『 春 ・・・ ! ― (1) ― 』
ザザザ −−−−− ・・・・ サ −−−−− ・・・・
聴覚から、 いや 身体全体で その音を聞いていた。
「 ・・・ 波の音・・・? 野外訓練は 終わったはず ・・・ 」
フランソワーズは 慎重に身体の位置を替えた。
完全に覚醒はしていないが いつの間にか身についてしまった警戒感が
ひそかに アラームを鳴らす。
「 眠っている間に なにかあった ・・・? 」
ごくスローモーに薄眼を開け用心ぶかく 周囲を観察した。
最初に見えたのは ― お気に入りのリネンのシーツ。
シーツ ・・? この模様 ・・・
あ。 ・・・ ここ ・・・ わたしのベッド ・・・
警戒感は瞬時に吹っ飛び 彼女はゆっくり起き上がった。
そこは ― 薄い水色の花模様のリネンに包まれた彼女の ベッド。
「 ・・・ やだ ・・・ もう終わったのよ ・・・ 」
ベッドの上で 彼女は大きくアタマを振った。
嫌な記憶は 永遠に振り捨てたい! そんな気持ちで勢いよくベッドから出た。
「 ふう ・・・ ああ そうね。 この家は海のすぐ側だもの・・・
あの音は 海鳴り と 海風 ・・・・ 」
素足のまま ― 毛足の長いラグとフローリングの感覚を楽しみつつ
彼女は窓辺に寄った。
サ −−−−− ・・・・
遮光の木の模様のカーテンとレースのカーテンを一緒に引いた。
窓の外には 柔らかな光が溢れている。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 いいお天気 ・・・ !
まだ三月だけど ・・・ この国はそんなに寒くはないのね 」
サッシを少し 押してみた。
「 ・・・ ん っと ・・ 」
どっと ・・・朝の光と風が 彼女を取り巻く。
あ ・・・ いい気持ち ・・・
彼女の金色の髪が 風に泳ぐ。 薄物のパジャマも寒くは感じなかった。
「 このお家 ・・・ すき だわ。
この地域も 気持ちいい ・・・ 好きになれそう 」
チリリリ ・・・ 時計がごく小さな音をたてる。
「 あ・・・ っと。 さあ 一日の始まりね 」
勢いよく深呼吸をすると 窓を閉めた。 目覚ましを止める。
「 朝ごはん〜〜 今日はわたしが作るのよ。 うふふ・・・ 」
パジャマを脱ぎ捨てると部屋着を着て バス・ルームに飛んでいった。
フランソワーズが この国で この家に住みたい、と言ったとき、
博士もジョーもそしてイワンもとても喜んでくれた。
「 あの ・・・ わたし 家事やります。 」
「 え〜〜 そんなの、当番制にしようよ? ・・・っても ぼくときみしか
いないけど えへへ 」
「 え。 い いいの? ジョー 」
「 きみだけが家事やる なんてヘンだよ?
ぼく達の家 なんだも〜〜ん。 順番にしよ?
ここのキッチン、最新式で使い易そうだよ 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 あ 食材 とか必要なの、言ってくれたら ぼく、買ってくるね。
きみの故郷とは ちょっとちがうかもしれなけど ・・・ 」
「 あ ありがとう ・・・ジョー ・・・ 」
「 ど〜ぞ よろしくお願いシマス〜〜 」
「 わ わたしこそ。 」
きゅ。 二人は しっかりと握手をした。
「 さあ て。 ジョーは やっぱり日本食がいいのよね きっと。
安心してね〜〜〜 ちゃんと作れるようになったから 」
フランソワ―ズは 張り切ってキッチン入ってきた。
炊飯器の扱いはしっかりマスターした。タイム・スイッチも使える。
味噌と出汁の割合とか具の選び方もわかるようになってきた。
ネットで調べ必要な食材はメモをしてジョーに買い物を頼んでいる。
「 ・・・ えっと たまごやき でしょう・・・ それから ・・・
あ < おつけもの >。 この国のピクルス、美味しいのよね。
おっきなコルニッション 好きよ〜〜。 」
フランソワーズは 白いエプロンを揺らしキッチンを行きつ戻りつしている。
「 < ひもの > ・・・ これ ・・・ 」
冷蔵庫の前でソレを手にして しばらく固まっていた が。
・・・ そっと元に戻してしまった。
・・・ ちょっと勇気が ない わ ・・・
「 おはよ〜〜〜 わあ フランソワ―ズ 〜〜 朝ご飯 なに? 」
ジョーがハナウタ混じりに キッチンに入ってきた。
「 ・・・ あ ジョー。 お おはよう ・・・ 」
「 わ〜〜〜 いいニオイ〜〜〜 味噌汁だあ〜〜 」
「 ・・・あ わかる? あの ・・・ オカズなんだけど
たまごやき と おつけもの と ・・ 」
「 うわお〜〜 朝からすっげ〜〜贅沢(^^♪ ありがと〜〜 フラン。
あ ぼく ごはんとかよそうよ。 」
彼はもう上機嫌で 炊飯器の前にたった。
「 あ ・・・ お願いできる? 博士は ・・・ 」
「 あ〜 庭掃除して リビングで新聞読んでるよ 」
「 まあ そうなの? 全然気がつかなかったわ お呼びしてくるわね 」
「 うん♪ ほっほ〜〜 ごはんさん おはよ〜〜 」
器用に彼は 茶碗にご飯をよそってゆく。
へえ ・・・ 意外と家庭的なのね ・・・
そんな姿にちらり、と視線をながし 彼女はリビングのドアをあけた。
「 おはようございます、博士〜〜 ごはんです 〜 」
「 お〜 おはよう フランソワーズ。 ふんふん いい香だな 」
新聞を置き 博士もにこにこ・・・ 立ち上がった。
いただきます
三人で声を合わせ 手を合わせてから箸を取った。
「 ・・・ んま〜〜 あ フラン スプーンがよかった? 」
「 え? ああ 大丈夫。 お箸、使えるわ 」
「 すご・・・ ねえ 今日の味噌汁 さいこ〜〜〜 」
「 そ そう? 」
「 うむ うむ 〜〜 豆腐と油揚げ か。 美味しいのう 」
「 博士 ・・・ お口に合いました? 」
「 ああ 美味いよ。 ワシは豆腐が大好きなんじゃ 」
「 あ ぼくも! 油揚げとの組み合わせって さいこ〜〜だよ〜〜
・・・ むぐむぐ ・・・ たまごやき おいし〜〜〜 」
「 あ あの ・・・ この焼き方で いいの? 」
「 さっいこ〜〜〜 むぐ むぐ〜〜 えへ ごはん お代わりしていい? 」
「 どうぞ どうぞ 」
「 あ 自分でよそうから ・・ ついでに 味噌汁もまだある? 」
「 ええ 」
「 じゃ それも〜〜〜 むふふふふ〜〜〜 」
「 フランソワーズ、料理の腕を上げたな 」
博士もにこにこ ・・・ 卵焼の最後の一切れを口に運んでいる。
「 そ そうですか ・・・ 嬉しい・・・
あの ホントは < ひもの > 焼こうと思ったんですけど ・・・ 」
「 これで 十分、 いや 最高じゃよ なあ ジョー? 」
ジョーはキッチンから てんこ盛りのご飯と味噌汁椀をトレイにのっけてきている。
「 はい? うん も〜〜〜 さいこ〜〜〜
あ〜〜 ウチの朝ご飯 美味しいねぇ〜〜 ふんふんふ〜〜〜ん 」
「 ・・・ジョー ・・・ 」
彼は 嬉々として山盛りのご飯を食べ始めた。
白いご飯のてっぺんに なにやら赤っぽい実のようなものが乗っている。
「 ?? ・・・ ジョー それ ・・・ なあに 」
「 〜〜〜〜 んま〜〜〜 え? 」
「 その ・・・ 赤いの。 キッチンに あった? 」
「 あ これ? これは 梅干し さ。 この前 買ってきたんだ。
ぅ〜〜んと 日本のピクルス かな? す〜〜〜っぱいけどオイシイよ?
あ きみもたべる? 」
「 いえ ・・・ いいわ。 あの 朝ご飯には出すものなの? 」
「 いや べつに・・・ ぼくが好きなだけだよ。
あ〜〜〜 うま〜〜〜〜 この味噌汁〜〜 うますぎ〜〜 」
彼は 音をたてないように でも とてもとてもおいしそう〜〜に
味噌汁の椀を空にした。
「 ん〜〜〜 ごっちそうさま〜〜 あ 後片付けはぼくがやるね 」
「 美味しかったよ、フランソワーズ。 ジョー ありがとうよ 」
「 博士 庭掃除 ありがとうです 」
「 庭もなあ いろいろ新芽が出てきて楽しいぞ。 ちいさな花も咲きはじめた。
掃除のし甲斐があるんじゃ。 」
「 あ〜 そうですねえ フラン、散歩でもしてきたら? 」
「 さんぽ? 」
「 うん 庭さあ まだごたごたしてるけど いろんな草とか花がキレイだよ
ぼく、詳しくないから名前とかわかんないけどね いいよぉ 」
「 そ そう? 」
「 この辺はさあ だ〜〜れもいないから その分自然がいっぱい さ。
きみに故郷より 春が早いと思うよ 」
「 ええ そうね。 この時期パリだったら まだ灰色の空に冷たい風 だわ。
この地域は ホントに暖かいのね 」
「 穏やかなトコだよ。 ねえ 庭 みてきたら。
花の名前 とか教えてよ 」
「 あら ・・・ わたしだってそんなに詳しくはないのよ
でも ・・・ ちょっと行ってみようかな 」
「 うん。 あ キッチンの勝手口から出るといいよ。裏庭も結構広いから
ず〜〜っと 周ってみたら? 」
「 ありがと ジョー ・・・ いってみるわね 」
あまり気は進まなかったけれど 彼がとても熱心に進めるので
フランソワーズは キッチンの出口に立った。
< かぞく > 共用 みたいなサンダルをひっかけ 外に出た。
ふわぁ 〜〜〜〜 ・・・・ !
柔らかい風が 頬をなでていった。 その風が微かに 甘い。
「 ・・・ あ いいニオイ ・・・? どこ? 」
フランソワーズは きょろきょろ辺りを見回した。
勝手口は 裏庭に面している。
裏庭 といってもかなり広く中央にはジェロニモ Jr.手製の温室があり
その向こうには 洗濯モノ干し場がある。
裏山に続いているので いろいろな木々も植わっていた。
「 花 かしら。 え〜〜と?? 」
あ。 あの樹 ・・・ 白い花が !
温室の向こう側に 白い小さな花をびっしりとつけている樹があった。
「 あの花 だわ・・・ わあ いいニオイ 甘い ・・・
でも 葉っぱはないのねえ 」
カタカタ・・・ サンダルを鳴らし その木に駆け寄った。
「 ・・・ まあ カワイイ花! まあるい花びらが ・・・ 五枚?
ふ〜〜ん ・・・ いいニオイ ・・・ 」
白い花はもう盛りをすぎかけているのだろう、木の根本にちら ほら ・・・
花びらが散っている。
「 この花ね、 いい香のモトは。 あ これが サクラ かしら。
ニッポンの春の花 って読んだことがあるもの ・・・
へえ ・・・ カワイイ・・・ でもどうして葉っぱがないのかしら
あとでジョーに聞いてみましょう 」
白い花の樹の側には 花壇が広がっていた。
ここも恐らく ジェロニモ Jr.の手作りなのだろう。
レンガでずっと縁取ってある。 しかし土ばかり、に見えた。
「 ふうん ・・・ なにか植わっているのかしら・・・
あ 芽が出てる〜〜 わあ〜〜 これは知ってるわ
チューリップね! 」
花壇の奥には 馴染みのある花がひょろひょろ〜と首を伸ばしていた。
「 え もう咲いているの? すご ・・・ やっぱり春がはやいのね 」
裏庭は 特に手入れをしていないので いろいろなものが雑然としている。
簡単なフェンスのドアを開ければ すぐに裏山だ。
花壇の他にも さまざまな種類の低木が生えている。
「 ふ 〜〜〜〜 緑の匂いがする ・・・ !
パリに居たころは 四月、いえ いろんな花が誇るのは
五月だったわ。 ああ 緑って 本当に綺麗・・ 」
裏庭を歩くだけで 季節の便り を山ほどみつけられた。
「 わあ 洗濯モノ干場にも カワイイ花がいっぱい 〜〜
毎日 ここ、使ってるのに全然気がつかなかったわ 」
地面に近く屈みこんでみれば 金貨をばらまいたみたいな黄色の花が
咲いている。
「 ・・・ かわいい〜〜 ・・・これって あ! タンポポ ??
わ〜〜〜 こんなにいっぱい・・・ すてき ・・・ 」
干場の向こうは そんなに背の高くはない薄紫の花が揺れている。
「 あら きれい! いい色ねえ・・・ なんという花かしら・・・
スミレではないし ・・・あ! こっちのは スミレ よねえ 」
フランソワーズは地面に這いつくばるみたいにして 春の訪れを
感じていた。
「 本当にここは温かい地域なのねえ・・・ わたしも花壇づくりに
参加したいなあ。 ここではどんな花が育てやすいのかしら。
あ 木も植えたいわ。 実の生る木! オレンジやリンゴの木は
育つのかしら。 あ そうだ さっきの白い花〜〜
ジョーに聞かなくちゃ。 」
彼女は ぱたぱた・・・勝手口に戻っていった。
「 ねえねえ〜〜 ジョー。 このオウチにもサクラあるわよ 」
「 へ? 」
丁度 食器を拭いていたジョーは 少し驚いた顔をした。
「 え
裏庭に桜 あったかなあ〜 」
「 見つけたの。 小さな白い花でね とってもいいニオイよ〜〜
ほら温室の向こう側。
」
「 におい?? サクラが? 案内してくれる? 」
「 ええ。 あ お皿、置いて ・・・ 」
「 あ いっけね。 」
彼は手に持っていた皿を 慌てて水切り籠に置いてきた。
「 ねえ どこ? 」
「 こっちよ ほら ・・・ あの樹。 」
「 どこ ・・・ 」
フランソワーズはジョーの手をむんず! と掴むと引っ張っていった。
「 カワイイ白い花ね いい香だし ・・・ サクラって素敵ねえ 」
「 あ〜
これ 梅
だよ うめ。
実が生るんだ。 」
「 へえ〜〜〜 あのちっちゃなお花が実になるの ??
」
「 うん たぶん結構はやく実が生るはずだよ う〜ん・・・と
梅雨とかになる前だったよ〜な ・・・ 」
「 そうなの? すてき♪ わたしね、お庭に実のなる樹があるって
憧れていたの。 ねえ 晩御飯のデザートになるわね!
」
「 え あ〜
梅の実はね 生で食べちゃだめだよ〜
猛毒さ 死ぬよっ
たしか・・・青酸カリじゃなかったかな〜〜 」
「 え … そ そんな怖い木なの? わたし ・・・ 木にもお花にも
さわってしまったわ ・・・ 」
彼女は手を広げこわごわ自分の指をみている。
「 あ 木や花は大丈夫だよ。 実だってね
梅干し とか 梅酒 なんかにするんだ。
青いときに生で食べなければ大丈夫さ 」
「 ああ そうなの ・・・ ふうん あの白い花が
さっきジョーが食べてた うめぼし になるのねえ・・・ ふうん・・ 」
「 うん 梅酒もオイシイよ。 家庭でできるんだ。 」
「 あらお酒も? 果実酒ね ステキ! ねえねえ やり方、教えて ? 」
「 あ ぼく、やったことないんだ。 ネットで調べれば ・・・ 」
「 ああ そうね 」
オトコノコに 料理のことを聞くのは無理だわね〜 と 彼女は首を竦めた。
そのままでは食べられなくても 庭に実のなる木 があるのは嬉しかった。
「 楽しみ〜〜〜 あ そうだわ、花壇や木にお水をあげてくるわね。 」
「 あ〜〜 ホース使って撒けば? 温室の中にあるよ 」
「 ありがとう ! 」
彼女はすぐにまた勝手口から出ていった。
「 ・・・ ふうん ・・・? 庭いじりとか好きなのかなあ ・・・
オンナノコだったら 買い物 とか 行かないのかな 」
ジョーは 食器をきっちり拭き終わり 食器棚に収めた。
ばしゃ〜〜〜〜 きゃ〜〜〜〜〜
裏庭が どうやら大騒ぎだ。
「 ! ど どうしたんだ〜〜〜 フラン〜〜〜 」
ジョーは 慌てて勝手口から飛び出した。
「 ふ フラン?? わ・・・ 」
裏庭では ホースが一人でうねうね〜〜〜〜 踊っている。
「 だは 〜〜〜 元をとめなくちゃ ・・・ 」
ジョーは ホースを避けて温室に駆けてゆく。
「 ! 」
温室の中では ―
う〜〜〜〜 なんで止まらないのぉ〜〜〜〜
フランソワーズが 水道の蛇口を握りしめびしょ濡れになっていた。
「 うわ ・・・フラン〜〜〜 どうした??? 」
「 あ ジョー ・・・ 止まらないのよ、ここ! 」
「 蛇口 壊れたかな〜〜 ぼく 代わるよ 」
「 いい? わたし必要な工具をとってくるから 」
「 よし せ〜〜の 」
「 はいっ 」
ぶわしゃ〜〜〜〜っ ・・・・・ !!!
「 きゃ〜〜 」
「 だは ・・・・ フラン 大丈夫? 」
「 ん ・・・ 濡れただけよ。 ねえ なに 必要? 」
「 う〜〜 とりあえず もんきーすぱな かな 」
「 わかったわ! タオルももってくる! 」
「 あ そうだ 納戸にある工具箱も〜〜 」
「 了解!
駆けだしてゆく彼女の背中を見送りつつ ジョーは目の前の惨事に立ち向かった。
裏庭と温室の半分を盛大に水浸しにし ― なんとか水は止まった。
「 ふう・・・ これでとにかくとまった ・・・ 」
手にしたスパナを置いて ジョーはほっと一息ついた。
「 よかったわ〜〜 ジョー すご〜〜い 」
「 修理したわけじゃないよ、とりあえず止めただけ 」
「 それが一番よ〜 でもどうして? 」
「 ウン ・・・ どうもね〜 元セン、 壊れたみたいだね 」
「 え。
わ わたし
壊した … ? 」
「 いや まさか …
ここの土地のふる〜い水道管だったみたいだから
…
今度 新しいのに 換えるよ。 」
「 びちゃびちゃになっちゃったわね 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 あ! そうだわ たんぼ にすればいいんじゃないの?
お米 を植えるの、そうでしょう? 」
「 あ〜 ちょっとちがうかも・・・ そうだ、商店街に植木屋さんがあったから
あとで聞いてくるよ。 水浸しだもんなあ 」
「 ・・・
ごめんなさい クシュッ ・・・ 」
「 きみのせいじゃないってば あれ 寒い? 」
「 だ 大丈夫 ・・・・ びっしょり濡れちゃったから・・・ 」
「 あは
季節前の水遊び しちゃったね 」
「 うふ ・・・ あ ジョーは 寒くない? 」
「 へ〜きへ〜き
ぼく 結構水遊び好きだったんだ〜〜 」
「 まあ〜〜 イタズラ坊主ねえ ね お茶 淹れるわ なにがいい? 」
「 ・・・ あ〜 できれば コークが … 」
「 まあ はいはい
うふ わたしも飲もうかなあ 」
「
うん! 」
「 あ その前に着替えなくちゃね 」
「 あは そうだね 」
二人はなんだかクスクス〜〜笑いつつ家に戻って行った。
「 あ〜〜〜 ・・・ 」
「 ・・・ うふふ 」
バスタオルを被ってジョーとフランソワーズは 例の梅の樹の下に座り込んだ。
陽射しがぽかぽか・・・ 温かい。
二人ともコーラのペットボトルを手にしている。
「 なんか気持ちいいな〜〜〜 あ 寒くない? 」
「 大丈夫。 コカ なんて久しぶりだわ 」
「 こ コカ ・・・? 」
「 あ コークのことよ。 そんな風に言ってたの 」
「 へえ〜〜 なんかカッコいいね〜 こか かあ 」
「 日本じゃなんていうの? 」
「 こ〜ら。 あんまし飲めなかったから なんかウレシイや 」
「 ふふふ ・・・ ねえ < うめ > のお花 きれいねえ 」
フランソワーズは コーラを持ったまま 頭上を見つめた。
「 あ〜 ホントだあ こんな近くで見たの、初めてだなあ〜
すっげ ・・・ いいニオイだし 「
「 ね? 香水とはちがうけど とってもステキ! 」
「 えへ 少し早いお花見だあ〜 」
「 おはなみ? 」
「 うん
ほんと は桜なんだけど。咲いて花みながら 弁当たべたり
宴会したりするのさ。 あ〜 梅もキレイだね
」
「 ええ
わたし このお花も香りも大好きだわ〜
カワイイ・・・
これが オハナミ なのね。 コカでおはなみ♪ 」
彼女はほれぼれ・・・白梅を見上げている。
「 お気に入りだね あ そうだ、この辺りに散歩いってみたら?
桜 あると思うな〜 日当たりのいいとこならそろそろ咲き始めてるかも・・・ 」
「 サクラ ・・・? ここのお庭にはないの? 」
「 う〜〜ん 多分植えてはいないと思うな〜
裏山には 山桜があるかもしれないし ・・・
ねえ 外に出てみれば? 」
「 ・・・ いいの ここで。 」
「 この辺 だ〜れもいないし ・・・ 気持ちいいよ〜〜 」
「 お庭に出てるわ それで十分よ 」
「 ・・・ そう ・・・ でも 買い物 とかさ 楽しいかも・・・
ヨコハマなんて オンナノコ スキだよ 」
「 ショッピングならネットでできるし。 あ ・・・ 日常品とか
いつもジョーに頼んでて ・・・ 迷惑? 」
「 ぜ〜〜んぜん。 そんなこと、気にしないでくれよ。
気晴らしにさ 海岸の方もいいかな〜〜って。 昔ながらの商店街とかあって
の〜〜んびりした地域さ。 みんな まったりしてる 」
「 ・・・ そう ・・・? 」
「 町が嫌なら ほら 裏山も面白いと思うよ?
サクラもあるかも・・・ 実の生る木、とかあるし 」
「 え そうなの? 」
「 ウチの土地じゃないけど、別に入っても誰もなんも言わないって。
これ 博士に聞いたから大丈夫。 」
「 そ そう??? 」
「 ちょっと探検気分になれるよ。 」
「 た たんけん? ・・・ 猛獣とか出てくる・・? 」
「 え? 裏山に猛獣はいないよぉ せいぜい狸くらい?? 」
「 た たぬき ・・・? 」
「 別に襲ってきたりしないさ。 」
「 そうよね ・・・ 」
日溜りで 二人で のんびりと。 コーラはちょっとぬるくなってきたけれど
濡れた髪は少し冷たかったけど。
ジョーもフランソワーズも 春 をほっこり感じていた。
目の前に 門 がある。 門といってもカタチばかりの簡単なものだ。
ちょっと押せばすぐ開くし、ジョーならひょい、と飛び越すかもしれない。
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは 門扉に手をかけ ― 動くことができない。
「 どうしたのよ、 フランソワーズ。
ただの小さなゲートじゃない? 開けて 外に出るのよ 」
この家に住むようになってから 一人でここを出たことがない。
だって ・・・ 彼女は身を震わす。
怖いのだ ・・・ 外の世界が。 外の世界にいる普通の人々の視線が。
「 なんてこと、ないわよね? 誰もいないかもしれないし・・・
いつまでも この家の中だけに閉じこもっているわけには 行かないでしょ 」
彼女は懸命に自分自身に 言い聞かせる。
「 さあ フランソワーズ。 勇気を 出すの ・・・! 」
きゅ・・・っと口を閉じ 目をつぶり、そして ―
キ ィ −−− 門を開け 外へと一歩踏み出した。
Last
updated : 04,24,2018.
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******************** 途中ですが
ちょいと季節が過ぎてしまったですが
春の第一歩 ・・・ って感じ?
春は ある意味 切ないですよねえ ・・・・