『 飛ぶ理由 ― (1) ― 

 

 

 

 

 

 

   カタカタ  ・・・・

 

窓ガラスが微かに音をたてている。

カーテンはしっかりと引いてあるので 音だけが聞こえてくる。

 

「 ・・・? 」

 

ジョーは立ち上がり 窓際までやってきた。

「 ・・・ ちゃんと閉めてあるよなあ ・・・ 

何気ない独り言だったけれど 静かな夜の空気の中で

その声は びっくりするほどはっきりと聞こえた。

「 ? 窓 が どうかした? 夕方 戸締りしたでしょう

 ジョー、あなた自身が? 」

「 うん ・・・ そうなんだけど ・・・

 なんか音がするから さ。 どこか開いてるのかと思って 」

「 音 ・・・? 」

「 うん。 小さいんだけど かたかた・・・って 」

「 ・・・ 」

フランソワーズは 縫い物の手を止めて耳を澄ます。

 

   ・・・ カタカタ  カタタタ ・・・

 

確かに小さな 微かな音が聞こえる。

 

「 ・・・ あら ・・・ ああ これって北風の音じゃない? 」

「 北風?  ・・・ 風の音なんて ある? 

「 そうね 正確に言えば、風がなにかに当たって

 その何かがたてる音 ってことかしら。

 窓ガラスが鳴っているのよ たぶん 」

「 ガラスが?  」

「 ええ。  いくら強化ガラスでも北風が当たれば

 少しは揺れるでしょう?  その音よ きっと 

「 ・・・ そっかあ ・・・ 」

ジョーは まだなんとなく気にかかる様子で

カーテンをめくったり外を覗いたりしていた。

そんな彼には付き合わず フランソワーズはすでに縫い物に

集中していた。

 

「 ・・・ 冬だってことか。  ここいらの気候は温暖でも

 ウチんとこは海風が当たるもんなあ 」

ぶつぶつ言いつつ ジョーも窓辺を離れた。

 

冬のギルモア邸は 住人にとって快適な温度に保たれている。

寒かったり 隙間風が入ることなど 有り得ないのだが・・・

「 四六時中 快適、というのは 考えものじゃよ。

 ニンゲン、適応力というものを鍛えておかねば なあ 」

「 むう ・・・ ヒトは自然界の中で生きる生き物。

 ヒトが合わせなければ ― 生きてはゆけなくなる 」

博士自身の発案と ジェロニモ Jr. の力強い同意のもと、

邸の温度は一年中 < 平均気温 > に保たれ

夏は 窓を開け涼風をとおし 冬は ヒーターやらストーブといった

簡易暖房器具を使っている。

 

「 お〜〜し! そんならよ 暖炉、つかおうぜ!

 リビングにあるじゃんよ? 薪なら裏山から採ってくるぜ 」

赤毛ののっぽが 勢い込んだが ・・・

「 暖炉?  ― ダメだ。 あれは装飾用だぞ。

 よく見てみろ。 外に向かって煙突が通ってない。 」

「 ははん。 イマドキ 室内でモノを燃やしたら

 たちまち 消防署 だぞ。 焚火ですらご法度のご時世だ 」

独逸人と英国人に 即刻阻止された。

 

 

 ― そんな訳で  今 リビングには緩くヒーターが動いている。

 

「 ふ ・・・ ん ・・・ 」

ジョーは ソファに戻ると所在なさ気に雑誌を取り上げた。

・・・が。 彼の視線は 本を通り越し

向かい側のソファの彼女に その手元に集中している。

フランソワーズは ソファの前のテーブルに糸針セットを広げ

熱心に手を動かしているのだ。

 

   ・・・ いいなあ・・・

   女のヒトが なにか縫ってるのって ・・・

 

   すごく好きなんだ  ぼく。

 

ジョーはなぜか自然に口元がにまにましている。

 

  カサコソ ・・・ シュ ・・・

 

フランソワーズの手が動くと リボンがひらりひらひら・・・動く。

彼女はポアント ( トウ・シューズのこと ) にリボンやらゴムを

縫い付けているのだが この家に暮らすものには見慣れた光景だ。

 ・・・ のはずなのだが 毎回 ジョーはその姿に見惚れてしまう。

 

  チクチク・・・ 白い指が細かく動く。

 

  ひらひらり。 シュ ・・・ リボンやら布が揺れる。

 

「 ・・・? なあに ジョー 」

フランソワーズが 手を止めた。 そして顔をあげ、ジョーに訊く。

「 え  ・・・ あ  あ〜〜 その〜〜〜 」

「 ?? なにか あるの? 」

「 え。  な なにも ないけど ・・・・ 」

「 そう? ・・・ ずっとこっち見てるから・・・

 なにかあるのかしら、って思うのだけど・・・ 

「 あ  あの! き 聞きたいなあ〜って 」

「 まあ なにかしら 」

「 あ えっと あの〜〜〜  ふ フランは あ〜〜

 ど〜して踊りたいのか なって 思って ・・・ 」

「 ・・・ え 」

「 あ ・・ ご ごめん〜〜 き 聞いちゃいけなかった・・? 

「 ううん  そんなこと・・・ない けど・・・ 」

「 でも ・・・ 」

「 ・・・ え  そう ねえ ・・・ 」

ジョーのドギマギした・苦し紛れ?の  < しつもん > に

フランソワーズは 縫い物を置いてしまったのだ。

 

   どうして踊りたいかって・・・?

 

   う〜〜ん ・・・ どうして・・・?

 

珍しく額にシワを寄せ 彼女は考え込んでいる。

 

   ・・・ ヤバ・・・!

   なんかマズイこと、 聞いちゃったか ぼく・・・

 

ジョーの背中を 冷たい汗がどどどど〜〜っと流れ落ちる。

 

「 ご ごめん ・・・! あの 忘れて 」

「 え?  なぜ? 」

「 だ だって・・・ なんでそんなに考えこむのかい 」

「 う〜〜ん・・・ ず〜〜っと踊ってきたから。

 踊りたい理由 なんて思い出せない・・・・かも って思って 

「 そう なんだ? 」

「 そうなのよ。  ・・・ ジョーだって

 どうして車やバイクに乗るの、好きなの? 」

 

彼はこの家で暮らすようになってから 車やらバイクいじりに

熱中するようになった。  

時には一人で バイクを飛ばしてくることもある。

 

「 ・・・ あ  う〜〜〜ん ・・・? 

 好き だから ってしか言えないなあ 」

「 あ  同じよ。 わたしも 好き だから。

 好きだから踊っているのよ。  理由は それだけかも・・・  」

「 ふうん ・・・ そっかあ そうだよなあ 

「 で しょ? 」

「 ん ・・・ あの ・・・・ さ? 」

「 なあに? 」

「 あの。 ぼく ・・・ フランが縫い物してるの、

 いいなあ〜〜って思って・・・ 」

「 ええ??  だってこれ、わたし達には必須の作業なのよ?

 ・・・ そうねえ〜 ジョーが車やバイクの整備をするのと

 同じ かもね 」

「 ふうん ・・・ 」

「 わたし達の商売道具の準備ってことかしらね。

 あ ねえ なにかあったら出てね 」

「 ?? なにかって・・・? 」

「 縫い物よ!  ジョーってば よくシャツやらジーンズ、

 破いたりするでしょ。 縫うわよ、わたし。 」

「 え  本当?  頼んでも いい? 」

「 もちろんよ。 」

「 えへ ・・・ じゃ 今 持ってくるね〜〜 」

「 はいはい  あ〜 パンツだっていいわよ? 

「 !  それくらい、自分でやるってば。 

 でも そのう〜〜 シャツとか 頼める? 」

「 どうぞ 」

「 ん! 」

 

   タタタタタタ −−−  !

 

彼の足音は 本当に浮き上がるみたいだった・・・

 

   あらあ〜〜〜  

   ・・・そんなに嬉しいかしら ね?

 

   そういえば 彼って時々 ボタン付けとか

   やってるわよねえ・・・  器用なのかなあ

 

   

   ま シャツとかズボンの繕いは

   お兄ちゃんので よくやってたからいいけど。

 

   ― ジョーってば 縫い物、 好きなのかしら・・・

 

ジョーは 縫っている彼女自身に見惚れていた ・・・とは

口が裂けても言えない のだったが。

彼女は そんなこと、思ってもみていない らしい。

 

 

 

  ― そんなほのぼのした光景があってから 数年後。

 

岬のギルモア邸では ご当主のギルモア博士、そして

一組の若夫婦 と 元気な双子ちゃん が わいわい・がやがや・・・

元気に暮らしている。

 

  もどかしい年月の後、ジョーは人生最大の勇気を発揮し

幸運にも彼女を射止めることができた。 

そして そのご褒美として 天は 彼に < 家族 > を与えてくれた。

 

 

   カチ コチ カチ コチ ・・・

 

リビングでは や〜〜〜〜っと鳩時計の音が聞こえる環境になった。

 ― つまり。 二つの台風はぬくぬくとベッドの中で丸くなっているのだ。

 

「 あ〜〜 ・・・・ あ ・・・ やっと寝たわねえ・・・

 あ・・・ 縫い物 しなくちゃ・・・ 」

フランソワーズは エプロンをしたまま 糸針のカゴを取りだした。

「 う〜〜ん この際だからまとめてリボン、付けておくか ・・・ 」

袋の中から艶々した新品のポアントを取りだす。

「 ・・・ やる! よお〜し ・・・!  

彼女は リキを入れると、 針を手に取った。

 

   チク チク チク ・・・

 

「 ふあ〜〜〜  さっぱり〜〜〜 」

ジョーが バスタオルでがしがし髪を拭きつつ入ってきた。

彼は チビたちを寝かしつけると そのままバス・ルームに直行していた。

「 ふふふ ・・・ あ  お茶 のむ? 」

「 う〜ん ・・・ あ 麦茶 ある? 」

「 ええ。 ジョーとすぴかが好きだから いつでも作ってあるわよ 」

「 わい。 では 頂きます〜  冷蔵庫? 」

「 はい  どうぞ。 」

ジョーは でっかいグラスに並々注いで戻ってきた。

 

「 ん〜〜〜〜〜〜 ま ・・・  

「 麦茶 好きねえ・・ すぴかもだけど 」

「 ウチの麦茶、美味しいもんな〜  」

「 普通の麦茶パック 使ってるのよ? 

「 う〜ん?  ・・・ ああ 水がオイシイからかな 

「 ああ そうかもね。 ウチの水は本当に美味しいわ 」

「 ん。 この辺りの地下水なんだけどね〜  

 あ〜〜〜 ウマ〜〜〜〜 」

 

半分はイッキ飲み、残りを彼はソファでちびちび飲んでいる。

 

「 ・・・ ふ〜ん ・・・ あ いいなあ 

「 え? なにが 

「 うん ・・・ きみが縫い物、してるの、好きなんだ 」

「 いっつもそう言うのよねえ 可笑しなジョー 」

「 そっかな ・・・ 」

ジョーは にこにこ・・・ 彼の細君の針仕事を眺めていたが

ふと 顔を上げた。

「 そうだ・・・ あのぉ〜〜 直してくれますかあ 

「 !  またなにか破ったの?? 」

「 う ん ・・・ ズボンが さ。 かぎ裂き。 」

「 あらあ ・・・ ちょっと見せて。 イタズラっ子さん 」

「 はい おか〜さん 」

彼は ばたばた出てゆくと 通勤用のズボン持ってきた。

「 編集部でさ ・・・ 片付け、手伝ってて・・・

 机の角にひっかけて 」

「 ・・・ あ〜らら ・・・ 無理矢理ひっぱらない。 いい?

「 はい、ごめんなさい。 おか〜さん 

彼女は 夫のズボンを受け取ると 器用に繕い始めた。

 

「 ・・・ 相変わらず 上手だね 」

「 え〜〜 そんなこと、ないわよ。 見よう見真似って感じ。 」

「 ふうん?  あ ・・・? 」

「 なに? 」

「 うん ・・・ ずっと前 ず〜〜っと前にもこんなこと、あったな〜って 」

「 縫い物は年中やってるでしょ? 」

「 う〜ん ・・・ こんな風にフランがちくちくやるの 見てて・・・

 あ どうして踊りたいのかって 聞いたんだ ・・・ 」

「 ・・・ あ   そんなこと、あったかもしれないわね  」

「 ん ・・・ きみもさ ず〜〜〜っと踊ってて・・ 凄いよなあ 

「 そうかしら ・・・ 」

「 うん。 続けるってスゴイことだと思うよ 」

「 でもね ほら チビ達が生まれてしばらく休んだし。

 今は 教える方も多くなってきたわ ・・・ もうオバサンよ  」

「 そんなこと ・・・ ぼくだって オジサン さ。

 すぴかちゃんとすばるクンとこのオジサン って 呼ばれてマス 」

「 きゃ〜〜〜 わたしもよ〜〜  すぴかちゃんちのおばちゃん だって 

 おばちゃん よ? おばちゃん! 」

「 ふふふ ・・・ ぼく イヤじゃないよ 」

「 ん〜〜〜 わたしも よ 」

 

夜も更けてゆく中 二人はに・・・っと笑顔を交わす。

サイボーグ戦士の二人は 今 人生という戦場でしっかりと

タグを組んで闘う 戦友 となっている。

 

「 う〜ん と・・・ 後でミシンを掛けて補強しておくわ。

 ねえ 他にもありませんか。 破れたシャツとか? 」

「 ― バッグとかでも いいかな 」

「 布製なら ・・・・ なんとか。 」

「 わお〜〜 ちょっと取ってくるね 」

ジョーは 再び二階へ駆け上がっていった。

その後ろ姿は 彼女の小さなムスコと そっくりなのだ。

 

    あ〜らら・・・

    なにが オジサン よ〜〜〜

    いつまでも イタズラっ子みたい。

 

    すぴかやすばるとたいして変わらないんじゃない?

 

    ・・・ あ? 

    そういえば ジョー バイクに ずっとのってないわ

    ―  そう 結婚してから …  

 

    興味がなくなったのかなあ ・・・

    でも 結構 凝っていたのに ね? 

 

       そうよ  わたし、聞いたんだったわ。

    どうして車やバイクが好きなの って。

 

    ・・・ 好きだから。 それだけ って

    ジョー、答えてたわ ・・・

 

    じゃあ 今はもっと好きなものが

    できたのかしらねえ  ・・・・

 

    仕事 とか? 

    ああ きっとそうね 

    ジョー、 一人前の男のヒトなんだもの・・・

 

 

フランソワーズは針箱を眺めつつ ちょっと気になっていたが

すぐに忘れてしまった。

 

「 あの〜〜 これなんだけど さ・・・ 」

彼女の夫は 布製のカバンを持ってきた。

「 ・・・これ?  あらあ〜〜 懐かしいわねえ〜〜

 随分前に よく使ってたじゃない? 」

「 ・・・ あ  うん ・・・ 」

「 チビたちが生まれる前 ・・・ よねえ 

 え どこが破れているの 」

「 ここ と ここ。  」

「 ・・・ あ 穴が ・・・これは擦り切れたのかもね 」

「 う〜〜ん  ずっと使ってたからね 

「 そうねえ ・・・ 内側から当て布、してみようかな 」

「 あ 穴 ふさがる? 

「 なんとか ・・・ 」

「 わお〜〜 また使えるなあ 

「 ふふふ  お気に入り? 

「 うん。  ってか・・・ コズミ先生がくださったんだ

 ず〜〜〜っと前 だけど 」

「 ・・・ ああ ああ そうだったわね 

 それじゃ 頑張ってしっかり補修するわ 

「 お願いシマス。 」

 

    コトコト   カタカタ ・・・

 

その夜も 窓は小さな音をたてていた。

 ・・・誰も気にするヒトは いなかったけれど。

 

 

 

 

 

 ― さて 数日後。  バレエ団にて・・・

 

自習をしていたスタジオで ふと、フランソワーズは

< なかま > に訊ねてみた。

 

    あの ね。 どうして 踊ってるの?

    踊る理由って なに?

 

次の公演で組むパートナー 山内タクヤ は しばし考え込んでいた。

 

「 え。  う〜〜〜ん ・・・理由なんて ね〜なあ ・・・

 踊る理由 ・・・ なあ・・・? あるかなあ〜

 ずっと踊ってきたからさあ ・・・・ う〜〜ん? 

「 そうよねえ・・ ダンサーなんてそんなもんよね 

「 あ〜  けど なんでそんなこと 聞くんだい 」

「 ちょっとね〜  わたしが聞かれたから。 

「 へえ・・・ そんでフランは ? 」

「 え? 」

「 だから〜〜 フランは どうして踊りたいわけ 」

「 同じ よ 」

「 へ? 」

「 だから タクヤと同じ。 どんな風に踊ろうか とか

 どうやって踊ろうか ・・・って考えるけど

 どうして踊りたいか ―  あまり考えたこと、 ないのね 」

「 そ〜だよなあ 」

「 ねえ タクヤはどうして始めたの? バレエを 」

「 あ〜  俺、最初は体操とかやってたんだ。

 そんで たまたま舞台みて  がび〜〜〜ん  だったわけ 」

「 え そうなの?? 舞台って何? 」

「 ・・・ 今にして思えば たぶん 『 海賊 』

 コンラッド が いや そん時はただの海賊だと思ってたけど

 かっこよくてよ〜〜  なんであんなに跳べるか ってね 」

「 へえ〜〜  ダンサーはだれ? 」

「 わかんねえんだ  プログラムとかも買ってないし・・・ 

 当時は 話の筋とかわかんなかったし。 」

「 ふうん ただ ただ コンラッドにくぎ付けだった ってわけ 

「 ん。 日本人だったのかなあ ・・・ それも覚えてね 」

「 そうなのね 」

「 フランは? チビの頃からやってたんだろ バレエ。  」

「 ええ。 ママンが あ 母がね 近くのスタジオに連れていったのですって

 おしとやかなオンナノコになって欲しいって  」

「 へ え〜〜〜  フラン ・・・ お転婆だった? 」

「 ぴんぽん。 大正解〜〜 跳んだりはねたり 大好きだったの! 」

「 ふうん  ・・・ 好きだったか? レッスン  」 

「 ん〜〜んん  最初はできないことばっかりで

 泣いて帰ったわよ  だって五番なんて できる? 」

「 は〜〜〜  そりゃいいや 

 五番ね〜〜〜 ははは 俺もさ 最初、 なんなんだあ〜〜〜 

 だったし。  ・・・ タイツになるの、ちょ〜〜恥ずかしかったし 」

 

 ( いらぬ注 : 五番 とは 第五ポジションのこと )

 

「 きゃははは・・・ タイツ〜〜 そうだってね〜〜

 男子はみんな そんなこと、言うのよ 」

「 ふん。 オンナにゃわかるまい。 」

「 わっかりません〜〜  オンナですから〜〜 わははは・・・ 」

「 おい そんなに本気で笑うなよ〜〜 」

「 だあって・・・ ぷくくくく・・・ 」

「 オトコにはな〜 オトコにしかわからん ぷらいど ってもんが

 あんの。  」

「 はいはい すいませんね〜〜  

 で 今は 白タイツで堂々と王子サマ 踊ってるわけよね 」

「 そりゃ まあ ・・・ 仕事ですから? 」

「 ふふふ そうでした、仕事です。 じゃ リハ やりましょ 」

「 おう。  ・・・ しっかしなあ〜 『 リーズの結婚 』 かあ

 なんか マイナー作品だな 

「 そう?  これ  『 ラ・フィーユ  』でしょ? 

「 え なに? 」

「 『 ラ・フィーユ・マル・ガルデ 』  

 わたし達は そう言ってたの。 」

「 へ ・・・え・・・ フランス語版 かあ 

 『 リゼット 』 っていうトコもあるな 」

「 ふうん ・・・ いろいろね 

「 ま な。 しっかし コメディってムズカシイよなあ 」

「 あら GP ( グラン・パ・ド・ドゥ ) だけよ?

 全幕じゃないし ・・・ コメディタッチな振りはないでしょ 」

「 まあ〜な・・ あ〜〜 俺 フランとなら

 『 海賊 』 とか 『 ドンキ 』 とか〜〜〜

バリバリやりたいんですけど〜〜 」

「 ふふふ それはもっとお若い方とどうぞ。

 オバサンには コメディ が丁度いいの。 」

「 ・・・ ! フラン〜〜 俺なあ 」

「 さ やりましょ。 一応 通してみる? 」

「 ・・・ あ  ああ  うん。 」

 

フランソワーズと山内タクヤは 座り込んで、

でも ぐだぐだストレッチをしつつ おしゃべりをしていたのだが

さっと立ち上がった。

 

「 このGP やったこと ある? 」

「 あ〜 ヴァリエーションはあるけど 」

「 わたしもよ。 アダージオもコーダも やったことないわ  

「 ほんじゃ 二人で < 練習 > しようぜ 」

「 はい〜 お願いシマス 

「 お願いシマス。 

ぺこり、と挨拶をしあう。

「 音 出すね〜〜 」

「 おう 」

 

   〜〜〜♪♪  ♪

 

牧歌的な緩やかな音楽が流れる。

二人は ゆっくりと踊り始めた。

 

「 ん〜〜〜〜 ・・・ なんか しっくり行かねえなあ 」

「 ・・・ ん ・・・ 」

 

アダージオの途中で 二人は踊りを止めてしまった。

「 振り 合ってるのに・・・ 

 わたし 『 ラ・フィーユ 』 は う〜んと昔に

 ヴァリエーションを 踊ったはずだけど 振りも忘れてたし。 」

「 俺 全然 お初なんだよなあ〜 

 ゆっくりの三拍子って ・・・ ムズいな 」

 

二人は 音ナシでもう一度振り合わせを始めた。

 

「 で ・・・ ここでリフト〜 」

「 ん。 普通にウェストだよな〜 」

「 そ ・・・  順番は入ってるんだけど 〜〜 」

「 な〜んか なあ・・・? 」

「 音 流してみる? 」

「 うん そだな〜  音楽鑑賞の時間で〜す ってさ 」

「 ぷぷぷ・・・ もう〜 タクヤって 」

笑い声の間を のんびり・・・少々古めかしい音が流れてゆく。

 

   コンコン ・・・ 入口近くの壁が鳴った。

 

「 ? あ  マダム 」

自習をしているスタジオの戸口に このバレエ団の主宰者、

団員達の通称・マダム が立っていた。

「 リーズ組 リハ中に失礼〜〜〜   どう? 」 

「 あ あ〜〜〜 なんか こう〜〜 」

「 なんか こう? 」

珍しく歯切れの悪いタクヤの口調に マダムは少し目を見張った。

「 あ あのう ・・・ 二人で苦戦してます 」

「 フランソワーズも?  貴女、踊ったこと、あるでしょう?

 パリで・・・ 」

「 あのぅ ジュニアの頃、ヴァリエーションだけ・・・なんです 

「 あら そうだったの?  じゃ いいチャンスじゃない? 」

「 え・・・ 」

「 古い作品だけど 学ぶ点はた〜〜〜くさんあるわ。

 タクヤ、 君は < 目がテン > なんでしょ 

「 え  あは・・・ そ そう かも・・・ 」

「 ここのライブラリーに いろんなビデオ、あるから。

 古いのとか 見て研究してね〜〜 」

「 はい  あの 振りは入ってるんですけど 」

「 あの〜〜 ど〜もピッタシ来なくて〜〜〜 」

 

  ふうん・・・?  マダムは軽く笑い声を立てる。

 

「 まあ 二人してう〜〜んと悩んでネ〜〜〜  楽しみにしてるわよ 」

「 え・・・ 」

「 ニンゲンだからさ 悩めるんだからね〜〜〜

 だって・・・ ほら AIだっけ? ああいう機械は 踊れないでしょ 」

「 あは〜〜 確かに〜〜 」

「 ・・・・・・ 」

マダムの冗談を タクヤは軽く笑って流したけれど

 

     ・・・・  !

     そう よ。  そうなの よ。

 

     003 では 踊れないの。

     機械は 踊れない。  踊れないのよ。

 

フランソワーズは 懸命に笑顔を保っていた ・・・

 

 

Last updated : 08,04,2020.             index      /     next

 

 

************   途中ですが

バレエ物です〜〜〜  久々 タクヤ君 登場☆

タイトルは  『 跳びたい理由 』 かもしれないな〜〜

って 今 思ってます が・・・・  続きます (*_*;