『 伝説 ― (1) ― 』
これは 遠いとおい昔の そして 遠いとおい外国 (とつくに)
でのお話です。
いつの頃のことか・・・って?
どこの国のことか・・・って?
さあ ・・・・
― 貴方のお好みのままに・・・
*** 仏蘭西王国 にて
「 ふうむ ・・・ もどったか。 」
老国王ギルモアは 窓辺で空を眺めていたが 静かに玉座に戻った。
この老いた王者は 静謐を好み自身のことは自分でやる主義なので
プライベート・タイムは ほぼ一人すごす。
必要な時には 従者やら馴染みの侍従を呼ぶのである。
長年仕えるもの達は もう慣れているので 王の居室周辺は
いつも静寂を保ち しかしいつ何時でもすぐに伺候できるよう
控えているのだった。
この老王は 城の召使いだけでなくあまねく国の民たちからも
慕われ 尊敬されている。
「 まもなく 知らせが来るな。 あの姿は ルイだ・・・
北の地方からの知らせか ・・・ 」
王はクッションを直しゆったりと玉座に収まった。
・・・そして その呟き通り すぐにひそやかなノックが聞こえた。
「 ・・・ 陛下。 ルイが戻ってまいりました 」
ドア越しに 国王付きの侍従の声が聞こえた。
「 おお そうか。 これへ連れてまいれ 」
「 はは・・・ もうここに来ておりますが 」
「 おう それは それは・・・ さあ 入るがいい 」
なんと 王自らが気軽に立ってドアを開けた。
「 陛下〜〜〜〜 そのようなことはわたくしが 」
「 よいよい これはワシがやりたくてやっておることなのじゃ。
ピエール、お前はよく知っているだろうが 」
「 それは ― お若い時分からお供させて頂いておりますゆえ ・・・
しかし ですね 」
「 よいのだよ。 それよりも ルイは北からの知らせを持ってきたのか 」
「 御意。 ・・・さあ ジロー? 」
老侍従は振り返り 後ろに控えていた鷹匠を省みた。
「 へい ・・・ 陛下。 ルイが陛下にお目にかかりたい と 」
鷹匠の男は 凛々しい瞳をした鷹を腕に乗せ差し出した。
「 おう ジロー。 ご苦労じゃったな
ほうれ ・・・ ルイ 褒美の肉じゃよ 」
クルルル。 鷹は低く鳴くとクチバシで肉片を受け取った。
「 よしよし・・・ では 通信筒をもらうぞ 」
王は器用に鷹の脚から 円筒を外す。
鷹も全く動じることがなく これは彼らの日常の <仕事> だ、ということが
誰の目にも明らかだ。
「 ご苦労じゃった ・・・ のんびり休んでおくれ。
ジロー。 ルイの世話を頼むぞ 」
「 へい 陛下。 アッシにお任せください。
陛下の鷹たちは いつだって腹いっぱいで翼はぴかぴかですぜ 」
「 うむ お前もまあ 一杯やれ。 ピエール? 」
指をぱちん、と鳴らせば 侍従は承知しております、とアタマを下げた。
「 ふうむ・・・ 」
老侍従と鷹匠が退出した後、 老王はゆっくりと円筒を開けた。
中には きっちりと巻かれた書面が入っている。
ぴりり ・・・ 紋章いりの封蝋を割り手紙を広げた。
「 おお コズミ君からか ・・・ ふむふむ ・・・
皇太子夫妻も元気か よかった ・・・
ヒルダ妃は たいそう活発な女性らしな ふうむ・・・? 」
彼は書面をみつめしばし沈思黙考していたが 呼び鈴に手を伸ばした。
「 お呼びでしょうか 陛下 」
すぐに侍従がドアを開けた。
「 うむ。 王太子は ― ? 」
「 殿下は只今 ご訓練の最中でございます 」
「 おお そうであったな かなり歩けるようになったとか・・・ 」
「 はい。 もうほぼ支障はおありになりません。
先日からは乗馬のご訓練も始められました。 」
「 そうか・・・ ! 」
「 陛下。 ジャン様は 本当にお強い御方でございます。 」
「 そうか そうか・・ もう馬も始めた か・・・
では 訓練が終わったら父の私室に来てくれ、と
伝えておいてほしい。 訓練を邪魔をせんように な 」
「 畏まりました! すぐに! 」
「 おお 頼む。 ああ そうじゃ そうじゃ
ついでに 姫も呼んでくれぬか 」
「 ・・・ はあ ・・・ 」
侍従は 少し困った顔をした。 王はすぐに察した。
「 ・・・ ま〜た どこにおるかわからんのか 」
「 はあ。 あのう ご愛馬のブランシュとお出かけに・・・ 」
「 一人で出ていった か。 あの鉄砲玉にもなあ ・・・
すまんが探してくれ。 父が呼んでおるとな 」
「 かしこまりました。 」
彼は 畏まり早足で退出して行った。
乗馬もいいが ・・・
どうせ国境の森の方まで 一人で駆けていったのであろう
・・・ったく!
あの ジャジャウマめ !
老王は 低く悪態をつきふか〜〜〜いため息を漏らしたのである。
カツカツカツ〜〜〜 あら いいのよ このままで!
元気すぎる長靴の音と 朗かな声が響いてきたのは ― 一時間も
すぎた頃だった。
「 ・・・ やっと戻ってきたか ・・・ 」
王はまたまたため息をつき 静かに玉座に付いた。
ドンドン バンッ !! ノックとほぼ同時に重いドアが開いた。
「 お父様。 お呼びですって? 」
長い金色の髪を靡かせ 一人の少年? が 入ってきた。
「 おお。 お帰り フランソワーズ姫。 」
「 はい ただいま戻りました! お父様〜〜〜
森はもうすっかり秋でとても素敵よ! 」
「 そうか ― しかしまあ 相変わらずの形( なり ) じゃなあ 」
「 え? あらあ これがいいんです。
だって ドレスを着てブランシュと遠駆けには行けませんもの 」
「 − 仏蘭西王国の姫が ・・・ 」
「 あ そうだわ これ ! お父様にお土産です 」
少年 いや 姫君は チュニックのポケットをごそごそさぐっている。
「 母譲りの美しい金の髪も くしゃくしゃではないか・・・
結いあげて髪飾りをつけたらどんなに素晴らしいことか・・ 」
老王は 溜息吐息である。
「 ん〜〜〜 あったわ! これ。 これです!
どうぞ召しあがって? お父様のお好きなクルミです 」
ころん ころん ころん。
硬い木の実が磨き上げられた大理石のテーブルに 転がった。
「 ほう? もうクルミが落ちているのかい 」
「 ええ。 ふふふ〜〜 でもね 森のどこか、は秘密です。
わたしとブランシュしかしりません。
あ そうだわ〜〜〜 お父様 ちょっとお待ちになってね 」
「 おいおい・・・ 」
姫君は 金の髪を靡かせ 国王の居室から駆けだすと ―
すぐに また駆け戻ってきた。
手には アケビの蔓で編んだカゴを持ち・・・その中には。
「 はい お父様!
今年の初収穫ですって。 ふふふ イチバン甘いっていうのは
ブランシュと半分コしちゃったけど・・ 」
「 ― おお リンゴか。 」
籠には いっぱいの艶々したリンゴが顔を並べていた。
「 ええ。 城の庭園の一番外側に果樹園がありますでしょ?
わたし あそこでお手伝いしてて・・・ 頂いたの。 」
「 手伝い? そなたが か 」
「 はい。 雑草とり とか 水やり とか。
ジョシュア爺が教えてくれました。 」
「 ・・・ そうか。 まあ いろいろ学んでおくのは よいことじゃが 」
ころん。 丸い果実が父王の手に押し付けられた。
「 ねえ とても甘いのよ お父様! どうぞ!
ふふふ ・・・ このまま がぶり、といただくと最高よ 」
「 ほんにそうじゃなあ 父もなあ 若い頃遠駆けにでると
よくリンゴやらアケビをみつけ 齧ったものだよ 」
「 ね! ですからどうぞ! これはジョシュア爺の丹精ですもの
とてもとても美味しいです 」
「 おお ・・・ っと。 危うく姫に攣り込まれてしまうところじゃった!
ほんに これはいい色じゃな あとでゆっくり頂こう。
そなたにすこし話がある こちらへ ― 」
「 ・・・ はい 」
奥へと姫を促し 亡き王妃の肖像画の前のカウチに座った。
「 そなたもかけなさい
」
「 はい 」
フランソワーズ姫は 素直に父王の向かい側に座った。
すらりとした脚を白いタイツで包み 空の色のチュニックの肩には
豊かな金の髪がふさふさと広がる。
・・・ なんと美しいことか ・・・
亡き妃に よう似てきたなあ・・・
父王は思わず目頭が熱くなってしまったが 慌てて隠した。
「 お父様? 」
「 あ ああ。 そなたの あ〜 婚約者であるカール殿下から
文が来ている。 先ほどルイが運んできた。 」
「 あら お父様。 それはすこしヘンですわ?
ルイは 北から帰ってきた、と言いましたわ。 」
「 ・・・ ルイは鷹だぞ? 」
「 ええ とても賢い鷹です。 わたし達 もうず〜〜〜っと
仲良しなんです。 < 仕事 > からの帰り道に聞きました。
たった今 北の国から戻ったよ〜〜って 」
姫君は あっけらかんと笑顔で言い放つ。
「 う うむ ・・・・ そなたに隠しごとはできんなあ・・・
すまなかった。 ルイは確かに北から文を運んできた。
そして それとは別に文が届いたのじゃよ。
あ〜 ― そなた 婚約者殿と会うなりしたらどうだ 」
「 ・・・ お父様。
わたくしは ジャンお兄様が立太子礼を挙げられ
許婚のアルテミス姫様を王太子妃にお迎えになるまで
― お父様とこの国を護ります。 」
「 姫。 それはそなたの仕事ではない 」
「 いいえ。 わたくしの仕事、いえ 義務です。
わたくしを護るために 大怪我をなさったお兄様への
せめてもの償いですわ。 それに ― 」
「 うん ? 」
「 わたし ・・・ カール殿下って ・・・ ちょっと。
お父上のエッカーマン公爵さまは 立派な方だと思いますけれど 」
「 フランソワーズ 」
「 ねえ それよりも お父様! 北のからの知らせは???
また ・・・ 例の魔物が悪さをしているのですか 」
「 ああ ・・・ そうなのだ。
そなたも北の大帝国の皇帝を知っているだろう? 」
「 はい。 学習いたしました。 イワン雷帝 といわれる方で
大層優れた皇帝とか ・・・ ただ ・・・ 」
「 ただ なんじゃ? そなたはどう学んだかな 」
「 はい・・・ ただそのお姿に拝謁した者は いない ・・・とか 」
「 そうなのだ。 ワシも文のやり取りをし、大層な賢者だと感心しておるが
実際に会い見えたことはない。 」
「 絵姿とか ・・・ ありませんの? 」
「 ごく幼い頃の、赤子時代の絵があるだけじゃ 」
「 そうですの・・・ で その方が お父様に ・・
いえ この仏蘭西王国の国王陛下に お手紙 が・・・? 」
「 左様。 そして そなたが察した通り ―
例の黒い魔物が 北の国境付近を凍結してしまっているらしい。 」
「 まあ・・・ 」
「 それゆえ さすがのイワン雷帝も この父を始め
欧州各国の長に 援護を求めてきたのだ。 」
「 欧州全ての国に ですか? 」
「 左様。 我が仏蘭西王国を始め 大英帝国のブリテン王、
独逸帝国のアルベルト獅子王、 そして 阿弗利加帝国のピュンマ皇帝。
そうじゃ そなたも知っておるだろう?
遠い東の大帝国の張々湖皇帝にも な・・・ 」
「 わかりました。 では 我が仏蘭西王国は
わたくしが陣頭に立ちましょう。
」
「 フランソワーズ ! この父は可愛い一人娘のそなたを
そのような危険な目に遭わせるわけにはゆかぬ 」
「 いいえ お父様。
これは ― わたしの使命です。 お判りと思います。」
「 ・・・ 姫 ・・・ 」
父王は困惑の表情を浮かべてはいるが 断固として反対することは
できない。
黒い魔物 とは ― この時代、欧州全体に暗い影を落としている悪霊である。
首領のスカアルは 欧州中を凌駕し王族の子弟を拉致していた。
人質を盾に それぞれの領主から高額の身代金やら領地を強奪・・・
その傍若無人の振舞いに 欧州中が怒涛の波に翻弄されつつも
成す術もなく歯噛みをしつつも手を拱いているのだ。
コンコン。 王の居室の扉が静かにノックされた。
「 ― 父上? 」
「 あら お兄さまだわ! お兄さまあ〜〜〜〜 」
フランソワーズ姫は 父王の返答を待たずにドアに駆けていった。
「 王太子か。 お入り 」
「 父上 ・・・ ああ フランソワーズ 」
「 お兄様! 」
扉を押し開けるなり抱き付いてきた妹姫を 王太子は
笑って抱き留めた。
「 父上。 お待たせいたしまして申し訳ありません。 」
「 いやいや そなたの訓練の方が大切じゃ。
侍従の話だと馬も始めたとか ・・・ 」
「 はい。 愛馬のアローは覚えていてくれました。
まだやっと馬場を一周できる程度ですが 」
「 まあ〜〜〜 すごいわ お兄さま!
ご一緒に遠駆けできるのも もうすぐね! 」
「 おう 待っていろ。 まだまだお前には負けない。 」
「 うふふ・・・ どうかしら?
わたし すごく腕を上げましたのよ 」
楽し気におしゃべりする兄妹を 父王も笑みを浮かべ眺めている。
「 ― よい王子と王女に恵まれて ワシは幸せじゃなあ ・・・
・・・ それにしても ・・・ 」
王は こっそりとため息を吐いてしまう。
「 あら お兄様がお戻りなら お茶にしましょうよ? お父様 」
「 おう そうじゃな 」
「 嬉しいわ そうそう このリンゴも皆で頂きましょう 」
「 リンゴ? おお これは美味そうだ
」
王太子は リンゴの籠をながめにテーブルに歩み寄った。
こ ・・・ こ ・・・こ ・・・
彼は 歩行は出来るが 微かに脚を引きずるのだ。
「 ・・・・ 」
妹は兄のその姿を 唇を噛みつつ見守っている。
お兄さま ・・・ !
ごめんなさい ・・・ わたしのために・・・
お兄様のおみ脚が すっかり元に戻るまで
わたくしが おみ脚の代わりになります!
― その昔 まだ フランソワーズ姫が幼い頃のこと
麗かな春のある日 ・・・
城の中庭に 王妃が王太子に付き添われ散歩にやってきた。
「 ああ お日様が気持ちいいわね ・・・ 」
「 母上 ・・・ 今日はお顔色もよいですね 」
「 ありがとう ジャン。 ええ とても気持ちがいいわ
こんなにいい日ですもの あなたも乗馬でもしていらっしゃいな 」
「 はい! ・・・ あれ フランは どこかなあ 」
「 ・・・ あら。 さきほどまでそこの花壇の脇にいたけれど ・・・
乳母や ファンションはどこかしら 」
「 お妃さま 姫様は裏の花畑に ・・・ 」
「 まあ そうなの? 脚の速い姫ねえ 陛下に似たのね 」
「 では 母上 馬場に行きます 」
「 いってらっしゃい ああ でもお気をつけて。
また あの黒い魔物が現れているらしいのよ
」
「 はい。 見つけたら私が蹴散らしてやります。
いずれは この剣で! 」
「 まあ 頼もしいこと。 お気をつけてね 」
母は息子の頬に軽くキスを落とす。
息子はその子供っぽい扱いに 少々閉口しつつも ・・・
大人ぶって母の手を取り 軽く口づけをし挨拶をした。
「 ・・・ お妃さま いい日でございますね 」
乳母やが側で にこにこ・・・ 妃を見守っている。
「 ええ ・・・ 気分もいいし。 早く元気にならなければ 」
「 もう大丈夫でございますよ ・・・
王子様 王女様も お母様がお元気になられて喜んでいらっしゃいます 」
「 ・・・ 本当に ・・・ 」
妃は ゆったりと頷き木陰に置かれたカウチに身を休めた。
― その時 ・・・
きゃあ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 !!
晴れ上がった空に 幼女の悲鳴が響きわたった。
バサバサバサ 〜〜〜 わ〜っはっはっは
猛禽類の翼の音とともに 不気味な声が聞こえてきた。
「 !? ・・・ あれは フランソワーズの ・・・!
もしや 黒い魔物が・・・! 」
妃は さっとカウチから身を起こし立ち上がった。
「 姫は・・・ 裏の花畑ね! いま お母様が助けにゆくわ! 」
「 お妃さま! お待ちを お静かになさいませんと お身体が! 」
乳母は必死で妃を止めるが ・・・
カツ カツ カツ 〜〜〜 !!!
蹄の音ともに ジャン王太子が栗毛の馬で駆けこんできた。
「 母上! 私が 行きます!! こちらでお待ちくださいっ 」
「 ・・・ ジャン 」
「 お任せください ! 」
「 ジャン ・・・! ああ お願いね
衛兵を! そしてすぐに離宮におでかけの陛下にお知らせして 」
妃は しっかりと立ち上がり側近に次々に指示を飛ばした。
― そして。
ジャン王太子は 浚われる妹姫を取り戻すべく 大奮戦し・・・
なんとか彼女を 黒い魔物から取り戻したが 重症を負ってしまった。
「 ああ ・・・ ジャン ・・・
わたくしが油断して姫から目を離していたから ・・・
ああ ああ この愚かな母を許してちょうだい 」
妃は 嘆き悲しみそして自身を責めつつ ずっと息子の側に詰めていた。
そんな妻に 国王は心を痛める。
「 ・・・ ジュリア ・・・ 少し休みなさい。
そなたの身体がまいってしまう 」
「 いえ 陛下。 陛下の大切な王子を わたくしは ・・・ 」
「 そなたのせいではない 」
「 いいえ いいえ ・・・ 」
「 お妃さま ・・・ 王女様がお母様を呼んでいらっしゃいます 」
「 娘のことも 考えてやっておくれ 」
「 ・・・ 陛下 ・・・ 」
「 ジャンのことは 独逸王国から コズミ王が自ら調合した薬を
処方してくれている。 城の典医らも全力を尽くしている。
・・・ ジャンの体力に望みをかけよう 」
「 陛下 〜〜〜 」
「 そなたはそなた自身の身体と そして今ひとりの私の子のことを
気にかけておくれ 」
「 陛下 ・・・ ああ 陛下 ・・・ 」
「 さ ・・・ フランソワーズが母の手を待っておる 」
「 ・・・ はい ありがとうございます 」
ジュリア妃は 零れる涙を拭いつつ ― 退出していった。
そして ・・・
「 お母様 ・・・ 」
フランソワーズ姫は チュニックの上から左腕をしっかりと抑えている。
その手の下には 今でもくっきりと傷痕が残り彼女はあえてそれを
治そうとはしていない。
「 お母様 ・・・ 兄上様はずいぶとお元気になられました。
お母様との約束は 少しは果たせましたでしょうか ・・・ 」
母・王妃は 兄王子の脚の傷と妹姫の心の傷にココロを痛めつつ
亡くなってしまった。
「 お母様。 ご安心なさって。
この国と兄上はフランソワーズが 護ります。
ですから ― あの黒い魔物は わたくしが成敗いたします。 」
「 フランソワーズ。 見事なリンゴだね ジョシュア爺の畑かい 」
兄が 笑みを絶やさずに声をかける。
「 はい お兄さま。 おわかりになりますか 」
「 ああ 一目でわかったよ。 これは美味しそうだ。
ひとつ 頂くよ 」
「 どうぞ〜〜 」
王太子は 艶々した果実をひとつ、取り上げると がぶり、と一口。
「 ん〜〜〜〜〜 これは 美味いな! 」
「 でしょう?? ねえ わたくしもジョシュア爺の果樹園、
お手伝いしています 」
「 ほう フランが? いいことだね。
こんど 兄も連れていってくれ。 久々にジョシュア爺にも会いたいな 」
「 ええ ええ きっと・・・
あ お父様〜〜 失礼しました。 さあ お茶を 」
「 いやいや 兄妹仲良く よいことじゃ。
うむ よい折りじゃ。 そなた達にこの親書の件を聞かせておくぞ 」
「「 はい
」」
父王の前で 兄と妹は居ずまいを正し耳を傾けた。
「 これは北の帝国を治めるイワン雷帝 からの親書だ。
イワン帝は どうやら黒い魔物に軟禁されているらしい。 」
「 なんと ・・・ イワン帝はたいそう賢い方と伺っていますが 」
「 うむ ・・・ どうも 魔物の長・スカアルの巧妙な罠に
かかってしまわれたらしい。 」
「 その罠を破り皇帝を助けなければ ・・・! 」
「 落ち着くのじゃ フランソワーズ姫。
イワン雷帝によれば かの国には伝説があってな。
国と皇帝が重大な危機に見舞われた時には
大地の色の瞳の青年と黄金の髪の乙女が その罠を破る と 」
「 ・・・ それはイワン帝から文に? 」
「 うむ。 ジャン そなたも後で読んでおくがよい。
なんとも茫洋とした伝説なのだが ・・・ 」
「 それって ・・・ お父様!
わたし が! わたしが行きますわ! 」
フランソワーズ姫が 椅子を鳴らして立ち上がった。
「 姫 落ちつけ。 まだ続きがあるのだ。
その青年は 独逸帝国との国境の黒の森、
その中にある魔女タマアラの城で眠っている、 と。 」
「 魔女タマアラ? いやだわ まだ悪さをしていますの?
お父様がお若い頃に 黒の森に押し込めなさったのでしょう? 」
「 そうなのだ。 まだコソコソと悪事を働いているらしい。 」
「 でしたら! わたしが!
その青年をタマアラから奪還し 一緒にイワン雷帝を 」
「 落ちつけ ファンション。
仏蘭西王国の姫が はしたないぞ。 」
ジャンは 物静かに妹姫を窘める。
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 ジャン。 さすが王太子よのう・・
そしてフランソワーズ姫。
そなた ― 許婚者のカール殿が来訪するとのことだ。 」
え ・・・。 一瞬 気まずい雰囲気が満ちてしまう。
「 お父様。 わたし ・・・ いくら頭脳明晰でも ・・・
怖くて馬に乗れないような青年とは 気が合いませんわ 」
「 ・・・ それは わかるが ・・・ 」
「 どなたか 手厚く保護してくださる方がよろしいのじゃありません? 」
「 これ。 少し口を慎め。 ・・・ たとえそれが真実であっても
言うべきではないことも あるのだぞ。 」
「 ・・・ ごめんなさい お父様。 でも ! 」
コツコツコツ あのう お待ちくださいませ〜〜〜
突然 外の廊下が騒めき始めた。
くっきりした足音と 侍従らの声が続く。
「 なんだ? 」
ジャン王太子が 父王の前に立った。
「 わたしが ― 」
フランソワーズ姫は さ・・・っとドアの側に寄った。
バンッ 重い樫の扉が 大きく開いた。
「 国王陛下。 王太子殿下。 いつまでもお呼びがかかりませんので
自ら参内いたしましたわ。 」
朗かな声とともに 美貌の姫君が一人、満面の笑みで立っていた。
「 まあ ・・・ アルテミス様 ! 」
「 フランソワーズ様。 ご機嫌よう。 お久し振りね 」
Last updated : 10.12.2021.
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********* 途中ですが
え〜〜〜 もう オールスター・キャストで突っ走る
ファンタジー?? さあ 最後まで行きつけますでしょうか ・・・
いろいろなお話の詰め合わせ? かも・・ (@_@)