『  一年生になったら♪   ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

******  はじめに  ******

このお話は 【 Eve Green 】 様宅の <島村さんち> の設定を

拝借しております。

ジョーとフランソワーズと双子の子供たちは 今日も元気♪

 

 

 

 

 

 

「 え。 おべんとう、なんですか?? 

思わず トーンが上がってしまった声に、彼女自身が一番びっくりしてしまったらしい。

フランソワーズは つるり、と受話器を取り落としそうになった。

「 ― あ。  ・・・ご、ごめんなさい〜〜  いきなり大声で・・・ すみません、すみません・・・  」

彼女は慌てて受話器を持ち直し 誰もいないリビングで何回もお辞儀を繰り返していた。

 

    やだ・・・ わたしったら。

    わたなべ君のお母さん、きっと耳を押さえていらっしゃるわ・・・   

    ・・・ごめんなさ〜い・・・!

 

「 あの わたし。 公立の学校はずっと給食だと思っていたので びっくりしちゃって・・・ 

 ごめんなさい、煩かったでしょう?? 」

「 あらあら・・・いいの、大丈夫よ、すばる君のお母さん・・・そんなにご心配まさらないで。 

 そうねえ、給食のところも多いけど。 なぜかウチの市はお弁当、なのよ。 」

「 はあ ・・・ そうなんですか。 ・・・ すみません・・・ありがとうございます ・・・ 」

フランソワーズは今度は冷や汗でつるり、と滑りそうな受話器をしっかり握り ― ぼすん・・・とソファに腰を下ろした。

 

     ・・・ フランソワーズ! 落ち着くのよッ! 

 

「 明日の説明会ってそういう事なんですね。 その時にいろいろ・・・ え? 制服・・・ !

 ・・・ ああ、そうですねえ・・・そういえば 駅の方に出ると見かけますわよね。 

 あんな風なの、皆着るんですねえ・・・ ええ ・・・ええ・・・ ああ、それで採寸してこいって・・・

 ええ なにに使うのかしら、って思ってましたの。 」

彼女はしばし息子の<しんゆう>のお母さんと 情報交換に― もっとも大半は彼女が傍受していたのであるが ― 熱中していた。

「 はい・・・ はい、それじゃ、説明会の時に。  ええ ええ。 ありがとうございました・・・ 」

今度は最大級に丁寧に ・・・ そうっと受話器を置いた。

もっとも 礼儀ただしく、わたなべ夫人が電話を切る音を確かめた後なので そんなに慎重にする必要も

ないのだが。  フランソワーズの気が済まなかったのだろう。

 

  チ・・・ン ・・・

 

微かな音と共に リビングの固定電話はしばし沈黙した。

 

    はあ −−−−−− ・・・・!

 

「 ・・・ 四月っから。 毎朝 お弁当・・・ 四つ! かあ・・・ 」

しん、としたリビングには 島村夫人の盛大な溜息が ぷふぁ〜〜っと広がっていった。

 

 

 

三月も終わりのギルモア邸、 広いリビングには相変わらずごたごたモノが散乱しているが、

負けじと、春の日差しが燦々と溢れている。  

温暖なこの地方ではもうそろそろ花見の季節、裏山に自生する桜もちらほらピンクをみせ始めていた。

この分なら四月最初の週末には 家族そろってお花見が楽しめるかもしれない。

 

  そして 春 四月 になれば。   島村さんち の双子はめでたく中学生になるのだ。

 

双子の姉弟は 勿論地元の公立中学に通う予定だ。

ジョーもフランソワーズも 子供たちはごく普通に育てる方針であるし、今までもずっとそうしてきた。

すぴかとすばるは 小学校の多くのお友達と一緒に地域の中学校に入学予定なのだ。

明日は その中学校で新入生の父母達への説明会がある。

 

   ― ご一緒しません? 

 

わたなべ君のお母さんが さり気無く誘ってくれた。

彼女は すばるの<しんゆう>のお母さんでフランソワーズにとっては

幼稚園の頃からの頼もしいママだちさんなのだ。

お料理上手だし、日本の事情に疎い彼女のよき相談相手にもなってくれている。

フランソワーズはちょっぴり不安だったのだが ・・・ かなり肩の荷が降りた気分だ。

 

 

その日のオヤツたいむは やっぱり中学のことが子供たちとのお喋りの中心になった。

「 え ・・・ 皆一緒でしょ? わたなべ君も しのはら君も。 ゆみちゃんもりえちゃんも。 」

「 ちがうよ〜〜 ゆみちゃんは私立、受かったから。 バスと電車で通うし。

 人数、多くなるからクラスも増えるしさあ。 」

「 まあ ・・・ そうなの?  お母さん、ちっとも知らなかったわ・・・ 

 ・・・ あ・・・ すぴかもゆみちゃんみたいに遠くの学校にゆきたかった? 

 ごめんね・・・お母さん、気がつかなくて・・・ 」

異国の、それも時代が異なる地での教育事情はフランソワーズには目新しいことばかりだった。

「 いいよ、いいよ。  アタシ、地元の中学に皆と行きたいもん。 ね〜 すばる? 」

「 うん。 ぼく、わたなべ君と一緒だから Y中がいいや。 」

母は前もって送られてきたプリントを一生懸命<解読>していたがしょんぼりしてしまった。

「 お母さんね、二人のこと、いっとう大切に考えているって思っていたのに。 ごめんね・・・ 

 そうよね、お母さん、もっともっと勉強しなくちゃだめね。 いずれは高校受験・・・でしょ。 」

「 やだァ〜 お母さんってば。 アタシたち、やっと中学生、だよ? 」

「 ええ ・・・ でも 三年なんてすぐですもの。 あっと言う間に二人とも ・・・ 」

 

       ―  ずきん ・・・・ 

 

フランソワーズの心のいちばん奥の奥に 重い衝撃が走った。

もちろんそれはごく微かなものであったけれど ― でも確実なインパクトがあった。

 

三年なんて すぐ。  月日が経つのなんて あっと言う間。

すぐに  あっと言う間に   コドモたちは中学を卒業し高校生になり大学へも行くだろう。

オトナになって。  ・・・ オトナになってしまって・・・ 自分たちを <追い越してゆく>

彼らは先に駆け抜けてゆき ― そして。

いずれ自分たちは この子たちの前から姿を消さねばならない。

いつまでも年齢( とし ) を取らない異形のモノはひっそりと身を隠すしかない。

<その日> は まだまだ遠い遠い未来のこと、と意識の中から締め出していたが

その姿はすでにごく小さいけれどはっきりと水平線あたりに見え始めている。

 

    ・・・ そんなの ・・・ いや! お願い、まだ・・・来ないで。

    どうぞまだこのコ達を 取り上げないで・・・! おねがい!

 

フランソワーズは きゅ・・・っと目を瞑り身体を固くした。

 

「 ・・・・ さん。  お母さん・・? どうしたの。 具合、悪いの? 」

「 お母さん〜〜 大丈夫?  気持ち、わるい? 」

左右から温かい手がしっかりと彼女の背に腕に触れてきた。

色違いの瞳が ― 彼女と夫から譲られた瞳が ― じっと覗き込んでいる。

 

    ・・・ いっけない・・! 子供たちはまだ知らなくていいことだわ。

 

「 あ・・・ごめんね。 なんでもないの。 びっくりさせちゃったわね。 」

「 ・・・大丈夫? 顔色、わるいよ。 アタシ、おじいちゃま、呼んでこようか? 

 あ、すばる! 冷たいお水、持ってきてよ。 お背中、摩ったげる・・・ 」

「 うん! あ、氷もいれてくるね! 」

子供たちは母の側に纏わりつき心配顔だ。

「 ありがと、すぴか。  ああ ・・・ お水、美味しいわ、すばる。

 ごめん ごめん。  もう・・・平気。 さあさあ 二人ともこっちへ来て並んでちょうだい。 」

「 え・・・ なに?  お母さん、本当に大丈夫? 」

「 ・・・ 僕、お手伝い、するよ? 」

「 あらあら ありがとう。 それじゃ・・・ まず、すばるに記録係 をお願いしようかな。 

 すぴかさんはここに立って。 はい、両腕を広げてちょうだい。 」

「 なに??   今度はなんなの、お母さん。 」

「 なに、じゃありませんよ。  ほら、あなた方の制服! 説明会の時にね、サイズを提出するの。

 制服ってどんなのかしら。 お母さん 初めてだからわくわくしちゃうわ。 」

「 ・・・ 初めてって・・・ 駅前でよく見るじゃん。 アレ・・・ Y中の制服だよ。

 男子も女子もシャツにブレザーよ。 」

「 あら・・・あの、セーラー服、じゃないの? 水兵さんみたいな襟にふわ・・・っとリボン、結んで♪

 日本の女子中学生ってそんな風って聞いたわ? すぴかさん、三つ編みが似会うわよ! 

 男子は上下黒の こう・・・ぴしっとしたスタンド・カラーので・・・金ぼたん、でしょ♪ 

 かっこいいのよね〜〜  すばるもちょびっとオトナになるのね。 」

「 それも古〜〜〜! つめえりっていうんだって。 今じゃもうどこの中学でもあんまし着ないよう。

 お母さんの国じゃ 皆そんなの着るの? 」

「 え! ・・・ リセでは制服なんかないわよ。 みんな自由にオシャレするわ。 」

「 りせ・・? 」

「 そうよ。 お母さんの国の高校のこと。 そりゃあね・・・皆リセに入るのを楽しみにしているの。

 だってオトナへの第一歩、ですもの。 中学はね コレージュといって、日本の中一はね

 フランスでは <六年生> なのよ。 」

「 ・・・ふうん ・・・ 」

「 オシャレっていっても、勿論派手なことはしないの。 自分に一番よく似合うスタイルをいろいろ

 研究したりするのよ。 」

「 へえ ・・・ 男子もォ? 」

「 勿論! かっこよくなくっちゃ 女の子にモテないでしょ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・あ それじゃあさあ  ウチのお父さんさ〜 日本人でよかったねえ。 」

「 あはは・・・ そうだね〜 すばる、アンタも日本人でよかったね〜〜 」

「 あは・・・そうかも〜〜 僕、お父さんと一緒だもんな〜 あはは・・・日本人でよ〜かった♪ 」

「 もう〜〜 あなた達。 ちょっと! それってどういう意味? ・・・お父さんはかっこいいでしょ! 」

「 ・・・ぷ・・・ッ!  あはははは・・・・! 」」

双子の姉弟はちょろっと顔を見合わせ・・・次の瞬間笑いを爆発させてしまった。

「「 ウソ〜〜〜 お母さんってば 冗談キツい〜〜 」」

子供たちは笑い転げているのだ・・・!

フランソワーズは始めはぽかん・・・と子供たちを見つめていたが。 

「 冗談なんかじゃないわよ!  お父さん、カッコイイじゃない!? 」

「 あははは・・・! アタシ、ゆみちゃんと遊んでくる〜〜 あ〜〜おっかしい〜〜 」

「 あ! 僕、わたなべ君と約束があったんだ〜   あははは・・・ 死にそう〜〜 」

大笑いの子供たちは憮然としている母をほったらかしにして 遊びに行ってしまった。

 

   な・・・なによ なによ なによ〜〜!  二人とも!

   ジョーは!  あなた達のお父さんは! 最高にかっこいい男性じゃないの!

   せ、世界でいっちばん素敵だわ! ええ、わたしが保証しちゃう♪

   009はね! 最高〜〜なスーパー・ヒーローなんだから。

 

   ・・・二人して そ・・・そんなに笑わなくたって・・・いいじゃない・・・!

 

いつだって100%夫の味方、な島村夫人は本気で腹を立てていた。

「 ・・・そりゃ。 ウチではリビングのソファでのべ〜〜っと居眠りしてたり?

 お寝坊して大慌てで飛び出していったり ・・・ ぼ〜っとして柱にぶつかったりしてますけど。

 お家ではぼよ〜ん・・・なジャージーにぼさぼさ頭 ・・・だけど。 」

だけど ね!  ・・・フランソワーズは誰もいないリビングですっくと立ち上がり胸をはって宣言した。

「 ああ・・・! マフラーを靡かせてきりり、と立つ防護服姿のジョーを見せたいわ!

 スーパーガンを構えた鋭い眼差しに もう胸キュンなんだから! 

 そうよ、普通の時だってね! 

 島村ジョーって。 今だって女のヒト達が放っておかない魅力の持ち主なんですから!

 それで! えっへん ・・・ その超〜〜 素敵なヒトの妻は! この わたし、 なのよ! 」

 

「 ・・・ 確かにきみはぼくの妻だけど・・・? 」

 

いきなり後ろから聞きなれた声が飛んできた。

「 きゃ?!  うそ・・・! ジョー・・・・!?? ど、どどどど どうしたの・・・? 」

ぎく!っと振り向いて ― フランソワーズはそのまま・・・ フリーズしてしまった・・・

振り返ったまん前に。  彼女の大切なご亭主がにこにこといつも笑顔で立っていたのだ。

「 やあ・・・ただいま。  丁度ヨコハマに用事があってさ。 そのまま直帰していいっていうから。

 久々に明るいうちに帰ってきたんだ。  

 なんだい、次の舞台のリハーサルかい? 」

「 あ・・・そ、そうなの・・・   あ! お帰りなさ〜〜い ・・・♪ 」

辛くも立ち直ると、フランソワーズも満面の笑みで 彼女の恋人に抱きついた。

 

    ・・・ 全部・・・は聞かれてないわよね・・??

 

「 ふふふ ただいま、フラン〜〜  ・・・・ んんん ・・・・ 」

二人は 結婚したその日と同じに熱く熱く唇を重ねた。

彼のスーツからは いつも <知らない世界> の匂いがする。

それはあの特殊な赤い服とはまるで違っているけれど、やっぱり彼の 戦闘服 なのだ。

彼女と子供たちのために・・・ 彼は今も日々戦っている。

彼女のエプロンからは いつも <温かい巣> の匂いがする。

どんなに疲れ果て ぼろぼろになっても。 この 巣 があれば1000回だって再起できる・・・

どんなに落ち込むことがあっても ここで休めば、また勇気百倍戦えるのだ。

彼はいつでもそう信じている。

 

「 ・・・ なんだい、なんだか演説してたみたいだけど? 」

「 え? え〜〜・・・そ、そうなのよ。 明日! 明日ね、 中学校の説明会があって・・・

 それでその準備がいろいろ・・・ ほ、ほら! 制服の採寸とかしてたのよ。 」

「 へえ・・?? ああ、もうそんな時期かァ・・・ そっか・・・ アイツら、中学生か・・・

 ついこの間まで この辺りをハイハイしたりやっとつかまり立ちしてたのにな。 」

「 そうよねえ・・・ ジョーってば二人いっぺんにオンブしたりしてたものね。

 すぴかを肩車して すばるを抱っこして・・・ あのコたち、すご〜く喜んでたわ・・・ 」

「 あは・・・さすがに・・・もう無理、かな。 いくらぼくでも・・・なあ。 

 うん ・・・ もう中学生、か。 」

ジョーは細君のほっそりしたウエストに腕をまわしつつも なんだか遠い目をしている。

「 ・・・ ジョー・・・?  どうかしたの。 」

「 ・・・え?  あ、い、いや・・・ なんかちょっと さ。 うん 感動っていうか・・・

 月日が経つのは早いな、って思って。  ・・・ うん ・・・ 」

「 ・・・・・ ! ・・・ 」

さりげなく髪を払ったりしていたけれど。 フランソワーズはジョーが指でさっと散らした涙を見た。

 

    ジョー ・・・ ! あなたも 同じことを・・・

 

彼女はきゅ・・・っと愛しいヒトに抱きついた。

「 おお? どうした?  ・・・昼間っからえらく積極的ですねえ、奥さん? 」

ジョーは笑いつつ、でもしっかりと抱きとめてくれた。

「 ・・・ ジョー! わたし、側にいるから。 ずっと・・・ ジョーの側に、 一緒よ! 」

「 うん ・・・ ずっと一緒だよ。 ずっと、ね。 」

それ以上、何も語らなかったけれど、二人はお互いの心の内がちゃんとわかっていた。

そして ―  どちらともなく腕を絡めあいもう一度唇を重ねお互いの存在を確かめあう。

 

    大丈夫。  このヒトが居てくれれば。 

    どんな時だって どんな事だって  ―  乗越えてゆける ・・・!

 

二人の思いはいつだって同じだ。

「 ・・・ アイツらさ。 もう〜〜いやだ! ウザい! って言うくらい可愛がってやろうな。 」

「 ええ ええ・・・ ずっと ず〜〜っと・・・ たっくさんの楽しい思い出が残ってくれるように・・ 

 どんな時だって ・・・さ、淋しくなんかないように・・・・! 」

「 きみの息子と娘だもの ・・・ ヤツらは大丈夫さ。 」

「 ふふふ・・・あなたの娘と息子だから ・・・ ちょっぴり心配なの よ! 」

「 ああ もう〜〜 信用ないんだなあ。 ま、いいけど、さ。 」

「 あ、そうだわ。 ねえねえ・・・ ジョーはどんな制服だったの? 

 すばる達はシャツにブレザーらしいんだけど。 ジョー達、中学生の時って・・・

 あの金ボタンにスタンド・カラーのだった? ・・・ う〜ん、ジョーなら似会うかも。 

 あ・・・! 女子は? ・・・もしかして。 ふんわりリボンのせーらー服の女の子達に 

 島村くんっていけめん! とか騒がれていたのでしょう!?  ちゃ〜んとわかっているわ。 」

「  ・・・ え ・・?? 」

島村氏は 茶色の目をぱちぱちさせてしばし彼の細君を見つめていたが ― やがて。

 

   ・・・ あはははは  −− −−− !

 

彼は腹を抱えて大笑いし ― まあこの仕草! すばるにそっくり・・・ と島村夫人もつられてにっこり

してしまったけれど  ―  きゅ・・・っと彼女を抱き締めた。

「 もう〜〜 きみの想像力・・・・ いや妄想力には参るなあ! 

 残念だけどね、ぼくもすばる達と同じで シャツにブレザー、簡単なネクタイだったんだ。

 女子も似たりよったりだったよ。 」

「 あ・・・あら、 そうなの? ふうん ・・・ つまらないなあ。 」

「 つまらない、って。  そうだなあ、学ランにセーラー服、は漫画の世界のものだったかもな。 

 きみはどうだったんだい?  フランスでは制服なんてないんだろ? 」

「 ええ、すぴかにも聞かれたけど。 みんな普通の服。 でもちゃんとオシャレしたわ。

 早くオトナになりたくて・・・背伸びしてみたりしたけど。 

 日本の子供たちも同じでしょう ? 」

「 う〜ん ・・・ ヒトによると思うよ? 学校にもよるけど、受験に向けてガリ勉するやつもいれば

 部活・命! もいたし。 遊んでばっかなヤツラもいたもんなあ。 」

「 へえ・・・??  ね♪ 気になる可愛い女の子はいなかったの? ・・・いたでしょう? 」

「 ・・・ え・・・ ぼ、ぼくは・・・ 施設で小さな子たちの面倒をみなくちゃならなかったし。

 神父様の手伝いもあったから・・・ そんなヒマ、なかったよ。 」

島村氏は なぜか真っ赤になって大汗をかいている。

「 あ〜〜ら そう??  忙しくても ― ミッションの合間でも女の子と仲良しになってたのは

 どこの誰だったかしら? 」

「 ・・・ えっと・・・・  と、ともかく!ぼくは中坊の時も高校生の時も!

 滅茶苦茶に忙しくて・・・ あんまり学校のことに時間は裂けなかったのさ。 」

「 ・・・ ふうん・・・? 」

「 な、なあ・・・今晩はなんだい? あ〜あ・・・腹へったァ〜〜 飯はまだかなあ〜〜 」

ジョーは 彼女をさり気なくキッチンの方へ連れてゆこうとしている。

「 ・・・まだ 晩御飯には早いわよ。  もう〜〜 すぐに話とはぐらかすんだから・・・! 」

「 え・・・ そ、そうなあ〜〜  あ、アイツら、オヤツ食べたんだろ?

 ぼくもなにか・・・ない? ポテチとか煎餅とか アイツらの残りモノでいいからさ。 」

「 はいはい・・・ それじゃね、 今・・・ぱぱぱっとクロック・ムッシュウを作りますから。

 でもあんまり食べすぎないでね? 晩御飯は 肉団子の酢豚風、よ。 

「 うわお♪  どっちも楽しみだな〜 もう腹、減ってさ〜 」

「 ・・・ やだ、すばるそっくり。 」

「 え? なにか言ったかい。 」

「 いいえ〜 別に。 じゃ・・・すぐに作るから 手を洗ってきてちょうだい。 」

「 はあ〜い♪ ウチのお母さんはおっかな〜いな・・・っとォ〜〜 」

ハナウタを歌いつつ彼女の <かっこいいひーろー> なご亭主はバス・ルームに消えた。

 

     ・・・ そうよ! 誰がなんていっても!

     ジョーは わたしのスーパー・ヒーロー なの!!

 

 

 

  ― その夜 ・・・

いつも聞こえる波音も 春の訪れと共にちょびっとのんびりしてきた・・・風に思える。

夜の海には 無数の星の光が散らばり、花びらにも似た華やぎを見せていた。

 

「 ・・・ねえ ・・・ 中学生の時って・・・ ジョー・・・? 」

まだ時々 身体の芯からゆらり・・・と熱い波が押し寄せてくる。  

フランソワーズはゆっくりと恋人の胸で 姿勢と変えた。

「  ね・・・え ・・・ ジョー ってば。   あら ・・・ もうぐっすり ねえ・・・ 

 そうね、このところ毎晩遅かったし。   ・・・ あら、 この寝顔   すばるそっくり・・・ 

さっきまであんなに熱く湧き立っていた彼の身体も ゆっくりと鎮まってきている。

その残りの熱さに頬をよせ 彼女は彼の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

 

     ・・・ あ あ ・・・ ジョーの 匂い・・・

     大好き よ♪ ・・・ ずっと ずっと ・・・ ここにいてね・・・・

 

     わたしの ジョー ・・・・  お  や   す    み ・・・・

 

まだ薄薔薇色の身体をゆったりと彼に寄りそわせ フランソワーズもゆらゆら・・・眠りの淵に沈んでいった。

 

 

 

 

 

「  ― だから 今度の生徒総会でさ、 予算審議の時間は半分に短縮してその分をね ・・・

 おい、 アルヌールくん?  もしもし?? 副会長?? 

「 え・・・  あ・・・ ? 」

不意に  ―  本当に突然 ・・・ 目の前にあの <眼> が現れた・・・!

 

     ・・・?!?!? な、なに・・・  

     あ ・・・  この瞳 ・・・ 知ってる・・・わ ・・・?

     うん ・・・ もっとね ちっちゃいのも ・・・とってもよく知っている気分。

     ・・・ あ  あらら・・・??

 

「 ほら しっかりモノの副会長! 聞いてくださ〜い  もしも〜し?

 予算委員会のほうは会計委員のピュンマと宜しく頼むね。 」

「 え ・・・ え  ええ ・・・ 」

「 ?  アルヌール君? どうしたんだい、寝不足?  受験対策開始ってことかい。 」

「 ・・・ え?  そう  ね・・・ 寝不足、かもしれない わ ・・・ 

 そう・・・ あなたったら ・・・ なかなか放してくれないんですもん・・・ 」

「 え? なにを話してくれてないって。 」

「 ・・・ い  いえ ・・・ なんでも・・・ よく眠ったと思ったんだけど・・・ 」

思わず じ・・・っとみつめ返してしまった茶色の瞳が にこ・・・っと微笑んだ。

「 そう、ならよかったけど。  あは、ゴメン、秀才副会長はガリ勉、なんて無用だよね。

 それじゃ・・・ よろしく! 僕さ、ブリテン先生に報告してから高等部に行くから。  じゃ あとでね! 

「 ・・・ あ ああ ・・・ はい、 行ってらっしゃい ・・・  気をつけて 」

ごく自然に頭を下げたら。   ― 自分自身の服装が目に入った。

 

      ???? な なに〜〜 なんなの コレ ・・??

 

彼女は。  車襞の紺地のスカートに 同じく紺地の上着・・・ 袖口にはカフスがついていて。

逆三角に開いた襟元には ふんわり白い布が結ばれている。

スカートからのぞくすんなりした脚は 白いソックスとバレエ・シューズに似た形の布靴を履いていた。

 

      え?? わたし ・・・ これ、 わたし???

 

「 フランソワーズ! もう終ったの? 一緒に帰りましょ! 」

「 ?!? 」

ぽん、と後ろから肩を叩かれ びっくり振り返れば ・・・ よく知っているはずの青い瞳が笑っている。

「 ・・・ ナタリー ・・??? 」

「 なあに、ヘンな顔して。  あ、今日ってレッスンの日だった? 」

「 え ・・・い いえ・・・ 」

「 そ。 じゃあ一緒に帰りましょ。 ちょっと待っててね〜 アタシ、鞄 取ってくるから〜〜 」

「 は、はい・・・ 」

軽やかに駆けてゆく彼女は ― あの後ろ姿はまさしく仲良しだったナタリー・・・

彼女もフランソワーズと同じ紺地の服で大きな襟が後ろで揺れている。

 

     これって・・・ セーラー服 !  そうよね・・・!

 

彼女はおそるおそる胸にゆれるリボンをに触れてみた。

「 よう〜〜 副会長サンよ! オシゴトはもう終ったのかい? ちょっくら茶ァしね? 」

「 ・・・ え。  ??? ジェット !? 」

「 あん? な〜に 眼ぇ剥いてんだよ〜  なあ、いいじゃん、付き合えよ〜 」

今度は よ〜〜く知っているニンジン頭が黒い上着をひっかけてぶらぶら現れた!

しかも・・・ 上着の前はだらしなく開けていて派手なTシャツがばっちりと目立つ。

「 し・・・仕事って。 み・・・ミッション? 」

「 ハア ?  お前〜〜 なんかヘンだぜ? 勉強のしすぎとちがうかァ? 

 な〜な〜 だからよ、たまにはよ〜〜 付き合えって。 先公にはバレっこねえ店、知ってんだ。 」

「 あ・・・あの。 だ・・・だめよ、わたし・・・忙しいの。

 早く帰らないと ・・・ オヤツの用意もして晩御飯も作らないと・・・ 今、何時? 

 バスに間に合わないわ。  今日は商店街の割引の日だし・・・ 」

「 はァ?? ・・・ おめェ ・・大丈夫かよ? 」

急にそわそわし始めた彼女を ニンジン頭は呆れた顔で眺めている。

「 よ〜 ジェットォ〜 コイツにあんましちょっかいだすなって。

 コイツの兄貴にバレたら・・・おっかね〜ぜ〜〜 」

ずい・・・っと横から火の玉小僧のソバカス・ボーイが割り込んできた。

彼も 骸骨模様のTシャツを見せびらかし ぼうぼうの赤毛である。

「 ん? アポロン? ・・・ へ へへ、だよな〜 兄貴は当学院高等部の生徒会長サマだからな! 」

「 アイツ、喧嘩も強いし・・・あったま良いしよ。  ま、おっかね〜からスルーした方がいいって。

 妹もよ、気ィ強いわ、口も頭も回るはで・・・ お前の手には負えねェよ! 」

「 ふ・・・ふん! なあ 副会長さん? お前もよ〜〜 あの茶色目の仔犬がいいのかよ〜〜 」

「 ・・・こ、 仔犬?? 

「 そうそう!  アルヌールく〜ん 頼むよ〜〜 わあ、凄いな〜♪ って。 

 尾っぽふりふり〜〜 着いてくる、茶髪のアイツさ。 ・・・ し ま む ら ! 」

「 あ ・・・ ジョーに用事? ちょっと待って、すぐに呼んでくるわ。 

 わかったわ。  ええ、それ以上言わなくても大丈夫。 ちゃんとコンタクトを取るから。

 確か・・・こっちに行ったはずなの。  ・・・通信をオープンにしてジョーからの連絡を待って! 

 それじゃ。  定時連絡、忘れずに! 」

フランソワーズはぱたぱたと廊下を反対方向に駆け出した。

 

    これって。 きっとなにかの潜入調査なんだわ・・!

    わたし ・・・ ショックで一時的に記憶が飛んでしまっているのよ ・・・多分。

    とにかく!  索敵はわたしの任務だし・・・ 皆の足手纏いにはなりたくないわ!

    002は何気に009とコンタクトを取りたがっているのね。

    ・・・ わかったわ、任せて! すぐに捜してくるから!

 

「 ・・・ < ジョー > だってよ・・・! 

「 しぇ〜〜〜 あの優等生らがな・・・アイツら デキてやがんな! 」

「 ったくよォ〜〜 ヤルことはちゃんとヤってます、ってか。 」

「 でもよぉ  つうしん  ってなんだ? 

「 知らね。  けどよ・・・ なんか・・・ヤバくね? 」

バスケット・シューズのカカトを踏み潰し、赤毛と火の玉小僧は肩を竦めあっていた。

 

 

「 ・・・えっと・・・≪ 009? 現在地を報告願います! ・・・?? 009!? 009〜〜

 応答してください ! ≫ 

    あ・・・ どうしよう・・・  返事がこない! ここ・・・どこかしら。

いくら脳波通信を飛ばしても返信はなく、おまけに周囲は似たような廊下がずっと続いているだけだ。

たださっきの場所よりも静かで 通りかかる人々は少しばかり大人びていた。

そして 皆おなじように黒い上下や 紺のセーラー服にこちらは黒のネクタイをしている。

 

    どうしよう・・・! え〜い・・・ちょっと <眼> つかっちゃお・・・!

   

フランソワーズは廊下の端で立ちどまると 探索を始めたのだが ―

 

    ?? あ・・・あれ?  スイッチが ・・・オンにならないわ・・・ 

    ヘンねえ・・・  いつもすぐに超視力でぱあ〜〜っと視界が広がるのに・・・

    いいわ。 それじゃ <耳> でジョーの声を拾うわ! 

    ・・・・ ああ?? み、耳も・・・ オンにならない・・・!

 

003の能力は 本人の意思の力でオン・オフを切り替える。

加速装置のように物理的にスイッチを押したりは しない。 すべて本人の頭の中で作業なのだ。

意思の力で通常の視力・聴力から切り替え、そしてそのレンジを広げ・・・情報を拾ってゆく。

つまり、003の能力は 本人の意思次第でそのチカラを発揮できるのだ。

 

それが ― 今、本人がいくら意識しても まったく稼働しない。

眼の前に広がるのは ・・・ ただの 普通の風景 であり、 耳に入ってくるのは当たり前の音だけ。

 

    どうしよう・・・!  脳波通信も <能力>も! 全然働かない ・・・

    わたし ・・・ 壊れてしまった・・・の ・・・?

    ・・・ どうしたら ・・・・いいの・・・?  ここは  どこ ・・・ ああ ・・・

 

彼女はこめかみを押さえたまま その場にしゃがみこんでしまった。

 

 

「 あなた・・・どうかしたのかい? 大丈夫か? 中等部の生徒だろう? 

ふわり・・・と微かにコロンの香りがして 柔らかい手が背中をさすってくれている。

「 ・・・ あ ・・・? 」

フランソワーズは おそるおそる顔をあげた。

「 貧血かな。  ああ 急に立ってはだめだ。 ゆっくり、ゆっくり な。 

 おおい誰か 男子はいないか?  ちょっと待って、中等部の保健室まで送らせるから・・・ 」

「 あ・・・ あの 大丈夫、ですから・・・   あら。 

フランソワーズの眼の前には 深い濃紺の豊かな髪を揺らし、濃い黒の瞳の女性が

心配顔をして一緒に屈みこんでくれていた。

オトコ言葉のぶっきら棒だったけれど 彼女の眼差しは優しい。

 

    ・・・ あ  あなたは・・・・!?  えええ・・・ここは どこなの?!

 

ふぁさり、と長いポニーテールが彼女のセーラー服の襟にかかる。

「 ・・・女の子の日か? 無理しちゃだめだ。  それで高等部になにか用事かな。 」

「 あ・・・あの ・・・ じょ ・・・ い、いえ あのう〜〜 ヒトを捜していて・・・ 」

「 ヒト?? 誰だ? 高等部の生徒かい。  あ・・・丁度いいヤツがきた!

 お〜い 生徒会長! ちょっと ・・・ この中学生、保健室まで連れてってやってくれないかな。 」

「 なんだ、 アルテミス女史。  また君のファンかい? 」

一つ先の引き戸が開いて 長身の男性が出てきた。 彼も黒の上下だ。

どこかで聞いた声だ・・・と 彼の顔を見つめて ―  フランソワーズは仰け反るほど驚いてしまった。

 

「 ・・・!!?  お・・・ お兄さん ッ ・・???? 」

 

「 ああ?   なんだ フランソワーズじゃないか。 なにか用か? 」

出てきた人物は 大して驚きもせずがしがし大股でこちらにやってきた。

 

    うそ・・!  ど、どうして・・・ ジャン兄さんが ここに??

    ・・・それに この彼女 ・・・ あ、アルテミス よ、そうよ ・・・!

 

兄は ― 最後に見た時のままの姿だった。

彼女よりすこしだけ濃いめの金髪、そして 同じ勿忘草色の瞳。 ただし、例の黒の上下姿だった。

なにやら紙の束を抱えていたが・・・ さすがにトレード・マークの煙草は銜えていない。

「 お前〜〜 中坊がなにやってんだ?  ああ・・・中等部生徒会の資料かい。 」

「 ・・・ え ・・・あ、あの。 ジョー ・・・ は? 」

「 ― ジョー ? 」

兄の眉が ぴん・・・!と釣りあがった。

「 それは あの茶髪ヤロウのことか?  始終お前の後を付いて回っている・・・

 いちお〜 中等部生徒会長 なんて肩書きの  しまむら のヤロウのことか?! 」

「 え?  え  ええ ・・・ ふうん、生徒会長なんだ・・ ジョーってば・・・ 

 そんなこと、聞いてなかったわ ・・・ 」

「 おい? ファンション。 お前とアイツはそんな仲なのか! 」

「 そんな仲・・・って。 そのう・・・ジョーとわたしはずっと・・・ 」

「 ずっと、だと?? ファンション! お前〜〜 兄さんに隠れてアイツと付き合っているのか!? 

 ま・・・まさかとんでもない仲になっていないだろうな! お前ら〜ちゅ、中学生の分際で! 

「 ジャン・アルヌール、落ち着け。  そんな風に問い詰めたら彼女は何も答えられんだろう? 」

「 あ ・・・ ああ、そうだな。  ありがとう、アルテミス女史。 」

「 ふふん、ま、大切な妹の身を心配してってことだからな。 

 それで 彼女はその島村を捜しにきて ・・・ 気分が悪くなったようだ。 」

「 あいつならもうすぐ連絡にくるはずだ。 中等部の生徒総会の予定について報告にくる。 

 ・・・・ よし。 それじゃ ちょっくら締め上げてやるか・・! 」

「 ・・・ お兄さん・・・そんな やめてちょうだい。  ジョーはなんにもしていないわ。 

 え・・・いえ、そりゃ  してる、  けど。 それはジョーとわたしは そのう〜〜 ふうふ・・・ 」

「 !!? やっぱり! お前、なんてことをしてくれたんだ!  兄さんは許さんからな!

 すぐに 転校させる!  俺が言えば親父だってすぐにO..するさ。 」

「 許さんって そんな。 だってわたし達 もう・・・ 」

「 わたし達  だと〜〜 ?! 」

「 落ち着け、ジャン・アルヌール!  大声を上げるな。 」

 

「 遅くなりました〜〜  ジャン先輩!  ブリテン先生の話がながくて・・・

 あ? アルヌールくん、きみの方が早かったかァ〜〜 

 

渡り廊下の鍵の手から ひょっこり茶髪頭が現れた。

「 し、しまむら〜〜〜 !!! 」

「 はい? あ、ちゃんと資料は用意してきました。  あれ? アルテミス副会長も? 」

「 ・・・ ジョー ・・・ どこに居たの? さんざん脳波通信で呼んだのに。  」

「 え? どこ・・・って。 職員室だよ? 生徒会顧問のブリテン先生に議事録を提出してたんだ。

 あれ?  どうしたの、きみ。 顔色、悪いよ? 」

「 え ・・・ ええ あの・・・ 」

「 やっぱり忙し過ぎるんだよ。  生徒会に部活に。 バレエもずっと続けているんだろ?

 無理するなよ〜〜 後はぼくに任せて。 」

ジョーは そう・・・っと彼女の肩に手を置いた。

「 ! そ、 その手を離せ!! このぉ〜〜 ヒトの妹に勝手に手を付けておいて〜〜

 お前ら まだ中坊なんだぞ!  は・・・! まさか・・・具合が悪い・・・って ファン、お前?? 」

「 ・・・ ジャン先輩 ・・・ぼく ・・・ぼく達は別にそんな・・・ 

「 〜〜〜 なんだと〜〜〜 !? こ ・・・ のぉ〜〜!! 」

「 わわわ ッ・・・ な、なですか  先輩、いきなり・・・ 」

「 きゃ・・・やめて、やめて〜〜 お兄さん、乱暴はよして!  」

「 ・・・ ジャン・アルヌール。 年下に手をだすな。  ・・・ そなたらしくないぞ。 」

「 ・・・ぐ・・・!  くっそぅ〜〜 !! 」

 

 

「「  ねえ まぁだあ〜〜 ?! 」」

 

 

可愛い声がして今度は色違いの頭がふたつ、渡り廊下から駆けてきた。

「 あ、 すぴかにすばる。 ごめんごめん・・・ もうすぐ終るから。 もうちょっと待っててくれよな。 」

「「 うん わかった〜〜 」」

ぴかぴかの制服、それもちょいと大きめの制服姿が二人、手を繋いでこっくりと頷く。

 

    すぴか ・・・!  す、すばる〜〜〜??? 

 

「 やあ・・・ 島村の兄弟かい。 よく似てるな。  新中一生か。 」

アルテミス女史は にこにこ笑みを浮かべ二人に向き直った。

「 はい!  島村 すぴか 一年A組です!」

「 僕 ・・・ しまむら すばる ・・・デス。 」

「 お〜〜 はきはきして頼もしいな。 私はアルテミス。 高等部三年だ。  よろしくな。 」

「 すぴか  すばる。 アルテミスさんは高等部の生徒会副会長さんなんだ。 」

「 ふうん ・・・ スゴいんだね〜〜 」

「 あ・・・ あのね・・ ジョー君に渡して〜〜って。 いろんなお姉さんたちからお手紙、預かったの。

 えっと ・・・ ほら これと〜これと〜 これも、だ。 すばる、あんたも預かったでしょ。 」

「 あ! うん ・・・ まゆみさん ってヒトとぉ〜 たまらさんってヒトとぉ えっと〜 あと〜 」

新入生たちは ぴかぴかの鞄の中から一生懸命なにやら封筒やら小箱を引っ張り出している。

「 え! あ・・・ ああ それは・・・ウチに帰ってからでいいから・・・さ!

 あ そうだ。  ジャン先輩、 なにかご用があったんじゃないんですか? 

 どうしたんです、なんだかひどく取り乱していましたよね・・・ 」

「 ・・・ あ ああ。   島村。 お前ってヤツは・・・・! 呆れてモノが言えない・・・ 」

「 ちょっと!   ジョー・・・!  それは ・・・なんなの??? あの手紙の山は!? 」

亜麻色の髪が さ・・・っとゆれ、フランソワーズがジョー達の前にずい、と立ちはだかった。

今まで 何がなんだかさっぱり判らず兄の後ろで呆然と突っ立っていたのだが ― 

彼女は今、しゃっきりと背筋を伸ばし、 真正面からジョーを見据えている。

「 おい ・・・ファンション ・・・ お前は口を挟むな。 」

「 いいえ! お兄さん、これはわたし達の問題なの!  ジョー・・・あなたってヒトは! 」

ぐ・・・っと彼女が踏み込めば ずさ・・・っと反射的にジョーは後退りをする。

「 ・・・ え ・・・な、なななな なにが・・・??  

「 まあ〜〜 この期に及んで まだシラを切るつもり?? 

 こ、子供たちにまで こんなもの、持たせて・・・! ああ〜〜 可哀想に・・・二人とも! 」

フランソワーズは がば・・・!っと ぴかぴかの中一姉弟を抱き締めた。

 

「 ・・・ このヒト、だれ。 

「 こわ〜い ・・・ 」

 

いつもなら ぴと・・・・っとくっついてくる二人は 彼女の腕の中で身体を固くしているだけだ。

 

     だ、だれ、ですって???  すぴか! すばる〜〜!!

     お、お母さん じゃないのっ!!

 

「 すぴか! すばる! ・・・ なんとか言ってちょうだい! 」

「「 ・・・・ < なんとか > 」」

新しい制服の二人は ますます顔を強張らせて、男の子は半分ベソをかきそうだ。

「 !?!? あ ・・・ あの。 この人はさ、 ほら・・・この前、生徒会の挨拶で自己紹介してたろ?

 中等部 生徒会副会長のフランソワーズ・アルヌールさん だよ。 」

「 ・・・ ふう〜ん ・・・ 」

「 あの。  僕たち あっちで待ってる。 ね〜 すぴか? 」

「 あ ・・・うん! すばる〜〜 」

「 あ ・・・ そうしてくれ。 すぐに行くからね! ごめんな! 一緒に帰るから! 」

「「 うん♪♪  じゃあねぇ〜〜 」」

双子はするり、と彼女の腕の中から抜け出すと 振り返りもせずにぱたぱた駆けて行ってしまった。

 

     あ ・・・・すぴか !  すばる !!!

     どうして お母さんに抱きついてくれないの?!

     どうして ・・・ キスもしないで 行っちゃうの?? 

     二人して どこへ 行くの!??!   

 

廊下にしゃがみこんだまま・・・フランソワーズはぼろぼろ涙をこぼしている。

「 ファンション ・・・ 大丈夫か? な、 帰ろう。 兄さんと一緒に・・・

 ともかくゆっくり休んで・・・ ちゃんと話あおう。 な? 

 アルテミス副会長、 すまないが ・・・後、頼めるかな。 」

「 了解。 ジャン・アルヌール、後は任せろ。  妹君はどうも混乱しているようだな。 」

「 うん。  ありがとう! 恩に着る・・・  さ、ファンション、お前の鞄、取ってきてやるから。 」

「 ・・・・ いいえ! まだ 帰れないわ。 」

フランソワーズは ゆっくりと立ち上がると ― キッと顔を上げた。 

  そして。  深呼吸をひとつ。 

彼女はとても静かに しかし はっきりと話し始めた。

「 ちゃんと説明してくださいな。  あなた、すぴかとすばるに何を言ったの? 」

「 な・・・・なに ・・・って??  あ、あなた??? 」

彼女の視線の先で 茶色の瞳がひたすら驚愕しまん丸になっている。

「 だから・・・! それを説明して欲しいの。  ジョー・・・いえ、島村君! 」

「 ・・・・・・・ 」

 

     島村君・・・!!  島村くんってば!!!

 

 

 

 

「  ・・・ し ・・・ しまむら ・・・ くん・・・! 」

「 はい?    ここにいますが なにか御用ですか。 ・・・ 島村さん。 」

 

    ・・・ え ・・・???

 

「 え ・・・ し、しまむら ・・・って ・・・あ ・・・? 」

気がつけば眼の前に ― いや 彼女の顔のすぐ横に温かいセピアの瞳が笑っていた・・・

「 どうしたんだい? 魘されていたみたいだけど・・・・? 」

くしゃり・・・と大きな手が 彼女の髪を優しく愛撫する。

触れ合う肌の暖かさと匂いは もう世界で誰よりもよく知っている ― 彼女の夫のものだ。

 

     ゆ ・・・ 夢 ・・???

 

「 ぁ・・・あの ・・・・ 寝ぼけた みたい ・・・ 」

「 あは  なあんだ ・・・ さかんに 名前、呼ぶからさ。 どうかしちゃったのかと思った。 」

「 ・・・ え  あ ・・・ ご、ごめんなさい ・・・ 

「 ふふふ ・・・謝らなくていいって。 きみだって 島村さん だもんな〜〜 」

ジョーは彼の細君をきゅ・・・っと抱き締めると、白い胸に顔を埋めた。

「 ああ ・・・ いい匂いだ ・・・! 」

「 ・・・ きゃ ・・・ もう〜〜〜 ジョーの 甘えん坊さん・・・ 」

「 ふ・・・ん ・・・ ここはぼくだけの場所だもの。 子供たちにだって譲るもんか・・・! 」

「 大丈夫〜〜 ふふふ・・・ウチの二人はもうと〜〜っくにおっぱいは卒業してますからね。 

「 ・・・ ぼくは♪ 永遠に卒業できませ〜〜ん ♪♪ 」

「 きゃ ・・・ だめだってば ・・・ あ ・・・んんんん ・・・ 」

 

     ぁ・・・・あん ・・・・ も・・・・だめ・・・・

     ふふふ ・・・ やっぱり ・・・学ラン の 島村くん より・・・

     ・・・  ああ ・・ん ・・・ この ジョー が ・・・ いい・・・・

 

夫の腕の中でもう一度昇りつめつつ、フランソワーズはこっそり ・・・ 呟いていた。

 

 

 

 

「 ・・・ ほい、すぴか。 もっと笑って!  ああ ジョー?もうちょっと中央に寄ってくれ・・・ 」

「 おじいちゃま! そんなに下がったら危ないよっ ! 」

「 ああ?  おっとっと・・・・ どうもなかなか・・・難しいモンじゃなあ・・・ 」

「 博士、博士〜〜 適当に写っていればいいですから! 」

「 そうですわ、足、お気をつけになって・・・! 」

春四月のある朝。

島村さんち の家族は門の横にある桜の樹の下に勢揃いしていた。

ジョーはダーク・スーツに一張羅のネクタイ。 ( 博士から頂いた秘蔵のタイ )

フランソワーズは 濃紺のスーツに淡い水色のブラウス。 ( ジョーが惚れ惚れと眺めている )

そして 本日の主役は ―  ぴっかぴかの制服を着た すぴか と すばる。

二人は神妙な顔をして両親の間に立っている。

 

ジョーとフランソワーズが結婚した年に植えた桜は 今や伸び盛りの若樹となり門口を飾っている。

満開に近い花をびっしりと着け、誇らしげに枝を広げる。

この樹の横で 下で 家族は節目節目に写真を撮ってきたのだ。

そして 本日も ・・・ 

「 ・・・ よ〜し。  それじゃ ゆくぞ・・・! ほい ち〜〜ず! 

   ぱち。

大騒ぎの末 博士が一家の記念写真を撮ってくれた。

 

「 ね〜ね〜 おじいちゃま! 僕の腕時計〜〜 ちゃんと写ったかなあ? 」

「 ・・・アタシ やっぱスカートはなあ・・・明日っからズボンにしちゃ だめ? 

「 すばる・・・ あなた お手々を上げてたの?? 

 すぴか。 女子の制服は チェックのスカートなのよ。 」

「 はいはい、それじゃ出発。 おじいちゃまに皆でご挨拶、だよ。 」

「「 はあ〜い ・・・ 」」

父の一声に さすがに子供たちもおしゃべりを止め ・・・ 皆で イッテキマス をして。

島村さん一家は だらだら坂を下っていった。

 

ひらり ・・・ひら ひら ・・・・

春の使者が 一家のあたらしいページに舞い降りてきた。

 

 

 

 

「  ―  こんなの、 やだ。 」

「  ―  たりない。  」

 

   ・・・ え ・・・  ど、どうして ・・・??

 

子供たちの膨れっ面を前にして フランソワーズは ・・・ 呆然としてしまった・・・

新学期が始まって やっと一週間が経った金曜日の午後だった。

 

 

 

 

Last updated : 04,20,2010.                index        /        next

 

 

 

 

 

******** 途中ですが  

す、すみません〜〜〜 終りませんでした〜〜

ってか これから双子ちゃんたちの活躍?? が始まるのかも・・・・

はい、例によってな〜んにも事件はおきません、

のほほん・島村さんち ストーリー・・・

お宜しければあと一回 お付き合いくださいませ <(_ _)>

ひと言なりとでもご感想を頂戴できましたら〜〜 狂喜乱舞〜〜♪♪

 

え〜と・・・ <フランちゃんの夢> ですが♪

Critical  Mach  number 】  様宅 ( celica様 ・ ワカバ屋さま ) での

三月の インフォメーション・イラスト♪♪ から妄想しちゃったのであります〜〜<(_ _)>

妄想ネタ、ありがとうございました♪♪  


                               【 追記 】  島村さんち  産みの親様からご指摘を頂戴しました。
                                実際の制服の注文は  二月中  だそうです。 三月末 では間に合いません。
                                申し訳ありません〜〜  その辺りは どうぞ寛大にもお目を瞑ってくださいませ<(_ _)>