『 どこに続く道 ― (2) ― 』
職員室では大騒ぎだけれど 肝心の本人たちは というと・・・
「 ただいま〜〜 」
わたなべ だいち君は いつもの如くのんびり帰宅した。
塾に行ってないし 部活は三年生はそろそろ引退時期なので
ヒマなのである。
丸顔笑顔のお母さん キッチンにいる。
「 おかえり〜〜 焼きお握り あるわよ 」
「 わお♪ やた〜〜 」
彼はさっそく手を伸ばし・・・
「 こら。 手 洗ってウガイしてから 」
「 へ〜〜い あ か〜さん 店は? 」
「 これから出るわ。 あ だいち。 全国テスト どうだった 」
「 あ うん ・・・ 一位 」
「 ― え? 」
「 なんかね 一位だった 数学。 すばると同率一位 」
「 ・・・ ホント ・・・? 」
「 ホントだって! ほら 」
だいち君は なにやら紙切れをポケットからひっぱり出した。
お母さんは そのくしゃくしゃ紙を広げ伸ばしてからじっくり眺めた。
「 ・・・ う ウソ ・・・ 」
「 ウソじゃね〜よ よく見なよ 」
「 ・・・ ホントだ ・・・」
「 だから ホントだって言ってるじゃんか 」
「 なんで ・・・ 」
「 知るかよ〜〜〜 でもな〜 数学だけじゃなくて 試験問題さ〜
どれも どくた〜 んとこでやるヤツの方が ず〜〜〜っとムズカシイよ 」
「 ! そう〜〜 やっぱり ギルモア先生のご指導のお蔭ね! 」
「 う〜ん ほっんと難しいんだぜ〜 あ 焼き握りは 」
「 はいはい 熱くしておくから 手! 」
「 へいへい あ〜 親父にも伝えといて 」
「 わかってるって。 おと〜さんもびっくりよ〜 」
「 ちぇ 俺って信用されてね〜な〜 」
「 だってね 全国一位なんて♪ あ 今晩も行くのよね 」
「 ん。 」
「 また ブレンド、もっていってね。 お父さんの新作だって 」
「 へいへい あ どくた〜 も すばるんちのオジサンもオバサンも
いつもありがとうございます ってお伝えください ってさ 」
「 そ〜いうこと、聞いたらすぐに言う。 いい? 」
「 へいへい あ〜〜 焼きおにぎり〜〜 」
「 うがい 手洗い。 」
「 わ〜ったってば 」
だいち君は のったりくったり洗面所に行った。
ららら〜〜〜♪ キッチンではお母さんのハナウタが響く。
その笑顔は 珈琲店にも広がるだろう。
わたなべ だいち君ちでは お父さん・お母さんのびっくり笑顔 で
いっぱいになっていった。
― 一方 岬の家では・・・
「 ただいま〜〜 」
「 お〜〜 腹 減ったぁ 」
珍しくも 姉弟は一緒に帰宅した。
「 おかえりなさい あら 珍しいわねえ 」
母は 笑顔で迎えてくれたが かなり驚いている。
「 ふ〜んだ。 のろくさ歩いているヒマ人を
追いこしただけです。 」
「 い〜じゃね〜かよ〜〜 部活もね〜んだし 」
「 ふ〜らふら道草してさ〜〜 小学生のチビみたい すばるってば 」
「 うっせ〜な 俺の勝手だろ 」
「 アタシが追い抜いたって アタシの勝手! 」
「「 ふん ッ !! 」」
相変らず < 合わない > 双子なのだが ―
「 ほらほら ケンカしない。 」
「 べつに〜〜 ケンカなんかしてないし〜〜
チビっこじゃあ あるまいし 」
「 俺 かんけ〜ね〜し 」
「 わかりましたよ さっさと手洗い ウガイして。
あ すぴか すばる〜 この前のテスト できたの? 」
「 あ〜 一番 だった 数学 」
「 英語ね〜 10位以内に入ったよん 」
「 あら よかったわね〜〜 オヤツ、できてるわ
ほらほら 手、洗って うがい! 」
「「 わい〜〜〜 」」
どたばたばた〜〜 それこそチビの頃みたいに 二人は駆けていった。
「 あ 靴下 きたないわねえ・・・
ま〜〜ったく幾つになったのかしらねえ 〜 二人とも 」
母は でもちょっと楽しそうに 玄関の板の間を
モップできゅ きゅ っと磨いた。
「 ・・・っと これでいいわ。
さあて ミルク・ティとコーヒー 淹れておきましょ。
ふふふ〜〜ん 今日はサツマイモとコーン。
蒸し器 使ってみたんだけど甘くなったかなあ 」
フランソワーズは 嬉しそうにキッチンに戻った。
一番だった〜 十番に入ったよ〜
コドモ達の報告に そうなの〜〜 と笑顔で応えたけれど
このお母さん はどうもピンと来ていない ・・・らしい。
彼女にとっては お行儀よく きちんとした生活態度 の方が
ず〜〜〜〜っと大切なことなのだ ・・・ 多分。
その夜 ―
子供たちが私室に引き上げてから のこと。
ジョーは いつもの如く、遅く帰宅した。
「 え!?? 一番・・・・? 」
ジョーは 双子の父親は あんぐり・・・口を開けた。
「 ええ そんなこと 言ってたわ すばる。
ああ すぴかは 英語が十番以内 だって 」
「 す す すばるは ・・・ なにが一番 ? 」
「 あ・・・ なんだったかしら・・・ 」
「 おい〜〜〜 なにか結果の記録を見たんだろ??
その テストのさ。 」
「 さあ・・・ 二人はもってると思うけど?
あ 思い出したわ〜 すばるはね 数学だって 」
「 す す 数学で 一番??? ウソだろ〜〜〜〜 」
「 あら。 すばるは アナタの息子は 親にウソをつくような
子じゃありません。 そんな風に育てた覚えもありません。 」
「 わ わかってるって。 きみの子育ては 素晴らしい〜〜
で マジ、 一番・・・? 」
「 うん。 なんかね〜 だいち君と二人で満点だったんですって 」
「 ひえ〜〜〜〜〜〜 あのすばるが ・・・・!
ぼくの息子が ・・・ 」
「 わたしの息子でもありますから。
ジョー? 数学 得意じゃなかったの? 」
「 ああ てんでダメさ。 きみは・・・ああ 理系だよなあ 」
「 わたし 好きよ、数学。 物理も♪
あのね バレエもねえ ものすご〜く数学的なのよ?
8つの方位が決まってて 脚の動きもアームスも 全部決まってるの 」
「 へ ・・・・ え ・・・・
あ すぴかは英語か? すげ〜〜な〜〜 アイツ・・・ 」
「 うふふ・・・ いいことよ、楽しみ〜〜〜
すぴかには 世界に羽ばたいてほしいの。 」
「 え ・・・ オンナノコなのに 」
「 あらあ その言い方って差別的! 」
「 スイマセン でもなあ〜〜 すぴかはさあ
側にいてほしいんだよ 」
ジョーは 小さいな頃から お父さん子の娘が
可愛いくて可愛いくてならないのだ。
「 ムスメはね 遅かれ早かれ出てゆくのよ 」
「 ・・・ う・・・ 可愛いすぴかあ〜〜〜
嫁に行くのかあ・・・ お父さんとこから離れて ・・・ 」
「 あのねえ! すぴかもすばるも。 まだ中学生です 」
フランソワーズは すでに涙声の夫に やれやれ・・・・な顔だ。
「 あ そ そうだよね ・・・
あ でもさ それじゃ二人とも県立翠が丘は なんとか
パスできると いいなあ 」
「 あ〜〜 そうねえ 二人とも行きたいリセに進めると
いいわねえ 」
母は のんびり のほほ〜〜ん と言う。
彼女には この国の教育体制というか この世の中の仕組み?
みたいな事には イマイチぴんと来ていない。
ジョーは ある意味、アウトローからなんとか這い上がったので
切実な問題なのだ。
アイツらは あんな苦労しなくていい。
ぼくが 護る。
だから まっすぐに望む道を行け。
ジョーは 子供達が生まれた時から 固く固く決心している。
「 あのね。 イロイロあるんだよ〜〜〜
まあ 成績がいいにこしたことはないけど ・・・・
すばるは ず〜〜っと工学部志望だしなあ。
国公立に進むなら 県立翠が丘 は 必須だし 」
「 あらあ〜 もうそんな先のこと、心配してるの?
うふふふ ・・・ ジョーって心配性なのねえ〜 」
「 あのなあ ・・・ 今から考えておかないとさ 」
「 あら 子供たち自身のやる気と責任でしょう?
わたし達は見守るだけよ 」
「 そりゃ ・・・ 理想はそうだけど さ 」
「 あら ちがうの? わたしの両親は 黙って見ててくれたわよ 」
「 まあ そうできればいいけど 」
「 でしょ♪ 」
「 とにかく! すぴかもすばるもスゴイよ〜〜〜〜
ふっふっふ〜〜〜 さすがぼくの娘と息子♪ 」
「 あのね。 博士の 掘っ立て小屋教室 のお蔭よ。
わたなべクンのお母様からも ありがとうございます って
お電話頂いちゃったわ。 」
「 へ え どんな授業 やってるんだろ? 」
「 さあ・・・? でもね 楽しいらしいわよ?
だって 二人とも文句も言わずちゃんと参加してるし。
わたなべクンなんて あの坂を自転車でが〜〜〜っと
登ってくるのよ 」
「 すっげ・・・ 若いなあ 」
「 いいことよ いっつも三人一緒仲良しで♪
博士もね とても楽しそうなの。 ものすごく元気に
なられたと思わない? 」
「 それは確かに! また 囲碁会館とかにも行かれるように
なったしなあ 」
「 そうよね。 お散歩もね また早朝からなさっているの。 」
「 ふふ チビ達からエネルギー だね 」
「 ええ ・・・ どんどん大きくなって ・・・
・・・ ううん ・・・ なんで大きくなっちゃうの?
ずっと ず〜〜〜っと 赤ちゃんのままだったら よかったのに ! 」
ぽとり。 碧い瞳から大粒の涙が落ちた。
「 フラン ・・・ 」
「 ずっと赤ちゃんだったら ず〜〜〜っと一緒にいられる・・・
ずっと側にいられる の に・・・ 」
「 フランソワーズ。 」
ジョーは そっと彼の妻を抱き寄せた。
「 フラン。 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ ああ でも ・・・ 」
「 フラン。 まだまだ先のことだろう?
それまで たくさん たくさん愛してやろうよ
もういい・・・って言われるほど
たくさんよ・・・って 迷惑がられるほど 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
子供たちとは そんなに遠くない日に < お別れ > しなければ
ならない。 永遠に齢をとらないモノは ひっそりと姿を消さねばならないのだ。
「 ・・・ ごめんなさい ・・・
あの子たちが 生まれた時からわかっているはずなのに ・・・ 」
「 一日 一日 大切にしよう。 ね? 」
「 そう ね・・・ そう ね ・・・ 」
「 ぼく達の天使達との時間を 愛してゆこう 」
「 ・・・ ん ・・・ ジョー ? 」
「 なに 」
「 ジョーが いてくれて ジョーがあの子達のお父さんで
ジョーが わたしの夫で よかった ・・・ 」
「 フラン ・・・ ありがとう 」
「 なぜ? 」
「 なぜでも 」
「 ・・・ ふふ 可笑しなジョー ・・・ 」
「 やあ 笑ったね。 ぼくの一番大切なひと 」
「 やっぱり あの子達がいて よかった ・・・
」
「 うん。 うん 」
「 ・・・ 」
二人は ゆったりと寄り添い互いの存在に感謝した。
いつもと同じ穏やかな夜は 静かに更けていくのだった。
愛する人を腕に抱いて ジョーは実にしあわせ〜〜〜満点で
眠りに入った ― はず なのだが。
わさわさわさ !
ジョーの身体は 激しっく揺り動かされた。
う ・・・? なんだ 地震か?
いや ちがう な
え もう 朝 か・・・?
彼は 半分以上睡眠の世界の中で ぼんやり感じていたが。
わさわさわ〜〜〜 !!!
揺れは 止まらない。 どころか どんどん激しくなるのだ。
― そして。
「 ねえ ねえ ジョー ってば ねえ! 」
耳元で 聞き覚えのある声が かなりの大きさで彼を呼ぶ。
「 ・・ う ・・・ な なんだ ・・・ 」
「 起きて ジョ― 」
「 ・・・ もう 朝? 」
「 ちがうわ! まだ 夜中よ
」
「 ・・・ なら 寝かせてくれ ・・・ 」
「 ねえ ジョー。 数学 得意じゃないって言ったでしょ? 」
「 ・・・ ふぁ〜〜〜 え なに 」
「 だから〜〜 数学! 」
「 ・・・あ? あ〜 うん すうがく? 」
「 そうよ! 得意じゃなかったって! 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 それなら ミッションの時 射撃はどうしているわけ??
人工頭脳の計算だけに頼ってるの? 」
「 ・・・ あ 〜 ? 」
「 だから 射撃! スーパーガンの! 」
「 あ ああ ・・・う〜〜ん カン かなあ 」
「 うそ・・・・ マジ? 」
「 マジ。 ・・・・ おやすみ・・・ 」
「 ちょっと! ねえ 起きて!
ダメよ そんな精度の低いこと やってたら。
あのね 数式をつかって瞬時に最適なコースを計算する!
数式は 〜〜〜 よ、 わかってる? 」
「 へ ・・・? 」
「 補助脳は十分に活用する必要はあるけれど
そこに適切なデータを与え 使いこなすのは ニンゲン よ! 」
「 ・・・ へいへい ・・・ 」
「 いいから 数式、ちゃんとアタマ 入れて 009! 」
「 う ・・・? 」
細いが力強い腕が 彼を引っ張り起こした。
「 さあ 裏庭に出て! トレーニングよ 」
「 と とれーにんぐ??? ・・・ この時間に 」
「 ミッションに時間なんか関係ないでしょう? さ 行くわよ 」
妻はすっかり 003の顔 になり とっとと出ていってしまった。
ちょ・・・ マジかよ〜〜〜〜
カンベンしてくれぇ〜〜
やる気満々じゃね〜か・・
放っておいたら 後がコワいし〜〜
・・・ ちぇ ・・・
ジョーが もそもそ起き出すと ― ベッドの上には
「 ! ここでコレ 着ろってのか〜〜〜 」
例の ド派手な服が一式、 きっちり置いてある。
「 マジかよ〜〜〜〜 どうかしたのか ウチの奥さんは 」
ぶつぶつ言いつつも 彼は一応着替えて
そ〜〜〜っと裏庭に出た。
ひゅう〜〜〜〜
夜風は案外冷たくて。 真夜中の裏庭は < 荒野 > だった。
「 ひえ・・・・ さむ ・・・ えっと フラン? 」
わ〜〜〜っはっはっは〜〜〜
突然 笑い声が響いてきた。
「 は? 」
すっく。 人影が現れた。
「 ― フラン ・・・? 」
「 ふふん ワタシだ! 」
その人影は 唐草模様のでっかい風呂敷を肩に背負い
子供たちが小さい頃のお祭で買った お面 をつけていた。
「 は あ??? ・・・ フランだろ ? 」
「 かかってこい 009〜〜 」
「 おい フラン。 ふざける時間じゃないだろ 」
「 009〜〜 スカールさまだあ〜〜
かかってこい 我をたおしてみよ 」
「 ・・・ ごっこ遊び なら昼間やってくれ。
さあ もどって寝よう 」
ぱん。 003は差し出された手を 払った。
「 ― 009。 じゃあ 伺いますが。 」
< すかーる様 > は お面を外したが その下からは
いたって厳しい表情が現れた。
「 ・・・ フラン?? 」
「 フラン、じゃありません。 答えてちょうだい、009。 」
「 は・・・? 」
003は まっすぐに彼を見つめたまま 静かに口を開いた。
「 答えて頂けないのでしたら わたしから言いますが 」
「 な なにを ・・・? 」
「 どうぞ黙って聞いて 」
「 は はい 」
そして ―
いついつの時の 誤射はなんで? あの時 随分無駄玉を撃ってたわよね?
その時どうして一発で仕留めなかったの? 仲間に怪我させるってひどくない?
あの時 この時 その時 ― あなたは ああだった こうだった 失敗してた
003は 009の歴代数々のチョンボを事細かに言い募り始めたのだ。
・・・ まるで浮気症の夫を責める妻のよ〜に。
「 ― ふ フランソワーズ ・・・ 」
ジョーは 一言も返すことができず ― だって彼女の指摘は
全て 真実 だったから ・・・ !
「 ― つまり。 全ては カンに頼っているから です! 」
「 ・・・ ハイ 」
「 009なら。 最新・最強のサイボーグなら
数式を! 論理に基づいた 数学的見地に支えられた行動を
とるべきです。 」
「 ・・・ ハイ。 」
「 では。 トレーニングを開始します。
反撃しなさい。 ただし データを駆使し計算して行動すること。
了解しましたか。 ― 行きます! 」
ヴィ −−−−−− ! スーパーガンが炸裂した。
「 ! う うわ〜〜〜 」
< すかーる様 > は寸分たがわず009の胸元を狙ってきた。
わ〜〜〜 はっはっは 次は手加減せぬぞ〜
「 ・・・ じょ 冗談じゃあないよ〜〜〜 もう〜〜〜 」
009は慌てて 反撃したが ― 久々なので的外れもイイとこだ。
「 ち ・・・ 」
だらしないぞ それでも009か〜〜
ヴィ −−−−− !!!
「 うわ ・・・ っ ちょ ちょっと待てってば〜〜 」
甘い ! 甘いぞ 009〜〜
わ〜〜っはっはっは〜〜〜
「 く くっそ〜〜〜 ・・・ ホンキで撃つわけには
ゆかんじゃないかあ〜〜 」
かかってこい!
さあ 009 このスカールを斃してみよ!
「 ・・・ くっ! 」
ジョーは いや 009は 本気になって攻撃を開始したが
― マジで撃っても 彼のスーパーガンはことごとく避けられてしまった。
しっかり計算するっ !!
こんな簡単な数式 暗算して!
「 ・・・・ う〜〜〜〜 」
003 の特訓は 未明まで続いた・・・
「 おはよ ・・・ 」
翌朝 すばるはいつにも増してぼ〜〜っと 食堂に現れた。
「 すばるクン。 早く食べないと遅刻よ 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
「 あんた 顔 洗った? 」
ほぼ食べ終わっている姉が じろり、と見る。
「 ・・・ あとであらう 」
「 きゃ〜〜〜 やだあ〜〜 」
カタン。 すばるはぼ〜っと椅子に座った。
「 ・・・ 俺 アタマ ヘンかも 」
「 今ごろ気づいたんだ〜 」
「 うっせ〜よ 昨夜さあ 妙〜〜にリアルな夢 みてさ。
なんか戦隊モノのヒーローが 悪の親玉と対戦してるんだ
ウチの裏庭で ・・・ 」
「 ホンマジで あんた アタマ、ヘンだよ 」
「 ・・・う ・・・ なんかさ ヒーローは赤い服だったから
あれは なんとかレッド だろうなあ 」
「 へ〜え ・・・で なんとかレッド は 勝ったの? 」
「 あ うん 辛うじて ね 」
「 へ〜え〜〜 あんたさ ・・・ 隠れオタクだって 知ってるよん 」
「 あ し し〜〜〜〜っ ! お袋には ナイショ 」
「 ふん。 チクる なんてガキじゃね〜よ〜 アタシ。
先 ゆくよっ 」
「 ん ・・・ 」
すばるは 黙ってパンにジャムとピーナッツ・ばたーを塗りたくる。
甘いの 塗りすぎ すばるクン! 没収!
いつもは 母の手が伸びてくるのだが 今朝はフリーだ。
すばるは内心 ほくほくしていた。
・・・ なんとかレッド じゃないんだけど
昨夜は 悪の親玉 の方が勝ったんですけど
両親は素知らぬ顔で朝食を取っていたが ―
それぞれ鋭いツッコミを入れていた・・・
・・・ でも 誰もわかってくれなかった ・・・
夜中の特訓 は その後もしばらく続いたが
翌日からはどこからも見えないように 裏山で行われ ・・・
「 おと〜さん ・・・ どこか山奥に取材? 」
朝の食卓で すぴかは 父の顔をまじまじとみつめる。
「 おはよ・・・ え ・・・ なんで 」
「 だってさ 顔。 引っ掻き傷だらけだよ?
あ〜〜 お母さんが? 」
「 え な なにを ・・・ 」
「 おか〜さんに引っ掛かれたあ? ははあ ・・・浮気したんでしょ? 」
「 ば バカなこと 言うな。 これは ・・・
あ〜 そう 仕事 で さ。 」
「 ふ〜ん ま そういうことにしときましょ。
まあね 痴話げんかもほどほどに〜〜 」
「 おい すぴか〜〜〜 」
思春期のわりには モノわかりのいい娘は に・・・っと笑い
登校していった。
「 なんだよ〜〜〜 アイツ〜〜 」
「 あら ジョー どうしたの? 」
「 あ・・・ い いや なんでも ・・・ 」
「 そう? ねえ その顔・・・ マズくない?
博士に 仮の人工皮膚、貼っていただけば? 」
「 ・・・ そう したほうがいいか・・・ 」
ムスメだけじゃなくて 世間サマにも
ヘンな誤解されて たまるか〜〜
ジョーは ぼそぼそ呟くと 博士の書斎をノックしていた。
― そして 次の年の春。
三人は 無事に 県立翠が丘高校に進学した。
で ・・・。
「 すばる〜〜〜〜〜 いい加減で起きなさいっ
遅刻するわよっ すぴかはとっくに出かけたわ 」
どんどんどん ドアの向うで母の高声がひびく。
「 ・・・ う〜〜〜〜 わ マジ やば! 」
「 もう〜〜 高校生になっても全然変わらないんだからあ 」
バタバタバタ −−−−
すばるは ウチ中を駆け抜け 制服のネクタイを結びつつ
玄関から飛び出していった。
「 いってらっしゃい〜〜 鞄 もったあ? 」
「 ― もってるよっ !! 」
「 すばる〜〜 弁当!! 」
今度は 父親が追いかけてきた。
「 あ〜〜〜 おと〜さん もってきて〜〜 」
「 っとに〜〜〜 」
ジョーは 門のところで息子においつくと 特大の弁当箱を
渡した。
「 ほら! 忘れるなよ 」
「 サンキュ〜〜 イッテキマス〜〜 」
ダダダダ −−−−
「 お〜い 転ぶなのよぉ〜〜 」
ジョーは門の外で 坂道を駆け下りてゆくすばるを見送っている。
「 ・・・ あのまま どっか飛んでゆきそう 」
フランソワーズも 夫の隣に立った。
「 ふふ Take off ! ってね 」
「 ね? 新しい世界へ 飛んでいっちゃう ・・・ 」
「 それで いいんだよ。 」
「 ・・・ ええ ・・ 」
「 アイツらは 自分の道を駆けてゆくのさ。 」
「 ― どこにゆくのかしら 」
「 さあ ねえ 好きにするさ。 」
「 ええ 自由に飛んでいってほしいわ 」
「 ・・ ん ・・・ 」
ジョーとフランソワーズは 黙って子供たちを見送っていた。
どこへ続く道だろう
あなただけが 知っている。
************************ Fin.
**********************
Last updated : 04,21,2020.
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************ ひと言 *********
【島村さんち】 シリーズは 年月が経つほど
切ないなあ〜〜〜 (;´Д`) な気分になってしまいます。
最後の 二行は 小学校の卒業文集に
ある先生が書いてくださった詩です。