『 伝説 ― (10) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
*********** ここより永遠に ・・・
す す す ・・・ た た た ・・・
毛足の深い絨毯を踏んで フランソワーズは進んでゆく。
ジョーは 彼女から三歩後ろを 周囲に油断なく気を配り歩む。
彼女は 全く振りかえらず 彼も一言も発しない。
しかし 二人の息はぴたりと合っていて 二人の間の距離は
常に一定である。
「 ― 謁見室でございます。 陛下がお待ちでいらっしゃいます 」
例の慇懃無礼?な召使いは 淡々と述べると扉に手を当てた。
「 ご案内して参りました 」
ギ ギギギ −−−−
彼の声が合図なのだろう、扉がゆっくりと重々しく開いた。
・・・ いよいよ ね!
さあ 本番よ フランソワーズ。
フランソワーズは く・・・っと小さく息を飲むと
ゆったりと ― きわめて優雅に歩き始めた。
まあ 足が絨毯に埋まるわ?
へえ〜〜 すごい豪華な部屋 !
奥深い部屋は 廊下より一段と温かく天井やら壁面には多数の
シャンデリア が煌めく。
その明かりは まるで真夏の太陽のごとく部屋中を照らしている。
奥には 床が一段高くなっていて ― 玉座が設えてある。
毛皮で深く覆われているので 椅子は見えないが
脚は彫刻を施した猫足の豪奢なものだ。
カタン。 玉座にいた人物がゆっくり立ち上がった。
フランソワーズは 全身の神経を集中させた。
誑かされない。
さあ どんと来い だわ。
彼女は 魅惑的な微笑を浮かべつつも 全神経を張り詰める。
この宮のどこかに
本当の イワン雷帝 がいるのよ
あの娘が教えてくれたわ・・・
もう少しだけ お待ちください
わたしが 救出いたします。
一見 軽やかで華やかな少女の足取りで 敵との距離を少しづつ縮めてゆくのだ。
ここは敵の本拠地。
わたしは何も知らない無邪気なお姫サマなの。
― 女の子になにができるかって?
ふふふ ・・・ さあねえ
でもね ちゃあんとわたし達の味方もいるのよ。
知らずに 情報を提供してくれたわ
そう 宮殿の中に意外にも重要な味方がいた。
― 可憐な・・・ いや みすぼらしい下働きの姿で・・・
来賓の間に クビクロの忘れ物を届けてくれた少女だ。
庭番の下働きの彼女は 嬉しそうにスカーフを頂き首に巻いた。
「 わあ・・・温かいです それに いい匂い・・ 」
「 わたしの使っているもので ごめんなさいね 」
「 いいえ いいえ! ありがとございます〜〜 」
彼女は頬にもひび割れの跡が見えた。
「 ・・・ ねえ お仕事 ・・・ 辛いのではない?
まだ小さなアナタが庭仕事の下働きなんて ・・・ 」
「 え ・・・ あの あたし ・・・ < 規格外れ > ですから。
仕事、させてもらえるだけシアワセです 」
「 きかくはずれ・・・? 」
「 あの それに お庭はキレイだから・・・ 好きです
赤さんのお世話も 辛くないです・・・ 赤さん 可愛いし・・・
でも ・・・ 」
「 なあに。 話してくださる? 」
「 は はい・・ でも ・・・
あの 誰もあの赤さんのところに 来ないんです
お母さんはいないのかなあ ・・・ 」
「 そう ・・・では あなたがお母様の代わりをしているのね 」
「 え ・・・ あ〜〜 そっかあ・・・
そっかあ〜〜 あたしがおかあさん ・・・ うふふ 」
少女は はにかんだ様子で、でも笑顔を見せた。
「 大変なお仕事なのね。 頑張っているのね
わたしに話たりして・・・大丈夫? 叱られたりしない? 」
「 ・・・ あたしのこと、気にするヒトなんかいません ・・・
でも でも このことはお話したくて 」
「 ・・・ その赤さんのこと? 」
「 わかんないですけど ・・・ あの あたし 見たんです。
あたしがお世話してる赤さんの部屋から 大きな鳥が
飛んで出てゆくとこを・・・ 二羽も 」
少女は一途な瞳を フランソワーズに向けていた。
「 え ・・・ 大きな鳥? 」
「 そうなんです。 あの赤さんの部屋には誰も訪れなくて・・・
お世話するあたしだけ なんです 」
「 ・・・・ 」
「 ホントは あたしが窓を開けてたから なんですけど
・・・ あんまりいいお天気だったから・・・
そしたら あたしがいない時に 鳥さんが来たみたいで ・・・ 」
「 ! そうだったの・・・! 」
「 でも あの鳥は きっとイイコトのしるしだって思ってて・・・
そしたら 外国からお姫様がいらっしゃるってきいて 」
「 そう ・・・ その鳥達はどんな様子だったの 」
「 え ・・・ あの なにか足につけていました
あ べつにお部屋の中でイタズラをしたとかじゃ ないです 」
「 そうなのね 」
「 はい。 だから 不思議だなあ〜 って思って 」
「 ・・・・ 」
「 あのう ・・・ お姫さま。 伺ってもいいですか 」
「 あら なにかしら。 どうぞ? 」
「 あのう あのう 」
少女はすこし躊躇ってから 小さく言った。
皇帝陛下の お嫁さまになられるのですか?
「 ・・・ そんなウワサがあるのかしら 」
「 なんか 皆 言ってます。 あ 宮殿に仕える方々とかですけど・・・
皇帝陛下は 外国のお姫様をお嫁さまになさる って 」
「 そう ・・・ あなたはどう思う? 」
「 え ・・・? 」
「 わたし 皇帝陛下の皇妃になれるかしら 」
「 ・・・ あ あのう〜〜〜 」
少女は俯いてしまった。
「 どうしたの ・・・? 」
「 あ あのう・・・ あたし。 姫様のこと 好きです。
だってとても温かくて優しい方だから ・・・
犬さんもそう言ってました あったかいヒトだよ〜って。 」
「 え・・・ クビクロの言うコトがわかるの? 」
「 あたし ヒトは苦手で ・・・
木や草や花や ・・・ 動物とならすぐに仲良くなれるんです 」
「 すごいわあ〜〜 」
「 だから その ・・・あたし の好きな姫様・・・
あたし ・・・ あの あたし ・・・ 」
少女はますます口ごもる。
「 なあに? 言い難いなら言わなくてもいいのよ 」
「 ・・・ いいえ いいます。
あたし ・・・ 皇帝陛下 ・・・ 好きじゃないです。
動物たちも花たちも鳥たちだって 皆 ・・・ そっぽ向いてます。
・・・ だって < 冷たい > ・・・ 」
「 冷たい?? 」
「 はい ・・・ そのう・・・ いつもあの方の周りは
真冬の空気みたい。 雪も氷も動かない 真冬の夜みたい ・・・
あ ご ごめんなさい よけいなおしゃべりして ・・・
失礼します あ このスカーフ 本当にありがとうございました 」
少女は それだけ言うと駆けだして行ってしまった。
「 ・・・・ 」
フランソワーズは じっとその小さな後ろ姿を見送った。
真冬の夜みたい、 か・・・
なるほどねえ 上手いこと、いうわね。
< 冷たい > 皇帝陛下 か
ほんの短い会話だったけれど それは彼女の胸に深く沈みこんだ。
― その日の夕方。
「 どうぞ。 謁見の間へ。 ご案内申し上げます。 」
仮面のように無表情な召使いが やってきたのだった。
「 わかりました。 伺います。 少し待って ・・・ 」
「 かしこまりました 」
召使いがドアを閉め 部屋の外で待機している。
「 大丈夫でしょうか 」
ぴったりと側に控えるジョーが ぼそッと言った。
「 大丈夫。 わたし達は 一応、仏蘭西王国に正式な使者だし。
公式の謁見の場で いきなり妙なことはしないでしょう 」
「 しかし・・・ ヤツは 黒い悪魔 ですよ?
フランソワーズ、十分に警戒を ・・・
ぼくは剣の緒を切っておきます。 」
「 わたし達 ・・・ 相棒でしょ♪ 」
「 は はい 」
「 わたし ちゃんとヒルダ妃様からの帷子を着ているわ。
あ クビクロも一緒よ ジョーもちゃんと着てね 」
「 はい。 あ クビクロも連れていっていいのですか 」
「 あらあ〜 彼も我々の相棒ですもの。
愛犬を同伴するのが 仏蘭西宮廷のしきたり、と言うわ 」
「 ・・・ ありがとう! 」
わん!!! クビクロの茶色毛が艶々と光る。
「 ― 姫様 ・・・ 正式のドレス姿でないのが
残念です ・・・ぼ ぼくは ・・・ 貴女が 」
「 え〜〜 あら この恰好がわたしの正装よ。
― さあ。 行きましょう 」
「 はは! 」
フランソワーズは 純白のシルクのブラウスに練り絹のチュニック。
金糸銀糸で仏蘭西王国の国花、薔薇が刺繍してある。
裏付きの長い銀色のマントを肩から靡かせる。
黄金の鞘に納めた剣を腰に 白いタイツの脚はしなやかだ。
ぴたり、と付き従うジョーは これは大地の色の騎士装束。
甲冑こそ身につけてはいないが 象嵌を施した鞘に長剣を納め携える。
彼の側には 茶色毛の猛犬が不敵な面構えで油断なく控えている。
― 彼らは 磨き上げた御影石の廊下を通り 謁見の間へ・・・
仏蘭西王国第一王女 フランソワーズ殿下 どうぞ
名を呼ばれ 彼女はゆっくりと広間に脚を踏み入れた。
「 ようこそおいでになった! フランソワーズ王女殿下
そして ナイト・ジョー 」
部屋の玉座には イワン雷帝 と名乗る皇帝が二人を迎えた。
彼は 背の高い眉目秀麗な青年だった。
銀色の髪を揺らし鷹揚に そして 磊落に笑っている。
・・・ イワン帝 ・・・?
「 初めてお目にかかります。 仏蘭西王国第一王女、フランソワーズです 」
男装をしているので 彼女は騎士の礼をした。
玉座の青年は 一応笑みを湛え 頷いている。
「 世継ぎの姫君に わが北方の帝国までわざわざ足を運んで頂けるとは
光栄の限りですな 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズは 優雅に微笑を返した が。
世継ぎの姫 ・・・?
― ああ そうか。
このヒト ・・・ 知らないんだわ
その昔 兄君の命を奪ったと思い上がっているのね
それに。
< イワン雷帝 > は 赤ん坊の姿をしているはず・・・
なかなかいい演技だけど
ホンモノ ではない わね!
「 どうぞ ゆるりとすごされよ。
我が露西亜帝国は お気に召しましたか。 」
「 ありがとうございます。
北方の地域なのに こちらの都はとても快適ですのね 」
「 ああ 快適に過ごしていただいていますね
よかった! 我が国の帝都は 冬の季節でも皆が快適にすごせるよう
設えてあります。 」
皇帝は 得意気に語る。
無表情な召使いが 飲み物を運んできた。
「 そうなのですか。 こちらの都では道は乾いていてますし
緑の木々も多く驚きましたわ 」
「 ほう よくお気づきですな。
いずれ 帝都だけでなく我が露西亜帝国全土へ
この快適さを広げてゆくつもりですよ。 」
「 まあ すごい ・・・ 」
「 ふふふ 仏蘭西王国でも 如何ですかな。
いや それよりも ― わが帝国にいらっしゃいませんか 」
「 え ・・・ 今 お邪魔しておりますが 」
「 いえ。 滞在者として、ではなく。
― 我が帝国のニンゲンになって頂きたい。 」
「 わたしは 仏蘭西王家の王女なのですが。
それは 外交的にも無理なご提案かと ― 」
「 あは ・・ おとぼけになっていますかな?
では 単刀直入に申し上げましょう。
プリンセス・フランソワーズ。
私と結婚し、露西亜帝国皇妃になってください。 」
「 ・・・ まあ 率直な方 ・・・ 」
フランソワーズは頬を染め 俯いている。
乙女がはにかんでいる風情だ。
年若い王女が 突如 求婚されたのだから当然だろう・・と
周囲には見える。
― しかし。 俯きつつ彼女はしっかりと周囲を観察・警戒していた。
ふうん ・・・
その方面からくるの ?
このヒト どこまで本気が冗談か
さっぱりわからないヒトね
本人 余裕たっぷりに見せてるけど・・・
嫌味だわ。
上から目線 が見え見え。
― そんなんじゃ 庶民の娘だって
振り向いてはくれないわよ〜〜
ふん!
女子を甘く見るんじゃないわよっ
「 おやおや ・・・ これは。
プリンセスを困らせてしまったらしい ・・・
私は口下手でして 失礼なコトを言ってしまったかな 」
皇帝は口では卑下した素振りだが 実際は自信満々〜な面持ちだ。
「 お返事は 急ぎませんが。
我が露西亜帝国と仏蘭西王国が濃い縁で結ばれれば
こんなに力強いことはありませんな。
欧州の半分を わが帝国の配下にできる。
プリンセス、 貴女はそんな巨大帝国の皇妃となられるのですよ
最高に豪奢な生活をお約束いたします。 」
「 ・・・ まあ そんな ・・・ 」
「 この、わが帝国をご覧なさい。
全てが < 規格 > 通りに作られています。
都も城も 道路も 街路樹も。 そう ヒトも なにもかもが
規格通り なのです。
今は 帝都だけですが いずれ帝国全土を作り替える。
整然と規格に合った最強の帝国に !
― 如何です? 」
「 ・・・ 」
俯いていた姫君が ゆっくりと顔を上げた。
彼女は顔に掛かっていた髪を さっと後ろに跳ねのけた。
そして ― 真正面から 皇帝と名乗る男を見据えた。
露西亜帝国の皇帝、イワン陛下は お前ではない。
フランソワーズは 一言 一言 はっきりと言い切った。
「 ・・・ ?? なにをおっしゃっているやらわからんが 」
「 イワン雷帝に この国を返すのです。
そして 人々を 樹々や草木や大地を 帝国全体を
あるがままの 自然の姿に戻すのです。
自然に < 規格 > は ないわ。
去れ。 黒い悪魔 スカアル !!!!
一瞬 ― 全てのモノが停止し色を失った かのように見えた。
フランソワーズは さっとマントを引くと身構えた。
「 ぬぅあにを抜かすかあ〜〜〜〜 」
玉座にいたオトコの顔が みるみるうちに険しく夜叉になる。
彼は 立ち上がると真っ黒な恐ろしい魔物の姿に変わった。
「 ふん 飛んで火にいる夏の虫 とはお前たちの事。
ふははははは イッキに捻り潰してやるワ
これで仏蘭西王国も 完全に我のモノだあ〜〜〜〜 」
魔物は 背の大きな羽根を広げた。
ぐわら ぐわら ぐわら 〜〜〜〜〜 ごごごご ・・・・
豪奢な壁が揺れ始め 磨き上げられていた床が びしびしと割れる。
「 フランソワーズ! 足元を ! 」
「 ジョー。 大丈夫よ。 弓矢を ・・・ ありがとう! 」
「 剣は? ああ 準備万端ですね 」
側に飛んできたジョーと 戦闘状態に入る。
行くわ! はい 待ってましたっ!
二人は 黒い魔物めがけ闘いを挑み始めた。
快適で豪奢な宮殿は たちまち魔物の巣窟の姿に 戻ったのだ。
ズガ――――ン !!! ゴウ 〜〜〜〜〜
・・・ どれほどの時間 ( とき ) が経ったのだろう ・・・
― 周囲は 燃え残りの蝋燭だけがぼんやりと照らしている。
先ほどまでの 不自然なほど明るい灯りは たちまち消し飛んでしまった。
気が付けば 瓦礫の中で フランソワーズは孤軍奮闘していた。
ひゅん ・・・! 飛んできた矢を太刀で叩き落とす。
「 フラン ! 」
「 ・・・ 大丈夫。 」
フランソワーズは 気丈に返事をした が。
・・・ ちょっと ・・・ ヤバい かも・・・
< 対決 > は もうどのくらい続いているのだろう。
時間の観念は吹き飛んでしまった。
黒い悪魔を斃す ― ただそれだけに集中していた。
「 ・・・ ふう ・・・ 」
自然に 吐息が漏れてしまった。
いっけない ・・・
・・・ ちょっとマズいんだけど
もうダメかも・・・
いえ。 わたしは 大丈夫。
きゅ。 彼女は拳を握り体勢を立て直した。
初戦の激突は 辛くもかわした。
正直言って ぎりぎりだった・・・ 今 かなりピンチだ。
元気を装うので精一杯になってきた。
とんとん。 ジョーが軽く彼女の肩に指を当てた。
「 フランソワーズ? あ〜 ぼくの出番を奪わないでくださいよ?
さあ。 行くぞ! 」
「 え?? 」
「 ちょっと休んでてくださね じゃ! 」
その直後、彼女の前にジョーがす・・・っと飛び出た。
さあ こい。 ぼくが相手だっ !!
ひゅん ひゅん 〜〜〜〜
ジョーは 妖精の太刀を振るい襲ってくる手下どもを切り捨てる。
宮殿で仕えていた召使いたちは 本来の小さな魔物の姿に戻り襲ってきた。
「 ふん ・・・ ! 」
妖精の太刀 に当たると 魔物たちはたちまち萎縮し干上がり
・・・ 消えてゆく。
太刀の素晴らしいエネルギーに 吸収されてしまうらしい。
「 ほう ・・・? 若造。 やるな。
しかし お前らの抵抗も 我には利かぬぞ〜〜〜 」
ぐわら ぐわら ぐわら〜〜〜〜
黒い魔物は 稲妻を投げつけじりじりと接近してくる。
接近戦になっては こちらが不利だ。
「 く ・・・ そ〜〜〜〜 あの親玉をやっつけないと!
お母さん。 ぼくに力を ― !! 」
ジョーは 狙い定めると ―
行け ッ !!! ヤツを切り裂け!
力いっぱい太刀を投げつけた。
ぐわ〜〜〜〜ん ・・・・ ずずずず
「 あ ・・・ ああ ・・・ !!! 」
ジョーの剣も スカアルには有効ではなかった。
必死に投げた太刀は 一瞬 黒い魔物の身体に突き立ったが
・・・ すぐに 背中から抜けていってしまった。
「 ・・・ ふ ふん ・・・ その程度か、お前のチカラは。
我がわざわざ手を下す必要はないな。
手下どもで十分のようだな お前ら 行け! 」
スカアルが さっと手をあげると ― 小鬼どもがわらわらと
大地から湧きだしてきた。
キキキキ −−− キ −−−−
「 そら お前ら。 目の前に餌がいるぞ 喰ってやれ 」
キキキ 〜〜〜〜 キキキ 〜〜〜
ゾワゾワと小鬼たちは這いずりまわり 周囲の瓦礫すらも
ばくばくと食い散らしつつ 近づいてきた。
「 ・・ な なんだ?? これは ! 」
ジョーはあまりの気味悪さに じりじりと後退りする。
「 こんなのに喰らいつかれたら・・・
あ。 そうだ これを! 」
彼は背嚢に手を突っ込んだ。
「 よおし ・・・ さあ 喰らってみろ〜〜 」
ヒュン ! ばらばらばら・・・
ジョーは あの石榴の実を投げたのだ。
それは ぱっと空中で弾け 粒粒の実が小鬼らに降り注いだ。
!? キキ〜〜〜〜〜〜 キ ・・?
ヤツらはその粒に跳び付いてむさぼり喰ったが ―
! ・・・ グア 〜〜〜〜
小鬼らはたちまち 身体が裂けて破滅していった。
「 ― 正しく用いなければ 最強の毒となる か・・・ 」
目を背けたくなる凄惨な現場で ジョーはぽつりとつぶやいた。
永遠に空腹と訣別できる魔法の木の実 は 邪悪な存在には
必殺の毒となるのだった。
「 くうん〜〜〜〜 ! わん!! 」
「 え なんだい? 」
「 わん! ・・・ きゅうん 」
クビクロは ジョーの手を舐めると ― 常火の元 を咥えたまま
黒い魔物の足元に飛び込もうとした。
「 だ だめ!! そんなこと、 してはダメ!
一緒に 仏蘭西王国に 帰るのでしょう!? 」
フランソワーズは 身を挺して阻止した。
キ −−−− ククク −−−−
その時 空から 大鷹が二羽、飛び込んできた。
「 ! ルイ! シャルルも ・・・! 」
ククク ! ギャギャ ・・・
鷹達は 姫君の肩に舞い降りた。
「 来てくれたの?? 遠いのに ・・・ ほら ご褒美 」
フランソワーズは 大急ぎでポケットの中から鹿肉ジャーキーを与えた。
クルルルル ・・・
鳥たちは大喜びで呑み込むと ちょん・・・と女主人の髪を摘まんだ。
「 なあに? ・・・え ええ わかったわ。
お願いします ― 気をつけて! 」
ククク !! ククク 〜〜〜!
ルイとシャルルは クビクロの背嚢から 常火の元 を
その爪に引っ掛けると ― 飛び立った。
バ ―−−− ンッ ドカ ―−−− ンッ!!!
前方で派手に火の手が上がる。
「 あ ・・・ 姫様の鷹が 」
「 大丈夫。 彼らは上手く逃げるわ 」
「 あの火は ・・・ ああ ヤツに直接当たらないと・・・ 」
「 ふふん それじゃ今度は これ。
さあ〜〜〜 本来の豊かで清らかな水を呼んでね〜〜〜 」
ぱあん〜〜〜 ・・・・
フランソワーズは 耳から大きなピアスを外すと チカラいっぱい
投げつけた。
ごごごご・・・・ ゴウ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・ !
空中から突如 ― 大量の水が流れだした。
地は大きく割れ 蠢く魔物の手下どもを水とともに呑み込んだ。
「 ・・・ すごい わ ・・・
皆が 援けてくれてる ・・・ 」
「 そうだね! ぼくらは ・・・ 二人きりじゃない 」
「 ええ! 」
二人は 劣勢を挽回し ― じりじりと黒い魔物に近寄り始めた。
ジョー ・・・ 覚えているか
不意に スカアルの声が響いてきた。
「 な ・・・ なんだ?? 」
「 ジョー ・・・ お前は この私が連れてきた赤ん坊だ。
あの時 ― お前を運んでいた大烏が お前をある城の前で
落としてしまったのだ 」
「 お前は 黒い悪魔の後継者となるはずだったのだ 」
「 ― え ・・・ 」
「 ちがうわ! ジョーは 妖精ヘレンの息子。
彼女が愛した息子よ! お前は浚ってきただけよ! 」
「 ぼくは ― ぼくを抱き上げてくれたのは
ぼくの母、 妖精ヘレンだ! ぼくは 母の息子 ! 」
「 ジョー ・・・ そうよ そうなのよ 」
「 ― お母さん。 ぼくを支えてください。 」
ジョーは 懐から透明に近い紗の布を取りだした。
彼は 片手にそれをにぎり高く掲げた。
「 風よ 大地の精よ ・・・ 力を貸してくれ! 」
ゴゴゴゴ〜〜〜〜 ヴァ 〜〜〜〜〜
ジョー オレ様の出番だぜぇ〜〜〜
自然に 規格 はない。 許せん。
大地は揺れ 大風が吹き スカアルの宮殿は揺れ始める。
「 ・・・ むむ ・・・ こしゃくな !
ふん この場を捨てればすむことだ 」
バサア〜〜〜〜〜〜〜〜
黒い魔物は 大きく翼を広げ 飛び立とうとした。
ゴゴゴゴゴ 〜〜〜〜〜 周囲の瓦礫が崩れだす。
豪奢な宮殿は もう瓦礫の山と化し始めているのだ。
魔物の手下どもの多くは その下に埋まり消えていった。
「 ! だめ〜〜〜〜〜 」
闘いの中に 少女が飛び込んできた。
「 この・・・ この先には 赤さんの部屋が! 」
「 キャサリン ・・・ 」
少女は 首から鮮やかな色のスカーフを取ると瓦礫の中に飛び込んだ。
「 赤さんを ・・・ 赤さんを 守るの !
外国のお姫さま!! 赤さん、あたしがたすけます ! 」
彼女は スカーフに包み 赤ん坊を連れ出してきた。
「 ひ 姫さま〜〜〜 赤さんは 大丈夫!! 」
「 ! やったわ〜〜〜 イワン雷帝 ご無事ね! 」
少女の腕の中で 赤ん坊は眠たそうな顔をしていたが
ぱっと 目を開いた。 そして ―
ヤア ヨク来テクレタネ
アトハ ぼく二任セテクレ給エ
「 ! お かあさ ん ・・・!?
」
ジョーはふらふらと立ち上がる。
「 ・・ ジョー ・・・ どうしたの? 」
「 お母さん いえ 母が 来てくれました 」
「 え ・・・ あの 妖精のヘレンが ? 」
ジョー ・・・ よく闘ったわね ・・・
あとは 母さまに任せて
白いふわり とした存在が 赤ん坊を抱き上げた。
さあ わたくし達の出番ですわね。
アハ ソウダネ 妖精へれん。
太陽よ ! 光を ・・・ !!!
二人の声とともに ぱあ〜〜〜〜〜っと 温かい光が
天から 降り注ぐ。 醜い瓦礫にも降り注ぎ浄化してゆく。
「 む ・・・ ぐう〜〜〜〜〜〜 ・・・
こうなったら ・・・・ この娘を道連れだあ〜〜〜〜 」
黒い魔物は するすると腕を伸ばし フランソワーズを捕らえた。
「 ― ・・・ ! 」
禿鷹みたいな鋭い爪が 彼女を切り裂き始めた が。
う ? ・・・・ わああ
ぎゃああああああ 〜〜〜〜〜
突然 ヤツは彼女の身体を放りだすと絶叫し地に墜ち
転げまわり始めた。
「 フラン!!! 」
ジョーは 慌てて彼女を抱きとる。
彼の腕の中には息も絶え絶えの 白い身体が ・・・
そして 目の前でスカアルも・・・
うぎゃあああ〜〜〜〜〜〜
ヤツは やがて黒煙を上げ自ら燃え上がり始めた。
「 ど どうしたんだ?? 」
「 ・・・ わたしの 傷跡 ・・・ 」
「 え?? 」
「 幼いころ 浚われそうになった時の傷跡が ・・・
護ってくれたんだわ ・・・ 」
黒い魔物は 自分が傷つけた傷痕を持ち生きながらえている者には
二度と手だしができないのだ。
「 そ うなんだ・・・ 」
ズズズズ ブズブズブズ
スカアルの黒い姿は 大きな翼も鋭い爪もすべて燃えた。
「 ・・・ 消えた ・・・? 」
「 ・・・ ええ ・・・ スカアルの姿は 」
「 燃え尽きたのかな 」
「 わからない 太陽の光に溶けてしまったのかも ・・・ 」
「 そう か ・・・ 本当の太陽が この国に 戻るね 」
「 ええ ええ ・・・ 露西亜帝国の冬が終わるわ 」
「 ・・・ うん ・・・
けど ・・・ ぼくも ・・・ 終わりかも 」
「 え?? 」
「 きみだけでも 無事に帰るんだ! 仏蘭西王国に
きみの故郷に・・・ クビクロも連れていってくれ ・・・ 」
「 ジョー!! どうしたの?? 」
「 ちょっと ・・・ マズったんだ ・・・
ねえ フラン。 二度と再びヤツが蘇らないように ・・・
・・・ ぼくの亡骸を ココに埋めてくれ 」
「 ! い いやよ ジョー〜〜 死んではだめ! 」
「 ふ ・・・ ありがと う ・・・ でも もう 」
「 そ んなの ・・・ いや!!! いやよ いや!
わたしも一緒に ! ね わたしも実は ・・・ 」
「 え!? 」
ポタ ポタ ・・・ ジョーの顔が赤く染まる。
「 ふ フランソワーズ !! 」
「 ・・・ さっき ・・・ やられちゃったの ・・・
ふふ ドジねえ わたしってば ・・・
でも ジョーと一緒なら ・・・ 怖くないわ ・・・ 」
「 ああ ああ フランソワーズ ・・・ 」
「 もう 離れない。 ずっとずっと ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
だめダヨ 二人トモ〜〜〜
「 ?? だれ 」
「 ・・・? 」
ボクさ。 イワンだよ 忘れたの?
001さ。
009 003 ― 忘れちゃった?
「 え ・・・・? 」
「 みんな〜〜〜〜 ありがとう〜〜 さあ いつもの姿に戻るんだ
そして ね ― 」
さあ 皆 ゆっくり眠りたまえ
世界が再び サイボーグ戦士を必要とするその日まで。
ねえ 仲間たち。
ボクが用意した夢は 楽しかったかな ?
― さあ どうだろうねえ イワン ・・・
あさきゆめみし ゑひもせす
************************ Fin. ***********************
Last updated :12.14.2021.
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*********** ひと言 *********
そして この後は 岡ゼロ に続く???
いえいえ 皆さまのお好みに合うラストにしてください。
ながながと ありがとうございました <m(__)m>
つまらない〆で ごめんなさい <m(__)m>