『 星の見る夢 ― (2) ― 』
ズ ・・・ズズズズ ・・・・
妹は派手な音をたててストローで冷たいオ・レの残りを飲み干した。
「 ・・おい! 」
兄は顔をしかめ、やっと新聞から視線を離した。
やった 〜 ♪
密かに心の中でVサインをつくりつつ、妹は素知らぬ顔をしている。
ズ −−−−− ・・・
妹はさらに勢いよくストローを吸い上げる。
「 やめてくれ! わかった わかった・・・・ だから どうしろっていうんだ? 」
兄はばさり、と新聞紙をテーブルに置いた。
「 だから〜〜 バカンスは無理でも次の休暇! どこか行きたいの〜 」
「 友達と行ったら。 」
「 え〜〜 お兄ちゃんと! 出かけたいの! 」
「 あのなァ・・・ 休暇ってな。 休むため、なんだぞ?
俺としてはウチでの〜〜んびりぐだぐだしたいんだ! 直前が外地勤務だからな! 」
「 え〜 だってだって〜〜 たまにはいいじゃない〜 」
「 ・・・っとに。 ファン、お前いったい幾つになったんだ? いい加減、コドモみたいに ・・・ 」
「 コドモだもん、 お兄ちゃんのイモウトだもん、 いいじゃない〜〜 」
「 いいじゃない・・って お前。 レッスンだってあるんだろう? 」
「 ・・・ 夏休みよ! 」
妹はテーブルの前で 本気になって駄々をこねている。
・・・ ま 仕方ないか ・・・
このところ、ずっと外地 ( そと ) だったからな・・・
兄はちら〜っとリビングを見回した。
きちんと片付いてはいるが余分なモノがほとんどなく、 <家庭> としての雰囲気は薄い。
どこか寒々としている。 ・・・妹はずっと一人でこの部屋に居たわけだ。
ほっぽりだしていた俺にも責任はあるよなあ・・・
コドモの頃と同じに真っ赤な顔で口を尖らせている妹に 兄はついに根負けをした。
「 ああ わかった わかった ・・・ じゃ 付き合ってやるよ。 」
「 うわ〜〜い♪ メルシ、お兄ちゃん♪ 」
「 その代わり遠出はダメだ。 」
「 ・・・ ん〜〜〜 いいわ。 そうね・・・中部か北でもいいな、フランドル地方とか♪ 」
「 十分遠出じゃないか。 」
「 いいじゃない〜〜 ね? だってどうせバカンスはナシなんでしょう? 」
上目使いに、 それも目尻に涙を見つけてしまえば 兄は全面降伏しかできない。
「 ああ ああ 仰せに従いますよ。 じゃ 俺が帰ったらすぐに出られるようにしておけよ。 」
「 ウン わかった。 スーツ・ケース、詰めておくね。 」
「 大荷物、厳禁だぞ? ・・・ だいたい・・・ お前、一緒に旅行するヤツはいないのかよ? 」
「 お兄ちゃんがいるから いいもん。 」
「 ・・・ 喜んでいいのか 困っていいのか。 」
兄は盛大な溜息をつきつつ、立ち上がった。
「 じゃあ そういうことで。 ちゃんと準備しておけ。 」
「 うん ・・・ あ やっぱり駅まで迎えに行くわ、わたし。 」
「 そうか? それじゃ駅で合流しよう。 ××日、 〇時だ、寝坊するなよ。 」
「 了解〜〜〜 うわお♪ お兄ちゃんと旅行なんて久し振り〜〜 」
「 ふん・・・ さんざん駄々捏ねたクセに。 ま 感謝してくれるならコーヒーもう一杯! 」
「 はァ〜い ☆ 」
妹は立ち上がると 軽い足取りでキッチンに消えた。
― カチン ・・・
銀盆の上で ソーサーが鳴った。
「 ― 御用は伺ったかい? 」
「 ・・・ え ・・・? 」
ふ・・・と気がつくと 目の前には例のオバチャンがいた。
フランソワーズは あぶなっかしい手つきでお盆を捧げている自分に気がついた。
「 あ ・・・ わたし ・・・ 」
「 空の間 の御用は終ったんだろ。 」
「 ・・・あ は はい ・・・ あの コーヒーをもう一杯・・・って・・・・ 」
「 そうかい わかったよ。 それじゃ 次は南端の 月夜の間 だよ。 」
ほら・・・とオバチャンは新しいグラスと水差しをお盆に乗せた。
「 は はい ・・・ 」
パサ ・・・ メイド服のエプロンが揺れる。
― お姉さん ・・・
不意にコドモの、少女の声が耳もとで聞こえた。
ひとり、会いたいヒトに会えたわよね?
でも お姉さん ・・・
・・・ やっぱりお寝坊、してしまうのね・・・・
「 え?? な なあに? アリス?? どこにいるの、アリス、あなたなのでしょう? 」
フランソワーズはきょろきょろ周囲を見回したが 人影はない。
黒光りする廊下が延々と続いているだけだ。
「 ・・・ 寝ぼけた のかしら? でも アレは確かに ・・・・!
ジャン兄さん・・・ 兄さんに逢えるなんて! 夢でもいいわ、嬉しかった・・ 」
今までの光景が夢なのか ここでメイドをしている自分が夢なの ― よく判らない。
でも いいや・・・ フランソワーズはなぜか素直に納得していた。
兄に会えた。 ほんの少しの間、あの部屋へ ・・・ 戻れた。
それだけでも十分に幸せだった。 ただ ただ素直に嬉しかった。
会いたいヒトに ・・・ 会えたわ ・・・・
目尻に滲んだ涙を そっとエプロンで拭い、銀盆を持ち直す。
メイドの風蘭さんはしずしずと廊下を進みいくつか角を折れた。
南の棟は広い庭に面していて、全体が明るい雰囲気だった。
目的の部屋はすぐにみつかった。 間口は先ほどの空の間よりもずっと広い。
「 ― 月夜の間。 ここね。 あら 大きなお部屋ね・・・・ 」
トントン ・・・ トン ・・・
「 ・・・ し 失礼します ・・・ 御用はございませんか? 」
ドアを開け 控えの間に進み、メイドさんは声をかけた。
「 きゃ〜〜〜 ムシが飛んできたァ〜〜 お兄ちゃあ〜ん 」
甲高い幼女の叫びが耳に飛び込んできた。
「 ?? あの?? あの声 ・・・ わ わたし ・・・? 」
ザザ ・・・・ 風欄さんは慌てて襖を開けた。
― そこには。 星空が広がっていた。
「 え・・・?? ウソ ・・・・ ここ ・・・ 外?? 」
「 いない、って? 」
「 はい。 確かにコズミ様のお名前でご予約は頂戴しましたが。
どなたもおいでにはなりませんでした。 」
「 え ・・・・ そ そんな・・・! 」
ジョーは絶句し、固まってしまった。
番頭風な恰好はしているが その実、この旅館の支配人氏は そんな青年をすこしばかり
気の毒そうに眺めていた。
・・・ そうか、カノジョさんに振られたんだな。 気の毒に ・・・
勿論 ジョーはそんな目線には全然気がつかない。
「 ・・・ そ それじゃ! あの! この近所に他の旅館、あります?? 」
「 いやあ〜〜 ここいら辺もなあ、過疎化が激しくて。 皆廃業しちまってねえ・・・ 」
「 ・・・ そ そうですか ・・・ 」
「 隣街なら まだ少しは活気があるけれどね。 」
「 ・・・はあ ・・・ 」
― 数分後
この町のたった一つの旅館の門から茶髪の青年がしおしおと出てきた。
「 ・・・フラン ・・・ どこにいるんだよ〜お ・・・ 」
ジョーは立ち止まり、ポロシャツの胸ポケットから大事に折りたたんだ紙を取り出す。
そう・・・っと広げ しばしながめ ― ふ 〜〜〜っと深い深い溜息をひとつ。
・・・ そう だよな。 それっきゃできないもんな・・・
気を取り直し、真夏のかんかん照り、白茶けた道をジョーは歩いていった。
「 ともかく駅まで戻って博士に報告しなくちゃ ・・・ 」
お兄さん?
不意に ― コドモの声が聞こえた ・・ と思った。
振り向いたジョーの目に映るのは 夏の陽に燃え立つ田舎道だけ。
「 ・・・・・・? うん? ・・・ なんだ 気のせいか ・・・ 」
「 気のせいじゃないわ! お兄さんってば。 」
「 ・・・へ? うわ!? 」
いきなり 足元から甲高い声が響いた。
ジョーのすぐ脇に 小学生低学年くらいのオンナノコが立っていた。
「 ・・・ き きみ?? ど どこから きたの?? 」
「 あら ずっとここにいるわよ。 ねえ それよりもお兄さん、会いたいのは だれ。 」
くりっとした黒い瞳が 熱心にジョーを見上げている。
「 え えええ??? 」
「 お兄さんが会いたいヒトよ。 会えますようにってお願いしてここに来たのでしょう? 」
「 ・・・ 会いたい ヒト? 」
ドキ・・っとして、 思わず声が上ずってしまった。
「 そうよ。 誰と会いたいの。 ここまで捜しに来たヒト? 」
「 え ・・・・ 」
「 ・・ あ。 わかった。 おかあさん、 ね。 」
「 ・・・ お かあさ ん ・・・? 」
めったに口にしないその言葉、 ジョーはおそるおそる口に出してみる。
「 お兄さんが会いたいのは お兄さんのお母さんでしょ。
でもね、それなら ココじゃだめ。 ・・・ アタシがつれていってあげるわ。 」
「 ど どこへ ・・? 」
少女の小さな手が くい、とジョーのポロシャツの裾を引く。
「 だから お母さん に会えるところ。 」
「 あ ・・・ あの。 ごめん、 いいんだ。 」
「 ― え? 」
ジョーは そっと少女の手を押さえる。 少女の大きな瞳がますます大きく見開かれた。
「 いい ・・って。 おかあさん に会いたくないの?? 」
「 そりゃ 会いたいけど けど。 ・・・ 今 会いたいヒトは
・・・ お母さんじゃないんだ。 会いたいヒトは・・・・
そのヒトのことは なにがあってもぼくがさがす。 」
「 ・・・ お兄さん・・・ 」
「 ごめんね。 ぼくは駅まで戻るけど。 キミの家はどこ? 送ってゆくよ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
少女は静かにジョーのシャツを離した。
「 ? なに。 」
「 ・・・ なんでもない。 そっか。 ねえ それじゃお願いごとはなあに。 」
「 願いごと? 」
「 そうよ、お兄さん、あなたのお願い事。 今晩は七夕ですもの。
あら それ、短冊? 貸して、アタシの笹に飾ってあげる。 」
「 え!? あ ち ちがうよ! これは ・・・違うんだ。 」
ジョーは慌てて後生大事に持っていた紙切れをポケットにしまった。
「 ・・・ ふ〜ん? お願い、書いたのかな〜って思ったのに。 」
「 七夕 の願い事かあ。 そうだなあ・・・ あ。 皆がしあわせでありますように かな。 」
「 ・・・ふうん ・・・ 」
「 そうか そうだよね ・・・ 今晩は七夕だもんな。
あ あそこの角に雑貨屋があるね。 アイス、食べよう、ちょっと待っててね。 」
「 ・・・ うん。 」
ジョーは真昼間の道を駆け出した。
「 ふう〜ん ・・・ ちょっと予定とちがっちゃったなあ・・・ 」
少女は 彼を見送りつつ呟いていた。
「 ま いいか。 ― うん 今夜は晴れるわね〜 」
ジーーーーワ ジーーーーーワ ・・・・
蝉の声が一段を高くなった。
「 ・・・ はい! お お待たせ〜 ほら アイス〜〜 ・・・あれ? 」
ジョーが両手にアイス・バーを持って戻ってきた。
「 あれ? ・・・お〜〜い?? どこ、行っちゃったんだ〜〜? 」
− ぽと。 真っ青なアイスが足元に溶けて落ちた。
「 や〜〜ん 助けてェ〜〜〜 お兄ちゃん ・・・ 」
「 こっちこい、ファン! ボクがやっつけてやる〜〜 」
ぶゥ〜〜〜ん ・・・・・
部屋の中を なにか大きめなムシが飛び回っている。
「 いや〜〜 あっち いって〜〜 」
甲高い声をあげつつ あれ? と思う。
あ あれれれ ・・・・?
わたし ・・・ 今、 お盆持ってきた・・・ よね?
ほんのちょっとだけ不思議に思ったけれど 次の瞬間にはムシを恐がって泣いていた。
「 ぴったり 僕にくっついてろ! よ〜〜し! 覚悟しろ! えい!! 」
えい えい・・・!!!
少年は箒を振り回し 大暴れ ・・・ 少女、いや自分自身はそんな彼の後ろに
ひっしでくっついていた。
「 くそ〜〜〜 えい えい!! 」
めったやたらと箒を振り回すが ムシなど捕れるわけはなかった。
「 あ〜〜ん あ〜〜ん お兄ちゃん 〜〜 」
「 な 泣くなァ〜〜〜 ファン! いま 僕が ・・・! 」
― キ ・・・・
テラスへのスウィング・ドアから中年一歩手前・・・くらいな男性が入ってきた。
兄妹と同じ色の髪を短く刈り込んでいる。
「 ん? なんだ、何をさわいでいるのかな。 」
「 あ! パパ〜〜! おっきなムシが〜〜 入ってきて 〜〜 」
「 ・・・ ふん? ジャン、ちょっとどいていなさい。 ああ 箒を下ろして・・・ 」
「 うん ・・・ ? それ なに。 パパ。 」
「 これかい? 」
ムッシュ・アルヌールは に・・・っと笑い手にしていた草の束を持ち上げた。
「 これでムシを追い払うのさ。 」
「 ・・・え。 草で?? 」
「 そうだよ。 ああ ジャン。 キッチンからマッチを持ってきておくれ。 」
「 はい! 」
「 あ・・・アタシもいく〜〜 」
兄と妹はぱたぱたキッチンに駆け込み すぐにマッチを手にもどってきた。
「 はい、マッチ。 」
「 メルシ。 ・・・ ほうら 見ていろよ。 こうして ・・・ 」
父は息子と娘を連れテラスに出ると、 手にしていた草の束に火をつけた。
「 わ! も 燃えちゃうよ??? 」
「 大丈夫 ・・・ これは生だから激しくは燃えない。 ほうら・・・煙だ。 」
「「 わあ ・・・・ 」」
草の束空は白い煙が ゆら〜りゆらりと立ち昇りはじめた。
「 これを ・・・ ここの軒先に釣り下げておけば ・・・ よし。これでムシはこないよ。
そら あのムシも逃げてゆくさ 」
「 うわ〜〜 すごい ・・・! 」
「 パパ ・・・ すごい・・・ 」
幼い息子と娘は 目をまん丸にして見上げている。
「 ははは ・・・ すごくなんかないよ。 これは昔からの知恵さ。
さ ・・・ そろそろ灯りをいれるかな。 」
「 ・・・あかり ? でんきでしょ。 アタシ、すいっち、押してくるわ。 」
「 いや 今晩は違う灯りにしよう。 きっとママンも喜ぶぞ。 」
「 違うあかり?? 」
「 そうだ、ちょっと待っていろ。 昨日ストレッジで見つけたのさ。今 持ってくるから。 」
父はにこにこしつつ二階へ上がっていった。
「 お兄ちゃん なんだと思う? 」
「 ・・・ 電気じゃない灯り かあ・・・ 懐中電灯かな? 」
「 え〜〜 そんなの、つまんない。 あ! ろうそく かも。 」
「 へん、コドモ騙しじゃないぞ。 」
「 ・・・ え〜〜ん お兄ちゃんのいじわるゥ〜〜 」
さっそく兄妹喧嘩が始まったのだが ―
キィ ・・・・
奥のスウィング・ドアが開いた。
「 ほらほら・・・ 晩御飯にしますよ。 手伝ってちょうだい。 」
「 ママン ・・・・! 」
マダム・アルヌールはサブリナ・パンツにノースリーブのブラウス、真っ白なエプロンをしている。
いつもはきっちり結い上げている髪も 今日は簡単に纏めて括っているだけ。
白い首にすこしばかりほつれている後れ毛が とても魅惑的だ。
そんな軽装が彼女をより若々しくみせていた。
「 ママン・・・ きれい ・・・! 」
「 あらあら・・・ ありがとう、ファン。 あら。 パパは。 」
「 うん ・・・ 電気じゃない灯り だって。 」
「 え? 」
「 パパね、 電気じゃない灯り、 もってくるって。 ろうそくよね〜 ママン。 」
「 ちがうよね、懐中電灯だよね、ママン。 」
兄と妹はてんでに母のそばに纏わりつく。
「 ふふふ 二人ともはずれ〜〜 残念でした。 パパはねえ ・・・ 」
「 あったぞ。 ほ〜ら・・・ 」
グッド・タイミングで ムッシュ・アルヌールが屋根裏から降りてきた。
「 パパ! ・・・ なに、 それ・・・ 」
「 うわ ・・・ それって・・・ 」
「 あなた。 今晩はステキなディナーになりそうね。 」
「 ああ。 バカンスの記念に ― きみと初めて出会った夜と同じに。 」
「 あら ・・・ 覚えていらしたの。 」
「 勿論。 忘れることなんか出来ないさ。 」
「 ・・・ あなた ・・・ 」
夫婦はしっとりと見詰め合う。
「 ・・・ これ・・ なあに? 」
「 ああ これはね ランプさ。 今晩のディナーな、ランプの灯りで頂くとしよう。 」
「 うわあ・・・・ 」
「 すご〜〜い・・・ ! 」
子供たちは歓声をあげ両親に抱きついた。
「 さあさ ・・・ それじゃこっちにお皿を運んでちょうだい。
今日はね 美味しいハムを見つけたの。 バターも作ってみたのよ。 」
「 お。 おまえの自慢の手作りバターだね。
さあさあ ジャンにファンション、お手々を洗っておいで。
皆で バカンスの始まりのディナーを楽しもう。 」
「「 はあい ♪ 」」
兄妹は バス・ルームに飛んでいった。
焼きたてのパンに出来立ての手作りバター。
父が切り分けてくれたハムの美味しかったこと。 母の味付けのサラダがとびきり新鮮だったこと。
ランプの飴色の光につつまれて 家族で囲んだ食卓のなんと温かかったこと・・・!
フランソワーズは今でも はっきりと覚えている。
いつもより少し暗い食卓での晩御飯が いつもよりずっと美味しく感じた ・・・
食器の陰には妖精たちが お裾分けを と控えていたのかもしれない。
「 美味しいな ・・・ 君の料理はいつだって最高だな。 もちろん君も・・・ 」
「 ふふふ ・・・ ありがとう、あなた。
ランプの灯りに応援してもらっちゃったわ。 」
「 パパ! あとでボクにもさわらせて! 」
「 いいとも。 ちゃんとマッチが擦れるかな? 」
「 アタシも〜〜 アタシも! 」
「 チビっこはだめさ。 ね〜 パパ? 」
「 ・・・ お兄ちゃんのいじわる〜〜 」
「 こらこら・・・食卓で喧嘩なんかするなよ。 ほうら・・・影がゆれてきれいだろう、ファン。 」
「 ウン・・・きれいね、パパ。 」
「 さあさ・・・デザートよ? 裏の畑に山桃があったから・・・ジュレにしてみたわ。 」
「「 うわ〜〜〜〜い♪ 」」
アルヌール家の食卓は いつだって暖かい。
ランプで ・・・ 晩御飯・・・?
なんだか覚えているような ・・・ 夢だったような・・・
夢中でジュレをスプーンで口に運んでいる、ちっちゃな自分。
父に 母に 甘ったれ 兄にもぺったりくっついて。 笑顔しか知らない亜麻色の髪の少女 ・・・
フランソワーズは そのコを愛おしく眺めている自分自身に気がついた。
「 ・・・ パパ ママン ・・・ お兄ちゃん ・・・・
大丈夫、皆のこと、ちゃ〜んと ・・・ こころの中にしまってあるから・・・
いつだって・・・会いたいと思えばほら、 ちゃんと会えるわ。 」
「 わああ 〜〜 お星さま いっぱい・・・! 」
食後 テラスに出れば木々の陰から見上げる空には満天の星・・・
窓際に下げたランプの光は星の輝きにはとても及ばない。
父と母は寄り添って夜空を見上げて 時に囁きあい微笑みあっている。
「 ねえねえ お兄ちゃん。 」
「 なんだよ〜 」
「 あの、ね。 ひこうき でね。 ず〜〜っとず〜〜っととんで・・・星までゆける? 」
「 ばっかだな〜〜〜 星ってのはもっとう〜〜〜〜〜んと遠くなんだぜ。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 でもいつか う〜〜んと・・・たかく飛んでみたいな。 いつか とぶぞ! 」
「 お兄ちゃん すごい 〜〜 」
「 ・・・え へへへ ・・・ 」
「 あ お水、もってくるね。 つめたいお水がいいよね。 」
「 うん ・・・ ありがと、ファン。 」
パタパタパタ ・・・・
― 少女がひとり、家族の中から抜けて家に入っていった。
「 ・・・ お水を ・・・ あ あら? 」
「 ごくろうさん。 じゃ 次はね別館のお部屋だよ。 」
カシャ ・・・ ン
新しい水差しとグラスが目の前に銀盆に乗せられた。
次は ・・・ 誰に会えるの ?
「 はい。 かしこまりました。 」
フランソワーズは、 いや メイドの風蘭さんはごく自然にお盆を捧げると背筋を伸ばし歩きだした。
「 ・・・ はい はい。 旅館には寄ってないって・・・ はい。 」
ジョーは鄙びた駅舎で 電話にかじりついていた。
「 すいません、すぐに連絡、しようと思ったんですけど・・・ 携帯・・・忘れてきて・・・ 」
今時 受話器を握り締め大汗かいているワカモノ・・・
しかし そんな彼に目をやるヒトはほとんどいなかった ― いや、ヒトがそもそもいないのだ。
真夏の白ちゃけた光だけが 駅前の広場を賑わしていた。
「 はい ・・・ それじゃ この町の旅館を当たってみます ・・・ はい ・・・
え? 帰ってこい? でも ・・・ 」
しばらくジョーは電話に向かって頭を垂れてひたすら受話器を握り締めていた。
「 はい ・・・ わかりました。 夕方の列車で帰ります・・・
なにか連絡があったら ・・・ あ。 そっか・・・ぼくの方から連絡、します。 はい・・・ 」
― チン ・・・!
なにか古めかしい音をたて 公衆電話は切れた。
「 ・・・ ふう ・・・ しょうがないや、ぼくが不注意だったんだもの・・・ 」
ジョーは駅舎を出た。
フランソワーズ −−−−−−!! 返事 してくれ〜〜
真っ青な空に思いっ切り脳波通信を飛ばしてみたけれど。
スズメの声すら聞こえない真昼間、 な〜んの返答もなかった。
― カサリ ・・・
ポケットで あのメモが微かな音をたてる。
ジョーはそっとポケットの上からメモを ・・・ フランソワーズの残したメモに手を当てた。
「 ・・・フラン そうだよね。 まずぼくが信じなくちゃ な。 」
ジョーはしゃきっと背を伸ばし歩きだした。
― その頃。 メイドの風蘭さんは ・・・
「 えっと・・・ 別館はこっちね。 あらここはホテル風なのね・・・ 」
渡り廊下の先の建物は西洋風、天井は高く漆喰で固めてある、といった旧式の造りなのだが
フランソワーズにはむしろ和風の家より馴染みがあった。
「 ・・・ふうん? ちょっと懐かしい気分ね。 あ そこのお部屋かしら 」
彼女は一息深呼吸をしてから マホガニー風なドアをノックした。
「 ― 失礼します・・・ なにか 御用は ・・・・ 」
・・・ あ ・・・! また 星空 ・・・?
一歩足を踏み入れた部屋の向こうには夜空が広がっていた。
「 ・・・ あら? ここは 外? ・・・ ああ ちがうわね、テラスへの窓が全部開けてあるんだわ。
このお部屋には 誰が ・・・? 」
フランソワーズは そっとその部屋を見回した。
ベッドはきちんと調えてあり、散らかっているものもない。
ドレッサーがありヘア・ブラシと 化粧品のびんがすこし並んでいる ― どうやら女性の部屋らしい。
「 ずいぶん綺麗に片付いているのね。 使っている部屋なのかなあ・・
あ れ? ・・・ このベッド・カバー ・・・
わたしが作ろうとしてそのまんまにしてるのと似た生地ね? 」
フランソワーズは 誰もいない部屋の真ん中で首をひねっていた。
とんとんとん ・・・・
軽い足音がドアの外に聞こえてきた。
あ ・・・ 誰か ― この部屋の主かしら ・・・
「 ― いやだわ、そんな ・・・ ほら こんなに元気なのよ? 」
誰かがドアの前で話をしている。
「 ・・・・ ・・・・ ・・・・? 」
「 そんなに心配、しないで。 ・・・ 皆 同じ気持ちでしょう? 」
「 ・・・・・ ・・・・ 」
「 ええ ええ。 わたしは大丈夫。 だから安心して故郷にもどって? 」
「 ・・・・・ 」
「 わたしも 帰るわ。 ね? だから ・・・ 」
「 ・・・・・・ ・・・ 」
「 それじゃ ・・・ お休みなさい 」
― キ ・・・ ぱたん。
微かな音をたてドアが開き ― 彼女自身が入ってきた。
― え ? ・・・ あら、なんだか随分顔色が冴えないわね?
ぱた ぱた ぱた ・・・
彼女はドアを閉めると 急に足取りが重くなった。 す・・っと笑みが消えた。
ひどく疲れた表情でのろのろと部屋を突っ切ってゆく。
あ ・・・ あの? どうしたのかしら・・・
フランソワーズははらはらしつつ <自分自身> を見つめている。
カタン ・・・ 彼女はテラスに出るとそのまま座り込んでしまった。
ぼんやりと夜空を見上げている。
新月なのだろうか、星々の煌きだけが漆黒の空を埋め尽くしている。
聞こえるのは眼下に広がる海原の寄せては返す波の音だけ ・・・
「 ・・・ 帰る、 か・・・ そう ね、 わたしも 帰るわ いつか。 」
低い呟きと共に 重い吐息が空に昇ってゆく。
「 夜が 好きよ ・・・ 昼間は 星が見えないもの。
いつも一緒にいるよ、って言ったヒトの星が・・・ そうよ ・・・ね 」
― こつん ・・・
彼女は頭を軽くテラスに当てた。
「 ・・・ 星に 星になった・・・って いったいどの星なのよ?
え ? 全然・・・全然わかんないじゃない・・・! ほんとにウソばっかり! 」
こつん ・・・ こつん ・・・ 亜麻色のアタマがテラスに当たる。
「 いつも一緒にいる、なんて ・・・ ウソばっかり。
ねえ ・・・ どこに居るの? どこでぼやぼやしているのよ・・・? 」
くす ・・・ 低い笑い声が漏れ、彼女は自分の膝を抱え顔を埋める。
「 ほ・・・っんとにいい加減なコト ばっかり ・・・
いつになったら還ってくるつもりなのよ? ・・・どうして どうして・・・
・・・ どうして もどってこないのよ?! 」
篭った声はますます大きくなってゆく。
「 ・・・ なんで? そんなの そんなの ・・・ ひどい、ひどすぎる ・・・
どうして ここにいないの? どうして ・・・
帰ってきて 帰ってきてよ! ジョー −−−− ! 」
彼女は身体を震わせ縮こまり たった一人で泣いている。
フランソワーズは そんな彼女、いや自分自身をただただ見つめている。
そう ・・・か。 ここは、この世界は ―
そう ・・・ 彼が 還ってこなかった 世界 ・・・
嗚咽は次第に細くなり 亜麻色のアタマがそっと起き上がる。
くしゃくしゃの髪が纏わる頬は 涙の痕でべたべただ。
「 ・・・ どうしてわたしは 生きているのかしら ・・・ どうして生きていられるの 」
涙も枯れた瞳がぼんやりと海原を眺めている。
「 ・・・ どうして ・・・・? 」
「 − あの! 生きて! 」
フランソワーズは思わず一歩踏み出し 声をかけていた。
「 ?!? だ 誰?? あなた ・・・ 誰なの? 」
びっくり仰天したのはテラスにいた彼女 ― もう一人の自分。
「 わたしは ・・・ あの!そんなことよりもね! 生きて。 生きてちょうだい。 」
「 ・・・ え ? 」
「 あなたが生きている限りジョ・・・いえ、あなたの大切なヒトはあなたの思い出の中で生きているわ。 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
「 そう よ! 」
フランソワーズは大きく頷くと、すとん、と彼女の隣に座った。
そうよ・・・! わたしはちゃんと ・・・ パパにもママンにも
お兄さんにも会えるもの。 ちゃんと・・・!
「 でも ・・・ もう会えない 会えないわ ・・・ 」
「 ― ねえ 思い出してみて。
彼のこと。 笑った顔や 拗ねた顔。 怒った顔 泣いた顔もいいのよ。
なんでもかんでも ・・・そうね歩き方や寝ぼけた顔も いいわね。 」
「 ・・・・? 」
「 あなたがそんな彼のこと、覚えている限り、 彼は生きている。 生きているのよ。 」
「 それはただの思い出でしょう・・・? 」
「 ううん、違うわ。
ね・・・会いたいときには 眼を閉じて。
それでひとつひとつを思い返せば ― 彼はちゃんとそこに生きているってわかるわ。
ちゃんと 会えるのよ。 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 あのね、 そうやってわたしは会いたいヒト達に会えたわ。 本当よ。 」
「 ・・・ 会いたいヒト ? 」
「 ええ。 みいんな・・・ ここに生きているもの。 」
フランソワーズは両手を胸に当てた。
「 ・・・ わたしの 心に ・・・ 生きている 」
「 そうよ。 だから アナタは生きていなくちゃ。 ・・・ ね? 」
「 ・・・ そう ・・・ そう ね ・・・ 」
「 ね ・・・ アナタが思い出せば彼はきっと笑ってくれるわ。 」
「 ありがとう ・・・ 」
「 ・・・ ううん。 あ ベッド・カヴァー、完成してくれてありがとう!
すごくステキね。 」
「 気に入ってくれて嬉しいわ。 」
「 ・・・ その笑顔よ、 < フランソワーズ > 」
自分自身の笑顔って ・・・ ふうん、わたしってこんな風に笑うのね・・・
なんか ・・・ ちょっとヘンな気分 ・・・
フランソワーズはそっと もう一人の自分自身の頬にキスをして部屋を出た。
ドアの外は ― みどり屋 別館の廊下が続いていた。
カチャ ・・・ン ・・・
銀盆の上でグラスが揺れて小さい音をたてた。
「 ・・・ 皆 幸せに ・・・ なれるといいのに ・・・ あら? 」
気がつけば 白々と夜が明けはじめていた。
廊下にはまだ常夜灯が灯っていたが 夜 の雰囲気は消えはじめていた。
窓から眺める庭の隅には濃い藍色の闇が残っていたけれど それも次第に薄くなってゆく。
メイドの風蘭さん はしずしずと本館に戻っていった。
「 ご苦労さん。 」
配膳室で例のオバチャンが静かに微笑み銀盆を受け取った。
「 ちゃんと 仕事 をしてきたようだね。 風欄さん。 」
「 はい。 ・・・ わたし。 帰ります。 」
「 ああ そうおし。 ご苦労さんだったね。 」
「 ありがとうございました。 」
「 ・・・ 願いは叶ったかい。 」
「 はい。 」
フランソワーズはしっかりと頷いた。
パ ァ −−−−− ン ・・・・!
ローカル線のローカルなホームに 始発電車がのんびり到着した。
「 ・・・ さようなら ・・・ 不思議な世界 ・・・ 」
誰も乗っていない客車の中から 彼女は通りすぎてゆく町に別れを告げた。
― ガタタン ・・・ ガタタン ガタン ガタン ガタン・・・!
「 お姉さ〜ん ! 願いはかなった? 」
風に乗ってあのコの声が飛んできた。
フランソワーズは大して不思議にも感じなかった。
「 あら アリス? ええ当に願いは叶ったわ。 ふふふ・・・ ステキな星祭の夜 だったわよ 」
「 そう 〜〜 よかったね〜 ・・・ じゃ バイバ〜〜イ♪ 」
「 バイバーイ ・・・ 」
ガタン ガタン ガタン −−−− !
列車は徐々に速度をあげて行った。
― 時はすこし遡る。
朝方、あたふたと飛び出していったジョーはその日の夕方に汗まみれで帰宅した。
ガチャ・・・・
「 ― ただいま帰りました ・・・ 」
「 おう、おかえり。 それで? 」
ジョーは 玄関先で博士をじっとみつめた。
「 ・・・ ぼくができることは 信じることだけですから ・・・ 」
「 ほう〜 ・・・ やっと気がついたのかね。 ジョー 」
「 はい。 ・・・ あの町で夕陽をみていて・・・ 気がつきました。 」
「 そうじゃよ。 彼女は最初からそう言って、いや 書いておったぞ。 」
「 ハイ ・・・ぼくが一人で大騒ぎして・・慌てて。 」
「 ふむふむ、お前もやっと 少しはオトナになったってことだな。 」
「 博士〜〜 少しは、って〜 ! ヒドイなあ・・・ 」
「 事実を述べただけだぞ。 」
「 ・・・ ふぇ〜ん ・・・ ま ともかく、彼女を信じて待ちます。 」
ジョーは静かに靴を脱ぎ家にあがった。
「 よしよし。 さ 一風呂浴びてこい。
しかしなあ。 ジョー、お前 そもそもなんだってフランソワーズを怒らせたのかね? 」
「 それが ・・・ それが いまだに判らないんです〜〜
一緒に・・・ 一緒に夏祭りに行こうと思って。
フランがとっても 星祭 を楽しいにしていたから・・・ 一緒にって。 」
「 ?? それで なぜ彼女が怒るのだね? 」
「 ・・・ さあ? そこがさっぱり・・・
喜んでもらおうと思ってユカタも頼んだんです ・・・ 彼女には全部ナイショで。
それで ・・・ 」
「 それで? 」
「 はい、ぼく、レポートのバイト、引き受けて・・・ バイト代、いい値段なんです。
それで 忙しくて。 なんとか間に合った・・・って思ったら フラン ・・・ 」
「 あのメモを冷蔵庫に貼り付けていなくなった、というのか? 」
「 はい。 ・・・ なんでなのかなあ・・・? 」
ジョーは本気でしきりと首をひねっている。
博士はつくづくと ジョーを見つめた。
こいつ ・・・ 本当に わかってないのか??
・・・ フランソワーズや、 お前は難儀なヤツに惚れてしまったのう・・・
「 ・・・ごほん。 それで? 」
「 はい。 いっくら考えても訳わからなくて。
だったら ・・・ 彼女のメモを信じるっきゃない、って思ったんです。 」
「 ・・・ ま 結果オーライ、ってとこか。 」
「 は? 」
「 ともかく 風呂はいってこい。 晩飯は ・・・ よし、張大人の店だ! 奢ってやるぞ! 」
「 うわお♪ 」
ドタドタドタ ・・・・
「 ― おい! 階段を壊すなよ! 」
やれやれ・・・ ギルモア博士は 彼の<最高傑作>プロトタイプ を溜息で見送った。
― これも少し時間を遡って・・・
「 あ あのう・・・ 車掌さん。
改札口に誰もいなくて。 わたし、素通りしてきてしまったのですけれど・・・ 」
フランソワーズは のんびり回ってきた車掌を呼び止めた。
「 おや どこの駅ですか。 」
「 星の里、 です。 チケットはほら・・・ちゃんと買いました。 」
「 はて? 星の里駅 は今は廃止されていますけれど。 」
「 ええ・・? でも わたし、あそこで降りて乗ったんです・・・ 」
「 ちょっと拝見していいですか? 」
「 はい これです・・・ 」
車掌は亜麻色の髪のガイジンさんから 切符を受け取った。
「 廃止・・・って。 それじゃあの町の ・・・ 旅館は ・・・ 」
「 旅館? ああ あの一帯は閉鎖されましてね、この秋にも取り壊されるそうですよ。 」
「 え・・・ 取り壊し、ですか。 」
「 そうそう。 昔は星祭が盛んな土地柄だったのですけどねえ・・・ 」
「 そうなんですか・・・」
「 ほら お客さん ・・・ この切符 ちゃんと 新・星の里駅 発行ですよ。 」
「 え ・・・ ( うそ?? ) あ ・・・ す すみません・・・ 」
「 いえいえ ・・・ 」
日本語に不慣れなガイジンさんだもんな〜 ・・・と車掌さんは思ってのんびり巡回していった。
・・・ 最後の 星祭 だったのね・・・
フランソワーズはそっと目を閉じあの旧い館を思い浮かべていた。
その日の夕方 ―
「 ただいま戻りました。 」
「 ・・・ おかえり。 」
玄関を開けると もうそこにジョーが待っていた。
「 ・・・ 旅は ステキだったかい。 」
ジョーは ちょっと困ったみたいな顔だ。 笑おう、としているが巧くできていない。
「 ええ とっても。 」
「 そっか ・・・・ そりゃ ・・・ よかった・・・ 」
荷物・・・と彼が手を差し伸べる。
「 そうね。 帰ってきたくないくらい、よ? 」
「 ・・・ そうなんだ・・・? 」
彼女のバッグをあずかった手が ぴくん、と揺れた。 ほんの軽いバッグなのに。
「 ええ。 最高・・・だったわ。 忘れない、ずっと。 」
「 ・・・ そっか・・・ 」
彼の声はどんどん小さくなってゆく。
「 できればあちらに住みたいくらいよ、わたし。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 でもね。 」
「 ・・・ え? 」
「 わたしには ココ がいちばんなの! 」
― トン ・・・! と彼女はジョーの腕の中に身体をすべり込ませた。
よかったね 〜〜〜 ・・・・
ジョーもフランソワーズも小さなオンナノコの声を聞いていた。 でも ・・・ 黙っていた。
・・・ 星祭の次の日、 織姫はちゃんと戻ってきた。
********** おまけ ***********
「 ・・・ 近くでごめん・・・ 」
「 ううん。 ね 似会う? 」
フランソワーズは巾着のバッグを片手にくるり くるりと回ってみせる。
「 うん。 すごく・・! 」
「 うふ・・・ ありがと♪ ジョーのスイカ模様もステキよ〜〜 」
ジョーは必死で稼いだバイト代で念願のカノジョと浴衣デート♪
ほら・・・ こんな具合だったんですよ〜〜〜 ⇒ こちら
**************************** Fin. ****************************
Last updated
: 07,19,2011. back / index
**********
ひと言 *********
おくれ七夕話 ・・・ 最後にステキ絵です♪
暑中見舞いに頂戴したのですが あんまりステキなのでこちらに
アップさせていただきました♪
celicaさま ワカバ屋さま ありがとうございました♪♪