『 棲み家 ( すみか ) ― (4) ― 』
ぴ〜〜〜〜〜 ぴちゅ ぴちゅ ぴちゅ ・・・
名はわからないが小鳥が一羽 一際高く囀り つ・・・っと飛び立っていった。
さわさわ と 柔らかい風が 三人の頬を撫でてゆく。
ほんわりとまとわりつく陽射しは まだ少しだけ冷たさを秘めている。
「 ・・・・ 」
「 ・・・ 」
フランス娘と独逸オトコは 自身の足元に視線を落とす。
なにか言わなくては と思うが 言えない、 言いたくない。
ザク。 足もとで砂利が微かに音を立てた。
「 ?! 」
「 ・・・ あ? 」
「 行ってくる。 訪問の約束をしたのだ。 」
英吉利紳士は 帽子をかぶり直す。
「 で でも グレート! 」
「 ― 行くのか 」
ああ と 俳優氏は 素の顔で頷く。
「 なんであれ 真実を確かめる。
吾輩自身のこの目で な。」
彼は くるりと踵を返すと 田舎道を大股で歩き始めた。
「 あ ・・・ グレート ・・・
」
「 ヤツに任せろ 」
「 ・・・ でも 」
「 007だ。
」
「 ・・・・ 」
004 と 003 は 黙って彼の後ろ姿を見つめていた。
カツ カツ カツ。
凝ったノッカーが マホガニーの重厚な扉の上で音をたてる。
待つほどもなく 扉は静かに開き、英国紳士を迎えいれた。
「 ようこそいらっしゃいました。
奥様がお待ちになっています。 どうぞ 」
慇懃な召使いが 彼を案内する。
「 忝い 」
「 ・・・・ 」
いつも静かだな ・・・
確かに ここは ニッポンのショウナン地域
しかし この空気は この雰囲気は
わが祖国の 貴族の屋敷そのもの だ
ここは いったい 何処なのだ?
毛足の深い絨毯を踏んで進み 客間へと案内された。
「 ・・・ お待ちしておりましたのよ。 ミスタ― 」
「 ・・・ 」
グレートは 輝く笑顔の婦人の手を取ると身をかがめキスをした。
「 もうわくわくしておりますの。
今日は 是非 『 マクベス 』 を論じませんこと? 」
「 光栄ですな マダム。 」
カタン ーー メイドがティー・セットのワゴンを運んできた。
コツコツ コツ カタカタ カタ ・・・
二組の靴音は ずっと途切れることなく続いてゆく。
それは 緩むこともまた急ぐこともなかった。
・・・ ふ ん・・・
は あ ・・・
足音の主は お互い相手に聞こえないように吐息を呑みこむ。
ほぼ頭上に春の太陽を感じつつ 二人はコズミ家の別棟に戻った。
大気は軽くふんわり、かすかだけれど 甘い香りがただよっていて
うきうき・・・ 足取りも弾む天気なのだが。
二人とも 黙りこくり、早春の景色に目をやることもなかった。
カタン ― 玄関のロックを開ける。
「 ・・・・ 」
「 ・・・ 」
004も003も 固い表情のまま靴を脱いだ。
コズミ邸は 個室の設えなどは洋風だが 全体的には
一般のこの国の住宅仕様だ。
多国籍の彼らは ここでは日本風に暮らしていた。
「 ・・・ ふう ・・・ なんか慣れないのよね
この・・・靴を脱ぐって 」
「 あ? ああ ・・・ しかし清潔でよいと思う 」
「 ・・・ええ そうね 」
パタパタパタ − 中から茶髪ボーイが駆けてきた。
「 あ 004 003。 おかえりなさい。 どこに行ってたの? 」
「 ・・・ どこでもないわ。
ちょっと散歩してきただけ ・・・ 」
「 黙って出て行ったから 心配してたんだ 」
「 あら ― ここは とても安全な町なのでしょう?
ご心配無用よ 」
「 ごめん ・・・ でも 」
009は 相変わらずちょっと困ったみたいな表情だ。
「 謝る必要はないわ。 あなた、 ちっとも悪くないもの 」
「 そ そう・・? 」
「 そうです。 気にしないで 」
「 あ ・・・ うん 」
「 あ ねえ 貴方はいいわよね、009。
ここは 自分の国だし。 この付近の出身なのでしょう? 」
「 え あ ・・・ そうですけど 」
「 あら それなら お家へ戻ったら?
つい最近でしょ ・・・ そのう〜〜 貴方、ヤツらに拉致されたのは 」
「 ・・・ うん 」
「 だったら! なぜ? お家に帰らないの?
ご家族だって探しているのじゃない?
お母様とか心配なさっているでしょう ・・・ 」
「 ― ぼくは 」
「 わたし達に遠慮は必要なくてよ?
貴方なら そのまままた元の生活ができるのではなくて? 」
「 ・・・ それが 」
なぜか この青年は顔を赤くし言葉を濁す。
? なにうだうだしてるのかしら!
はっきりしないのって 好きじゃないわ
「 こんな殺伐とした世界は忘れて 幸せに暮らせばいいのよ。 」
「 ・・・ 003さん 」
「 はい。 なんでしょう 」
「 あの う 」
「 はい? 」
「 ぼく 施設で育ったんだ。 家は ― ないんです 」
え ・・・?
な なんて 言ったの・・・?
彼女は一瞬 自身の自動翻訳機がバグを起こしたのかと思った。
「 な んのことなの ・・・ 」
「 ぼく。 教会の児童養護施設育ちなんです。
そこも 火事になってしまって − もう ないんです 」
「 ・・・ え 」
「 だから 帰れるとこって 無くて。
ギルモア博士にお願いして ずっとここに居させてもらうことに
したんです。 あ 新しい家ができてからも 」
ごめん、目障りかなあ〜 と 彼は案外あっけらかんと笑う。
・・・ どうして??
どうして 笑えるの??
そんな 天涯孤独 なのに!
家族 って知らないのに !
どうして ???
「 あ あのう ごめんなさい ・・・
無神経なこと、言ったわ わたし 」
彼女はしどろもどろに 言い訳をした。
「 え? あ〜 全然気にしてないですから。
事実だし〜 今はこうやって仲間も帰るウチもできて・・・
えへ こんなこと言ったら怒られそうだけど
・・・ ぼく、今 結構シアワセなんです 」
「 そ そう ・・・ 」
「 あのう 003さんは? やっぱり故郷に
戻る予定ですか 」
009は 遠慮がちに訊く。
「 わたし? ・・・ そのつもりだけど ・・・ 」
「 そうなんだ? でもしばらくはここで暮らしますよね? 」
「 ええ ・・・ 」
「 わあ よかった〜〜 ♪
皆 一緒だと楽しいですよね
あ ショッピングとかなら ヨコハマがいいです!
女子に人気 かな〜〜 」
彼は 009は 本当に屈託なく笑うのだ。
! ・・・ この子 ってば
いったいどういう神経してるの??
そんな環境だったから 今の方がまだマシってこと?
・・・ それにしても どうして?
どうして そんな風に シアワセそうに笑えるの ・・・
「 あ ええ ・・・ ショッピングは またね。
いつか ・・・ 教えてください。
わたし 午後にちょっと訪問したい所があるから 少し休むわ。 」
「 ・・・ あのお邸ですか? 」
茶色の瞳がさっと真剣になった。
「 え ・・・ 貴方も知っているの? 」
「 いいえ。 ぼくは 皆さんの話を聞いただけです。 」
「 皆さん? ・・・ ああ 004 や 007の? 」
「 はい。 そして 003さん 貴女も。
でも・・・ 皆さんの話はちょっとづつ違うから
多分 別々のお邸の話をしているのかな って思ってたんです。」
「 え あ そう?
う〜〜ん ・・・? そうねえ・・・・ 」
「 ― そんなに素晴らしいお邸ですか 」
「 え? ・・・ 素晴らしいっていうか ・・・
居心地がいい というカンジかしら。
当主のご婦人がとても気持ちのいい方なの。 」
「 皆さんに ってこと? 」
「 う〜〜ん? ・・・ そうなるかしら
わたしは ― ずっと居たいって思ってしまうわ。
あんな お家で暮らしたいってね 」
「 そう なんですか 」
「 ええ。 ま それはわたしの感想。
とにかく ご訪問する約束をしてきたの。
午後から 行ってくるわ。 」
「 ― 午後は 改築についてミーテイングの予定ですよね ? 」
「 あ あら そうだった?
・・・ わたし 欠席。 皆の意見に賛成します。
じゃあ ね 」
「 003さん ・・・ 待ってますから。
あ 007さん と 004さんにも確認しておいてくれますか 」
「 悪いけど 彼らには会えるかどうかわからないわ。
009、貴方が脳波通信で 一斉送信しら如何?
せっかく サイボーグ なんですもの、 わたし達 」
「 ・・・ ぼく 出来れば 普通に 暮したいなあ と思うのですが 」
「 ! そんなことは 無理よ 」
「 え なぜ 」
「 だって。 わたし達は改造されてしまったのだから。
わたし達は ・・・ サイボーグ だから 」
「 ・・・ でも ニンゲン ですよね? 」
「 どうかしら ・・・ 失礼 」
彼女は するりと彼の側を通り自分の部屋に戻った。
そうよ。
やっぱり もう一度、訪ねなくちゃ。
せっかくハーブの花束、作ってもらったんですもの。
コップに挿しておけばいいわね
― そして あの方に聞いてみるわ。
こちらにわたしの知り合いが訪ねてきていますかって。
カタン ・・・
ガラスのコップの中で パセリとローズ・マリーの束が揺れている。
フランソワーズは じっとその緑に目を当てていた。
ランチ・タイムもパスし しばらく部屋で休んだ。
家の中は 相変らずわいわい・がやがや賑わっていたが
それもやがて 静まっていった。
「 ・・・ 調べてくる。 そうよ わたしは 003。
あのお邸になにか問題があるのだったら
探索するのは わたしの仕事。 そうでしょう? 」
彼女は そっと玄関に出て靴を履いた。
ふふ ・・・ 靴を脱ぐ習慣って
こっそり出入りするには便利ね。
まったりした午後の光の中 フランソワーズはもう一度
通い慣れてきた田舎道を辿っていた。
コトン。 そっと窓を開けてみた。
薔薇だらけの屋敷は 相変わらず静かだった。
しかし 耳を ― フランソワーズとしての耳を 澄ませば
どこかから ピアノの音が流れてきている。
金色の光の中 客間はいつも通り、きっちりと整っていて
アンテイークな家具調度は 艶やかに収まりかえっている。
お茶を淹れてきますわ、ちょっと待っていてね
館の女主人は にこやかに言って奥に消えた。
「 ・・・ ああ お庭が見える ・・・
あの温室は ・・・ いつもの薔薇園のあるところよねえ 」
ピアノ室に改築した温室がある
広い庭園は 端のほうに小川が流れているよ
仲間たちの言葉が 思い浮かぶ。
「 わたし達は 同じ館 を訪ねている のではない・・・? 」
ずっと心に隅に燻っていた疑問が どんどん大きくなってきている。
「 そんなこと、直接訊くのは失礼かしらって思ってたわ。
でも ― この邸は 不可解すぎる ・・
そして 魅惑的過ぎるのよ 」
カタ ーーーー ン。
窓は半分しか開かない。 身を乗り出して外を眺めることはできない。
もっともここの住人がそんなことをする必要はないだろうが・・・
「 ピアノを弾く少年 に会ってないわ。
庭の隅の小川も 見ていない。
― あの方は この広い邸に一人で住んでいる ・・・ の?
使用人は 何人かいるけれど 家族は?
わたしは この居心地のいい客間と 薔薇園のある温室 を
知ってるだけ。 」
窓から見る景色は 彼女が憧れの中で思い描いている通りのものだ。
「 失礼でもいいわ。 訊いてみよう。
そして ― 」
カタン。 カチャカチャ ・・・
「 お待たせしてしまったわね お嬢さん。 ごめんなさい 」
メイドにお茶のワゴンを押させ 婦人は薔薇の花を持って入ってきた。
「 あ いえ ・・・ 」
「 今日はね 今年の初の茶葉で淹れましたのよ。
そして この花も今年初めて咲いたの。 どうぞ? 」
ピンクの薔薇が 花は小さいが香高い花が 差し出された。
「 わあ・・・ 素敵! 頂いていいのですか?
」
「 ええ 貴女にぴったりよ? ・・・えっと・・ 」
「 あ フランソワーズ といいます。 」
「 マドモアゼル・フランソワーズ よくお似合いね 」
「 ・・・・・ 」
フランソワ―ズは ピンクの薔薇を手にしたまま俯いてしまった。
「 どうなさったの? 」
ずっとここに居たい ・・・
ほんの低い声で 口の中だけで呟いたつもり だった。
「 ― よろしくてよ? 」
「 ・・・え? 」
「 どうぞ いらして? ウチは広くて淋しいの。
一緒におしゃべりして過ごせるお友達と 暮したいなあ って
ずっと思ってましたのよ 」
「 ・・・ あの ・・・ 」
「 嬉しいわ! ねえ どのお部屋がよいかしら・・・
好きなお部屋にご滞在くださいな 」
「 いいのですか ・・・ あ そうだわ! これ 」
彼女はバッグの中から そっと紙袋を取りだした。
「 あの これ・・・ ウチの畑で作ってて・・・ どうぞ 」
瑞々しく 香も漂うパセリ と ローズマリーの花束を差し出した。
「 このまま食べてもオイシイです。
飾っていただいても お部屋が清々しい香になります。 」
「 ま あ ・・・ すてきね 」
婦人は 温かい眼差しを注いでいるが 手にとることをしない。
「 ・・・ あ お嫌いでしたか ・・・ 」
「 いいえ いいえ。 そうね 花瓶に挿しましょう。
ねえ お願いね 」
振り向けば メイドさんが立っていた。
「 あ ・・・ はい。
あの今朝 採ってきたからまだ新鮮です。
どうぞお食事に使ってください。 」
メイドさんは黙って受け取ると ワゴンの上のトレイにのせて
そのまま 下がっていった。
・・・ ハーブとか お好きじゃないかしら・・・
眺めているだけでも 楽しいと思うのだけど
ハーブって 邪気を祓うっていうし 身体にもいいのに
「 ねえ お嬢さん いえ フランソワーズさん。
ご訪問してくださって本当に嬉しいの。
こんな風に お話してお茶を楽しんだりしたいわって
ずっと思ってましたの。 」
「 あ わたしもです。
そのう ・・・ 女性が少ない環境なので ・・・ 」
「 まあ 貴女も? 嬉しいわ 嬉しいわ〜〜
わたくし、 本当に淋しかったのよ。 」
「 あの ・・・ 伺っていいですか?
・・・ご家族は 」
「 家族? ええ ― 主人は本国に帰っているの。
息子もおりますけれど 」
「 あの・・・ ピアノを弾いていらっしゃる方 ですよね 」
「 ええ。 淋しいけれどわたくしは この邸が好きよ。
ここで主人が戻るのを ずっと待っていますの ずっと ・・・ 」
「 そう なんですか ・・・ 」
「 ねえ 貴女。 どうぞ いつまでもここにいらしていいのよ。
貴女の帰りたいところ 貴女が居たいところ
それは ― この屋敷でしょう ・・・?
さあ ここに あなたのこころを 委ねてごらんなさい
カチャン ・・・ ことん。
フランソワーズの手がテイー・カップから離れ椅子のアームに 落ちた。
― その頃 コズミ博士の書斎では グレートが話し込んでいた。
彼はフランソワーズとほぼ入れ違いに 戻ってきたのだ。
ジョーも神妙な面持ちで座っている。
「 この先の荒地に? ああ ・・・ 確か空き家があったですな。
ワシが子供の頃からじゃから もう朽ち果てていると思いますよ 」
「 コズミ先生 ・・・ もともとはお屋敷があったのですか?
・・・ その空き地には 」
「 さあのう〜 古いハナシですからな ・・・
開発するには辺鄙すぎて 所有者不明の土地になっとりますよ 」
「 そう なんですか ・・・ 」
「 まあ あまり近寄らないほうがいいですな
特に お若い方やらお嬢さんはお気をつけなさい 」
「 ふん 不逞の輩が集まったりしているのですかね? 」
グレートが少々意外な面持ちで訊ねる。
「 いや ヒトはほとんどいませんからな。
あ〜〜 なんというか ・・・ 古いモノは そうですなあ
善からぬものを引き寄せる という迷信じみたモノですか 」
「 え それは 伝説 ですか? 」
「 いやあ わかりません。
ただ この国には齢を経たモノには魂が宿る、と考える風習が
ありましてね。 そんなものに ヒトの心が
引き込まれる とか 吸い寄せられる などという説もあります。 」
「 ほう それはなかなか興味深いですな 」
「 ミスタ・グレート。 貴方の御国にもいろいろ伝説がおありですな。 」
「 御意。 」
「 ともかく あまり心持ちのよい場所ではありませんよ。
表沙汰にはなってないですが あの辺りで行方不明になった・・・
という 芳しくないウワサもありますしなあ 」
「 げ・・・ そりゃまた ・・・ 」
「 探すヒトもなく それっきり・・・と言った具合らしい。 」
「 ・・・ 捜査はしないのですか。 そのう・・・ケイサツは 」
珍しく 009が口を挟んだ。
「 なにか起こらなければ その方面は動いてくれんですよ。
― とにかく 君子危うきに〜 ですな 」
「 ふむ。 ・・・ ありがとうございます、コズミ博士 」
「 いやいや 」
― その話を 午後のミーティングにグレートが持ち出した。
「 ― あの邸 で か? 」
「 はっきりはしないらしい。
コズミ博士は 近寄るな、と言っておったよ。 」
「 じゃあ そこは ― もしかしたら後暗い組織の・・・
たとえば BGみたいなヤツらの基地・・かな 」
008が眉を顰めている。
「 しかし だな。 吾輩は現に 昼間にはあの邸に居ったのだぞ?
お主だとて 何回か訪問しておるであろうが 004? 」
「 ふん ・・・ 俺は庭の温室だけだ。 普通の、いや まあ
かなり贅沢な設えではあったが・・
おい 003は 」
「 え ・・・ あ 午後は訪問の予定があるって・・・ 」
「 ! あの邸へ か 」
「 調べに行ったのかもしれない。 003だからな 」
「 アイヤ〜〜 そやなあ 探索いうのんは彼女の十八番やさかい 」
「 俺にはごく普通の邸宅に見えたが 」
「 へ。 あそこは空き家じゃね〜か〜 」
「 002、 お前も行ったのか 」
「 だ〜〜からあ〜〜 上から飛んでみただけ だって 」
「 ふん ・・・ 」
「 みんな ・・・!
003さんを 一人で行かせたままにするつもりですか! 」
珍しく 009が声を張り上げた。
「 へ? 」
「 ぼく! 行ってきます。 」
「 おいおい 待て。 一人で熱くなるな。 俺もゆく 」
「 004さん 」
「 ― アルベルト だ。 わかったな? あ〜・・・ ジョー。 」
「 うん! あ アルベルトさん 」
「 まてまて 吾輩も行くぞ my boy
しかし お前さんも気になっていたのかい? あの邸が 」
「 ぼく 行ってみたんです 」
「 え? あの邸に・・・ 行ったのか お前さんも 」
「 うん。 あの・・・ 003さんがとても気にしてたから・・・
どんな所かなって思って 」
「 ほう〜〜 ま 恋する青少年としては当然だな 」
「 ! こ 恋って ・・・ そんな 」
「 まあまあ それで ― お前さんはなにを見た?
あの地で ・・・ あの邸に入ったのか? 」
「 え ・・・? 」
ジョーは 怪訝な顔をしている。
「 あの邸を尋ねたのであろう?
庭を見たのかい? それとも 温室か? 」
「 ・・・? 」
「 それとも 003のように邸の女主人に会ったか? 」
「 邸 って でも どうして ・・・?
あそこは もう誰も住んでいない廃墟だよ ?
床も抜けるし 危険で立ち入り禁止になっている廃屋じゃないか 」
「 ・・・ 」
「 ・・・ 」
004と007は 黙ってちらり、とお互いを見た。
この少年には 見えない のか?
おそらく。
彼には 大切にしたい場所 が
心の拠り所が ない ・・・?
「 とにかく危ないです! 003さん 一人じゃ 危ないですよ 」
「 わかった わかった。 ― 皆 行くぞ 」
「 了解。 」
― そして。
サイボーグ達が特殊な服に着替え 訪れたのは ―
誰も住んではいない 古び、朽ち始めた大昔の屋敷跡 だった。
「 ぼく 探してきます! 」
「 おい 009 ! 」
「 30分経って戻ってこなかったら ― 皆さん 来てください 」
「 おいおい 〜〜 」
「 じゃ お願いします! 」
シュ ・・・ ! 彼の姿はたちまち消えた。
「 ・・・ ったくなあ〜〜 恋するヤツってのは 」
「 ま しばらく様子を見よう 」
「 そうだな。 」
そして 30分後。
009は いささか呆然とした003を抱いて 廃墟の中から
駆けだしてきた ・・・
「 皆さん〜〜 みつかりました!! 瓦礫の中に挟まれてて・・
もう大丈夫。 さあ 退避しましょう ! 」
**********************
ゴウ −−−− 火の手がまた激しくなった。
館は 燃え落ちてゆく。
その炎の中から 甲高い声が流れてきた。
ほほほほ ・・・ ここは お前たちの 終の棲家
身も心も 囚われ 溺れ 引きずり込まれてゆく
誰も ここから逃れることはできない
演劇を論じ 創作していたいのだろう?
音楽に浸り 演奏していたいのだろう?
家族を愛し 穏やかに生きていたいのだろう?
ほほほほ ・・・ お前たちのこころは読めているよ
ここは 虚ろな気持ちを吸いこむ穴なのだ
ほほほ やっと気付いたのかい?
ここがお前たちの 墓標になる !
お前たちの 心を 呑みこむのさ
こんな炎で わたしを葬ったとでも思っているのか?
わたしは 何度でも蘇る ・・・
お前たちの 虚ろなこころがある限り !
「 ・・・ 聞きたく ない ・・・ 」
003は そっと耳を塞ぐ。
「 ・・・・ 」
004は 敢えて無表情だ。
「 わかった よ 」
007は 低く呟き背を向けた。
「 引き上げるぞ 」
004が 全員に声をかけた。
「 了解 」
短く返答すると サイボーグたちは撤退を始めた。
フランソワーズは 最後にもう一度だけ振り返った。
「 ・・・ ! 」
その視線の先には 燃え落ちたはずの屋敷が浮かびあがり
二階の窓辺には 寄り添い合い抱き合うカップルの影がはっきりと映っている。
「 ・・・ ああ ・・・ ご主人、戻っていらしたのね 」
気が付けば アルベルト も グレートも足を止め
感慨深い表情で 見つめていた。
・・・ 帰ろう。 今の 家 へ
ああ そうだな ・・・
・・・ ええ そう ね
三人は 足早にその地を去った。
それは 誰もが 還りたい場所。
心の中に秘めた 大切なヒトとの巣
そう アナタのこころの 『 棲み家 』
************************ Fin.
***************************
Last updated : 06,02,2020.
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************** ひと言 ************
あ〜 ジョー君の出番があまりなかった ・・・・
ごめんね ジョー君 ・・・・ (*_*;
あのお話 とは ちょいと違うテイストになりました★
・・・だって あのお家 壊しちゃうの勿体ないよね?