『  春 ・・・ !  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

    ふぁさ 〜〜〜〜〜  ・・・・

 

爽やかな風が 首に巻いていたスカーフを揺らす。

「 あら いい風 ・・・ふ〜〜ん  海の香 〜〜  」

フランソワーズは しばらく門の前に立っていたが ― ゆっくり歩きだした。

少し坂を降りると左側が ぱあ〜〜っとひろがり、 海が見えてきた。

「 ・・・ ! 」

彼女は また足をとめた。

 

     ああ ・・・ きれい ・・・!

     こんな風に 海が見えたのね 

 

この家にやってきた時、確かに周りの風景をチェックしこの道を通ったのだが ・・・

海のある方角、 後ろの裏山の様子、 そして 付近を通るはずの

幹線道路の状況 ばかりに気を回していた。

  どんな植物が生えているか 海の色の変化や 風の香り 

そんなモノには まったく気を回す余裕などなかったのだ。

 

海原から視線をもどせば 足元の両側には 柔らかい色が散らばっていた。

「 ずっと・・・坂道 なのね。  わあ ここにもタンポポ〜〜〜 

 あ 小さな水色の花も ・・・ スミレ! すみれだわ 」

思わずしゃがみ込み手を伸ばす。

「 本当に春が早いのね ・・・・ 小さな春 みつけたわ 」

花たちに元気をもらった気分で 彼女は立ち上がり歩き出す。

「 ふう〜〜  いい気持ち・・・ きっと海の方にはもっと春 が

 あるわよね ・・・ キレイだわ どの花も緑も ・・・ 」

道端の小さな黄色い花にも 心が震える。 

「 きれい って感じることが できるのね わたし。 」

目を上げれば ― うすい水色の空がひろがる。

 

     空 ・・・ !  ああ 空 ・・・・ 

 

もう一回 深呼吸をし すこし小走りに坂道を降りていった。

 

 

「 あ こっちにゆくと大きな道路なのね。  ・・・ そうだわ ここから

 急な路を上ってきたのよね、 初めてここに来たとき ・・・ 」

坂の下は空き地になっていて 幹線道路への路と 海岸沿いに進む道、

そして 砂浜に降りてゆく小路に分かれていた。

「 ・・・ こっちへ行くと 商店街 か ・・・ ヒトがいるわよね 当然。

 幹線道路を辿ると駅 でしょう?  ・・・ じゃ こっち。 」

彼女は 両側から雑草がしげる小路に足を向けた。

 

  ザワ ザワ ゴソ ゴソ ・・・ 雑草を分けて進む。

 

「 わ ・・・ すご〜〜い  ここ、誰も通ってないんじゃない?

 あ ・・・ 潮の香りがつよくなってきたわ 」

足元は次第に砂地になってきた。

「 ・・・  あ  ・・・ 海 ・・・ 」

 

   ザ ・・・ ザザザ ・・・・  ザ ・・・ ザザザ ・・・

 

少し離れているが 波が静かに寄せては返している。

「 穏やかで静かな海ね ・・・ ちょっと茶色っぽいけど  

 ああ 沖の方は濃い紺色 ・・・ きれい ・・・ 」

砂浜に立ち、 彼女はしばらく海を眺めていた。

「 静かで ステキな海岸だわ ・・・ こんなに優しい海もあるのねえ 

ゆっくり波打ち際めざしていたが 途中に大きな流木があったので腰を下ろした。

「 ・・・ いい気持ち ・・・ あ 日焼け しちゃうかな〜〜 

 帽子、被ってくればよかった。  ・・・ ママンによく怒られたっけ。

 マドモアゼルは 帽子とよい靴を忘れてはいけませんって ・・・ 」

懐かしい面影が浮かび ちょっとしんみりしてしまった。

 

   わんわん わん  ワン〜〜〜〜〜〜〜   きゅうん〜〜

 

「 え ?? 」

彼女の前に 突然、茶色毛の犬、仔犬が 現れた。

「 ま まあ〜〜 どこからきたの? 」

「 くぅ〜〜〜ん 」

仔犬は 彼女の足元にすり寄ってきた。

「  あら  どうしたの?  首輪してるわね あら  リード も引っ張ってる 」

「 きゅう〜〜ん きゅう 」

どう見ても雑種のそのコは フランソワーズの手にぐいぐいアタマを

押し付ける。

「 まあまあ ・・・ 元気なわんちゃんねえ。

 迷子ちゃんなの? あ〜 それとも 脱走してきたのかなあ?  」

「 わん? 」

「 あなたの飼い主さん、心配しているんじゃない? 」

「 わ わん ・・ 」

茶色のクセ毛の仔犬は ちょいとアタマを傾け彼女をじ〜〜〜〜っと見上げる。

「 なあに? あ お腹 減ってるのかしら? 」

「 くぅ〜〜ん   ・・・・  わん!? 」

「 あら どうしたの?  あ ・・・・ 」

仔犬が さっとアタマを上げてすぐ、海岸の方から声がきこえてきた。

 

     ちゃ〜すけ〜    お〜い どこだあ〜〜〜 ちゃ〜すけ〜〜

 

 ぴっ! 仔犬の耳が峙つ。

「 あ・・・ きみのこと? 

「 わん! 」

「 ちゃ〜すけ?  いるのか〜〜い? どこ? 」

中学生くらいの少年が 駆けてきた。 仔犬も ぱっと彼の方に走ってゆく。

「 あ〜〜〜 ちゃ〜すけ〜〜〜 おまえ〜〜 勝手に走って〜〜〜 」

「 うわん ! 」

「 え?  あ !  すいません コイツ、 急に走りだして ・・・ 」

少年は 被っていたキャップをとってお辞儀をした。

「 ちゃ〜すけ君って このわんちゃんのこと? カワイイわねえ〜 」

「 ありがとうございます。   あ!  は はろ〜? 」

彼はフランソワーズの容貌に気づき 慌てて口を押さえた。

「 あらら 大丈夫 日本語わかりますよ。   はい  これ 」

フランソワーズは さっきから握っていたリードを返した。

「 あ ありがとうございます〜   ちゃーすけ〜〜〜 おまえ〜〜 

 なんで勝手に走ってくんだよ〜〜  知らないトコばっか行きたがってさあ 」

「 わんわんわん♪ 」

「 あはは〜〜 そっか〜〜〜 冒険だいすき かあ 」

「 わ わんっ ! 」

「 そっか〜〜 知らないトコ、わくわくするもんね。

 えへ  ちゃ〜すけ のお蔭で きれ〜なおねえさんとトモダチ だぞ〜 」

「 きゅうん〜〜わん!  」

「 あ ちゃ〜すけ もトモダチになった? よかったな〜〜 」

「 わんっ 

少年と仔犬は抱き合って転げまわる。

「 うふふ   お散歩の途中? 

「 もう〜〜  あ はい  日曜は 僕が散歩当番なんで〜 

「 そうなの ・・・ 」

 

     あ  にちよう  なのね  今日は・・・

 

突然 トン と、胸の中で小さな音がきこえた。

「 やだ ・・・ そんな基本的なことにも 気付かなかったわ   

「 え なに おねえさん? 」

少年と仔犬が こちらをじ〜〜っと見ている。

「 あ ううん  ああ いい日曜日だな〜〜って思ったの。 」

「 あは そうだね〜〜〜  う〜〜〜ん 」

少年は 海に向かって大きく深呼吸をした。

「 うふふ わたしも〜〜  ふ〜〜〜〜 」

「 あはは ちゃ〜すけ のお蔭でいっぱい走っちゃったな〜〜

 こっち来たの初めてだし ・・・ おねえさんと知りあえたし〜〜 」

「 わん♪ 」

仔犬が 上手にチャチャをいれる。

「 カワイイわね。   ・・・ね  わたし。  普通のヒト よね 

「 ? なに、 キレイなおねえさん 」

「 きゃう? 」

「 う  ううん  わたしも走ろうかな〜〜って思って。 」

「 あ それじゃ〜 おねえさんも わんこ 飼うといいよ  走るの、大好きだもん。 

 ちゃ〜すけ は 僕の弟なんだ 

「 あら いいわねえ  」

「 きゅ〜〜〜〜 きゅん 」

仔犬は盛んにハナを鳴らしている。

「 ? なに ちゃ〜すけ ・・・ あ 腹ぺこあか 」

「 そろそろランチが欲しいのかしらね? 」

「 え そんな時間なんだ? いっけね〜  帰らなくちゃ  

ちゃ〜すけ〜 行くよ 」

「 わ わん! 」

少年は 仔犬のリードを持って走りだした。

   ばいば〜い おね〜さ〜ん       くぅ〜ん  ・・・!

「 ばいば〜〜〜い !! 」

駆けてゆく少年と犬に 彼女もぶんぶん手を振り返した。

「 ・・・ 知らないトコは どきどき ・・・  か 」 

少年のコトバが まだ目の前に浮かんでいる気がした。

 

       そっか  ―  勇気 をだして。 

 

  そして。

 

彼女は くるり と振り返り 降りてきた小道を がしがし上り始めた。

「  こっちね。  

三叉路で  商店街 への道 を選んだ

「 行ってみる。 いろんなヒトに 会ってみる ・・・!  わくわく どきどき 」

海から少し離れると ぽつ ぽつ 民家が見えてきた。

 ― やがて 両側に店がならんでいる道にやってきた。

 

「  わあ  いろんなお店がある〜  ここは八百屋さん    きゃ〜 きれい    

 あ あっちは お肉屋さん ? 」

店先にまで こぼれんばかりに色とりどりの野菜やら果実が並んでいる。

「 ・・・ え これ、リンゴ??  おっき〜〜〜〜〜 ・・・・

 あらら? オレンジが何種類あるわ!  ちっちゃいのもあるし・・・

 えっと。  あ〜〜〜  コンニチワ? 」

フランソワーズは 息を吸うと八百屋の店に入っていった。

「 へい らっしゃい〜〜  あれ 綺麗な外人さん 」

「 あ 日本語、わかります。 でも 日本のお野菜、わからないんです、

 美味しいお野菜 教えてください 」

「 お〜〜〜〜 わかったよ 歓迎〜〜 美人さん♪  観光旅行かい? 」

「 え いいえ。 あの〜〜 岬の上の家に越してきました。 」

「 ・・・あ! あの〜〜 白髭のご隠居さんちの ・・・ あ〜〜

 あんた ご隠居さんのお嬢さんかい? 」

「 え ・・・ あ は はい。 どうぞよろしくお願いシマス 」

フランソワーズは丁寧にお辞儀をした。

「 うわ〜〜〜〜 今時なんて礼儀正しいんだい ・・・

 よっしゃ 全面的に応援しちゃうぜ。 フルーツは俺に任せとき。

 野菜は〜  お〜〜い オマエ〜〜〜  」

八百屋の主人は 店の奥へ声を張り上げた。

「 ??? 」

フランソワーズが目を丸くしていると 奥から割烹着をきた中年の女性が

出てきた。

「 ・・・ はいよ アンタ なんですね  あ 御客さん? いらっしゃい・・・・

 あれ 美人のガイジンさん 」

「 岬のご隠居サンのお嬢さんだと。 ここいらの美味い野菜のこと

 教えたって 」

「 へえ〜〜 あのご隠居さんのねえ〜〜  野菜? 任せて!

 ここいらの野菜はね なんでもウマいよ〜〜  

「 まあ そうなんですか? 嬉しい・・・

 あの ご迷惑でなければ 美味しい日本のお料理も教えてください。 」

「 日本の料理 ・・・って この辺で食べてるのでもいいかい? 」

「 ええ お願いシマス 」

「 そんじゃ〜 な? 」

八百屋の主人はおかみさんを振り返る。

「 まかして!  まずは 大根だね。 ここいらの名産なんだよ。

 あと・・・この季節なら 新ジャガに春キャベツかね 」

「 おうよ。 そんでもって でざ〜と は イチゴ 一押し!

 それと〜 温州みかん、地元のヤツが出てきたぜ。 」

「 あ ちょっと待ってください 」

フランソワーズは 慌ててバッグの中からメモ帳を取りだした。

「 書き留めておかないと ・・・ お願いシマス 」

「 ほえ〜〜〜 なあ かあちゃん  」

「 ふえ〜〜 ウン アンタ。 」

八百屋の夫婦は ガイジンさんの真摯な態度に感動した様子だ。

「 あの〜 失礼だけど、 日本語、 読める? 」

「 ハイ。 」

「 あ じゃあ ちょっと待ってて。 ウチのばあちゃん秘伝の

 肉ジャガの作り方、コピーしたげる。 

おかみさんは ばたばた・・・店の奥駆けこんだ。

「 お〜 ばあちゃんの肉ジャガ、激ウマだからな〜〜

 あ 向かいの肉屋と あっちの魚屋にも寄ってゆくといいよ 

「 はい ありがとうございます 」

 

八百屋で あれこれ 買い 向かいの肉屋にも寄り・・・・最後に魚屋の

店先に寄った。

 この季節は ちょっと早いけどカツオだよっ と 八百屋の主人も言っていた。

 

    か  かつお  ね。  かつお かつお・・・

 

フランソワーズは 店先で冷蔵ケースを覗きこむ。

 

    か つ お。   あ ! あのおっきいのね?

 

「 コンニチワ。 あの  か  かつお  ひとつ ください! これ!! 

彼女の必死な声に 魚屋のおっさんはびっくり・・・飛び出してきた。

「 へ? これ・・・って かつお だよ? 」

「 はい! かつお ください。 この季節はかつおだ って伺いました。 」

「 そりゃそうだけど・・・・ 刺身、食べられる? 」

「 は はいっ !  がんばってつくりマス 」

「 それなら・・・ あ〜 一匹丸々捌くのは おね〜さんには無理だよ〜 

 何人家族?   え  三人?  りょ〜かい 了解  オレが 美味しく捌いてやるよ 

 おじょ〜さん。 あ  若オクサン かな〜   」

「 え い いえ あの〜〜〜 岬のウチに越してきて ・・・  」

「 岬の?  ・・・ あ〜〜 あの白髭のご隠居さんとこかあ

 じゃ アンタ あのご隠居さんのお嬢さん? 」

「 え  ええ   はい。 」

「 そっか〜〜 ご隠居さんとウチのじいちゃん、囲碁仲間なんだよ〜

 そっか〜〜 穏やかでいいお父さんだね〜〜 」

「 は  はい ・・・ 」

「 オレらもな いいヒト達があそこに住んでくれてよかった〜〜

 って言ってるんだよ 」

「 まあ そうなんですか 」

「 魚とか 大丈夫かい?  さわれる? 」

「 は はい なんとか ・・・ 」

「 ま 無理ないよ  調理しやすいように捌いてやるよ 任せて! 」

「 ありがとうございます〜〜 

「 おう! 」

 

   ― 結局 両手にぱんぱんの買い物袋をぶら下げ フランソワーズは

意気揚々と帰宅した。

 

「 ただいまあ〜〜〜〜  」

玄関を開けると ジョーが飛び出してきた。

「 おかえり!  遠出してきた? 」

「 ええ。 見て。  収穫〜〜〜〜 持って ! 」

「 へ?  わ  ・・・!! 

ぽい、と渡された袋を受け取り ジョーは思わずよろめいた。

いかに 009であっても 予期せぬヒトからの予期せぬ攻撃? には

たまには不意打ちを喰らうのである。

「 ! 気をつけて〜〜 卵 入ってるのよ 」

「 ご ごめん ・・・ 落としてないから大丈夫だよ 多分・・・

 あ これ 食糧? 」

「 そうなの〜〜 うふふ・・・ 海岸通り商店街 に

 行ってきたの 」

「 え そうなんだ? すご〜〜い フラン〜〜 」

「 うふふ〜〜 ステキなところね〜〜

 美味しい! ってものばっかり買ってきたの。 キッチンに持って

 いってくれる? 」

「 うん。  あ イチゴ! 美味しそう〜〜 」

「 お茶にしましょ、イチゴ食べましょ 」

「 わ〜〜い♪ 」

ジョーは嬉々として買い物袋をキッチンに 持っていった。

 

 

「「 いただきま〜〜す 」」

「 うふ 今晩のメニュは〜 地元の新ジャガと地元の鶏を使った 

 肉ジャガ。 そして 季節早取りの カツオのお刺身。

 デザートは 地元のイチゴと温州みかん です。 」

「 すっげ〜〜〜〜 ・・・・ 」

「 ほう・・・これは美味そうな ・・・ 」

フランソワーズの説明に ジョーも博士も感歎の吐息だ。

食卓の上には 湯気のたつ深皿やいろどりも鮮やかな刺身皿が

並んでいる。

「 お澄まし もガンバリました。 ご飯ほかほか・・・どうぞ 」

・・・ しばらくの間 食卓では発言が絶えた。

そう、皆 すばらしく美味しい晩御飯を 食べることのみに集中していたから。

 

「 ・・・ う ま〜〜〜い〜〜〜  」

「 ああ これは美味いな ・・・ 澄まし汁の味が沁みるよ 」

「 ホント、美味しいですね〜〜 うふふ 作っておいて言うのも変かしら? 

 あ 素材がいいから ですよね 」 

「 ん〜〜〜  フランの料理が上手だからで〜〜す  ねえ 博士。 」

「 うむ うむ ・・・ 和食とはなんと柔らかい味なのだろう 」

「 う〜ん ・・・ よくわかんないけど  美味い! 」

「 よかったわ。  チキン、とっても美味しいから ・・・

 今度はロースト・チキンに挑戦してみるわ。 」

「 わっほ〜〜〜〜い♪  クリスマスが来た〜〜 」

「 え?? 」

「 だってさ、ロースト・チキン って クリスマスの時くらいにしか

 食べられなかったんだも〜〜ん 」

「 あら ・・・ じゃあ 次、作りましょ。 ロースト・ポテトもね 」

「 ろ〜すと・ぽてと?? 

「 あ アメリカ風に言えば フライド・ポテト。 」

「 うっわ〜〜 うっわ〜〜〜 もう嬉しすぎ〜〜 」

「 ふふ  ジョーは大喜びだな。 チキンも野菜も本当に美味しいよ。

 このカツオの刺身は 絶品じゃ ・・・・

 フランソワーズ、 料理のウデをあげたなあ 」

博士もにこにこ 箸を動かしている。

「 いえ ・・・ ふふふ あのね、八百屋さんや肉屋さん、魚屋さんに

 作り方をしっかり教わってきたんです。  

「 へ〜〜〜 あの海岸通り商店街の? 」

「 そうなの。 いろんなお店があるのねえ ・・・

 とっても面白かったの。 」

「 ふうん ・・・ 出かけて よかったね 」

「 ええ。  ジョーと ちゃ〜すけクンに 応援してもらったから 」

「 ちゃ〜すけ?  ・・・ 誰 ? 」

「 うふふ ナイショ。  ・・・ ねえ 春 ね! 」

フランソワーズは ぱあ〜〜っと 微笑んだ。

 

    う  わ ・・・ かわいい〜〜〜

 

ジョーは もうただただほれぼれと 彼女の顔を見つめていた。

「 春 か。 このウチにも春が来たよ 」

「 え?  」

「 その笑顔さ、フランソワーズ。  大輪の花が開いたようじゃ ・・・

 うん うん いい笑顔だなあ  なあ ジョー? 」

「 はい! もうさいこ〜〜にカワイイよぉ〜〜 フラン♪ 」

「 ま まあ 」

「 晩御飯さ〜 あ〜〜〜 おいしい〜〜〜 

ジョーは どの皿 小鉢も キレイ〜〜に空にしていた。

「 嬉しいわ、 ジョー。 じゃあ デザート持ってくるわ。 」

「 わお〜〜〜 なに なに? 」

「 うふふ 美味しいイチゴをみかんをね そのままゼリー寄せ

 にしたの。  きんきん冷えてるから ・・・ 今 持ってくるわ。 」

「 わ〜〜 手伝うよ! 」

彼は 仔犬みたいにちょんちょん・・・ 彼女の後をついていった。

 

 

 食後は リビングでまったりとお茶を飲んだ。

 

「 ・・・ あ〜〜 おいしかったぁ〜〜〜 」

ジョーは 満足の吐息をついている。

「 うむ うむ ・・・ 」

博士も相好を崩している。

「 よかった・・・・ この辺りにはオイシイ食材がたくさん

 ありますねえ 」

「 ふむ、温暖な地域じゃし 昔から半農半漁、 結構土地があるから

 養鶏も盛んだからな。 」

「 そっか ・・・ あ フラン、お願いがあるんだけど ・・・ 」

「 あら なあに。 」

「 ウン。 今度 買い物に、 食糧の買い出しに 付き合ってほしいんだ〜 

「 え! わたしに? 

「  ウン ぼくさ〜 美味しい野菜の見分け方とかわかんないんだよね〜  

 きみ 八百屋の大将に教わったんだろ? 」

「 野菜は おかみさん。 果物は大将。 」

「 あ そうなんだ? 

 ぼく、買い物はチビの頃からよく行ったけど 買い物当番の時は

 寮母さんのメモのまんま 買っただけで ・・・

「 りょうぼ?  」

「 あ  ぼくさ  孤児の施設育ち。 」

「 ま  まあ    」

「 だからね 家庭料理の味 って 知らないんだ。 

 ね〜今度は きみの家の味食べたいな   きみが食べたい朝御飯  作ってほしい 」  

「 え     いいの?   あの・・・わたしの国の朝ご飯でも ? 」

「 もっちろ〜ん  

「 それなら! とっびきりオイシイ朝ごはん、作るわ! 」

「 うわ〜い♪  朝ごはん 超〜〜たのしみ♪  」

 

 

― そして翌朝の食卓には

 

湯気の上がるカフェ・オ・レ に ふわふわ〜なオムレツ。

キュウリとトマトのサラダに ぱりぱりなバゲット  そして 御漬物。

 

    が ならんでいた。

 

「 わ〜〜〜 すご・・・  これ パリの朝ご飯? 」

ジョーは おはよう を言うのも忘れ 呆然とテーブルの上を見ている。

「 おはよう、ジョー。 うふ わたしの家の朝ごはん デス。 」

「 ふうん ・・・ あ? 漬け物に梅干し もある? 

 え・・・ パリでも浅漬けとか食べるの? 」

「 ううん でもピクルス、食べるから・・・ わたし お漬物 大好きなの

 それに 梅干しも。 」 

「 あ 梅干し、食べれる? 」

「 大丈夫。 パンチの効いた味で美味しいわ、ドレッシングに混ぜてみたわ。 」

「 へえ〜〜  あ これかあ ・・・ ちょっと味見〜〜

 ・・・ あ ウマ〜〜〜〜〜 」

「 気に入った?  ねえ 裏庭の梅ね、実が生ったらウチで梅干し、作りたいの。

 作り方、知ってる? 」

「 え ・・・ うめぼしの作り方??  さ さあ ・・・

 あ ネットで調べるか 八百屋さんに聴いてみようよ 」

「 そうね。 あ 博士〜〜 おはようございます〜 」

博士も コーヒーの香に引き寄せられてやってきた。

「 おはよう。 おお これは  」

「 おはようございます、博士。 今朝は パリ で〜す♪ 」

「 うむ うむ ・・・ 今朝もおいしそうじゃな 」

 

   いただきま〜す ― 楽しい朝食が始まった。

 

 

 

日溜まりに咲く春の野草   裏庭には 梅 やがて 裏山では

 

     ああ  きれい     春 が来た わ !

 

明るく笑う彼女の笑みが 春を呼んだのかも しれない。

 

 

 

 

  少し後のことだが ―

 

梅雨をすぎるころ フランソワ―ズはでっかいガラス瓶を買ってきた。

「 これ・・・ なに? 」

「 あのね これで 梅干し、作るの。 そろそろ梅の実、収穫できるし。 」

「 梅干し 作るんだ? 」

「 そうよ。 まずは この瓶をキレイに洗って・・・ 」

「 あ やるよ〜〜 」

 

そして 真夏の盛りのころ・・・

「 ジョー !  手伝って〜〜〜  これ 干すの  」

「 ほす・・・? 

「 そうよ 梅干し はねえ  土用干し が必須なの 」

「 へえ ・・・ 

「 裏庭の樫の樹の下に干すわ。 風通し、いいし。 」

「 あ 手伝うよ〜 」

 

裏庭の梅は 立派な梅干し となり世界中に旅立って行った。

 

ジェロニモ Jr. は 食べた後の種を丁寧に磨いてチャームにしてくれた。

「 アイヤ〜 おいしなあ〜 お得意さんのじいちゃんがえろう

 喜んでくれはったで〜  また たのみます 」

料理人もえびす顔。

俳優氏は 「 こりゃ 最高の強壮剤だ 舞台前に必ずひとつ。 」

「 いいねえ 気付け薬だよ、暑さに効くよ 

灼熱の地でも 歓迎された。

「 ザワークラウト に合う。 うまい 」

独逸人は自国の料理に上手く利用している。

「 なんだ これ〜〜〜  激すっぱ !!  」

言わずと知れた某赤毛の感想。 

「 うむ うむ ・・・ これを食べると体調、いいのだよ 」

博士もたいそう気に入って 毎日一粒、が習慣となった。   

 

 

****************************      Fin.    *************************

Last updated : 05,01,2018.                index      /     back

 

*************     ひと言  ************

なんか すご〜く 季節外れ ハナシ ・・・・

梅干しを作るのは とても大変です〜〜〜

ジョー君が必死でフォローしたかも ・・・