 ワシは フランソワーズ・アルヌール の 後援会長だぞ 

「 え まあ 博士ったら・・・ 」

「 これはな 冗談じゃあないぞ。 ジョーとしっかり支えるから

 できる限り 踊っていておくれ 」

「 ・・・ 博士 ・・・ 」

「 お前の踊りを見ていると なぜだろうなあ ・・・

 跳んでいる風に感じるのさ。 こう・・・ 宙に浮いている 」

「 まあ ・・・ 」

「 どんな作品でもなあ  背中に羽根があるように

 感じるのだよ 」

「 ―  ありがとうございます。 

 ・・・ 飛びます!  ええ 飛んでいたいのです 」

 

 

  ただいまあ〜〜〜   ただ〜〜いまァ おか〜〜さ〜〜〜ん

 

玄関から賑やかな声が響いてきた。

 

「 おや チビさん達のお帰りのようだな 」

「 ええ ・・・ あ オヤツを用意しなくちゃ 」

「 そうじゃ 麦茶を作り足しておいたよ。

 ウチの麦茶は ほんに美味いからなあ 」

「 まあ ありがとうございます。 

 ふふふ・・・ ジョーもね 同じこと、言ってます。

 ウチの麦茶は最高だって 」

 

「 おか〜〜さん!  あのね〜〜 すいか! 」

「 すいか〜〜〜 おかあさん 」

 

   タタタタ トタトタトタ  ・・・・

 

双子たちが駆けこんできた。

二人ともそれぞれぎっちり詰まった買い物袋を抱えている。

 

「 お帰りなさい、 すぴか すばる。

 わあ お買いもの いっぱいねえ 」

「 うん! あのね あのね お父さんとね〜〜

 商店街をね〜〜 ず〜〜〜っと ずっと 行ってね 」

「 やおやさん に〜 さかなやさん に〜〜

 おこめやさん に〜〜 えっと・・・あと ・・・ 」

「 にくやさん! それから ・・・ すいか!

 お・・・っきなの、かったよぉ〜〜 」

「 すいか! こ〜〜んなの〜〜  あと ぎうにう も! 」

「 はいはい ありがとう・・・ すいか?

 ・・・ ここには入ってないわよ? 」

 

「 こっちだよ〜〜 」

 

でん。 ジョーが 特大の袋を床に置いた。

「 え ・・・ それ ・・・ すいか?? 

「 ウン。 地元の・・・ ほら 海岸ちかくの農家さんでさ

 ごろごろ〜〜 採れたんだって。 」

「 へえ・・・ うわあ〜〜 おっきい〜〜 」

「 おと〜さんがね  すいか ・・・り! だって 」

「 すいか〜〜り するんだって! 」

コドモたちは なんだかとても興奮していて

母の周りにわらわら・・と纏わりついてきた。

「 え  え?? なあに?  」

「 だ〜〜から〜〜  すいか・・・り!  

 みんなでやろう〜 って 」

「 ウン!  すいか〜〜り! ね〜〜 お母さん 」

「 ???  すいか り?? なあに それ 

「「 だから〜〜 すいか り!  」」

「 ??  ジョー なんのこと? 」

母は コドモ達の後ろでくつくつ笑っている父に

助けを求めた。

「 ふふふ すいか り かあ〜〜 」

「 ねえ なんのこと?  スイカってこの大きなスイカ、

 どうにかするの? 」

「 ははは あのね 西瓜割り さ。 チビたちが言っているのは  」

「 ・・・ すいか わり・・・? 」

「「 そ〜〜〜  すいか ・・り! 」」

「 おと〜〜さん 今日 やる??? 今から?? 」

「 僕 やりたい〜〜〜 」

チビ達はもう大はしゃぎだ。

「 スイカ割り って  このスイカを割るの?? 包丁で? 」

「 あは ・・・ これはねえ むか〜しからある日本の夏の

 まあ 遊びってとこかなあ  海岸なんかでやったんだって。 」

「 スイカを割る・・・? 」

「 ウン。 目隠ししたヒトがね 交代で 狙いをつけたつもりで

 えい!って 棒でスイカを叩くのさ 」

「 え ・・・ スイカを 棒で? 」

碧い瞳が かなりの非難の色を込めてみつめてきた。

「 ・・・ ああ 考えてみれば ・・・ 食べ物なのに なあ 」

「 でしょ。  この大きなスイカはよ〜〜く冷やして

 包丁で切って 美味しく頂きましょうよ 

「 そうだね。 じゃあ 代わりになにか 

「 おっほん。 それはワシに任せておくれ。

 叩けば割れるが また組み立ててば球体になる、という玩具を

 開発するぞ!  たった今 原理が閃いたのじゃ 

 チビさん達よ ちょいと待っていておくれ 」

博士は 満面の笑みと元気溌剌な足取りで 書斎に消えた。

 

「 すご ・・・ 」

「 ・・・ 博士って 根っからの発明好き なのねえ 」

「 おと〜さん  すいか・・り は?? 」

「 すいか・・・ 」

「 あは スイカ割りはね おじいちゃまの新発明をちょっとだけ

 待とうよ? 」

「「 え〜〜〜〜〜〜 すいか 〜〜〜 」」

「 ええ ええ スイカはね 冷蔵庫でう〜〜〜〜んと冷やして

 美味しくしてから食べましょうね?

 今日のオヤツは ジュエル・ゼリー よ

 さあ 誰が一番に 手洗い・ウガイ ができるかしら? 」

「 はいっ 」」

 

  ぱたぱたぱた〜〜〜  チビ達は先を争いバス・ルームへ駆けていった。

 

「 あは  ・・・ ありがと。 」

「 ふふふ わたしも冷え冷えのスイカが食べたいのよ。 」

「 そうだねえ  あ ぼくも手洗い・うがい っと。 

 あ 買い物はとりあえずキッチンに運んでおくね 」

「 ありがとう〜  ジョー。  晩ご飯、 カレー 作ってくださるの? 」

「 うん 任せて 」

「 じゃ サラダはね お豆腐使ってスタミナ料理 よ 」

「 豆腐でスタミナ・サラダ?? 」

「 ええ。 お豆腐とね ちょびっとツナ缶を使うの。

 あ オトナにはゴーヤも使います 」

「 へ え〜〜 なんかわくわくするなあ〜〜

 ・・・ フランス風サラダ ?  」

「 ぶ〜〜〜。  フランスでもお豆腐は人気だけど・・

 ゴーヤはないのよ。 これはね ネットでみつけたレシピよ 」

「 そうなんだ〜〜 フランの料理はホントに美味しいもんな〜

 ぼくさ 毎日晩御飯が楽しみなんだ♪ 」

「 ふふ み〜〜んな簡単レシピですけどね 

 

   おか〜さん オヤツ〜〜〜

 

 どたばた どたばた  賑やかな足音が戻ってきた。

 

 

 

 ― さて その夜 ・・・

 

お父さんのカレーと豆腐サラダで みんな美味しい晩御飯となった。

「 アタシ これ 好き! 」

すぴかは ゴーヤを入れたオトナ向けのものが気に入り

「 僕〜〜 つるん♪ 」

すばるは おじいちゃまの冷奴を半分以上 頂戴し

デザートに 冷え冷え〜〜のスイカを頂いた。

 

 

   カチ カチ カチ コチ ・・・

 

コドモ達がベッドに行き やっと静けさの戻ったリビングで

鳩時計が 穏やかに時を刻む。

 

「 麦茶 ・・・  もう一杯のむ? ジョー 」

「 あ  う〜ん ・・・? 」

「 あのね ホットにしてみたの。 そしたらいい香りよ

 ちょっとアメリカン・コーヒーみたい  」

「 へえ〜〜  のみます、下さい 」

「 はい。 」

 

   とぽぽぽ ・・・・ カップから香ばしい湯気が上がる。

 

「 ・・・ん〜〜   うま〜〜〜  これ いいね! 」

「 でしょ? ・・・ おいし♪ 

「 ん〜〜〜ま〜〜〜  なあ これにさ ミルクと砂糖、いれたら

 完全に アメリカンだねえ 」

「 ・・・ 入れるの? 」

「 入れません。  今は 」

「 明日の朝 やってみるのでしょ 」

「 あは  大正解〜〜 」

「 ・・・ すばるも真似しそうよ お父さん 

「 おう いいぞ。 麦茶はカフェイン ナシ、だからね 」

「 ・・・ あ〜あ ・・・ そっくりねえ 」

「 ぼくのムスコですから〜〜 」

「 でした でした そうでした。

 ・・・ あ あのね。 ジョー ・・・ あなた、

 AI は ニンゲンより優れていると思う? ニンゲンを超えてると思う? 

 ・・・ あの AI に バレエが踊れる と思う? 」

「 ?? なんだい いきなり 

「 ジョーは。 どう思うかな と思って 」

「 う ん? ・・・ そうだな。 」

ジョーは カップを置いた。

 

      あ。  ・・・ 本気になった ・・・

 

長年 彼の側らにいる彼女は すぐに気付いた。

雰囲気が 変わるのだ。

 

「 ぼく自身に限って、のことだけど 」

「 ・・・ はい。 」

ジョーは 穏やかな口調で続ける。 まるで コドモたちのことを

話すみたいに・・・

 

「 ぼくは機械仕掛けの身体だし 機械に助けられて生きている。

 でも 機械に支配されない。  させては いない。

 ぼくは人間で 機械を支配するんだ って しっかり認識したいって

 いつも思っている。 」

「 ・・・ そう ね 」

「 バレエのことは よくわかんないけど・・・

 きみは 踊るときに ・・・ そのう ・・・ 

 003の能力を 使うのかい? 」

「 いいえ?  それは邪魔にしかならないもの。 完全にオフよ 」

「 そうだよね。 ぼくも モノを書く時 企画を検討する時は

 ただの 島村ジョー だよ?

 そうだなあ  車やバイクを運転する時も 同じだな。

 ぼくが 主 で 機械は 従 って 実感している。

 ぼくは 機械仕掛けだけど 機械に支配されては いない。 」

「 ・・・ そう  そうね ! 」

「 だから ぼく自身に限って言えば ・・・

 AI は ニンゲンを超える とは思っていないよ。 」

「 ・・・ ありがとう! 」

「 なにか あったのかい 」

「 ・・・ え  ううん  ちょっと気になっただけ ・・・ 」

「 そう ・・・? 

彼は それ以上 聞かなかった。 

彼女も それ以上 話すことはしなかった。

 

    わかったわ ―  ジョー あなたの決意が。

    

 

「 あ  ねえ ジョー もう一つ、聞いていい 」

「 なんだい 」

「 ええ あの ・・・ ずうっと前にね 

 ジョーはどうして車とかバイクに乗るのって聞いたでしょ。 」

「 ・・・ そんなこと あったっけ? 」

「 ありました。 結婚する前 よ 

 そしたら  う〜ん 好きだから かなあって言ってたわ 

「 ああ そうかも・・・ 」

「 でも ジョー・・・ 今、 必要な時に車を使う程度でしょ?

 バイクは ・・・ねえ 結婚してから乗ってないわ

 ・・・ 好きじゃなくなったの ? 」

「 ・・・ あ〜〜〜  今でも好きだけど

 うん ・・・ 今は もっと大切で好きなものがあるから。 」

「 ふうん?  なあに。 ・・・ あ 聞いてもいい? 」

「 あ・・・ うん。 

 きみ と チビ達。 今 ぼくはいっちばん大切なんだ。 」

「 ・・・ え ・・・ ! 」

「 だから この二つを護ることに専念してる。

 あは 完全に専守防衛 なわけ 」

「 ・・・ ジョー ・・・ あなたって ― 最高! 」

「 お〜っと・・・・ 」

飛び付いてきた彼女に 温かい茶色の瞳がふんわり笑いかけている。

 

   ああ ・・・ !

   ・・・ もう〜〜 わたし ・・・

 

   この瞳には どうしたって勝てないの

   わたし 一生あなたの虜だわ

 

 

 ― 岬の邸は いつだって穏やかで優しい時間が流れているのだ。

 

 

さて 次の朝 ・・・ 都心近くのあるバレエ団にて。

 

「 おはよう! 」

「 おはよ〜 フランソワーズ、 元気〜〜 」

「 ん♪ みちよちゃん 」

仲良しのみちよが 大きな瞳をくりくりさせる。

「 ね〜〜 リハ どう? 」

「 え〜 ああ 苦戦中〜〜〜  みちよは 」

「 アタシ?  ・・・ ダイエットで苦戦中〜〜〜

 今度は 脚、出すからさあ 」

「 じゃ 踊りはばっちり ? 」

「 だから〜〜〜 脚よ 脚!  

 グラン・フェッテでばっちり印象付けるためにも  やせる! 」

「 ・・・ フェッテは得意でしょう? 」

「 だけど〜〜〜 脚! 痩せるのぉ 」

「 そっか・・・頑張れぇ 〜〜 」

「 フランソワーズは 」

「 ・・・ 苦戦中なの  なんかこう〜〜 のんびり・・・って

 ムズカシイの 

「 『 リーズ ・・・ 』 ねえ〜〜〜

 田舎のカップルは フランソワーズには難しいかもね 

「 いなかの・・・? 」

「 そ。 なんかこう〜〜 農村地帯 って感じしない? 」

「 あ  うん ・・・ そうね!

 そうよね〜〜 お姫サマ と 王子サマ じゃないんですものね

 そっか! 」

「 元気で楽しくて いいんでないの? 」

「 ふふふ〜〜〜 了解〜〜  ホッペの赤い娘さん を踊るわ! 」

「 いいね いいね〜〜 

 あは アタシ、フランのその元気、大好き! 

「 そう? ありがと・・・ あ タクヤ〜〜 

「 おはよ〜〜 タクヤく〜〜〜ん 」

 

山内タクヤは ぎりぎりな時間に あたふたレッスンスタジオに入ってきた。

 

「 ひえ〜〜  間に合ったぁ〜〜〜 

 アラーム 止めて寝ちまって・・・ 」

「 タクヤ。  今日のリハ、宜しく!  田舎のカップル、踊りましょ 

「 は あ? 」

「 『 ラ・フィーユ 』 よ。  楽しまなくちゃね〜 」

「 おう いいな 」

「 ね?  わたし ・・・ 楽しみたくて踊っているの! 」

「 ああ 俺もさあ〜〜 そんじゃ いっちょ やるか〜 」

「 はい〜〜 」

タクヤのパートナーは  ぱあ〜〜〜っと微笑んだ。

 

 

    わあお〜〜♪ この笑顔だよ、 これ!

    俺 ・・・ 好っきあなあ〜〜

 

    フラン ・・・ 飛んでゆけ ・・・ !

    踊りの世界で 翼を広げ高く 低く 自在に舞うといい

    ああ どんなに飛んでも 俺は負けないぜ

 

    君を しっかりサポートするし 俺も飛ぶんだ!

 

    ぼくは  そんなフランに 首ったけ さ!

 

    うん。 それが 俺の踊る理由 なんだ。

 

 

 ―  そう ・・・ みんな < 飛ぶ理由 > があって

      えいやっ!  と 飛んでゆくんだよオ〜〜〜〜 

 

 

*************************       Fin.      ***********************

Last updated : 08,11,2020.           back       /      index

 

 

**********   ひと言  ********

あなたの 飛ぶ理由 は なんですか?

・・・・ やっぱ 好きだから だろうなあ・・・

 自分がまだ踊っているのは ね (>_<)

あ 麦茶・アメリカン、 美味しいですよん♪